学 位 論 文 題 名
博 士 ( 農 学 ) 俵谷 圭 太 郎
Mechanisms of arbuscular mycorrhizal infection to host plants
(Arbuscular 菌根菌の宿主植物への感染機構に関する研究)
学位論文内容の要旨
リ ン 酸 質肥 料 の 原料 で あ るり ン 鉱 石資 源 の 賦存 量 は有 限であり 、 現 在 の よ う な 使 用 状 態 が 続 く と100年 以 内 に 枯 渇 す る 可 能 性 が あ ろと 試 算 さ れて い る 。そ れ ゆ え作 物 生 産に お け るり ン酸 質肥料 の効 率的 利 用 法 の開 発 が 要請 さ れ てい る 。Arbuscular菌 根菌 と植物と の 間の 共 生 関 係の 利 用 はこ の た めの 最 も 重要 な 方 法の ひと つであ る。
菌根 菌 と の 共生 に よ って 宿 主 植物 の り ン吸 収 と 生育 を改 善する ため には 、 宿 主 植物 に 対 する こ の 菌の 感 染 率を 高 め 、共 生状 態を十 分発 現さ せ る 必 要が あ る 。一 方 本 菌の 宿 主 植物 根 に 対す る感 染は土 壌お よび 植 物 の 各種 要 因 によ っ て 影響 を 受 ける が 、 その 機構 は十分 明ら かにさ れていな い。本 研究は( り土壌の りン供 給能と植 物のり ン栄養 状態 が ュrbuscular菌根 菌 の宿主 植物根 への感染 に及ぼ す影響を 明ら かにし 、(ii)宿主植 物根へ の感染機 構を解 明するこ とを目 的として 実 施 し た 。 得 ら れ た 成 果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。
(1) 山 形 県 内 の 各 種 土 壌 に 生 育 し て い る 植 物 の 根 に お け る 土 着 A rbu sc ular菌根菌 の感染状 態を調査 したところ、土壌の可給態リン 酸含量 とA rb uscular菌 根菌感染 率との 間には負 の相関関 係が認めら れた。
( 2) 各 種 無 機 塩 を 含 む 培 地 でArbuscular菌 根 菌Gigaspora 川a rgari toの 胞 子 を27℃ で14日 間培 養 し 、発 芽 率およ び外生菌 糸 の 生長 を 測 定し た 。 胞 子の 発 芽 と外 生 菌 糸の 生 長はpH4.0ー90の 範
囲でるmM以下の濃度条件では培地のりン酸濃度の影響は受けず、外 生菌糸の生長は3 dSm ̄以上の高い電気伝導度によって阻害された。
畑土壌溶 液のりン酸濃度は0.1 mM以下であるので、土壌リン酸濃度 カ明包子の発芽や菌糸生長に及ぼす直接的な影響はないと考えられた。
(3)Arbuscular菌根菌が感染したタマネギに対して1)リン酸溶 液の葉内 への注入、2)リン酸 溶液の土 壌施用と3)リン酸 を含ま ない溶液の土壌施用を行ったところ、リン.酸溶液の葉内への注入と りン酸溶 液の土壌施用により感染率は低下した。一方、葉内への注 入により 地上部のりン含有率は上昇したが、土壌中の可給態リン酸 含量は処 理3)と差が 無かった 。したがって土壌への多量のりン酸 施用によ る感染の低下は、植物体内のりン含有率の上昇に起因する ことが明らかになった,、
(ユ)リン酸施用が感染の各過程に及ぼす影響を検討した。外生菌 糸により根面に形成された付着器(appressorium)の数はりン酸施用に よ;)減少したが、1つの付着器から発達した内生菌糸の生長は植物 体内のり ン濃度の影響を受けなかった。内生菌糸の代謝活性(コハ ク酸脱水 素酵素活性)も体内リン濃度の影響を受けなかった。個体 あたりの 付着器の数と感染根長との間には有意な正の相関関係が存 在した,・,これらのニとからArbuscular菌根菌の感染は付着器の形成 過程で調節されていることが示された。
(5)植物のりン栄養状態が根からの各種化合物の浸出に及ぼす影 響を明ら かにするため、水耕培養および土耕培養により各種植物根 の浸出物 を測定した。リン栄養状態が正常である植物に比べて、リ ン欠乏植 物では根の浸出物中のアミノ酸および還元糖濃度が高かっ た。この ことから、リン欠乏によって各種化合物の根からの浸出が 増 加し 、 根 圏で こ れ らの 濃 度が 高 ま って い るこ と が 示さ れた。
(6)水耕培養によルリン栄養状態が異なるタマネギ根の浸出液を 調製し、感染に及ぼす影響を検討した。G.marganぬの外生菌糸生長 は1Jン欠乏(くlg Pkg・l)の根の浸出物を含む水溶液中で、リン栄養状 態が正常である根の浸出物を含む水溶液および蒸留水中より大きかっ た。根長 あたりの付着器数と感染率も同様にりン欠乏の根からの浸
出物を含む水溶液の添加により増大した。XAD.4樹脂による根の浸 出物の分画により、Arbuscular菌根菌の感染促進物質は疎水性化合 物であることが示された。胞子の発芽はりン欠乏およびりンが十分 にある根の浸出物処理間で差がなかった。これらのことから宿主植 物のりン栄養状態は根の浸出物組成に影響を及ぼし、これにより外 生 菌糸の伸 長と付着 器の形成が 調節され ていることが示された。
(7)Arbuscular菌根菌種Glomus mosseaeまたはG.margaritaの接種 とりン酸質肥料施用がホワイトクローノヾとタマネギのりン吸収と生 育に及ぼす影響を検討した。感染とりン酸施用により地上部のりン 吸収と生育が増加した。感染による増加の度合は低〜中土壌リンレ ベ ルで大き く、また菌種により異なり、ホワイトクローバではG. margar|ねで大きく、夕マネギではG,mosseaeで大きかったづしたがっ て、植物のりン吸収と生育の改善のためにはりン酸質肥料の施用量 と Arbuscular菌 根 菌 種 の 適 切 な 組 合 せ が 必 要 で あ る 。
(8)以上の 結果から、ArbuscuIar菌根菌によるりン酸質肥料の有 効利用法を開発するために以下の方策を提案した。i)土壌への多量の りン酸質肥料施用はArbuscular菌根菌の感染を低下させ、共生によ ろりン吸収と生育の促進効果を小さくする。したがって各作物種が Arbuscular菌根菌と共生するために最適な土壌リンレベルを維持す る必要がある。タマネギでは土壌の可給態リン酸が300―500mgPkgl 以下が望ましい。ii)Arbuscular菌根菌の感染による宿主植物のりン吸 収と生育の改善効果は菌根菌種と宿主植物種の組合せにより異なろ ことから、各作物種に対して有効なArbuscular菌根菌種を選択する 必要がある。川Arbuscular菌根菌と効率的に共生する作物種または 品種の選択、育種が望まれる。
学位論文審査の要旨 主 査 教授 但野利秋 副 査 教授 生越 明 副査 教授 波多野隆介
学 位 論 文 題 名
MechanismiS of arbuscularmycorrhizal infection to host plants
(Arbuscular 菌根菌の宿主植物への感染機構に関する研究)
本 論 文 は 、 図34、 表21、 引 用 文 献 86を 含 み 、8章 か ら な る 総 頁 数117の 欧 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 文 献16編 が 添 え ら れ て いる .・、
リン 酸 質 肥 料の 原 料 であ る り ン鉱石資 源の賦 存量は有 限であ り、
現 在 の よ う な 使 用 状 況 が 続 く と100年 以 内 に 枯 渇 す る 可能 性 が あ る と 試算 さ れ て いる 。 そ れゆ え 作物生 産にお けるりン 酸質肥料 の効 率 的 利用 法 の 開 発が 要 請 され て いる。Arbuscular菌根菌 と植物 との 間 の 共生 関 係 の 利用 は こ のた め の最も 重要な 方法のひ とつであ る。
菌 根 菌と の 共 生 によ っ て 宿主 植 物のり ン吸収 と生育を 改善する ため に は 、宿 主 植 物 に対 す る この 菌 の感染 率を高 め、共生 状態を十 分発 現 さ せる 必 要 が ある 。 一 方本 菌 の宿主 植物根 に対する 感染は土 壌お よ び 植物 の 各 種 要因 に よ って 影 響を受 けるが 、その機 構は十分 明ら かに されて いない。 本研究は(i)土壌のりン供給能と植物のりン栄養 状 態 がArbuscular菌 根 菌の 宿 主 植物根へ の感染 に及ぼす 影響を 明ら かに し、(ii)宿 主植物 根への感 染機構を 解明す ることを目的として実 施し たもの である。
(1) 山 形 県 内 の 各 種 土 壌に 生 育 して い る 植物 の 根 にお け る 土着 AI‑buscular菌根菌 の感染状 態を調 査したと ころ、土壌の可給態リン 酸 含量とArbuscular菌根菌 感染率 との間に は負の 相関関係 が認めら
れた。
(2)Gjbaaspora marga′ fねの胞子の発芽と外生菌糸の生長はpH4.0ー 9.0の範 囲で5mM以下 の濃 度 条件 では 培地 のり ン酸 濃度 の影 響を 受け ず 、 外 生 菌 糸 の 生 長 は3dSm ̄ 以 上の 高い 電気 伝導 度に よっ て阻 害さ れ た 。 畑 土 壌 溶 液 の り ン 酸 濃 度 は0.lmM以下 であ るの で、 土壌 溶液 リ ン 酸 濃 度 が 胞 子 の 発 芽 や 菌 糸 生長 に及 ぼす 直接 的な 影響 はな いと 考えられた。
(3)Arbuscular菌 根 菌 が 感 染 し た タ マ ネ ギ に 対 し て1) リ ン 酸 溶 液 の 葉 内 へ の 注 入 、2) リ ン 酸 溶 液 の 土 壌 施 用 と3) リ ン 酸 を 含 ま な い 溶 液 の 土 壌 施 用 を 行 っ た と こ ろ 、 処 理1) と2) に よ り 感 染 率 は 低 下 し た 。 一 方 、 処 理1) に よ り 地 上 部 の り ン 含 有 率 は 上昇 した が 、 土壌 中の 可給 態リ ン酸 含量 は処 理3) と差 が無 かっ た。 した がっ て 土 壌 へ の 多 量 の り ン 酸 施 用 に よる 感染 の低 下は 、植 物体 内の りン 含有率の上昇に起因すろことが明らかに なった。
(4)根面に 形成された付着器(appressolIium)の数はりン酸施用によ
! ) 低下 した が、1つ の付 着 器か ら発 達し た内 生菌 糸の 生長 は植 物体 のり ン濃 度の 影響 を受 け なか った 。こ のこ とからArbusculaI一 菌根菌 の 感 染 は 付 着 器 の 形 成 過 程 で 調 節 さ れ て い る こ と が 示 さ れ た 。
(5)1Jン 栄 養 状 態 が 正 常 で あ る 植 物 に 比 べ て 、 リ ン 欠 乏 植物 で根 の浸 出液 中の アミ ノ酸 お よび 還元 糖濃 度は 高かった。このこと から、
1Jン 欠乏 によ って 各種 化 合物 の根 から の浸 出量が増加し、その 結果、
根圏でこれらの濃度が高まろと理解され た。
(6)G,mar.garfぬの外生菌糸生長はりン欠乏のタマネギ根の浸出物 中 で 、 リ ン 栄 養 状 態 が 正 常 で あ るタ マネ ギ根 の浸 出物 およ ぴ蒸 留水 中 よ り 大 き か っ た 。 根 長 あ た り の付 着器 数と 感染 率も 同様 にり ン欠 乏 の タ マ ネ ギ 根 か ら の 浸 出 物 添 加に より 増加 した 。XAD.4樹脂 によ ろ根 の浸 出物 の分 画に よ り、Al.buscular菌根菌の感染促進物 質は疎 水 性 化 合 物 で あ る こ と が 示 さ れ た。 胞子 の発 芽は りン 欠乏 およ びり ン栄 養状 態が 正常 であ る タマ ネギ 根の 浸出 物処理間で差がなか った。
こ れ ら の こ と か ら 宿 主 植 物 の り ン栄 養状 態は 根の 浸出 物組 成に 影響 を 及 ぼ し 、 こ れ に よ り 外 生 菌 糸 の伸 長と 付着 器の 形成 が調 節さ れて
いることが示された。
(7)Arbuscular菌根菌種Glomus mosseaeまたはG.margaritaの感染 とりン酸施用により、地上部のりン吸収と生育が増加した。感染に よる増加の度合は低〜中土壌リンレベルで大きく、また菌種と植物 種の組合せにより異なった。したがって、植物のりン吸収と生育の 改善のためにはりン酸質肥料の施用量とArbuscular菌根菌種の適切 な組合せが必要である。 ゛
(8)以上の結果から、Arbuscular菌根菌によるりン酸質肥料の効 率的利用法を開発するために以下の方策を提案した。i)多量のりン酸 質肥料の施用は菌の感染を低下させ、共生によるりン吸収と生育の 促進効果を小さくすろ。したがって、各作物種が菌と共生するため に最適な土壌リンレベルを維持する必要がある。ii)Arbuscular菌根 菌の感染による宿主植物のりン吸収と生育の促進効果は菌根菌種と 植物種の組合せにより異なることから、各作物種に対して有効な菌 種を選択する必要がある。iii)Arbuscular菌根菌と効率的に共生する 作物種または品種の選択、育種が望まれる。
以上のように、本研究はArbuscular菌根菌の宿主植物根への感染 機構を解明し、あわせて効率的なりン酸肥培管理法を提案しており、
その成果は学術的に高く評価し得るばかりでなく、持続的作物肥培 管理法の開発に対して貢献するところが極めて大きい。よって審査 員一同は、別に行pた学力確認試験の結果と合わせて、本論文の提 出者俵谷圭太郎は博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格があ るものと認定した。