博 士 ( 環 境 科 学 ) 伊 藤 昭男
学 位 論 文 題 名
農 業 , 公 共 事 業 , サ ー ビ ス 業 の 市 場 開 放 に 関 す る 地 域 間 産 業 関 連 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 分 析
学 位 論 文 内 容 の要 旨
本 論文 の目的 は地域 経済に 根ざし た農 業,公 共事業 ,サー ビス 業の市 場開放に与える影響を地 域 経済学 ,計量 経済 学の立 場から 輸入係 数の 変化を 内在化 した地 域間産 業関 連分析モデルを新た に 構 築し, 空間 的一般 均衡解 および 部分 均衡解 として 実証研 究した もの であり ,第1にこ れらの 部 門 の 市 場 開放 に よ る 影 響は全 国9地域の 産業総 生産に いか なる影 響を与 えるか ,第2にこ れら の 部 門の市 場開 放によ る影響 は生産 ベー スと付 加価値 ベース とで, いか なる違 いがあ るか, 第3 に これら の部門 の市 場開放 による 影響は 地域 内・地 域間の 波及を っうじ てい かなる前方連関効果 お よ び後方 連関 効果を 発現さ せるか ,第4にこ れら の部門 の市場 開放に よる相 対的 影響は どのよ う な も の か に っ い て シ ミ ュ レ ― シ ョ ン に よ り 分 析 し て い る 。 本 論 文 は8章 よ り 成 る 。 第 1章 は 序 論 で あ り 本 研 究 の 目 的 お よ び 分 析 の 方 法 に っ い て 述 べ て い る 。 第2章で は, 本研究 の分析 方法で ある地 域間 産業関 連分析 にっい て, その方 法論上 の中枢 とな る 地域間 交易に っい ての理 論的基 礎を系譜として述べると共に,過去の主要ナょ分析結果にっいて の 整 理を行 って いる。 第3章にお いては ,分析 対象 産業部 門の市 場開放 の背景 およ び地域 別活動 水 準にっ いて述 べる と共に 影響波 及メカ ニズ ムの指 標であ る影響 力係数 およ び感応度係数を地域 別 , 産業部 門別 に計測 してい る。第4章 におい ては ,本研 究にお ける地 域間産 業関 連シミ ュレー シ ョンモ デルの 構築 として ,地域 間産業 関連 分析の 理論的 フレー ムワー クを 検討するとともにシ ミ ュレー ション ・モ デルの ・モデ ル・ビ ルデ ィング を行っ ている 。また シミ ュレーション分析を 行 うに際 しての 前提 とその 方法に っいて 言及 してい る。
第5章に おい ては, 農業に おける 市場開 放の シミュ レーシ ョン分 析と して酪 農品, 精穀, でん 粉 部門に 市場開 放に 関する シミュ レーシ ョン 分析を 行った 。その 結果明 らか になったことは,以 下 のとお りであ る。
1)酪農 品 の 市 場 開放 の 影響 は前 方連関 効果よ りも酪 農など 原料 生産部 門への 後方連 関効 果が 強 く,特 に原料 生産 地域で ある北 海道, 東北 地域で は市場 開放部 門とし ての 酪農品への影響より
原料生産部門としての酪農への影響,地域経済としての産業全部門への影響さらにそれらの付加 価値への影響が相対的に大きい。2)精穀の市場開放の影響は前方連関効果よりも米など原料生 産部門への後方連関効果が強く,特に原料生産地域である東北,九州地域では市場開放部門とし ての精穀への影響より原料生産部門としての米への影響,地域経済としての産業全部門への影響 さらにそれらの付加価値への影響が相対的に大きい。3)でん粉の市場開放の影響は関東地域で は前方連関効果および後方連関効果が共に偏ることなく生ずるのに対し,いも類の原料生産地域 である北海道,九州地域では後方連関効果として市場開放部門のでん粉への影響より原料生産部 門のいも類への影響が相対的に大きい。
第6章においては,公共事業のシミュレーション分析として道路関係,河川・下水道・その他,
農林関係の各公共事業部門の市場開放に関するシミュレーション分析を行った。その結果明らか になったことは,以下のとおりである。
1)道路関係公共事業の市場開放の影響は,後方連関効果として鉱業,鉄鋼製品部門などにマ イナスの影響を誘発する。この傾向は関東,近畿地域で高く,地域経済と結び付きが他地域に比 して高い冲縄地域にっいては直接効果として道路関係公共事業部門自身の影響が高くなってい る。2)河川・下水道・その他公共事業の市場開放の影響は,後方連関効果として鉄鋼製品部門 などにマイナスの影響を誘発する。この傾向は関東,近畿地域で高く,地域経済との結び付きが 他地域に比して高い沖縄地域にっいては直接効果として河川・下水道・その他公共事業部門自身 の影響が高いと共に後方連関効果として窯業製品部門への影響が高くなっている。3)農林関係 公共事業の市場開放の影響は,後方連関効果として鉱業,窯業製品部門などにマイナスの影響を 誘発する。この傾向は関東地域で高く,地域経済との結び付きが他地域に比して高い九州,北海 道地 域に っい ては 直 接効果として 農林関係公共事業部門自身 の影響が高くなっている。
第7章においては,サービス業のシミュレーション分析として商業部門の市場開放に関するシ ミュ レー ショ ン分 析 を行った。そ の結果明らかになったこと は,以下のとおりである。
1)商 業 の 市 場 開 放 の 影 響 は 大 消 費 地 で あ る 関 東 , 近 畿 地 域 が 最 も 高 い 。 2)産業部門への影響では商業部門自身への影響が総じて高いが,関東地域では金融・保険部 門 へ の 影 響 な ど 相 対 的 に 産 業 全 部 門 へ の 影 響 が 高 く な っ て い る 。 以上より本研究においては次のことが明らかとなった。
1)市場開放の影響を地域産業全部門に占める市場開放部門の影響割合で比較すると,商業冫 公共 事業 冫農 業 の順となり, 市場開放部門と地域経済と の密接さの程度が伺える。
2)市 場 開 放 の 影 響 を 絶 対 額 で 比 較 し た場 合, 商業 冫公 共 事業 冫農 業の 順と な る。
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3)農業部門において市場開放の影響を市場開放部門だけでなく,原料生産部門を含めて地域 産業全部門と比較すると商業と同様にこれらの部門で影響割合の過半を占める結果となる。
4)市場開放の影響を生産誘発と付加価値誘発とで比較した場合,多くの部門および地域で同 様の傾向がみられるが,酪農品部門の原料生産地域である北海道,東北地域および精穀部門 の原料生産地域である東北,九州では,付加価値への影響が生産への影響より相対的に高く な っ て お り , 市 場 開 放 と 所 得 と の 関 連 性 が 高 い 結 果 と な っ て い る 。 5)市場開放の影響を前方・後方連関効果の観点からみた場合,酪農品,精穀,でん粉の各部 門においては前方連関効果よりも酪農,米,いも類といった原料生産部門や化学工業部門な どへの後方連関効果が高くなっている。
また,道路関係,河川・下水道・その他,農林関係の各公共事業部門においては,鉄鋼製品,
鉱業,窯業製品部門などへの後方連関効果としての影響が高いという特徴がある。なお商業部門 は,商業部門の市場開放ぱかりでなく,農業,公共事業の各部門においても市場開放による影響 割 合が 高い 結 果と なっ てお り, 他産業とのりンケージ が高い産業であることが伺 える。
以上の結果は今後,予想されるわが国の市場開放に対する政策的インプリケーションとして,
地域産業はその生産性の向上ばかりでなく,その波及効果も考慮した地域産業構造再編という見 地から対応していかねばならないこと,とりわけ従来,個別産業的対応に終始しがちな産業政策 から「アグリビジネス」政策など,特に後方関連的影響を考慮した生産流通対策の充実が望まれ ることを示唆している。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 黒 柳 俊 雄
副 査 教 授 小 島 豊
副査 教授 保原喜志夫
副 査 教 授 斉 藤 和 雄
副査 助教授 出村克彦
このた め本 研究で は,輸 入係数 の変化 を内在化した地域間産業連関分析モデルを新たに構築し,
空 間 的 一 般 均 衡 解 お よ び 空 間 的 部 分 均 衡 解 と し て 実 証 分 析 を 行 っ て い る 。 分 析 に 際し ては, 第1に,こ れらの 部門 の市場 開放に よる影 響が いかな る地域 および 産業に 特 徴的 に 発 現 するか ,第2にこ れらの 部門の 市場 開放に よる影 響は生 産ベー スと 付加価 値ペー スと で, い か な る違い がある か,第3に これら の部 門の市 場開放 による 影響は 地域 内・地 域間の 波及 をっう じてい かなる 前方 連関効 果およ び後方連関効果を発現させるか,の視角に立ち,シミュレー ション 分析を 実施し てい る。
以上の 分析 より本 研究に おいて は次の こと が明ら かとな った。
第1に 酪 農品, 精穀, でん粉 の市場 開放 による 影響は ,主た る需 要地お よび生 産地で 顕著に 発 現し, 産業部 門とし ては ,原料 生産部 門等へ の影 響が顕 著であ る。ま た道路 関係 ,河川・下水道
・その 他,農 林関係 の各 公共事 業部門 の市場 開放 による 影響は ,公共 事業依 存度 の高い地域およ び生産 財を供 給する 地域 で顕著 な発現 がみら れ, 産業部 門的に は,公 共事業 部門 の他,生産財部 門,商 業部門 への影 響が 顕著で ある。 さらに 商業 部門の 市場開 放によ る影響 は消 費地で顕著であ り, 産 業 部 門 的に は 商 業 部 門 の他 ,金融 ・保 険部門 等サー ビス業 部門へ の影 響が顕 著であ る。
第2に 市 場開放 の影響 を生産 誘発額 対生 産額と 付加価 値誘発 額対 付加価 値額の 各比率 で比較 し た場合 ,多く の部門 およ び地域 で同様 の傾向 がみ られる が,酪 農品部 門の原 料生 産地域である北 海道, 東北地 域およ び精 穀部門 の原料 生産地 域で ある東 北,九 州地域 では付 加価 値への影響が生 産への 影響よ り相対 的に 高くな ってい ること が明 らかと なった 。
第3に 市 場開放 の影響 を前方 連関効 果, 後方連 関効果 の観点 から みた場 合,酪 農品, 精穀, で ん粉の 各部門 におい ては 前方連 関効果 よりも 酪農 ,米, いも類 といっ た原料 生産 部門や化学工業 部門な どへの 後方連 関効 果が高 いこと が明ら かと なった 。また ,道路 関係, 河川 ・下水道・その 他,農 林関係 の各公 共事 業部門 におい ては, 鉄鋼 製品, 鉱業, 窯業製 品部門 など への後方連関効 果とし ての影 響が高 いと いう特 徴が明 かとな った 。さら に商業 部門は ,商業 部門 の市場開放ばか りでな く,農 業,公 共事 業の各 部門に おいても市場開放による影響割合が高い結果となっており,
他産業 とのり ンケー ジが 強い産 業であ ること が明 らかと なった 。
以上の 結果 より, 今後, 予想さ れるわ が国 の市場 開放に 対する 政策 的イン プリケ ーションとし て,地 域産業 はその 生産 性の向 上ばか りでな く, その波 及効果 も考慮 した地 域産 業構造再編とい う見地 から対 応して いか ねばな らない こと, とり わけ従 来,個 別産業 的対応 に終 始しがちな産業 政策か ら「ア グリビ ジネ ス」政 策など ,特に 後方 関連的 影響を 考慮し た生産 流通 対策の充実が望 まれる ことが 示唆さ れた 。
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本論文は農業,公共事業,サービス業における特定部門の市場開放が地域内および地域間の生 産波及構造をっうじていかなる影響を各地域および全国の産業構造に与えるかを全国9ブロック にかかわる地域間産業関連表の産業部門におけるディスアグリゲーションおよび輸入係数を変え ることを通じてシミュレーション分析したものであり,今後わが国の市場開放に伴う地域経済へ の影響に対し,いかなる地域産業政策をもって対応していくかに関して極めて有効な知見を与え るものである。さらに大学院課程において研鑽した内容や,取得単位の評価から判断して,審査 員一同,申請者は博士(環境科学)の学位を受けるにふさわしい資格を有するものと判断した。