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テイ クオーバ ー とコーポ レー ト・ ガバ ナ ンス

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(1)

テイ クオーバ ー とコーポ レー ト・ ガバ ナ ンス

テイクオーバー とコーポ レー ト・ ガバナ ンス

I.はじめに

I.テイクオーバーの役害J(1):マ リスとマ ン

.テイクオーバーの役割(2):制約要因

Ⅳ。結びに代えて:アメ リカのコーポレー ト・ ガバナ ンスの変化

I.はじめに

コーポ レー ト0ガバナ ンスの議論 においてテイクオーバ ー (takeover,乗っ取 り)や

TOB

(take―

over bid,株式公開買い付 け)とい う単語 は常用語 といっていいほど煩雑 に登場するが,わ

が国において これ らの言葉がメディアに取 り上げられるようになったのは比較的最近のことである。

まずこれに関連 した最近の出来事をい くつか取 り上げてみよう。

国際デジタル通信 (IDC)は 1986年 11月に トヨタ自動車,伊藤忠商事,英国通信大手ケーブル・

アンド・ ワイヤ レス (C&W)な どが出資 して設立 され

,1年

後の 1987年 11月に第1種電気通信 事業免許 を取得,1989年 5月 よリサー ビスの提供を開始 した。1999年 3月,筆頭株主のC&Wが

株式 の買い増 しを表明 したのを受 けIDCは C&Wと 日本電信電話 (NTT)に買収条件の提示 を 要請 したo C&W,NTTはそれぞれ同月 19日 と 29日 に条件を提示 した。IDCは 4月 15日 に臨 時取締役会を開き,IDCの全株主に対 して保有株式を

NTTに

売却す るよう推薦す ることを正式に 決定 した。 これ以降,わが国では初 めての本格的なTOBに よる買収合戦が展開されることにな る②.5月 6日 にC&Wは

NTTを

上回 る条件で 6月 5日 を期限にTOBを実施す ると発表 した。

(1)当 時NTTは IDCの株式を保有 していなか ったが,子会社のNTT国際通信を通 じて 98年 6月 に業務提携 を結んでいた。NTTは 1999年7月の分割 0再編で国際通信事業に本格的に進出するのを機 に,IDCの完全 買収を計画 し交渉を進めてきていた。

(2)1989年か ら 1991年 にか けて小糸製作所 と筆頭株主のブー ン・ ピケ ンズ氏 との間に役員派遣を巡 って対立 す るという事件があ り,折りか らの 日米経済摩擦 とも関連 して話題 とな ったが,両者 の対立 は買収合戦 には 至 らなか った。

‑225‑―

(2)

これに対 し

NTTは

5月 31日 にC&Wを上回 る新たな提案を株主 に通知 した。翌 日

C&Wも

買い 付 け価格の引き上げと10日間の期間延長など

TOB条

件の変更を内容 とした

NTTへ

の対抗措置を 発表 した。6月 8日

NTTは

買収価格 を引き上 げないことを決め,事実上IDCの買収を断念 した。

最終的にC&Wは ,TOB期限の 6月 15日 の段階で自己保有分 も含めてIDCの発行済株式の9

7。69%を取得 し,また買収総額 は522億円に達 した (1999年 6月 16日 付毎 日新聞)。 C&Wによる このIDCの買収 は,IDCの取締役会が

NTTに

よる買収を承認 したにも拘わ らず結果的にC&W

に買収 されたという意味で「敵対的」買収 (hostile takeover)と もいえ,わが国で初めての敵対 的買収の成功例で もある③.

2000年1月 17日,エスエス製薬の筆頭株主である独医薬品メーカーのベー リンガーイ ンゲルハ イム (BI)はエスエス製薬に対するTOBを発表 した。ただ しこのTOBは ,上にみたC&Wに

よるIDCのケースのように経営権取得 を目的に した ものではな く,BIがすで に保有 している分

(19。 6%)を

含めたBIの持ち株比率を3分1以上 に引き上げる (したが って,13.8%を買 い付 け )こ とを目的 とした

TOBで

あ った。

TOBが

成功 し3分1以上の株式を所有す ることになれ ,BIは株主総会で特別決議 に対 し拒否権を行使す ることが可能 となる。 エスエス製薬の取締役 会 はこのTOBに対 し「賛成 も反対 もしない」 という方針を表明 した④.敵対的買収で もなければ 友好的買収で もないという珍 しい企業買収劇が ここに演 じられることとなった。

TOB期

限の 2月

15日 までにBIは当初 日標を上回る

35。

86%の持 ち株比率を達成 し

,TOBは

成功を収めた.買い付 けに応 じたのは殆 どが個人株主であ り,発行済株数の約46%を所有す る銀行などの法人株主 は,

TOB前

の株価より42%高い買 い付 け価格が設定 されたにも関わ らず株を手放 さなかったと報 じら れた (2000年 2月 17日付 け日経産業新聞)。

BIによるエスエス製薬

TOB発

表の1週間後の1月 24日,企業買収専門会社 エム・ ェイ・ シー

(MAC)は

東証2部上場の昭栄をTOBすると発表 した。翌 25日 の新聞には「広がるか敵対的M&

A」 (毎日新聞),「広がるか?株主資本主義」(日経産業新聞)などの見出 しが踊 り,昭栄への

TOB

が大 きく報 じられた。また,同日昭栄は取締役会を開きTOBへの反対を決議 し,3週間に及ぶ昭栄 と

MACと

TOB合

戦が繰 り広げられることになった。応募期限の 2月 14日 にMACが確保できた株 式数は

TOB前

か らの保有分を合わせても発行済株数の 6.52%に とどまり,昭栄の経営権取得は失敗 に終わった。昭栄の発行済株式の6割を所有する富士銀行を中心 とした芙蓉グループが買い付けに応 じなかったことが敵対的買収失敗の原因としてあげられている (2000年 2月 15日 付 日本経済新聞)。

ここに取 り上げた 3つ の企業買収事件は日本のコーポ レー ト・ ガバナンスを検討 してい く上で (3)大和証券SBキャピタルマーケ ッツの調べでは,  これまで国内では 43件 のTOBが成立 しているが,す

て被買収会社の承認を得た友好的買収であるという (1999年 6月 17日 付け読売新聞)。

(4)2000年1月 21日 付 日経産業新聞によれば,TOB発表 の僅か 2日 前の土曜 日に BIの 代表者が突然 エスエ ス製薬社長宅を訪れTOBを通告 し,翌16日 日曜 日に緊急取締役会が開かれ, この方針が決め られたという。

‑226‑

(3)

テイクオーバーとコーポレー ト・ ガバナンス

重要 な論点 を提示 していると思 われ る。外国資本 による企業買収 はグローバル化 に伴 い これか ら不 可避 的 に増加す ると予想 され るが,それ はアメ リカ流 ガバ ナ ンスの 日本への本格 的導入 につ なが る のだ ろ うか。企業間 の株式持 ち合 いが低下す る中で

,TOBと

い う手法 を用 いた敵対的 (企業)買

収 は一般化 してい くのであろ うか。 そ うだ と して,それ は これ までの 日本企業 のガバナ ンスにどの よ うな影響 を与 え,どのよ うなガバ ナ ンスの変化 につ なが るのであろ うか。

本稿 は こう した問題意識 を背景 に,敵対 的買収 ない しテイ クオ ーバ ー とい う行動 に焦点 を当てな が ら,それが経営者 の行動 にどのよ うな影響 を与 え るか とい うコーポ レー ト・ ガバ ナ ンスの1側 を検討す る。 また,そう した検討 と併せて アメ リカでの コーポ レー ト・ ガバナ ンスにおけるテイク オーバ ーの役割 につ いて も触れてみたい。本稿 で明 らか にされ るよ うに,アメ リカにおいてテイク オ ーバ ーが コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスの議論 の中で重要 な役割 を演 じるよ うにな ったの は ここ 20 年 ほどの ことに過 ぎない。 この ことはアメ リカの コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスのあ り方が歴史的 にみ て決 して普遍 の もので はな く変化 して きた ことを示唆 している。実際,「 アメ リカのコーポ レー ト・

ガバ ナ ンスは80年代 を境 に大 き く変化 した」 とい う主張が最近強 く出て きて いるのである⑤. 本稿 の構成 は以下 の通 りであ る。次節 では,マ リス とマ ンとい う代表的論者 の考 え るテイクオー バ ーの果 たす役割 について検討す る。 マ リスは経済学 の中に最初 にテイクオーバ ーとい う概念を導 入 した人 で あ り,マンは会社支配権 を1つの商品 と捉 え,会社支配権市場 とい う資本市場 の果 たす 機能 を明確 に した最初 の人 である。 こうした2人,バー リ=ミ ー ンズの明 らか に した所有 と経営 の分離 とい う共通 の土俵か ら出発 しつつ,経営者 と株主 の利害対立 につ いて対照的 な結論 に達 した ことが明 らか にされ る。第3節で は,テイ クオーバ ーが経営者 の規律づ けに際 して どのよ うな問題 に直面 す るか,特にテイクオーバ ーの役割 を制限す る要因の検討 を行 う。 フ リー・ ライダー問題,

競合的 ビッダーおよび乗 っ取 り防止策が取 り上 げ られ る。そ して最後 に,アメ リカの コーポ レー ト・

ガバ ナ ンスの変化と りわ け1980年代以 降の変化 をそれ以前 と比較 し,テイ クオ ーバ ーの果 た し た役割 (80年)および関係的投資家 の役割 (90年)に触 れ この小論 を閉 じる。

Ⅱ。 テイクオーバ ーの役割 (1):マリスとマ ン

まず,用語 の整理か ら始 めよう。テイクオーバーと類似の言葉 としてmerger(合)と acquisition (買)があ る.実態 的 にはこれ らすべて は複数 の企業 (通常 は2社)が一緒 にな り1つの組織 を 形成 す る ことをい うが⑥,形成 され るプ ロセスの相違 がそれぞれの言葉 の中に込 め られて い るよ う

(5)例えば,」ensen(2000),Holmstrom=Kaplan(2001)などを参照.

(6)こ こでぃぅ 1っ の組織 とは,必ず しも 1つ の企業 という狭い意味だけではな く,それを含む企業 グループ といった ものをも意味するものとして用いている。

‑227‑―

(4)

に思 われ る。mergerは 2つの企業 の経営陣 の合意が成立 した上 で1つの企業 に統合 され る場合,

特 に企業規模 に大 きな差 が な い場合 に使 われ ることが多 い。 これ に対 し,acquisitionは企業規模 に差 が あ り,大が小 を吸収す る とい うイメー ジが強 い といえ よ う。takeover(テ イ クオ ーバ ー

)

は相互 の合意が形成 されずターゲ ッ ト企業 の経営陣が (当初 は)買収提案 を拒否す るケース,つ

ま り敵対 的買収 (hostile takeover)と い うニ ュア ンスで使 われ ることが しば しばあ る⑦。 ここで ,特別 の ことわ りが ない限 り,敵対 的買収 の意味 で テイ クオ ーバ ーとい う言葉 を使 うことに した .

アメ リカにおいて,「企業乗 っ取 り (takeover)」 とい う言葉 は1880年代後半 に生 まれ た といわ れ るが,テイクオーバ ーそれ 自体 は1960年代 まで は基本的 に殆 どみ られなか った とい って よい③。

テイ クオーバ ーが コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスにおいて重要 な位置を 占め るのは,それが経営者 の規 律付 けを巡 る問題 と深 く関係す るか らで あ り,ま, 4節でみ るよ うに,アメ リカの1980年代以 降 の コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスのあ り方 に大 きな影響 を与 えたか らで あ る。以下,テイ クオーバ ー

が経営者 の規律付 けにおいて果 たす役割 につ いて,代表的 な2人の論者 の見解 を手がか りに検討 を 進 めて い こう。

(1)R.マ

リスの経営者企業 の理論

経済学 の中にテイクオーバーとい う概念 を導入 したのはR.マリスを嗜矢 とす る (Marris,1964)⑨ .

彼 は,バー リ=ミ ー ンズが明 らか に した所有 と経営 の分離 した企業 (Berle=Means,1932)を 象 に,いわ ゆ る「経営者企業 の理論 (managerial theory of the firm)」 を展 開 した。所有 と経 営 の分離 は「 経営者 の裁量性 (managerial discretion)」 とい う問題 と して,今日流 にいえばエー ジェ ンシー・ コス ト(agency cost)の 問題 と して取 り上 げ られ,その含意が分析対象 とされた。

マ リスは経営者企業 の理論 を構築す る際 に,経営者 の裁量性 を企業規模 の拡大 (=企業成長)と

い う行動 目的 と して まず特定化 しこうした経営者 の成長最大化行動が新古典派 の想定す る利潤最 大化企業 (以,新古典派企業 と呼ぶ)と比較 して どのよ うな理論的帰結 の相違 を もた らすかを明 らか に しよ うと した。 その際,経営者 の裁量 的行動 に制約 を与 え る もの と して テイ クオーバ ーに重 要 な役割 が与 え られて いた。す なわ ち,経営者 が利潤 を犠牲 に して過度 に成長 を追求す ると,テ

(7)た だ し,「

friendly」

takeOver(友 好的買収)とい う表現 もみ られるので,takeoverが常 に敵対的 とい う 意味 に限定 して使われているわけで はない.なお,  ここで考えているテイクオーバーとはTOBという手段 によるものを念頭に置いている。

(8)Marris(1998,p.16)に よると,TOBとい う用語 は,1960年当時のアメ リカでは全 く知 られていなか っ たとい う.な, HBR(2001,訳 p.234)では, 1950年 代半ばの委任状争奪葺箕 (proxy fight)に よる乗 っ 取 りの事例が紹介 されている。TOBとは異なり委任状争奪戦が乗 っ取 りの有効な手段になりにくい理由につ いては,Hart(1995,p.682)を参照。

(9)マ リスはMarris(1964)の 改訂版であるMarris(1998)に おいて,(敵対的)テ イクオーバーを「involuntary takeover」 と呼んでいる。

‑228‑―

(5)

テイ クオーバ ー とコーポ レー ト・ ガバ ナ ンス

クオ ーバ ーの可能性が高 ま り経営者 の地位 が脅か され るため,経

 

υ 営者 はテイ クオーバ ーの可能性 を常 に意識 しつつ成長最大化 に関

υ″

わる意思決定をせざるを得ないというのである。本稿で用いるター ムでいえば,経営者の裁量的行動 に対す る規律付 けのメカニズム υ

としてテイクオーバーが位置づけられていたのである。

経営者企業の理論 におけるテイクオーバーの役割 は1図に要約

的に示されている。

1図

において

は企業資産で測った企業成

 

長率 は評価率 (=株式の市場価値/企業の資産価値)⑩,υ (g) は評価 曲線 である①.

利潤最大化 とい う行動 はここで は株式 の市場価値最大化 とい う形 で表 されてお り,新古典派企 業 は υの最大化 を追求 す る とい う行動 を とる。新古典派企業 は最大 の評価率 υπとそれを実現す る 成長率 σπの組, 1図の点Aを選択す る。他方,経営者企業 は,テイ クオ ーバ ーの起 こらない評価 率 の中で最大 の成長率 を選択 す る。 いま,ある水準 を下 回 るとテイクオーバ ーが現実 の ものにな る と経営者 の考 え る評価率 の水準 を フと しよ う。つ ま り,フ はテイクオーバ ーを引 き起 こさない評価 率 の うち最小 の もので あ る。 この とき,経営者 企業 は評価率 フの下 で最大 とな る成長率 場 を もた らす点Bを選択す る。1図か ら明 らか なよ うに,経営者 の裁量 的行動 はよ り低 い評価率

(フ

π

)

とよ り高 い成長率

(gπ

π)を もた らす。 また,経営者企業 の行動 の新古典 派企業 のそれか らの 乖離 の程度,すなわ ち フと υ%の 差 は フの水準 に全面的 に依存す る。言 い換えれば,テイクオーバ ー

の可能性 の程度 が経営者 の裁量 的行動 の程度 を左右 す る。 テイ クオ ーバ ーは

,TOBと

い う手段 に 象徴 され るよ うに,株式市場 の参加者 の行動 と密接 な関係 を もつ ものであ るか ら,基本 的 には株式 市場 に代表 され る資本市場 の機能 に関わ る問題 であ る。例 えば,ある企業 につ いてその評価率 を引 き上 げ る余地が存在す るとい う情報 は,その企業 の市場価値 を高 め る余地があ るとい うシグナル, す なわちテイ クオーバ ーが収益を もた らす行動 とな りうることを示す シグナル とな る。 したが って, 資本市場 の参加者 が こう した シグナルを どの程度機敏 に探 し出す ことが出来,それを どの程度迅速 な行動 と して具体化で きるか ど うか とい う点が テイクオーバ ーの可能性 を左右 し,経営者 の裁量 的 行動 の程度 を制 限す る。

資本市場 の果 たす この よ うな役割 に対 す るマ リスの現状認識 は,一貫 して否定 的色彩 が強 い。彼 ,上にみた資本市場 による経営者 の裁量的行動 を制限す るルー トそれ 自体 は重要 であ ると考 えて い るが,それ は「 極 めて不完全 (highly imperfect)」 (Marris,1998,対)なもの と理解 している。

(10)マ リスは分母の企業資産を簿価で捉えているが,こ れを置換 コス トで表 したものが「 トービンの

g」

である。

(11)評価曲線の形状 は理論的にはい くつか考え られ るがここでは代表的なものを例示 している。詳 しくは,

Marris(1964),野方 (1979)を 参照.

‑229‑―

(6)

例えば,テイクオーバーを実行 した企業のテイクオーバー後の収益性が必ず しも高まってはいない こと,あるいはテイクオーバー企業の株主 は株価上昇の恩恵を平均的には受 けていないといった実 証結果は,マ リスによれば,利潤最大化行動 としてよりも経営者の成長へのバイアスに基ず く行動,

すなわち成長最大化行動 として理解する方が素直な解釈だという(Marris,1998,p。

20)。

(2)H.マ ンの会社支配権市場

マ リスとほぼ同 じ時期にマ ンは「会社支配権市場 (market for corporate control)」 とい う概 念を提起 した (Manne,1965)。 彼が研究の対象 とした企業 もマ リスと同様所有 と経営が分離 した 現代の株式会社である。会社支配権 とは,企業の経営資源利用の決定権を意味するものであるが,

彼 はこの会社支配権を 1つ の商品 と考え,他の商品がそうであるようにこの商品にも市場が存在す ると捉え,それを会社支配権市場 と名付 けた。会社支配権市場 は先 に述べた資本市場 と同様の役割 を果たすのだが⑫この市場には複数の (潜在的)経営者チームが存在 し実際に企業の経営を担当 している経営者チーム (以,現経営者チームと呼ぶ)と競争関係 にあると考える点に彼の特徴 を見いだせる。

マ ンによれば,活発な会社支配権市場の存在 はテイクオーバーの圧力を現経営者チームに与える。

その結果,テイクオーバーによる解任の リスクを回避するためには現経営者チームは可能な限 り企 業の株式価値を高める行動をとらな くてはな らない。 こうした状況の下では,マリスのい う経営者 の裁量性の余地 は大 きく制限される。テイクオーバーの脅威 こそが多 くの (小)株主を保護す る強 力な手段を提供するのであり,経営資源を最 も高い価値を生み出す用途 に移動 させるというのであ る。 この意味で,会社支配権市場 は経営資源の効率的利用 (=最大の企業の市場価値)を回復 させ るメカニズムとして機能するのである。

(3)株式の分散所有の含意

周知 のよ うに,バー リ=ミ ー ンズはアメ リカの大規模株式会社 (1929年 の非金融企業上位200 )においては株式が広範 に分散所有 されてお り,そのため会社資産が株式を殆 ど所有 していない 専門的経営者の支配下 におかれていること (所有 と経営の分離),その結果 として経営者 と株主の 利害が対立する可能性のあることを示 した (Berle=Means,1932).

マ リスはこのバー リ=ミ ーンズの問題提起を継承 し,所有 と経営の分離が経営者の裁量的行動を 可能 に し,利潤最大化 (ないし株式価値最大化)という株主利益の犠牲の上に成長最大化 という自 己目的を追求す るという行動 につながることを明 らかに した。

M。

ローの本のタイ トルを借 りてい えば,株式 の分散所有の結果 としての所有 と経営の分離 は「strong managers,weak owners」

(12)マ ンの場合,会社支配権市場 イコール資本市場である。

‑230‑―

(7)

テイクオーバーとコーポレート・ ガバナンス

という状態 を生み出 したのである (Roe,1994)。 これに対 しマ ンは,株式の分散所有 は支配的株 主の不在 ということを意味するのでありこの不在 こそが株式の分散所有をまとめあげ株式を集中 させ るメカニズムの生成を促 したとみる。 さらに,彼はテイクオーバーが こうした所有の集中を迅 速 に実現 させるメカニズムとして理解できることをも示 したといえよう。め.

このように,バー リ=ミ ーンズの明 らかにした所有 と経営の分離 という共通の土俵か ら出発 した マ リスとマ ンの2人,前項 までにみたように対照的な結論 に到達 した。マ ンは会社支配権市場に おける (経営者チームの)競争が効率性の実現された状態をもたらすとした。 ここにはバー リ=ミ ー ンズが危惧 した経営者 と株主の利害対立 は存在 しない。他方,マリスは経営者の裁量性の発揮が経 営者 と株主の利害対立を生み出 し,その結果「非」効率的状態が顕在化する可能性を示 した゛の。

こうした2人の結論 は資本市場のヮーキ ングの問題,具体的には経営者への規律付 けメカニズム としてのテイクオーバーの機能の問題 と関係する。次節でこの点 について検討を加えてお こう。

.テイクオーバーの役割(2):制約要因

前節ではテイクオーバーの脅威 という観点か らテイクオーバーが経営者の規律付けに果たす役割 を検討 した。そこでは,資本市場ない し会社支配権市場の機能が集約的な形で現れるテイクオーバー という行動が効率性の実現,具体的には企業の市場価値最大化 と関係することをみた。 この節では,

テイクオーバーが経営者の規律付 けに対 し必ず しもパーフェク トな形では機能できない可能性を中 心 にテイクオーバーを巡 る問題 について検討する。

(1)フ リーライダー問題

グロスマ ン=ハー トが指摘 したように,株式が分散所有 され,株主が機会主義的に行動する場合,

テイクオーバーに際 しては株主特 に小株主による「 ただ乗 りの問題

(free―

rider prOblem)」 が生 じる (Grossman=Hart,1980).この問題の本質 は,経営者の裁量的行動をモニタリング (監

)

するにはコス トがかかるが,モニタリングには公共財的性質があるため,そのベネフィットがモニ タ リングの実行主体以外 にも広 く行 き渡 るという点にある。前節で行 った議論を踏まえてこの点を みてお こう。

(13)ティクォーバーの このような理解 についてはShleifer=vishny(1997,p.756)を参照。 またこのよ う なテイクォーバー・ メカニズム生成の理解 は支配的株主の存在の有無がポイントとなるがこの点でドイ ツや 日本のように支配的株主の存在が観察 される国で これまでテイクオーバーが殆どみ られなか ったという 事実 は興味深 い。

(14)ただ しミクロレベルでの経営者の成長志向は長期的にはマクロ経済の高い成長をもたらす可能性がある。

マ リスは, 日本や

(西

)ドイツの高い成長率 とこれ らの国では (敵対的)テイクオーバーが殆 どみ られなかっ たという点に注意を促 している。Marris(1998,p.164)を参照.

‑231‑―

(8)

いま,「潜在的」経営者 チームが株式価値 の引 き上 げ余地 のあ る企業 (以ターゲ ッ ト企業 と 呼 ぶ)を見 出 した と しよ う。TOBは市 場価格 にプ レ ミアを上乗 せ した形 で行 われ る ことにな るか この経営者 チームはTOBを実行 す る前 にまず株式市場 で ターゲ ッ ト企業 の株式 の購入 を「 密 か に」始 め るであろ う。 アメ リカで は証券取 引委員会 (SEC)の規制 によ り,株式 の所有比率 が

5

%に達 した段階でその意図 な どの情報開示 を10日以 内 に行 うことが義務付 け られて いる (いわゆ る 5%disclosure trigger)° D。 したが って,株式市場 での「 事前」 の株式購入 によ り所有比率 が

5%に達 した段階で潜在的経営者 チームはTOBを宣言 しなければな らない。 その結果ターゲ ッ ト企業 の株価 はTOBのオ ッフ ァー価格 に調整 され ることにな る.も し株式市場 が効率的 に機能す ればこのオ ッフ ァー価格 は潜在的経営者 チームが考 え るTOBの期待値 と一致 す るはずで あ る。

この時,「潜在的」経営 チームはこう した株価 の引 き上 げを もた らしたモニ タ リング・ コス トを 含むすべて のTOBに関わ るコス トを負担 して い るがしか し,彼らの入手す る利得 は

TOB前

,

す なわ ち自己の意図 についての情報 を開示す る前 に入手 した株式か らもた らされ る利得 だけであ り, 残 りの利得 はすべて彼 ら以外 の株主 に帰属 す る ことにな る。 この よ うなTOBに伴 うただ乗 りが存 在す ると,モニ タ リング主体の「私的」便益 と株主が全体 として受 け取 る「社会的」便益 とが乖離 す る ことにな る。 そのため,テイクオ ーバ ーに伴 う総 コス トが社会的便益 を下回 っていて ネ ッ トで 社会的便益 が期待 で きる場合で も,総コス トが私的便益 を上回 る限 りこうしたテイクオーバ ーは理 論 的 には顕在化 しない。 この ことはただ乗 りの存在 が テイ クオーバ ーを過小 な水準 に とどめ ること を意味 してお り,それ故 テイクオーバ ーの脅威が経営者 の裁量的行動 に対す る規律付 けに対 し十分 な役割 を発揮で きない可能性 を原理 的 には示 しているとい うことが出来 る⑭。

(2)競

合的 ビッダーの存在

TOBの表 明 は ターゲ ッ ト企業 の株式 が市場 で過小 に評価 されて い る とい う情報 を別 の潜在 的経 営者 チームヘ「 開示」す ることで もあ る。 この ことは

,TOBの

実行 され るプ ロセスの中で別 の潜 在 的経 営者 チ ー ムが顕在 化 す る とい う可 能 性 を意 味 す る。 つ ま り

,TOBに

お いて競合 的 ビダー (bidder)が新 たに登場 し,「買収合戦」 が展 開 され る可能性 で あ る。前項 で見 たよ うに ターゲ ッ ト 企業 の識別 には (モニ タ リング)コス トがかか る。 したが って,買収合戦 において勝利 を収 め る こ とが 出来 ないとこの コス トの回収 は不可能 にな る。 この意味でこの コス トはサ ンク性 の強 い性

(15)例えば,Weston=Weaver(2001,p。 11)な どを参照。なお,わが国の証券取引法において も,5%を越え る株式保有者に報告を義務づけた「5%ルール」がある。

(16)ジェンセ ンは私的便益 と社会的便益の乖離 ということを理由にtrigger pointの 5%からの大幅な引き上 げない しこの情報開示ルールの廃止を主張 している (」ensen,1988,p.45)。 なお,ア レン=ゲイルは,情 開示が義務付 けられている株式所有比率 はアメ リカ,イギ リスでは5%だが ドイツでは25%であること イツでは (敵対的)テイクオーバーが殆 どみ られないことか ら,  こうしたこうした情報開示規制を (敵対的

)

テイクオーバーの有無 と結びつけることには慎重な姿勢を示 している (Allen=Gale,2000,p.43).

‑232‑―

(9)

テイクオーバーとコーポレー ト・ ガバナンス

格 を持つ ものである。買収合戦 に勝利す るためには ライバルよ りもよい条件 を提示す る必要 があ る これ はTOBのオ ッファー価格 を引 き上 げ ることに他 な らない。 そのため,たとえ この競合的

ビダー との買収合戦 に勝利 を収 めて も,テイ クオーバ ーか らもた らされ る利得 は競合的 ビッダーが 現 われ ない場合 のそれ と比べれば低下す ることは明 らかである。

また,競合 的 ビッダーの候補 は上 にみた「不特定 の」潜在的経営者 チームに限 るわ けで はない。

例 えば

,TOBに

対抗 す るために現経営者 チームは友好 関係 を持 つ企業 に自社 を買収 して もらうよ う依頼す るか もしれない。いわゆる「 白馬 の騎士 (white knight)」 の要請であ り,テイクオーバー に直面 した現経営者 チームによる自己に有利 な相手 を選 ぼ うとす る行動である°つ。

いずれに して も,競合的 ビダーの存在 はテイクオーバ ーによる利得 を低下 させ る方向に働 く。 そ の利得 が一定 の水準 を超 えて低下すれば

,(1)で

み た場合 と同様 テイクオ ーバ ーは理論 的 には顕 在化 しない。現経営者 チームに とってテイクォーバ ーの可能性 は低下 し,裁量 的行動 の余地が拡大 す ることにな る。

なお,誤解 のないよ うに付 け加 えてお くとここで述べたテイクオーバ ーの顕在化 とはあ くまで も「 理論 的」 レベルでの話 であ り,(敵対 的)テイ クオーバ ーが実際 に起 こるか否か とい う「現実 的」 レベルの話 で はない。議論 のポイ ン トは,経営者 に効率性 を追求 させ る上 で,あるいは経営者 の裁量 的行動 を規律づ ける上で テイクォーバ ーの脅威や可能性が重要 な役割 を果 たすか否か とい う 点 であ る°の。

(3)テ

イ クオーバ ー防止策

テイ クオーバ ーが現経営者 チームの解任 を意味す る以上,現経営者 チームが防止策 を講 じよ うと す るの は 自然 な ことであ る。例 えば,「 poisOn pills(毒 入 りの薬剤

)」

や「 staggered election of directors」 な どが しば しば こう した例 と して あげ られ る。前者 は,テイ クオ ーバ ーが な され た場 ,会社 の株式 を大幅 な割 引価格 で購入 で きる権利 を株主 に与 え る ものであ り,テイ クオーバ ー側 に不利益 となるよ うな措置 を予 め講 じてお こうとす るものである。後者 は,取締役会 の メ ンバ ーの 選 出に際 しその交代 で きる人数 に制限 を加 え ることによ って,たとえテイ クォーバ ーが成功 して も

ターゲ ッ ト企業 の支配権 を行使す るには一定 の時間がかか るよ うに措置 してお くものである⑩.

(17)な,テイクオーバー側につ く企業は「 ブラック・ ナイ ト(black knight)」 と呼ばれる。

(18)実アメ リカの企業買収事例の中で敵対的買収 はごく少数である。」ensen(1988,p.22)に よれば,

1986年 に3,300件あった企業買収の うち敵対的買収 は 40件 (1.5%)に過 ぎずこの40件 も過去最高の数で あ った とい う。 また,WestOn=Weaver(2001,pp.114‑115)で ,1985年か ら2000年 の期間について敵 対的買収の割合を取引総額 についてみると平均 4.7%と かなり低いこと,また成功の確率 も 1994年 か ら2000 年 について約1/3(32.7%)と それほど高 くないことが報告 されている。なお,イギ リスについてのジェンキ ンソン=メ イヤーの研究 によればアメ リカとは逆の結果が報告 されている。彼 らによると

(」

enkinsOn=

Mayer,1994,pp.6‑8),1984年か ら 1989年 の企業買収上位 10件 のうち 2/3が 敵対的買収であり,またこの 期間の上場会社に対するTOBの 26%が敵対的買収であったとい う。

(19)ティクォ̲バー防止策についての説明は,Weston=Weaver(2001,chap 10)が詳 しい。

‑233‑―

(10)

M.ローによれば,1980年代半 ば にアメ リカの至 る所 で繰 り返 し行 われて いたテイ クオーバ ーに 対 し,(現)経営者 チ ームは2つの戦術 を採用 した とい う (Roe,1994,訳199ペー ジ)。 1つは経 済 的 な戦術 であ り,上にみた poison pillsに 代表 され る手段 で あ る。 もう1つは政治 的 な もので あ り,州の立法府 に反 テイクオーバ ー法 の制定 を働 きか けるとい うものであ った。 その結果,「乗 っ 取 り抑制 的 な州法 の爆発 的拡大 が続 いた」(同,200ペー ジ)とい う。Bhagat=Jefferis(2002, p.8)によれ ば,1982年以前 に反 テイクオ ーバ ー法 を制定 して いた州 は殆 どなか ったが,1982年

か ら1990年にか けて35の州 で70以上 の反 テイクオ ーバ ー法が制定 された。 またこの よ うな反 テイ クオ ーバ ー法 のい くつか にはstakeholder provision(株主以外 の従業員 や取 引先企業 な どの 利害 関係者 を保護 す る条項),contrOl share provision(20%を越 え る大株主 の議決権 を一定 の条 件 の下 で制 限す る条項),labor cOntract provision(テ イ クオーバ ー前 の雇用契約 を維持 す る条 )などが設 け られていた。 これ らの条項 はいずれ もテイ クオーバ ーの コス トを結果的 には高 める 効果 を有 してお りジェ ンセ ンによ って実証的 に も株主 に とって有害である疑 いが強 い とされ,そ

れ故 こうしたテイクオーバ ー防止策 は会社支配権市場 の機能 を著 しく損 な うもの として批判 されて い る

(」

ensen,1988,p.22お よびp.45)°の。なおここまでみてきたような現経営者チームが会社支 配権市場か らの影響 を遮断す るためテイクオーバー防止行動 を取 るという考 え方 は,「 経営者聖壕仮  (managerial entrenchtrnent hypothesis)と呼 ばれて い る (Bhagat=」efferis,2002,p.5)(21).

Ⅳ。結 びに代えて :アメ リカの コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスの変化

ここまでテイクオーバーの役割を主 に原理的 レベルか ら検討 してきた。 この節では,テイクオーバー がアメ リカのコーポ レー ト・ ガバナ ンスにおいて具体 的に果 た している役割 に触れ,結びに代えよう。

Iで触 れ たよ うに,アメ リカの コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスのあ り方 ない し性格 は1980年代 を境 に大 き く変化 した といわれ る。 こうした認識 は比較的最近 の ものであると思 われ るが,その大 きな

背景 と して,1980年代 の失業 とイ ンフ レに象徴 され るマ クロ経済 の苦境 とそれを乗 り越 え1990年 代以 降開花 したアメ リカ経済 の力強 い成長力,それを支え るアメ リカ企業 の競争力 の強化や企業業 績 の著 しい向上 などをあげることがで きよ う。以下 で は,このよ うなアメ リカ経済 の「変身」を コー

(20)ィ

ギ リスを除 くと ドイツやフランスといったEUの中核 をなす国ではこれまで (敵対的)テイクオーバー

は殆 どみ られなか った。 しか し,テイクオーバーを巡 ってEUにおいて も最近変化がみ られ始めたようであ る。2001年 6月 7日 付 け日本経済新聞によると,EUでは企業買収に関する統一ルールである「企業買収案」

に合意が成立 し,2005年半 ばよ り施行 されることにな った。その主要内容 は,(敵対的)テイクオーバーに 対 し安易な対抗措置を取 ることを防 ぐため,対抗措置を とるためには株主の承認 を義務付 けるとい うもので ある。

(21)な,長期的投資戦略 という観点か らテイクオーバー防止策が必ず しも株主利益 を損 なわないとす る見方

もある。 これは「株主利益仮説 (shareholder interests hypothesis)と 呼ばれ る (Bhagat=」efferis,2002,

p.5).長期的観点か らのテイクオーバーについては次節で触れ られ る。

‑234‑―

(11)

テイクオーバーとコーポレー ト・ ガバナンス

ポ レー ト・ ガバ ナ ンスの変化 と関係づ けて検討 してみよ う。

まず,アメ リカの コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスが大 き く変 わ った とす る代表的な論者 によ りなが ら,

1980年代以前 の コーポ レー ト・ ガバナ ンスのあ り方 について簡単 にみてお こう。 ホルムス トロム

=

カプ ランは,コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスを会社及 び会社の経営者が統治 され るメカニズムと捉えた 上 で,80年代以前 は経営者 を監視 し規律 づ ける統治 メカニズムが機能不全 で あ ったためコーポ

レー ト・ ガバナ ンスは80年代以 降 と比べ ると不活発 な状態が続 き,それが「 会社 には忠実 だが株主 には忠実 ではない」経営者 を生 み出 したとしている (HolmstrOm=Kaplan,2001,pp.121‑123)υ υ.

またジェンセ ンも経営者 に対す るモニタ リングの低下が非効率性,すなわち企業の生み出 したキ ャッ シュ・ フロー (内部 資金)を有効 に利用 で きない状態 を もた らし,それが1960年代後半 に ピーク に達 したとみ る。そ してこの時期の結果的に大 きなブト効率性 を もた らす ことになるコングロマ リッ ト合併 ブームは,ま さ しくこの過剰 なキ ャッシュ・ フローを源泉 に実行 され た ものだ と して い る

(」

ensen,2000,p.66)。

それで はこう した コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスの状態 は1980年代以 降 どの よ うに して大 き く転 換 され るよ うにな ったので あろ うか。彼 らによれば,その原動力 は1970年代半 ば に始 ま り1980年 代 に急増 したテイ クオ ーバ ーで あ り,それ を資金的 に支 えたLBO(leveraged buyout)と い う新

たな金融手法 の開発であ った。

ジェ ンセ ンによれば,1980年代 にテイ クオ ーバ ーが増大 したの は,所有 と経 営 の分離 に由来す るエー ジェ ンシー・ コス ト(agency cost)が制御不能 にな るほど内部的 コ ン トロール・ メカニズ ムが失敗 しい),  この ことが テイクオーバ ー とい う行動 を促す重要 な契機 にな った とい う (Jensen, 2000,pp.3‑5)。

 

ジェ ンセ ンの フ リー・ キ ャッシュ・ フロー (free cash flow)説によれば,キャッ

シュ・ フローの非効率的使用 (例えば,低収益 の投資 プ ロジェク トの実行 や赤字部 門への内部補助 な ど)は外部者 に とって は大 きな利潤 を獲得 出来 る機会 の存在 を意味 ししたが ってそれを現実 の 行動 に移す主体が登場す る。その主体の行動がテイクオーバーに他 な らない。つま り,フ リー・ キ ャッ シュ・ フロー説 の下 で はテイクオーバ ーは市場 による健全 な効率性回復 の行動 として肯定的に評価 され る ことになる②.

またこ う した活発 なテイ クオ ーバ ーを資金 的 に支 えた ものがLBOであ り

,LBOは

企 業規模 が テイクオーバ ーの抑止力 にな り得 ない こと,すなわ ち企業規模 に関わ りな くテイ クオーバ ーが可 (22)第2節

(3)で

みたように,ローも同様の事態を「strOng managers,weak Owners」 しているが,その原因

,以下でみるような説明とは異なりす ぐれて政治的な産物 としている (Roe,1994).

(23)ここにいう内部的 コントロール0メカニズムの失敗 とは,具体的には,本来株主 の利害 を代表す るはずの 取締役会が経営者 の側について しまい本来の役割を果たせなか ったことなどをいう。

(24)こ ぅ した効率性 回復 メカニズム と して の テイ クオ ーバ ーの位 置づ けに対 して は Shleifer=Summers (1988)の 批判がある。

(25)この ことは,1989年の コールバーグ・ クラビス・ ロバーッ社 (KKR)によるR」Rナ ビスコの買収 に象徴 され るように,Fortune 500社がテイクオーバーの対象になることを意味する。

‑235‑―

(12)

能 で あ ることを明確 に示 す もので あ ったD。 これ は,第 2節でみた会社支配権市場 か らの経営者 に 対 す る規律 づ けの メカニ ズ ムが機 能 す る こ とを意 味 す る。 実 際

,LBOに

よ るテイ クオ ーバ ー は 1980年代 に ブー ムを迎 え るが,それ は単 に既存 の経営者 チームにテイ クオーバ ーの脅威 に基 づ く 裁量 的行動 の批判 とい った「 消極的 な」効果 だ けで はな く,実際 にテイ クオーバ ーされ た企業 の リ ス トラクチ ャ リング,特に非効率的部門 の売却

(bust―

ups)や分社化 (spinoffs)に よ る経営 資源 の集 中によ って大 きな生産性 の改善 を もた らした.1980年代 にLBOによ るにテイクオーバ ーが 頻発 した時,当時の反応 は「20世紀 の錬金術」 あるいは「 ウォール街のグ リー ドな投資家のマネー・

ゲーム」 などと酷評 されたが,現在 で は,コーポ レー ト0ガバ ナ ンスの大 きな変化を通 じてアメ リ カの会社部 門の効率性改善 に寄与 した とす る評価が受 け入れ られつつあ る。

1990年代 にはい ると,第3節で見 た反 テイクオーバ ー法 の普及やLBOの具体 的手段 とな って い た ジャンク債市場 の崩壊② によ リテイ クオーバ ー・ ブームが終焉す る°D。 1990年代 の規律付 けは テイ クオーバ ーか ら機関投資家 に代表 され る「 関係的投資家 (relational investor)に よるモニ タ リングに移 って い く。 それ は,関係 的投資家 の株式所有 の比率 の高 ま りとテイクオーバ ーに代 わ る 企業 の効率性 を高 め るメカニズムの必要性 との産物 といえよ うが,ホル ムス トロム=カプ ランによ

れば,経営者への高額 のス トック・ オプ ションの付与 もまた株主 の視点 に立 った行動 を促 し,株主重 視的政策 (shareholder―friendly policy)に つながったという(HolmstrOm=Kaplan,2001,p。 136).

本稿執筆 の時点 (2002年 10月)で,2001年か ら2002年にか けて起 こったエ ンロ ンや ワール ドコムに代表 され る不正会計事件 を契機 に,アメ リカの コーポ レー ト・ ガバ ナ ンスの評価 を巡 って さまざまな議論 が な されてい る。 また,2003年 4月か ら施行 され るわが国の商法 の大改正 はアメ リカ型 コーポ レー ト・ ガバナ ンスの方 向 に踏み出す内容 を持 って いるといわれ る。最後 にこの点 につ いて に一言述べて本稿 を閉 じることにす る。

本稿 との関連 で いえばこの問題 は資本市場 か らの規律づ けや ス トック・ オプ ションを通 じた経 営者 へ の イ ンセ ンテ ィブを どの よ うに評価 す るか とい うことに関 わ る大 きな問題 で あ る。1980年 代 のLBOによるテイクオーバ ーに対す る当初 の評価 と最近 の評価が180度異 な るよ うに,1990年

代以降 の アメ リカの ガバ ナ ンス・ メカニズムにつ いて もさまざまな評価 が あ り得 る。上 にみ たホル (26)例えば,2002年米国経済白書

(エ

コノ ミス ト臨時増刊 2002年 6月 3日 号)において も,「事実 は,1980年 代のLBOが ,企業 の生産性の大 きな改善 を もた らしたことを示唆 している」 (104ペ ージ)と述べ られてい .な,LBOによるテイクオーバーが経営者の近視眼的行動を誘発 し,長期的視野 に基づ く投資

(例

えば,

R&D投

資など)に抑制的に働 くとす る主張 も存在す る。例えば,Marris(1998),Porter(1992)などを 参照。

(27)これは,1990年のジャンク債市場を開発 したドレクセル・ バーナム・ ランベールの破産と「 ジャンク債の帝王」と呼 ばれたマイケル・ ミルケ ンの証券取引法違反による 10年 の禁固刑 という2つ の事件に象徴的に示されている。

(28)ただ し,(敵対的)テイクオーバーは急減す るが,合併特 に大型合併が続出 し,1990年代特 に後半 は前例 のない合併 ブームが再来する。例えば,合併の金額でみて歴代の上位 10件 はすべて1998‑2000年 にかけて行 われた ものであ り,その うちの 5つ は通信分野の ものである (Weston=weaver,2001,p.3)。 また,合 の資金 もジャンク債に代わ り株式交換が中心 となっている(op.cit.,p.106).

‑236‑

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