地方公務員就任権と国籍用件 : 外国人公務員東京 都管理職選考受験訴訟最高裁判決
その他のタイトル Droit d'acces aux fonctions publiques et nationalite
著者 村田 尚紀
雑誌名 關西大學法學論集
巻 55
号 1
ページ 106‑138
発行年 2005‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/12336
X は
︑
一九
七
0年
に准
看護
婦資
格︑
一九
八六
年に
看護
婦資
格︑
一九八八年に保健婦資格をそれぞれ取得し︑同年四
ー '
の外国人である︒Xの母は日本人であったが︑
X は
︑
地方公務員就任権と国籍要件
事 実 の 概 要
一九
五
0年に岩手県で出生し︑日本において義務教育を受け︑高等学校︑専門学校を卒業した大韓民国籍
一九三五年日本において朝鮮人と結婚し︑内地戸籍から除籍されて朝 鮮戸籍に入籍し︑日本国との平和条約の発効に伴い日本国籍を喪失した︒同様に︑Xも右条約の発効に伴い︑日本国 籍を喪失したものである︒Xは︑﹁日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特 例法﹂(‑九九一年法律第七一号︶に定める特別永住者である︒
月に東京都に保健婦として採用された︒東京都は一九八六年に保健婦の採用の要件からいわゆる国籍条項を撤廃して いたが︑Xは︑外国人としては初めて東京都に保健婦として採用された者であった︒
村
︹ 判 例 批 評 ︺
田
(1 )
外国人公務員東京都管理職選考受験訴訟最高裁判決││'
10
六
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10
六 ︶
紀
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一九八八年四月に東京都日野保健所に保健婦として配属され︑
②東京都における管理職
︑ ー ー
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10
七
一九九三年四月から主任として東京都八王子保健所西保健相談所に配属され︑
東京都事案決定規程には︑知事の権限に属する事務に係る決定権限の合理的配分と決定手続を定める︵一条︶︑
事案の決定は︑当該決定の結果の重大性に応じ︑知事又は出納長若しくは局長︑部長若しくは課長が行うものと する︵三条︶︑右に基づき知事又は出納長若しくは局長︑部長若しくは課長の決定すべき事案は︑おおむね同規
︵四条︶︑と定められており︑右別表には︑決定事項の種類に応じてそれぞれの 東京都における管理職には︑右のほかに次長︑技監︑理事︵局長級︶︑参事︵部長級︶︑副参事︵課長級︶等の
職がある︒こうした管理職は︑基本的には︑それぞれ決定権限をもっているが︑そのほかにも︑計画の企画や専 門分野の研究を行うなど︑スタッフとして職務を行う決定権限そのものを直接的に有しない管理職員も若干存す ただし︑東京都においては当該管理職の職種による人事管理は行われておらず︑例えば医化学の区分で選考に
合格して管理職に任用されると︑その後の昇任に伴って︑そのまま従来の医化学系の分野にだけ従事するものと は限らず︑その他の分野の仕事にも担当が及んでいくとともに︑職員の人事管理事務︑事業の進行管理をする事 地方公務員就任権と国籍要件
るのが実情であった︒ 職層に属する決定権限の内容・範囲が定められている︒ 程の別表に定めるとおりとする
同所で保健婦として勤務していた︒
Xは ︑
一九九三年四月から四級職にあった︒ 一九九二年︱一月に主任試験に合格し︑ X
は ︑
(1
0七 ︶
一九九三年三月まで同所で勤務した︒X
は ︑
(1) 〔3〕
てい
る︒
を有することが加えられた︒ の職種の職務に従事する者で︑
一九
九四
年三
月一
0日︵木︶までに所属長に提
載され︑その数年後︑最終的な任用選考を経て管理職に任用される︒
(1
0八 ︶
務等の管理的な事務に就くことがある︒なお︑東京都においては管理職選考試験に合格すると︑候補者名簿に登 東京都人事委員会の﹁平成六年度管理職選考実施要綱﹂は︑知事︑公営企業管理者︑議会議長︑代表監査委員︑
教育委員会︑選挙管理委員会︑海区漁業調整委員会又は人事委員会が任命権を有する職員に対する課長級の職へ の第一次選考について規定するものであり︑
X
の受験しようとした選考の種別
A
の受験資格については﹁別表
1
満の者︒ただし︑すでに
Aを三回受験できた者は除く︒﹂︑受験手続については﹁受験の申込みは︑所属長から申
込書の配付︵二月中旬の予定︶を受け︑必要事項を記入のうえ︑
出する方法により行う︒﹂とそれぞれ定められ︑保健婦は︑右別表
1に記載されていた職種の︱つであった︒ま
た︑﹁平成七年度管理職選考実施要綱﹂においては︑右と同様の規定が置かれているほか︑受験資格に日本国籍 務処理を依頼し︑各任命権者がそれぞれの職場に伝達して人事記録の送付︑受験申込みの取次等の事務が行われ
管理職選考の実施に関しては︑東京都人事委員会が実施要網を定め︑知事︑公営企業管理者等の任命権者に事 東京都における管理職選考
関 法 第 五 五 巻
一号
一九九五年三月末日現在︑四級職にあり︑かつ︑その在職期間が二年以上五年未
10
八
五年度試験が実施済みであり︑
(5〕 拒否されたことについて慰謝料の支払を求めた︒
Xは ︑
東京
都は
︑
Xは︑東京都人事委員会が実施する一九九四年度管理職選考の種別
A
の技術系医化学を受験することとし︑
九四年三月一0
日︑申込書を東京都八王子保健所副所長に提出しようとしたが︑右副所長は︑日本国籍を有しない職 員はそのような職に就くことができないので︑
Xに受験資格はないとして︑右申込書の受取りを拒否した︒このため︑
Xは︑同年五月二二日に実施された箪記考査を受験することができなかった︒
一九九五年度において︑同年度管理職選考実施要綱及び受験申込書用紙を
Xに配付せず︑このため︑X
は同年五月二八日に実施された筆記考査を受験することができなかった︒
一九九五年度および一九九六年度に実施される右試験の受験資格の確認を求めるとともに︑過去二度受験を
(2 )
第一審
1 1
東京地裁一九九六︵平成八︶年五月一六日判決は︑
X
のなした受験資格確認の訴えについては︑
一九九六年度試験については口頭弁論終結時点で実施要綱が決定されていないため具 体的な権利義務についての紛争がないから︑確認の利益がないとした︒また︑
X
の慰謝料請求の訴えについて︑第一 審は、外国人に対して憲法二二条•一四条一項の規定の適用があるとしても、これらの基本的人権は、その性質上、
国民王権の原理と抵触しない限りにおいてその保障が及ぶにすぎず︑外国人については︑直接的︑間接的に国の統治 作用にかかわる職責を有する公務員に就任することが憲法上保障されていないから︑
Xが管理職選考試験を受験でき
なかったとしても地公法一三条および一九条違反があるとはいえないとして︑
X
の請
求を
棄却
した
︒
地方公務員就任権と国籍要件
〔4〕
10
九
(1
0九 ︶
一九
九 一 九
(b) (a) 〔6〕
第 五 五 巻 一 号
(
︱
1 0
)
( 3 )
これに対して︑控訴審
1 1
東京高裁一九九七︵平成九︶年︱一月二六日判決は︑おおむね次のような法的構成を示
外国人の職業選択の自由
﹁憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は︑権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解され るものを除き︑外国人にも等しく及び︑憲法第二二条第一項の職業選択の自由︑第二二条の幸福追求の権利︑第
︱四条第一項の平等原則の規定についても︑原則として︑その保障が及ぶものというべきである﹂︒
国民王権と公務就任権
﹁国民王権の原理の下における国民とは︑日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らか である﹂︒したがって︑憲法一五条一項の規定は︑その権利の性質上日本国民のみをその対象としたものであり︑
憲法九三条二項は︑国民主権の原理およびこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨にかんがみ︑かつ︑地方公 共団体が国の統治機構の不可欠の要素をなすものであることを併せ考えると︑そこにいう﹁住民﹂とは︑地方公 共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味すると解するのが相当である︒もっとも︑憲法のこれらの規定は︑
日本に在住する外国人について︑公務員に選任され︑就任することを禁止したものではないから︑国民主権の原 理に反しない限度において日本に在住する外国人が公務員に就任することは︑憲法上禁止されていないものと解 すべきである︒そして︑国民王権原理は﹁単に公務員の選定罷免の場面についてのみ日本国民が関与すれば足り るとするのではなく︑我が国の統治作用が実質的に主権者である日本国民によって行われること︑すなわち︑我 が国の統治作用の根本に関わる職務に従事する公務員は日本国民をもって充てられるべきことを要請しているも
した
︒
関法︱
10
のと
いう
べき
であ
る﹂
︒
のと
解さ
れる
﹂︒
外国人の公務就任権
国家公務員は︑①﹁国の統治作用である立法︑行政︑司法の権限を直接に行使する公務員︵例えば︑国会の両 議院の議員︑内閣総理大臣その他の国務大臣︑裁判官等︶﹂②﹁公権力を行使し︑又は公の意思の形成に参画す ることによって間接的に国の統治作用に関わる公務員﹂︑③﹁それ以外の上司の命を受けて行う補佐的・補助的 な事務又はもっぱら学術的・技術的な専門分野の事務に従事する公務員﹂とに大別できる︒このうち①について は︑外国人がこれに就任することは国民主権原理に反し︑憲法上許されない︒②については︑﹁これも︑国の統 治作用に関わる職務に従事するものではあるが︑その関わりの程度は︑第一の種類の公務員に較べれば間接的で あり︑しかも︑その職務内容は広範多岐にわたり︑関わりの程度も強弱様々であるから︑憲法が︑そのすべての 公務員について︑これに就任するには日本国民であることを要求していて︑外国人がこれに就任することを一切 認めていないと解するのは相当でなく﹂︑﹁国民主権の原理に照らし︑外国人に就任を認めることが許されないも のと外国人に就任を認めて差支えないものとを区別する必要がある﹂︒③については︑﹁その職務内容に照らし︑
国の統治作用に関わる蓋然性及びその程度は極めて低く︑外国人がこれに就任しても︑国民主権の原理に反する おそれはほとんどない﹂︒このように﹁外国人が就任することのできる職種の公務員については︑我が国に在住 する外国人に対しても︑これへの就任について︑憲法第二二条第一項︑第一四条第一項の各規定の保障が及ぶも 以上は︑外国人の地方公務員就任についても原則的に妥当する︒地方自治の重要性にかんがみれば︑﹁我が国に在
(c)
地方公務員就任権と国籍要件
︵ 一
︱
‑ )
許される管理職とを分別して考える必要がある﹂︒
︵ 一
︱ 二
︶ 住する外国人であって特別永住者等その居住する区域の地方公共団体と特段に密接な関係を有するものについては︑
その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させ︑また︑自らこれに参加して いくことが望ましいものというべきである﹂︒﹁したがって︑我が国に在住する外国人︑特に特別永住者等の地方公務 員就任については︑国の公務員への就任の場合と較べて︑おのずからその就任し得る職務の種類は広く︑その機会は
外国人の地方公務員管理職就任権
﹁憲法は︑我が国に在住する外国人が国民主権の原理に反しない限度で地方公務員に就任することを禁止する ものではないが︑地方公務員の中でも︑管理職は︑地方公共団体の公権力を行使し︑又は公の意思の形成に参画 するなど地方公共団体の行う統治作用に関わる蓋然性の高い職であるから︑地方公務員に採用された外国人が日 本国籍を有する者と同様当然に管理職に任用される権利を保障されているとすることは︑国民主権の原理に照ら して問題があるといわざるを得ない﹂︒しかしながら︑管理職の職務も広範多岐に及ぶのであり︑﹁公権力を行使 することなく︑公の意思の形成に参画する蓋然性も少ない管理職を含めてすべての管理職について︑国民主権の 原理によって外国人をこれに任用することは一切禁じられていると解することは相当でなく︑ここでも︑職務の 内容︑権限と統治作用との関わり方及びその程度によって︑外国人を任用することが許されない管理職とそれが 以上のような法的構成に基づいて︑控訴審は次のように本件を判断した︒
﹁控訴人が受験しようとした管理職選考は︑被控訴人の職員として採用された者のうち︑知事︑公営企業管理
(d)
多くなるものということができる﹂︒
関 法 第 五 五 巻
一 号
多数意見の法的構成は︑おおむね次のとおりである︒ 〔1〕
判旨 慰謝料請求を認容した︒そこで︑東京都が上告した︒ 措置は憲法二二条一項︑ 者︑議会議長︑代表監査委員︑教育委員会︑選挙管理委員会︑海区漁業調整委員会又は人事委員会が任命権を有する職員に対して︑課長級の職への第一次選考としてされるものであり︑右管理職選考に合格した場合は︑候補者名簿に登載され︑数年後︑最終的な任用選考を経て︑課長級の職に昇任することになっているのである﹂︒﹁課長級の職に昇任するためには︑管理職選考を受験する必要があるのであり︑しかも︑(⁝⁝)課長級の管理職の中にも︑外国籍の職員に昇任を許しても差支えないものも存在するというべきであるから︑外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは︑外国籍の職員の課長級の管理職への昇任の途を閉ざすものであり︑憲法第二二条第一項︑第一四条第一項に違反する違法な措置であるといわなければならない﹂︒
すなわち︑控訴審は︑Xが一九九四年度および一九九五年度管理職選考試験を受験できなくなるに至った東京都の
むね以下の通りである︒
多数意見 ︱四条一個に違反する違法なものであるとし︑Xの受験資格確認請求については棄却したが︑
二0
五年一月二六日最高裁大法廷判決は︑原判決を破棄自判し︑0Xの請求を全面的に退けた︒その判旨は︑おお
地方公務員就任権と国籍要件
~
︵︱ ‑
三 ︶
が最終的な責任を負うべきものであること (c) 反
する
もの
でも
ない
﹂︒
(a)
この点について︑地公法は︑明文の規定をおいていないが︑﹁普通地方公共団体が︑法による制限の下で︑条
普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇上の差別の合憲性 例︑人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではない﹂︒
﹁普通地方公共団体は︑職員に採用した在留外国人について︑国籍を理由として︑給与︑勤務時間その他の勤
務条件につき差別的取扱いをしてはならないものとされており︵労働基準法三条︑
条三項︶︑地方公務員法二四条六項に基づく給与に関する条例で定められる昇格︵給料表の上位の職務の級への
変更︶等も上記の勤務条件に含まれるものというべきである︒しかし︑上記の定めは︑普通地方公共団体が職員
に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されない
とするものではない︒また︑そのような取扱いは︑合理的な理由に基づくものである限り︑憲法︱四条一項に違
公権力行使等地方公務員の職務の性格と国籍要件
﹁住民の権利義務を直接形成し︑その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い︑若しくは普通
地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い︑又はこれらに参画することを職務とする﹂地方公務員︵公権力
行使等地方公務員︶
の職務の遂行は︑﹁住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである︒それゆえ︑
国民主権の原理に基づき︑国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民
︵憲
法一
条︑
一五条一項参照︶に照らし︑原則として日本の国籍を有 一般職の地方公務員に在留外国人を任命することの可否 関
法 第 五 五 巻
一号
︱︱二条︑地方公務員法五八 ︱︱
四
︵ ︱
‑ 四
︶
︱︱ 五
する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり︑我が国以外の国家に帰属
し︑その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは︑
本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである﹂︒
d 普通地方公共団体が日本国民である職員に限って管理職に昇任させることの合理性
﹁普通地方公共団体が︑公務員制度を構築するに当たって︑公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するの
に必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用
を図ることも︑その判断により行うことができるものというべきである︒そうすると︑普通地方公共団体が上記
のような管理職の任用制度を構築した上で︑日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることと
する措置を執ることは︑合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するもの
であり︑上記の措置は︑労働基準法三条にも︑憲法︱四条一項にも違反するものではないと解するのが相当であ
る︒そして︑この理は︑⁝⁝特別永住者についても異なるものではない﹂︒
多数意見は︑以上のような法的構成に基づいて︑次のように本件を判断した︒
﹁︹本件︺当時︑上告人においては︑管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させると
いう任用管理を行っておらず︑管理職に昇任すれば︑いずれは公権力行使等地方公務員に就任することのあるこ
とが当然の前提とされていたということができるから︑上告人は︑公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職
のほか︑これに関連する職を包含する一体的な管理職の任用制度を設けているということができる﹂︒﹁上告人に
おいて︑上記の管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して︑職員が管理職に昇任するため
地方公務員就任権と国籍要件
︵ ︱
‑ 五
︶
の資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても︑合理的な理由に基づいて日 本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり︑上記の措置は︑労働基準法三条にも︑
憲法︱四条一項にも違反するものではない︒原審がいうように︑上告人の管理職のうちに︑企画や専門分野の研 究を行うなどの職務を行うにとどまり︑公権力行使等地方公務員には当たらないものも若干存在していたとして も︑上記判断を左右するものではない﹂︒原判決のうち上告人敗訴部分破棄︒同部分についての被上告人の控訴 本件では︑外国人一般ではなく︑特別永住者の公務就任権が問題となっていることから︑その点に藤田補足意
見は次のように触れる︒﹁入管特例法の定める特別永住者の制度は︑それ自体としてはあくまでも︑現行出入国
一定範囲の外国籍の者に︑出入国管理及び難民認定法︵以下﹁入管法﹂という︒︶二条 の二に定める在留資格を持たずして本邦に在留︵永住︶することのできる地位を付与する制度であるにとどまり︑
これらの者の本邦内における就労の可能性についても︑上記の結果︑法定の各在留資格に伴う制限︵入管法一九 条及び同法別表第一参照︶が及ばないこととなるものであるにすぎない﹂︒したがって︑法律上︑特別永住者に︑
他の外国籍の者と異なる︑日本人に準じた何らかの特別な法的資格が与えられているわけではない︒﹁我が国現 管理制度の例外を設け︑ a 藤田宙靖裁判官の補足意見は︑おおむね次のとおりである︒
特別永住者制度の法的意味 図︺藤田宙靖裁判官の補足意見
却 棄
︒ 関
法 第 五 五 巻
一号
︱︱
六
︵ 一
︱ 六
︶
(b)
︵例
えば
︑
行法上︑地方公務員への就任につき︑特別永住者がそれ以外の外国籍の者から区別され︑特に優遇さるべきもの とされていると考えるべき根拠は無く︑そのような明文の規定が無い限り︑事は︑外国籍の者一般の就任可能性 の問題として考察されるべきものと考える﹂︒
外国人の公務就任権
︱︱
七
外国人の公務就任権について︑多数意見は明確な判断を示していない︒この点について︑藤田補足意見は︑次 のように述べる︒﹁①外国人に公務員への就任資格︵以下﹁公務就任権﹂という︒︶が憲法上保障されているこ とを否定する理由として理論的に考え得るのは︑必ずしも︑⁝・・・国民主権の原理のみに限られるわけではない
一定の職域について外国人の就労を禁じるのは︑それ自体一国の主権に属する権能であろう︒︶こと︑
また︑②﹃憲法上︑外国人には︑公務員の一定の職に就任することが禁じられている﹄ということは︑必ずしも︑
理論的に当然に﹃こうした禁止の対象外の職については︑外国人もまた︑就任する権利を憲法上当然に有する﹄
ということと同義ではないこと︑更に︑③職業選択の自由︑平等原則等は︑いずれも自由権としての性格を有 するものであって︑本来︑もともと有している権利や自由をそれに対する制限から守るという機能を果たすにと どまり︑もともと有していない権利を積極的に生み出すようなものではないこと﹂等にかんがみると︑原審の国 民王権の原理に反しないかぎりで外国人にも公務就任権が保障されるとする考え方には︑﹁幾つかの論理的飛躍﹂
があるように思われ︑﹁我が国憲法上︑そもそも外国人に︵一定範囲での︶公務就任権が保障されているか否か︑
という問題は︑それ自体としては︑なお重大な問題として残されていると言わなければならない﹂︒もっとも︑
本件は﹁既に正規の職員として採用され勤務してきた外国人が管理職への昇任の機会を求めるケースであって︑
地方公務員就任権と国籍要件
︵ 一
︱ 七
︶
い地方公共団体の行政組織権および人事管理権
︵例えば︑将来において被上告人と
︵一
︱八
︶ このような場合に︑労働基準法三条の規定の適用が排除されると考える合理的な理由の無いことは︑多数意見の 言うとおりであるから﹂︑この残された問題の帰趨は︑本件の解決に直接関係がない︒
﹁その具体的な範囲をどう取るかは別として︑いずれにせよ︑少なくとも地方公共団体の枢要な意思決定にか かわる一定の職について︑外国籍の者を就任させないこととしても︑必ずしも違憲又は違法とはならないことに ついては︑我が国において広く了解が存在する﹂︒﹁原審は︑管理職に在る者が事案の決定過程に関与すると言っ ても︑そのかかわり方及びかかわりの程度は様々であるから︑上告人東京都の管理職について一律に在留外国人 の任用を認めないとするのは相当ではなく︑上記の基準により︑在留外国人を任用することが許されない管理職 とそれが許される管理職とを区別して任用管理を行う必要がある︑という︒もとより︑そのような任用管理を行 うことは︑人事政策として考え得る選択肢の︱つではあろうが︑他方でしかし︑外国籍の者についてのみ常にそ のような特別の人事的配慮をしなければならないとすれば︑全体としての人事の流動性を著しく損なう結果とな る可能性があるということもまた︑否定することができない︒こういったことを考慮して︑上告人東京都が︑
般的に管理職への就任資格として日本国籍を要求したことは︑それが人事政策として最適のものであったか否か はさておくとして︑なお︑その行政組織権及び人事管理権の行使として許される範囲内にとどまるものであった︑
ということができよう﹂︒﹁在留外国人に管理職就任の道を制度として開くかどうかは︑独り被上告人との関係の みでなく︑在留外国人一般の問題として考えなければならないことであって 同様の希望を持つ在留外国人が多数出て来た場合には︑そのすべてについて同様の扱いをしなければならないこ
関 法 第 五 五 巻
一号
︱︱
八
る
金谷利廣裁判官の意見は︑おおむね次のとおりである︒
a
③ 金 谷 利 廣 裁 判 官 の 意 見
とになる︶︑こういったことをも考慮するならば︑上告人東京都が︑本件当時において外国籍の者一般につき管 理職選考の受験を拒否したことが︑直ちに︑法的に許された人事政策の範囲を超えることになるとは︑必ずしも 言えず︑また︑少なくともそこに過失を認めることはできない﹂︒
外国人の公務就任権
︱︱
九
多数意見が沈黙し︑藤田補足意見が判断を留保しつつ︑本件と直接関係がないと位置づけた外国人の公務就任 権の問題について︑金谷意見は︑次のように述べる︒﹁公務員︵地方公務員を含む︒︶制度をどのように構築する かは国の統治作用に重大な関係を有すること︑公務員の種類は多種多様で︑その中には︑外国人が就任すること が国民主権の原理からして憲法上許容されないと解されるもの⁝⁝や外国人の就任が不相当なものが少なくない こと︑また︑外国人にも就任を認めるのが妥当であるか否かは当該具体的職種の職務内容︑人事運用の実態等に より左右されること︑さらには︑これまでの内外の法制の歴史等にかんがみると︑日本国民に対し解釈上認めら れる憲法上の公務員就任権の保障は︑その権利の性質上︑外国人に対しては及ばないものと解するのが相当であ
︵国の基本法である憲法において公務員の職種を区別してその一部については外国人の公務員就任権を保障し ていると解することは︑明文の規定がない以上︑妥当であるとは思われない︒︶︒憲法は︑外国人に対しては︑公 務員就任権を保障するものではなく︑憲法上の制限の範囲内において︑外国人が公務員に就任することができる
地方公務員就任権と国籍要件
︵ 一
︱ 九
︶
い外国人採用に関する地方公共団体の裁量権 上田豊三裁判官の意見は︑おおむね次のとおりである︒
印上田豊二裁判官の意見
か つ
︑
第 五 五 巻 一 号
こととするかどうかの決定を立法府の裁量にゆだねているものというべきである﹂︒
外国人を一般の地方公務員に就任させることの可否について︑地公法上明文規定がないから︑﹁地方公共団体 は︑外国人を当該地方公共団体の職員に採用できることとするか否かについて︑裁量により決めることができ る﹂︒この裁量権は︑﹁一定の職種のみに限って外国人に公務員となる機会を与えることはもちろん︑職務の内容 と責任を考慮し昇任の上限を定めてその限度内で採用の機会を与えること︑さらには︑
一定の昇任の上限を定めてその限度内で採用の機会を与えることも許されると解されるのであって︑その 判断については︑裁量権を逸脱し︑あるいは濫用したと評価される場合を除き︑違法の問題を生じることはない
と解される
︵こ
の点
関に
する
詳細
につ
いて
︑は
上田
裁判
官の
意見
援を
用す
る︒
︶﹂
︒ 外国人の公務就任権について︑上田意見は︑金谷意見と同様の立場をとる︒すなわち︑憲法は︑在留外国人に
公務就任権を保障するものではなく︑在留外国人を公務員に就任させることの可否を立法府の裁量に委ねており︑
地公法は︑在留外国人の地方公務員への就任について明文の規定をもっておらず︑この点を各地方公共団体の裁
量に委ねていると解するのである︒労基法三条は︑﹁経営者による事業の種類・規模の選択に当たっては制約原 固外国人採用に関する地方公共団体の裁量権
関法
︱ 二
O
一定
の職
種の
みに
限り
︑
( ︱
二
O )
こと
にな
ろう
﹂︒
理としては働かないのであり︑同様に︑地方公共団体が在留外国人の地方公務員制度を構築するに当たっても︑
在留外国人の地方公務員への就任に関する地方公共団体の裁量の限界について︑上田意見は次のように解する︒
すなわち︑地方公共団体が︑ある職種について在留外国人の就任を認めるかどうかという裁量として行使したと ころが︑﹁地方公務員法を中心とする地方公務員制度全体から見ておよそ許容することができないと思われる場 合には︑裁量の限界を超えていると解することになる︒例えば︑地方公務員のうち︑地方公共団体の公権力の行 使に当たる行為若しくは地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い︑又はこれに関与する者について︑解釈 上︑その就任に日本国籍を有することを必要とするものがあるとされる場合に︑地方公共団体がそのような地方 公務員にも在留外国人の就任を認めることとしたとき︵すなわち︑在留外国人への門戸を開放しすぎた場 合⁝⁝︶には︑裁量の限界を超えていると解することになる︒また︑逆に︑例えば︑在留外国人については︑そ の給与を特段の事情もないのに初任給程度に限定することとし︑そのような級に相当する職務を専ら行うものと 位置付けて地方公務員への就任を認めることとしたような場合︵すなわち︑門戸の開放が極端に狭い場合⁝⁝︶
には︑在留外国人を蔑視し︑在留外国人に苦痛のみを与える制度として︑あるいは在留外国人の労働力を搾取す る制度として構築したものとして地方公務員制度上のいわば公序良俗に反し︑裁量の限界を超えていると解する 地方公務員就任権と国籍要件
閲外国人採用に関する地方公共団体の裁量権の限界 同条は制約原理として働かないものと解すべきである﹂︒
( ︱ ニ ︱ )
(b) 滝井繁男裁判官の反対意見の法的構成は︑おおむね次のとおりである︒
︵同
法一
六一
以条
下︶
﹂︒
こ﹁
れら
の者
︑は
滝井反対意見は︑公務就任権の法的性質について︑次のように述べる︒﹁我が国実定法は︑
する選挙権及び被選挙権については日本国民に限定してこれを付与しているが︑そうであるからといって︑参政 権の側面を持つ権利のすべてについて︑国民主権の原理からの帰結として当然に︑その保障が日本国民に限られ ることになるというものではない﹂︒﹁本件で問題になっているのは︑選挙権︑被選挙権のように︑その憲法上の 保障が日本国民に限られることが国民主権の原理から帰結される権利ではなく︑ある公務に就くことができるか どうかの資格である︒すべての公務員の選任は︑終局的には国民の意思に懸かるべきものであって︑その意味で その選任に参政権的な側面があるとしても︑すべての公務員に就任するについてその職務の性質を問うことなく︑
国民王権の原理の当然の帰結として日本国籍が求められているというものではないのである﹂︒
公権力行使等地方公務員の地位 公権力の行使にかかわるとされる地方公務員の地位について︑滝井反対意見は︑次のように述べる︒﹁我が国 の地方公共団体にはその意思決定機関として議会が置かれている一方で︑執行機関は︑地方公共団体の事務を自 らの判断と責任において誠実に管理し︑執行する義務を負うとされているところ
口
( ︱
二 二
︶
︵地
自方
治法
一三
条八
の二
︶︑
法規定上︑その名において執行する権限を有するのは︑知事︑市町村長等の長又は行政委員会だけであって︑副
知事︑助役︑その他の補助職員は長を補助するにとどまるものである い公務就任権と国民主権 印︺滝井繁男裁判官の反対意見
関 法 第 五 五 巻
一号
一定の公務員に関
IC! 国籍の者を排除する必要があるかどうかについて基準となるべき主権の行使への関与の度合いの高いものを選び 民主的効率的な公務員制度や人事行政を実現することなどの見地から設けたものであって︑ある職の就任から外 定しているとまでいうことはできない﹂︒﹁管理職は︑各地方公共団体が具体的な任用制度を構築するに当たり︑ 助機関への就任について︑長への就任と同じく日本国籍を要求することを国民主権の原理から当然に法体系が想 のも︑その性質の相違によるものである︒その職務の住民生活へのかかわり方に重要性があるからといって︑補 公選によることを保障し︑その余の公務員については公選によることにするかどうかを立法政策にゆだねている 助機関の地位は︑長のそれとは質的に異なるものである︒憲法九三条二項が︑地方公共団体の長に限り︑住民の いるのである︒したがって︑その関与する仕事が重要なものであっても︑主権の行使との関係でみる限りは︑補 法規定上︑地方公共団体の長がその判断と責任において行う事務の執行を補助するものとしてその任に当たって 外国人が地方公共団体の長の補助機関に就任するについての地方公共団体の裁量権
﹁国民王権の原理に基づく制約がない職であっても︑そのすべてについて外国人が当然にその職に就任するこ とができる資格を認めなければならないというわけではない﹂︒﹁執行機関は地方公共団体の事務を誠実に管理し︑
執行すべきところ︑それが適切に行われることについては︑住民の理解と支持を得ることが必要であって︑公務 における外国人の影響の排除を求める住民の一般的規範意識や公務員観からみて︑法律によって︑ある種の職に 就任するについては日本国籍を有することを要件と定めることはできる﹂︒﹁ある職にどのような人材を配するか は︑その仕事の内容と職員の資質を勘案し︑個別具体的に検討し決定されるべきものであって︑その判断は法律 地方公務員就任権と国籍要件
出して定めたというようなものではない﹂︒
~
(︱ 二
三 ︶
用管理ができないとは到底考えられないのである﹂︒ に反しない限り︑使用者の広い裁量にゆだねられている﹂︒
以上のような法的構成に基づいて︑滝井反対意見は︑本件を次のように判断する︒
( ︱
二 四
︶
﹁職員の昇任における不平等な取扱いもそのことに合理的な理由があれば差別となるものではないが︑その合 理性は使用者において明らかにすべきところ︑本件において上告人はそれを明らかにしているとはいえない︒な ぜならば︑仮に地方公共団体の長の補助職員の中に法体系上日本国籍を有することを要件とすることが想定され る職のあることを是認し得るとしても︑そのことからすべての管理職を日本国籍を有する者でなければならない とすることにまで合理性があるとし︑管理職選考において一律に外国人である職員を排除することもできると解 するのは相当でなく︑ほかに︑上記の措置を執らなければ任用制度の適正な運用ができないことなどは明らかに
﹁今日︑地方公共団体の扱う職務は私企業のそれと差異のみられない給付行政的なものに拡大し︑本来的には 非権力的行政といわれるものが多くみられるようになってきており︑職務全般における権力性は減少しているた め︑公務員職の概念にも変容がみられるのであって︑今日の国民の規範意識に照らせば︑国民主権の見地から︑
その能力を度外視して外国人であるというだけの理由で排除しなければならないと考えられる職は限られたもの であると考える︒したがって︑相当数ある管理職の中には日本国籍を有する者に限って就任を認め得るものがあ るとしても︑そのために管理職の選考に当たって︑すべて日本国籍を有する者に限定しなければその一体的な任
﹁管理職に就くことの適否は︑職員本人の資質︑能力等によって決せられるべきところ︑上告人においては︑
されていないからである﹂︒
関 法 第 五 五 巻
一号
︱二
四
とカ 公務員になることを制限しておらず︑
い特別永住者の地方公務員就任権 〔6〕
︱二 五
管理職選考に合格し︑任用候補者名簿に登録された後︑最終的な選考を経て管理職に任用されるのは数年後のこ とであるというのであって︑その間に合格した職員が管理職としての資質等を備えているかどうかについては十 分観察し︑吟味する機会がある﹂︒﹁本件で問題となった管理職選考は︑管理職に昇任する候補者の選考の段階と もいうべきものであって︑管理職としての適性の有無を判定するという見地からみても︑日本国籍を有しないこ とを理由に一律に排除するまでの必要性は認められないのである﹂︒
泉徳治裁判官の反対意見 泉徳治裁判官の反対意見の法的構成は︑おおむね次のとおりである︒
泉反対意見は︑
いわゆる権利性質説の立場を明確にし︑公務就任権の法的性質を次のように論じる︒﹁憲法三 章の諸規定による基本的人権の保障は︑権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き︑
我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶと解すべきである⁝⁝︒そして︑憲法︱四条一項が保障する法の 下の平等原則は︑外国人にも及ぶ⁝⁝︒また︑憲法二二条一項が保障する職業選択の自由も︑特別永住者に及ぶ と解すべきである﹂︒﹁国家主権を有する国が︑法律で︑特別永住者に対し永住権を与えつつ︑特別永住者が地方 ことを考えれば︑特別永住者は︑地方公務員となることにつき︑日本国民と平等に扱われるべきであるというこ
一応
肯定
され
る﹂
︒ 地方公務員就任権と国籍要件
一方︑憲法に規定する平等原則及び職業選択の自由が特別永住者にも及ぶ
( ︱
二 五
︶
第 五 五 巻 一 号
国民王権は︑﹁統治権を行使する主体が︑統治権の行使の客体である国民と同じ自国民であること 宜上﹁自己統治の原理﹂と呼ぶこととする︒︶を︑その内容として含んでいる﹂︒﹁地方公共団体が︑自己統治の 原理に従い自治事務を処理・執行するという目的のため︑特別永住者が一定範囲の地方公務員となることを制限 する場合には︑正当な目的によるものということができ︑その制限が目的達成のため必要かつ合理的な範囲にと どまる限り︑上記制限の合憲性を肯定することができると解される﹂︒ただし︑﹁地方公共団体が︑自己統治の原 理から特別永住者の就任を制限できるのは︑自己統治の過程に密接に関係する職員︑換言すれば︑広範な公共政 策の形成・執行・審査に直接関与し自己統治の核心に触れる機能を遂行する職員︑及び警察官や消防職員のよう に住民に対し直接公権力を行使する職員への就任の制限に限られるというべきである︒自己統治の過程に密接に 関係する職員以外の職員への就任の制限を︑自己統治の原理でもって合理化することはできない﹂︒
︵こ
をれ
便 憲法第八章の規定を受けて︑地自法一
0条は︑住民が地方自治の運営の主体であることを定めており︑この住
民には日本国民でない者も含まれる︒﹁特別永住者が通常は生涯にわたり所属することとなる共同社会の中で自 己実現の機会を求めたいとする意思は十分に尊重されるべく︑特別永住者の権利を制限するについては︑より厳 格な合理性が要求される﹂︒﹁特別永住者の法的地位︑職業選択の自由の人格権的側面︑特別永住者の住民として の権利等を考慮すれば︑自治事務を適正に処理・執行するという目的のために︑特別永住者が自己統治の過程に 密接に関係する職員以外の職員となることを制限する場合には︑その制限に厳格な合理性が要求されるというべ
きである﹂︒すなわち︑﹁具体的に採用される制限の目的が自治事務の処理・執行の上で重要なものであり︑かつ︑ 固特別永住者の地方公務員就任権の制約の合理性
関法
︱二 六 ( ︱ 二 六
︶
〔1〕 の 職 ﹄
評釈
︵地
方公
務員
法三
二条
及び
三六
条参
照︶
﹂︒
︱二
七
この目的と手段たる当該制限との間に実質的な関連性が存することが要求され︑その存在を地方公共団体の方で 論証したときに限り︑当該制限の合理性を肯定すべきである﹂︒
泉反対意見は︑以上のような法的構成に基づいて︑本件を次のように判断する︒すなわち︑本件管理職選考の場合︑
﹁選考対象の範囲が極めて広く︑﹃課長級の職﹄がすべて自已統治の過程に密接に関係する職員であると当然にいう ことはできない﹂︒また︑﹁もともと︑課長級の職員も︑地方公務員の一員として︑政治的行為をすることを禁じられ ているとともに︑その職務を遂行するに当たって︑法令︑条例︑地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定め る規程に従い︑かつ︑上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない義務を負っていることに留意すぺきである
﹁自己統治の原理に従い自治事務を処理・執行するという目的を達成する手段として︑特別永住者に対し﹃課長級 への第一次選考である本件管理職選考の受験を拒否するということは︑上記目的達成のための必要かつ合理的 範囲を超えるもので︑過度に広範な制限といわざるを得ず︑その合理性を否定せざるを得ない﹂︒
問題の所在
地方公共団体の管理職についての外国人の就任権が争点となった本件では︑まず論理的に外国人の人権享有主体性 が憲法上の問題となるが︑周知のように外国人の人権享有主体性それ自体を否定する見解は完全に克服され︑学説・
判例は権利性質説に収緻し︑この問題は決着済みであるといってよい︒本件で権利性質説の立場を明言しているのは
地方
公務
員就
任権
と国
籍要
件
( ︱
二 七
︶
もっばら参政権とみることは妥当ではない︒ 任権が外国人には保障されないと解する場合︑任用権者の裁量の有無と限界が問題となる︒ 公務就任権が外国人にも保障されると解する場合には︑その保障の限界が問題となる︒他方︑権利の性質上︑公務就 ならば︑公務就任権がそもそも憲法上保障されているのかということとその法的性質が問題になる︒権利の性質上︑ 第二審だけであるが、第一審•上告審とも、同説を前提にしているといってよいであろう。権利性質説を前提にする 公務就任権の憲法上の根拠
公務に就任する資格︑あるいは公務員に就任する機会を保障してもらう権利という意味の公務就任権は︑日本国憲 法上明文規定はないが︑これが憲法上保障されていると解することについて︑とくに争いはないようにみえる︒しか し︑その憲法上の根拠と性質については︑十分検討されてこなかった嫌いがある︒
(︱
二八
︶
一口
に公
務と
まず憲法上の根拠について︑学説は︑参政権が単に公務員の選定・罷免権にとどまるのではなく︑みずからが公務 員となって政策決定・執行にたずさわる権利をも含むと解し︑公務就任権を参政権に位置づける見解︵参政権説と呼 ぶことにする︶と︑公務の多様性からして公務就任権をもっぱら参政権として位置づけることに批判的でむしろ職業 選択の自由として位置づけるべきとする見解︵職業選択の自由説と呼ぶことにする︶とに大別される︒
いっても︑少なくともいわゆる執政と行政との違いはたしかに無視できないであろう︒したがって︑公務就任権を もっとも︑この参政権か職業選択の自由かという論点自体は︑あくまで憲法上の根拠という形式的な問題にすぎず︑
ここでの問題にとっていまだ決め手にならないともいえる︒参政権説をとる場合でも︑参政権という権利の性質をど
〔2〕
関 法 第 五 五 巻
一号
︱二
八
のように捉えるかによって︑公務就任権の外国人への保障の有無や程度は異なる結論に至るはずである︒他方︑職業 選択の自由説をとる場合︑たしかに職業選択の自由は外国人にも保障されるといえるにしても︑職業選択の自由の意 義や公務という職業の特殊性の捉え方によって外国人の公務就任の可否や程度は変わりうる︒実際︑本件第一審・第 二審・泉反対意見は︑いずれも職業選択の自由説をとっているにもかかわらず︑前者と後二者との間で結論が異なる
ので
ある
︒
︱二 九
そこで︑外国人の公務就任権という問題は︑参政権ないし職業選択の自由の性質と意義︑﹁国民﹂︑﹁住民﹂︑国民主 権︑地方自治の趣旨︑公務などの解釈に委ねられることになる︒
職業選択の自由の性質と意義 本件で︑最高裁多数意見は︑外国人の公務就任権が憲法上保障されているか否かについて明言を避けており︑公務 就任権の憲法上の根拠や性質についても見解を明らかににしていない︒藤田補足意見も︑同様に判断を留保しつつ控 訴審の﹁論理的飛躍﹂を指摘するにとどまっている︵二③固︶︒同補足意見によれば︑本件は︑公務就任権ではなく 管理職への昇任の機会の保障が問題となるケースであるから︑以上の問題に答えるまでもないという︒本件を採用後 の処遇にかかわる差別の合理性の問題とみる多数意見も︑おそらくこのような見解に同調するものであろう︒しかし︑
これには疑問が残る。なぜなら、公務就任と管理職昇任との峻別は、多数意見•藤田補足意見が留保した問題の解明 がなければ不可能であるからである︒少なくとも公務就任権の憲法上の根拠と性質︑意義が明らかでなければ︑それ と管理職就任権との違いには答えようがないはずである︒
〔3〕
地方公務員就任権と国籍要件
( ︱
二 九
︶
一三
〇
一 ︵
三
0 )
そこで注目されるのが泉反対意見である︒みられるように︵二⑯い︶︑同意見は明確に職業選択の自由説をとって
一般に自由権は当然外国人にも保障されるから︑職業選択の自由説をとれば︑公務就任 権は原則として外国人にも保障されるということになる︒ここまでは︑泉反対意見ほど明確ではないにせよ︑控訴審 も同旨といえよう︒泉反対意見がさらに注目されるのは︑職業選択の自由に人格権的側面があることを捉えている点 である︒職業選択の自由が単なる経済的自由ではなく︑個人の人格的発展に不可欠な権利でもあると解する見解は通 説といってよく︑最高裁も﹁職業は︑人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに︑分業社会に おいては︑これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し︑各人が自己のもつ個性
(4 )
を全うすぺき場として︑個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである﹂と述べて認めるところである︒し たがって︑泉反対意見は別段斬新な創見ではないが︑本件でこの点を指摘したことはやはり注目に値する︒なぜなら︑
このような職業選択の自由の性質と意義の把握を前提にして︑職業選択の自由説をとるならば︑公務就任権の制約の 違憲審査基準としては︑厳格な合理性の基準が妥当であることになるからである︒実際︑泉反対意見は︑この基準を 職業選択の自由説に対する批判として注目されるのは︑藤田補足意見の控訴審判決批判である︒職業選択の自由は
自由権であるから︑これによって公務就任の機会の提供を請求することはできないというのがその批判の趣旨である︒
この批判は︑古典的な人権類型論を前提にしているようである︒人権を自由権と社会権︑前国家的権利と後国家的権 利というように分類する人権類型論は︑個別・具体的な人権解釈に硬直化をもたらすものとして︑かねてから批判さ
れている︒個々の人権の解釈にとって︑前国家的権利か後国家的権利か︑自由権か社会権かといった択一的思考は有 適用しているのである︒ いる︒権利性質説によれば︑
関 法 第 五 五 巻
一号