はじめに
自 動 体 外 式 除 細 動 器(automated external defibrillator:AED)の普及に伴い,院外心停止 の予後は改善し1,2),医療施設ではAED設置台数 が増加してきている3).AEDの使用数が増加する につれて,AEDがショック適応波形をショック 不要と判断する事例が報告されている4~6). 当院では心電図モニター付きAED(Philips社 HeartStart FR3およびFR2)を採用している(図 1).蘇生中の心電図波形を確認可能であり,必 要があればマニュアルモードへ切り替えて電気 ショックを行うことができる.当院で行ってき たAED使用事例の事後検討会において,AEDの 解析に問題はなくても,心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)をショック不要と判断した事 例を経験したので報告する.症例
症例1 症例 患者:80 歳代,女性.現病歴:拡張型心筋無脈性心室頻拍
岸森 健文 小菅 邦彦 井上 豪 関 淳也 犬塚 康孝 武田 晋作 竹内 雄三 岡田 正治 池口 滋 要 旨院内心停止で自動体外式除細動器(automated external defibrillator:AED)がショック不要と判断した中に 3 例の心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)が含まれていた.事後検証で解析システムには問題がないとわ かった.医療関係者は,AEDによる解析の限界を認識しておく必要がある.また,心電図モニターをいち早く患 者に装着し,必要に応じてマニュアル除細動器を手配することが求められる.心電図モニター付きAEDを設置し ている施設では,マニュアルモードに切り替えて電気ショックをする方法に習熟しておく必要がある. 〔日内会誌 105:2221~2229,2016〕 ポイント ・AEDは無脈性VTをショック不要と判断することがある. ・ 院内心停止では,いち早く患者に心電図モニターを装着し,心電図波形を確認する必要が ある. ・ 心電図モニター付きAEDでは,医師が心電図波形を確認し,マニュアルモードに切り替え て電気ショックをすることができる.
Key words 心停止,心肺蘇生,心室頻拍,AED
〔第209回近畿地方会(2015/09/12)推薦〕〔受稿2016/05/11,採用2016/06/20〕 滋賀県立成人病センター循環器内科
Case Report;Pulseless ventricular tachycardia that AED never indicated shock delivery.
Takefumi Kishimori, Kunihiko Kosuga, Takeshi Inoue, Junya Seki, Yasutaka Inuzuka, Shinsaku Takeda, Yuzo Takeuchi, Masaharu Okada and Shigeru Ikeguchi:Department of Cardiology, Shiga Medical Center for Adults, Japan.
症,糖尿病,末期腎不全で当院通院中であった. 臨床経過 慢性心不全の急性増悪で緊急入院となった. 入院後 1 カ月が経ち,心不全の状態は安定し, 心臓リハビリテーションを受けていた.午前 8 時の朝食配膳時にはバイタルサインや意識状態 に異常は認めなかった.8時25分に看護師が訪 室したところ,心停止となっていたため,心肺 蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)が 開始された.AEDの解析ではショック不要で あったが,循環器内科医師により単形性VTと判 断されてマニュアルモードへ切り替えて電気 ショックが行われた.3 回目の電気ショックで 自 己 心 拍 再 開(return of spontaneous circula-tion:ROSC)が得られた. 症例2 症例 患者:60歳代,男性.現病歴:腹部臓器腫瘍 で当院通院中であった. 臨床経過 全身倦怠感を主訴に受診し,消化器内科に入 院した.翌日の採血で心筋逸脱酵素の上昇が認 められたため,循環器内科医師の診察を受け た.症状や心電図変化はないが,心エコーで心 尖部の壁運動低下があり,急性冠症候群が疑わ れた.本人と家族に緊急心臓カテーテル検査の 説明中に心停止となり,CPRが開始された.AED の心電図モニターでは単形性VTが確認された が,解析ではショック不要と判断された.循環 器内科医師によりマニュアルモードに切り替え られて電気ショックが行われた.1 回目の電気 ショックでROSCを得た.冠動脈造影で左冠動脈 前下行枝近位部の完全閉塞が認められ,同部位 に薬剤溶出性ステントが留置された. 症例3 症例 患者:30歳代,女性.現病歴:腹部臓器腫瘍 で当院通院中であった. 図1 当院採用のAED(Philips社HeartStart FR3) 外観 心電図モニター付
臨床経過 加療目的に入院した.看護師が訪床した際に 心停止を確認し,CPRが開始された.AEDの解 析結果はショック適応であり,充電が開始され たが,ショック直前にAEDにより電気ショック がキャンセルされた.循環器内科医師により多 形性VTと判断され,マニュアルモードに切り替 えて電気ショックが行われてROSCが得られた. 直後に再度心停止となり,心電図上は心室細動 (ventricular fibrillation:VF)であった.2 回目 の電気ショックでROSCが得られた.ROSC後昏 睡状態であったため,低体温療法を含む集中治 療が行われた.
考察
症 例 を 提 示 し た 3 例 か ら,VTで はAEDが ショック不要の判断をする可能性があることが 示された. Philips社HeartStartシリーズではSMART anal-ysis algorithmが解析システムに導入されてい る.このシステムでは解析中に心電図の心拍 数,伝導性,安定性,振幅の4種のパラメーター に基づいてショック適応を判断している.心拍 数は 135/分以上を認めた際にショックの必要 性が高いと判断される.伝導性は心電図のQRS 波を評価しており,QRS幅が広くなると伝導性 不良と評価されて電気ショックの必要性が高ま 図2 症例1のAED心電図波形 ショック不要と判断 マニュアルモードへ変更 電気ショックる.安定性は心電図のR-R間隔を評価しており, R-R間隔が不整になると安定性が低いと評価さ れて電気ショックの必要性が高まる.振幅が 100 μV以下の波形では心静止(asystole)とみ なされ,電気ショックの適応外と判断される. また,解析後に波形が変化した場合はショック キャンセル機能が働く仕組みになっている. 今回の3例について,Philips社にAEDの検証を 依頼した.症例 1 では,図 2に示すような単形 性VT,心拍数 125/分,伝導性不良,波形安定, 振幅 100 μV以上の心電図を認めた.心拍数が 135回/分以下で,安定性が高いことからショッ ク不要と判断された.症例 2 では,図 3に示す ような単形性VT,心拍数 250/分,伝導性不良, 波形安定,振幅 100 μV以上の心電図を認めた. この症例では安定性が高いことからショック不 要と判断された.症例 3 では,図 4に示すよう な多形性VT,心拍数214/分,伝導性不良,安定 性不良,振幅 100 μV以上の心電図を認めた. AEDはショック適応と判断して充電が開始され たが,波形変化を認めたことでショックキャン セル機能が働きショックされなかった.いずれ の症例でもAEDの判断に問題はなかった. 落合らは,ショック適応のある心電図波形に 対してAEDがショック不要と判断した 2 例につ いて検討している6).使用されたAEDはPhilips社 のHeartStartであった.症例 1 はVTであったが, 心拍数が100~150/分と少なかったことで電気 ショック不要と判断された.症例 2 は単形性VT であったが,心拍数不足のためショック不要と なった.また,次の解析では電気ショック適応 と判断されたが,充電中に振幅が低下したため にショックがキャンセルされた.牛田らは,AED の心電図解析 4 回目で電気ショック適応と判断 された心室細動について報告している7).使用 されたAEDは日本光電のTEC-2313であった.心 図3 症例2のAED心電図波形 マニュアルモードで充電開始 電気ショック
電図波形はVFであったが,このAEDで採用され ている解析システムの基準の 1 つである,心拍 数120~600/分を超える心拍数と判断されたた めにノイズの混入が疑われて電気ショック不要 と判断された.矢部らは,ペースメーカーがAED の心電図解析に影響を与えた事例について報告 している8).使用されたLaerdal社のHeart Start 3000 にはペーシング波形へのフィルター機能 が付加されておらず,VFであるにもかかわら ず,ペーシング波形を患者のQRS波とAEDが認 識したために,電気ショック不要と判断された. AEDがショック適応波形をショック不要と判 断した事例は大規模調査からも明らかにされて きた.総務省消防庁による調査4)では,平成 21 ~23年度までの調査期間に計421件のAED不具 合が報告された.ショック適応ありを不要と判 断した症例が 143 件(34%),ショック適応な しを必要と判断した症例が 44 件(10%)報告 され,残りの234件はその他の不具合であった. Macdonaldらは,院外心停止でAEDが用いられ た 3,448 件について,VF/VTの感度が 81.0%, 特異度が 99.9%であり,陽性的中率が 99.6%, 陰性的中率が 95.5%と報告している5).ショッ ク適応ありを不要と判断したのは 130 件であっ た.大規模調査から,ショック適応波形にショッ ク不要と判断する事例がAED不具合の3分の1を 占め,AED使用事例数全体の3.7%であることが 示された. AEDの解析システムは,AHA(American Heart Association),AAMI(Association for the
Advance-図4 症例3のAED心電図波形 電気ショック マニュアルモードで充電開始 マニュアルモードへ変更 ショック必要と判断 ショックキャンセル 波形変化
ment of Medical Instrumentation) に よ る 基 準 (表)を満たすように設計されている9).ショッ ク不要の心電図のうち,AEDがショック不要と 判断する割合(特異度)を高くすることが求め られる.洞調律で 99%を,asystoleで 95%を超 えるように勧告されている.一方で,ショック 適応の心電図のうち,AEDがショック適応と判 断する割合(感度)は比較的低くなっている. VFの感度は 90%を超えるように勧告されてい るが,VTは 75%と低くても許容される.基準 は,市民によってAEDが使用されることを念頭 に, シ ョ ッ ク 不 要 の 際 にAEDが 誤 っ て 電 気 ショックをすることのないように工夫されている. ショック適応であるVF/VTのうち,心拍数が 135/分以下や安定性が高い例では心停止では ない可能性を除外できず,ショック不要と判断 されるように設定されている.AEDの判断に問 題がない以上,AEDを使用する際には解析の限 界を認識する必要がある.また,急変時には心 電図モニターをいち早く患者に装着して心電図 波形を確認し,必要に応じてマニュアル除細動 器を手配することが求められる.心電図モニ ター付きAEDを設置している施設では, 電気 ショックの適応となる心電図波形を認めた場合 に,マニュアルモードに切り替えて電気ショッ クをする方法に習熟しておく必要がある.
おわりに
AEDは市民の使用を念頭に置いて,安全のた め特異度を上げているという性質上,本症例で 示した 3 例のような事例は存在し得るものであ る.AEDを自施設に設置している医療関係者は, AEDによる波形判読の限界を認識し,各施設に あるAEDの特性を理解したうえでの対応を検討 しておく必要がある. 謝辞 当院のAED使用事例における事後解析を担っ てくださっている,滋賀県立成人病センター臨床工学部 の大野進氏,領毛一雅氏に心からの謝意を表する.ま た,本症例の検討は,平成 27 年度まで当院の初期臨床 研修医であった,京都大学医学部附属病院皮膚科の堀口 (小藪)亜有未氏に協力していただいた. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし Rapid VT 50 >75% sensitivity >75% 67% Nonshockable 300 total NSR 100 minimum(arbitrary) >99% specificity >99% 97% AF, SB, SVT, heart block,idioventricular, PVCs 30(arbitrary) >95% specificity >95% 88% Asystole 100(for safety) >95% specificity >95% 92% Intermediate
Fine VT 25 Report only -
-Other VT 25 Report only -
-VF:ventricular fibrillation, VT:ventricular tachycardia, NSR:normal sinus rhythm, AF:atrial fibrillation, SB:sinus bradycardia, SVT:supraventricular tachycardia, PVCs:premature ventricular contractions
文 献
1) 総務省消防庁:平成 27 年版救急・救助の現況.
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h27/12/271222_houdou_2.pdf(参照 2016.4.17) 2) Kitamura T, et al : Nationwide public-access defibrillation in Japan. N Engl J Med 18 : 994―1004, 2010. 3) 近藤久禎:AEDの普及状況に係わる研究.
http://aed-hyogo.sakura.ne.jp/wpm/archivepdf/23/2_11a.pdf(参照 2016.04.17) 4) 近藤久禎,他:消防機関においてAEDの不具合が疑われた事例に関する研究.
http://aed-hyogo.sakura.ne.jp/wpm/archivepdf/21―23/2_11b.pdf(参照 2016.4.17)
5) Macdonald RD, et al : Performance and error analysis of automated external defibrillator use in the out-of-hospi-tal setting. Ann Emerg Med 38 : 262―267, 2001.
6) 落合香苗,他:ショック適応のある心電図波形に対してAEDがショック不要と判断した 2 例.日救急医会誌 22 : 125―132, 2011. 7) 牛田美鈴,他:AEDの心電図解析 4 回目で除細動適応と判定された心室細動の 1 例.日救急医会誌 20 : 361―366, 2009. 8) 矢部充英,他:ペースメーカーと干渉してAEDが作動しなかった院外心停止の 1 症例.日救急医会誌 19 : 1047― 1051, 2008.
9) Kerber RE, et al : Automatic External Defibrillators for Public Access Defibrillation : Recommendations for Speci-fying and Reporting Arrhythmia Analysis Algorithm Performance, Incorporating New Waveforms, and Enhanc-ing Safety. Circulation 95 : 1677―1682, 1997.
【当科の概要】 滋賀県の基幹施設として,虚血性心疾患と不 整脈のインターベンション治療を 2 つの大きな 柱に,急性期治療から心臓リハビリテーション などの慢性期治療まで幅広く対応しています. 虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症などの血管 内治療はカテーテル治療を行い,また,大動脈 に対するステントグラフト挿入術も行っていま す.慢性完全閉塞病変や左主幹部病変などの難 易度の高い症例も治療しています.一方,不整 脈は不整脈アブレーションやICD,CRTDをはじ めとするデバイス治療を行っています.難易度 の高い慢性心房細動に対するアブレーション治 療経験も豊富です.PCI,PTA,アブレーショ ン,デバイス治療などの内科的手術(Kコード) の総数は滋賀県下有数の症例数です. 当科では心臓血管外科と協力して 1 年 365 日 24時間心臓救急を受け入れています.カンファ ランスを通じて治療方針を決定し,ハートチー ムとして治療を行っています.さらに,平成28 年 4 月からは循環器内科,心臓血管外科,脳外 科,看護部,臨床工学部が協力して,心臓・脳・ 血管センターが発足しました.複数の診療科・ 診療部門で多職種チームを組み,高度専門医療 を行います. 【診療態勢】 病床数 47 床,医師数 9 名(主任部長 2 人,部 長 1 人,スタッフドクター5 人,後期研修医 1 人),外来 1 日 3~4 診. 【研修内容と到達目標】 病院全体として初期研修医を受け入れていま す.がん,心臓病,脳卒中を中心とした高度治 療,高齢者治療に高い専門性があります.現時 点で 2018 年度に開始が予定されている新しい 内科専門医制度にも基幹病院として登録予定で す.当科は心血管治療と不整脈治療の両方の専 門医療を経験し,急性期から慢性期まで対応で きる実力ある後期研修医を養成し,内科専門 医,循環器専門医習得が可能です. 心・血管・脳センターのスタッフ一同