【学位論文審査の要旨】
本論文は、都市流域を対象とした精緻な洪水流出・氾濫解析モデルの構築において、流 域のモデル化で必要不可欠となる高度な地物データ GIS(地理情報システム)の種々の自 動構築手法を提案するとともに、実際の都市流域への適用結果からこれらの手法の有用性 について評価したものである。
高度な地物データ GISは、都市流域において、複雑に分布する自然・人工的な地物をで きる限り正確に表現したポリゴン型GISであり、個々の地物は、浸透・不浸透特性に基づ き、不浸透地物である建物、道路等および浸透地物である緑地、公園、グラウンド等の土 地利用種別に分類される。高度な地物データGISを活用した洪水流出・氾濫解析モデルに より、高精度な洪水流出予測に加え、特定の建物における雨水貯留浸透施設や特定の透水 性舗装道路を整備した場合の個々の効果を検証するなど、現実的な政策評価を詳細かつ精 度よく行うことが可能である。また高度な地物データGISは、個々の土地利用種別を考慮 した地下水涵養モデルや蒸発散モデルの構築においても活用可能であり、都市の水循環機 構を解明する上で極めて有用なGISとなっている。
一方、一般に入手可能なGISは数多くあるが、高度な地物データGISの構築には、従来、
1/2500 地形図や航空写真等を基に個々の地物を手作業で抽出し、地物毎に浸透特性を考慮
した土地利用種別を設定しなければならず、都市流域の錯雑な地物を作り込むためには膨 大な労力と時間を要している。このことが都市流域の地物を考慮可能な精緻な水文モデル 普及への大きな阻害要因となっており、高度な地物データGIS の自動構築手法を開発する ことが切望されている。
そこで本論文では、近年整備が進み入手が容易となりつつある日本国内の各都市を対象 としたポリライン・ポイント型の1/2500地形図標準データファイルを入力とし、高度な地 物データGIS構築のベースとなる街区、道路および建物ポリゴンを自動構築する手法を提 案するとともに、道路ポリゴンを基に道路表面の雨水流出計算に必要な「微小道路要素」
を自動構築する手法を示した。次に、街区ポリゴンを、街区内に含まれる建物・地物境界 線および地図記号を基に、浸透・不浸透特性を考慮した街区内土地利用地物要素に分割す る手法を複数提案し、これらの特性を明らかにした。
本論文で得られた主要な成果は、以下の通りである。
(1)基礎的地物データGISを構成する建物、街区、道路および河道ポリゴンのうち、手 作業による構築作業が最も煩雑な街区ポリゴンの自動構築手法について提案した。本手法
は、1/2500 地形図標準データファイルの道路縁を入力とし、道路縁の破断個所を検出する
とともに補完を行い、街区領域を閉領域として抽出する手法である。本手法を都市化によ り錯雑な街区形状となっている神田川上流域(約 11.5km2)に適用した結果、実際の街区 ポリゴンを正確かつ容易に構築できることを示した。
(2)都市流域の洪水流出過程に大きな影響を与える道路ポリゴンについて、高度な地物 データGISの道路表面流の解析格子となる微小道路要素に分割する手法を提案した。本手
法では、まず道路ポリゴンを交差部と単路部とに分離し、単路部は道路進行方向に対して 垂直および平行に分割し、交差部は単路部に整合させるように分割することで、微小道路 要素を構築した。本手法を神田川上流域に適用した結果、全ての単路部および 99%以上の 交差部において適切な形状で微小道路要素が構築されることを示した。また、本手法を応 用した道路ネットワークデータの自動構築手法を提案し、従来の手法では自動構築が困難 であった複雑形状の交差部においても、適切な形状で道路ネットワークデータが自動構築 されることを示した。
(3)神田川上流域の約 8 割を占める街区ポリゴンを、浸透・不浸透特性に基づく街区内 土地利用地物要素に分割するための手法として、建物を考慮したスケルトン法、微小道路 要素の分割線起点を固定点とする不整三角形網発生手法、地図記号を母点とするティーセ ン分割法の 3 手法を提案・検討した。その結果、各手法の街区ポリゴン分割特性を明らか にするとともに、ティーセン分割法により街区内土地利用地物要素を生成可能であること を示した。
以上要するに、本論文は、精緻な洪水流出・氾濫解析モデルの流域モデル化に必要不可 欠な高度な地物データ GIS の種々の自動構築手法を提案し、これらが高度な地物データ GIS 作成の作業量低減に大きく資することを示したものであり、都市水文分野における貢 献は極めて大きい。
よって、本論文は、博士(工学)の学位を授与するに十分な価値を有するものと認めら れる。