実送電用鉄塔を対象とした動態観測(その 5 ) 減衰特性の分析
(一財)電力中央研究所 正会員 ○佐藤 雄亮
〃 正会員 高畠 大輔
〃 正会員 石川 智巳
1.はじめに
電力中央研究所では、送電用鉄塔の風・地震応答や 微風域での部材振動、ギャロッピング等の大振幅の電 線応答に伴う応答特性を解明することを目的として、
高さ
142m
の実機UHV
送電用鉄塔に動態観測システム を設置し、観測を実施してきている。動態観測システ ムのセンサー配置と、鉄塔の線路方向と方位との関係 を図1
と図2
にそれぞれ示す。本報告では、鉄塔頂部 の加速度応答を用いて、風応答特性のうち、減衰特性 に着目して観測データを分析した。2.減衰の評価方法
観測では、線路方向と線路直交方向のそれぞれにつ いて、サーボ式加速度計を用いて鉄塔頂部の加速度応 答を観測している。分析対象としたデータは、鉄塔頂 部の 10 分間平均風向から、線路方向と線路直交方向の 風が一定時間継続する 1 日とした。対象とした 1 日の 平均風向の推移を、線路方向と線路直交方向のそれぞ れについて図 3 に示す。
減衰特性の評価には、Random Decrement Technique
(RD 法)を用いた。RD 法では、外力を期待値ゼロのラ ンダム確率過程と仮定する。通常の減衰範囲では構造
図 1 センサー配置
物の応答が狭帯域ランダム過程となるため、応答の時 刻歴波形を極大値を始点として重ね合わせることで、
ランダム成分の和がゼロに近づき、自由振動成分のみ が得られる。本報告では、10 分間平均風速との対応を 評価するため、10 分間毎の加速度波形からバンドパス フィルターにより 1 次モード付近の波形を抽出して自 由振動波形を作成した。作成した波形から減衰を評価 する際は、フィルター処理などの影響を考慮して、最 初の 2 つの極大値を無視し、3 つ目の極大値から 10 点 の極大値を分析対象として、減衰定数と固有振動数を 算出した。
3.RD 法で求めた固有振動数と減衰定数
固有振動数の評価結果と平均風速を 10 分間毎に時系 列で並べたものを、線路方向と線路直交方向のそれぞ れで図 4 と 5 に示す。同図から、線路直交方向は、平 均風速が 20m/s を超える7時付近で変化するが、それ 以外の時間帯では風速によらず、固有振動数は 0.77Hz 付近の値となった。これに対して、線路方向は、4 時ま でと 19 時以降は、風速が小さく、風向が線路方向から ずれているため、振動数の変化が大きい傾向が見られ る。また、風速 10m/s 以上で、線路方向と風向が一致 している時間帯では、固有振動数は概ね 0.7~0.75Hz の値となり、線路直交方向よりも小さな値となった。
線路方向では、電線振動による張力の変動や隣接鉄塔 の影響を受けるため、固有振動数に変化が生じると 考えられる。
次に、線路方向と線路直交方向のそれぞれについて、
図 2 線路方向と方位の関係
塔体加速度
部材加速度 風向・風速計
観測局舎 地震計
電線張力・
振れ角
部材軸力
ITVカメラ
塔高 塔体加速度 142m
部材加速度 風向・風速計
観測局舎 地震計
電線張力・
振れ角
部材軸力
ITVカメラ
塔高 142m
ギャロッピング 発生時の 腕金応答に着目
微風時発生する 部材振動に着目
a脚
b脚
c脚 d脚
線路方向 線路直交方向
北
東
南 西
若番側
老番側 2L側
1L側
電線
31度
キーワード 送電用鉄塔、動態観測、減衰特性、固有モード
連絡先 〒270-1194 千葉県我孫子市我孫子 1646 TEL:04-7182-1181 E-mail: satoy@criepi.denken.or.jp 土木学会第69回年次学術講演会(平成26年9月)
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減衰定数と平均風速の関係を図 6 に示す。同図から、
風速によらず減衰定数にはばらつきがあるが、概ね 0.04 以下の値となっていることがわかる。風速への依 存性は、線路方向で、風速の増加に伴い減衰定数の下 限値が増加している傾向が見られるが、増加量は大き くない。それぞれの方向での減衰定数の平均値は、線 路方向で 0.0189、線路直交方向で 0.0179 となった。こ の値は、同じ鋼管鉄塔を対象として得られた既存デー タと、ほぼ同等の値となった。
4.まとめ
本報告では、実送電用鉄塔の常時観測データを対象 に、RD 法を適用して、固有振動数と減衰特性を分析し た。分析の結果、線路方向では 0.7~0.75Hz 付近、線 路直交方向では 0.77Hz 付近に、1 次モードの固有振動 数があることがわかった。また、減衰定数の平均値は、
線路方向で 0.0189、線路直交方向で 0.0179 となり、既 存データと同等の結果が得られた。
今後は、対象データを追加するとともに、振幅依存 性の影響に着目したデータ分析も実施していく。
謝辞
本観測を実施するにあたり、東京電力(株)様にご 協力をいただきました。ここに記して感謝の意を表し ます。
参考文献
1)
実送電用鉄塔を対象とした動態観測(その1)、佐 藤雄亮他、第66
回土木学会年次学術講演会大会概 要集、2011
2) RD
法による構造物のランダム振動時の減衰評価、田村幸雄他、日本建築学会構造系論文報告集、第
454
号、pp.29-38、1993.12図 3 分析対象とした 1 日の 10 分間平均風向の時間変化
図 4 固有振動数の分析結果(線路方向)
図 5 固有振動数の分析結果(線路直交方向)
(a) 線路方向 (b) 線路直交方向
図 6 減衰定数と平均風速の関係 0
90 180 270 360
0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00
風向(度)
時間
線路 線路直交
0.4 0.6 0.8 1
0 10 20 30
0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 振動数(Hz)
風速(m/s)
時間 平均風速 振動数
0.4 0.6 0.8 1
0 10 20 30
0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 振動数(Hz)
風速(m/s)
時間 平均風速 振動数
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
0 5 10 15 20 25
減衰定数
平均風速(m/s)
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05
0 5 10 15 20 25
減衰定数
平均風速(m/s)
線路直交方向
線路方向
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