博 士 ( 理 学 ) 立 花 純 一
学 , 位 論 文 題 名
新規モリブデンポルフィリン酸素付加錯体の 合成および性質に関する研究
学位論文内容の要旨
金属 錯 体 と各 種 酸素穏(02,02−,022‑)との反応 の研究は生 体内の酵素 反応のみ な らず、酸素 原子移動反 応、酸素架 橋反応、有機化合物の基質の酸素化反応等の機構 を 明らかにす るためにも 重要である 。このような反応では酸素付加錯体が反応中間体 と し て しば し ば生 成 する か 一般 に 不安 定 で あり 、 その 特 定は 困 難な 場 合が 多 い。
本 研 究 は 、 第 1に 、 種 々 の オ キ ソ モ リ プ デ ン (N)ポ ル フ ィ ル ン 錯 体 ( 図 1)と 酸 素 と の 反 応 を 色 々 の 条 件 下 で 追 跡 し 、 生 成 す る 新 規 な 酸 素付 R 加 錯 体 を 可 能 な 限 り 検 出 す る こ と 、 第2に 、 そ れ
ら 酸 素 付 加 錯 体 を 合 成 単 離 、 特 定 し そ の 諸 性 質 をMo|vO(tpp):R=
明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 そ の 結 果 、 以 下 t丶 ′
・ 、 MolvO( tmp) : R=
の こ と を 明 ら か に し た 。 v丶 r´ . ・
低 温 ( ―70℃ ) ト ル エ ン 溶 液 中 に お け る
M0 O(tpp) (tpp=5,10,15,20← テ ト ラ フ ェニ ル ボ ル フ ィ ル ン ジ ア ニ . オ ン ) ,tdoly0くoep) (oep=2,3, 7,8,12,13,17,18ー オ ク タ エ チ ル ボ ル フ ア リ ン ジ ア ニ オ ン ) お よ びMoIvO(tmp) (tmp=5,10,15,20→ テ ト ラ メ シ チ ル ポ ル フ ィ リ ン ジ ア ニ オ ン ) 等 の オ キ ソ モ リ プ デ ン (N)ポ ル フ ア リ ン 錯 体 と 酸 素 と の 反
Ma'vO(tnp) : R =
R
応により、それぞれ相当する酸素付加錯体が生成 図1.オキソモリプデン(I.Oポルフィ リン錯体.
することを見いだした。低温溶液内におけるこれ
らの 錯体の電子 状態、および生成条件等をESRスペクトル法および可視部吸収スペク ー260一
トル法により検討し、その構造をtransーオキソパーオキソモリブデン(V[)ポルフィ リン錯体と推定した。また、この酸素付加錯体への光照射、あるいは溶液の温度を上 昇 さ せ るこ と に よルオ キソ モリ ブデン(N)ポ ルフア リン 錯体 が再生 する こと を明 ら かにした。しかしながら、あまり嵩高くないポルフィリン環をもつMOIvO(tpp)および hlo|YO(oep)の反応系では、溶液の温度の上昇により、相当するモリブデン(W)ポル フアリン錯体と共に常磁性の皿ーオキソダイマー[M0 ̄O(por)]20(pOr=tpp,oep)も生 成した。一方、嵩高いポルフアリン環をもつIAoIVO(tmp)の反応系では、温度の上昇に 伴って、一旦生成したtdoIvO(tmp)が室温で再び酸素と反応して新たに反磁性の錯体が 生成することが明らかになった。
そこでMolvO(tmp)と酸素との室温における反応をさらに詳細に追跡した結果、低温 で生成する上記の酸素付加錯体とは異なる新規な酸素付加錯体が生成することを見い だした。また、この室温で生成する酸素付加錯体の合成単離にも成功した。この錯体 は昇 温脱 離法、 重量 分析 法、 および 各種 スペ クトル 法に より 、オキソ配位子および パーオキソ配位子がcis一位に配位し、かつ互いにぇransの関係にあるポルフアリン環 の2っのN原子の 上に それ ぞれ 位置し た eclips 型 の構 造( 図2)をとっていること か 明 ら か に な っ た 。 さら に こ の 酸 素 付 加錯 体の性 質を
検 討 し た 結 果 、 以 下 のこ と が 明 ら か に なっ た。す なわ ち 、 こ の錯 体の トルェ ン溶 液へ の光 照射、 ある いは 固R 体を減圧下で加熱することによりIvloI v0( tmp)が再生さ
R
れる。一方、この酸素付加錯体は固体状態でも 図2.室温で生成する酸素付加錯体
M01NO(tmp)と酸素との反応によって生成する。 の構造図,
上記のように平面性が高く立体障害の少ないポルフアリン配位子を持つMoIvO(tpp) およびMo ̄YO(oep)と酸素との室温における反応では最終生成物として皿ーオキソダイ マ ー等の常磁性錯体が生成したか、嵩高いポルフアリン環を持つMOlvO(tmp)と酸素と の 室温における反応では、反磁性の酸素付加錯体か生成した。したがって室温でこの 酸 素付 加錯 体が安 定に 存在 するた めには、モリプデン(W)ポルフアリン錯体か皿一 オ キソダイマー等の二量体の生成を阻止するような嵩高いポルフアリン環を有するこ と が重 要で あると 推測 した 。この 点を検証するためにtmpとは異なる嵩高いポルフィ
み た 結 果 、 酸 素 付 加 錯 体 の4種 の ア ト 口 プ 異 性 体 ( 錯 体A〜D)、 す な わ ち ナ フ チ ル 基 の 配 向 が 互 い に 異 な る 異 性 体 を 合 成 単 離 し た 。 錯 体A〜Dは 、 い ず れ もtmp配 位 子 を 用 い て 合 成 し た 酸 素 付 加 錯 体 と 極 め て 近 い分 光 学 的、 お よび 化 学 的性 質 を示 し 、 同 じ 型 の 酸 素 付 加 錯 体 で あ る こ と が 明 ら か に なっ た 。 すな わ ち嵩 高 い ポル フ ィリ ン 環 を も つ モ リ ブデ ン ( 1V) ポ ルフ ア リ ン錯 体 は室 温 で 酸素 と 反応 し て 比較 的 安 定な 酸 素付 加 錯 体 を っ く る こと が 明ら か に なっ た 。ま
た 室 温 で 生 成 す る各 酸 素付 加 錯 体の 生 成反 応 速 度 を 測 定 し 、酸 素 付加 錆 体 の生 成 速度 が 配 位 子 の 置 換 基に 影 響さ れ る こと を 明ら か に し た ( 図 3)0以 上 の よ う に モ リ ブ デ ン( 1V) ポル フ アル ン 錯 体は、 低温、およ び 室 温 に お い て 酸素 と 反応 し 、 それ ぞ れ異 な る 酸 素 付 加 錯 体を 生 成す る こ と、 そ れら の 錯 体 は 光 、 熱 によ り 可逆 的 に 酸素 を 脱着 す る こ と が 本 研 究に よ って は じ めて 明 らか にさ れ た 。
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T|me/mIn 図3.各酸素付加錯体の生成速度
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
佐々木 中 村 山 岸 今 村
学 位 論 文 題 名
陽一 義男 晧彦 平
新規モリブデンポ ルフィリン酸素付加錯体の 合成 および性質に関する研究
立 花 純 一 提 出 の 本 学 位 論 文 で は モ リ プ デ ン の ポ ル フ ィ リ ン 錯 体 と 分 子 状 酸 素 と の 反 応 に つ い て の 研 究 が 述 ぺ ら れ て い る 。 立 花 は 本 論 文 で 、 可 逆 的 に 酸 素 を 出 し 入 れ で き る と い う 性 質 を も つ 、 低 温 で 安 定 な 形 と 、 室 温 で 安 定 な 形 の2種 類 の 酸 素 付 加 錯 体 の 生 成 を 報 告 し て い る 。 比 較 的 単 純 な 構 造 の ポ ル フ ィ リ ン 錯 体 で は 、 モ リ プ デ ン に 限 ら ず 、 光 や 熱 で 酸 素 を 可 逆 的 に 脱 着 で き る 錯 体 は 見 い 出 さ れ た こ と が な く 、 こ の 点 で 本 諭 文 は 画 期 的 な 内 容 を 含 ん だ も の と 言 え る 。
ポ ル フ ィ リ ン 錯 体 と 分 子 状 酸 素02と の 反 応 は 、 鉄 錯 体 を 中 心 に 研 究 さ れ 、 ポ ル フ イ リ ン の 形 か ら ピ ケ ッ ト フ ウ ン ス 型 と か ピ ク ニ ッ ク バ ス ケ ッ ト 型 な ど と 呼 ば れ る よ う な 巨 大 な 置 換 基 を 導 入 し た ボ ル フ ィ リ ン に よ り 立 体 障 害 で 後 続 反 応 を 抑 制 し て 、 短 時 間 で あ れ ば 可 逆 的 に 酸 素 を 脱 着 で き る 系 が 実 現 さ れ て い る 。 し か し 、 モ リ ブ デ ン ポ ル フ ィ リ ン 錯 体 と 酸 素 と の 反 応 に つ い て は 、 簡 単 な 構 造 の ボ ル フ ィ リ ン を も つ 錯 体 に つ い て す ら 、 詳 し く 調 ぺ た 報 告 は な か っ た 。 モ リ プ デ ン は 、 い く っ か の 酸 化 状 態 を 安 定 に 取 り 得 る の で 、 こ の 点 か ら み て も 酸 素 と の 反 応 の 研 究 は 重 要 で あ る が 、 す ぐ に 複 核 化 を 起 こ す な ど 簡 単 な 鉄 錯 体 で み ら れ た の と 同 じ 欠 点 が 指 摘 さ れ て い た 。 本 学 位 論 文 で は 、 代 表 的 な ポ ル フ ィ リ ン の ー つ で あ る 、 テ ト ラ フ エ ニ ル ボ ル フ ィ リ ン(tpp) の フ エ
的に 酸素 を脱 着で きる 酸素付加錯体を見いだすことに成功した。いづれもオキソイオ ン(02―)が配位したモリブデン(IV)のポルフィリン錯体を出発原料として酸素との反 応を 調べ るこ とに より 見いだされたものである。低温型は−70℃のトルエン溶液中で 確認 され 、ポ ルフ ィリ ン面の一方にオキソイオン、反対側に02がサイドオン型で配位 した構造であると推定されている。一方、室温で生成するもう一方の錯体については、
実際に酸素付加錯体の固体を単離することにも成功し、IR、NMR、ESRなどを駆使して、
この 錯体 がポ ルフ ィリ ン面の同じ側にオキソイオンと02由来のサイドオン配位のぺル オキソイオンとが配位したモリプデン(VI)錯体であることを示しているが、その構造 には 十分 な説 得カ があ る.さらに、この錯体からの酸素の脱離を熱分析マススペクト ル法 によ り明 かに し、 溶液中では電子スペクトルの可逆的変化から酸素の脱着が可逆 的かつ定量的に進行することを示している。また、光の照射によっても酸素がはずれ、
光を遮断すると再び酸素が錯体に付加することも示している。
立 花は さら に、 他の 置換基をもっボルフィリンにも研究を広げ、メソ位にメシチル 基の 代わ りに さら にか さ高いナフチル基を導入したポルフィリンを含むモリプデン錯 体に つい てtmp錯 体と 同様 の室温 で安 定な 酸素 付加 錯体を合成した。この場合には、
ナフ チル 基の 向き によ るア トロ ープ 異性 体が 可能 であるが、4種の異性体にっきすぺ て酸 素付 加錯 体が 単離 され てお り、tmp錯 体の 場合 と同様の手法で構造や酸素付加の 可逆 性を 明ら かに して いる。さらに、酸素付加の速度諭的研究も行われ、鉄錯体など に比 ベ付 加速 度が 遅い こと、わずかの立体的な違いが比較的大きな付加速度の差を生 ずることなども明らかにされている。
こ のよ うに 立花 純一 提出の学位論文は、可逆的に酸素を脱着するモリプデンポルフ ィリ ン錯 体の 発見 とそ の構造や性質の詳細な研究を報告したものであり、モリブデン 以外 の錯 体も 含め これ までに見いだされていなかった画期的な内容を含み、ポルフイ リン 錯体 に限 らず 可逆 的酸素担体の基礎、応用に大きく寄与するものである。参考論 文は3編 であ り、 うち2編が 本学 位論 文の 内容 の一 部を 含むも ので ある 。い づれ も権 威あ る学 術雑 誌に 発表 されている。以上の所見に基づき、審査員一同は申請者が博士 ( 理 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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