̲̲̲̲ 11l ̲̲̲̲̲̲̲̲̲ IIIIII
一
ー1
111911J‑1ー1199111111ー
︱
︱
玉 一 論 説
i
‑
'
一 ー 1 1 1 1 1 1
﹄
不可欠施設へ
はじめに第一章ドイツ・ヨーロッパ独占禁止法における不可欠施設へのアクセス拒否に係る規制︵以上︑第二二巻第二号︶
第 二 章 価 格 濫 用 規 制
1
価格濫用規制について
2
電カエネルギー分野における価格の濫用規制
3
競争制限防止法旧一0三条による規制
4
ドイツにおける電力自由化の概観
5
ネット利用料に係る法規制
6
価格濫用・競争妨害とされる事例
7
まとめ︵以上︑本号︶柴 田 澗
子
のアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為口
23‑1・2‑1
(香法2 0 0 3 )
とにする︒ そのネット利用料の妥当性を確保することである︒
第二章
価格濫用規制について
一般的な価格濫用規制の内容を検討するこ
自然独占分野として法的に独占が認められてきた事業者は︑インフラ・ネットワークという不可欠施設を所有して いるため︑当該施設の利用に係る市場において依然として支配的地位にある︒かかる事業分野の競争の競争を導入促 進する際に重要となるのは︑かかる既存の不可欠施設ないしはネットワークヘのアクセスを確保することと同時に︑
本章では︑ネット利用料が価格濫用規制の枠組みでどのような形で問題となっているかを明らかにしたい︒まず︑
ドイツ競争制限防止法及び場合によってヨーロッパ法を手がかりにして︑
ドイツ競争制限防止法一九条一項は︑
E
C
条約八二条に応じて市場支配的地位にある事業者の濫用行為を禁じている︒ドイツ競争制限防止法第六次改正に際しては︑旧二二条の例示規定がそのまま一九条で維持され︑かつ︑一章で
見たように︑ネットワークおよび他のインフラ施設へのアクセス拒絶を規定する同条四項四号が新たに加えられている︒
濫用規制の目的は︑競争によって十分コントロールされず︑市場支配的地位にある事業者の行為を規制することで ある︒市場支配的事業者には︑競争による有効なコントロールを既に受けていないところで︑競争者ないしは市場相 手方に制限を課して市場構造を悪化させる行為︑ないしは競争上正当化されない成果をもたらす行為が禁止されてい る
︒ 濫 用 の 具 体 的 な 基 準 は
︑ 市 場 支 配 的 地 位 事 業 者 を 認 め て い る 目 的
︑ な い し は
︑ 仮 定 的 な 推 定 競 争
(a ls 'o
, b 一
価格濫用規制
23‑1
・2‑2
(香法2 0 0 3 )
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為(二)(柴田)
るが
︑
W e t t b e w e r b )
と結び付けて捉えられているわけではない︒むしろ︑濫用規制の基準は︑経済活動の自由を十分な範囲 で確保することを指向している︒市場支配的事業者の前後の取引段階に属する事業者ないしは顕在的及び潜在的競争者を︑市場支配的事業者による侵害・妨害から保護し︑市場支配の第三市場への拡大が防止されなければならない︒
ただ︑市場支配的事業者に一定の行為を濫用行為として予め規定することはできず︑一般に︑市場力に基づいてのみ
可能となる行為︑競争が支配的である場合には不可能︑又は有効な競争が存在する場合には行い得ないような方法で︑
他の事業者を妨害︑侵害する行為が濫用行為に該当すると解されている︒ここから︑いずれにしても︑
た行為のみが濫用規制の規制対象とされることになる︒
濫用︑二および三号の価格・条件濫用︑四号ではインフラ・ネットワークヘの参入拒絶︑およびその他の濫用行為に
(2 )
区別され︑それぞれの目的︑関係に応じて︑多様な検討方法が要求されることになる︒
① 競 争 制 限 防 止 法 一 九 条 四 項 二 号
競争制限防止法一九条四項二号が︑ 一九条四項の体系に即して言えば︑濫用行為は︑
一定の限られ 一号の妨害
(3 )
一定の高価格を搾取濫用行為として禁止している︒ここで定められた比較市場
基準が︑価格検討に際して用いられる︒この考え方によれば︑価格︵市場支配的事業者の要求価格︶が︑市場支配的 地位に基づいて形成されている︑言い換えれば︑正常な競争条件を前提に︑市場支配的事業者が存在しない有効な競 争において︑形成される蓋然性が高い価格を上回る場合に︑濫用が認められる︒かかる評価に際しては︑有効な競争
が存在する比較市場の事業者の行動が︑考慮に入れられることになる︒
カルテル庁は︑市場支配的事業者が︑高価格を用いて買手を搾取する方法で︑市場支配的地位を濫用している疑い
があるとして︑特に市場支配基準の改正後︑即ち一九七三年の競争制限防止法改正後︑数多くの手続きを開始してい
一九
八
0年の第四次改正までの間︑形式的禁止手続きが開始されたのは四件のみである︒その他多くのケース
23‑1・2‑3
(香法2 0 0 3 )
a
空間的比較市場基準
では︑手続の過程で︑事業者がその価格をカルテル庁の要求に適合させるという対応をとっている︒従来の主要なケ
比較市場基準
ースにおける高価格濫用行為は︑有効な競争のもとで生じる想定価格を基準に判断されており︑この判断基準は︑第
四次改正以後︑引続き一九条四項二号に定着している︒
①
│ 1 競争制限防止法一九条四項二号二文が示す比較市場基準によれば︑濫用価格が存在するのは︑通常の競争条件のも とで︑市場力に条件付けられた競争侵害がなければ形成されたであろう競争価格を︑問題となる価格が上回る場合で ある︒ここでの実際上の困難は︑競争価格の確定にある︒事実上の市場与件と理論上の価格の比較には︑いずれにし ても不確実性が伴う︒多くの場合︑想定競争価格を確定することを困難にする︑多様な市場与件が比較市場に存在す
この基準が︑判例で最も重要な役割を果たしている︒この検討手法においては︑様々な空間的重要市場における同 る ︒
種製品の価格が比較される︒まず︑市場の比較性が問題になるが︑比較される市場において︑有効な競争が実現され
ていることは必ずしも前提とされておらず︑その場合︑支配的市場に比べてより競争的な市場で十分とされている︒
( 8 )
競争的な市場が存在しない場合には︑他の独占市場が比較市場として捉えうる︒また︑競争的構造にある市場では︑
事業者の製品間の価格差が原則として生じるが︑最も低い価格で販売する事業者の価格を比較対象とする必要はない とされる︒とりわけ︑この事業者の市場シェアが僅かである場合にこのことが妥当する︒濫用規制は︑競争を通して 価格を可能な限り低い水準に低下させることを目的としているのではない︒その一方で︑比較市場において形成され ている個々の価格が︑具体的根拠に基づき︑競争を通して形成されたものではなく︑歪んで形成されていることが明
四
23‑1・2‑4
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為(二)(柴田)
比較市場は︑当該支配市場と全く同一条件を備えている必要はない︒相対的により類似した条件を伴う市場との比 較で十分であるとされ︑この場合︑当該支配市場と比較市場との相違は︑比較価格の相応の割り増し等の修正によっ
( 1 2 )
てバランスされることになる︒この比較市場との相違に関しては︑濫用の有無が︑比較市場での価格ではなく︑修正
ファクターによって構成される価格に基づいて判断される程︑修正が著しいものとなってはならないことが︑
V a
l i
u m
( 1 3 )
最高裁判決で明確にされている︒当該
V a
l i
u m
ケースでは︑比較市場としてオランダ市場の事業者の価格が用いられ
ている︒本件では︑比較市場基準に基づき︑すなわち︑想定競争価格が比較市場の価格を基礎にして検討されている︒
その場合︑価格に影響を与えるファクター︑とりわけ市場構造の差異が勘案され︑相応な割り増し又は割り引きによっ
て比較価格がバランスされる︒この場合︑支配市場と比較市場間の相違および特殊性は︑相応な割り増し又は割り引 きによるバランス化が可能でなければならない︒しかしながら︑本判決では︑以下の事由から比較の基礎が否定され ている︒まず︑オランダとドイツの市場構造に差異があることが指摘されている︒オランダでは料金規則があり︑値 上げはコストの上昇が立証された場合にのみ認められており︑その限りで薬品に係る法律及び報酬の仕組みも異なっ ている︒次に判決は︑決定的事由として︑比較事業者の売上高が当該事業者に比べて著しく低いこと︑ベルリン高裁
( 1 4 )
が想定競争価格として検討した価格の五0•三六%が割り増し金から構成されていることに言及している。加えて、
ベルリン高裁は︑最終的に︑価格形成における変動幅を考慮に入れる必要があるとして︑さらに推定競争価格を二五
%引上げて捉えている︒最高裁は︑このような方法で仮定された競争類似価格は︑割り増しの比重が大きいため︑比 較価格として適切ではなく︑かかる推定競争価格に基づく検討は認められないとしている︒
また︑割り増しおよび割り引きは︑原則として︑比較市場間の構造的要因に基づく差異がある場合にのみ認められ︑
( 1 0 )
らかな場合には考慮に入れられない︒
五
23‑1
・2‑5
(香法2 0 0 3 )
事業者個別の事情は原則として考慮されない︒この区別は実際上︑容易ではないが︑この構造的要因は︑
市場において活動するあらゆる事業者に妥当し︑かつそれぞれ事業者が価格の上昇を回避し得ない状況にあることを 著しい割り増し
( E
r h
e b
l i
c h
k e
i t
s z
u s
c h
l a
g )
次に︑比較市場における競争価格を上回る場合はつねに濫用とされるのか︑あるいは一定の基準を超える
割り増し︶場合に︑
一定の地域 はじめて濫用に当たるのかが問題になる︒判例及び学説は︑濫用を肯定するためには︑両市場の
( 1 7 )
価格が明らかに乖離していることを必要としている︒最高裁は︑︵第一次︶
Va
li
um
判決で︑想定競争価格の評価に際 して︑割り増しが緩やかに査定されることでは十分ではないとする︒この場合︑当該価格が正当化されないこと︑お よび市場支配的地位に基づいてのみ実施されうることを十分な確実性を持って認定するために︑競争価格を著しく上
( 1 8 )
回ることが要件とされる︒この幅は︑具体的状況に依拠することになり︑すなわち︑個別的特殊性だけでなく︑比較
対象の価値︑種類︑範囲等も勘案されることになる︒かかる著しい割り増しを︑︵第二次︶
Va
li
um
判決でベルリン高
( 1 9 )
裁は二五%と評価している︒また︑ある学説では︑想定競争価格を一般に五%以上︑また︑高い価格透明性を伴う同
質の大量生産品においては︑ニー三%上回ることが必要とされてい組︒
これに対して︑エネルギー分野における価格濫用規制の枠組みでは︑最高裁は︑比較価格の著しい割り増しを濫用 要件としていないもっとも︑これは︑
b
前提としている︒エネルギー法に関する特別規定であり︑かつ︑同質の大量生産品である電力
エネルギー分野においては︑に関係する旧一0三条五項の規定に基づく濫用規制の枠組みを前提とした理解である︒
競争価格を既に上回る︑いわゆる独占価格を比較の基礎とすることが一般であるため︑その場合︑さらにその比較価
格を著しく上回る必要性はないことが明らかにされている︒
‑L.
ノ
︵著
しい
23-1•2- 6
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
( 2 6 )
その後の
E u g l u c o n
ケースでは︑価格濫用規制の枠組みで︑
ル庁の説明要求手続きの当否が争われている︒当該判決でベルリン高裁は︑比較市場基準はきわめて重要ではあるが︑
想定競争価格の検討のための唯一の基準ではないとする︒最高裁も利益限界基準が濫用を認定するのに適しているか
どうか未決にしていること︑利益限界基準を排除しない有力な学説の存在を指摘した上で︑濫用価格認定に際して︑ い
ない
︒
している︒そして︑ の決定に言及し︑比較市場基準の枠組みの中で︑
利益限界
( G e w i n n b e g r e n z u n g )
基準 価格の不当性を利益幅から引出す考え方であり︑当該製品の価格とコストを比較し︑この間に著しい不均衡が生じ る場合に︑価格が不当とされる︒この基準は︑妥当なコスト︑投入資本の妥当な利息︑妥当なリスク割り増し金等の( 2 2 )
確定を基礎にする︒しかしながら︑多くの場合︑間接費用の恣意的な配賦が行われる可能性もあり︑かつ事実上︑生
( 2 3 )
産コストの算出には困難が伴う場合が多く︑コストを一義的に規定することは容易ではない︒加えて︑コスト配賦の 評価に係る一般的原則が欠如しており︑妥当な利益についての検討方法も明らかにされていない︒高いコストが高価 格をつねに正当化するわけでもなく︑利益の高さは︑比較市場基準枠内で︑濫用認定を補完する具体的兆候として捉
( 2 4 )
えることはできない︒このようにして︑利益限界基準の有用性について疑問を呈する学説もある︒
従来の運用例において︑かかる利益限界基準の意義は十分に認識されるに至っていないと言える︒最高裁は︑
V a l i u m
判泥で︑利益を検討の手がかりとすることを否定していないが︑利益限界基準が︑価格形成を手段とする市場支配的 地位の濫用を認定するのに適しているかどうかについては判断していない︒最高裁は︑高裁の判決およびカルテル庁コスト利益状態の検討から価格形成の濫用を認定しうるか否かについては︑結局明らかにされて
① ー
2
七
コスト状況︑卸販売価格及び売上等についてのカルテ
コスト及び利益という基準が勘案されているにすぎないことを指摘
23‑1・2‑7
(香法2 0 0 3 )
コスト及び売上状態を出発点として︑具体的市場条件及び具体的効果を結び付けることによって︑要求価格が競争的
かどうか︑あるいは想定競争価格を下回るかどうかを検討することは︑原則として禁じられていないと判断されている︒
E
C
条約八二条二文a
号は︑﹁不当な購入価格︑販売価格またはその他の取引条件の強制﹂が濫用に当たると定めている︒この不当性の判断は容易ではないが︑ヨーロッパ裁判所は︑第一に販売価格と生産コストの関係から不当性 を判断する見解を示してい加︒これによれば︑価格とコストが極端に不均衡な関係にある場合︑支配的事業者は︑有 効な競争のもとでは獲得し得ないような利益を得ていると考えられている︒したがって︑濫用とされるのは︑異常に
大幅な利益を含む価格ということになる︒しかしながら︑この考え方は︑
る︒市場支配的事業者が発生コストを勘案することは正当化されるが︑これは︑生じるコスト全てを勘案しうること を意味するわけではない︒市場支配的事業者は僅かな競争圧力にさらされているにすぎず︑そのコスト削減の圧力は 極めて弱い︒
代的技術の利用を怠り︑それが︑高い労働コストおよび長期に及ぶ施行コストの原因となっていることを捉えて︑か
( 2 8 )
かる事業者の八二条二項
a
号違反を認めている︒ここから︑市場支配的事業者の価格を正当化するコストとして︑学説によれば︑現代的技術導入コスト︑生産コスト︑原材料コスト︑借入金︑給与︑税金︑減価償却︑輸送費︑為替評 価と同様に研究開発費︑配賦された共通経費が挙げられていか︒これは︑市場支配的事業者が︑知的財産権を有して
場合
には
︑
ヨーロッパ裁判所は︑法に基づき倉庫︑積替えについて排他的権利が与えられている港湾事業者が︑現 いる場合にも当てはまるが︑知的財産権のための研究コストを背景に︑過度に高い価格を要求し︑排他権を行使する
( 3 0 )
E
C
条約八二条二項a
違反が認められる︒さらに︑間接費用と一般の経営費用が恣意的に配賦される可能性もある︒このように︑事実上の生産コストは︑殆どの場合確実な方法で検討され得ず︑不確定要素がコストコント
①
│ 3 E
C
法による価格濫用規制コスト評価をめぐって大きな問題に直面す
八
23-1•2- 8
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
ある
︒
ロールに伴うため︑実際の運用においては︑コストと利益の分析から不当な価格の適用を説明できない場合︑いわゆ
る比較市場基準に基づく価格比較が行われている︒これは︑ドイツ競争制限防止法一九条四項二号および三号に基づ
く検討方法と一致する︒
九
この比較市場基準によれば︑加盟国間の市場における事業者の同一商品・サービスの価格が比較される︒比較市場 における価格水準が低ければ︑市場支配的地位の濫用の徴候を示すことになる︒他方で︑事業活動の地域に応じて異 なった価格を設定する場合には︑八二条二文
C号︵取引の相手方の同価値の行為に対して異なった条件を適用して︑
取引の相手方が競争上不利となること︶違反の可能性も生じる︒次に︑共同体の他の市場における︑他の市場支配的 事業者の同種の商品の価格が比較基準として考慮される︒問題となった価格が他の比較市場における価格より著しい 場合には︑この相違が市場支配的地位の徴候と捉えられうる︒さらに︑不当な高価格は︑比較市場価格を大幅に明ら
( 3 2 )
かに上回っていることが必要である︒パーセンテージで示される限界基準は︑共同体実務において明らかにされてい ないが︑委員会と裁判所は︑競争価格を上回っていることから即︑違法であると判断し得ないことを出発点としてい る︒濫用を問題にする場合には︑価格が︑不当かつ市場支配的地位に基づいてのみ実行可能であることを︑より確実
性を持って認定するために︑比較価格を著しく上回る必要が生じる︒これは︑ドイツの判例と共通する考え方である︒
また︑価格差異は︑構造的条件による場合にのみ正当化されうる︒個別事情は考慮され得ない点もドイツ法と同様で
②価格差別︵競争制限防止法一九条四項三号︶
価格規制の形態の一っとして価格差別が挙げられる︒競争制限防止法一九条四項三号は︑﹁客観的に正当化される 場合を除いて︑市場支配的事業者自身が同種の購入者からなる比較可能な市場において要求するよりも不利な対価ま
23‑1
・2‑9
(香法2 0 0 3 )
たはその他取引条件を要求する場合﹂と定めている︒本規定は︑市場支配的事業者自身の多様な市場における行動を それぞれ比較することによって︑主に価格差別を規制対象とする︒本号にいう価格差別は︑搾取的濫用及び妨害的濫
用として捉えられる︒すなわち︑
一方で︑高価格は顧客に対し搾取的濫用を意味し︑他方で低価格は競争者にとって 市場参入を困難にする妨害濫用を意味することになる︒本号の﹁比較可能な市場﹂という要件をもって︑同条同項二 号にいう﹁比較市場﹂が示されることになるが︑三号は︑同種の買手に対して要求される︑市場支配的事業者自身の 価格差別を問題にしている︒したがって︑三号が適用されるのは︑比較市場において当該市場支配的事業者がより有
利な価格設定をしている場合である︒
本号にいう濫用行為としての価格差別の検討に際しては︑利益の高さは直接的な意味を持たない︒もっとも︑利益 の高さは価格差別を正当化しないことを︑補強的に立証しうる︒また︑ヨーロッパ裁判所は︑市場に適合するための
( 3 3 )
コスト及び量的ラバットを価格相違の正当化事由として認めていることから︑異なる価格設定は︑コスト状況によっ
( 3 4 )
て正当化される可能性がある︒その他に︑﹁
F l u g p r e i s s p a l t u n
﹂ケースで最高裁は︑市場支配的事業者の個別のコストg
状況を基礎に︑価格差別を行う市場支配的事業者が︑支配市場において︑発生コストの秩序的な配賦かつ合理的蓄え のもとで総費用をカバーしえない場合には︑原則として濫用は認められず︑さらに当該価格と比較価格との間に著し
( 3 5 )
い乖離が必要であるとしている︒
電カエネルギー分野における価格の濫用規制 近年︑価格濫用規制の重点は︑明らかに︑設備拘束性のあるエネルギー供給分野に置かれてきている︒そして︑価 格濫用規制は︑電力分野への競争原理導入にとって決定的パラメーターとなっている︒競争制限防止法第六次改正以
2
10
23‑1・2‑10
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為(二)(柴田)
3
競争制限防止法旧一0
三条による規制
ここでは︑電カエネルギー分野における電カネット利用料をめぐる濫用規制を中心にその具体的事例を検討するこ とによって︑第六次改正以後の競争制限防止法における濫用規制の意義を考察する手がかりとしたい︒
旧 一
0
三条一項は︑
エネルギー供給分野において一般的であった競争制限的契約を競争制限防止法旧一条及び一五 条並びに一八条の適用から除外する内容の規定であった︒旧一
0
三条によって認容されていた競争制限は︑可能な限 り確実かつ価格有利な供給の確保を目的としているが︑当該適用除外によって獲得される地位を濫用する場合には︑
旧 一
0三条五項が適用されることになる︒旧一0
三条五項によって︑適用除外を受けた契約についてもその濫用は規 制されるという仕組みになっている︒当該五項二文では︑濫用行為として︑妨害濫用︑価格条件濫用︑不当妨害︑正 当事由のない託送供給の拒否が例示されていた︒この濫用規定は︑競争制限防止法上の他の濫用規制︑すなわち旧二
( 3 7 )
︱一条(‑九条︶と同様に︑競争によってコントロールされない市場地位の必然的修正をその基本的根拠としている︒ 原
則は
︑
の例示要件に一致すると理解されており︑ここから︑ 用禁止規定の適用が重要な役割を果たすことになる︒また︑ 前︑当該分野についてのカルテル庁の措置は︑競争制限防止法旧一
0
三条五項による分野特別濫用規制に支えられて
いたが︑当該規定は︑改正によって︑エネルギー供給分野の競争制限防止法適用除外の廃止とともに削除されている︒
もっとも︑改正後︑エネルギー市場が自由化されたにも拘わらず︑カルテル庁の見方によれば︑原則として︑現在も 依然としてネット所有者が優越的な市場地位を有しているため︑エネルギー分野に関しては︑
一九条一項の一般的濫
一九条四項二号の例示要件は︑旧一0三条五項二文二号
10
三条五項を根拠にして展開した価格濫用に係る判例による
( 3 6 )
一九条の濫用の枠組みにおいても妥当するとされる︒
23‑1
・2‑11
(香法2 0 0 3 )
名宛人について言えば︑旧一0三条五項は︑市場支配的地位を要件としていない︒ここでは︑旧一0三条一項によっ
て適用除外されている可能性を利用することで十分とされている︒もっとも︑この点では︑
二二および旧二六条との相違は殆どない︒ネット独占であることは︑契約上ないしは事実上であるかを問わず︑旧二
二および旧二六条に言う市場地位を出発点とすることになると考えられる︒
次に︑具体的にエネルギー供給分野に対して価格濫用として旧競争制限防止法が適用されたケースを概観する︒
本件では︑電力供給事業者と住宅所有者間で締結された熱エネルギー供給契約において︑電気供給事業者が要求す る価格が︑市場支配的地位の濫用︵二ニ条一項および四項︶に該当するか否かが争点となっている︒最高裁は結論と しては︑濫用行為の存在を否定しているが︑価格比較に関して︑他の比較可能性が欠如している場合には︑価格濫用 の手がかりとして︑他の市場の独占事業者の行動が考慮されることを検討の出発点としている︒本件では︑他の遠隔 地域暖房による熱エネルギー供給事業者の供給地域における平均価格を比較基準としている︒しかしながら︑その場 合︑市場構造間に強度の相違が存在してはならず︑また︑比較価格が個人的特殊性により低く抑えられていてはなら ない︒最高裁は︑本件について︑比較市場との間には構造に関する相違があることを指摘し︑適切な比較価格を認定 しえないとする︒問題となった当該事業者の供給地域における熱源プラントおよび住宅用設備が技術的に不利な状況 にあるだけでなく︑個々の経営者の事情とは無関係に︑有効な競争のもとでも価格上昇的に影響を及ぼすことになる 他のコスト上昇要因が存在する︒例えば︑このコスト上昇要因には︑熱源プラントの所有者との賃貸契約から生じる
コストが含まれる︒これは︑当該事業者の内部的経営上のコスト負担ではなく︑
G l
o c
k e
n h
e i
d e
供給地域の構造に条件
a ①
具体的ケース( 3 8 )
G l
o c
k e
n h
e i
d e
一般的濫用規定である旧
23-1•2-12
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為(二)(柴田)
金形成の権利の範囲を逸脱するものと判断されている︒ この件に関して最高裁は︑ 最高裁は結局︑多くの客観的構造上の相違を指摘して︑比較事業者の価格が確実かつ十分な比較基礎を提供しないミュンヘン地区ではその地方公営事業者
(S ta dt we rk )
が天然ガスを供給していた︒州カルテル庁は︑地方公営事
業者と買手である一般家庭との取引関係を︑
4
つの他のガス供給者の対応する取引関係と比較し︑当該取引関係における地方公営事業者のガス価格設定は︑濫用に該当すると判断している︒
10三条五項二文二号によれば︑供給事業者が︑同種の供給事業者よりも不利な価格を
要求する場合に︑濫用的行為が認められるとする︒ただし︑その価格差が当該事業者に帰する事情に基づかない場合 には別である︒適用除外を受けている供給事業者が︑同様の構造的関係にある他の供給事業者よりも︑不利な価格で
供給している場合に︑濫用は認定されることになる︒供給事業者についても料金形成の自由は認められているが︑
0三条五項二文二号の基本的考え方に基づけば︑供給事業者の価格形成の自由は限定されている︒発生コストの適正
な配賦の原則に反する価格形成のもとで︑個別の買手集団が他の買手集団に対して不利に扱われる価格構造での濫用
は︑認容されない︒
本判決では︑対応する同種の買手との関係をめぐって︑比較対象事業者との間で価格比較が行われ︑その乖離は一
九%と認定されている︒かかる当該事業者の高い価格設定は︑当該地域の特段の事情が立証されない限り︑自由な料 と判断している︒
( 3 9 ) Ga sp re is
b
付けられたコストデメリットであると捉えられている︒23‑1
・2‑13
(香法2003)
まとめ
五%上回る程度に過ぎないが︑判決では︑
( 4 0 )
S t
r o
m p
r e
i s
c S
h w
a b
i s
c h
1
H a l l
本件では︑地方公営事業者であるB
が特定の買手
(S
on
de
ra
bn
eh
me
m)
に対して︑他の同種事業者である電カエネ
ルギー供給事業者︵以下︑
EV
S)
と比較して︑高額な料金を要求したことが濫用に該当するか否かが争点となってい る︒本件では︑当該
B
の供給地域の構造が
EV
より不利であることは立証されておらず︑価格差が供給事業者自身S
に帰する事情に起因するものでないことが立証されていない︒さらに︑当該
B
の価格水準は︑EV
の価格を五・八S
1 0
1 ︱一条五項二文二号は︑比較価格との著しい乖離を前提としていないと
解されている︒あらゆる不利な価格の要求は︑たとえ僅かに比較価格を上回る場合であっても︑濫用を意味する︒独 占的関係のもとでは︑当該供給事業者に帰する特段の事情でないことが立証されない限り︑濫用とされることになる︒
②
競争制限防止法旧一0
三条五項の特別な要件と一般的な濫用規定のもつ機能の差異は︑旧一
0
三条が︑設備拘束性 のあるエネルギー供給に係る長期間に及ぶ適用免除分野を適用対象としていることに基づいて生じる︒法的に認容さ れる競争制限が︑長期的に維持されてきた地域独占のシステムの枠組みで実施され︑ここではブランド間競争が存在 しておらず︑代替競争もおのずと限られてくる︒旧一
0
三条は︑その限りで︑競争を通して十分にコントロールされ ない市場地位の必然的修正と理解される︒これに対して︑旧二二および二六条による濫用規制は︑同様に︑市場支配 的地位の存在を要件としているが︑任意に形成された市場支配的地位ないしは市場支配力を前提としており︑残余競 争ないしは潜在的競争が改善される可能性のある状態と捉えられている︒旧二二条による価格濫用規制は︑緊急事例
( 4 2 )
として理解する学説が有力である︒
このことと関係して︑旧一0
三条五項に基づく濫用規制の枠組みでは︑比較市場間で何ら地域的構造上の差異が認
c
一 四
23‑1・2‑14
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
4
一 五
められない場合︑問題となる価格と比較価格が著しく乖離していることを要件としていないことが︑判例及び学説に
よって認められている︒旧一0
三条一項による適用除外に基づいて既に独占地位を有している事業者をめぐる濫用行
( 4 3 )
為認定の際には︑比較事業者の価格を一定の幅で上回ることは必要とされていない︒
ドイツにおける電力自由化の概観 一九九八年四月二四日のエネルギー改革以来︑すべての電力消費者は供給者を自由に選択できるようになった︒自 由化の結果︑ドイツの電力料金は低下していることが指摘される︒もっとも︑消費者および再販売者に電力を供給す
るためには︑自由化された市場においても︑既存の電カネットの利用が必要となる︒電カネットの分野においては︑
実際には何ら競争がなく︑当該ネットにおいては︑いわゆる自然独占の問題が生じる︒全域におよぶネットの二重敷
( 4 4 )
設は︑経済的︑環境的理由および国土保全の理由から排除される︒
自由化された電力市場におけるネット利用の在り方は︑極めて複雑な問題である︒ネット経営者が反競争的な形で 託送料金を設定し︑それによって託送供給を困難にする場合︑ネットアクセス要求は意義を失う︒このため︑託送料 金の高さが競争の現実的成果について決定的意義を与えることになる︒もっとも︑その具体的な点は法で規定されて おらず︑立法者は︑電力団体協定を通して︑当事者がネット利用を個別具体的に規定するという仕組みを採用してお
( 4 5 )
り︑これが電カエネルギーネット利用料をめぐる具体的な基準となっている︒この電力団体協定は︑柔軟性のある措 置であり︑状況の変化に応じて新しい認識に適合させることができる︒電力団体協定
n
は︑いわゆる電力団体協定=p l
u s
によってさらに発展している︒補足的に︑
VDEW
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k e )
は︑ネット利用料に
ついての手引き
( L e i
t f a d
e n )
を明らかにして︑より厳密な説明がなされている︒この電力団体協定体制が︑カルテル
23‑1・2‑15
(香法2 0 0 3 )
ネット利用料に係る法規制 ネット利用料の法的根拠について 電力の共同体市場についての
E
C
ガイドラインた電力市場の設立を加盟国に義務付けている︒これを受けて︑ドイツでは︑
ンを国内法化した︑
の競争を開放し︑競争機会を平等に確保することである︒かかる競争開放の成果は︑実質的には既存のネットヘのア クセスコントロールに左右される︒ネット経営者は︑
れば︑ネットアクセスに関して︑自己又は関係事業者を他のネット利用者よりも有利に扱ってはならない︒次に︑第 三者のネットアクセスのシステムとして︑交渉によるネットアクセス 顧客との間のネットアクセス合意
N e
g o
t i
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T h
i r
d
P a
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A c
c e
s s
,
NT PA 十七条︶とシングルバイヤーシステム
( 4 8 )
条︶という二つの基本モデルを規定している︒交渉によるネットアクセスのもとでは︑加盟国は︑ネットヘのアクセ スが差別なく交渉されることを保証しなければならない︒ドイツのエネルギー産業法六条は︑
条に即して︑原則として協議によるネットアクセスを前提としている︒
これによって︑託送料金および託送条件は︑交渉・協議による当事者間の私的な契約を基礎にして行われることを 原則とする︒法は具体的な基準を定めていないため︑ネットヘのアクセスに関しては︑当事者間の協議に応じて︑そ の合意内容は多様化する可能性があろう︒例えば電力団体協定が︑その合意内容の可能性を定めている︒そして︑当
① 5
( 4 7 )
︵九六/九二/
E G
)
E
G
ガイドライン十七ヽ
J ¥
︵ネット経営者と競争者となる供給者ないしは
エネルギー産業法を改正している︒当該ガイドラインの目的は︑電力供給について
Eu
レベルで
ガイドラインに従い︑まず︑差別禁止規定に服する︒これによ
一九九八年四月二九日に当該ガイドライ
は
ヽ一九九九年一月までに競争導入を目指し
( 4 6 )
庁の濫用規制︑とりわけ一九条と組み合わさって一定の役割を果たすことになる︒
一 六
23‑1
・2‑16
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
んではならないことになる︒ 金であり︑バランスシート上のアンバンドリング
エネルギー産業法六条一項一文では︑
一 七
事者間で合意が達せられない場合に︑託送契約の締結を請求することができ︑その場合料金決定をめぐる法的基準が 必要となる︒ネットアクセス交渉は︑締約強制の問題として捉えられており︑したがって︑それは契約締結の自由だ
( 5 0 )
けでなく︑契約内容の自由の制限に連なる︒この場合の託送料金及び条件の設定は︑
び競争制限防止法一九条四項四号で示されている基準によって評価されるが︑これらの基準は以下の通り︑具体的内
( 5 1 )
容を細かく規定するものではない︒
エネルギー供給のためのネット経営者は︑他の事業者に対して︑対応する場 合の事業者内部又はコンツェルン事業者に対するよりも不利な条件で託送供給のためのネットの利用を認めてはなら
ないと規定している︒当該規定によれば︑経営者にとって託送が経営上の条件又はその他の理由から可能でないこと︑
または期待し得ないことを立証する場合︑託送義務は存在しない︒この場合︑
エネルギー産業法一条にいう目的︵安
全性・価格評価・環境保護︶が特に考慮に入れられ︑結果として︑期待可能性の検討に際しては包括的利益衡量が行 われる︒このようにして︑六条一項一文は︑料金額の比較基準として︑託送料金及び託送条件が︑自己又は関係事業 者内部に適用されているものと同様に有利であることを規定している︒これは︑電力共同体市場ガイドラインのアン バンドリング規定及び差別禁止に一致する︒基準となるのは︑事業者内部で事実上ないしは計算上請求されている料
(エネルギー産業法九条二項•EC電カガイドライン一四条三項)
に従い︑電力供給事業者は︑生産︑送電︑配電及びその他の活動についてバランスシート上︑独立したコストを用い
( 5 2 )
なければならない︒託送料金は︑ネット設置および経営から生じるコストを前提とし︑販売に計算されるコストを含 六条一項一文は︑事業者内部の扱いを託送料金の評価の一っの基準とすることによって︑平等に扱うという原則を
エネルギー産業法六条一項およ
23‑1
・2‑17
(香法2003)
( 5 3 )
規定しているに過ぎず︑料金について絶対的基準を提供しているわけではない︒また︑これをもって︑
ーする託送料金が保証されているわけではない︒このため︑託送料金については︑価格濫用規制を中心に競争制限防 止法の規定が︑意味を持つことになる︒以下︑電カエネルギー分野との関係で︑価格の濫用禁止規定を検討する︒
託送料金の適否は︑競争制限防止法上の価格濫用規制によって評価される︒濫用とされる高価格は︑独占的供給市
一九条四項二号で定める妨害濫用規制の枠組みで捉えられ ネット経営者は︑原則として市場支配的地位にあるとされる︒ネットは自然独占を意味し︑ネット経営者は︑ネッ
ト利用の需要に関して︑パラレルなネットが存在しないかぎり︑競争者が存在せず︑その地域における託送の供給者 として市場支配的であるとされる︒競争制限防止法及びエネルギー産業法は︑ネット経営者が従来託送に合意してい ない場合であっても︑託送市場の存在を前提としている︒
一九条四項︱一号の比較市場基準の中心的論点は︑競争価格の認定である︒これに関連して︑一九条四項二号︱一文は︑
有効競争を伴う比較市場における事業者を示唆するが︑既に述べたように︑他の比較可能性がない場合には︑他の空 間的市場における独占経営者の価格行動も競争価格として引入れることができる︒各ネット経営者は︑そのネットの
範囲で自然独占を有しているため︑地域的独占市場における︑他のネット経営者の独占料金との比較が認められている︒
さらに︑市場は比較しうるものでなければならない︒市場条件の完全な一致は事実上不可能であるが︑この市場間 の相違は割り増し割安によって修正される︒この修正価格においては︑構造的条件に起因する相違のみが考慮され︑
事業者の個人的事情は考慮されない︒カルテル庁は︑この客観的な構造的メルクマールとして︑買手の密度︵ネット る ︒ 場への託送希望者のアクセスを困難にするものであり︑
② ー
1
競争制限防止法による価格濫用規制ー一九条四項二号
コストをカバ
} ¥
23‑1
・2‑18
(香法2003)
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
競争制限防止法一九条四項四号
一 九
一九条四項二号にいう比較市場基準に基づく検討が の長さと買手の割合︶︑供給密度︵ネットの長さと供給量の割合︶︑購買量︑人口密度︑地理的要因︑利用期間︑大口顧客と小口顧客の割合を挙げている︒他方︑ファイナンス︑資本構造︑利
益利用︑投資︑人件費︑不必要に高い程度の供給義務︑ネットの過剰測定︑投資の失敗︑システムサービスの供給コ
( 5 5 )
ストは︑個別事情に当たり考慮に入れられない︒もっとも︑この構造上の相違に関する基準については一様に理解さ
れておらず︑様々な考え方が提示されている︒ 一定のコスト配分︑多様な減価償却形態︑
最終的に︑支配的見解によれば︑一九条四項二号は︑当該価格が想定競争価格を著しく上回ることを要件とすると
解釈される︒ただ︑既に述べたように︑旧一0三条に基づく電力濫用規制においては︑最高裁が︑一般原則とは異なっ
て︑著しく上回るという要件を否定している︒カルテル庁は︑この原則が︑改正法においてもネット利用料に係わる 価格規制に妥当すると理解している︒電力供給事業者は法的にもはや独占が認められているわけではないが︑依然と
( 5 8 )
して事実上の事由から独占として捉えられるためである︒
②
│ 2
一九条四項四号によれば︑市場支配的事業者が︑適切な料金で︑他の事業者に対して自己のネットないしはインフ
ラヘのアクセスを拒否する場合に濫用が認められる︒一九条四項四号の価格規制基準は︑料金が﹁適切﹂か否かであ
( 5 9 )
る︒ここにいう﹁適切﹂な料金は︑まず︑第三者と自らのないしは内部のサービスを平等に扱うこと︑および一九条
( 6 0 )
四項の他の基準に反していないことが必要である︒その中でも︑
中心となるが︑これに限定されず︑コスト検討︑すなわち︑効率的なサービスをもたらすコストを手がかりとした検 討によって補完されうる︒立法者の趣旨によれば︑インフラ施設の所有者は︑料金設定において︑限界コストとさら
( 6 1 )
に直接施設に関係して生じるコストを適切な方法で考慮することができる︒
23‑1・2‑19 (香法 2 0 0 3 )
コストの種類として︑すなわち固定費用︑可変費用および限界費用が区別される︒固定 費用は︑サービス量に依拠しないコストであり︑これに対置する部分を可変費用が構成し︑これは︑生産・サービス
コストコントロールの前提は︑発生コストが正しく配賦されることである︒とりわけ︑垂直 的に統合された電力供給事業者においては︑秩序的なアンバンドリングが必要である︒
は︑ネット経営︑送電︑生産の会計上の分離が規定されており︑さらに同法四条四項は︑送電分野について固有の経
コストの発生原因からみて正当な個別分野︵生産︑送電︑配 電︶への配賦であり︑かかる分離によって︑直接的に託送希望者の差別回避および異なる分野間の補助を防ぐことで
( 6 2 )
ある
︒
( 0 6 3 )
コストコントロールについての具体的な考え方及び基準は︑第一に︑ネット利用についての作業グルーフ報告書︵以
下︑報告書︶において示されている︒
( 6 4 )
報告書によれば︑濫用的に引上げられたネット利用料は︑以下のような形で︑
も示される︒統合的エネルギー供給事業者の税引前の電力販売価格から︑ネット利用料と法的に規定された税︵電力 税︑売上税等︶を差引く︒残りは︑主に電力生産及び販売についての可変費用を意味する︒このようにして計算され た電力生産及び販売の費用が︑他のエネルギー供給事業者の対応する費用と比較しうる︒ただ︑電力生産費用の対応 に際して︑垂直統合的電力供給者がその電力の大部分を自己の設備から購入している場合には︑電力生産コストに関
する比較は問題となろう︒
いずれにしても︑このようにして検討された電力生産及び販売についての費用が︑市場価 格ないしは他のエネルギー供給者によって平均的に用いられている費用を著しく下回る場合に︑垂直統合的エネルギ
ー供給者によって意図的に高く設定されたネット利用料は︑託送を希望する電力供給者に対する妨害目的を持つと捉 営部門の設置を要求している︒これらの規定の目的は︑ の量によって変化する︒ コストを検討する際には︑
コスト構成を比較する手法によって エネルギー産業法九条二項で
︱
10
23‑1
・2‑20
(香法2 0 0 3 )
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為に)(柴田)
えられる︒高額なネット利用料と極めて低い電力生産販売コストの組合せから︑高く設定されたネット利用料が適正
一九条四項四号に言う適正でない料金を認定するの でないことが示される︒このような検討結果それ自体のみでは︑
に十分ではない場合には︑比較作業の枠組みで得られた︑適切でない価格形成と言う結論を補強することになる︒垂 直統合している電力供給者の税引前の電力販売価格からネット利用料と税金の控除後︑残りの電力生産及び販売コス
マイナスである場合︑当該統合的電力供給事業者は競争制限防止法一九条四項四号にいう適切 な料金を要求していないことが認められる︒かかる検討結果においては︑統合的電力供給事業者のネット利用料は︑
その税引前電力販売価格において電力生産及び電力販売のコストをカバーし得ないほど高い場合には︑ネット利用料
の濫用的引上げという認識を出発点とする︒
コストコントロールとの関係で︑
カルテル庁は︑濫用調査手続きの枠組みでそれに必要な計算書類の提示を事業者
( 6 5 )
に要求したが︑これに対して当該ネット経営者が高裁に異議を申立てたケースがある︒当該ネット経営事業者である
E n v i
の主張は以下の様に要約しうる︒すなわち︑濫用規制の枠組みでは︑まず他の事業者との比較検討が優先され
a
るべきである︒
コストコントロール手法は︑比較市場基準に対して二次的にすぎない︒比較市場基準の適用に必要な 情報は提供している︒これに対して︑判決は︑
事業者の請求を棄却している︒情報の収集は︑
カルテル庁の調査活動の実質的な手段であり︑その枠組みでどの部分
を利用するかは︑カルテル庁の考慮事項である︒比較市場基準は︑想定競争価格の検討基準として特に重要であるが︑
唯一の認められた基準ではないとして︑カルテル庁が︑事実関係を明らかにし︑価格濫用の疑いを裏付けるためにコ ストコントロールに着手することは可能であるとしている︒さらに︑判決は︑電カネット経営者が自然独占的地位に
あることから︑比較市場基準によっては︑限定的な価値しか認識しえないことも指摘している︒自然独占のシステム トがゼロに等しいか︑
カルテル庁の命令の法違反についてなんら重大な疑いはないとして︑
23‑1
・2‑21
(香法2 0 0 3 )
二 0
0二
年一
月︑
カルテル庁は︑
① a ̲
l
TEA
その他に対する手続きG
ネット利用料
6
においては︑カルテル法上︑違法に引上げられた比較料金が捉えられる可能性が内在する︒裁判所は︑したがって︑
濫用とされる料金引上げの存否を判断するのに︑具体的な価格計算の検討に基づくことが必要であるとし︑検討手法 として︑ネット経営者が主張するような︑比較市場手法に対するコストコントロールの従属性については︑法律上そ
の手がかりとなる点が認められないと判示している︒
さらに︑判決では︑ネット経営者としてだけでなく︑最終顧客市場において電力供給事業者として活動している事 業者においては︑事業者がネット利用料を引上げることによって︑その電力供給部門を促進しかつそれによって当該 セクターの競争能力を競争者の犠牲のもとで改善するという危惧がある︒かかる内部補助の危険の存否を明らかにす るためにも︑そのコスト計算の検討は信頼しうる手法であるとされている︒
べた電力団体協定においても︑ネット利用料の計算の出発点は︑
その他ネットコスト検討に際して重要な点については︑当該報告書において検討が加えられている︒また︑既に述
( 6 6 )
コストであることが明確にされている︒
次に︑競争妨害として捉えられる濫用的料金形成をめぐる具体的事例を検討する︒
価格濫用・競争妨害とされる事例
10
の電カネット経営者に対して︑過度に高いネット利用料を要求している疑い があるとして濫用手続きを開始した︒これらの料金は︑部分的に低下したが︑依然として比較事業者の三
0から七〇
%高くなっている︒また︑当該乖離は︑現在までの調査によれば︑地域構造上の相違によるものではないことが明ら
23‑1
・2‑22
(香法2 0 0 3 )
不可欠施設へのアクセス拒否と市場支配的地位の濫用行為(二)(柴田)
ある
︒ 二
0
0二年︱一月︑カルテル庁は︑第一の濫用手続きとして︑
TE
AG
に対
して
︑
( 6 7 )
定を禁止している︒禁止手続きは︑まず︑当時のネット利用料を約一
0
%引下げることに向けられ︑さらに︑具体的 に一定のコスト項目をネット利用料の計算に組入れることが禁止されている︒
カルテル庁は︑
TE
AG
がその電力供給ネットの地理的状態によって確定される︑ネット利用サービスの地理的市場
において自然独占であることから︑
TE
AG
の市場支配的地位を認めている︒そして︑カルテル庁は︑当該ネット利用 料が価格濫用に当たるかどうかの検討に際して︑電力分野で合理的な経営遂行上生じるコストを基準にするコストコ
ントロールを採用している︒それによると︑ネットコストは︑
TE
AG
の計算上のネットコストおよび前段階に存する ネット利用についてのコストから成り立っている︒この前段階に存するネットについてのコストは︑
TE
AG
がその金
額に対して影響を及ぼし得ないため︑
TE
AG
に転嫁されうるコストとして承認される︒
他方
で︑
している︒なぜならば︑それらは︑結果として濫用的価格引上げに連なるからである︒すなわち︑顧客センターのた
己資本および計算上の自己資本利子の評価︑ めの貸倒引当金︑
TE
AG
の広範囲に及ぶスポンサーコスト︑古い施設の修復︑時価評価を基礎にした経営上必要な自
一般的な損害リスク割り増し︑営業利益税および架空利益に基づく税で
さら
に︑
カルテル庁は︑
TE
AG
のネットに係る計算上のコストに該当すべき︑幾つかの項目が考慮されないと評価
カルテル庁の決定では︑旧一0
三条五項二文二号に関する最高裁の判例を引用し︑旧一
0三条一項による
適用除外によって基礎付けられた独占地位を前提とすれば︑著しい規模で比較価格を上回ることを要件とする必要は
ないとされている︒すなわち︑このような判例理論が展開された条件及び特殊性が︑設備拘束性のある電力供給とい かであるとする︒
一定の金額を超えるネット料金の設
三
23‑1
・2‑23
(香法2 0 0 3 )
ルクマールを意味し︑ここで︑ カルテル庁は︑
S t
a d
t w
e r
k
(地
方公
営事
業者
︶
Ma
in
zに対して︑ネット利用料の濫用的引上げを禁止し︑全体として
︱
10
%弱の料金引下げを命じている︒本決定で︑
カルテル庁は︑比較事業者として
RWE
上げている︒本件では︑そのネット利用から得た利益高が︑ネット利用料の適否を判断する際に決定的意義をもつと している︒取引に関する個別のネット利用料それ自体の比較は︑利用料金の適否をめぐるカルテル法上の検討にとっ て︑限定的な意味しか持たないとされている︒検討の目的は︑ネット地域における全ての取引ケースを︑すなわち買 手構造を考慮した上で︑ネット経営者の料金構造を評価することであるとする︒買手構造は︑中心的な地域構造的メ
一時間毎のキロワットで測定される︑消費量が考慮されなければならない︒
カルテル庁は︑比較市場基準の適用に際して︑送電線一キロメーター当たりの利益を基準にしている︒全配電ネッ
トコストは︑送電ネットの長さにほぼ一
0
0%比例する︒かかるキロメーター当たりの利益高の比較は︑何よりも供
給地域の規模を異にする事業者の比較を可能にするとしている︒
①
│ 2
だけでなく︑むしろ︑一九条一項︵一般的濫用規制︶︑ 一九条四項二号の価格濫用規制
う競争がない部門︑すなわち︑自然独占に基づくネット利用サービス要求市場において︑依然として存在する︒
当該手続きにおいて︑
TE
AG
は不ット利用料の引下げを要求されている︒カルテル庁は︑まずその全体から厳密に
見積もられたネットコストを区別している︒そして︑
コストを計算している︒このようにして︑
TE
AG
の高い年間のネット経営から生じる利益を否定することによって︑
ネット利用料の低減に到達している︒これらの禁止手続きにおいて︑
ス拒
絶︶
の要件を手がかりとしている︒
( 6 8 )
S t
a d
t w
e r
k M
ai
nz
に対する決定
カルテル庁は︑濫用と認識されるコスト項目の金額を差引いて
カルテル庁は︑
一九条四項四号︵インフラ・ネットワークヘの不当なアクセ
Ne
t
( 以
下 ︑
R W E )
を取り
ニ四