博 士 ( 歯 学 ) 鵜 澤 祐 貴 子 学 位 論 文 題 名
低 カ ル シ ウ ム 環 境 が 骨 形 成 に 及 ぼ す 効 果 の 分 子 的 メ カ ニ ズ ム
―c‑fos遺伝子発 現に伴うインターロイキン1ロによる ア ル カ リ 性 ホ ス フ ァ タ ー ゼ の 制 御 に つ い て―
学位論文内容の要旨
【緒言】
著者の属する研究グ´レープは励VI VOおよび励vitro実験系で、低カ少シウム (Ca)環境が骨お よび骨形成 細胞に及ば す影響を調ベ、低Ca環境を生ずる骨形 成抑制の機構の解明を試みている。すでに得られている結果では、低Ca環境の 影響 は 細胞 内 情報 伝 達系 か ら最 終的 に遺伝子に 及ぶことを 明らかにし た。
一方、骨形 成を抑制する大きな因子としてインターロイキン1(IIr1)や腫 瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)などが報告されている。特にILー1pの 骨芽細胞に対する作用は骨形成抑制機構におぃて重要であると考えられるが、
IL‑1pが低Ca環境下で培養されたマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞株MC 3T3 ‑E1 細胞(E1細胞)のALP活性あるいはc一fos遺伝子の動向にどのように影響するか については、これまでに報告されていない。そこで本研究では、低Ca環境下培 養において見られる石灰化結節形成抑制の機構を解明することを目的として、
ILrlpで刺激したEl細胞の各成長過程におけるAIP活性ならびにc‐′os遺伝子発 現に対する低Ca環境の影響を調べた。
【材料と方法】
細胞はマウス頭蓋冠由来のEl細胞を用い、通法に従い培養した。培養液のCa 濃度は、正常環境(対照群)では1. 87mM、低Ca環境(低Ca群)では0.34mMと した。
培 養3日目 の 、confluence時 を 増殖 期 、co nfluence後11日目を分化 期、
confluence後 30日 目 を 石 灰 化 期 と し て 、 各 時 期 ま で 培 養 し た 。 まず細胞の組織学的所見を位相差顕微鏡を用いて観察した。両群の細胞を各 時 期ま で 培養 後 、1%FBS含有ゼMEMに交換し 、さらに毎 日3日 間マウスIIrlp (lOOU/ml)を 投与した。 その後、蔗糖溶液で細胞を回収し、パラニトロフウニ ルリン 酸を基質と して、ALP活性、酸性ホスファターゼ(ACP)活性を測定し、
Lowry法 に て 測 定 し た 蛋 白 質 量 を 用 い 、ALP、ACPの 比 活 性 を 算 出 し た 。
次に細胞を10%FBS含有aMEMで通法に従い、各時期まで培養後、培養液を、
正常、低Ca、それぞれの無血清培養液に交換し、さらに24時間培養した。刺激 していないものを0分とし、以下、15、30、60分間、100 (U/m1冫の濃度のマウ ス凡‐1pで刺激した。刺激後、AGPC法にて全RNAを抽出し、Nort薑1emblot分析 法にてc‐′0丶cづn遺伝子のmRNAの発現の違いについて検討した。それらの発 現量はデンシトメーターを用いて数値化し、G3PDHで補正、低Ca群と対照群の 発現量の比率を求めた。
【結果】
1.対照群ならびに低Ca群のE1細胞は、サイズ、細胞突起、形態が類似していた。
また、石灰化期において、対照群では石灰化結節の形成が認められ、その一塊 の結節の周囲には密に細胞が観察された。これに対して低Ca群では全体的に石 灰化結節が形成されにくい傾向が示された。
2. ALP活性はIL‑ipで処理をすると、増殖期では低Ca群で低下し、分化期でも 低Ca群で低下する傾向が示された。石灰化期ではIL‑ip処理で対照群、低Ca群 の」6乢P活性値が有意に低下し、その低下の程度は低Ca群で大きい傾向が見られ た。また、ACP活性はいずれの時期においても対照群、低Ca群ともにIIr lpの 影響はほとんど認められなかった。
3. c‑fos遺伝子の発現はいずれの時期も対照群に比べて低Ca群の方が強かった。
その程度はE1細胞の成長が進行するにっれ大きくなり、その差も著明になった。
一方、cI jun遺伝子の発現はいずれの時期においても対照群に比べて低Ca群の方 が強かったが、その程度はC一fos遺伝子の場合と異なり増殖期で顕著で、その後、
石灰化期に向かって低下した。
4.以上の事実から、低Ca環境におけるc‐fos遺伝子発現増強に伴うIL‑lpによる ALP活性抑制効果の増強が低Ca環境におかれたE1細胞の石灰化結節形成抑制に 深く関わっていることが示唆された。
【考察】
1. IL‑1,8処 理 E1細 胞 に お け る ALP活 性 と 低 Ca環 境 に つ い て 対照群、低Ca群のE1細胞の」卿活性に対するILr18の作用を各時期で比較す ると、増殖期では対照群のALP活性値はILr lp処理によって有意に高値を示し たが、低Ca群ではほば半分にまで活性が低下した。分化期においては、ILrlp 処理すると」6岫活性は対照群、低Ca群ともに低値を示した。石灰化期において は、対照群、低Ca群ともにILrlp非存在下の」`LP活性は増殖期および分化期に 比べて高値を示した。さらにILrlpで処理すると対照群、低Ca群ともに´丗活 性は有意に低下し、その低下の程度は低Ca群でより大きぃ傾向を示した。一方、
ACP活 性に おい ては、Iし1p処理の有無による顕著な活性の変化は見られなか った。
こ れら のこ とか ら、 低Ca環境 はILr lpによ る」 `LP活 性抑 制効 果を増強するこ と に よ り 、 石 灰 化 結 節 形 成 抑 制 を 促 進 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 一
2. IL‑lp処 理E1細 胞 に お け るc‑fos、c‑jtm遺 伝 子 発 現 と 低Ca環 境 に つ い て IL‑1p処 理 に よ っ て 観 察 さ れ たALP活 性低 下 と 低Ca環 境 に よ る そ の 作 用 の 増 強 は 、 遺 伝 子 発 現 レ ベ ル にお け る 変 化 を 伴 っ て いる 可能 性が ある 。そ こで 、E1 細胞 をII亅−1pで刺激してc‑fo.遺伝子の発現を調べたところ、増殖期、分化期お よ び 石 灰 化 期 の い ず れ の 時期 に お い て も15分 あ るい は30分で 最も 発現 が増 強し てい た。 初期 発現 遺伝 子と いわ れるc‑′ (遡 伝子 は、30分前 後で 一過性に発現が 増 強 す る こ と が 以 前 よ り 報 告 さ れ て お り、 今 回 の 結 果 は そ れ ら と 一 致 す る 。 ま た 、cね 遺 伝 子 の 発 現 量 は 各 時 期 と も 対 照 群 に 比 ベ、 低Ca群 で よ り 強 い こ とが 認め られ た。c‐f岱遺 伝子 発現 の低Ca群 /対 照群の 比率 を比 較すると、細胞 の 成 長 が 進 む に 連 れ 、 そ の値 は 増 加 し た 。 こ れ ら の こ と か ら 、Iし1pで 刺 激 さ れ たE1細 胞 に お い て 低Ca環境 はc愉 遺 伝 子 の 発 現 を 増 加さ せ る こ と が 示 唆 さ れ た。
次 にcゴ 伽 遺 伝 子 のmRNA発 現 は 、 増 殖 期 、 分 化 期 、 石灰 化 期 の い ず れ の 時 期 に お い て も 低Ca環境 で増 強し てい るこ とも 示さ れた 。cづ 伽遺 伝子 発現 の低Ca群
/対 照群 の比 率は 増殖 期で 最も 大き な値 を示 し、 分化期 、石 灰化 期と漸減した。
これは、c−f・田遺伝子発現と逆の傾向である。このcゴ伽遺伝子発現の漸減的低下 が 低Ca環 境 下 凡 −1p処 理E1細 胞 の 石 灰 化 結 節 形 成抑 制に 関与 して いる 可能 性も 考えられる。
3. 凡 ‐ 1p処 理E1細 胞 に お け る 細 胞 内 情 報 伝 達 系 と 低ca環 境 に つ い て 骨 代 謝 に お け る 病 的 な 状況 の モ デ ル と し て 、E1細 胞を 低Ca環境 とい う特 異的 な 細 胞 環 境 に お い た と こ ろ、 石 灰 化 結 節 形 成 抑 制、 凡‐1pに よっ て誘 導さ れる ALP活性抑制の増強と同時にc‐′|) 遺伝子の発現の増強が認められた。凡‐1pが 細 胞 膜 の 受 容 体 に 結 合 し た後 の 情 報 伝 達 経 路 に つ い て は 、MAPキ ナ ー ゼ カ ス ケ ード 経由 のcーf( )遺 伝子 の発 現増 加が報告されている。凡―1pの刺激が、MAPキ ナー ゼカ スケ ード を介 してc‐f(遺 伝子 の発 現増 加を引 き起 こし 、その産物であ るFos夕 ン パ ク 質 がALP遺 伝子 のAP‐1認 識 配 列 に結 合し てALPの産 生を 抑制 し、
結 果 と し てE1細 胞 のALP活 性 が 低 下 す る と い う 情 報 伝 達 が 想 定 さ れ る 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
低 カ ル シ ウ ム 環 境 が 骨 形 成 に 及 ぼ す 効 果 の 分 子 的メ カ ニ ズ ム
―c‑fos遺伝子発現に伴うインターロイキン1タによる ア ル カ リ 性 ホ ス ファ タ ー ゼ の 制 御 に つ い て ―
審査は審査担当者が全員一堂に会して行われた。まず、論文提出者に研究内容 の説明を求めた。研究の概要は以下の通りである。
低 カ ル シ ウ ム (Ca)環 境 が 骨お よ び 骨形 成 細胞 に 及 ぼす 影 響 を調 べ 、低Ca環 境 を生 ず る 骨形 成抑制 の機構の 解明を試み ている。 既に得ら れている 結果では 、 低Ca環 境 の影 響 は 細胞 内 情報 伝 達 系か ら 最終 的 に 遺伝 子 に 及ぷ こ とを 明 らかに し た 。 一 方 、 骨 形 成 を 抑 制 す る大 き な 因子 と レて イ ン 夕一 口 イキ ン1(11‑1) や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)などが報告されている。特にIL‑1声の 骨 芽細 胞 に 対す る 作 用は 骨 形成 抑 制 機構 に おい て 重 要で あ ると 考 え られ るが 、 IL‑1ロ が低Ca環境 下 で 培養 さ れたEl細胞 のALP活性あ るいはc. め5遺伝子 の動向 に ど の よ う に 影 響 す る か に つ い て は 、 こ れ ま で に 報 告 さ れ て い な い 。 本研 究 では 、 低Ca環境下 培養にお いて見.ら れる石灰 化結節形 成抑制の 機構を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 、IL‑1ロ で 刺 激 し たEl細 胞 の 各 成長 過 程に お け る ALP活 性 な ら び にc.fos遺 伝 子 発 現 に 対 す る 低Ca環 境 の 影 響 を 調 べ た 。
【方法】
通 常 の ゼMEM(Ca濃 度1.87mM)を 用 い て 通 法 に よ り 培 養 レ たEl細 胞 を 対 照 群 、培 養 液 中のCa濃度 を0.34mMと し て培 養 した 細 胞 を低Ca群と レ た。 そ して、
両 群を 培 養3日 目の コ ンフ ル エ ンス 時 ( 増殖 期)、 コンフル エンス後11日目(分 化 期 ) 、 コ ン フ ル ェ ン ス 後30日 目 ( 石灰 化 期) に 分 け各 時 期 にお い て3日間 、 IL‑1ロ (10 0U/nil)を 作用 さ せた 後ALP活性 、酸 性ホスファ 夕一ゼ(ACP) 活性、
博 章
徳
芳
田 本
木
保
福 松
久
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
蛋 白 量 の 測 定 を 行っ た 。 さら に、 対照 群、 低Ca群の 増殖 期、 分化 期およ び石 灰 化期 の各 時期 にお いてO、15、30、60分間 、【L−1ロ(10 0U/ml)で処理し、ノー ザ ン ブ ロ ッ ト 分 析 法 に てc・ fos、c―jun遺 伝 子 の 発 現 を 比 較 し た 。
【結果】
1 .ALP活性はIL‑1ロで処理をすると石灰化期ではIL‑1ロ処理で対照群、低Ca群とも 有 意 にALP活 性 の 値 が 低 下 レ 、 そ の 程 度 は 低Ca群 で 大 きい 傾向 が見ら れた 。 2 .ACP活 性は 増殖 期、 分化 期、 石灰化 期の いずれの時期においても11‑1ロの影響 は殆ど認められなかった。
3 .c‑ fos遺伝 子の発現はいずれの時期も対照群に比べて低Ca群の方が強かった。
そ し て 、 そ の 差 は El細 胞 の 成 長 が 進 行 す る に っ れ 著 明 に な っ た 。 4 .C‑jun遺伝子の発現はc・fos遺伝子の場合と同様、いずれの時期においても対照群 に 比 べ て 低 Ca群 の 方 が 強 か っ た が 増 殖 期 で 顕 著 で あ っ た 。
【結論】
以上の事実から、低Ca環境によるc−fos遺伝子発現増強を伴うIL‑1ロによるALP活 性抑 制効 果の 増強 が、 低Ca環境 におか れたEl細胞の石灰化結節形成抑制に深く関 わっていることが示唆された。
続い て 、 口 頭 に よ る試 問が 行わ れた 。研 究方 法と その 結果 につ いて 種々質 問 さ れた 。 特 に 、 低Ca群で はマ トリ ック ス様 のも のは でき てい るよ うだ が、な ぜ 石 灰化 し な い の か ? 石灰 化に 必要 なも のは 何か ?が 中心 的話 題に なっ た。こ れ に つい て 論 議 レ て い る中 で、 本研 究の 問題 点と 研究 の発 展性 につ いて も明ら か に され た 。 そ の 後 、 久保 木副 査に より 論述 試験 が行 われ たが 、こ こで も概ね 良 好 な成 績 を 示 し た 。 論文 提出 者が 本研 究な らび にそ の関 連領 域を 十分 理解し て い るこ と が 認 め ら れ ると 同時 に、 本研 究が 今後 の発 展性 を持 った 興味 深く意 義 深 いも の で あ る と 判 断 さ れ た 。
以上 よ り 、 本 論 文 提出 者は 博士 (歯 学) の学 位授 与に 値す るも のと 判定さ れ た 。