博 士 （ 工 学 ） 山 田 美 和
学位 論 文題 名
Microbial production of lactate − based polyesters （ 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー の 微 生 物 発 酵 生 産 ）
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
再生可能をバイオマスから合成されるバイオプラスチックは、自然界の炭素循環サイクルに組 み込まれ、二酸化炭素の発生を抑えることができる新素材として注目されている。ポリ乳酸(PLA) は、現 在、最 も産業 化の進んでいるバイオプラスチックである。乳酸ユニットの導入された乳酸 ベースポリマーは、バイオマス由来の糖から微生物発酵により得られた乳酸を、スズをどの重金属 触媒を用いて多段階で重合することにより化学合成される。しかしをがら、重金属触媒は、その有 毒性か ら環境 に負荷 をかけるという問題が生じる。そこで、本研究では、生体触媒である酵素を 用いて モノマ ー供給 から重 合まで の全反 応を微 生物細胞内で行い、環境低負荷をPLAおよび乳酸 ベースポリマーの オール バイオプロセス合成を確立することを目指した。本論文は、5章から 構成されている。
第1章は、序論であり、本研究の背景および目的について述べた。
第2章では、乳酸ベースポリマー生合成システムの構築について述べた。微生物細胞内で乳酸 ポリマ ーを合 成するた めには 、モノマー供給酵素およびモノマー重合酵素遺伝子を導入する必要 がある 。そこ で、まず モノマ ーであ るlactyトCoA (LA‑CoA)の供 給酵素 である プロピオニルCoA 転移酵 素（PCT） 遺伝子 を大腸 菌に導入し、CE／MS分析によって、LA−COAの生産を確認した。続 いて 、LA―COAを 重 合 可能 を 乳 酸 重合酵 素をmvffmポ リマー 合成系 によっ て探索 した。 これま でに、 乳酸重 合酵素の 存在は 報告されていをかったが、乳酸と類似の化学構造ユニットを有する polyhydroxyalkanoate（PHA）を合成するPHA重合酵素については、詳細を研究がをされている。
そこ で 、 本 研究 で はPHA重合 酵 素 に 着目 し 、 多 種のHjA重 合酵 素につ いてLA−COA重合 能カを 評価した。結果、沈vff閉ポリマー合成系において、LA−COAと3‐hydroxybutyry1‐COA（3HB‐COA： 基本 的 をPHAのモ ノマー ）が共存 する場 合にの み、LA‐COA重合 能を示すPlLへ重 合酵素 変異体
［PJPHdDmDnロぷsp．61―3由来PhaC1（S325T／Q481K）変異体］を見出した。本発見は、デザインした ポリマー合成システムを作動させるためのブレイクスルーであった。モノマー供給遺伝子および乳 酸重合 酵素遺 伝子を大 腸菌に 導入した結果、LA―COA供給遺伝子のみを導入した場合は、沈vffrD ―613―
ポ リ マ ー 合 成 系 の 場 合 と 同 様 に 、PLAは 検 出 さ れ を か っ た が 、LA‑CoAお よ び3HB−COA供 給 遺 伝 子を導 入した 場合に は、 乳酸ユ ニット が6m01ワD導入されたP01y（lactate―cD―3―hydroxyalkanoate）
［P（LA−cD―3HB） ］を微 生物生 産する ことが でき た。
第3章 で は 、 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー 生 合 成 シ ス テ ム 中 のLAモ ノ マ ー(LA‑CoA)供 給 量 の 増 強 に 取 り 組 ん だ 。 方 法 と し て は 、P(LA‑co‑3HB)中 のLA分 率 を 向 上 さ せ る た め に 、 沈vivoに お け るLAモ ノ マ ー 供 給 の 増 強 を 検 討 し た 。 第2章 で 述 べ た 腕vitroポ リ マ ー 合 成 系 で は 、LA‑CoAと 3HB−CoAを 等 量 加 え た 際 、P(36 mol% LA―co−3HB)が 合 成 され た 。 一 方 で 、微 生 物 合 成 した ポ リ マ ー は 、 わ ず かP(6 mol% LA‑co−3HB)で あっ た 。 こ れ ら の結 果 は 、 構 築し た 微 生 物 生産 シ ス テ ム 内 に お い て 、LA‑CoAモ ノ マ ー 量 が 不 足 し て い る とい う こ と を 示唆 し て い る 。 一般 的 に 、 嫌 気条 件 下で は 、 乳 酸 を合 成 す る 乳 酸脱 水 素 酵 素 が活 性 化 し 、 乳 酸生 産 量 が 向 上す る こ と が 知ら れ てい る。
そ こ で 、 菌 体 内 の 乳酸 量 を 増 加 させ る こ と に よ って 、LAーCoAモ ノ マー 供 給 量 が 増加 す る こ と を期 待 し た 。 嫌 気 培 養 を 行 っ た と こ ろ 、 コ ポ リ マ ー 中 のLA分 率 が 、47 mol%へと 飛 躍 的 に 向上 し た 。 ま た 、 合 成 さ れ た ポ リ マ ー の 光 学 異 性 組 成 をHPLCに よ っ て 分 析 し た 。 結 果 、 本 ポ リ マ ー は 、非 常 に 高 い 光 学 純 度 を持 っ たP[(R)‑LA‑co‑(R)―3HB]で あ る とい う こ と が わか っ た 。 ま た、 構 造 的 性 質 で あ る モ ノ マ ー 配 列 をNMRに よ っ て 詳 細 に 分 析 し 、 本 ポ リ マ ー は 、ラ ン ダ ム 配 列 をも つ コ ポ リ マー で あ る と いう こ と を 明 らか に し た 。 熱的 性 質 に つ い ては 、 ガ ラ ス 転移 温 度 の 上 昇お よ び融 点の 低下 と い う 乳 酸ユ ニ ッ ト が 導入 さ れ た 特 徴が 見 ら れ た 。
第4章 で は 、 新 規 乳 酸 重 合 酵 素 の 創 製 に 取 り 組 ん だ 。 本 シ ス テ ムに お い て 、 高LA分 率 の 乳酸 ベ ー ス ポ リ マ ー を 効 率 的 に 生 産 す る た め に は 、 第3章 で 行 っ たLAモ ノ マ ー供 給 の 増 強 とい う 方 法 以 外 に 、 ポ リ マ ー を 直 接 重 合 し て い る 重 合 酵 素 のLA重 合 能カ を 向 上 さ せ ると い う 方 法 が考 え ら れ る 。 そ こ で 、 本 章 で は 、 新 規 の 変 異 を 乳 酸 重 合 酵 素 に 導 入 す る こ と で 、 重 合酵 素 のLA−CoAに 対 す る基 質 特 異 性 を増 強 す る こ と を目 指 し た 。 これ ま で に 唯 ー見 つ か っ て いた 乳 酸 重 合 酵 素は 、 野生 型PHA重 合 酵 素 の3HB−CoA重 合 能 を 向 上 さ せ る 変 異 を2つ 導 入 し た2重 変 異 体 で あ っ た 。 本 知 見 か ら 、PHA重 合 酵 素 に お け る3HB‑CoA重 合 能 カ を さ ら に 向 上 さ せ れ ば 、LA‑CoA重 合 能 カ の 増 強 に っ を が る の で は を い か と 考 え た 。 そ こ で 、3HB‑CoA重 合 能 を 向 上 さ せ る と報 告 さ れ て いた 新 規 の 変 異 を 乳 酸 重 合 酵 素 に 導 入 し 、 好 気 培 養 条件 下 で 、 従 来の 乳 酸 重 合 酵素 よ り も 、LA分 率 お よ びポ リ マ ー 蓄 積率 が 向 上 し た 新規 乳 酸 重 合 酵素 を 創 製 し た。 さ ら に 、 本研 究 で 見 出 し た新 規 変異 点 に お け る ア ミ ノ 酸 飽 和 変 異 導 入 を 行 う こ と で 、16〜45molワ 。 と 幅 広 い 範 囲 でLA分 率 が 調節 さ れ たP（LA― cD−3HB） を 、 再 現 性 よ く 、 高 蓄 積 に 微 生 物 合 成 す る こ と が で き た 。
第5章 は 、 総 括 で あ り 、 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー の 微 生 物 生産 お よ び 合 成さ れ た 乳 酸 ベー ス ポ リ マ ー に つ い て ま と め た 。 さ ら に 、 今 後 の 展 望 に つ い て も 言 及 し た 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 田 口 精 一 副 査 教 授 高 木 睦 副 査 教 授 中 野 環 副 査 准 教授 大 井俊 彦
学位論文題名
Microbial production of lactate −based polyesters （ 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー の 微 生 物 発 酵 生 産 ）
再 生 可 能 慈 バ イ オ マ ス か ら 合 成 さ れ る バ イ オ プ ラ ス チ ック は 、 自 然 界の 炭 素 循 環 サ イク ル に 組 み 込 ま れ 、 二 酸 化 炭 素 の 発 生 を 抑 える こ と が で き る新 素 材 と し て注 目 さ れ て いる 。 ポ リ 乳 酸(PLA) は 、 現 在 、 最 も 産 業 化 の 進 ん で い る バ イ オ プ ラ ス チ ッ ク で あ る。 乳 酸 ユ ニ ット の 導 入 さ れた 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー は 、 バイ オ マ ス 由 来の 糖 か ら 微 生物 発 酵 に よ り 得ら れ た 乳 酸 を、 ス ズ 教 ど の重 金 属 触 媒 を 用 い て 多 段 階 で重 合 す る こ とに よ り 化 学 合成 さ れ る 。 し かし を が ら 、 重金 属 触 媒 は 、そ の 有 毒 性 か ら 環 境 に 負 荷 をか け る と い う問 題 が 生 じ る。 そ こ で 、 著 者は 、 生 体 触 媒で あ る 酵 素 を用 い て モ ノ マ ー 供 給 か ら 重 合 ま で の 全 反 応 を 微 生 物 細 胞 内 で 行 い 、 環 境 低 負 荷 琢PLAお よ び 乳酸 ベ ー ス ポ リ マ ー の オ ー ル ¨バ イ オ プ ロ セス 合 成 シ ス テム を 確 立 し た 。さ ら に 、 著 者は 、 本 シ ス テム を 改 良 す る こ と に よ り 、 合 成 し た 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー の 組 成 を 制 御 し た 。
本 論 文 の 概要 、 お よ び 評価 で き る 成 果を ど に つ い ては 以下 に要 約され る。
著者 は、乳 酸ベー スポ リマー であるpoly(lactate‑co‑3―hydroxyalkanoae）［P（LA―cD−3HB）］の生合 成 シ ス テ ム を 組 み 換 え 大 腸 菌に 構 築 し た 。微 生 物 細 胞 内で 乳 酸 ポ リ マー を 合 成 す る ため に は 、 モ ノ マ ー 供 給 酵 素 お よ び モ ノ マ ー 重 合 酵 素 遺 伝 子 を 導 入 す る 必 要 が あ る。 こ れ ま で に 、乳 酸 ポ リ マ ー 重 合 酵 素 の 存 在 は 報 告 さ れ て い を か っ た 。 そ こ で 著 者 は 、PLAと 、 微 生 物 が 合 成 す る プ ラ スチ ッ ク で あ るPolyhydroxyalkanoate（HM） 間 の 化 学 構 造 類 似 性 を ヒ ン ト に 、PHA重 合 酵 素 に 着 目 し 、 3−hydroxybuぢ りlICOA（3HB―COA： 基 本 的 教PHAの モ ノ マー ） が 共 存 する 場 合 に 、 乳酸 モ ノ マ ー で あ る1actyl皿A） ―COA重 合 能 を 示 すPHA重 合 酵 素 変 異 体 を 見 出 し た 。 本 発 見 は 、 デ ザ イ ンし た ポ リ マ ー 合 成 シ ス テ ム を 作 動 さ せ る た め の プレ イ ク ス ル ーで あ っ た 。 さ らに 、LAーCOA供 給 酵素 遺 伝 子 を 大 腸 菌 に 導 入 し 、 乳 酸 モノ マ ー の 供 給経 路 を 構 築 した 。 モ ノ マ ー供 給 遺 伝 子 お よび 乳 酸 重 合 酵 素 遺 伝 子 を 大 腸 菌 に 導 入 し た結 果 、 乳 酸 ユニ ッ ト が6mol％ 導 入さ れ たP（LA−cD‐3HB） を 微生 物 生 産す ること に成功 した。
著 者 は ま た 、P(LA‑co‑3HB)中 のLA分 率 を 向 上 さ せ る た め に 、 乳 酸 ベ ー ス ポ リ マ ー 生 合 成 シ ス −615ー
テ ム中の乳酸モノマー供給量 の増強に取り組んだ。菌体内 の乳酸量を増加させることによって、乳 酸 モ ノマ ー供 給量が増加することを期待 して、嫌気培養を行ったと てろ、コポリマー中のLA分率 が 、47 mol%へと飛躍的に向上 した。また、合成されたポ リマーの光学異性組成を分析した結果、
本 ポリマーは、非常に高い光 学純度を持ったP[(R)‑LAco‑(R)‑3HJ3]であるということがわかった。
さ ら に、 構造 的性 質 であ るモ ノマ ー配 列をNMRによって詳細に分析 し、本ポリマーは、ランダム 配 列をもつコポリマーである ということを明らかにした。
さら に、 著者 はLA分 率を 向上 させ るた め に、 ポリ マー を 直接 重合している重合酵素のLA重合 能 カを 向上 させ ると い う方 法に も取 り組 んだ。唯一見っかっ ていた乳酸重合酵素は、野生 型PHA 重 合 酵 素 の3HB重 合 能 が 向 上 す る 変 異 体 で あ っ た。 本知 見 から 、PHA重 合酵 素に おけ る3HB重 合 能カ をさ らに 向上 さ せれ ば、LA重 合能 カ の増 強に つ誼 が るの では 顔い かと 考 え、3HB重合能 を向上させると 報告されていた新規の変異を 乳酸重合酵素に導入し、従来の乳酸重合酵素よりも、
LA分率 およ びポ リマー蓄積率が向 上した新規乳酸重合酵素を創 製した。さらに、本研究で 見出し た新規変異点に おけるアミノ酸飽和変異導入 を行うことで、16〜45 molo/oと幅広い範囲でLA分率 が 制御 され たP(LA−co‑3HB)を 、再 現性 よく、高蓄積に微生物 合成することができた。得 られた 多 様改 組成 のP(LA−co−3HB)の熱 的性質を分析することによっ て、LA分率の向上とともに 、ポリ マ ー の 結 晶 性 が 低 下 し て い る で あ ろ う と い う 知 見 を 得 る こ と が で き た 。
これを要するに、著者は、乳 酸ベースポリマーであるP(LA‑co−3HB)の微生物合成シ ステムを新 規 に 構築 し、 さらに本シス テム中のLA分率制御に影響す るファクターを調節するこ とにより、組 成 が 精密 制御 されたP(LA‑co‑3HB)を合成することができ た。本ポリマーは、高光学 純度かつラン ダ ム性の高い、化学合成では合 成不可能教ポリマーであっ た。本研究は、今後、乳酸ユニットと微 生 物合成可能顔他のユニットと の新規共重合ポリマー合成 につをがるものであり、関連分野の今後 の 発展に貢献するところに大を るものがある。
よ っ て 、 著 者 は 、北 海道 大 学博 士（ 工学 ）の 学 位を 授与 され る 資格 があ るも のと 認 める 。
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