博士 ( 地球 環境 科 学) 堀川恵司
Response of nitrogen cycling to climate‑related oceanographic changes during the last glacial‑interglacial cycle : a contrastive study between the eastern and western equatorial Pacific
(氷期―間氷期サイクルの海洋変動に対する窒素循環の応答:
東西赤道太平洋の比較から)
学位論文内容の要旨
窒 素 は植 物プ ラ ンク トン に 必須 な栄 養 塩で ある が,現 在,窒素の枯渇によ って,中一低緯度 海域の多くで基礎 生 産 が低 く 抑え られ て いる .こ の よう な中 ― 低緯 度海 域 では ,海 洋 窒素 量の 増 減を 左右 す る窒 素固 定(全ソースの 約 70%)と 水 柱で の脱 窒 (全 シン ク の30―50蚰 が広 域的 に発生 している,そのため ヶ過去の気候一海 洋変動に対して窒 素 固 定と 脱 窒フラックスが 大きく変わってい たとしたら,中一 低緯度に存在する窒 素量が大きく変化 していた可能性が あ る .仮 に ,こ れら の 海域 で窒 素 量の 変動 が あっ たな ら ぱ, 現在 硝 酸制 限を 受 けて いる 貧 栄養 塩海 域において生産 の 変 動が 生 じて いた 可 能性 もあ る .中 一低 緯 度で の炭 素 循環 を考 え る上 で, こ の海 域に お ける 窒素 循環が重要な鍵 に な って い ると言える.し かし,どのような 気候状態の際に, どの程度の窒素が海 洋に供給され,そ して海洋から放出 さ れ るの か とい う気 候 変化 に対 す る窒 素循 環 の応 答や , 窒素 量の 変 動に 対す る 基礎 生産 へ の影 響は まだ未解明とな っ て いる . そこ で, 本 研究 では , 上記 の問 題 の解 決の た めに ,過 去15万 年間 の 海底 堆積 物 を対 象と し,バイオマー カ ー(アル ケノン,アル舟ン )と安定同位体(6 13C,615N)を用い て,海洋変動に対 する窒素固定と脱窒変動の応答に関す る研究を 行った.
窒 素 固 定 海 域 と し て 対 象 と し た ス ー ル ー 海 の 表 層 の 懸 濁 物 と 有 光 層 下 の 沈 降 粒 子 の 結 果 は ( そ れ ぞ れ , 1.6−3.79t00,5.3960),基質として考えられる北太平洋中層水の硝酸の615N値(ca.5.8弧)よりも軽い値であった.同時期 に 採取 さ れた 海洋 表 層水 には , 窒素 固定 を 行う シア ノバク テリアが確認される ため,615N値の軽 い原因として,窒 素 固 定 に よ る 同 位 体 的 に 軽 い 新 たな 窒素 の 付加 が明 ら かに なっ た ,過 去8.3万年 間の ス ール ー海 堆 積物 の615N変動 も 概ね5.7輌 以下 の 軽い 値を 示 し, 氷期r間氷 期 を通 して 永 統的 に窒 素 固定が 機能していた可能 性がある,また, 温 暖期(MIs3;5.4−3.3万 年前)に615Nが4.5%まで減少するこ とから,この時期 に窒素固定が相対的に強化していた事 が 明ら か にな った , 問氷 期に は アラ ビア 海 や東 赤道 太平洋 で脱窒が強化してい ることから,脱窒 の強化によって海 洋 の 窒素 量 が減 少し , 熱帯 域の 貧 栄養 海域 で 窒素 固定 が引き 起こされるという仮 説が提案されてい る.しかし,本研 究 の 窒 素 固 定 変 動 は , 脱 窒 域 の 脱窒 変動 と 明瞭 な対 応 関係 には な かっ た. そ のた め, ス テー ジ2や3でみ られ た スー ル ー海 の 窒素 固定 強 化は ,モ ン スー ンに よ る鉛 直混 合の強 化により表層にりン が蓄積され窒素固 定が強まった,と い
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う よ う な ス ー ル ー 海 の 地 域 的 な 現 象 だ っ た 可 能 性 が 示 唆 さ れ る ・
脱 窒 の 影 響 を 検 討 し た 東 赤 道 太 平 洋 の 研 究 で は , 西 経95度80N−80Sの ト ラ ン セ ク ト で 採 取 さ れ た8本 の 表 層 堆 積 物 な ら ぴ に3本 の ピ ス ト ン コ ア 試 料 を 対 象 に , 炭 素 ・ 窒 素 安 定 同 位 体 比 ・ア ル カ ン ・ ア ル ケノ ン 分 析 に よ り 解 析を 行 っ た . 主 な 結 果 は , 以 下 の と お り で あ る .
(1)表 層 堆 積 物 の 窒 素 同 位 体 比 の 分 布 か ら , 赤 道 で 最 も 軽 く (7恊 ) , 南 北 に 行 く に 従 い 徐 々 に 値 が 増 加 す る こ と が わ か っ た . こ れ は , 赤 道 湧 昇 に よ っ て 表 層 に 栄 養 塩 が 供 給 さ れ , 南 北 に 移 流 す る 際 に , 植 物 プ ラ ン ク ト ン が 同 位 体 分 別 を 起 こ し 選 択 的 に 軽 い 硝 酸 を 使 っ て い る た め と 解 釈 さ れ た ,
(2)赤 道 サ イ ト と 北 緯4度 の ピ ス ト ン コ ア サ イ ト の 過 去15万 年 間 の 窒 素 同 位 体 比 変 動 は , 異 な る 変 動 で 特 徴 づ け ら れ た . こ れ は , そ れ ぞ れ の サ イ ト に お け る 硝 酸 の 供 給 源 が 違 う 事 が 原 因 だ と 思 わ れ る . 北 緯4度 の サ イ ト では , 北 か ら ( メ キ シ コ ー ガ テ マ ラ 沖 ) の 脱 窒 起 源 の 硝 酸 の 供 給 が あ り , 赤 道 のHY06サ イ ト で は 赤 道 潜 流 の 軽 い 窒 素 同 位 体 比 を 持 つ 硝 酸 と 南 赤 道 海 流 の ペ ル ー 沖 起 源 の 硝 酸 が 供 給 源 と な っ て い る ,
(3)3サ イ ト の 古 水 温 結 果 と 既 存 の 古 水 温 デ ー タ か ら , 約2万 年 の 周 期 性 を 持 つ 歳 差 日 射 量 変 動 が , 東 赤 道 太 平 洋 ITCZ位 置 の 南 北 変 動 に 影 響 を 及 ば し , 東 赤 道 太 平 洋 の 水 温 分 布 に 影 響 を 与 え て い る こ と が 明 ら か に な っ た , (2)ハ プ ト 藻 の 生 産 増 加 が 氷 期 に 繰 り 返 し 見 ら れ , 日 射 量 変 動 に 対 応 す る 約2万 年 の 周 期 性 を 持 っ て い る , (3)ケ イ 藻 は4万 年 相 当 の 長 い 周 期 性 を 持 ち 問 氷 期 に 増 加 す る , し か しTOCの 増 加 に は あ ま り 寄 与 し な い , (4)10万 年 周 期 の 最 温 暖 期 に 脱 窒 が 最 も 強 化 さ れ て い る . そ の よ う な 最 温 暖 期 に は , 生 産 の 指 標 で あ る 有 機 炭 素 量 ・ ア ル ケ ノ ン 含 有 量 と も に 大 き く 減 少 し て い た . 一 つ の 可 能 性 と し て , 脱 窒 が 強 化す る こ と に よ っ て 中層 の 硝 酸 量 が 減 少 し , 周 辺 海 域 の 生 産 の 低 下 を 引 き 起 こ し て い た 可 能 性 が 指 摘 さ れ た .
東 酉 赤 道 太 平 洋 の 古 海 洋 学 的 研 究 に よ っ て , 東 西 で の 脱 窒 と 窒 素 固 定 の 明 瞭 な 対 応 関 係 は 確 認 さ れ な か っ た が , 窒 素 固 定 ・ 脱 窒 と も に 地 域 的 な 生 産 に 大 き な 影 響 を 及 ば し う る こ と が 明 ら か に な っ た . ス ール ー 海 の 研 究 で 明 らか に な っ た よ う に , 窒 素 固 定 が 表 層 のN/P比 の 低 下 に 対 し 活 発 に な る の で あ れ ぱ , 最 もN/P比 が 低 い 脱 窒 域 と そ の 周 辺 の 表 層 に お い て も 窒 素 固 定 が 起 こ っ て い る 可 能 性 が あ り , 今 後 , 東 赤 道 太 平 洋 に お い て も 窒 素 固 定 の 時 間 的 ・ 空 間 的 変 動 に 関 す る さ ら な る 理 解 が 必 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る ‐ ま た , 大 規 模 を 東 赤 道 太 平 洋 の 脱 窒 の 開 始 は , 融 氷 期 の 比 較 的 早 い 時 期 に 見 ら れ , こ の タ イ ミ ン グ は 同 海 域 の 水 温 変 動 と ほ ば 同 時 に 見 ら れ る . そ の た め , 脱 窒 は , 氷 期 か ら 問 氷 期 に か け て の 気 候 変 動 に 対 し て 最 も 鋭 敏 に 応 答 す る 機 構 の ー っ と し て 位 置 づ け ら れ る 現 時 点 で 誼 , 仮 説 の 域 を 出 な い が , 脱 窒 変 動 に は , 中 層 水 の 溶 存 酸 素 量 の 変 動 が 大 き く 関 わ っ て い る と 考 え ら れ る た め , 今 後 , 中 層 水 溶 存 酸 素 量 の 変 動 を 視 野 に 入 れ た 研 究 が 課 題 と た っ て き た .
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
Response of nitrogen cycling to climate‑related . oceanographic changes during the last glacial‑interglacial cycle : a contrastive study between the eastern and western equatorial Pacific
(氷期―間氷期サイクルの海洋変動に対する窒素循環の応答:
東西赤道太平洋の比較から)
海 洋 窒 素循 環 を 担 う窒 素 固 定 と脱 窒とい うプロ セスは ,どの ような 気候状 態の際 に,どの よう に振る 舞って いたの か?窒 素固定や脱窒フヲックスの変動は,海洋の窒素量を大きく変化させ てい たのだ ろうか
9また, 海洋の 生産に 本当に 影響を 与えて いたのだ ろうか
9本研究 では,気候変 動に 対する 窒素固 定や脱 窒の応 答・影響についてより詳しく理解するために,窒素固定海域と脱窒 海域 で形成 された海底堆積物に注目し,バイオマーカー(アルケノン,アルカン)と安定同位体(6
13C,615N) による解析を行った.
窒 素固定 海域で ある西 赤道太平 洋スー ルー海 の表層 の懸濁 物と有 光層下 の沈降 粒子の615N 値 は( それぞ れ,1 .6 ―3 . 7960 ,5 .1960 ),基質として考えられる北太平洋中層水の硝酸の815N 値
(ca .5 .8960 )よりも軽い値であった.同時期に採取された海洋表層水には,窒素固定を行うシアノバ クテ リアが 確認さ れたた め,t15N 値 の軽い 原因と して, 窒素固 定によ る同位 体的に 軽い新たな窒 素の 付加が 明らか になっ た,続 成の影響が微少で,基質となる硝酸の窒素同位体比が現在と大きく 変わ ってい ないと すると ,過去
8.3 万年 間のス ールー 海堆積 物の615N 変 動は, 窒素固定の変動と して 見るこ とがで きる. 窒素固 定変動 を記録 してい るとする と,氷期ステージ2 と温暖期ステージ
3 (5.4ー3 .3 万年前)に窒素固定が相対的に強化していた事が示唆される.スールー海の表層は,硝 酸が 枯渇し ており ,それ に対し てりンや鉄など窒素固定に不可欠な栄養塩が豊富に存在する.その ため ,モン スーン によっ て鉛直 混合が強化された場合,亜表層からもたらされる栄養塩のうち,硝
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男 子
也 伸
武
雅 敦
誠 正
川 本
尾 本
塚
南
杉
長
山
中
授 授
授 授
授
教
教
教
教
教
助
助
助
査
査
査
査
査
主
副
副
副
副
酸は比較的容易に消費されるが,リンや鉄などは表層に蓄積していったと推察される.恐らく,鉛 直混合の終了した成層時期に多量に存在するりンや鉄を用いて,表層でシアノバクテリアのブルー ムが起こっていた可能性がある.したがって,スールー海の窒素固定の強化は,東南アジアモンス ーンの活動に対応した地域的な現象だった可能性がある.
脱窒域に隣接する東赤道太平洋西経95 度
4°N ,O °N で採取された2 本のピストンコア試料につ いて,炭素・窒素安定同位体比・アルカン・アルケノン等の分析を行った,北緯4 度(HY04) ,赤道 サイト(HY06) の過去15 万年間の615N 変動は,氷期に値が低くなるという共通の傾向はあるもの の,全体的に異なる変動で特徴づけられた.HY04 サイトでは,氷期一問氷期の615N 変動は鉛直混 合のオンーオフに起因していた.―方,HY06 サイトでは,南赤道海流を通じて,ペルー沖の脱窒 変動によって生じた硝酸の615N 変動を記録していた.ペルーとHY06 サイトの中間に位置するサイ 卜では,最終氷期に6 エ5N が2 . 5960 という低い値となっており(Farrell et al. ,1995) ,利用効率 が大きく低下していた.この事は,氷期にペルー沖脱窒の減少に伴い,ペルー周辺域の硝酸量が増 加していたが,それを十分に利用できていなかった事を示唆する.一方,融氷期の脱窒強化直後に は,東赤道太平洋の広い範囲で生産の急激な低下が認められた.この現象は,脱窒の強化が,周辺 海域の硝酸量を減少させ,生産にも制限をかけていた事を示唆する,また,融氷期の大気中pC02 濃度の増加に関与していた可能性も示唆する,
西赤道太平洋の窒素固定は,氷期―問氷期に対し,明瞭な変動はせず,またそのフラックスも
2割弱であった,窒素固定の変動が海洋の硝酸量に影響を与えているとすると,窒素固定海域面積 の拡大・縮小が重要なのかもしれない.また,脱窒は,融氷期に非常に活発にたり,海洋硝酸量と 生産の減少を引き起こしていた.脱窒は融氷期にのみ気候システムに能動的に影響を与えている可 能性がある,脱窒変動のトリガーは,依然不明であるが,南大洋の気候変動や中層水の循環形態の 変化が鍵となっている可能性があり,これらの変動と脱窒との対応関係の解明が今後の課題となっ てきている.
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