研究ノート
関税同盟理論における
貿易創出効果と貿易転換効果
浦 上 博 逵
序 経済統合と関税同盟
関税同盟は︑それ自体が目的ではなく︑経済統合の一段階として考えられる場合がある︒
経済統合 経済統合を考える場合特にその相違を強調すれば︑二つの異なったタイプがあるoそのひとつ
は︑自由︵貿易︶市場を標榜し︑諸制限の撤廃をはかるという機能的︷哨呂氏og︸︶方法であり︑いまひとつは︑
協力や統一にとって好ましいあらゆる要素を導入するという制度的︵institutional︶方法である︒前者は︑自由貿
易を中心に据え国際経済の分野で︑後者は︑最適経済政策を中心に据え経済政策の分野で︑捕えようとしている
炳︑しかしそうはしても︑経済統合についてはまだ充分に明確な定義が与えられていない︑︒いずれにしても従来
の経済状態とは異なり︑経済統合が志向される場合には︑それなりの必要性と機能が存在するはずである︒いま
関税同盟理論における貿易創出効果と貿易転換効果
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経済統合とは︑経済主権を有する国家経済間で︑最適状態達成の基準
の下での諸経済要素の調整と統一を行うこと︑であるとする︒そして
関税同盟を経済統合の一段階としてとらえ︑関税同盟のもつプロパー
な必要性と機能も︑経済統合のもつプロパーな必要性と機能の一構成
要素と考える︒
関税同盟 バラッサによれ心経済統合は︑その統合の程度により
表1のように類別される︒そこでは︑関税同盟は︑田域内での商品移
動の自由︵自由貿易的傾向︶︑㈲域外に対する共通関税の設定︵保護貿易的
傾向︶をもつ性格のものとして位置される︒そこで関税同盟のもつプ
ロパーな効果も︑この同時二面性より生じることになる︒
静態的な条件の下ではあるが︑ヴァイナーは︑関税同盟形成の際に
このような性格によって起こる生産面での変化を︑貿易創出効果
︵TSd?Cgl品唄︷gt︸︑貿易転換効果︵TodQI回き良品Effect︶とし
て明らかにした︒
一︑貿易剔出果と貿易転換効果
貿易創出効果とは︑関税同盟形成の際に新たに貿易が始まる︵自由貿易的傾向︶ことであり︑貿易転換効果と
は︑関税同盟形成の際に従来の貿易の流れが変わる︵保護貿易的傾向︶ことである︒そしてそれぞれは︑世界的水
準での生産要素最適分配という基準に照らされた時︑前者は正の︑後者は負の効果を持つことになる︒
設例 両効果の設例は︑リプシー︑ミード︑フィスターにより与えられているが︑数字を極く簡単にして説
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明してみると︑
図1・2のよう
になるであろ
う︒条件として
生産費不変で供
給の弾力性は無
限︑需要の弾力
性は零︑輸送費
は無視し︑同財
を万国で5ド
ル︑£国で4ド
ル︑F国で3ド
ルで生産できる
ものとする︒い
ままでぺの関税
を課して5ドル
の自国生産を行
っていた君国は︑︵出︶£国との関税同盟形成の為︑自国品︵5ドル︶が£国品︵4ドル︶に取って代られる︒②F国八
関税同盟を形成する場合は︑君国品︵5ドル︶圭F国品︵3ドル︶︒この︵出︶②はいずれも域内での商品移動の自由
︵自由貿易的傾向︶が︑加盟国間に新しい貿易を創り出すので︑貿易創出効果と呼ばれる︒一方他の条件は同じと
するが︑万国が以前から自国生産はしていず︑最も低費用のF国から輸入していたとする︒無税に近い関税の場
合は︑⑧£国との関税同盟形成の為F国品を締め出すので︑F国品︵3ドル︶から£国品︵4ドル︶に取って代られ
る︒君国がF国品に︑£国品の生産費以上の価格となるような関税を課している場合︑③£国との関税同盟形成
は︑F国品︵4.5ドル︶圭一一国品︵4ドル︶︒この③④はいずれも域外に対する共通関税の設厄︵保護貿易的傾向︶が︑
域外からの従来の貿易を域内へと転換させるので︑貿易転換効果と呼ばれる︒
両効果の価値 両効果を生産の最適状態つまり世界的資源最適分配という基準に照らすならば︑貿易創出効
果である①②は︑いずれも高コストの供給源君国︵5ドル︶から低コストの供給源£国︵4ドル︶︵最低コスト国でな
い為︑次善︵汐81汐忘と呼ばれる︶︑あるいはF国︵3ドル︶への生産の移行︵生産効果︶である為︑正の効果を︑
一方貿易転換効果である⑧④は︑いずれも最低コストの供給源F国︵3ドル︶から︑より高コストの供給源£国
︵4ドル︶への生産の移行︵生産効果︶である為︑負の効果を持つことになる︒
ここで④の場合︑消費者の立場からみれば︑君国の消費者は︑同盟形成以前のF国品︵4.5ドル=3ドルx50%+
3ドル︶よりも︑同盟後の£国品︵4ドル︶を安く手に入れることになる︒因ってこの場合は貿易転換効果でも︒
s x ㈲正の効果を持つものとされる︒しかしこれは関税込みの入手価格であり︑その上消費者最適効用という基準で判
定されたものである︒そこで生産効果という観点のみからすれば︑万国の輸出タームで計った生産の機会費用が
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㈲
より高くなる④は︑矢張り貿易転換効果で負の効果を持つことには変りない︒
mI R.G゛rぞ諮y゛︒TrQTheory ofCustoms Unions : A General Survey。 Economic Journal。 Vol. LXX。
September。 I960。 p. 497.
J.E. Meade。 The Theory of Customs Unions。 Amsterdam。 1955。 pp. 24−34.
R.L. Pfister。 M﹇・○・clement & K.J. Rothwell。 Theoretical Issues in International Economics。 Boston。
1967。 pp. 178‑9.
② 共通関税と同盟結成前の両国の平均税率の関係は︑亙国・£国︑共通関税を塙・句・らとし︑それぞれの場合瓦はF
国品を排除できるだけの高さ︑Gは域外国品を排除できるだけの高さであるとすると︑次のようになる︒
① 条件より
Lf︱Ct ︷︸︶
瓦は瓦よりも高い為
旨゛=か十Q
これを平均税率に代入すると
2=2 ︵に︶
山師より
励か十a>2Cj
つまり瓦が八より高い部分だけGは低くなる︒
② 条件より
︵w゛=O
そこで瓦の部分だけ関税はなくなる︒
⑧ 条件より
Ct=Lt ︷︸︶
瓦は扁よりも低い為
Ht=U‑B
これを平均税率に代入すると
旨宍か =防りいl心 ︵に︶
旧師より
励かl心△励ぶ
つまり珀が瓦よりも低い部分だけGは高くなる︒
④ 条件より
Ct=Lt
瓦は扁よりも高い為
旨゛=か+Q
以下①と同様︒
小島清著﹃EECの経済学﹄日本評論新社︑昭和三十七年︑五二頁注㈲⑦︑但し④の場合の仙は︑万国の非合理的
行動として排除︒四六頁︒それの再批判として︑河村鎰男﹁欧州共同市場の経済学と比較優位の理論﹂名古屋大学
﹃経済科学﹄X−1 昭和三十七年︑七二頁︒
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二︑両効果の条件と測定
両効果の条件は︑設例でも見られるように︑創出効果は加盟国間で財が重複︵overlappi品︶している部分で生
じ︑転換効果は︑加盟国が域外から輸入していた部分と︑他の加盟国ではその財が生産されている部分との重複
部分で起こることである︒この点に関して︑両効果の起こり得る経済状態について︑競争的︵rival。similar。com‑
petitive︶経済と補完的︵complementary。dFI‑F︶経済の論争が為されている︒
両効果の大きさを測定するには︑厳密な仮定の下ではあるが︑そのような財の単位当り生産費差に量を乗ずる
ことになる︒
測定 財は複数個とするが他の仮定は設例と同じ︒
う 貿易創出効果G︵の或は②︶は︑万国品と£国品︑或はF国品との重複部分︵旨⊃ト=Q 或は哨⊃哨 以下のの
場合のみ︑②は同様にして︶のみで起こり︵必要条言︑cの範囲にある財のそれぞれの単位当り費用をごとする・
君国品と£国品との生産費差は
︵l溜7の場合がある為︑絶対値で示す︶
gを創出効果の生じた財の量とすれば︑創出効果は
︵?aM︵瓦戸IIL︶f ︵︷︸
︵Gは絶対値の為︑正の符号をつける︶
となるであろう︒
競争的・補完的経済 自由貿易の原理である比較生産費説は︑p之吻り`か`診△︸﹇1国のx商品の生産費を
印作y商品の生産費を片︑2国のそれぞれを払﹈・か︶で説明さ札︑これは比較生産費のひらきが大きければ︑それだ
け貿易と特化の利益が大きく生じることになる︒
これに対してヴァイナーは︑関税同盟を形成する時には︑﹁⁝⁝補完的な程度が少なければ少ない程︱ある
いは競争的な程度が高ければ高い程⁝⁝﹂﹁⁝⁝関税同盟は︑より自由貿易の方向に作用するであろう.:⁝﹂が
﹁関税同盟に関する論文では︑関税同盟を形成するに際して︑競争的であることは不利益を︑補完的であること
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は利益をもたらすであろうことが︑ほとんど一様に当然のこととされた﹂と批判した︒
またマッコゥワー=モートンは︑別の見方をした︒それは︑同財︵γ財︶の生産費の低い順から矢印の中央の方
へ︑図3のように国を並べ︑そして召国︵tl{{りort}以上は最低コスト国Cより輸
入し︑召国以下は関税障壁の下で自国生産を行っているとする︒このような場合に
は︑召点以下での関税同盟は貿易創出効果をもち︑しかも生産費差が大きな国同士
︵二組以上の関税同盟︑例えば︑C十訂︑C十Åを比較し︑生産費差のより大きな関税同盟︑
C十Åをより補完的であるとする︶であればある程︑その効果は大きいとする︒
これを整理してみると︑ヴァイナーの競争的ということは︑財の重複︵旨⊃ト︶と
いう必要条件を示している︒このような経済状態は︑rivalであるとするよりも︑
より具体的にはmoreoverlappinginki乱であろう〇他方︑比較生産費説及びマッコゥワー=モートンは︑
○必要条件が満された上で︑生産費差︵マター宍一︶の程度が自由貿易の利益の大きさをあらわすことを述べている
のである︒このような経済状態は︑8mplementaryであるとするよりも︑より具体的には∃ogdifferent
8stsintyQtkFdであろう︒
⑦ 以上により︑貿易創出効果は︑more overlapり日似FkFd︱more different8sts in thatroQという経済
構造を持つ国々の関税同盟に︑強く働く可能性がある︒
測定 仮定は前と同じ︒
り 貿易転換効果埓︵③或は④︶は︑域外国であるF国からの亙国の輸入品︵政ご︶と加盟国£国品との重複部分︵政之
ぐ
⊃?£国でもこれと同様なことが生じる為トこ⊃次となり結局は両者の和の部分︵゛ご⊃ト︶⊂︷トこ⊃︸︷︸=`一︶︶のみで
㈲起こり︵必要条件︶︑pの範囲にある財のそれぞれの単位当り費用をJとする︒
b=ミ♂恥♪゛⁝⁝⁝⁝恥♂゛恥よ︸
︵誤字″は加盟国︑fは域外国を示す︶
加盟国品と域外国品との生産費差は
ミ訪−ミシ⁝⁝⁝⁝︵恥″bl恥よ︶
びを転換効果の生じた財の量とすれば︑転換効果は
bfルM︵恥♂−阪勁︶? ︵に︶
となるであろう︒
競争的・補完的経済 ヴァイナーの述べた補完的ということは︑財の非重複部分︵︵旨︒⊃ト︶⊂︵旨⊃り︶︶で転
換効果が起こる可能性が存在すということであり︑このような経済状態は︑8mplementaryであるとするより
も︑より具体的にはlessoverlappingink‑乱であろう︒他方マッコゥワー=モートンは︑貿易転換効果は︑
R一点より反対の方角にある国同士で起こり︑生産費差が小さい程︵例えばN十訂よりもN十Åとの方が︶大きくなる
とした︒このような経済状態は︑rivalであるとするよりも︑より具体的にはlessdifferentcostsintrtr乱
㈲であろう︒
以上にょり︑貿易転換効果は︑less overlapping inkyd︱less different costs intr︷kFd︵但し実際に生産を
行っていない加盟国での費用は︑機会費用とする︶という経済構造を持つ国々の関税同盟に︑強く働く可能性がある︒
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貿易創出効果Gと貿易転換効果埓の純効果は︑田面より ぐ ぐ
となることは︑いうまでもなかろう︒
三︑生産費変化の下での両効果
以上のような貿易創出効果・貿易転換効果は種々の厳密な制約下にあり︑現実の世界に波及するその効果は︑
より複雑な状況の下で起こることになる︒ここではそれへの少しでもの接近として︑いままでの仮定の中で生産
費不変の条件を外して考えてみる︒その場合には生産費逓増及び逓減の生産費関数を考え︑その下でのそれぞれ
の限界生産費を比較することになるであろう︒
j j 生産費逓増 いま産出量gと生産費Pとの単純な関数関係を
ぐ ぐ t⁚⁚こ︒︵巴
として示し︑生産費逓増の条件を
f︷q︸∇0 1︵巴∇0
限界生産費を
二匹で=く︒︑︵巴
とすると︑貿易創出効果は田より
paM︵S︵Q?︶−y︑︵9しI︶j ︵この場合には?←こ
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貿易転換効果は㈲より
Dt‑j: ︵f︵q^し|≒︵ミし︶? ︵この場合にはP←j︶
として考えられる︒
田 ベンティックやスプラオスは関税率に注意を向けることによって︑生産費逓増の条件をいれ︑貿易創出効果と
貿易転換効果が同時に生じる場合を展開した︒それによれば︑各国は限界生産費がそれぞれの関税の高さで保護
されるまでの生産量を︑自国生産していることになる︒そしてそれを越えるような生産費をもつ生産量は︑最低
コストの供給源をもつ国から輸入されていることになる︒そのような仮定での帰結としては︑次のようになるで
あろう︒高関税国︵万国︶と低関税国︵£国︶とが関税同盟を行った場合︑万国と£国の関税の差の部分で貿易創
出効果が起こり︑共通関税と亙国の関税との差︵但し共通関税は君国の関税より高いとする︶の部分では︑亙国の関
税の高さを越えて入っていた自由貿易国︵F国=最低=スト供給源国︶からの輸入が︑£国に向きを変えることに
なり︑そこで貿易転換効果が生じるのである︒このように生産費逓増条件をいれ︑両効果が同時に現われること
があったとしても︑短期的には貿易創出効果は︑結局同盟内で生産が重複していた範囲で起こることであり︑一
方貿易転換効果は︑ある加盟国の同盟結成前の域外国からの輸入と︑同盟結成後の他方の加盟国の生産との重複
している範囲で起こることには変りない︒そこで複雑なことになるであろうが︑自国生産と他の加盟国の生産と
の重複部分と︑域外からの輸入と他の加盟国の生産の重複部分を︑それぞれその財の内の二種類として区分して
㈲考えることもできよう︒
ここで生産費逓増条件の系として︑分散化要心一︵ぼ弘09Ri{笠orことの関連では︑生産費逓増は分散化要
因のひとつとして働く︒それというのもいずれの効果の場合でも︑ある加盟国での生産の増加は生産費の増加を
もたらし︑その生産費が他の加盟国のそれ︑あるいは域外国の生産費に共通関税をかけた点を越える時には︑供
給源が再び逆流し生産の分散化傾向が生じることになる︒そしてその傾向に加速するものとして︑両効果による
自国生産国及び域外国の生産の減少は︑生産費を低下させているのである︒
生産費逓減 生産費関数を前と同じとすれば︑生産費逓減の条件は
り︵Q︶∇o ≒︵巴△0
限界生産費を
工作・jA︑︵Q︶
とすると︑貿易創出効果・貿易転換効果は生産費逓増の時と同じように示し得るであろう︒またベンティック︑
スプラオスの事例もこの生産費逓減下においても適用され得る︒この場合も短期的にそれぞれ二種類として考え
られる︒
㈲ 生産費逓減は集積化要因︵agglomerative factors︶のひとつとして考えられる︒それというのもいずれの効果の
場合でも︑ある加盟国での生産の増加は生産費の減少をもたらし︑それは他の加盟国のそれ︑あるいは域外国の
生産費に共通関税をかけた点から増々乖離することになり︑その為集積化傾向が生じることになる︒そしてその
傾向に加速するものとして︑両効果による自国生産国及び域外国の生産の減少は︑生産費を高めているのである︒
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四︑結 び
関税同盟のもつ簡単な一機能として︑貿易創出効果及び貿易転換効果があるが︑それは余りにも厳密な仮定の
下でしか決定され得ない︒現実の世界ではそれが動態的に作用することによって︑種々の結果を生むことになる
のである︒時にはそれ以上の︑例えば産業構造・人々の心理的変化のようなものまで含む質の変化に迫まる場合
もあり得よう︒そしてそのことこそが︑まさに経済統合を志向する必要性なのかも知れない︒しかし理論的にそ
れを把握する時には︑より高度で複雑な種々の要因︵例えば︑まず最初に需要の弾力性など︶を導入しなければなら
ないのである︒