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プロスペクト理論におけるリスク認知と ⽛バイアス⽜

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■アブストラクト

本稿では,第⚑にプロスペクト理論の⽛認知バイアス⽜の合理性について 扱う。第⚒にプロスペクト理論の図示による新しい簡潔な説明方法について 述べる。プロスペクト理論の価値関数は期待効用理論の効用関数に当たるが,

この⚒つは利得がマイナスの領域で大きく異なる。ここではその妥当性を論 じる。また,合理的根拠に基づいて,価値関数・確率加重関数を重ね合わせ ることで何が示されるかを述べる。本稿の結論としては,合理性に基づく図 示からパラドックスなどのかなりの部分が説明可能としている。

■キーワード

プロスペクト理論,期待効用,バイアス

⚑.はじめに

本稿では,プロスペクト理論についての合理性についての議論と新しい図 式としての理解を述べる。プロスペクト理論は,カーネマン・トヴェルスキ ーの1979年の有名な論文にある心理学を用いた理論である。これは,ベルヌ ーイの期待効用仮説に対するアノマリー(Anomaly)を説明する行動経済学 の理論として作られたものである。プロスペクト理論は,価値関数と確率加

*平成29年⚖月10日の日本保険学会関西部会報告による。

/ 平成31年⚔月⚘日原稿受領。

田 島 正 士

プロスペクト理論におけるリスク認知と

⽛バイアス⽜

保険とギャンブルの合理性について

(2)

重関数から成り,認知バイアスによって説明される。本稿では,その認知バ イアスが非合理的な歪みによるものなのか,合理的判断によるものであるか を考える。その上でプロスペクト理論のフレームワークで何が言えるのかを 論じる。本稿は,酒井(2015)1)にある⽛期待効用理論の一般化⽜に触発され たものであるが,心理ファクターなしにどこまで説明可能であるかを考察し たものである。

⚒.期待効用仮説とサンクトペテルブルグのパラドックス

プロスペクト理論に入るまでに,前提となる議論を述べることにする。期 待効用仮説の基となった論文としては,サンクトペテルブルグのパラドック ス(St. Petersburg paradox)で有名な1738年のダニエル・ベルヌーイの論 文がある(Bernoulli, 1738)。

サンクトペテルブルグのパラドックスは,いわゆるコイン投げゲームであ る。例えば仮に貨幣単位を円とすると,⚑回目に表が出れば⚑円をもらって 終了,裏が出れば次に進む。⚒回目に表が出れば⚒円をもらって終了,裏が 出れば次に進む。以降,⚔円,⚘円,16円…と,続けられるゲームの回数に 応じて,⚒(ゲームの回数􂈒􂈒1)円の金額がもらえるというゲームである。そのゲーム の期待値は無限大だから,全財産を賭けても参加することに合理性があるは ずである。しかし,現実に全財産を賭けたい人はいない。そこがパラドック スであった。それに対して,ベルヌーイは効用が逓減するという期待効用理 論の基となる説明を行った。ベルヌーイの1738年の論文 p. 26の図では,図

⚓のように効用を log 関数で表されている(英語版のみ,ラテン語の原著に は図がない)。これにより,サンクトペテルブルグのパラドックスで期待値 が無限大になるにも関わらず全財産を賭けようとする者などなく,せいぜい 10~20円程度しか賭けようとしない人々の行動の説明が可能になったのであ る。この説明は後に保険の合理性などの説明でも用いられている。

1) pp. 271-274

(3)

⚓.プロスペクト理論の概要

プロスペクト理論は,ベルヌーイの期待効用仮説に対する反例の解決方法 として示されたものである。反例の代表的なものにアレのパラドックスがあ るが,それについては後述する。

期待効用仮説は,期待値と効用を異なるものとして捉え,効用が期待値に 比例せず逓減すると考えた。これによって,サンクトペテルブルグのパラド ックスに対する説明と保険やギャンブルの合理性について説明が可能になっ た。すなわち,リスク回避的な個人は保険を,リスク愛好的な個人はギャン ブルを行う合理性が説明可能なのである。しかし,期待効用仮説の説明では,

保険を掛けながらギャンブルを行うという⚑人の個人の行動について説明が できない。そこで,考え出されたのがカーネマンとトヴェルスキーによるプ ロスペクト理論である。

プロスペクト理論は,価値関数と確率加重関数という⚒つの関数からなる

(図⚑,図⚒参照)。価値関数は,期待効用仮説で言うところの効用関数に当 たるものである。また,確率加重関数は,⚐ではない小さい確率では過大な 評価がなされ,⚑ではないがそれに近い大きな確率では過小な評価がなされ ることを示している。これにより,保険とギャンブルが一個人によって行わ れることの説明ができる。

⚔.アレのパラドックス

アレのパラドックスは,以下のものであった(Allais, 1953, p. 527参照)。

A:確実に1000ドルもらえる。

B:89%の確率で1000ドル,10%で2500ドル,⚑%で⚐ドルがもらえる。

C:11%の確率で1000ドル,89%で⚐ドルがもらえる。

D:10%の確率で2500ドル,90%で⚐ドルがもらえる。 文末に来たため,後ろの一行アキを とりました

(4)

AとBではAを選択,CとDではDを選択する人が多いという実験結果に なっている。CとDは,AとBからそれぞれ⽛89%で1000ドルもらえる分⽜

を引いただけであるから効用の序列が変更されないはずであるが,実験では 選択結果が逆転するというパラドックスである。

そのアレのパラドックスについて,プロスペクト理論では確率加重関数に よって説明される。それにはショケ積分が用いられているがそれを使わなく ても説明が可能である。すなわち,将来予測に対してリスクがない確実な⚑

通りの対処しか必要ない場合に対して,損失のリスクをありうるものと認識 した場合,⚒通りの対処が必要である。その対処の直接的費用は合理的なも のであり,その不効用も合理的判断に基づくものである。アレのパラドック スのAは対処が⚑通り,Bは⚒通りである。CとDはどちらも⚒通りである。

つまり,Cは追加的に対処費用が掛かるのでその不効用分だけ低下する。以 上を図にすると図⚔になる。図⚔の左図は,10%で2500ドルの点(B2, D)

と,右図の確率加重関数上の点(A, B1, C)をそのまま左図に移したもので ある。右図の確率加重関数を移すと非常に見づらくなるため左図には書いて いない。したがって,左図の点 B1と点 C は曲線上にはない。効用を U と置 くと,U(A)􀀾􀀾U(B1)􀀫􀀫U(B2)となり,且つ,U(C)􀀼􀀼U(D)となるなら,

⽛パラドックス⽜の結果になる(この図ではそうなっており,よりリスク回 避的な価値関数であればさらに顕著になる)。

本論文の論点はこの結果に合理性があるか否かである。何度も述べている ように,確実な利得と比較して,⽛あり得る確率⽜でのリスクを含む選択で は,追加的対処コストが発生するため,⽛この確率よりも大ならあり得る⽜

と判断した点で大きく効用が低下する。そのことは合理的判断である。確率 加重関数の曲線部分の凸性に合理性があるのかは今後の課題にしたいところ であるが,直線であったとしてもさして結果は変わらないので大きな問題で はない。そうすると,確率加重関数は一定の合理性に基づくものであると言 える。一方の価値関数は,少なくとも利得がプラスの領域では期待効用理論 と変わるところはなく,一定の合理性がある。つまり,合理性のみでアレの

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パラドックスが説明可能である。

⚕.プロスペクト理論の疑問点

⑴ 利得がマイナスの領域

期待効用仮説では,log を用いて効用関数が表された(図⚓参照)。しか し,プロスペクト理論の価値関数は図⚑のように,第一象限を約⚒倍にして 原点で点対称にして第三象限に持って行ったような形状をしている。ちなみ に,式では以下のように表される。

O(Q) 􀀽􀀽 􎝃􎝃 􂈒􂈒à Q

ǒ (

􂈒􂈒Q

)Ǔ (Q(

Q 􂉧􂉧 􀀰􀀰) 􀀼􀀼 􀀰􀀰

)

筆者はここで単純な疑問が沸くが,アンケート結果があるにしても,期待 効用理論の効用関数からなぜ変更したのだろうということである。もともと の期待効用理論 log 関数のような単純に逓減する形状の方が論理的にわかり やすいのである。そして,利得が負の場合に効用(価値)のマイナスが逓減 するのは論理的におかしいのである。現在の財産􀀫􀀫将来得られる生涯所得を 既知としてa円として,所得の減少分をb円と置くことができる。所得の減 少分を2b 円,3b 円と順番に大きい金額について考えていくと,b円では無 駄遣いをやめる程度の不効用で済むものが,2b 円,3b 円と段々と減少分が 大きくなるにつれて必需品の購入にまで影響を及ぼすようになる。当然,効 用の減少幅は大きくなるはずである。仮に10b

􀀽􀀽

a であれば,負の利得が10 b 円に達したところで金持ちだろうと貧困者であろうと餓死するのが基本的 な道理である。なぜプロスペクト理論でそうなっていないかを考えると,回 答者がゲーム感覚で答えており,真剣に困窮するとは考えていない可能性が 考えられる。

Kahneman and Tversky(1979) p. 278の問13は,⽛25%の確率で

􂈒􂈒6000ド

ル⽜か⽛25%で

􂈒􂈒4000ドル,25%で 􂈒􂈒2000ドル⽜のどちらを選択するかとい

う問いであり,70%が前者,30%が後者を選択したというものである。しか

(6)

し,⽛問13の選択肢からどちらがマシな方を選べ⽜と,怖い人にキャッシュ カードを脅し取られて選択を迫られた場合や,年間10000ドルの奨学金だけ で生活している学生が,当局の財政難という切実な事情による予算のカット のためどちらの案がより悪くないかという相談を当局から持ちかけられた場 合では別の結果になるのではないか。

実際に財産が奪い取られたり,奨学金が本当にカットされた後の切実な状 況を考えた場合には,いかに生き延びるかを具体的な節約リストを挙げて考 えるだろう。すると,明らかに6000ドルを節約させられる不効用と比較して,

2000ドルを節約させられる不効用は1/3もなく,4000ドルを節約させられる 不効用は2/3もないのである。しかし,調査で本当に被験者を脅迫したり,

実際にはありもしない財政難をまことしやかに述べるわけにはいかないから アンケート調査には限界がある。つまり,被験者の回答には真剣味や現実味 が足りないだけであった可能性が十分に考えられる。⽛自分の財産が差し引 きで数千ドル程度増えても減っても,リスクに対する自分の態度は変わらな いことに気づいているだろう⽜(Kahneman, 2011, p. 281, 日本語訳下巻 p. 96)とあるように,切実さがないところでの判断なのであろう。しかし,

果たしてそれで良いのだろうか。

⑵ 効用が同じになるべき状況の合理性

100ヶ月に⚑回の割合で,1000万円で売却できる鉱物が得られる鉱山労働 者を想定する(売却金は月末に受け取る)。その労働者は⚑ヶ月で10万円ず つ受け取る選択も月初にできるものとする(保険)。一方,月初に10万円の 籤に参加すれば1/100の確率で1000万円が当選し,当選した場合は月末に受 け取ることができる(ギャンブル)。なお,その労働者はリスク回避的であ るとし,労働者のモラルハザードや籤の不正はないものとする。そこでは以 下の⚔通りの選択が可能である。

① 保険を掛けるがギャンブルはしない。

(7)

② 保険もギャンブルもしない。

③ 保険もギャンブルもする。

④ 保険は掛けないがギャンブルはする。

①から④は,期待値がどれも10万円である。①の確実な10万円の効用が最 大,④の効用が最小であるのは明らかであるのでここでは問題にしない。問 題となるのは②と③の効用である。②と③はどちらも⽛⚑ヶ月後に1000万円 が1/100の確率で手に入る⽜ことを意味しており条件が全く同じであると簡 単に理解できる。したがって,②と③の効用は完全に一致するはずである。

しかしプロスペクト理論に基づいて考えると参照点がずれる。上記のギャン ブルと保険は全く同じ確率でリスクについて正反対のことをしているだけで あるが,プロスペクト理論では基準点を初期点にすると各点がずれるため,

偶然の一致でもしない限りは,②と③の効用が一致しないということである。

以上より,バイアスとされる心理的実験のいくつかは,複雑なギャンブル を想定し,被験者を心理的に混乱させることでバイアスがあるという結果を 導いているのではないかという疑義が生じる。それによる矛盾を説明しよう としてモデルを複雑化すると,今度は逆に上記の例のような簡単に単純化で きる想定で齟齬が生じる。つまり矛盾の現実的解決は,被験者が合理性に基 づいて判断できる状況を作るか,合理的に考えることを習慣づけることであ る。それにより合理性を身につければ非合理的なバイアスが解消することを 意味している。

プロスペクト理論についてインターネットを検索すると,株取引などのフ ァイナンス分野の投資家心理の説明によく引用されている。そこでは,非合 理なバイアスの克服が重要だと述べられている。つまり,利得と損失を対称 に考えることが合理的であり,そのような判断が求められているのである。

損失を過大評価するモデルに基づいた行動は合理的判断ではないため,合理 的判断をする投資家のパフォーマンスに勝てないのである。これを上記の保 険とギャンブルの例を図⚕に基づいて述べるならば,合理的判断に基づくな

(8)

らば保険もギャンブルも同じ⚓点を示していなければならないのである。合 理的判断を惑わす心理的効果を加味するから単純な例の結果がおかしくなる のである。つまり,合理的判断を身につけた投資家などを調査対象にすれば 惑わないだけの話であり,そうすべしという結論にしかならない。上記の保 険とギャンブルで述べるならば,横軸の⚐を保険の利得では⚐円,⚑を1000 万円,ギャンブルの利得では⚐を􂈒􂈒10万円,⚑を990万円と置けばとりあえず 解決するのである。

⑶ 確率加重関数の不連続問題 アンケート調査結果からの補完

プロスペクト理論の確率加重関数は前述のように図⚒のような形状をして いる。客観的確率が⚐であれば確率加重関数でも⚐であり,客観的確率が⚑

の時の確率加重関数も当然⚑である。曲線部分は点線と重ならないところが この関数の意味する重要なところである。しかし,確率が⚐と⚑付近の⚒箇 所で切れている。つまり,この図からは不連続なのか逆S字カーブであるの かその他なのかはわからない。そこで,筆者はアンケートを実施した。

アンケート内容は,⽛どの確率までのリスクをありうるものとして意識し ていますか?⽜を問うたものであり,2018年⚕月16日に京都外国語大学で行 った。参加者は女性⚘名,男性⚓名,不明⚑名の合計12名の学部生である。

その結果によると,年間死亡リスクが平均値で10􎸒􎸒4.67,中央値が10􎸒􎸒5であっ た。宝くじが平均値10􎸒􎸒2.60,中央値が10􎸒􎸒2.58であった。なお,宝くじについ ては⚑名が⽛⚑⽜と回答した。⽛⚑⽜とは,確実なもの以外は全く当たらな いものと見なす判断であり,確実でない限りは検討に値しないということで ある。学生が対象であったので,宝くじに対する評価が厳しめだと考えられ るし,現実に購入金額の1000倍,10000倍の当選金額の宝くじが普通に売れ ていることから,社会人の評価とは何桁か違っている可能性が高い。しかし,

以下ではとりあえずデータをそのまま考慮することにする。

この結果から図⚕のように書くことができる。つまり,その代表的個人の 客観と主観に基づく確率加重関数では,確率が⚐に近いところの断絶が

(9)

10􎸒􎸒2.6あたり,⚑に近いところの断絶が 1

􂈒􂈒

10􎸒􎸒5あたりにあるということで ある。では,その断絶が非合理的であるかというと,そうではないという説 明ができる。

宝くじは購入理由として⽛夢を買う⽜とよく言われるように,当たったと きの効用が大きく,それを考える行為自体もまた効用があると考えられる。

それは,大きなリスクは負えないが人生でかなえてみたい夢の実現に必要な 金額が当選金額であれば,人生の張り合いの有無という点でその選択は合理 的である可能性がある。また,長期存続を考えず目的達成が存在理由の企業 であっても同様である。会社設立の目的が至上であり,その達成可能性がゼ ロのまま近々倒産するという状況に対して,わずかな確率で目的達成が可能 な選択肢が存在するならば,ギャンブル的であったとしても後者を選択する のが合理的である。これらの場合,確率の有無が非常に重要である。

一方の⽛悪夢⽜は忘れたいものである。だから,江戸時代以前には夢売 り・夢買いが実際にあったようだ。⽛正夢かもしれぬ⽜という効用・不効用 を考えたら,多少のお金を払うことは,時に妥当だったのであろう。心理的 にはそう説明が付くが,特に⽛悪夢⽜による不効用の方は実際に経済的損失 が発生する問題である。

例えば,病気になるリスクを考えると,入院に伴う雑費や収入減少などを 考慮して,低リスク資産によるある程度の蓄えが必要ということになる。そ れには検討に要した時間的コストや金銭的コストが発生する。企業であれば 災害や事故を踏まえた事業継承計画(Business continuity planning, BCP)

が必要であり,その策定費用,対策費用,保険費用が実際に発生する。そし て,計画書を策定するかしないかは⚐か⚑かの二択の判断であり,それに伴 う費用もあるかないかの二通りである。つまり,グラフ上では微分できない 点が⚒点存在することになる。

そのリスクに対処するかしないかという判断について,個人の能力にせよ,

企業の BCP に関する経費にせよ,全てのリスクを検討するほどの資源はな い。つまり,どこかの確率で打ち切るのが妥当であり,それが上記の調査に

(10)

よる個人の場合は10􎸒􎸒5である。それよりも小さい確率の⽛悪夢⽜は現実的解 決として無視せざるを得ない。それは,Williamson(1975)(p. 21,邦訳37-38 頁)で,人間の能力の限界が⚒つの観点から説明され,ひとつが人間の記憶 や情報処理といった認知的能力に関わる神経生理学上の限界で,もうひとつ がコミュニケーションにおける伝達能力に関わる言語上の限界であるとされ ている解釈が可能である。

もう⚑つ例示するならば,低確率・高額賞金の極端な宝くじを想定できる。

⚑億人が100円ずつ購入し,利益や諸経費は考慮する必要がなく年に⚑回行 われる単純な宝くじを考える。当選金額が100億円なら⚑年に⚑人,100兆円 なら10000年に⚑人,100京円なら⚑億年に⚑人の当選確率である。論点は当 選確率と当選金額の両方である。現実に⚑億4800万ポンドのユーロミリオン ズが販売されており,上記の例の100億円はそれに近い。だから,この程度 では購入される余地がある。しかし,⽛100京円が⚑億年に⚑人に当たる宝く じ⽜を販売して売れるだろうか。おそらく売れる見込みはないだろう。⚑億 年に⚑人しか当たらないのでは,人類が滅亡する間に当選者が出る可能性は おそらくないという程度に極小の確率と考えられる。それでは全く当たる気 がしないであろう。また胴元に100京円の支払い能力があるかと言えば胴元 が国家であってもハイパーインフレーションを起こすような事実上の約束の 反故がない限りは支払いが不可能であろう。これは,効用以前の現実の支払 い能力の問題である。同様のことは,サンクトペテルブルグのパラドックス でも後に指摘されている。ベルヌーイは効用が逓減するという期待効用理論 の基となる説明を行ったが,後の他の指摘では,現実に支払われそうにない という説明がある。240円は約⚑京円であり,その金額を現実に支払うこと のできる組織は国家くらいしか存在しない。初期値が⚑円として 240円まで が現実的に支払いが可能だと仮定しても期待値は20.5円にしかならないとい う説明である。それと同様に,(支払金額の増加の仕方は異なるが)宝くじ の当選確率も低率になるほど,非現実的な支払い金額になっていくのである。

以上より,どんなに低確率でも当たる可能性があり,確実に支払われると考

(11)

え続けるのは,現実的に合理性がないのである。つまり,非常に小さな確率 というのはどこかの時点で打ち切り,慮外に追いやることが合理的なのであ る。

⚖.プロスペクト理論の⚑つの図解

プロスペクト理論で価値関数と確率加重関数が分けられているが,プロス ペクト理論を考えている過程で⚑つの図にしてしまうと,非常にわかりやす いことに筆者は気づいた。それが本稿の⚑番の新規性であると考えているた め,ここで説明する。なお,ほとんどの議論では,極小の確率や⚑に非常に 近い確率が出てくることはないため,その場合は図⚒に筆者が加えた箇所は 影響しない。

図⚕は価値関数と確率加重関数を⚑つにまとめたものである。縦軸は効用

(価値でも可),縦軸は金額と確率である。⚑つの図にまとめることでどのよ うな長所があるかを以下で述べる。

まず,まとめる意味を述べると,価値関数は確実な利得に対する効用(価 値でも可)を示している。ギャンブルをすることを考え,もし,確率加重関 数を考えないならば,当たりが⚑,外れが⚐として当たる確率が0.1なら,

横軸0.1の45度線上の点(効用も0.1)となる。確率加重関数による重み付け がプロスペクト理論の特徴であり,その45度線上の点に対しての重み付けが どうなるかを示したのが確率加重関数の意味である。つまり,0.1の確率の 場合,仮に⚒倍に⽛過大評価⽜されているであれば,(0.1, 0.2)の位置を 確率加重関数が通るということであり,0.2がギャンブルの効用になる。確 実な利得が同じく0.1であり,価値関数が(0.1, 0.12)を通るのであれば 0.12が確実な効用であるから,この場合は,0.12

􀀼􀀼

0.2であるから,ギャン ブルをするのが合理的となる。つまり,価値関数と比較して上に位置するな ら,ギャンブルをするのが合理的,下に位置するならしないのが合理的とい うことである。

保険の想定では,保険を掛けなかった場合に事故などに遭遇した場合の利

(12)

得を⚐,遭遇しなかった場合の利得を⚑と置く。事故の確率に応じて保険を 掛けなかった場合の効用が確率加重関数上で示される。保険を掛けた場合は 価値関数上の利得に応じた点になる。仮に事故率⚑%で手数料などの諸条件 を考慮しないのであれば,横軸の0.99の縦線上でどちらが上に位置するかで 保険を掛けるか掛けないかの合理性が示される。

図⚖は,1000万円の所得が得られるが10%の確率で働けなくなる休業保険 を図示したものである。手数料を考えなくて良いならば,10%の保険料を支 払うことで1000万円が保障されるものである。つまり,保険に加入してもし なくても期待値は900万円である。確実な900万円の所得は点Aで示される

(保険の場合)。無保険の場合は,90%で1000万円,10%で⚐円であるから,

(0, 0)と(1, 1)を結んだ点線上の900万円のところになる点Bになるが,

これは確率加重関数がない場合である。確率加重関数は点Bに対して点Cの 効用(価値)に修正されることを意味する。従って,点Aの効用が保険時,

点Cの効用が無保険時ということになる。点Cの効用を超えている限りは手 数料や利益が掛かっても保険に入る効用の方が大きいのである。

図⚗は,⚔%で1000万円が当たる宝くじである。期待値は40万円である。

この場合,リスクなしの確実な40万円の効用の方が下に来るため,期待値40 万円での比較であれば,宝くじを購入するのが合理的ということになる。た だし,さほど効用は変わらないため,印刷費や販促費などが加わり販売価格 が高くなるとすれば成立しない可能性は高い。

図⚘は,価値関数の違いによって,保険もしくはギャンブルがどのように 選択されるかを示したものである。図を一目した方がわかりやすいが,一応 説明することにする。図⚘で重要な点は微分不能な⚒点での位置関係である。

確率が⚐に近い点で確率加重関数が上に来ればギャンブルの存在余地があり,

確率が⚑に近い点で確率加重関数が下に来れば保険の存在余地がある。そし て,確率が⚐に近い微分不能な点よりも小さい確率では,合理的に確率が⚐

と認識されるためギャンブルの余地はない。確率が⚑に近い微分不能な点よ りも確率が大ならば,合理的に確率が⚑と見なされるため,保険の余地はな

(13)

い。

⚗.結 論

本稿の一番の新規性は⽛図⚕ 価値関数と確率加重関数⽜であると考えて いる。上記で説明したとおり,合理的根拠に基づいて示されるので,それを 用いた結果も合理的なものであると考えられる。また,図⚕では,価値関数 と確率加重関数のように表すことができると示し,ギャンブルと保険の領域 が明確に分けられることを示した。同条件の効用関数もしくは価値関数では,

同じ確率において保険とギャンブルが同時に成立しないことを示した。図⚘

からわかるように,⽛これ以下だとゼロだと見なされる確率⽜の点で確率加 重関数が価値関数を上回らないほどリスク回避的な価値関数を持つ個人は,

ギャンブルをする余地はない。逆に,ゼロと見なされる極小の事故確率など では保険の余地はない。

⚘.まとめ

本稿では,プロスペクト理論の価値関数と確率加重関数を⚑つの図にまと めることによって直感的な理解ができることを示した。また,簡単なアンケ ートではあるが,その結果を踏まえて,合理的で代表的な個人を想定して確 率加重関数を考えると,微分不能な点が⚒点発生することを示した。そのこ とから,その⚒点の確率での価値関数と確率加重関数の位置関係を見ること で,保険とギャンブルのどちらが合理的であるかを確認できることを示した。

確率加重関数が直線ではなく曲線になる理由が合理的であるか否かを現在の 所は理解できていないが,直線で考えたとしても結論には影響しないため,

合理性に基づいた判断のみで保険とギャンブルの関係が言える。

プロスペクト理論は各所で指摘されているように様々な問題点がある。例 えば,岡(2013)では,基数的効用はもはや必要なく序数的効用で十分であ るとされている(p. 1)。基数的効用では,完備性,推移性,独立性,連続性 を前提としているが,本稿の議論でもいくつかが根拠を持って否定されてい

(14)

る。また,数学的に過度に厳しい条件をおくことの不必要さは十分に理解で きる。しかし,少なくとも本稿で出された例では,プロスペクト理論に基づ き直感的にグラフ化できることが示された。図⚕にある⽛夢⽜の効用,⽛悪 夢⽜の効用は根拠のある効用上昇・低下である。図⚕で筆者が付け加えた部 分の微分不能な⚒点は本稿のパラドックスの議論には影響していない。なぜ ならば,確率が無視される部分の関係する点が過去の議論に出てこないから である。とはいえ,Gonzalez and Wu(1999)の各所や Neilson and Stowe (2002)の p. 35にあるような確率加重関数の逆 S 字カーブの形状には合理的 根拠があるとは考えられないため,合理性に基づき微分不能な形状で示すこ とにした。

紙幅の制限もあって多岐にわたる議論をすることはできなかったが,今後 の課題としてはサーベイが全く足りていないことから,その充実が挙げられ る。また,合理性について歯切れの悪い部分についても今後の課題としたい。

参考文献

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図⚑ 価値関数

(Kahneman and Tversky (1979) p. 279,図⚓を参考に,筆者が加筆) 図⚒ 確率加重関数

(横軸:客観的確率,縦軸:主観的確率)

(Kahneman and Tversky (1979) p. 283,図⚔を参考になるべく忠実にグラフの 形状を再現した上で筆者が加筆)

(16)

左図は,点A,点 B2,点Dと右図の点 B1,点Cを移したものである。右図の 図⚔ アレのパラドックスの図示

(筆者作成)

図⚓ ベルヌーイの効用関数

(英語訳 1954 p. 26の図を基に筆者が簡略化)

(17)

確率加重関数は左図の確率加重関数を縮小したものであるが,煩雑になるた め左図に移していない。よって,点 B1,点Cは左図の曲線上にはない。

U(A)

􀀾􀀾

U(B1)

􀀫􀀫

U(B2),U(C)

􀀼􀀼

U(D)になっていればアレのパラドック スが成立する。この図の意味は図⚕の部分の説明をお読み頂きたい。

図⚕ 価値関数と確率加重関数

(プロスペクト理論を基に筆者が作成)

横軸:確率と金額(最低金額を⚐,最高金額を⚑と置く),縦軸:効用(もしくは 価値)

(18)

図⚖ 保険の合理性

図⚗ ギャンブルの合理性

(筆者が作成)

(筆者が作成)

(19)

縦軸は効用もしくは価値,横軸は利得と確率的利得を示している。縦軸横 軸のいずれも,最小値を⚐,最大値を1.0と置いている。

(筆者は京都外国語大学外国語学部非常勤講師) 図⚘ 選好の違いによるギャンブルと保険の選択

(筆者が作成)

参照

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