博 士 ( 工 学 ) 山 田 寛 喜
学 位 論 文 題 名
ス ー パ ー レ ゾ リ ュ ー シ ョ ン 法 に よ る 電 磁 波 測 定 と
そ の 応 用 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文は,種々の電磁波測定において用いられている時間領域測定法の問題点を指摘し,その 解決法としてスーパーレゾリューション法の適用が有効であることを理論,計算機シミュレー シ ョ ン , 実 験 を 通 し て 明 ら か に し た 研 究 成 果 を ま と め た も の で あ る 。 近年の情報通信分野の急速な発展は,衛星放送,移動体通信などを我々の身近なものとさせる に至った。そこには,数多くの研究者の理論,実験を通した高周波デバイス開発,電波伝播の解 明がある。21世紀の高度通信社会では,マイク口波,さらにはミリ波帯のデバイス開発,電波伝 播解明が不可欠である。このためには,解析手法(理論)ばかりでなく,それを検証するための 測定(実験)法の確立が必要である。理想的な高周波測定を実現するのは,一般に困難であり,
目的に合わせた種々の測定法が考案されてきた。アンテナパタン測定において大地の影響を軽減 させるための測定場なども,その一例である。このように高周波測定では,不用な応答を除去し 高精度な測定を実現するために,測定系に対して物理的・機械的な変更を必要とするものが少な くない。
高周波分野で多用される測定器にネットワークアナライザがある。これは周波数領域での電磁 波の振舞いを反射・伝送係数として測定する装置であり,近年では,デバイスのネットワーク解 析のみならず,アンテナ測定,電磁波散乱測定など,広く,電磁波測定全般に利用されるように なってきている。工レクト口二クス,特にマイクロプロセッサの発達は,本測定器における時間 領域測定を可能とさせた。これは,タイムドメイン機能と呼ばれ,測定周波数帯域データに対し て高速フーリ工変換を施すことにより,時間応答波形を描画させるものである。デバイス,ある いは空間を伝播した電磁波は,時間領域においてその伝播経路長に応じた応答として現れる。こ れ に よ り , 我 々 は 各 部 か ら の 応 答 を 直 接 識 別 す る こ と が 可 能 と な っ た 。 タイムドメイン機能は測定法としても有効であり,時間領域において不用な応答を取り除き,
再び,周波数領域に変換することにより所望する部分のみの周波数応答を得ることを可能として
482→
いる 。こ れらは すべて 数値演 算処 理に基 づくた め,測 定系の 機械 的な変 更を施 すことなく,測定 精度 の向 上が可 能であ る。し かし ながら ,フ― リ工変 換法に 基づ く手法 である ため,時間領域で のレ スポ ンス分 解能が 測定周 波数 帯域幅 に依存 すると いう欠 点を 有する 。狭帯 域デバイスの多い 高周 波素 子では 測定が ,この 欠点 により 制約さ れる場 合が多 い。 小型化 が進む マイク口波・ミリ 波素 子に おいて のみな らず, アン テナ・ 散乱測 定にお いても 周波 数帯域 幅の制 約を越えた分解能 を有 する 時間領 域法を 開発す る意 義は大 きい。
そ こで本 論文で は,ス ーパ ―レゾ リュー ション 法の 高分解 能性に 着目し ,その 電磁波測定に対 する 適用 を検討 した。 スーパ ーレ ゾリュ ーショ ン法は ,主に アレ ーアン テナで の波源の到来方向
(空 間ス ペクト ル)推 定に用 いら れる手 法であ り,ア レー長 に依 存しな い分解 能性を実現するも ので ある 。本論 文では ,数多 く提 案され ている ス―パ ーレゾ リュ ―ショ ン法の 中から代表的な手 法 で あ るMUSICア ル ゴ リ ズ ムを 取 り 上 げ , ネッ ト ワ ー ク アナ ラ イ ザ で の測 定 で 得 ら れる 周 波 数デ ータ サンプ ルとア レー素 子配 列との対応関係に着目し,その適用可能性を明らかにしている。
ネッ トワ ークア ナライ ザで実 現さ れる代 表的な 電磁波 測定系 での 実験を 通し, 本手法が従来のタ イム ドメ イン機 能に比 べ,数 分の ーから 数十分 のーの 周波数 帯域 での時 間領域 測定を明らかにし た 。 以 下 , 本 研 究 に よ り 得 ら れ た 結 果 お よ び 考 察 を 各 章 に 分 け て 説 明 す る 。 第1章 では, 本論文 の背景 および 概要 にっい て述べ ている 。
第2章 では ,ネッ 卜ワー クア ナライ ザで実 現され てい るタイ ムドメ イン機 能を用 いた 電磁波 測 定法 をま とめる ととも に,そ の分 解能特 性を定 量的に 明らか にし た。ま た,波 源の到来方向で用 い ら れ るMUSICア ル ゴ リ ズ ムの 概 略 を ま と め, 周 波 数 領 域デ ー タ と の 対応 を 明 ら か にし た 。 さら に, アレー アンテ ナでの 適用 時と同様,周波数領域においても信号相関処理が必要ナょことを 明 ら か に し , 空 間 ス ム ー ズ ィ ン グ 法 に よ る 前 処 理 法 が 有 効 で あ る こ と を 示 し た 。 第3章 で は , 第2章 で 提 案 し た 信 号 相 関 抑 圧 前 処 理 法 とMUSICア ル ゴ リ ズ ムの 組 合 せ が 電 磁波 回路 の時間 領域測 定法と して 有効で あるこ とを明 らかに した 。ここ では, 前処理法の相関抑 圧効 果の 定量的 な考察 を行い ,デ バイス の不連 続点検 出の実 験を 通し, 従来法 の数十分のーの周 波数 帯域 幅で, 各部の 応答の 分離 検出が 可能で あるこ とを示 した 。
第4章 では, アンテ ナゲイ ンおよ びパ タン測 定に対 する適 用結果を示した。アンテナ測定では,
被測 定ア ンテナ の使用 周波数 帯域 データ のみで の不要 波の分 離検 出が必 要とさ れる。電波無響室 内に 作成 した多 重伝播 空間で の実 験を通 して, その適 用可能 性を 検証し た。さ らに,従来の時間 領域 機能 を併用 するこ とによ り, 測定デ ー夕数 の軽減 による 測定 時間の 短縮が 図られることを明 らか にし た。
‑ 483
第5章 で は , 時 間 領 域 に おい て 分 離 さ れる 個 々 の 応 答の 周 波 数 特 性 がMUSICア ル ゴ ル ズ ム お よび 信号相 関抑圧 前処理 に及 ばす影響に関する理論的な検討を行っている。ここでは,特にスー パ ーレ ゾリュ ーショ ン法の 適用 が期待 される 散乱測 定を考 慮し て,ク リーピ ング波,工ッジ回析 波 など に対応 する周 波数特 性を 有する 信号が 含まれ るデ一 夕を 取り上 げ,そ れらの存在時の適用 で の入 射信号 数推定 ,およ び, 時間応 用推定 時の誤 差特性 など に関す る定量 的検討を行い,周波 数 特 性を 有 す る 信 号 の取 り 扱 い が 困難 と さ れ るMUSICアル ゴ リ ズ ム が, 上 記 の 周 波 数特 性 を 有 する 信号に 関して は,実 用上 ,゛十分な分解能特性を実現していることを,理論,数値計算によ り 明ら かにし ている 。
第6章 は, 実 際 に 散 乱測 定 系を構 築し, 第5章での 考察 結果を 実験的 に検証 し,さ らに ,散乱 測 定に 対して も従来 法に対 する 本手法 の優位 性が維 持され るこ とを明 らかに した。さらに本手法 に よる ,アン テナあ るいは 散乱 体を移 動させ て得ら れたデ 一夕処理による,散ufL点の空間的な位 置 検 出 結 果 も 示 し , 散 乱 体 の 形 状 推 定 な ど に 対 す る 適 用 可 能 性 を 示 し た 。 第7章 は , 結 論 で あ り , 本 研 究 内 容 と 得 ら れ た 成 果 を 最 後 に 統 括 し て い る 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
伊藤 小川 小柴 永井
精彦 吉彦 正則 信夫
本 論文 は,電 磁波測 定にお いて 用いら れてい る時間 領域測 定法 の問題 点を指摘し,その解決法 と してス ーパ ーレゾ リュー ション 法の適 用が 有効で あるこ とを理 論, 計算機 シミュレーション,
実 験を通 して 明らか にした 研究成 果をま とめ たもの である 。
近 年の 情報通 信分野 の急速 な発 展は, 衛星放 送,移 動体通 信な どを我 々の身近なものとさせる に 至った 。こ のよう な高周 波帯で の機器 の諸 特性の 高精度 な測定 は, 一般に 困難であり,目的に 合 わせて 種々 の測定 法が考 案され てきた 。こ れらの 多くは ,測定 時の 不要な 信号の混入を防ぐた め に,測 定系 に対し て物理 的・機 械的な 変更 を必要 とする もので あっ た。一 方,高周波分野で多 用 される 測定 器,ネ ットワ ークア ナライ ザで は,近 年,夕 イムド メイ ン機能 と呼ばれる時間領域
機能を 有する ものが みら れ,フ ーリ工 変換法 を用 いた時 間領域 処理に より, 数値演算処理による 不要入 射波の 除去, 測定 精度の 向上を 図るこ とが 可能と なって いる。 しかし ながら,これはフー リ工変 換法に 基づく 手法 である ため, 時間領 域で のレス ポンス 分解能 が測定 周波数帯域幅に依存 すると いう欠 点を有 する 。した がって ,小型 化が 進むマ イク口 波・ミ リ波素 子においてのみなら ず,ア ンテナ ・散乱 測定 におい ても周 波数帯 域幅 の制約 を越え た分解 能を有 する時間領域法を開 発する 意義は 大きい 。
そ こ で 本 論文 で は , 主 にア レー アンテ ナで の波源 の到来 方向推 定に 用いら れるス ーパー レゾ リュ― ション 法の高 分解 能性に 着目し ,その 電磁 波測定 に対す る適用 を検討 した。ここでは,数 多 く 提 案 さ れ てい る ス ー パ ーレ ゾ リ ュ ー シ ョン 法 の 中 か ら代 表 的 な 手 法で あ るMUSICア ル ゴ リズム を取り 上げ, ネッ トワー クアナ ライザ での 測定で 得られ る周波 数デ一 夕サンプルとアレー 素子配 列との 対応関 係に 着目し ,その 適用可 能性 を明ら かにし ている 。また 、ネットワークアナ ライザ で実現 される 代表 的な電 磁波測 定系で の実 験を通 し,本 手法が 従来の タイムドメイン機能 に比べ ,数分 のーか ら数 十分の ーの周 波数帯 域で の時間 領域測 定を明 らかに した。以下,本研究 により 得られ た結果 およ び考察 を各章 に分け て説 明する 。
第1章では ,本論 文の 背景お よび概 要にっ いて述 べて いる。
第2章で は, タイム ドメイ ン機能 を用い た電 磁波測 定法の 概略を 紹介 し,そ の分野 能特性 を定 量的 に 明ら かに した。 また, 空間領 域, 周波数 領域で のデー タの対 応関 係を明 らかに し,MUSIC アルゴ ルズム の適用 可能 性を示 した。 さらに ,信 号相関 処理が 必要と なるこ とを明らかにし,空 間ス厶 一ズィ ング法 の適 用を提 案した 。
第3章 で は , 信 号 相 関 抑 圧 前 処 理 法とMUSICア ル ゴ リ ズム の 組 合 せ が電 磁 波 回 路 の時 間 領 域測定 法とし て有効 であ ること を明ら かにし た。 ここで は,前 処理法 の相関 抑圧効果の定量的も 考察, および ,デバ イス の不連 続点検 出の実 験を 通し, 従来法 の数十 分のー の周波数帯域幅で,
各部の 応答の 分離検 出が 可能で あるこ とを示 した 。
第4章でfま, アンテ ナゲイ ンお よびパタン測定に対する適用結果を示した。アンテナ測定では,
被測定 アンテ ナの使 用周 波数帯 域デー タのみ での 不要波 の分離 検出が 必要と される。電波無響室 内に作 成した 多重伝 搬空 間での 実験を 通して ,そ の適用 可能性 を検証 した。 さらに,従来の時間 領域機 能を併 用する こと により ,測定 デー夕 数の 軽減に よる測 定時間 の短縮 が図られることを明 らかに した。
第5章 で は , 時 間 領 域 に お い て 分 離さ れ る 個 々 の応 答 の 周 波 数特 性 がMUSICア ル ゴリ ズ ム および 信号相 関抑圧 前処 理に及 ぼす影 響に関 する 理論的 な検討 を行っ ている 。ここでは,特に電
磁波散乱測定で観測される周波数特性を有する信号が含まれるデータを取り上げ,入射信号数測 定,および,時間応答推定に及ぼす誤差特性の定量的検討を行い,実用上,MUSICアルゴリズ ムが有効となることを明らかにした。
第6章は,実際に散乱測定系を構築し,その実験結果により,散乱測定時の本手法の優位性を 実証した。また,アンテナあるいは散乱体を移動させて得られたデー夕処理により,散乱体の形 状推定などが可能となることを示した。
第7章 は , 結 論 で あ り , 本 研 究 内 容 と 得 ら れ た 成 果 を 最 後 に 統 括 し て い る 。 これを要するに,著者は,高周波・マイク口波測定において近年注目されている時間領域手法 の問題点の解決法の一手法として,測定時の周波数帯域幅により制限される従来法に代わる高分 解能時間領域手法を提案したものであり,電磁波工学,および電子工学の進歩に貢献するところ 大なるものがある。
よ っ て , 著 者 は 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
486