タイの会 社 法 とコーポ レー トガバナ ンス ー民商法典および公開会社法を中心 として
丹 野 勲
は じめに
タイの会社 に関す る基本法は、民商法典
( 1 928
年) と公開会社法( 1 992
年公 開会社法)である。 民商法典では、第22編 「パー トナー シ ップ と会社法」 (第1 01 2
条か ら第1273
条)が会社 に関連す る法規部分 となっている。民商法典は、現在まで何回か一部改正 された。公開会社法 (以降は1
992
年公開会社法 とす る) が1992
年 に制定 され、2001
年 に一部改正 された。タイは、1
997
年 に経済危機 (アジア通貨 ・経済危機)に直面 し、政府 か ら緊 急融資を受 けたが、その支援の条件 として各種の制度改革 を要求 された。その 中には、企業統治改革の促進があ り、2001
年の公開会社法の改定のい くつかは、IMF,世界銀行 の要求を反映 した ものである。
本稿 では、タイの会社法に関す る基本法である民商法典お よび1
992
年公開会 社法(1)について、株式会社お よび公開株式会社 を中心 として コーポ レー トガバ ナ ンスの議論 も含 めて考察す る。なお、本論文は、神奈川大学国際経営研究所 「アジアの コーポ レー トガバナ ンス と文化」、お よび文部科学省科学研 究費補助金基盤研 究
C
「アジア ・太平 洋のフロンテ ィア地域の国際経営」 (課題番号1853030 9)の研究成果で もある。
第
1
節 タイの企業形態 1.私企業の企業形態2 4 9
国際経営フォーラムNo.20
タイの民商法典 によると、私企業の企業形態は以下である。
第
1
は、社員(株主)は全て無限責任である、普通パー トナーシ ップ( Or di na r y Pa r t ne r s hi p
、 中国語 :無限公 司) である。 これ は、合名会社 、組合契約 に よる 企業に近い企業形態である。第 2は、無限責任社員 と有限責任社員で構成 され る、有限パー トナー シ ップ (
Li mi t ed Pa r t ne r s hi p
、 中国語 :両合公 司) である。 これ は、合資会社 に近い形 態である。第
3
は、株 主は全 て有限責任 、株式 の公 開発行 はできない非公 開株式会社( l J i mi t ed Compa ny
、中国語:有限公 司)である。 これは、 日本では、有限会社、または株式 を上場 していない閉鎖会社 としての株式会社 に近い形態である。
第 4は、株 主は全て有限責任であ り、かつ株式 を公募す ることができる公開 株式会社
( publ i c Li mi t ed Compa ny)
である。 これ は、 日本 では、株式 を公募 できる株式会社、または株式 を上場 している公開会社 としての株式会社 に近い 形態である。以上の中で、第
1
の普通パー トナーシ ップ、第2
の有限パー トナー シップ、第
3
の非公開株式会社 といった企業形態は、タイ民商法典第101 2
条か ら第1 273
条までに規定 されている。第4の公開株式会社 は、1992
年5月に公 開株式会社 法 として独 立の法律(1 992
年公 開会社法)によって規定 され てい る。 なお、公 開 会社法は、2001年 に一部改正 された。タイにおいて、 これ らの企業形態の中で最 も数の多いのが、第
3
の非公開株 式会社である。 タイ資本の民間企業のみな らず、 日系企業 も含むほ とん どの外 資系企業は非公 開株式会社である。 タイの有限公司 とい う名称の非公開株式会 社 は、小規模 な会社か ら、かな り大規模 なタイ資本の会社や外資系企業までが 含 まれているとい う特徴がある。株式お よび社債の公募 を行 うためには、1
992
年 に施行 された公開会社法によ り、発行会社の形態 を公開会社 にす ることが義務づ け られた。 同時に全上場企 業は、1993
年5
月までに、公開会社 に会社形態 を変更す ることが義務づ け られ た。公 開会社 は670
社程度存在 してい る(2)。2.普通パー トナー シップ (無限公司)
パー トナー シ ップは、二人以上の者 が共同 して事業 を行 い、その事業か ら得 られ る利益 を分配す る契約 である (民商法典第1
01 2
条、以下民商法典 を省略 し 条文番号のみ明記す る)。 普通パー トナー シ ップは、全社員 (出資者) がパー トナー シ ップの債務 について、連帯 して無 限責任 を負 う (第1025
条)、法人形 態である (第101 5
条)。全社員 は普通パー トナー シ ップに出資す る必要があ り、出資は金銭 、資産、
または役務 に よる (第1
026
条)。社員 は、原則 として、出資額 にかかわ らず1 名 1票 の議決権 を有す る (第1034
条)。 社員全員 の同意 がなけれ ば、原則 とし て他 人 を社員 にで きない (第1040
条)。 各社員 の利 益 または損 失 に対す る権利 義務 はその出資額 に比例す る (第1044
条)。タイ民商法典では、普通パー トナー シ ップ企業の組織 ・機 関についての規定 はない。
タイの普通パー トナー シ ップ (無限公 司) は、英 、米ではパー トナー シ ップ 法 によ り規定 され てい る企業 に近い。普通パー トナー シ ップ企業は、無限責任 を負 う複数 の者 が出資 し、法人格 を有す る。普通パー トナー シ ップは、組 合契 約 によって設立 された企業、ない し合名会社 に近い企業形態である。
3.有 限パー トナー シップ (両合公司)
有限パー トナー シ ップは、
1
人または複数 の有限責任 の社員、お よび1
人 ま たは複数 の無限責任 の社員 か らな る (第1077
条)。 会社経営 は、無 限責任社員 に よ り執行 され る (第1087
条)。 有限責任社員 は、他 の社員 の同意 がな くて も 持分 を譲渡す ることがで きる (第1092
条)。タイ民商法典 では、有限パー トナー シ ップ企業の組織 ・機 関について規定は ない。
タイの有 限パー トナー シ ップ (画合公 司) は、無限責任 を負 う出資者 と有限 責任 を負 う出資者 か らな り、法人格 を有す る。有限パー トナー シ ップは、合資 会社 に近い企業形態である。
2 51
国際経営フォーラムNo.20
第
2
節 株式会社 (非公 開会社)1.株式会社の性格 と設立
株式会社 は、株式 に よる資本 によ り設立 され、全ての株 主は有限責任 を負 う 会社 であ る (第
1 0 9 6
条)。株 式会社 の設 立は、7
人以上が発起人 とな り、会社 定款 が必要であ る (第1 0 97
条)。 会社定款 には、会社 の商号、会社 の場所 、会 社 の 目的、登記予定の資本額 と株式 の額面価額 、各発起人の氏名や 引受 け株式 数 、な どを記載す る (第1 0 9 8
条)。 各発起人 は一株 以上引 き受 けなけれ ばな ら ない (第1 1 0 0
条)0会社 の設立の際、登録資本金 の
2 5%
以上払い込 まなけれ ばな らない。資本金 の未払い分 については、株 主総会 に特 に定めがない とき、取締役 は株 主に対 し て未払込の株式 に、いつで も催告 をす ることがで きる (第1 1 2 0
条)。
日本 とタイ を比較 してみ よ う。 日本 では会社 が将来発行 できる株式 を定款 で 記載 し、取締役会の決議 で授権株式の範 囲内で株式 を発行 できるとい う授権株 式制度 を取 ってい る。設立時に授権株式数 の
2 5%
以上 を発行 しなけれ ばな らず (日本会社法第3 7
条)、定款 の変更によ り既存の授権株式数 を増加す る場合 にも、発行株 式総数 (二日の
4
倍 まで しか増加 できない (ただ し、非公 開会社 は、 この よ うな制約 はない。 日本会社法第1 1 3
条)。タイの非公 開株式会社 では、登録資本金 に相 当す る株式 を会社 の設立の際全 株発行す るが、各株式 は
2 5%
以上払 い込 めば登記で きる。 その後 は、取締役 の 請求 によ り未払い分 を払 い込む とい う、いわば株式の分割払い とい う制度 であ る。 タイでは、授権株式制度 はない。株式会社 (非公開会社)の法定機 関 としては、株 主総会、取締役 ・取締役会、
会計監査人がある。
2.株式
株式会社 (非公開会社)は、株式 を一般公募す ることはできない (第
1 1 0 2
条)。 株 式 はすべて額 面株 で無額 面株 はない。 1株 の額面価格 は5バー ツ以上である
(第
1 1 1 7
条)。 タイでは、 1株 の額 面価格 は1 0 0
バー ツ、1 0 0 0
バー ツが一般 的で ある。株式 は分割 で きない (第1 1 1 8
条)0
株式は、記名式株式 (第11
29
条) と無記名式株式があ り、無記名株式は全額 払込済の株式 に対 してのみ発行す ることがで きる (第1134
条)。 株式 は額面 よ り低い価格 で発行す ることはで きない (第1105
条)。株式には、普通株式 と優 先株 式 が あ る (第1111
条)。 株 式会社 は 自社株 を所 有す る こ とは で きない(第11
43
条)。タイの株式会社での株式は、全て額面株 であること、株式分割できない こと、
記名株式 と無記名株式があること、 自社株 を所有す ることができない こと、な どの特徴がある。
3.株主総会
株主総会は、
1
年に少な くとも1
回開催 され る定例総会、お よび臨時総会が ある (第1171
条)。取締役 が必要 と認 めた場合 (第117 2
条)、会社 の総株式の5
分の 1以上 を所有す る株主が求めた場合 (第1173
条)な どで、臨時総会 を招集 す る。全株式の20%以上の株 主が要求 した場合、臨時株主総会 を開催す ることが必 要 とい う条項は、少数株主の権利 の保護を規定 した ものであろ う。 なお、 日本 の会社法では、総株主の議決権の
3%
以上 を有 している株 主は、取締役会に株 主総会の招集 を請求できる (日本会社法297条) としてい る。全株主は、株主総会 に出席す る権利 を有す る (第11
7 6
条)。株 主総会の定足 数 は、全株主の25%以上である (第11 7 8
条)。株 主は、1株1議決権 を有す る(第11
82
条)0株 主総会では、普通決議 の場合、過半数以上で決定す るが、同数 となった場 合、総会の議長 の追加 の 1票 で決す る (第11
93
条)。株 主総会での普通決議 としては、取締役の選任 ・報酬 ・員数 (第11
5 0
条、第1151
条)、配 当 (第1201
条)、会計監査人の選任 (第1
209
条)、会計報告書の承認 (第1 21 4
条) な どがある。 タイの株式会社での株主総会の普通決議は、定足数が25%以上で、 日本の会社 法 と同 じく50%以上の賛成が必要である。
株 主総会の特別決議 の場合 は
4
分の3
以上で決 定す る (第11 94
条)。 なお、特別決議 を要す る事項 は、 定款 の改正 (第
11 45
条)、新株 発行 に よる増 資 (第1220
条)、減資 (第1224
条)、会社の解散 (第123 6
条)、合併 (第1238
条)な2 53
国際経 営フォーラムNo.20
どの場合である。特別決議 の場合 は、75%以上の賛成 が必要である。
4.取締役、取締役会
取締役 は株 主総会 に よって選任 され る (第
11 51
条)。 取締役 の員数お よび報 酬 は、株 主総会 に よ り決定す る (第115 0
条)。各年の最初 の株 主総会で取締役 の
3
分の1
を改選 しなけれ ばな らないが (第11 52
条)、取締役 の再選 は認 め られ てい る (第1153
条)。取締役 は取締役会 の議長 を選任 し、その任期 を定めることがで きる (第11
63
条)。 取締役会の議決 は過 半数 の賛成 に よるが、同数 の場合 は議長 の追加 の一 票 に よ り決 定す る (第1161
条)。 取締役 はいつで も取締役会 を招集す るこ とが できる (第1162
条)。取締役 は、支配人、または取締役 か らなる小委員会 に対 して、その権限 を委 任す るこ とがで きる (第
11 64
条)。 委任 に よ り特 に定 めてい る場合 を除 き、小 委員会の決議 は、委員の過 半数 の賛成 に よるもの とし、同数 の場合は小委員会 議長 の一票 によ り決 定す る (第1165
条)。 この小委員会は、実際に経営 を行 う、いわば経営執行委員会 として機 関であろ う。
タイでは、経営執行委員会 を法律 によ り設置 を強制す るのではな く、任意 に 設置す ることを認 める形 となってい る。以上か ら、 コーポ レー トガバナ ンスの 視点で見 る と、ア ングロサ ク ソン諸 国で一般的な取締役会 と経営執行委員会の 分離 を制度 として法制化 していない とい う特徴 がある。
5.会計監査人
会社の会計監査のために会計監査人 をおかなけれ ばな らない。会計監査人は、
株 主であって もいいが、会社 の取引に利害関係 を有す る者 、取締役 、従業員 な どは会計監査人 に選任す るこ とはで きない (第
1 2 08
条)。 会計監査人 は定例株 主総会において毎年選任 され、退任す る会計監査人の再選は妨げない (第1209
条)。会計監査人 の報酬額 は株 主総会 において決 定す る (第1
21 0
条)。会計監査人 に空席 が生 じた場合、取締役 は会計監査人 を選任す るため、直 ちに臨時総会 を 招集 しなけれ ばな らない (第121
1条)。会計監査人は、すべての会社の記録、会計帳簿をいつで も閲覧す るもの とし、
取締役、従業員 な どに会社会計 に関 して審問す ることがで きる (第1
21 3
条)0 会計監査人は、貸借対照表お よび会計帳簿について定例株主総会において報告、意見を述べなければな らない (第1
21 4
条)。2000
年会計法等 によ り、会計監査人は、公認会計士によらな くてはな らない と規定 された(4)。 このため、会計監査人は、公認会計士による外部監査 とい う 制度である。 この点では、専門家の会計監査人による監査の法制化 は、 コーポレー トガバナ ンスが強化 された ことになるであろ う。
第
3
節 公 開株式会社タイでは、株式 を公開 している株式会社 については、公開株式会社法 によ り 規定 されている。公開株式会社法は、 1
992
年5月に独 立の法律 として公布 され、2001
年 に一部改正 された。本稿では、 1992
年公開会社法の規定に基づいて、公 開株式会社 について論ず る。1.公開株式会社の性格 と設立
公開株式会社 は、株式による資本 によ り設立 され、全ての株主は有限責任 を 負 う、株式 を公開 している会社 である (公開会社法第1
5
条)0公開株式会社 は、 1
5
人以上の 自然人が発起人 とな り基本定款 を作成 し、その 他本法に従 って会社 を設立す る (第1 6
条)。発起人は、成年者 、半数以上が国 内居住者 、引き受 ける株式の5 %
以上は金銭 で払込む こと、な どの規定がある (第17
条)。基本定款 には、商号、株式の公開、会社の 目的、登録資本金、株式 の種類 ・数量 ・券面額、本店所在地、発起人、な どを明記 して、会社登記 しな けれ ばな らない (第18
条)02.株式
公開会社 の株式は全て同一金額 の額面株 とす る (第50条)。株式 は分割す る ことができない (第53条)。各株式は、全額払い込まなけれ ばな らない (第54 条)。会社 は株式の譲渡 に制限を設 けてはな らない。発起人は、株 主総会の承
255
国際経営フォーラムNo.20
認 を受 けた場合 を除いて、会社設立のための株式 を会社 の登記 日か ら満 2年 が 経過す る前に譲渡す ることはできない (第57条)0
株式には普通株式 と優先株式があ り、定款 に規定を設 けてい る場合 を除いて 優先株式の普通株式‑の転換 はできない (第65条)0
公開会社 は、原則 として 自社株 を所有す ることはできない。 ただ し、株主総 会で議決 に同意 しない株主か らの株式の買取 り、お よび会社 に繰越利益、剰余 金があ り自己株 の買取が財務管理上問題 な く財務 のため 自己株 を買取 る場合 に 自社株 を所有す ることはできる。ただ し、 自己株式は株 主総会の定足数 には加 え られず、議決権お よび配 当を受 ける権利 がない。 また、買取 った 自己株 は省 令で定める期限内に売却 しなければな らず、 もし期限内に売却できない とき、
売却できない部分は償却す ることによ り減資 しなければな らない (第66条)。 公開会社 は、新株 を新たに発行す ることによ り増資す ることができる。ただ し、増資は、株主総会の特別決議 として
4
分の3
以上の賛成、お よび全株式が 払込み、または株式の未払込分が転換社債 、株式引受証書 として発行 され るこ とが必要である (第136
条)。増資には、株主割 当 と公募 による新株発行がある (第1 37
条)0タイの会社法では、公開会社が増資を行 う場合、取締役会だけの決定では行 うことができず、株式総会での75%以上の賛成 によ り行 うことができる。
公開会社の減資はできるが、原則 として資本金 の
4
分の1
以下に減資す るこ とはできない。減資は、株主総会の特別決議 として4
分の3
以上の賛成が必要 である (第13 9
条)0公 開会社は、社債 を発行す ることができるが、証券お よび証券取引所 に関す る法律 に従い行 なわなければな らない。社債発行 は、株主総会の特別決議 とし て
4
分の3
以上の賛成が必要である( 1 45
条)。会社 は、貸借対照表 を一般大衆 に周知 させ るため、株主総会での承認 日か ら 1ケ月以内に、少な くとも1日間新聞に公告 しなければな らない (第1
27
条)03.
株主総会公 開会社は、会計年度の終了 日か ら4ケ月以内に年次通常株主総会 を開催 し なけれ ばな らない (第98条)。取締役会 は、必要 と認 めた とき、臨時株主総会
を招集す ることができる (第99条)。発行済み株式数 の20%以上を保有す る株 主、または発行済み株式数の1
0%以上の合計株式 を保有す る25
人以上の株主は、いつで も取締役会 に臨時総会の招集 を請求す ることができる (第1
00
条)。 この 規定は、少数株主の権利 を保護 した ものであろ う。株主は株主総会 に出席 し議決す る権利 を有す る。株主は、優先株式の株主を 除いて、
1
株1
議決権 を有す る (第102
条)0株主総会の定足数 は、全株 主数の半数以上の株主、代理人 (もしあれば)が 出席 し、かつ、発行済み株式数の
3
分の1
以上の合計株式数 を代表す る株主、代理人が出席 した場合である。定足数 に達 しない ときは、株主か らの要求によ り臨時株主総会 を開催 した場合 を除いて、再度招集す る株主総会ではこの定足 数 を満たす必要はない (第1
03
条)。取締役会会長は株 主総会の議長 となる (第1 04
条)。株主総会では、普通決議の場合、過半数以上で決定す るが、同数 となっ た場合、総会の議長の追加 の1票で決す る (第107
条)。株 主総会での普通決議 としては、取締役 の選任 (第71条)、会計報告書の承 認 (第11
2
条)、配 当 (第115
条)、会計監査人の選任 (第120
条)な どがある。株主総会の特別決議の場合は
4
分の3
以上で決定す る (第107
条)。 なお、特 別決議 を要す る事項は、会社 の売却や譲渡、合併 ・買収 (第107
条・第1 46
条)、定款の改正 (第31条)、新株発行 による増資 (第1
3 6
条)、減資 (第13 9
条)、会 社 の解散 (第15 4
条)、非公 開会社 か ら公 開会社‑の変更 (第1 80
条) な どの場 合である。以上の よ うに、株主総会での普通決議では50%以上の賛成が、特別決議では
75%以上の賛成が必要である。
4.取締役、取締役会
取締役 は株主総会 によって選任 され る (第70条)。各年の最初の株 主総会で、
取締役全員 を選任す る。ただ し、定款 において取締役 の選任方法 を別 に規定 し ている場合 には、取締役の
3
分の1
が退任す ることとす る。取締役の再選は認 め られ る (第71条)0株主総会による取締役の選任 については、累積投票制度 を採用 している (第
70
条)。 累積投票制度 とは、株 主に選任 され る取締役 の数だけ投票権 を与 え、2 5 7
国際経 営フォーラムNo.20
少数株 主であって も累積 的に投票す ることによって、少数株 主の代表 となる取 締役 を選任 しやす くす る制度 である。
公 開会社 は、5人以上の取締役 か らな る取締役会 を置 かなけれ ばな らない。
また、取締役 は、半数以上が国内に居住す る者 でなけれ ばな らない。 (第67条) 取締役 は 自然人で、かつ成年者 、破産者 でない こと、犯罪者 でない こと、な ど が要求 され る (第68条)。株 主は取締役 にな ることがで きる (第69条)。
取締役会 は、会社 の 目的、定款お よび株 主総会の決議 に従い会社 を経営す る 権限 と義務 を有す る。取締役会は、一人または複数 の取締役 もしくは他 の者 に、
取締役会 に代 わって会社 を運営す ることを委任す ることがで きる。 ただ し、定 款 が取締役会 に上記 の権 限 を与 えない 旨明記 してあ る場合 を除 く。 (第77条) この小委員会 は、実際に経営 を行 う、ア メ リカな どの企業で一般的な経営執行 委員会 として機 関であろ う。 タイの上場会社 では、実際に取締役会 の下に、経 営執行委員会 を置 いてい る企業 も多 く見 られ る(5)。
取締役会 は取締役会長 、取締役 副会長 を選任す る (第
7 8
条)。 取締役 会長 が 取締役会 を招集す る (第81条)。 取締役会 は少 な くとも3ケ月 に一回開催 しな けれ ばな らない (第79条)。取締役会は、取締役数 の半数以上の出席 が必要で、取締役会長 が議長 とな る。取締役会の決議 は、取締役 は一人で 1票 の多数決 に よる。 ただ し、取締役 は利害 関係 を有す る件 では議決権 を有 しない。投票が同 数 の場合 は、会議 の議長 が追加 の一票 を投 じて決 定す る。 (第80条)2人以上 の取締役 が取締役会の開催 を請求 した ときは、取締役会 を招集 しなけれ ばな ら ない (第81条)。
取締役 の任期前の解任 は、株 主総会 で2分の1以上の株 主が出席 し、
4
分の3
以上の賛成 が必要である (第76条)0取締役会は、会計監査人が監査済みの貸借対照表お よび損益計算書、会 計監 査人の監査報告書、取締役会年次報告 を株 主総会招集前 に株 主に送付 しなけれ ばな らない (113条)。 なお、取締役会年次報告 には、会社の商号、本社所在地、
業種、発行済み全株 式数 と種類 、取締役 の氏名 と報酬額 、会社が保有す る子会 社 の株 式数 と種類 、会社が発行済み全株 式数 の
1 0%以上 を保有 してい る他 の会
社 または非公 開会社の商号 ・本店所在地 ・業種 ・発行済み全株 式数 と種類 ・会 社保有の株式数 と種類 、な どの報告 を記載 しなけれ ばな らない (第114条)。配 当は、利益以外 か ら配分できず、累積損失 がある場合配 当できない。配 当 は、定款 で優先株式の規定がある場合 を除 き、株式数 によ り株 主に平等 に分配 しなけれ ばな らない。配 当は普通決議 として株 主総会で承認 を得 なけれ ばな ら ない。 なお、定款 の規定がある場合 、中間配 当を行 う十分な利益がある と判断 す る とき、取締役会は臨時に株 主に配 当す ることができる。 臨時配 当分配後、
次回の株 主総会 において報告 しなけれ ばな らない。配 当は、文書 によ り株 主に 通知 し、かつ新聞に配 当分配 についての公告 を行 わなけれ ばな らない。 (第11
5
条)会社 の登録資本金 に未払い がある場合 、あるいは会社 が増資の登記 を行 っ た場合 、会社 は株 主総会の承認 を得 て、株 主に対 し新普通株 式 を発行す ること によ り、配 当の全部 または一部 を支払 うことがで きる (第117
条)。5.会計監査人
会社 の会計監査 のために会計監査人 をお き、貸借対照表お よび損益計算書 を 株主総会に提 出す る前 に会計監査人の監査 を受 けなけれ ばな らない (第11
2
条)。 会計帳簿は監査 を受 けるため保 管 しなけれ ばな らない (第109
条)。 会計年度 による1年 に少 な くとも一度 、貸借対照表お よび損益計算書 を作成 しなけれ ばな らない (第11
0
条)。登録資本金 に未払いがある場合、登録資本金お よび株式数、払込済み株式数お よび払込額 を貸借対照表、財務状態 を示す他 の書類 に明記 し なけれ ばな らない (第111条)
。
会計監査人 は、取締役 、従業員 な どは会計監査人 に選任す ることはで きない (第1
21
条)。 会計監査人 は定例株 主総会 にお いて毎年選任 され 、退任す る会計 監査人の再選 は妨 げない (第120
条)。 会計監査人の報酬額 は株主総会 において 決定す る (第120
条)。会計監査人は、会計帳簿、その他 の書類 を閲覧で きるもの とし、取締役 、従 業員 な どに会社会計 に関 して質 問、報告 、証拠 の提 出を要求 がで きる (第
1 22
条)。会計監査人 は、会計報告書 を作成 し定例株 主総会 に提 出 しなけれ ばな ら ない (第123
条)0なお、国の企業監査 として検査役 の規定がある。全発行済み株式数 の
5
分の1
以上 を合計 して保有す る株 主、または株 主総数 の3
分の1
以上の株 主は、共 に署名 し文書にて登記官 に対 し、会社 の業務及び財政状態 の検査 、お よび取締25 9
国際経営フォーラムNo.20
役会 の業務執行 の調査 を行 うため、検査役 の選任 を申請す る ことがで きる (第
1 28
条)。 登記官 は、会社 を検査す るため、一人 または複数 の担 当官 を検査役 と して選任す るこ とがで きる (第129
条)。おわ りに
タイ の民商法典お よび公 開会社法 では、法人性 と有限責任性 を備 えた企業 の 中で、株 式会社 (非公 開会社) と公 開会社 を区別 してい る。公 開会社 では、公 開会社法 に よ り会社機 関、企業情報 開示 、少数株 主保護 な どで規制 を強化 して い る。
タイ は、1
997
年 に経 済危機 に直面L IM Fか ら融 資 を受 けたが、その際各種
の制度 改革 を要求 され た。2001年 の公 開会社法の改定、SEC
(証券取 引委員 会) に よる規制強化 は、IM F,世界銀行 の要求 を反映 した ものであ る。 また、
企業統治改革 に積極 的 に取 り組 んでい る
OECD
は、2003年 に 「ア ジアの企業 統治 白書」(6)を公表 し、 タイの企業統治改革 に も影響 を与 えた。コー ポ レー トガバナ ンスの視点で、タイの企業 関連法 、特 に公 開会社 法の特 徴 について考察 してみてみ よ う。
第1は、 タイの公 開会社法 に基づ く法定機 関は、株 主総会 、取締役 ・取締役 会 、監査役 で あ る。公 開会社 法では、ア ング ロサ ク ソン諸 国企業で一般 的な経 営執行委員 会の設置義務 はない。 ただ し、実際 には、 タイの上場会社 で経 営執 行委員会 を置 いてい る企業 も見 られ る。
第 2は、 タイ の公 開会社法 では、外部取締役 と しての独 立取締役 の設置義務 はない。 しか し、タイ は2
008
年10
月 にSEC
(証券取引委員会)の規定によ り、公 開会社 は全 て専門取締役 としての独 立取締役 の設置 を義務づ けた(7)。 タイで は、独 立取締役 の設置義務 を、会社 法ではな く
SEC
の規制 とい う形 で行 って い る。 コー ポ レー トガバナ ンスの視 点 で見 る と、 タイの公 開会社 での独 立取締 役 の設置義務 は、取締役会 の経営監督機能 の強化 を制度化 した ものであろ う。第
3
は、 タイの公 開会社法 では、会計監査人の設置義務 があ る。 タイ証券法 に基づ き上場会社 はSEC
(証券取 引委員会)が認 証 した者 だ けを会計監査人 に選任 す る こ とが で きる と して い る̀H)。 さ らに、 タイ は2008年1 0
月 にSEC
(証券取引委員会)の規定に よ り、公開会社 は
3
人以上で構成 され る監査役会 の設置 を義務づ けた(9)。 タイでは、監査役会 の設置義務 を、会社法ではな くSEC
の規制 とい う形で行 っているとい う特徴がある。 コーポ レー トガバナ ン スの視点で見 ると、タイの公 開会社での認証会計監査人、お よび監査役会の設 置は、独立取締役 とともに、取締役会の経営監督機能の強化 を制度化 した もの であろ う。第 4は、タイ公開会社法では少数株主の権利 を保護 に関す るい くつかの規定 が存在す るが、諸外国 と比較す ると少数株 主の保護 に関 して不十分な点 も存在 す る。株主総会の発行済み株式数の
2 0%
以上 を保有す る株主、または発行済み 株式数 の1 0%
以上の合計株式 を保有す る2 5
人以上の株主は、いつで も取締役会 に臨時総会の招集 を請求す ることができる (第1 0 0
条) と規定 してい る。 日本 の会社法では、総株主の議決権の3%以上 を有 している株 主は、取締役会に株 主総会の招集 を提案 で きる (日本会社法21 9
条) としてい る(10)。 タイの公開会 社法では、 このよ うな少数株 主権の行使 の要件 とされ る持 ち株比率が、 日本 に 比較 して高い とい う点が指摘できる。さらに、少数株主の保護 を 目的 とした、株 主総会での取締役の選任 に累積投 票制度 を導入 している。累積投票制度 とは、株主に選任 され る取締役 の数だけ 投票権 を与 え、少数株主の代表 となる取締役 を選任 しやす くす る制度である。
O ECDコーポ レー トガバナ ンス原則 な どにおいて も、累積投票制度の採用が 奨励 されている。
第
5
は、タイの公開会社法では、会社情報の開示が進展 してきている点であ る。取締役会年次報告で、会社が保有す る子会社の株式数 と種類、会社が発行 済み全株式数の1 0%
以上を保有 してい る他 の会社または非公開会社の商号、本 店所在地、業種、発行済み全株式数 と種類、会社保有の株式数 と種類、な どの 報告 を記載 しなけれ ばな らない (第114
条) とい う規定は、代表的な ものあろう。
第
6
は、タイの公開会社法では、増資の場合、取締役会のみの決定では行 う ことができず、株 主総会で75%以上の賛成 である特別決議の必要であるとい う 点である。 日本では、定款資本の範囲で取締役会の決定のみで増資を行 うこと ができるとい う授権資本制度 を採 っているのに対 して、タイでは授権資本制度2 61
国際経営フォーラムNo.20
を採用 していない。
第 7は、タイの公開会社お よび株式会社での株式は、全て額面株 であること、
株式分割できない こと、記名株式 と無記名株式があること、原則 として 自社株 を所有す ることができない こと (ただ し、第66条で特別な場合は認 めている。)、
な どの特徴がある。 このタイの株式制度 を 日本の会社法 と比較 してみ よ う。 日 本の会社法では、株式は全て無額面株 であるのに対 して、タイの会社法では全 て額面株 である。 日本の会社法では、株式分割が可能であるのに対 して、タイ の会社法では株式分割 を認 めていない。 日本の会社法では、株式は全て無記名 株式であるのに対 して、タイの会社法では一部の株 で記名株式 を認 めている.
さらに、 日本の会社法では、 自社株 の保有が可能であるのに対 して、タイの会 社法では原則 として 自社株 の保有 を認 めていない。 日本の会社法で も、以前は これ らの多 くの条項がタイ法 と同様 であったので、タイの現行法のこれ らの株 式条項は、以前の 日本法に近い形である。
タイの公開株式会社法は、 コーポ レー トガバナ ンスに関 して先進諸国 と比較 す るとまた不十分な点 もあるが、
SEC規定な ども加 わ り、企業統治の強化、
少数株主の保護、情報開示などで改善 してきている。 しか し、タイのコーポ レー トガバナ ンス問題点 としては、大企業や外資企業な どでまだ圧倒的な比重 を占 めている公開会社以外の株式会社の企業統治であろ う。 タイ民商法典 による会 社法は、公開会社法に比べ るとコーポ レー トガバナ ンスの規制が緩い とい う問 題がある。 さらに、タイでの株式会社の現状 は、公 開会社数が少 な く、大規模 な会社であって も公開会社ではない企業が多い とい う点である。 タイの企業は、
家族支配 な どの同族企業がまだ多 く、公開会社 になるよ りは規制の緩い非公開 株式会社形態 を選好す る とい う傾 向がある。特 に、タイのグループ企業、財閥 の持 ち株会社ではその傾 向がある。外資系企業 も公 開企業ではない株式会社形 態が圧倒的である。 タイの これか らの コーポ レー トガバナ ンスの課題 は、非公 開の株式会社での企業統治であろ う。
注
1 タイ民商法典 の 中の会社 法 に関す る条文 (民商法典第22編 第1012条‑ 1273条)、お よび 1992年公 開会社法 については、元 田 (2007) の 日本語訳 があ る。 本稿 では、 この条文翻訳 を主 として参考 に した。
2 今泉慎也 ・安倍誠編 (2005)、279頁。
3 日本 の会社法 (第113条)での授権株 式数 を増加す る場合 、発行株式総数 の4倍 まで とい う意味 は、授権株 式総数増加 につ いての株 主総会 の決議 当時 の発行 済株 式総数 ではな く、
授権株 式総数増加 の時の発行済株式総数 を基準 とす る。
4 元 田時男 (2008)、41頁。
5 今泉慎也 ・安倍誠編 (2005)、283頁。
6 0ECD(2003)0
7 今泉慎也 ・安倍誠編 (2005)、297‑298頁。
8 今泉慎也 ・安倍誠編 (2005)、284頁。
9 今泉慎也 ・安倍誠編 (2005)、297‑298頁。
10 日本 の会社法第297条 では、 6カ月前か らどの時期 を とって も総株 主の議決権 の3%以上 を有 してい る少数株 主 (6カ月要件 と3%要件 は定款 で緩和 可。 また、非公 開会社 では6 カ月要件 はない) は、 まず取締役 に招集 を請求 し、招集手続 が とられ ない ときは、裁判所 の許可 を得 てみず か ら招集 で きる、 と規定 してい る。
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