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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 坂 井 英 世

学 位 論 文 題 名

静水圧負荷による心筋細胞での前癌遺伝子の発現亢進 学位論文内容の要旨

背景: 心筋細胞 は終末分 化した細 胞であり ,増殖刺激 が加わっ ても分裂 することはなく,

細胞個 々の容積 の増大, 即ち肥大 を呈する ことが知ら れている ,臨床的 には,心肥大は冠 動脈疾 患・心室 性頻脈性 不整脈・ 心臓突然 死等の独立 した危険 因子であ り,現在において もなお 循環器領 域の主要 な課題で ある.循 環動態上の 過負荷が 心肥大・ 心筋細胞肥大形成 の主要 な原因で はあるが ,そのメ カニズム はいまだ解 明されて いない. 心筋細胞肥大の分 子機構 を明らか にするた めには, 生体が持 つ様々な代 償機構や 二次的反 応の影響を取り除 いた

in vitro

実 験システ ムを構築する必要がある.培養心筋細胞に純粋な機械的刺激を加え る負荷 モデルと しては, 培養細胞 ストレッ チモデルが 広く用い られてい る,しかし,生体 内にお ける心筋 細胞は、 過伸展ば かりでな く隣接する 細胞や細 胞外基質 による圧縮を受け ている にも関わ らず,こ の圧縮の過程の影響を検証するためのin vitro実験システムは未構 築だっ た.今回 ,我々は 培養心筋 細胞に静 水圧負荷を 加え,肥 大プログ ラムの誘導の有無 と,そ れに関わ る細胞内 シグナル 機構を検 討した,

方法: 静水圧負 荷による 培養液の ガス組成 の変化を予 備的に検 討したと ころ,負荷時間の 増 加と と も に培 養 液の

pH

は上 昇 し たが ,

15

分 毎 に培養 液を交換 することで 既出の報 告と 同 程度 の 変 化に 留 めら れること を確認し た.生後

O

日齢の新 生仔ラット の心室を 摘出,酵 素 法に て 心 筋細 胞 を単 離 し た, 密 度勾 配 遠 心分 離 法で心室 筋細胞を分 離し

37

℃,

5

C02

下で培 養した. 無血清下 で24時間培養した後,加圧チャンバーに移し静水圧負荷を加えた.

負 荷 終 了 後 , 細 胞 か ら

total RNA

ま たは タ ンパ ク を 抽出 し , 半定 量 的RT−

PCR

法 ま たは

W

stemblot

法に よりc‐

fbs

の 発現を検 討した. また,心筋細胞肥大に関与するシグナルの 検討に はCyclospodneA(

CsA

).

Genistein

Nifedipine

PD98059

Rapamycin

SB203580

Staurosporine

Valsanan

Wbrtmannin

を 培養液に 加えた後に静水圧負荷を加え,半定量的

IH

PCR

法に よりc‐

fosmRNA

の 発現量を 検討した .

結 果:

160mmHg

の 静水 圧負荷に よりc_

fosrnI

A

発現は

60

分 (15分

x4

サイ クル)後 より無 負荷の コントロ ールに比 して有意に亢進した.

80

.100.

120

140

160mmHg

の異なる圧負荷 を

60

分 問 加 え た と こ ろ,

c

fosmRNA

発 現は

80mmHg

負 荷 の 段階 か ら亢 進 し た, 蛋 白 レベ ルの検 討でもc‐

fbs

は負荷時間・負荷圧の増加によルコントロールに比して有意に発現が亢 進して いた.静 水圧負荷 がc‐

fos

の発現亢進,即ち心筋細胞肥大を来たす機序を検討するた め,各 種細胞膜 受容体・ イオンチ ャンネル 拮抗薬また は細胞内 シグナリ ング阻害薬で心筋 細 胞を 薬 理 的に 処 置し た後に160mmHgの 静水圧負 荷を

60

分(

15

X4

サイク ル)間加え た,

(2)

用 い た

9

種 の 薬剤 の うち

CsA

Nifedipine

の み が

c

fos mRNA

の 発 現を 抑 制し た 。 考察:出生後の心筋細胞は細胞周期が停止しており,各種の刺激に対して肥大を呈するこ とが知られている.アドレナリン受容体刺激で培養心筋細胞に肥大が生じることが報告さ れて以来,種カの神経体液性因子や虚血等の刺激,圧負荷等の機械的刺激がinvitroで心筋 細胞肥大を促すことが示されている,しかし,神経体液性因子の影響を排した条件下でt 純粋な圧負荷刺激が心筋細胞をどのように変化させるかは知られていない,培養細胞にin

vitro

で機械的刺激を加える実験手法のーっに細胞ストレッチモデルがあるが、この技術を 心筋細胞に応用した報告が

1990

年に成され,伸展刺激により心筋細胞内でc‐

fosmRNA

発 現とアミノ酸取込の双方が亢進することが示された.しかし,生体内の拍動心で心筋細胞 に加わる機械的刺激をこのモデルのみで説明することは困難で,invivoの拍動心において 心筋細胞が収縮期に曝されている圧縮刺激を正確に反映する

invitro

の実験モデルは検討 されていなかった.本研究において,我々は静水圧負荷を培養細胞に加える実験システム を初めて心筋細胞に応用した.本システムの利点として,被刺激細胞と圧縮物との直接の 接触がなく細胞が変形しないこと,加わる負荷の大小が被刺激細胞と培養液との接触状態 に依存しないこと,細胞質内と培養液との間の代謝産物転送に生理的な障害を来たさない ことが挙げられている.チャンバー内の気圧上昇により培養液中の気体分圧が変化するこ と が欠点だが ,本実験で はチャンバ ー内圧を最大

160mmHg

に留め,15分毎の培養液の 交換により培養液の

pH

変化を既出の報告と同程度に抑えられることを見出した,よって,

本実験システムは,心筋細胞が収縮期に受ける圧縮負荷の影響を,神経体液性因子の影響 を排した純粋なinvitroの環境下で検討するモデルとして妥当なものと言える,今回,我々 は静水圧負荷後の心筋細胞肥大の指標としてc‐fosの発現亢進の有無を検討した,半定量的

lu

ロCR法と

W

もstemblot法によりc‐fbsがmRNAレベルと蛋白レベルの双方で負荷時間・

負荷圧の増加により発現亢進することが示された.この結果により,静水圧負荷が心筋細 胞肥大プログラムを誘導することを明らかに出来た.ストレッチモデルを用いた検討によ ると,伸展刺激後の心筋細胞内では

PKC

,Tyk,Ras,Rhofamily,MAPKfamily,JA剛Sロ

J faInily

等の多様なシグナル分子群の活性が亢進していることが示されている.本実験シス テムが心筋細胞を肥大させる機序を検討するため,負荷前から細胞に薬理的処置を加え,

負荷後のC一fosmRNA発現を半定量的R.T‐PCR法で評価した結果,

Ca

チャンネル拮抗薬と

Calcineunn

阻害薬がc‐fos発現を抑制した,これにより,静水圧負荷による圧縮刺激が心筋 細 胞肥大を来 たすためには,細胞内

Ca

の上昇とCalcine面

n

の活性亢進が必要であり,

NFAT3

とGATA4による転写の活性亢進により肥大マーカー遺伝子が発現することが推定 された,ストレッチモデルでの検討からは,伸展刺激により開口するイオンチャンネルの 存在が指摘されている,静水圧負荷によっても同様のイオンチャンネルが活性化し,その 結果として

L

‐typeCaチャンネルを介する細胞外Caの流入が亢進している可能性が推定さ れ,今後の更なる検討を要する,

結語:本実験により,細胞の形態変化を及ぼさなぃ純粋な圧負荷を心筋細胞に加えること で,心筋細胞肥大の指標であるc.fosの発現が亢進することが初めて示された.また,各種 薬剤のうち,カルシウムチャンネル拮抗薬とCalcine面n阻害薬がc‐

fos

発現を抑制したこ

(3)

とから,この心筋細胞肥大モデルに関与する細胞内シグナリングとしてCa/Calcineurin/

NFAT

/GATA4のカスケードが強く関与することが示唆された.

(4)

学 位論文 審査の要旨

学位論文題名

静水圧負 荷によ る心筋細 胞での 前癌遺伝 子の発現亢進

  心筋細胞は終末分化した細胞で、増殖刺激下でも分裂せず、肥大を呈することが知られ ている .臨床的には,心肥大は冠動脈疾患・心室性頻脈性不整脈・心臓突然死等の独立し た危険 因子であり、現在においてもなお循環器領域の主要な課題とされている。循環動態 上の過 負荷が心肥大・心筋細胞肥大形成の主要な原因ではあるが、そのメカニズムはいま だ解明 されていない。心筋細胞肥大の分子機構を検討するためには、生体が持つ様々な代 償機構や二次的反応の影響を除いたin vitroの実験系を構築する必要がある。培養心筋細胞 に純粋 な機械的刺激を加える実験系として細胞ストレッチモデルが汎用されている。しか し、拍 動心内の心筋細胞は過伸展ばかりでなく隣接する細胞や細胞外基質による圧縮を受 けているにも関わらず、この圧縮の影響を検証するためのin vitroの実験系は未構築だった。

本研究 では培養心筋細胞に静水圧負荷を加え、肥大プログラムの誘導の有無と、それに関 わる細 胞内シグナル機構を検討した。加圧用チャンバーを独自に作成し、窒素ガス充填に より静 水圧負荷を加えることとしたが、負荷に伴う培養液のガス組成の変化を予備的に検 討した ところ、負荷時間の増加とともに培養液のpHは上昇したものの、15分毎に培養液を 交換す ること で既出の 報告と 同程度の変化に留められることを確認した。生後O日齢の新 生仔ラットの心筋細胞を単離し37℃・50/0 C02下で培養した。無血清下で24時間培養した後、

加圧チャンバーに移し静水圧負荷を加えた。負荷終了後、細胞からtotal RNAまたはタンバ クを抽出しご半定量的RT‑PくニR法またはWestern blot法によりc‐fosの発現を検討した。また、

心筋細胞肥大に関与するシグナルの検討にはCyclosporineA.Genistein.Nifedipine.PD98059 Rapamycin.SB203580.Staurosporine.Valsartan.Wortmanninを培養液に加えた後に160mmHg の静水 圧負荷 を60分問加 え、半 定量的RTPCR法に よりcfbsmRNAの発現量 を検討 した。

以上の 方法で の検討か ら、160mmHgの静水 圧負荷 によりc‐fosmRNA発現が60分後よ ルコ ントロールに比して有意に亢進することを見出した。また、80100・120・140・160mmHg 異 なる 圧 負 荷を60分 問加 えたとこ ろ、cfosmRNA発現は80mmHg負荷の段 階から 亢進し ていた。蛋白レベルの検討でもcfosは負荷時間・負荷圧の増加によルコントロールに比し て有意に発現が亢進していた。更に、先述の各種シグナリング阻害薬のうち、CyclospodneA NifedipineのみがcfbsmRNAの発現を抑制した。本研究により、細胞の形態変化を及ほ     ―344

顕明 郎

   

   

秀和 畠口 嶋 北川 長 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

(5)

さない純粋な圧負荷を心筋細胞に加えることで、心筋細胞肥大の代表的指標であるc‑fos 発 現が亢進 することが初めて示され、圧縮負荷が心筋細胞肥大プログラムを誘導する可能 性が示唆された。また、各種薬剤のうち、カルシウムチャンネル拮抗薬とCalcineurin阻害 薬がc‑fos発現を抑制したことから、この心筋細胞肥大モデルに関与する細胞内シグナリン グ としてCalcineurin /NFAI3GA'Dk4の カスケー ドが強く 関与す ることが示唆された.

  口 頭発表 に際し、川口教授から加圧チャンバ一内への窒素ガス充填に伴う細胞毒性の評 価 とアンジ オテンシンII1型受容体遮断後の同2型受容体と心筋細胞肥大の関わりと培養液 の アルカリ 化による細胞への影響についての質問がなされた。次いで長嶋教授から培養心 筋細胞の協調拍動の機序と肥大心筋細胞でc‑fosが発現する機序についての質問がなされた。

最 後に北畠 教授から培養心筋細胞が圧縮負荷を感知する機構についての質問がなされた。

い ずれの質 問に対しても、申請者は研究結果にもとづいて、或いは文献的知識により、概 ね妥当な回答を行った。

  この論文は心筋細胞への圧縮負荷をin vitroで検討するモデルを確立し、それが肥大プロ グラムを誘導することを示し、更に、その背景にCalcineurin/NFA'13/GATA4系が関与する こ とを明ら かにしたものとして意義のあるものと評価され、審査員一同は、これらの成果 を 高く評価 し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学 位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

345 ‑

参照

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