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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博士 ( 地球 環境 科 学) 堀川恵司

    Response of nitrogen cycling to climate‑related        oceanographic changes during the last glacial‑interglacial cycle : a contrastive study between          the eastern and western equatorial Pacific

(氷期―間氷期サイクルの海洋変動に対する窒素循環の応答:

    

東西赤道太平洋の比較から)

学位論文内容の要旨

    窒 素 は植 物プ ラ ンク トン に 必須 な栄 養 塩で ある が,現 在,窒素の枯渇によ って,中一低緯度 海域の多くで基礎 生 産 が低 く 抑え られ て いる .こ の よう な中 ― 低緯 度海 域 では ,海 洋 窒素 量の 増 減を 左右 す る窒 素固 定(全ソースの 約 70%)と 水 柱で の脱 窒 (全 シン ク の30―50蚰 が広 域的 に発生 している,そのため ヶ過去の気候一海 洋変動に対して窒 素 固 定と 脱 窒フラックスが 大きく変わってい たとしたら,中一 低緯度に存在する窒 素量が大きく変化 していた可能性が あ る .仮 に ,こ れら の 海域 で窒 素 量の 変動 が あっ たな ら ぱ, 現在 硝 酸制 限を 受 けて いる 貧 栄養 塩海 域において生産 の 変 動が 生 じて いた 可 能性 もあ る .中 一低 緯 度で の炭 素 循環 を考 え る上 で, こ の海 域に お ける 窒素 循環が重要な鍵 に な って い ると言える.し かし,どのような 気候状態の際に, どの程度の窒素が海 洋に供給され,そ して海洋から放出 さ れ るの か とい う気 候 変化 に対 す る窒 素循 環 の応 答や , 窒素 量の 変 動に 対す る 基礎 生産 へ の影 響は まだ未解明とな っ て いる . そこ で, 本 研究 では , 上記 の問 題 の解 決の た めに ,過 去15万 年間 の 海底 堆積 物 を対 象と し,バイオマー カ ー(アル ケノン,アル舟ン )と安定同位体(6 13C,615N)を用い て,海洋変動に対 する窒素固定と脱窒変動の応答に関す る研究を 行った.

    窒 素 固 定 海 域 と し て 対 象 と し た ス ー ル ー 海 の 表 層 の 懸 濁 物 と 有 光 層 下 の 沈 降 粒 子 の 結 果 は ( そ れ ぞ れ , 1.6−3.79t00,5.3960),基質として考えられる北太平洋中層水の硝酸の615N値(ca.5.8弧)よりも軽い値であった.同時期 に 採取 さ れた 海洋 表 層水 には , 窒素 固定 を 行う シア ノバク テリアが確認される ため,615N値の軽 い原因として,窒 素 固 定 に よ る 同 位 体 的 に 軽 い 新 たな 窒素 の 付加 が明 ら かに なっ た ,過 去8.3万年 間の ス ール ー海 堆 積物 の615N変動 も 概ね5.7輌 以下 の 軽い 値を 示 し, 氷期r間氷 期 を通 して 永 統的 に窒 素 固定が 機能していた可能 性がある,また, 温 暖期(MIs3;5.4−3.3万 年前)に615Nが4.5%まで減少するこ とから,この時期 に窒素固定が相対的に強化していた事 が 明ら か にな った , 問氷 期に は アラ ビア 海 や東 赤道 太平洋 で脱窒が強化してい ることから,脱窒 の強化によって海 洋 の 窒素 量 が減 少し , 熱帯 域の 貧 栄養 海域 で 窒素 固定 が引き 起こされるという仮 説が提案されてい る.しかし,本研 究 の 窒 素 固 定 変 動 は , 脱 窒 域 の 脱窒 変動 と 明瞭 な対 応 関係 には な かっ た. そ のた め, ス テー ジ2や3でみ られ た スー ル ー海 の 窒素 固定 強 化は ,モ ン スー ンに よ る鉛 直混 合の強 化により表層にりン が蓄積され窒素固 定が強まった,と い

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う よ う な ス ー ル ー 海 の 地 域 的 な 現 象 だ っ た 可 能 性 が 示 唆 さ れ る ・

    脱 窒 の 影 響 を 検 討 し た 東 赤 道 太 平 洋 の 研 究 で は , 西 経9580N80Sの ト ラ ン セ ク ト で 採 取 さ れ た8本 の 表 層 堆 積 物 な ら ぴ に3本 の ピ ス ト ン コ ア 試 料 を 対 象 に , 炭 素 ・ 窒 素 安 定 同 位 体 比 ・ア ル カ ン ・ ア ル ケノ ン 分 析 に よ り 解 析を 行 っ た . 主 な 結 果 は , 以 下 の と お り で あ る .

(1)表 層 堆 積 物 の 窒 素 同 位 体 比 の 分 布 か ら , 赤 道 で 最 も 軽 く (7恊 ) , 南 北 に 行 く に 従 い 徐 々 に 値 が 増 加 す る こ と が わ   か っ た . こ れ は , 赤 道 湧 昇 に よ っ て 表 層 に 栄 養 塩 が 供 給 さ れ , 南 北 に 移 流 す る 際 に , 植 物 プ ラ ン ク ト ン が 同 位 体   分 別 を 起 こ し 選 択 的 に 軽 い 硝 酸 を 使 っ て い る た め と 解 釈 さ れ た ,

(2)赤 道 サ イ ト と 北 緯4度 の ピ ス ト ン コ ア サ イ ト の 過 去15万 年 間 の 窒 素 同 位 体 比 変 動 は , 異 な る 変 動 で 特 徴 づ け ら れ   た . こ れ は , そ れ ぞ れ の サ イ ト に お け る 硝 酸 の 供 給 源 が 違 う 事 が 原 因 だ と 思 わ れ る . 北 緯4度 の サ イ ト では , 北 か ら   ( メ キ シ コ ー ガ テ マ ラ 沖 ) の 脱 窒 起 源 の 硝 酸 の 供 給 が あ り , 赤 道 のHY06サ イ ト で は 赤 道 潜 流 の 軽 い 窒 素 同 位 体 比   を 持 つ 硝 酸 と 南 赤 道 海 流 の ペ ル ー 沖 起 源 の 硝 酸 が 供 給 源 と な っ て い る ,

33サ イ ト の 古 水 温 結 果 と 既 存 の 古 水 温 デ ー タ か ら , 約2万 年 の 周 期 性 を 持 つ 歳 差 日 射 量 変 動 が , 東 赤 道 太 平 洋   ITCZ位 置 の 南 北 変 動 に 影 響 を 及 ば し , 東 赤 道 太 平 洋 の 水 温 分 布 に 影 響 を 与 え て い る こ と が 明 ら か に な っ た , (2)ハ プ ト 藻 の 生 産 増 加 が 氷 期 に 繰 り 返 し 見 ら れ , 日 射 量 変 動 に 対 応 す る 約2万 年 の 周 期 性 を 持 っ て い る , (3)ケ イ 藻 は4万 年 相 当 の 長 い 周 期 性 を 持 ち 問 氷 期 に 増 加 す る , し か しTOCの 増 加 に は あ ま り 寄 与 し な い , (4)10万 年 周 期 の 最 温 暖 期 に 脱 窒 が 最 も 強 化 さ れ て い る . そ の よ う な 最 温 暖 期 に は , 生 産 の 指 標 で あ る 有 機 炭 素   量 ・ ア ル ケ ノ ン 含 有 量 と も に 大 き く 減 少 し て い た . 一 つ の 可 能 性 と し て , 脱 窒 が 強 化す る こ と に よ っ て 中層 の 硝 酸 量   が 減 少 し , 周 辺 海 域 の 生 産 の 低 下 を 引 き 起 こ し て い た 可 能 性 が 指 摘 さ れ た .

東 酉 赤 道 太 平 洋 の 古 海 洋 学 的 研 究 に よ っ て , 東 西 で の 脱 窒 と 窒 素 固 定 の 明 瞭 な 対 応 関 係 は 確 認 さ れ な か っ た が , 窒 素 固 定 ・ 脱 窒 と も に 地 域 的 な 生 産 に 大 き な 影 響 を 及 ば し う る こ と が 明 ら か に な っ た . ス ール ー 海 の 研 究 で 明 らか に な っ た よ う に , 窒 素 固 定 が 表 層 のN/P比 の 低 下 に 対 し 活 発 に な る の で あ れ ぱ , 最 もN/P比 が 低 い 脱 窒 域 と そ の 周 辺 の 表 層 に お い て も 窒 素 固 定 が 起 こ っ て い る 可 能 性 が あ り , 今 後 , 東 赤 道 太 平 洋 に お い て も 窒 素 固 定 の 時 間 的 ・ 空 間 的 変 動 に 関 す る さ ら な る 理 解 が 必 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る ‐ ま た , 大 規 模 を 東 赤 道 太 平 洋 の 脱 窒 の 開 始 は , 融 氷 期 の 比 較 的 早 い 時 期 に 見 ら れ , こ の タ イ ミ ン グ は 同 海 域 の 水 温 変 動 と ほ ば 同 時 に 見 ら れ る . そ の た め , 脱 窒 は , 氷 期 か ら 問 氷 期 に か け て の 気 候 変 動 に 対 し て 最 も 鋭 敏 に 応 答 す る 機 構 の ー っ と し て 位 置 づ け ら れ る 現 時 点 で 誼 , 仮 説 の 域 を 出 な い が , 脱 窒 変 動 に は , 中 層 水 の 溶 存 酸 素 量 の 変 動 が 大 き く 関 わ っ て い る と 考 え ら れ る た め , 今 後 , 中 層 水 溶 存 酸 素 量 の 変 動 を 視 野 に 入 れ た 研 究 が 課 題 と た っ て き た .

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

    Response of nitrogen cycling to climate‑related        .   oceanographic changes during the last glacial‑interglacial cycle : a contrastive study between          the eastern and western equatorial Pacific

(氷期―間氷期サイクルの海洋変動に対する窒素循環の応答:

    

東西赤道太平洋の比較から)

    

海 洋 窒 素循 環 を 担 う窒 素 固 定 と脱 窒とい うプロ セスは ,どの ような 気候状 態の際 に,どの よう に振る 舞って いたの か?窒 素固定や脱窒フヲックスの変動は,海洋の窒素量を大きく変化させ てい たのだ ろうか

9

また, 海洋の 生産に 本当に 影響を 与えて いたのだ ろうか

9

本研究 では,気候変 動に 対する 窒素固 定や脱 窒の応 答・影響についてより詳しく理解するために,窒素固定海域と脱窒 海域 で形成 された海底堆積物に注目し,バイオマーカー(アルケノン,アルカン)と安定同位体(6

13C

,615N) による解析を行った.

    

窒 素固定 海域で ある西 赤道太平 洋スー ルー海 の表層 の懸濁 物と有 光層下 の沈降 粒子の615N 値 は( それぞ れ,1 .6 ―3 . 7960 ,5 .1960 ),基質として考えられる北太平洋中層水の硝酸の815N 値

(ca .5 .8960 )よりも軽い値であった.同時期に採取された海洋表層水には,窒素固定を行うシアノバ クテ リアが 確認さ れたた め,t15N 値 の軽い 原因と して, 窒素固 定によ る同位 体的に 軽い新たな窒 素の 付加が 明らか になっ た,続 成の影響が微少で,基質となる硝酸の窒素同位体比が現在と大きく 変わ ってい ないと すると ,過去

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.3 万年 間のス ールー 海堆積 物の615N 変 動は, 窒素固定の変動と して 見るこ とがで きる. 窒素固 定変動 を記録 してい るとする と,氷期ステージ2 と温暖期ステージ

3 (5.4

ー3 .3 万年前)に窒素固定が相対的に強化していた事が示唆される.スールー海の表層は,硝 酸が 枯渇し ており ,それ に対し てりンや鉄など窒素固定に不可欠な栄養塩が豊富に存在する.その ため ,モン スーン によっ て鉛直 混合が強化された場合,亜表層からもたらされる栄養塩のうち,硝

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男 子

也 伸

雅 敦

誠 正

川 本

尾 本

授 授

授 授

   

   

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酸は比較的容易に消費されるが,リンや鉄などは表層に蓄積していったと推察される.恐らく,鉛 直混合の終了した成層時期に多量に存在するりンや鉄を用いて,表層でシアノバクテリアのブルー ムが起こっていた可能性がある.したがって,スールー海の窒素固定の強化は,東南アジアモンス ーンの活動に対応した地域的な現象だった可能性がある.

    

脱窒域に隣接する東赤道太平洋西経95 度

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°N ,O °N で採取された2 本のピストンコア試料につ いて,炭素・窒素安定同位体比・アルカン・アルケノン等の分析を行った,北緯4 度(HY04) ,赤道 サイト(HY06) の過去15 万年間の615N 変動は,氷期に値が低くなるという共通の傾向はあるもの の,全体的に異なる変動で特徴づけられた.HY04 サイトでは,氷期一問氷期の615N 変動は鉛直混 合のオンーオフに起因していた.―方,HY06 サイトでは,南赤道海流を通じて,ペルー沖の脱窒 変動によって生じた硝酸の615N 変動を記録していた.ペルーとHY06 サイトの中間に位置するサイ 卜では,最終氷期に6 エ5N が2 . 5960 という低い値となっており(Farrell et al. ,1995) ,利用効率 が大きく低下していた.この事は,氷期にペルー沖脱窒の減少に伴い,ペルー周辺域の硝酸量が増 加していたが,それを十分に利用できていなかった事を示唆する.一方,融氷期の脱窒強化直後に は,東赤道太平洋の広い範囲で生産の急激な低下が認められた.この現象は,脱窒の強化が,周辺 海域の硝酸量を減少させ,生産にも制限をかけていた事を示唆する,また,融氷期の大気中pC02 濃度の増加に関与していた可能性も示唆する,

    

西赤道太平洋の窒素固定は,氷期―問氷期に対し,明瞭な変動はせず,またそのフラックスも

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割弱であった,窒素固定の変動が海洋の硝酸量に影響を与えているとすると,窒素固定海域面積 の拡大・縮小が重要なのかもしれない.また,脱窒は,融氷期に非常に活発にたり,海洋硝酸量と 生産の減少を引き起こしていた.脱窒は融氷期にのみ気候システムに能動的に影響を与えている可 能性がある,脱窒変動のトリガーは,依然不明であるが,南大洋の気候変動や中層水の循環形態の 変化が鍵となっている可能性があり,これらの変動と脱窒との対応関係の解明が今後の課題となっ てきている.

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参照

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