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鹿児島湾・西桜島水道における残差流構造と海水交換

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Academic year: 2022

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(1)

上層(平均水面下11.8m)での生流速データの東西方向 成分と南北方向成分,残差流の南北方向成分vのイソプ レッソ,上下層(それぞれ平均水面下11.8, 31.8m)で のvの経時変化を図-2に示す.なお,vは北向きが正であ り,また本論文では25時間移動平均流速を残差流と見な している.この結果を見ると,観測地点の潮流は,東西 方向成分に比べて南北方向成分が卓越しており,さらに 南北方向の潮流の大きさは,潮位変動の振幅の大きさに 応じて変化していることがわかる.また,9月以外の期 間において,残差流の鉛直分布は,「上層流出,下層流 入」のパターンを示しており,潮差が小さくなるにつれ て,上下層の流速差が大きくなる傾向が見て取れる.風 とエクスチェンジ・フローとの相関は見られないこと

(図示省略)から,得られた残差流は密度流である可能 性が高いと言える.さらに,後述するように観測期間中,

北湾から南湾にかけて水温の水平勾配はほとんどなかっ たことから,上記の密度流は塩分の空間勾配によって形 成されたものと推察される.なお,潮流と残差流のいず れについても南北方向成分が卓越していることから,残 差流についての上記の検討は流速の南北方向成分のみを 対象に行っている.

simulations were carried out and it was confirmed that the residual currents at the strait were induced by the horizontal gradient of baroclinic pressure formed by the salinity distribution.

1. 本研究の目的

鹿児島湾において,桜島よりも南側の海域は「南湾」, 北側の海域は「北湾」と呼ばれている(図-1参照).北 湾と南湾とを繋ぐ西桜島水道は,最狭部の幅が約1.9km と狭く,北湾の海水は停滞しやすいことから,北湾は特 に有害赤潮が発生しやすい領域となっている(安達ら,

2009a).1977年以降,鹿児島湾では有害赤潮がしばしば

発生しているが,西桜島水道を通じた南湾と北湾との海 水の交換は,北湾の水環境や有害赤潮形成を支配する重 要な要素と考えられている.しかしながら,西桜島水道 ではフェリー等の船舶の往来が頻繁で,しかも流れや水 深も比較的大きいことから,これまで西桜島水道での海 水交換機構を明らかにするための現地調査は全く行われ ていない.

以上のような背景の下,本研究では西桜島水道を通じ た南湾と北湾の海水交換機構を明らかにするために,西 桜島水道に超音波流速分布計(ADCP)を設置し,流況 の連続観測を実施した.さらに,3次元流動シミュレー ションを行い,残差流の空間構造や形成メカニズムにつ いて考察を行なった.

2. 現地観測の概要と結果

西桜島水道における北緯31°34′57″,東経130°35′

0 6″の海底に(図 -1参照,平均水深約3 7 m),A D C P

(RDI社製ワークホース300kHz)を設置し,水平流速の 鉛直分布を2m間隔に計測した.観測期間は2007年9月

11日から2008年1月31日であり,観測期間中には,流

速観測地点周辺のSTD観測をほぼ1ヶ月に1回の頻度で 実施した.結果の例として,鹿児島港での潮位データ,

1 正会員 博士(工) 鹿児島大学准教授大学院理工学研究科 海洋土木工学専攻

元 第十管区海上保安本部海洋情報部

図-1 鹿児島湾と観測地点

(2)

3. 3次元流況数値シミュレーションの概要

(1)モデルの概要

以上のような西桜島水道における流況の観測結果を検 証データとして,3次元流動シミュレーションを行った.

基本的なモデルの内容は,安達ら(2009b)と同一であ る.図-3に示すように,鹿児島湾全域を計算領域として,

2007年1月1日から2008年1月31日までの期間について シミュレーションを実施した.適用したモデルにおいて 西桜島水道の最狭部は,空間格子により8分割されてい る.なお,上述のように比較的長い計算期間を設定する ことで,異なる初期条件を与えても検証期間(2007年9 月〜2008年1月)になると,ほぼ一致した計算結果が得 られることが確認されている.したがって,本シミュレ ーションの結果においては,初期条件に含まれる誤差は 排除されていると判断できる.

(2)密度成層の取り扱い

鹿児島湾の湾口部では,外海の黒潮フロントの離接岸 によって水温が変動しており,これに伴うバロクリニッ ク圧の水平勾配の変化によって密度流が形成されている

(安達ら, 2008,2009b).このような湾口部の流動を適切 に再現するために,安達ら(2009b)は,比較的高頻度 に測定された湾口での表層水温,ならびに毎月1回実施 されているSTD観測の結果を利用して,混合期における 湾口での水温の境界条件を推定した.このような推定手 法により,混合期における残差流が比較的良好に再現さ れているが,本研究では,混合期だけでなく成層期も対 象となっている.混合期における湾口での水温の鉛直構 造は比較的単純であり,また外海の海水の水温が長期間 にわたり湾内水の水温よりも高いため,密度流を精度よ く再現できる境界条件の設定は比較的容易である.一方,

成層期の水温の鉛直分布は混合期よりも複雑であり,し 図-2 観測結果の経時変化

(上から,鹿児島港潮位,上層(平均水面下11.8m)での流速の東西,南北成分,

残差流成分vのイソプレッソ,上下層(それぞれ平均水面下11.8, 31.8m)でのv)

(3)

かも湾口の残差流は,湾内と外海との水温差の相対的な 関係によって,「上層流入,下層流出」,「上層流出,下 層流入」とそのパターンを数日間隔で入れ替えている.

したがって,成層期における湾口での水温の境界条件を,

現状の観測データのみから推定することは容易でないと 考えられた.

一方,本研究が対象とする期間における,西桜島水道 付近の水温の水平構造を調べてみると,表層と水深10m のデータしか存在しないものの,北湾から南湾にかけて の水温は水平方向にほとんど変化していないことが分か った(http://kagoshima.suigi.jp/index.aspx,鹿児島県水産 技術開発センター).参考のために,図-4に地点1〜5

(図-1参照)にかけての水温の分布を示す.9月において は湾奥に行くにしたがって,表層水温は高温となってい るが,それ以外では水温の水平偏差はほとんどないこと が分かる.また,9月においても水深10mの水温は水辺

方向にほとんど変化していことが確認できた.

以上の検討により,北湾と南湾の海水交換を考えた場 合には,対象期間の密度分布に対して水温成層の影響は 塩分よりも相対的に小さいと考えられた.このため,本 研究の数値シミュレーションでは,水温成層を考慮せず,

塩淡成層のみを考慮し,水温の水平分布の影響について は,現地観測結果を用いて考察することにした.

湾口における塩分の境界条件については,連続観測の 結果が存在しないので,実測値に基づいて一定値を湾口 で与えた.湾口水位については,安達ら(2009b)と同 様に,潮位観測地点・枕崎での6分潮(M2, K1,O1, S2, M4, MS4)の調和定数を用いて湾口での潮位変動を再現 した.さらに,流速の境界条件については連続流出条件 を与えた.なお,実際の潮位の変動には,年周期の成分 も含まれているが,このような水位の長期変動成分は流 れの計算結果にはほとんど影響を及ぼさないことが確認 されている.

(3)河川流量の条件

安達ら(2009b)と同様に,タンクモデルにより河川 流量を推定し境界条件として与えた.鹿児島湾に流入す る全河川の総流量の経時変化を図-5に示す.

図-3 メッシュ分割

図-5 タンクモデルによって推定した河川流量の経時変化

図-6 西桜島水道における残差流の計算結果

(4)

4. 3次元流動数値シミュレーションの結果

(1)観測結果と計算結果の比較

計算結果として,図-6に西桜島水道における水深9.3m

と33.7mにおける残差流の南北方向成分のシミュレーシ

ョン結果を示す.この結果を見ると,シミュレーション 結果の残差流の鉛直分布は,「上層流出,下層流入」の パターンを示していることが分かる.さらに潮差が小さ くなるにつれて,上下層の流速差が大きくなる傾向を再 現しており,9月以外の期間において,計算結果は観測 結果の定性的な傾向を十分に再現できている.また,定 量的に見ても,10/15以降の残差流の計算結果は良好に観 測結果を再現していることが分かる.

なお,前述の水産技術開発センターによる観測データ を用いて高温水の貫入を調べたところ,1/8においてのみ,

地点1(図-1参照)の東岸側に高温水が存在しているこ とが確認された.安達(2009b)によって,混合期にお いて,湾内水よりも水温の高い黒潮フロントが湾口に接 岸すると,南湾の東岸に沿って高温水が貫入することが 示されているが,1/8においては湾口からの高温水の貫入 があったと考えられる.

(2)9月の観測結果についての考察

地点1と5の水温が比較的大きな差をもつ9/11では,湾 奥に行く程表層水温は高くなっているが,仮にそのよう な水温の水平構造によって密度流が補正されたとして も,上記シミュレーションにおいて再現された「上層流 出,下層流入」の残差流パターンがより強化されるだけ だと予想される.しかし,9月の残差流はエクスチェン ジ・フローではなく,全層流入の流動となっていること から,9月の計算結果が実測と一致しないのは,計算に おいて水温の影響を考慮していないためというよりも,

むしろ他の気象擾乱の影響ではないかと考えられる.こ の点の解明については,今後の課題としたい.

(3)塩分の水平構造と残差流

上述のように,適用した数値モデルは比較的良好に 西桜島水道の残差流の観測結果を再現できることから,

次に計算結果を利用して,残差流の水平構造について 検討を行った.計算結果が比較的良好な11/5, 11/14をそ れぞれ成層の発達しやすい時と発達しにくい時の代表 日とし,残差流の空間分布を調べた.計算の表層グリ ッドと底層グリッドにおける残差流の水平分布を図-7 に,また表層グリッドにおける塩分の水平分布を図-8 に示す.11/14に比べて,潮差が比較的小さく河川流量 の比較的大きい11/5においては,成層の発達により,

表層塩分が低い値となっており,特に比較的多くの河 川が存在する西岸側においてその傾向が強く見られる.

また11/5においては,湾奥全域において「表層流出,

底層流入」の残差流構造が見られるが,成層の発達し

にくい11/14においては,このような構造が弱められて

いることが分かる.いずれにしても,11/5, 11/14のいず れにおいても西桜島に形成される「表層流出,底層流 入」の残差流は,水道の南北に広く同一パターンを示 しており,西桜島水道で観測された残差流構造は,南 湾と北湾の海水交換に対して支配な流動パターンであ ることが理解できる.

図-7 代表日における残差流の水平構造(図中のラインはvの正負をゾーニングしている)

図-8 代表日における塩分の水平分布

(5)

(4)平均的な残差流場と海水交換の定量評価

次に,代表的な条件として,湾口の潮汐としてM2潮 のみを考え,また,河川流量として各河川の年平均の河 川流量を与えてシミュレーションを行った.このような 計算に加えて,塩淡成層によって生じる残差流の影響の みを抽出するために,淡水流入のない場合についても計 算を行った.表層グリッドにおける残差流の水平分布の 計算結果を図-9に示す.この結果に見られるように,淡 水流入のない場合にも,西桜島水道において流出流が存 在するが,その大きさは淡水流入がある場合に比べて小 さく,このことから塩淡成層が西桜島水道の残差流の主 要な駆動力となっていることが確認できる.

次に,代表的な条件に対する残差流場を対象に,西桜 島水道での残差流の横断分布を調べた.図-10は西桜島 水道の最狭部における,西から3, 5, 7番目のグリッドで の残差流の南北方向成分vの鉛直分布を表したものであ る(幅方向には全8グリッド).この結果を見ると,表層 流速は幅方向にほぼ一致しているが,底層の流入流速は 西側の地点において速く,上層の流出流の厚さは,東側 において厚くなっていることが分かる.

次に,以上のような最狭部での残差流の横断分布を用 いて,西桜島水道における残差流の流出成分と北湾の容 積との相対的な関係を定量的に評価した.残差流も東西 成分より南北成分の方が卓越していることから,残差流 の南北方向成分の流出成分のみを対象に,流出流量を概 算すると,約2,400m3/sとなることが分かった.北湾の体 積は29km3程度なので(櫻井ら, 2000),西桜島水道では 140日程度で北湾の海水を完全に交換できる程度の流出 流が生じていることになる.

5. 結論

本研究の結論は,以下のようにまとめることができる.

1)現地観測の結果,9月を除いて西桜島水道における残

差流の鉛直分布は,「上層流出,下層流入」のパター ンを示しており,潮差が小さくなるにつれて,上下層 の流速差が大きくなり,さらに風とエクスチェンジ・

フローとの相関は見られないことから,得られた残差 流は密度流である可能性が高いと判断される.

2)水温成層は考慮せず,塩淡成層のみを考慮した3次元 流動シミュレーションを行った.水温の観測結果とシ ミュレーション結果を用いて考察を行い,観測期間に おける西桜島水道の残差流は主に塩淡成層により駆動 される密度流であると判断された.

3)9月の計算結果が現地観測結果を良好に再現できない 理由として,水温の影響を考慮しなかったことよりも,

気象擾乱等の他の要因の影響による可能性が高いこと が示唆された.

4)北湾の容積と西桜島水道での残差流との相対的な関 係を定量的に評価した.

謝辞:本研究は,文部科学省科学研究費・萌芽研究「逆 エスチャリー循環が閉鎖性内湾の水環境に及ぼす影響に ついて」(代表者:安達貴浩,課題番号:19656233)な らびに財団法人米盛誠心育成会の補助を受けて行われた ものであることをここに付記します.

参 考 文 献

安達貴浩・小橋乃子・小針 統(2009a):鹿児島湾における 有害赤潮発生時の水質とプランクトン組成の現地観測,

水工学論文集,第53巻,pp.1507-1512.

安達貴浩・大山俊昭(2009b):鹿児島湾湾口部における混合 期の残差流形成メカニズム,水工学論文集,第53巻,

pp.1459-1464.

安 達 貴 浩 ・ 登 川 武 司 ・ 大 山 俊 昭 ・ 山 城   徹 ・ 櫻 井 仁 人

(2008):鹿児島湾湾口部における成層期の残差流構造,

海岸工学論文集,第55巻,pp.996-1000.

櫻井仁人・前田明夫・杉森康宏・久保田雅久(2000):鹿児島 湾の湾口断面を通しての海水流入・流出過程,海の研究,

9巻,第1号,pp.1-12.

図-9 M2潮のみを与えたときの残差流 図-10 残差流vの鉛直分布の幅方向の分布

参照

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