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大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制

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博士論文

大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制

―「優越的地位」及び「濫用行為」の認定を素材として―

平成28年3月

中央大学大学院法学研究科

国際企業関係法専攻博士課程後期課程

岡野 純司

(2)

目次

略語一覧 ... 7

序 本稿の目的 ... 10

第1節 問題の所在 ... 10

第2節 本稿の目的 ... 11

第1項 研究の現状 ... 11

第2項 本稿の目的 ... 12

第3項 本稿の構成 ... 14

第1部 「行為主体」、「優越的地位」及び「濫用行為」の検討 ... 16

第1章 「行為主体」である大規模小売業態の特徴 ... 16

第1節 大規模小売業態と品揃え ... 16

第1項 検討対象となる大規模小売業態の選定 ... 16

第2項 大規模小売業態と品揃え・商品の購買上の特性との関係 ... 18

第3項 百貨店の特徴 ... 22

第2節 量販店等の特徴 ... 24

第1項 量販店等の特徴と経営環境の変化への対応... 24

第2項 量販店の各業態の特徴 ... 31

第3項 コンビニエンス・ストアの特徴 ... 35

第3節 まとめ ... 37

第2章 大規模小売業者の購買力と納入業者に対する「優越的地位」 ... 38

第1節 大規模小売業者の購買力の機能と競争との関係 ... 38

第1項 購買力の定義と機能・効果 ... 38

第2項 購買力問題の発生 ... 40

第2節 「優越的地位」の定義と学説 ... 42

第1項 優越的地位の定義 ... 42

第2項 優越的地位に係る学説の検討 ... 43

第3節 「優越的地位」の判断要素の検討 ... 49

第1項 依存関係 ... 49

第2項 取引先の転換可能性 ... 51

第3項 依存関係と取引先の転換可能性との関係 ... 53

第4項 大規模小売業態における優越的地位の一般的傾向 ... 54

第4節 まとめ ... 56

(3)

第3章 大規模小売業者の経営資源補完と「濫用行為」 ... 58

第1節 大規模小売業者の経営資源補完と「濫用行為」 ... 58

第1項 濫用行為の内容 ... 58

第2項 小売事業における経営資源 ... 59

第3項 大規模小売業者の経営資源補完方法と濫用行為との関係 ... 61

第2節 卸売業者の役割と「濫用行為」 ... 63

第1項 卸売業者の流通システム内においての役割... 63

第2項 卸売業者の具体的な役割 ... 64

第3項 取引慣行の形成とその合理性・批判 ... 66

第4項 卸売業者の役割と取引慣行の合理性 ... 68

第3節 「濫用行為」の発生要因と規制の留意点 ... 70

第1項 濫用行為の発生要因 ... 70

第2項 濫用行為規制の留意点 ... 72

第4節 まとめ ... 74

第4章 百貨店の仕入形態 ... 76

第1節 百貨店の経営資源補完と仕入形態 ... 76

第1項 仕入形態と経営資源補完との関係 ... 76

第2項 買取仕入 ... 78

第3項 委託仕入 ... 80

第4項 売上仕入 ... 81

第5項 買取仕入・委託仕入における手伝い店員 ... 82

第2節 各仕入形態及び派遣店員の検討 ... 83

第1項 百貨店から見た各仕入形態及び派遣店員の経済的条件の比較 ... 83

第2項 納入業者から見た各仕入形態及び派遣店員の経済的条件の比較 ... 85

第3項 各仕入形態及び派遣店員に係る学説の整理... 88

第3節 百貨店における仕入形態・派遣店員の利用実態と変遷 ... 93

第1項 仕入形態・派遣店員の推移 ... 94

第2項 戦前期の百貨店の納入業者に対する優越的地位と仕入形態・派遣店員 .. 94

第3項 戦後復興期の百貨店の納入業者に対する優越的地位と仕入形態・派遣店員 ... 99

第4項 高度成長期以降の百貨店の納入業者に対する優越的地位と仕入形態・派遣店 員 ... 106

第5項 近年の仕入形態・派遣店員の利用実態 ... 115

第6項 本節のまとめ ... 119

第4節 まとめ ... 120

第5章 量販店等による納入業者に対する「優越的地位」と「濫用行為」 ... 123

第1節 量販店・納入業者間の取引における「濫用行為」の発生要因 ... 123

第1項 量販店の成長と多様化 ... 123

(4)

第2項 納入業者の状況 ... 125

第3項 量販店の納入業者に対する優越的地位の状況... 127

第4項 量販店の納入業者に対する濫用行為の実態... 131

第2節 「濫用行為」と小売業務との関連性:小売業態間の比較 ... 133

第1項 「行為主体」と「濫用行為」の内容・目的の関連性 ... 133

第2項 店舗運営に係る濫用行為の特徴 ... 134

第3項 商品調達に係る濫用行為の特徴 ... 138

第4項 商品供給に係る濫用行為の特徴 ... 139

第3節 「濫用行為」を行う目的 ... 142

第1項 競争力・適応力強化を目的とした濫用行為... 142

第2項 大規模小売業者の収益改善のみを目的とした濫用行為 ... 144

第4節 まとめ ... 150

第1部のまとめ ... 152

第2部 優越的地位の濫用規制の検討 ... 157

第 1 章 大規模小売業者による優越的地位の濫用行為に対する規制の概要 ... 157

第 1 節 大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制と流通政策 ... 157

第1項 大規模小売業者のに対する優越的地位の濫用規制と流通政策との関係 . 157 第2項 流通政策における大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制を巡る議 論 ... 159

第2節 大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制の体系 ... 162

第1項 優越的地位の濫用規制における購買力濫用規制の位置付け ... 162

第2項 第 2 条第 9 項第 5 号に基づく規制 ... 163

第3項 第 2 条第 9 項第 6 号に基づく規制 ... 163

第4項 審決・排除措置命令、警告及び注意の位置付け ... 165

第5項 ガイドライン ... 165

第6項 下請法 ... 166

第7項 消費税特措法 ... 167

第8項 法令の適用関係 ... 167

第3節 大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制の歴史 ... 170

第1項 独占禁止法の制定(1947 年) ... 170

第2項 独占禁止法改正と優越的地位の濫用規制の導入(1953 年) ... 172

第3項 百貨店特殊指定の告示(1954 年) ... 174

第4項 手伝い店員の整理問題(1970 年代) ... 177

第5項 「行為主体」と「濫用行為」の拡大と三越事件(1979 年) ... 185

第6項 一般指定の改正(1982 年) ... 187

第7項 ガイドラインの公表(1987 年・1991 年)... 188

(5)

第8項 規制の積極化と大規模小売業告示の制定(2005 年) ... 190

第9項 独占禁止法の改正と課徴金制度の導入(2009 年) ... 193

第10項 本節のまとめ ... 195

第4節 公正取引委員会による現行の法運用 ... 199

第1項 ガイドラインの公表 ... 199

第2項 中小事業者取引公正化推進プログラム ... 199

第3項 優越的地位濫用事件タスクフォースの運用... 200

第5節 大規模小売業者の優越的地位の濫用に対する法的措置 ... 201

第1項 審決・排除措置命令数の増加 ... 201

第2項 特殊指定の適用増加 ... 202

第3項 課徴金納付命令の増加と濫用行為の特定化... 202

第4項 「行為主体」の特徴 ... 203

第5項 「濫用行為」の特徴 ... 205

第6項 独占禁止法コンプライアンスに関する取組... 207

第7項 下請法に係る違反行為 ... 208

第6節 大規模小売業者による優越的地位の濫用防止への取組 ... 208

第1項 独占禁止法コンプライアンスの推進 ... 208

第2項 企業の法令遵守義務 ... 209

第3項 独占禁止法に対するコンプライアンスの必要性 ... 210

第4項 コンプライアンス・プログラムに取り込む内容及び構築手法 ... 212

第5項 大規模小売業者のコンプライアンス体制の現状 ... 213

第7節 現状の大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制の問題点 ... 215

第1項 ガイドラインの問題点 ... 215

第2項 行政処分上の問題点 ... 217

第8節 まとめ ... 218

第2章 優越的地位の濫用に係る公正競争阻害性 ... 221

第1節 優越的地位の濫用に係る要件の検討 ... 221

第2節 優越的地位の濫用に係る公正競争阻害性の検討 ... 222

第1項 公正取引委員会の考え方 ... 222

第2項 学説の検討 ... 225

第3項 各学説に対する批判 ... 228

第4項 公正競争阻害性と優越的地位の濫用に係る要件との関係 ... 230

第3節 まとめ ... 231

第3章 「優越的地位」の認定 ... 233

第1節 「優越的地位」の認定上の課題 ... 233

第1項 優越的地位の認定上の課題 ... 233

第2項 優越的地位ガイドラインにおける優越的地位の定義上の論点 ... 233

第2節 公正取引委員会による「優越的地位」の判断要素と問題点 ... 237

(6)

第1項 優越的地位の捉え方 ... 237

第2項 特殊指定・補完法における優越的地位の判断要素 ... 240

第3項 百貨店特殊指定制定当時の優越的地位の判断要素 ... 244

第4項 ガイドラインにおける優越的地位の判断要素... 245

第5項 大規模小売業者に対する優越的地位の判断要素の問題点 ... 249

第3節 審決・排除措置命令における「優越的地位」の認定における問題点 ... 253

第1項 大規模小売業者に対する審決・排除措置命令における優越的地位の認定 ... 253

第2項 大規模小売業者以外の事業者に対する優越的地位の認定との比較 ... 259

第3項 大規模小売業者に対する審決・排除措置命令における優越的地位の認定の問 題点 ... 262

第4節 私見への批判と反論 ... 275

第5節 まとめ ... 277

第4章 「濫用行為」の認定 ... 279

第1節 「濫用行為」の認定上の課題 ... 279

第1項 濫用行為の認定上の課題 ... 279

第2項 濫用行為に係る要件の検討 ... 280

第3項 濫用行為の類型 ... 289

第2節 購入・利用強制 ... 291

第1項 独占禁止法及び大規模小売業告示 ... 291

第2項 不利益性及び不当性 ... 292

第3節 経済上の利益の提供 ... 293

第1項 独占禁止法 ... 293

第2項 協賛金等の負担要請 ... 294

第3項 従業員等の派遣要請 ... 295

第4節 受領拒否、返品、支払遅延、対価減額等 ... 298

第1項 独占禁止法 ... 298

第2項 受領拒否 ... 299

第3項 返品 ... 301

第4項 支払遅延 ... 303

第5項 減額 ... 304

第6項 取引の対価の一方的決定 ... 306

第7項 やり直しの要請 ... 308

第8項 その他 ... 309

第5節 優越的地位の濫用規制及び補完法での売上仕入の取扱い ... 310

第1項 独占禁止法での取扱い ... 310

第2項 補完法での取扱い ... 313

第6節 公正取引委員会による「濫用行為」の判断要素 ... 314

第1項 濫用行為の判断要素 ... 314

(7)

第2項 合理的範囲超過の不利益を与える行為 ... 316

第3項 事前計算不可の不利益を与える行為 ... 317

第4項 許容される場合 ... 319

第7節 審決・排除措置命令における「濫用行為」の認定 ... 322

第1項 大規模小売業者に対する審決・排除措置命令における濫用行為の認定 . 322 第2項 購入・利用強制 ... 323

第3項 協賛金等の負担要請 ... 325

第4項 従業員等の派遣要請 ... 326

第5項 返品 ... 330

第6項 減額 ... 331

第7項 買いたたき ... 331

第8節 公正取引委員会による「濫用行為」に係る判断要素の問題点 ... 332

第1項 濫用行為に係る判断要素の問題点 ... 332

第2項 著しい不利益の論点 ... 333

第3項 取引のプロセスの論点 ... 339

第9節 まとめ ... 342

結論 ... 346

第1節 本稿のまとめ ... 346

第2節 今後の課題 ... 348

参考文献 ... 350

資料 ... 363 図表

(8)

略語一覧

1 法令

独占禁止法 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和 22 年法律第 54 号)。なお、独占禁止法については条数のみを表示する。

下請法 下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)

消費税特措法 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する 行為の是正等に関する特別措置法(平成 25 年法律第 41 号)

第 1 次百貨店法 百貨店法(昭和 12 年法律第 76 号)

第 2 次百貨店法 百貨店法(昭和 31 年法律第 116 号)

大店法 大規模小売店舗法(昭和 48 年法律第 109 号)

2 一般指定・特殊指定

一般指定(1953) 不公正な取引方法(昭和 28 年 9 月 1 日公正取引委員会告示第 11 号)

一般指定(1982) 不公正な取引方法(昭和 57 年 6 月 18 日公正取引委員会告示第 15 号)

一般指定(2009) 不公正な取引方法(平成 21 年 10 月 28 日公正取引委員会告示第 18 号)

百貨店特殊指定 百貨店業における特定の不公正な取引方法(昭和 29 年 12 月 21 日公正取引委員会告示第 7 号)

大規模小売業告示 大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正 な取引方法(平成 17 年 5 月 13 日公正取引委員会告示第 11 号)

新聞特殊指定 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成 11 年 7 月 21 日公 正取引委員会告示第 9 号)

物流特殊指定 特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正 な取引方法(平成 16 年 3 月 8 日公正取引委員会告示第1号)

3 ガイドライン

返品ガイドライン 不当な返品に関する独占禁止法上の考え方(昭和 62 年 4 月 21 日)

流通取引慣行ガイドライン 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成 3 年 7 月 11 日、平成 23 年 6 月 23 日改正)

役務委託取引ガイドライン 役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独 占禁止法上の指針(平成 10 年 3 月 17 日、平成 23 年 6 月 23 日改正)

(9)

フランチャイズガイドライン フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え 方について(平成 14 年 4 月 24 日、平成 23 年 6 月 23 日 改正)

大規模小売業告示ガイドライン 「大規模小売業者による納入業者との取引における特定 の不公正な取引方法」の運用基準(平成 17 年 6 月 29 日、

平成 23 年 6 月 23 日改正)

優越的地位ガイドライン 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(平成 22 年 11 月 30 日)

4 頻出語

優越的地位 第 2 条第 9 項第 5 号の行為要件である「優越的地位」並びに大規模小売 業告示及び百貨店特殊指定の行為要件である納入業者の「劣位性」を総 称するもの

濫用行為 不利益行為が弊害要件である「正常な商慣習に照らして不当に」行われ た場合に優越的地位の濫用規制の対象となる行為

不利益行為 第 2 条第 9 項第 5 号イないしハ並びに大規模小売業告示及び百貨店特殊 指定に行為要件として定められたものであって、納入業者に「著しい不 利益」を与える行為

行為者 優越的地位の濫用行為を行う取引当事者であり、本稿においては大規模 小売業者となる。

取引の相手方 優越的地位の濫用行為を受ける取引当事者であり、本稿においては納入 業者となる。

量販店 チェーン・オペレーション、本部一括仕入等を用いて、商品の大量かつ 安価の販売・大量仕入を行う小売業態の総称。本稿においては、特に、

総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター、ドラッグ・ストア、デ ィスカウント・ストア、家電量販店、専門量販店の総称として用いる。

なお、高度成長期には、スーパーを量販店としているものが多かったが、

小売業態の多様化とともにその範囲も変化している。

納入業者 大規模小売業者に商品を納入する事業者であり、主として卸売業者だが、

大規模小売業者と直接取引するメーカーも含まれる。

手伝い店員 買取仕入・委託仕入に付随して、大規模小売業者の店頭において納入業 者の納入商品に係る販売・陳列業務等を行うために納入業者から派遣さ れる納入業者の従業員

売上仕入員 売上仕入に付随して、大規模小売業者の店頭において納入業者の搬入商 品に係る陳列・管理・販売業務を行うために納入業者から派遣される納 入業者の従業員

派遣店員 手伝い店員と売上仕入員を併せた納入業者の従業員の総称

(10)

派遣店員制 百貨店等の大規模小売業者・納入業者間の商品納入取引に付随して派遣 店員が取引慣行として定着したもの

従業員等の派遣 派遣店員に加え、大規模小売業者の店舗で販売業務以外の業務を行うた めに納入業者から派遣される者も併せた納入業者の従業員等の派遣 返品制 百貨店等の大規模小売業者・納入業者間の納入取引において買取仕入・

委託仕入が取引慣行として定着したもの。なお、狭義には買取仕入にお ける返品を意味するが、本稿においては、委託仕入も併せて納入業者に 商品が返戻される場合を含むものとする。

5 判決・審決・排除措置命令

雪印事件 審判審決昭 52・11・28 審決集 24・65 明治乳業事件 審判審決昭 52・11・28 審決集 24・86 日本楽器事件 審判手続打切決定昭 60・6・18 全農事件 勧告審決平 2・2・20 審決集 36・53 北國新聞事件 勧告審決平 10・2・18 審決集 44・358 カラカミ観光事件 勧告審決平 16・11・18 審決集 51・531 三井住友銀行事件 勧告審決平 17・12・26 審決集 52・436 セブン-イレブン・ジャパン事件 排除措置命令平 21・6・22 審決集 56・2・6

6 その他

①本稿においては基本的に西暦表示とする。ただし、法令の公布日付、ガイドライン等の 公表日付、審決・排除措置命令日付、判決日付、その他慣用的に和暦表示が用いられる ものについては、和暦表示とする。

②本稿で参照する審決・排除措置命令は、巻末表1の事件番号を用いる。

(11)

序 本稿の目的

第1節 問題の所在

明治期に百貨店の誕生に端を発した小売業者の大規模化は、高度成長期の総合スーパー

(GMS)、食品スーパーの成長により、店舗単位での大規模化の時代からチェーン・オ ペレーションを利用した企業単位の大規模化の時代に移行した。近年では、ホームセンタ ー、ディスカウント・ストア、コンビニエンス・ストア、専門店等、多様な大規模小売業 態の成長により、店舗の面積に関係なく、小売業者の企業単位での大規模化や小売業態の 多様化が進行している。

小売業者は、販売するための商品の製造能力を自ら有することは限定的であり、これら 商品はメーカー、卸売業者といった納入業者から仕入れることがほとんどである1。そして、

小売業者の大規模化は、企業単位での商品の大量販売と、これに基づく納入業者からの仕 入量の増加に直結し、大規模小売業者の納入業者に対する、いわゆる「購買力」(buying power/buyer power)が生じることとなった2

大規模小売業者は、購買力を背景とした交渉力の格差を利用して、納入価格の抑制、自 らの小売事業の運営に直結したサービス等の享受等、中小の小売業者に比べ、納入業者か ら有利な取引条件を獲得して、小売市場の競争で優位に立つ競争力を獲得し、大規模メー カーによる市場支配に対抗する力を獲得し、閉鎖性が指摘されている我が国の流通システ ムを変革してきた。

他方、大規模小売業者の購買力が増大するとともに、これに基づく濫用行為が納入業者 に対して行われるようになってきた3。大規模小売業者が納入業者に対し購買力を濫用する と、垂直的な取引関係においては納入業者に過度な負担を強要し、水平的な競争関係にお いては大規模小売業者が購買力により獲得した利益で中小小売業者に対して競争上優位 になり、これらの弱体化につながり、他方、利益を収奪された納入業者が弱体化して他の

1 小売業者は、販売する商品の製造能力を全く持たないわけではなく、例えばスーパーの 食品売場で惣菜等の加工食品を販売する際には、店舗内で製造している場合も多く、衣料 品等の縫製を自社の工場で行っている場合もある。ただし、これらの場合においても、原 材料は納入業者から調達することとなる。

2 OECD加盟国の多くでは、製造業と流通産業に見られる集中化の増大が購買力発生の 原因であると考えられている。OECD,OECD Report of the Committee of Experts on Restrictive Practices,Buying power the exercise of market power by dominant buyers,1980,p.17.

3 大規模小売業者による優越的地位の濫用問題には、納入業者に対する購買力に係る問題 のほか、後述するフランチャイズ方式を採用するコンビニエンス・ストアのフランチャイ ザーの本部がフランチャイジーである加盟店に対して行う優越的地位の濫用も問題とな っている。公正取引委員会によるフランチャイズガイドラインでは、フランチャイザーに よるフランチャイジーに対する優越的地位の濫用の考え方が公表されている。具体的な濫 用行為の内容等は、それぞれ対応する章で説明する。

(12)

納入業者に対して競争上劣位となり、競争秩序に悪影響を与えるとされている。このため、

我が国を含め、各国で大規模小売業者の購買力の濫用に対する規制が行われている。

我が国における大規模小売業者の納入業者に対する購買力濫用に対する規制は、独占禁 止法の不公正な取引方法の一つである、いわゆる「優越的地位の濫用」として規制されて いる。現在、規制されている主な濫用行為としては、大規模小売業者の納入業者に対する 押し付け販売、協賛金・従業員派遣の要請、商品の受領拒否、返品、対価の支払遅延、対 価減額等が挙げられる。戦後から現在まで、我が国の小売市場の変化と流通システムの変 化により、優越的地位に立ち、濫用行為を行った大規模小売業者は変遷し、この変遷に併 せ、濫用行為自体も各時期で変遷が見られる。

従来、大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制は、活発に行われているとは言い 難かった。しかし、2004 年以降、当該規制が積極的に運用されるようになり、大規模小売 業者に対する規制事例が大幅に増加するとともに、法制度としても、2005 年 11 月には、

1954 年に告示された百貨店特殊指定が制定後 50 年を経て廃止され、代わりに大規模小売 業告示が制定された。さらに、2009 年の独占禁止法の改正では、1982 年に告示された一 般指定(1982)に係る行為類型を法定化して課徴金制度が導入され、これにより一般指定

(1982)第 14 項に定められていた優越的地位の濫用は第 2 条第 9 項第 5 号に法定化され ることとなった。そして改正以後、大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用 行為に対し、排除措置命令と課徴金納付命令が既に 5 件出される等、優越的地位の濫用規 制に大きな変化が生じている。

他方、2009 年の独占禁止法改正により、優越的地位の濫用規制では、特定の事業分野に おける特定の不公正な取引方法を指定した特殊指定(本稿の検討対象では大規模小売業告 示)より、第 2 条第 9 項第 5 号が優先適用される運用となったために、限界事例の不明瞭 さが増すとともに、企業に対し不利益を課す課徴金の対象範囲画定のため「優越的地位」、

「濫用行為」等の認定も精緻化する必要が生じている(詳細は第 2 部で検討する。)。

第2節 本稿の目的

第1項 研究の現状

従来、大規模小売業者に対する優越的地位の濫用規制についての研究は、活発になされ ているとは言い難いものであった。しかし、近年の規制強化に伴い、研究が徐々に増加し てきている。優越的地位の濫用に係る研究として、これまで議論がなされ、あるいは研究 されてきた領域は、大きく分けて4つに分類できる。

第一の領域としては、弱者保護につながる本規制が独占禁止法により行われるべきか否 かという研究(以下「規制の妥当性の研究」という。)がある。これは、おおむね経済法 学者が独占禁止法の不公正な取引方法に基づく本規制を評価しているところ、主として経 済学者が別個の弱者保護制度によるべき、あるいは市場経済に委ねるべき旨主張し議論に

(13)

なっている領域である。特に 1990 年代以降の経済学者による取引慣行の合理性を評価す る研究の一環として、本規制に係る濫用行為のうち、最も盛んに議論されてきた返品制を 評価する際にこれらの見解が示されることが多い(研究の詳細は第 2 部第 1 章で検討す る。)。

第二の領域として、独占禁止法の不公正な取引方法に基づき本規制が行われることを前 提に、優越的地位の濫用に係る公正競争阻害性、あるいは本規制と競争との関係をどのよ うに捉えるかという研究(以下「公正競争阻害性の研究」という。)がある。これは、ま さに百家争鳴と例えられるほど、本規制の中では従前より活発に議論がなされてきている 領域である。特に近年は、経済学を用いた見解も積極的に示されるようになっている(研 究の詳細は第 2 部第 2 章で検討する。)。

第三の領域として、実務上関心の高い本規制に係る成立要件、例えば「優越的地位」、

「濫用行為」等の成立要件についての研究(以下「成立要件の研究」という。)がある。

従来、この分野の研究は、学説と公正取引委員会の実務との間に解釈上の差異はほとんど ないと評され4、公正取引委員会のガイドライン等による解釈がそのまま学説として用いら れる場合が多かった。これらの研究は従来あまり活発に行われていなかったところ、最近 の本規制の強化により企業に与える影響が大きくなってきたことがあり、弁護士、実務家 を中心に徐々に研究が行われるようになってきた領域である。ただし、本規制の主たる対 象である大規模小売業者を素材とした研究は、ほとんど行われていないこともあり、研究 の蓄積が非常に少ない状況である(研究の詳細は第 2 部第 3 章及び第 4 章で適宜触れる。)。

第四の領域として、本規制の歴史あるいは「優越的地位」、「濫用行為」等の歴史・実 態を分析する研究(以下「歴史・実態の研究」という。)である。本規制の歴史について は概説書で触れられる程度であり、大規模小売業者を対象としたものを含めてほとんど研 究されていない。他方、「優越的地位」、「濫用行為」等の現状は商学、流通論、経済学 等の領域で研究されており、歴史については近年百貨店研究の一環として研究が増えてき ている(研究の詳細は第 1 部及び第 2 部第 1 章で適宜触れる)。

第2項 本稿の目的

筆者は、以前、大規模小売業者の販売、仕入、経理及び法務の各部門に勤務していた経 験から、大規模小売業者の利用する仕入形態等の取引慣行、これら取引慣行に対する独占 禁止法上の規制、これら取引慣行が大規模小売業者・納入業者間の取引に与える影響等に 関心を抱き、これら取引慣行を素材に、成立要件の研究及び歴史・実態の研究を行い、そ れぞれ次のような成果を公表してきた。

①大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用とこれに対する規制の歴史5

4 高橋岩和「優越的地位の濫用と独禁法」日本経済法学会年報27号(2006)13頁(特集 優越的地位の濫用)。

5 百貨店特殊指定の制定当時の百貨店の優越的地位・濫用行為の実態、制定過程及び当時 の公正競争阻害性の捉え方については、拙稿「百貨店の購買力濫用に対する独占禁止法の 規制―百貨店特殊指定の制定を素材として―」中央大学大学院法学研究科民事法専攻修士

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②契約法上の法律構成(返品及び売上仕入等狭義の出店契約の法律構成)6

③返品、手伝い店員及び売上仕入が大規模小売業者・納入業者の経営に与える影響及び これらの取引慣行の実態・歴史7

④百貨店の経営改革の事例(仕入形態の変革及び活用を含む。)8

筆者は、これら研究の過程で、企業法務に携わる実務家の視点として、本規制について 研究が少ないこと、及び公正取引委員会が示すガイドラインや審決・排除措置命令におけ る「優越的地位」、「濫用行為」等の判断要素、事実認定等に疑問を持ち、自ら研究を進 めてきた。特に、優越的地位の濫用につき、課徴金制度が導入されて以降、企業に与える 金銭的なリスクが格段に高まる中、企業の予防法務上、これら公正取引委員会による本規 制に係る情報・研究不足について問題意識を強く持つようになった。このため、筆者が従 来研究・公表してきたこれら研究の成果を踏まえ、優越的地位の濫用規制の中で最も積極 的に規制が行われている本規制の解釈論及び企業法務の実務に貢献するため、我が国にお ける、「行為主体」である大規模小売業者による「優越的地位」の「濫用行為」の歴史・

論文(2003)(未公表)、拙稿「百貨店業における優越的地位の濫用規制―特殊指定の制 定を素材として―」中央大学大学院研究年報法学研究科篇33号(2004)453-469頁、大 規模小売業者の「優越的地位」に係る形成要因及び公正取引委員会の判断要素の問題点に ついては、拙稿「優越的地位の認定―大規模小売業者に対する規制を素材にして―」中央 大学大学院研究年報法学研究科篇35号(2006)281-301頁、拙稿「大規模小売業者の購 買力形成要因」月間経営管理20057・8月号(2005)10-18頁(日本経営管理協会 平 成16年度黒澤賞受賞論文)、大規模小売業者の独占禁止法コンプライアンス・プログラ ムについては、拙稿「独禁法コンプライアンスの現状と課題―大規模小売業者の事例を中 心に―」消費生活研究61号(2004)102-114頁。

6 売上仕入の法的性質、賃貸借との相違及び借地借家法適用の判断要素については、拙稿

「継続的契約について―売上仕入契約の法的性質―」みずほ学術振興財団懸賞論文法律の 部社会人3等賞受賞論文(2004)(未公表)、売上仕入契約の終了の制限については、拙 稿「契約の拘束力―大規模小売業者・出店業者間の出店契約解消の制限―」みずほ学術振 興財団懸賞論文法律の部社会人3等賞受賞論文(2005)(未公表)、売上仕入契約の法律 構成及び契約書の条項分析については、拙稿「現代企業法研究会 企業間提携契約の法的 諸問題(1)大規模小売業者・納入業者間の売上仕入契約―百貨店の事例を素材として―」

判例タイムズ5910号(2008)5-17頁、及び拙稿「大規模小売業者・納入業者間の売 上仕入契約―百貨店の事例を素材として―」現代企業法研究会編『企業間提携契約の理論 と実務』(判例タイムズ社、2012)17-50頁。返品制の法律構成及び契約書の条項分析に ついては、拙稿「返品特約付買取仕入における売買契約書の見直し―百貨店の取引に関す る分析を中心に―」中央大学大学院国際企業関係法専攻修士論文(2001)(未公表)。

7 大規模小売業告示の制定当時における大規模小売業者の「優越的地位」、「濫用行為」

の実態、業態ごとの特徴については、拙稿「大規模小売業者による優越的地位の濫用にお ける最近の特徴―スーパーによる濫用行為の『行為内容』と『行為の目的』―」、流通情 報431号(2005)15-29頁、戦前の百貨店における返品制の成立過程について分析したも のとして、拙稿「百貨店の返品制成立過程と実態―戦前における返品制の歴史を素材とし て―」月間経営管理20042・3月号(2004)10-17頁(日本経営管理協会 平成15年 度協会賞受賞論文)。

8 大丸松坂屋百貨店での仕入形態の変革及び売上仕入の活用については、拙稿「大丸松坂 屋百貨店:店舗運営改革」矢作敏行編『日本の優秀小売企業の底力』(日本経済新聞社、

2011)285-319頁。

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実態とこれらに対する優越的地位の濫用規制の歴史及び成立要件について検討すること を目的とし本稿を執筆する。

本稿では、第 1 部及び第 2 部第 1 章において大規模小売業者の納入業者に対する優越的 地位の濫用とこれに対する本規制に係る歴史・実態の研究を行い、第 2 部第 2 章において 公正競争阻害性の研究を検討し、第 2 部第 3 章及び第 4 章で成立要件の研究を行うもので ある。本稿の位置付けとして、経済法学の分野に限ってみても、従来、大規模小売業者の 納入業者に対する優越的地位の濫用を対象とした歴史・実態の研究自体がほとんど行われ ておらず、かつ、これらに流通論・経営学の成果を応用した研究はなされていない。さら に、本規制の歴史・実態の研究は、概説書等で簡素に触れられるのみでありほとんど行わ れておらず、成立要件の研究も少ないのが現状である。このため、本稿は、これら研究の 空白を埋める研究となる。なお、筆者の視点は実務家としての視点を重視するため、規制 の妥当性の研究、及び成立要件の研究とは別個に議論することができるとされる公正競争 阻害性の研究については、主たる検討対象とせず、必要なもののみ検討を加えることとす る。

第3項 本稿の構成

本稿の具体的な構成としては、第 1 部では、大規模小売業者の納入業者に対する優越的 地位の濫用の理解を深めるため、「行為主体」である大規模小売業者、大規模小売業者に 生じる「優越的地位」及び大規模小売業者が納入業者に行う「濫用行為」の発生要因・発 生形態及び歴史・実態についてそれぞれ検討を行う。これらは前述した歴史・実態の研究 の一部に該当する。

第 1 章では、「行為主体」としての大規模小売業者の検討を行う。ここでは、「行為主 体」として規制対象とされている大規模小売業者の業態ごとの特徴を、主として小売業務 の観点から検討する。主たる検討対象となる大規模小売業者は、高度成長期までの優越的 地位の濫用規制の主要な対象であった百貨店と、近年、最も多くの規制事例があるスーパ ーとし、他の量販店及びコンビニエンス・ストアにも適宜触れる。

第 2 章では、「優越的地位」の検討を行う。ここでは、大規模小売業者の購買力の機能 と競争との関係を検討した後、大規模小売業者・納入業者間の取引における「優越的地位」

の判断要素を検討する。そしてこの検討結果をもとに、我が国の小売市場において優越的 地位に立っている「行為主体」である大規模小売業者、特に百貨店と総合スーパー・食品 スーパー(以下、総称して「スーパー」という。)で優越的地位が生じる要因に相違があ ることを明らかにする9

第 3 章では、「濫用行為」の検討を行う。ここでは、まず第 3 章で「行為主体」である 大規模小売業者が行う「濫用行為」の理論について、小売業者の経営資源補完と納入業者

9 経済産業省の商業統計では、スーパーをセルフ方式の店鋪を総合スーパー(大型・中型)

と専門スーパー(衣料品・食料品・住関連)に分類している。本稿で「スーパー」との用 語を用いる場合には、両者を含んで使用するものとする。

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の果たす役割という観点から検討し、これら取引慣行の合理的な側面、及びそれらがどの ような状況で発生しやすいかを検討する。

第 4 章では、最も典型的な大規模小売業者の「濫用行為」として長年批判されている返 品、手伝い店員及び売上仕入を分析するために、これらを活用して小売業務を運営してい る百貨店の事例を素材として、百貨店が用いる仕入形態の種類、契約法上の法律構成、評 価、変遷と現状等について検討を行う。

第 5 章では、最近の量販店の成長に伴う小売業者・納入業者間の取引における「行為主 体」と「濫用行為」の変化と、「行為主体」ごとに「濫用行為」に特徴があることを明ら かにする。また、大規模小売業者が「濫用行為」を行う目的も分析する。

第 1 部の検討においては、「行為主体」、「優越的地位」及び「濫用行為」の研究が主 として流通論、経営学、経済学等の各領域において進んでいることから、法律学の視点か らの検討にとどまらず、これらの研究成果も取り入れて分析する。

第 2 部では、本規制について法理の検討を行う。第 1 章では、本規制の流通政策での位 置付けと批判を概観し、次いで現行の優越的地位の濫用規制の体系を検討する。さらに、

第 1 部で明らかにした各時期の「優越的地位」の「濫用行為」を踏まえた上で、現行の規 制体系に至るまでの本規制に係る戦後から現在までの沿革・法的措置の内容を時系列で分 析する。最後に、本規制に対する企業の取組とその問題点についても検討する。これらは 前述した研究のうち成立要件の研究及び歴史・実態の研究の一部(本規制の歴史)に該当 する。

第 2 章では、公正競争阻害性の研究として、優越的地位の濫用に係る公正競争阻害性の 論争を概観する。

第 3 章及び第 4 章では、成立要件の研究として、現在の法理(法条・ガイドライン)及 び公正取引委員会の運用(審決・排除措置命令等)を分析し、公正取引委員会の優越的地 位の濫用規制における「優越的地位」、「濫用行為」等、成立要件に係る事実認定上の問 題点を検討する。

これらを検討する際には、企業実務を実践する筆者として「企業法務からみた優越的地 位の濫用規制」との視点を重視し、実際に規制を受ける企業法務からみた公正取引委員会 による「優越的地位」の「濫用行為」の事実認定方法の問題点、及び企業として本規制に 係る独占禁止法コンプライアンスへの取組上の課題について重点的に検討する。

以上のような概要で研究を実施することにより、今後更なる進展が予想される、本規制 のあり方及びこれを受ける企業法務の実務に有用な基礎理論を生み出すことができると 考えている。

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第1部 「行為主体」、「優越的地位」及び「濫用行為」の検討

第1章 「行為主体」である大規模小売業態の特徴

第1節 大規模小売業態と品揃え

第1部では、大規模小売業者による優越的地位の濫用規制の理解を深めるため、歴史・

実態の研究として、我が国で「優越的地位」の「濫用行為」を行っている「行為主体」と しての大規模小売業者の種類とそれぞれの特徴を概観した後、これらによる「優越的地位」

の判断要素と「濫用行為」の発生要因・発生形態及び歴史・実態について、流通論、経営 学、経済学等の研究成果とを取り入れながら分析する。ここでの主要な検討対象は、百貨 店とスーパーとし、これらを中心に検討を進める。そして、これらの検討結果に基づき、

特に、百貨店の典型的な「濫用行為」とされている返品・手伝い店員と、最近の量販店の

「濫用行為」の特徴を検討する。

本章では、本規制においてこれまで規制対象となっている大規模小売業態を踏まえ、こ れらの大規模小売業態の種類とそれぞれの小売業務運営上の特徴、これら大規模小売業態 による近年の小売業を巡る環境変化とこれへの対応策について概観する。

第1項 検討対象となる大規模小売業態の選定

小売業者は、消費者への再販売を目的に商品を仕入れ、取り扱う商業者と定義される1。 そして対象顧客、商品構成、価格設定、立地条件、販売促進方法、営業時間等、マーケテ ィング・ミックスの戦略から、小売業の営業形態上の特徴である小売業態が規定される2。 そして小売業者の競争は、同じ小売業態内だけではなく、異なる小売業態間でも展開され る。歴史的に見れば、新たな小売業態の出現によって、新たな小売業態と既存の小売業態 との間に競争が展開され、新たな小売業態が成長すると新たな小売業態内で競争が展開さ れ、するとまた新たな小売業態が出現するということを繰り返している。そして百貨店の 登場以降、小売市場の中心は、様々な形態の大規模小売業態が担っている。

大規模小売業態のうち、ある時期において、小売市場において売上高のシェアが高い大 規模小売業態は、その商品の販売額の多さから商品の仕入額も多くなることにより、「優

1 矢作敏行『現代流通―理論とケースで学ぶ―』(有斐閣、1996)31頁。

2 矢作、前掲注1、144頁。小売業態とは、商業者の営業上の特徴のことであり、業種、

品揃え、店舗規模、立地、販売方法、付帯情報・サービスなどの小売ミックスの戦略で決 定され、業種は主たる取扱商品から決定される。矢作、前掲注1、142-145頁。

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越的地位」の「濫用行為」を行う「行為主体」として問題とされる場合が多いことは容易 に想像がつく。実際、戦後の各時期で見ても、小売市場で売上高のシェアが高い、又は急 成長している大規模小売業態に対する規制事例が多いことが分かる(詳細は第 2 部第 1 章 で検討する。)。このため、本章では、現在の小売市場で主要な地位を占めている大規模 小売業態を概観し、それぞれの特徴を検討する。

2011 年現在での、小売市場に占める大規模小売業態ごとの売上高とシェアとしては、小 売業販売額 134.0 兆円のうち、総合スーパーが 12.7 兆円(約 9.5%)、コンビニエンス・

ストアが 8.7 兆円(約 6.5%)、百貨店が 6.2 兆円(約 4.6%)、ドラッグ・ストアが 5.6 兆円(約 4.2%)、ホームセンターが 2.7 兆円(約 2.0%)である3

また、これまで「優越的地位」の「濫用行為」の「行為主体」として審決又は排除措置 命令を受けた業態としては、総合スーパー・食品スーパー9 件、ホームセンター4 件、百 貨店 2 件、ディスカウント・ストア 2 件、家電量販店 2 件、コンビニエンス・ストア 1 件 となっている(詳細は巻末表 1 を参照)。歴史的に見ても、戦後復興期には、当時の小売 市場で唯一の大規模小売業態であった百貨店の優越的地位の濫用が社会問題化して百貨 店特殊指定の告示につながり(1 事件)、高度成長期には百貨店の手伝い店員問題が社会 問題化して警告を受けている(2 事件)。1980 年代から現在に至るまで、主に規制されて いる大規模小売業態は、おおむね量販店となっており、この中でも特にスーパーの規制事 例が多くなっている。これら規制事例に加え、公正取引委員会が数年おきに大規模小売業 者による納入業者に対する優越的地位の濫用について実態調査を行っているが4、この主要 な調査対象として、これら規制対象となった小売業態が含まれていることを考えると、公 正取引委員会もこれらの大規模小売業態を「優越的地位」の「濫用行為」を行う「行為主 体」として問題視していることが分かる。

そこで本稿では、これらの状況を踏まえ、大規模小売業態のうち、①百貨店、②量販店 のうち、総合スーパー、食品スーパー、ホームセンター、ディスカウント・ストア、家電 量販店、ドラッグ・ストア、及び③コンビニエンス・ストアを素材として検討する。特に、

戦後復興期から高度成長期にかけて「優越的地位」に立ち「濫用行為」の「行為主体」で あった百貨店と、安定成長期から現在にかけて「優越的地位」に立ち「濫用行為」の「行 為主体」の中心となっているスーパーを中心的な検討対象とする。

3 経済産業省、「第1回 産業構造審議会流通部会審議用参考資料 我が国流通業の現状 と取組・課題について 平成244月」5頁、http://www.meti.go.jp/committee/sankou shin/ryutsu/pdf/001_05_00.pdf、(2015211日)。

4 最も直近で行われた調査は、2012年711日に公表された「大規模小売業者等と納入 業者との取引に関する実態調査報告」であり、ここでの調査対象は、①百貨店、②総合ス ーパー、③食品スーパー、④ホームセンター、⑤専門量販店、⑥コンビニエンス・ストア、

⑦ディスカウント・ストア、⑧ドラッグ・ストア、⑨通販業者及び⑩その他の大規模小売 業者(生協、農協等)のいずれかの業態であって、公正取引委員会が把握する前事業年度 の売上高が 70 億円以上の全国の事業者が選択されている。詳細は、公正取引委員会事務 総局『大規模小売業者等と納入業者との取引に関する実態調査報告書』(公正取引委員会、

2012)を参照。

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第2項 大規模小売業態と品揃え・商品の購買上の特性との関係

本項では、「行為主体」を特徴付ける要因である小売業者の「品揃え」と「商品の購買 上の特性」を検討し、これらに応じて構築される小売業務の業務システムについて検討す る。そして、これらの検討を受け、まず、百貨店の小売業務の業務システムの特徴を概観 する。

(1)商品の品揃え

小売業者が小売事業を運営する際に、主要な活動となるのは販売(店舗運営)と仕入(商 品調達)の 2 つである。販売と仕入を物理的に架橋しているのが物的流通(商品供給)で あり、情報処理システムに基づき、空間的・時間的な在庫投資活動を調整している56。そ して、これら小売業態の店舗運営において、小売業態を規定する最も重要な要素が「品揃 え」である。

品揃えとは、消費者が必要とする商品を適切に把握し、これらを商品として取り揃える ことであり、単に商品の種類ではなく、ブランド、サイズ、色、柄、価格など消費者のニ ーズを捉えた品揃えが重要である。そして、各小売業態の特徴は、品揃えの「幅」(広さ)

と「奥行き」(深さ)によって現れる7。この点、商品が物理的に存在する「物」であるこ とを考えると、この品揃えの幅あるいは奥行きは、店舗の面積に関係し、店舗の面積が大 きくなればなるほど、品揃えの幅又は奥行きのいずれか、あるいは双方とも拡大すること ができる。そして、店舗面積が拡大し、品揃えの幅が広がる、あるいは奥行きが深くなる ことにより、顧客を遠方から吸引する力(顧客吸引力)が強まり、当該小売店舗が顧客を 吸引する地理的範囲(商圏)が広がることとなる。

小売業者が事業を拡大する際には、①既存店舗の商圏に存在する消費者を顧客として開 拓するため、品揃えの幅を広げる、あるいは奥行きを深くして事業を拡大する方法(商圏 深耕)と、②既存の品揃えや小売サービスのままで異なる商圏に出店して事業を拡大する 方法(商圏開拓)がある。そして、③これらを組み合わせ、異なる商圏に出店する際に、

5 矢作敏行「流通パラダイムの転換」矢作敏行編『日本の優秀小売企業の底力』(日本経 済新聞社、2011)18頁以下。

6 生産と消費の間には、経済的懸隔と呼ばれる様々な隔たりがあり、円滑な財の交換を阻 害している。具体的には、生産と消費の間の、①主体的懸隔(社会的な分業体制の結果生 じた、メーカー・消費者が人格的に分離したことから生じる隔たり)、②量と組み合わせ に関する懸隔(メーカーが少品種大量生産を展開するのに対して消費者が多品種少量消費 を志向することから生じる隔たり)、③情報的懸隔(メーカーと消費者がそれぞれ相手方 の事情に関する情報を欠如していることから生じる隔たり)、④空間的懸隔(財の生産地 点と消費地点がことなることから生じる隔たり)、⑤時間的懸隔(財の生産時点と消費時 点が異なることから生じる隔たり)が挙げられ、これら隔たりを架橋するのが流通の役割 である。宮澤永光監修『基本流通用語辞典』(白桃書房、改訂版、2007)71頁〔兼村栄 哲〕。物流は、商品の輸送機能と保管機能の2つから構成され、輸送機能は空間的懸隔を、

保管機能は時間的懸隔をそれぞれ架橋している。

7 品揃えの「幅」とは商品ラインの数であり、「奥行き」とはある商品カテゴリーの単品 数を意味する。

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品揃えの幅を広げ、あるいは奥行きを深くしつつ出店して事業を拡大する方法もある8。① については品揃えの幅・奥行きが拡大することとなるが、これは百貨店が成長する際によ く用いる戦略である。②については品揃えの幅・奥行きを変えずに仕入量が増大すること となるが、専門量販店、コンビニエンス・ストア等が成長する際によく用いる戦略である。

③については、品揃えの幅・奥行きが拡大しつつ、仕入量が増大することとなるが、これ は総合スーパー、ホームセンター等の量販店が成長する際によく用いる戦略である。

これらを踏まえて、小売業態における品揃えの一般的な傾向をまとめると、図 1-1-1 の ように表すことができる9。具体的に、百貨店は、商品の品揃えの幅が広く、かつ、奥行き も深くなっており、これに対し、総合スーパーは、百貨店と同様に品揃えの幅は広いもの の、奥行きは相対的に浅いものとなっている。この相違は、品揃えを展開する店舗面積の 大小によっており、百貨店のほうが総合スーパーよりも相対的に面積が大きいものが多い という特徴がある。一般商店は、品揃えの幅が狭く、奥行きも浅いものとなっている。他 方、店舗面積が一般商店と同様に狭小なコンビニエンス・ストアは、あるカテゴリーを専 門的に扱うことが多い一般商店(例えば魚屋、八百屋等)よりも品揃えの奥行きは浅いも のの、幅は広くなっている。専門店は、品揃えの幅は狭いものの、奥行きは深いものとな っている。専門量販店である食品スーパー、ホームセンター、ドラッグ・ストアもほぼ専 門店と同様の品揃えの幅と奥行きであるといえるが、これも店舗面積によって品揃えの 幅・奥行きとも変動する。例えば、家電量販店は、近年、大都市の中心地に大規模な店舗 を有し、品揃えの幅を拡大して、家電のみならず、玩具、食品、酒類等を品揃えするよう になっている。また、ホームセンターも、郊外に大規模な店舗を有し、品揃えの幅を拡大 し、園芸用品、日曜大工用品等に限らず、日用品を幅広く品揃えするようになっている。

これら店舗面積の拡大に伴い品揃えの幅又は奥行きを拡大することにより、店舗の顧客 吸引力が増加し、従前から品揃えしている基幹商品との買回りを促進して売上全体を拡大 することが可能となるため、出店数が増大している大規模小売店舗の店舗間競争の戦略と して、品揃えの拡大が一般的に採用されている。

8 坂川祐司「小売業における品揃え規模の優位性」経済学研究571号(2007)51頁。

9 高丘季昭・小山周三『現代の百貨店』(日本経済新聞社、第14版、1984)65頁によれ ば5~6万㎡の売場面積を有する百貨店において、60万~80万品目の商品が存在し、コン ビニエンス・ストアの約3,000品目の200倍以上に達するといわれている。また、松岡真 宏『百貨店が復活する日』(日経BP、2000)107頁によると、百貨店では数百万品目、

総合スーパーでは20万品目、ホームセンターでは4万品目、食品スーパーでは2万品目、

コンビニエンス・ストアでは3,000品目の商品が存在するとしている。個別企業の最近の 商品点数として、総合スーパーのイトーヨーカ堂では、大型店で8万~10万品目、コンビ ニエンス・ストアのセブンイレブンは3,000品目の商品を店頭で取り扱っているとしてい る。日本経済新聞201516日号。

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(2)商品の購買上の特性

一般的に商品の分類は、顧客の購買意欲と購買行動に基づいて、最寄品、買回品、専門 品と分類される場合が多い10。そして小売業態の特徴には、品揃えされる商品の購買上の 性質も関係してくる。

最寄品とは、日用品、便宜品とも呼ばれ、購買頻度が高く、比較的低価格で、過去の購 買経験の蓄積がある場合も多いことから、消費者が購買意思決定において、品質比較や店 舗選択などに時間や労力等最小限の努力しか払おうとせず、即座に入手することを望むよ うなタイプの商品群であり、衝動的購買も少なからずみられるものである。このため、そ の買い物に当たって、消費者からの店舗の近さや営業時間等の便宜性が重視され、代替品 や類似品で済まされることもある。代表例としては、日常的な食料品、日用雑貨品、下着 等の実用衣料等が挙げられる。

買回品とは、消費者が購買の際に事前に購入商品の決定を行っておらず、複数の店舗を 買い回って比較し購入を決定するような商品群である。消費者は、時間や労力を惜しまず に価格、品質、デザイン等に関する情報探索・比較の中から購買対象を決定するパターン を示し、遠方まで買い求められる場合が多い。買回品には、比較的高額な商品が多く、購 買頻度は低い。代表例としては、婦人服、装身具、服飾雑貨、家電製品、家具等がこれに 該当する。

専門品とは、消費者にとって他のものにはない独自の特徴や魅力を持つと感じられるた め、消費者が買い物に出る前に、特定のブランドや店舗で購入することを決定している商 品群であり、購買のために消費者が多大な努力を進んで払うものである。このため、遠方 まで買い求められる場合が多い。消費者は、ブランドや店舗の名声、信頼性等、高いブラ ンド・ロイヤリティを有するため、価格以外の要素で購買決定し、買い回りによる探索・

比較をせず、代替品を受け入れることは少ない。代表例としては、高級ブランド品、音響 製品、その他の趣味的商品等がこれに該当する。

これらの特徴から、最寄品は消費者が日常的に使用し、比較購買されることも少ないた め、消費者の購買決定の際に商品に係る情報収集は特段不要であり、情報収集手段として の販売員の接客が行われずに販売される場合が多い。他方、買回品は消費者が買い回って 比較購買し、専門品は効能、流行等が重要であり、消費者の購買決定の際に商品に係る情 報収集が重要であり、販売員の接客が行われ販売される場合が多い。

大規模小売業者における商品の購買上の性質に係る一般的な傾向をまとめると、百貨 店・専門店では、買回品、専門品の品揃えを主として行い、スーパー、コンビニエンス・

ストア、ドラッグ・ストアといった量販店では最寄品の品揃えを主として行っている場合 が多い。これに対し、ホームセンターでは後述するとおり大工用品・園芸用品といった特 殊な商材も扱う点、家電量販店では家電製品という買回品を主に扱う点に相違がある。

10 M.T.コープランド(M.T.Copeland)が提唱した消費財の分類方法の一つである。宮澤

永光・十合晄『現代商業学入門』(八千代出版、1997)288頁。以下、最寄品、買回品及 び専門品の説明は同書及び渡辺達朗ほか『流通論をつかむ』(有斐閣、2008)18頁によ る。

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(3)小売業務の業務システム

各小売業態は、「品揃え」と「商品の購買上の特性」に応じて、各小売業務の業務シス テム、つまり店舗運営、商品調達及び商品供給の各業務を構築している。具体的に、店舗 運営においては、形成した商品の「品揃え」を、「商品の購買上の特性」に応じて効果的 に消費者に提供するための業務システムや店舗網を構築している。例えば、品揃えについ て、百貨店・総合スーパーでいえば、大規模な店舗に幅広い品揃えを行い広域から消費者 を吸引しており、コンビニエンス・ストアでいえば、小規模な店舗に最寄品を品揃えして 多店舗展開し、近隣の需要を対象としているといった相違がみられる。商品の購買上の特 性ついて、百貨店や家電量販店では、購買時に商品に係る情報収集が重要な買回品につい ては接客販売により販売しており、スーパーやコンビニエンス・ストアでは、購買時に商 品説明が特段不要な最寄品についてはセルフ・サービスで販売している。

そしてこれら店舗運営を支えるため、あるいは取り扱われる商品固有の特性に適した形 態で11、小売業態ごとに、特色のある商品調達・商品供給の業務システムが構築されてい る。

商品調達は、主として納入業者から行われることとなるが、一般に品揃えの幅が広くな り、あるいは奥行きが深くなると、納入業者の取扱商品の制約から12、納入業者数は増加 することとなる。また、小売店舗の地域的な広がりによっても、納入業者の営業地域の制 約から納入業者数が増加することとなる。品揃えされる商品の種類、商品購買上の特性等 によって、納入業者や納入方法も相違している。そして、商品供給の業務システムは、構 築された店舗運営及び商品供給に適した納入方法・納入頻度となる。

これら「品揃え」と「商品購買上の特性」により生じる小売業務の差異により、当該小 売業態の競争戦略(特色)が既定され、あるいは同一小売業態であっても、これらの業務 遂行能力の優劣により小売業態内の小売業者の競争能力の個別的な優劣が生じている。例 えば百貨店の特色は、店舗運営において大都市圏や地方中心都市の中心地に大規模な店舗 を有し、この店舗に広範囲な消費者を対象とした幅広い商品領域の買回品をフルラインで 品揃えして、消費者のワンストップ・ショッピングと比較購買を可能にし、かつ、対面販 売などに基づく高質なサービスを提供している点である13。また、コンビニエンス・スト

11 例えば、物質的に劣化しやすい生鮮食品と劣化しづらい家庭用品、あるいは流行・季節 性による陳腐化が激しい衣料品と陳腐化が激しくない文房具では、商品供給体制に相違が 生じることは容易に想像がつく。また、各種商品のメーカーの生産上の特性、商品分野固 有の流通経路、取引慣行等の特性によりに商品調達・商品供給体制に相違が生じる要因と なる。

12 卸売業者は、商品を生産しているメーカーとの取引関係の有無により取扱商品の制約を 受ける。特に、ブランド力を有する商品の取扱いは、小売業者にとってだけでなく、納入 業者にとっても販売戦略上の重要な要素となる。小売業者にとって、当該商品の取扱いの 有無が納入業者との新規取引開始に影響を与えることとなる。

13 拙稿「大丸松坂屋百貨店:店舗運営改革」矢作敏行編『日本の優秀小売企業の底力』(日 本経済新聞社、2011)286頁。

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アの特色は、商品調達における独自商品の企画・開発と、商品供給における一括配送セン ターの配置・運営にある14

そして、これらの小売業態ごとのこれら店舗運営、商品調達及び商品供給に係る業務シ ステムの特徴が、小売業態ごとに「優越的地位」を生じさせる要因と、行われる「濫用行 為」の態様に影響を与えるので、これらの特徴を念頭に置いて各小売業態を概観する必要 がある。

第3項 百貨店の特徴15

前項での検討を受け、まず、最も早い時期に小売市場に登場した大規模小売業態である 百貨店の小売業務の特徴を検討し、第 4 章での百貨店の優越的地位の濫用行為である返品 及び手伝い店員の検討の基礎とする。

百貨店とは、「デパートメント」ストアの名称のとおり、組織的な特徴として、部門別 管理組織を導入して、商品領域ごとに適した組織を構築している業態である。店舗運営と しては、買い回りに要する時間・労力等のコストを節約しながら(ワンストップ・ショッ ピング)、多くの商品を比較購買できるように(コンパリゾン・ショッピング)、定価販 売を基本とした衣料品、服飾雑貨、家庭用品、食料品等、衣食住の幅広い品揃えを、集客 に適した都市部に立地する大規模な店舗で実現している。百貨店がワンストップ・ショッ ピングとコンパリゾン・ショッピングを実現すれば、消費者は、自らの買い物に対する満 足を得やすくなり、百貨店は、小売業者間の競争で優位に立つことになる。特に、百貨店 の取り扱う商品には、主力商品である衣料品を始め、服飾雑貨等、買回品・専門品に分類 される比較的高額な商品が多く、かつ、季節性、流行性の高い商品(ファッション商品等)

が多い。これらの商品は、一般的に売残りのリスクが高いため、このリスクへの対応が小 売業務運営上の課題となる(詳細は第 4 章で検討する。)。百貨店の集客には、幅広い品 揃えのほか、百貨店が長年にわたって蓄積してきた信用力(のれん)と顧客網が活用され る。

また、買回品・専門品は消費者に販売員が商品情報を伝達することが商品選択の際に重 要となるため、百貨店は、これら幅広い品揃えの商品を高質な接客と各種サービスの提供 により消費者に販売している。近年では、大手百貨店による自社クレジットカードによる 割引と顧客情報・販売情報の収集と販売促進等への活用が積極的に行われている。

14 矢作敏行「事例研究のまとめ」矢作敏行編『日本の優秀小売企業の底力』(日本経済新 聞社、2011)366頁。

15 経済産業省が実施する商業統計調査上の分類として、百貨店は、「衣、食、他(=住)

にわたる各種商品を小売し、そのいずれも小売販売額の10%以上70%未満の範囲内にあ る事業所で、従業員が50人以上の事業所」であり、セルフ・サービス方式が売場面積の 50%未満のものと定義している。ただし、商業統計の業態定義は、一般的に認識されてい る、あるいは実務上・学術上で用いられる「百貨店」の定義とずれていることに留意する 必要がある。以下の注における商業統計調査上の業態定義も同様である。

参照

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