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博 士 ( 工 学 ) 和 田 亮 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 和 田 亮 一

学 位 論 文 題 名

常 微 分 方 程 式 の 切 り 換 え に よ っ て 生 ず る フ ラ ク タ ル 集 合 と 閉 包 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  非線 形動 力学 は、 時間 的に 発展する系(力学系:  Dynamical Systems)の振るまいを 研 究す る学 問分 野で ある 。と くに 、系 の 非線 形性 に由 来する解のカオテイックな挙動や 分 岐 現 象 の 分 類 ・ 特 徴 付 けを 通じ て、 現実 の様 々な 複雑 な現 象 を統 一的 に理 解す るた め の 体 系 を 作 り 出 す こ と を目 指し てい る。 この よう な性 格を 持 つ非 線形 動力 学は 、数 学 ・物 理学 ・化 学・ 生物 学・ 電気 機械 工 学・ 経済 学な ど多くの異なる分野の問題と関わ る 学 際 的 な 学 問 領 域 で あ ると いえ る。 非線 形動 力学 が密 接に 関 わる 分野 のー つで ある 神 経 回 路 網 理 論 で は 、 脳 をニ ュー 口ン のネ ット ワー クと して モ デル 化し 、そ の機 能を ニ ュー 口ン 間の 相互 作用 とし て理 解す る 。こ の分 野に おける主要な関心のーっは、ネッ ト ワ ー ク が 内 部 の 可 変 バ ラヌ ータ を調 節す るこ とに よっ て外 部 環境 に適 応す る方 式を 解 析 す る こ と で あ る 。 こ のよ うな ネッ トワ ーク の振 るま いを 理 解す るた めに は、 外部 環 境 と そ れ に 対 す る 適 応 とい う視 点を 取り 入れ た非 線形 動力 学 を発 展さ せる 必要 があ る 。こ のよ うな 問題 意識 に基 づい て提 案 され たモ デル が、「切り換え入カを受けるカ学 系 」 で あ る 。 こ こ で 、 切 り換 え入 カと は、 有限 の時 間区 間で 定 義さ れる 複数 の時 間パ タ ー ン の 非 周 期 的 な 列 で あり 、脳 に対 する 外部 環境 のモ デル と して は、 従来 の非 線形 動 力 学 の 枠 組 み に お い て 解析 され てき た一 定値 入カ や周 期入 カ とい った 規則 的な 入カ に 比 ベ 、 よ り 一 般 的 な も ので ある と考 えら れる 。こ のよ うな 切 り換 え入 カを 受け るカ 学 系 の 振 る ま い は 、 反 復 関数 の集 合に よっ て記 述で きる 。こ れ まで の研 究で は、 反復 関 数 が 距 離 の 縮 小 性 を 満 たす 場合 には 、系 の状 態が フラ クタ ル な不 変集 合上 を遷 移す る こと が理 論的 に示 され てい る。

  本 研 究 で は 、 切 り 換 え 入カ を受 ける 常微 分方 程式 の解 の挙 動 を非 線形 動力 学系 の観 点 か ら 解 析 し 、 以 下 の 結 果を 得た 。ま ず第 一に 、反 復関 数が 距 離の 縮小 性を 満た さな い 場 合 の 系 の 振 る ま い を 調べ るた めに 、反 復関 数の 縮小 性を 解 析的 に議 論で きる 線形 力 学 系 を 解 析 し た 。 そ し て、 反復 関数 に対 する 縮小 条件 がな い 場合 でも フラ クタ ル遷 移 が観 測さ れる こと を明 らか にし た。 第 二に 、フ ラク タル集合を包み込む「閉包」を、

内 挿 シ ス テ ム ・ ベ ク ト ル 場の 重ね 合わ せと いう 概念 を導 入す る こと で定 義し 、こ の閉 包 を 時 変 入 カ を 受 け る 線 形力 学系 およ び一 定値 入カ を受 ける 非 線形 力学 系の 例と して ダ ッ フ イ ン グ 振 動 子 お よ び強 制減 衰振 り子 に対 して 具体 的に 構 成し た。 第三 に、 フラ ク タ ル 遷 移 現 象 を 示 す 物 理 系 の エ ネ ル ギ ー が 持 つ 諸 特性 を、 直列LCR回 路を 例と して

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数値実験により解析し、系のェネルギー分布が離散的なバンド構造を持ち、解軌道が それらの上を遷移していることを示した。

  本論文は全8章から構成されている。

  第1章では、本研究の背景および目的を述べる。

  第2章では、切り換え入カを受けるカ学系を記述する枠組みとして、超円筒状態空 間とその上で定義されるべクトル場の集合を導入する。これにより、系の振るまいを、

ベクトル場の切り換えが生成する円筒空間上の軌道集合によって理解できることを示 す。この円筒空間上の連続時間のダイナミクスは、ポアンカレ断面上の反復関数の集 合による離散時間のダイナミクスに抽象化できることを示し、反復関数の縮小条件の 下では、系の状態がフラクタルな不変集合上を遷移することを理論的に論じる。さら に、ポアンカレ断面上のフラクタル集合を包み込む「閉包」を、内挿システム・ベク トル場の重ね合わせという概念を導入することで定義する。

  第3章で は、n次元 線形力学系の反復関数および2次元系のりプシッツ定数を解析 的に計算し、特定のパラメ一夕の下では反復関数が非縮小写像となることを示す。そ して、非縮小的な反復関数を持つ系を用いた数値実験を行い、このような系において もフラクタル遷移現象が観測されることを示す。

  第4章で は、3章で 議論した2次元線形力学系を例として、ポアンカレ断面上のフ ラクタル集合の閉包を具体的に構成する。2次元線形系における閉包は、その系の行 列の固有値が実数であるときは、反復関数のポイントアトラクタを通る軌道によって、

また固有値が複素数のときは接点を通る軌道によって構成されることを明らかにする。

さ ら に 、 円 筒 状 態 空 間 中 の 軌 道 集 合 を 包 み 込 む チ ュ ー ブ 構 造 を 示 す 。   第5章では、非線形力学系のフラクタル集合に対する閉包を、入カが一定値の場合 に限定して論じる。非線形系に対する閉包を実験的に構成する方法を、切り換え多様 体を導入することによって提示する。そして、この方法を用いてダッフイング振動子 および強制減衰振り子に対する閉包を具体的に示す。また、この章の後半では、フラ クタル集合の閉包が極限閉軌道とみなせることを示す。

  第6章では、二つの安定状態を持っダッフイング振動子の閉包が入カの振幅を分岐 バラメータとして分岐することを、数値実験により示す。

  第7章では、切り換え入カを受ける直列LCR回路のエネルギーが持つ諸特性を数値 実験により解析する。そして、系のエネルギー分布がバンド状の構造をしており状態 がその上を遷移していること、このバンド構造がさらに微細なパンドからなっている ことを示す。

  第8章では、本研究で得られた結果について述ベ、それらの結果に対する考察を行う。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授   前 教 授   堤 教 授   石 助教授  郷

    晋爾     耀広 政   勉 原 一 寿

学 位 論 文 題 名

常微分 方程式の切り換えによって生ずる    フ ラ ク タ ル 集 合 と閉 包 に 関す る 研 究

  天体の運動に関する三体問題を解決するため、19世紀後半にポアンカレが 創始した非線形動力学は、20世紀に入って理論的に体系化された。さらにコ ンピュータの発達によってカオスなどの非線形動力学的現象の視覚化が可能に なり、一般に広く知られるようになった。その発展は数学、物理学、生物学、

医学、経済学、情報工学など幅広い異なる学間分野に影響を与えている。非線 形動力学の主な研究対象は状態量の時間発展を明らかにすることにあるが、こ れまでは、外界と相互作用しない、閉じたシステムに対する状態量を問題にし てきた。しかし、現実の研究対象は、外界と相互作用する、開いたシステムを 問題とすることが多い。近年、開いたシステムはカ学系集合として取り扱うこ とが重要であり、システムの時間発展はフラクタル集合上のダイナミクスとし て捉えられることが明らかとなってきた。このことは、外部入カによって切り 換えられる常微分方程式の解軌道がフラクタルとして特徴付けられることを意 味する。

  本論文ではこれらを背景にして、常微分方程式の確率的切り換えによって生 ずるフラクタル集合とその閉包について、非線形動力学的観点から理論的およ び数値解析的に研究を行しゝ、開いたシステムに対する新たな知見を得た。主な 研究結果は、以下の3点である。まず、常微分方程式の切り換えによって生ず る解集合のフラクタル構造が、縮小条件に限らず存在することを示した。次に、

フラクタルな解集合を閉じ込める閉包が存在することを明らかにした。そして、

ハミルトニアンカ学系の場合には、エネルギーがパンド構造を持ち、外部との 相 互 作 用 時 間 に 対 し て 振 動 的 な 依 存 性 を 持 つ こ と を 示 し た 。   本論文は全8章から構成されている。

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  第1章では、本研究の背景および目的を述べる。

  第2章では、常微分方程式の確率的切り換えに対する一般的な理論的体系を まとめ、解集合のフラクタル性について述べる。次に、内挿力学系、ベクトル 場の重ね合わせを導入し、解集合に対してそれを閉じ込める閉包が存在するこ とを示した。

  第3章では、解析的な取り扱いが可能な線形力学系のりプシッツ定数を求め ることにより、反復関数が縮小写像でない場合にも、解集合がフラクタルを特 徴っける特別な方程式を満たすことを明らかにした。また、n次元線形力学系 の反復関数を一般的に導出した。

  第4章では、線形力学系を固有値によって3種類に分類し、それぞれの場合 に つ い て フ ラ ク タ ル 集 合 の 閉 包 が 存 在 す る こ と を 具 体 的 に 示 し た 。   第5章では、非線形力学系のフラクタル集合の閉包について述べる。一定値 の切り換え入カの場合には、ダッフイング振動子および強制減衰振り子を例に して、非線形力学系でも閉包が存在することを示した。さらに、リターンマッ プによって閉包がカ学系のりミットサイクルアトラクタであることを示した。

また、n次元非線形力学系においても、ベクトル場の平行条件によって切り換 え多様体が定義でき、それをポアンカレ断面とすることで、閉包がりミットサ イクルア卜ラクタであることを指摘した。

  第6章では、ダッフィング振動子を用いて、閉包がパラメータに対して分岐 を起こすことを数値解析的に示した。

  第7章では、直列LCR回路を用いて、エネルギーについて考察した。電源電 圧を外部入カとして確率的に切り替えることで、状態空間にフラクタル集合お よび閉包が存在することを示した。次に、ポアンカレ断面上のエネルギー分布 を求め、それがフラクタルのクラス夕構造を反映したバンド構造であることを 明らかにした。さらに、ポアンカレ断面上で定義された平均エネルギーが入カ の切り換 え時間間隔 に対して振 動的な依存 性をもつことを明らかにした。

  第8章では、本研究の総括を行った。

  これを要するに、著者は非線形動力学の観点から常微分方程式の確率的切り 換えによって生ずるフラクタル集合と閉包に関して理論的および数値的考察を 行い、開いたシステムに対する基本的特徴の一端を明らかにしたものである。

この知見は、非線形、非平衡、開放系を対象とする複雑系の解明に貢献すると ともに、非線形動力学、応用物理学の発展に寄与するところ大なるものがある。

  よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと 認める。

参照

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