一 は じ め に
─
─ 問 題 の 所 在 二
リ ベ ー ト 制 度 に 関 す る 先 例 に よ る 判 断 基 準 1
類 型 化 さ れ た 三 つ の カ テ ゴ リ ー 2
誘 引 効 果 に よ る
「 濫 用
」 判 断 3
競 争 制 限 効 果 の 蓋 然 性 と 重 大 性 三
効 果 重 視 の 分 析 ア プ ロ ー チ の 必 要 性 1
カ テ ゴ リ ー 別 分 析 の 是 非 2
競 争 制 限 効 果 の 考 慮 要 素 3
同 等 効 率 競 争 者 テ ス ト 四
お わ り に
─
─ 日 本 法 へ の 示 唆
(
)
─ ─59
排 他 的 リ ベ ー ト に よ る
「 市 場 支 配 的 地 位 の 濫 用 」 の 新 展 開
─
─ E U 競 争 法 に お け る 効 果 重 視 の 分 析 ア プ ロ ー チ を め ぐ る 法 理 論
─
─
伊永 大
輔
七 五 八 三 九 二
一 は じ め に
─
─ 問 題 の 所 在 リベ ート
(割 戻金
)は
、販 売促 進を 目的 とす るも の、 仕切 価格 の修 正と して の性 格を 有す るも のな ど、 現代 の経 済社 会 に 広く 見る こと がで きる 取引 慣行 の一 つで ある
。排 除型 私的 独占 ガイ ドラ イ
も
、実 際に 需要 を刺 激し たり
、価 格の 一 要 素と して 市場 の実 態に 即し た価 格形 成を 促進 させ たり する とい う競 争促 進的 な効 果も 有す るこ とを 認め てお り、 リベ ー ト の供 与自 体が 直ち に排 除行 為と なる もの では ない とす
一方 で、 一定 の場 合に は重 大な 競争 上の 弊害 が生 じる こと も、 ま た古 くか ら指 摘さ れて きた こと であ る。 問題 は、 どの よう な場 合に その 競争 制限 効果 を違 法と 評価 すべ きか につ いて
、 確 たる 手法 が定 着し てい るわ けで なく
、未 だ十 分な 議論 の収 斂を 見て いな いこ とに あ 多く の先 行事 例を 持つ EU にお いて も、 その 状況 は変 わら ない
。E U競 争法 上、 リベ ート 制度 の競 争制 限効 果を どの よ う に 評価 する か は長 年の 課 題と なっ て おり
、 四〇 年 以上 前か ら 訴訟 で争 わ れて き
近 年 にお ける
Intel
事 件 一般 裁判 所 判
は、 競争 法上 の悪 質な 行為 を類 型化 した 上で
、定 性的 な違 法性 判断 を行 おう とす る伝 統的 な類 型重 視の アプ ロー チ
(Form-basedApproach
)を 採る 裁判 所と
、市 場 を取 り巻 く様 々な 事情 を踏 まえ た客 観的 な競 争制 限効 果に 着目 しつ つ、 定 量 的な 違法 性判 断基 準を も取 り込 もう と する 効果 重視 のア プロ ー チ(Effects-basedApproach
)を 採る 欧 州委 員会 とで
、寄 っ て 立 つ分 析手 法 の力 点が 分 かれ てい る。 その 後、PostDanmarkII
事 件欧 州 司法 裁判 所 判
も 定 性的 な分 析手 法 によ っ て 違法 性判 断が 行わ れ、 欧州 委員 会が 提示 した 価格 費用 分析 とい った 新た な分 析手 法は
、司 法審 査の 場で は重 要視 され な い かの よう な様 相で あっ た。 確か に競 争制 限効 果が 見込 める 行為 を的 確に 類型 化す るこ とが でき れば
、比 較的 簡易 な法 執行 の分 析手 法を 提示 する こ
( 1
ン)
で
( 2
る)
。
( 3
る)
。
( 4
た)
。
( 5
決)
で
( 6
決)
で
<
論 説>
修 道 法 学 三 九 巻 二 号
(
) 七 五 七 三 九 一
と がで きる とと もに
、違 法適 法の 予見 可能 性を 高め て法 的安 定性 を確 保す ると いう 効用 が一 定程 度見 込め る。 しか し、 類 型 に依 存し た違 法性 判断 は、 競争 的な 効果 をも たら す事 業活 動ま で違 法の 範疇 に捉 える 可能 性が あり
、そ の結 果、 正常 な 事 業活 動を 萎縮 させ て消 費者 厚生 を毀 損さ せる とい った 負の 側面 も指 摘で きる
。こ のよ うな 規制 の現 状に 対し
、一 般裁 判 所 判 決を 不服 と して 上告 さ れた
Intel
事 件欧 州司 法 裁判
お ける 法務 官 意
は
、 伝統 的 な類 型重 視 の分 析ア プ ロー チ と 先進 的な 効果 重視 の分 析ア プロ ーチ とを 巧み に融 合さ せ、 分析 手法 の精 緻化 を論 じて おり
、こ こに 来て 大き く議 論が 展 開 して きて いる
。近 年活 発化 して いる TF EU 一〇 二条 の規 制に おい て、 先例 との 相違 やそ の位 置付 けを 含め
、経 済ア プ ロ ーチ を活 用す る新 たな 道筋 が理 論 上整 理さ れ、 活用 の道 筋が 示 され るこ とで 議論 が飛 躍的 な進 化を 遂げ る可 能性 があ 本 稿は
、こ のよ うな EU 競争 法に おけ る 近時 の排 他的 リベ ート をめ ぐる 違法 性判 断の 新展 開に つい て、 先例 から 導き 出 さ れる リベ ート 制度 をめ ぐる 評価 枠組 みの 全体 像と その 合理 性を 分析
・検 討す ると とも に、 そこ に内 在す る法 的課 題に 言 及 する こと によ り、 新た な分 析手 法の 位相 を明 らか にす るも ので ある
。最 後に
、こ れら の分 析を 踏ま え、 我が 国独 占禁 止 法 にお ける 私的 独占 規制 の分 析手 法と の異 同と そこ から 得ら れる 示唆 につ いて も述 べる こと とし たい
。 二 リ ベ ー ト 制 度 に 関 す る 先 例 に よ る 判 断 基 準 1 類型 化さ れた 三つ のカ テゴ リー EU 競 争法 にお い てリ ベ ート 制 度を どの よ うに 扱う か につ いて
、先 例上
、顧 客の 購入 量に 応じ た 単な るボ リ ュー ム・ デ ィ ス カウ ント とし て画 一的 に提 供さ れる
「 数量 リベ ート
(QuantityRebates
)」 は
、供 給者 によ るコ スト 削減
(効 率性 や規 模 の 経済
)を 反映 した もの であ
め
、T FE U( EU 機 能条 約
)一
〇二 条違 反と なる こと はな いと の扱 いが 確立 して い
( 7
所)
に
( 8
見)
で
( 9
る)
。
(
)
る10
た
(
)
た11
。 排 他 的 リ ベ ー ト に よ る
「 市 場 支 配 的 地 位 の 濫 用
」 の 新 展 開
( 伊 永
)
(
)
─ ─61 七
五 六 三 九
〇
欧 州委 員会 によ る一
〇二 条ガ イダ ン
、 顧客 にコ スト 削減 の利 益を 還元 する こと で経 済的 に正 当化 でき
、競 争制 限的 な 閉 鎖効 果も 認め られ ない リベ ート 制度 かど うか を違 法性 判断 にお いて 考慮 する とし てい
この
「数 量リ ベー ト」 は、 顧 客 が購 入量 に応 じた 割引 後価 格を 自ら 選択 する とい う側 面が ある ため
、条 件付 のリ ベー ト
毅 毅 毅 毅 毅 毅 毅 毅
と はい えな いし
、全 ての 顧客 に 適 用さ れる とい う性 格を 持つ ため
、差 別的 なリ ベー ト
毅 毅 毅 毅 毅 毅 毅 毅
と もい えな い。 欧州 司法 裁判 所も
、古 くか ら単 純な 数量 リベ ート を 他 の排 他的 リベ ート と競 争法 上区 別し てき てい これ に対 し、 顧客 の購 入量 の多 寡と は関 係な く、 その 必要 とす る購 入量 のほ とん どを 占有 する こと がリ ベー ト提 供の 条 件 とな って いる 場合
、 これ を市 場支 配的 事業 者が 用い れば
、「 忠 誠リ ベー ト
(LoyaltyRebates
)」 とし て違 法と な
顧 客 が 異な れば
、同 じ商 品を 同じ 数量 だけ 購入 して も異 なる 価格 が提 示さ れる こと もあ り、 それ 自体 は非 難に 値し ない が、 そ れ が自 らの 商品 だけ を取 り扱 って いる か、 競合 品を も取 り扱 って いる かに よっ て決 まる とす る点 に問 題が あ
こ のよ う な リベ ート 制度 は、 顧客 の取 引先 選択 の自 由を 制限 し、 競争 者の 市場 アク セス を妨 げる 仕組 みと なっ てお り、 特段 の事 情 が ない 限り
、取 引固 有の 負担 と利 益が 考慮 され た結 果と して 正当 化で きず
、市 場に おけ る競 争の 維持
・促 進と いう 競争 法 の 目的 とは 相容 れな いも のだ から であ
その ため
、客 観的 な正 当化 事由
(効 率性 の向 上と いっ た競 争促 進効 果) が認 め ら れ ない 限 り、 違 法と の 推認 を覆 せ ない と取 り 扱わ れ てい
この よ うな 類 型化 は、
「顧 客に 経 済的 利益 を 提供 する こ と に より
、競 争者 によ る顧 客獲 得を 困難 にす
とい うリ ベー トの 排他 性が
「行 為に 本質 的に 備わ って い
と して 導か れ た もの とい える
。 以上 の二 つ の類 型に 該 当し ない リ ベー トは
、「 第三 の カテ ゴリ ー」 に分 類さ れ る。 そこ では
、 リ ベー ト供 与 に関 する 基 準 及び ルー ルを はじ めと する
、あ らゆ る事 情(allthecircumstances
)を 考慮 して
、反 競争 的な 市場 閉鎖 効果
(排 除効 果)
(
)
ス12
も
(
)
る13
。
(
)
る14
。
(
)
る15
。
(
)
る16
。
(
)
る17
。
(
)
る18
。
(
)
る19
」
(
)
る20
」
<
論 説>
修 道 法 学 三 九 巻 二 号
(
) 七 五 五 三 八 九
が 生 じる 違法 な 行為 かど うか が 判断 され るこ と とな る。 例 え ば、PostDanmarkI
I 事 件で 用い ら れた リベ ート 制 度は
、 一 定 期間 に わた る取 引の 総計
( 総 量ま たは 総額
) を基 に 提供 され る遡 及リ ベー ト
(RetroactiveRebates
) であ った が、 個 別 の 注 文に 応じ て 提供 され る もの では な かっ たこ と から
、「 数量 リベ ート
」 と は認 め られ ず、 ま た
、 全量 購入 を 義務 付け る もの でな く、 一定 の 占有 率を 確約 させ るも ので も ない 標準 化リ ベ ート
(StandardisedRebates
)で あっ たた め
、「 忠誠 リベ ー ト
」と も認 めら れな かっ
この よう なリ ベー トは
、直 ちに 違法 なリ ベー トと 断定 する こと はで きな いが
、行 為態 様及 び 市 場の 状況 によ って
「忠 誠リ ベー ト」 と 同様 の効 果
(Loyalty-inducingEffect
ある いはFidelity-buildingEff e
を 有す る 場 合が あり
、こ のよ うな 場合 には 競争 法上 規制 する 必要 があ る。 2 誘引 効果 によ る「 濫用
」判 断 EU 競争 法に おい てリ ベー ト制 度を 用い た市 場支 配的 地位 の濫 用が あっ たか どう かを 判断 する には
、リ ベー ト供 与に 関 す る基 準及 びル ール をは じめ とす る、 あら ゆる 事情 を考 慮す る必 要が あ
こ れは
、三 つの カテ ゴリ ーの いず れに 該当 す る かを 判断 する ため でも ある が、 その こと によ って
、問 題と なる リベ ート が、 経済 合理 性に 基づ かな い利 益を 提供 する こ と によ り、 顧客 の持 つ取 引先 選択 の自 由を 制限 する かど うか
、競 争者 が市 場に アク セス する のを 妨げ るか どう か、 競争 を 歪 める こと でそ の市 場支 配的 地位 が強 化さ れる かど うか 等を 検討 し、 競争 制限 効果 を持 つ違 法な リベ ート とい える か検 証 が 必要 だか らで あ
先 例を 踏ま えれ ば、 その 際に 特に 重要 とな るの が次 の五 つの 事情 であ ると 考え られ る。
⑴ 遡及 リベ ート
(RetroactiveRebates
) リベ ート 制度 の違 法性 を問 題に する に当 たり
、ま ず 言及 すべ きは
、リ ベ ート の遡 及性
(retroactivity
)で あ ろう
。リ ベ ー
(
)
た21
。
(
)
ct 22
)
(
)
る23
。
(
)
る24
。 排
他 的 リ ベ ー ト に よ る
「 市 場 支 配 的 地 位 の 濫 用
」 の 新 展 開
( 伊 永
)
(
)
─ ─63 七
五 四 三 八 八