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アジン系複素環の合成とそれらのアポトーシス誘導活性に関する研究

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博士論文

アジン系複素環の合成と

それらのアポトーシス誘導活性に関する研究

Study on the synthesis of azine-type heterocycles and

their apoptosis-inducing activities

成蹊大学大学院理工学研究科理工学専攻

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目次

第一章 序論··· 1 第二章 水酸基が導入されたベンゼン環をもつニコチンアミド誘導体 2-1. 序論··· 17 2-2. 結果と考察 ··· 19 2-3. 結論 ··· 26 2-4. 実験項 ··· 27 第三章 オキソバナジウム錯体 3-1. 序論 ··· 37 3-2. 結果と考察 ··· 39 3-3. 結論 ··· 49 3-4. 実験項 ··· 50 第四章 総論 ··· 63 補遺 ニコチンアミド誘導体の測定データ ··· 65 補遺 オキソバナジウム錯体の ESR スペクトル··· 71 発表状況 ··· 74 謝辞 ··· 76

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第一章 序論

現在の日本人の最も多い死因は、悪性新生物 (がん) である。がんで死亡する患者数は 1980 年以降増加し続けているため、がん治療に関する研究が活発に行われている。がん細 胞を除去のため、外科療法、放射線療法、化学療法が行われている。その中でも化学療法 である抗がん剤投与は、全身療法であることから、すべてのがん細胞に対して使用可能で ある。 新薬開発の手順は、基礎研究、前臨床試験、臨床試験、承認申請・製造販売となり、10 年から18 年の月日を費やし、総費用は 200 億円から 300 億円かかるといわれている。その なかでも基礎研究は、創薬目的によってシードあるいはリード化合物になりうる化合物を 発見・合成し、細胞に対しての毒性や薬効の試験を実施する労力のかかる研究である。 細胞死には、生理的なアポトーシスの他に病的なネクローシスがある。プログラムされ た細胞死として1972 年に Kerr らにより提唱されたアポトーシス1は、細胞数を一定に保つ 恒常性と発生過程における形態形成や不要な細胞を除去する機能を有する 2-4。恒常性維持 の例として、60 兆個の細胞から構成されているヒトの体で毎日起こる約 3000 億個の細胞死 が挙げられる。形態形成の例として、個体の発生過程において偏平な結合組織の塊として 存在するヒトの手は、アポトーシスによって指の間に存在していた水かき部分が選択的に 死ぬことによりヒトの指を形成する。また、おたまじゃくしは、カエルになる際に尻尾が 不要になるために、アポトーシスにより退縮する。アポトーシスの過程を図1-1 に示す。ア ポトーシスでは、まず細胞内膜に存在するホスファチジルセリンの細胞外膜への移動が起 こり、細胞が凝縮して細胞体積が減少するとともに、核内ではクロマチンの凝縮が起こる。 続いて核が断片化された後、細胞自体が断片化してアポトーシス小体が形成される。最後 にアポトーシス小体はマクロファージ等の捕食細胞によって貪食除去される。一方で、ネ

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2 クローシスでは、細胞の膨化とミトコンドリアの膨化により細胞が水腫状となった後、細 胞膜の崩壊が起こる。アポトーシスは周囲の細胞に影響を及ぼさないのに対し、ネクロー シスは細胞の内容物が周囲に捲き散らされるため、炎症を伴い周りの細胞に影響を与える。 そのため、がん細胞に対するアポトーシス誘導能を持つ化合物は、他の細胞に影響を与え ない抗がん剤となりうると考えられる。 アポトーシスの過程は、ミトコンドリアからの経路とFas レセプターからの経路および小 胞体ストレスの経路により誘導される。アポトーシスのシグナルが伝達されると、カスパ ーゼが次々に活性化される (図 1-2)。カスパーゼとは cystein dependent aspartate-directed proteinase、システイン依存性にアスパラギン酸の C 末端側を加水分解するプロテアーゼで ある。ミトコンドリアからの経路は、アポトーシスのシグナル伝達により、ミトコンドリ ア膜の透過性亢進や細胞内でのシトクロムC の放出が引き起こされ、カスパーゼ 9 を活性 化し、続いてカスパーゼ3 を活性化しアポトーシスを誘導する。 一方で、Fas レセプターからの経路は、カスパーゼ 8 を活性化し、カスパーゼ 3 を活性化 することでアポトーシスを誘導する。小胞体のストレスにより、カスパーゼ12 が活性化さ 細胞体積の減少 クロマチンの凝縮 核の断片化 アポトーシス小体の形成 マクロファージ ミトコンドリア 細胞 細胞膜の破壊 細胞膨化 ミトコンドリア膨化 マクロファージによる 貪食除去 アポトーシス ネクローシス 図1-1.アポトーシスとネクローシスの機構

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3 れて、つぎにカスパーゼ 9 を活性化し、カスパーゼ 3 を活性化することでアポトーシスを 誘導する。また、ミトコンドリアは、シトクロム C の放出以外にも、アポトーシス誘導因 子(AIF), Smac/Diablo、AIF、HtrA2、EndoG のような複数のプロアポトーシス分子を誘導し、 カスパーゼ非依存的なアポトーシスにも関与している (図 1-3)5。 図1-2. カスパーゼ経路 図1-3. カスパーゼ非依存経路

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4 そのため本研究では、白血病細胞株であるヒト組織球性腫瘍細胞 (U937 細胞) に対して アポトーシスを誘導させる化合物を合成し、それらのアポトーシス誘導活性をアガロース ゲル電気泳動およびアネキシン V の染色から評価することとした。バナジル錯体のアポト ーシス誘導活性においては、カスパーゼ阻害剤を用いて活性経路を求めることとした。 Ogata らは、図 1-4 に示すようなナイアシン誘導体のアポトーシス誘導体について報告し ている6。 N COOH COOH N HOOC COOH N COOH COOH N CONH2 N N CONH2 N COOH N CONH2 N COOH N N COOH Me Me CONH2 COOH 図1-4. ナイアシン誘導体 様々なナイアシン誘導体のがん細胞株に対するDNA 断片化率を評価したところ、ニコチ ンアミド誘導体である図 1-4 に示すような N-メチルニコチンアミドやピコリンアミドを添 加したHL-60 細胞は、DNA 断片化率を高めた結果から、アポトーシス誘導活性があること が報告されている。しかし、ニコチンアミドは、アポトーシス誘導活性は示さなかった。 ニコチンアミド誘導体の活性が高かったことから、図1-5 に示す化合物のアポトーシス誘導 活性を評価したところ、6-アミノニコチンアミドが最も活性が高いことが分かり、HL-60 細 胞に対する細胞死がカスパーゼ由来であると報告されている。ニコチンアミド誘導体の中 で N-メチルニコチンアミドは、NAD 代謝に関わる化合物であり、ポリ(ADP-リボシル) 化 によるアポトーシスの誘導が推測された。

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5 N CONH2 O N COOH O N COOH COOH N COOH HOOC N HOOC COOH N COOH H2N N CONH2 H2N N COOH HO N CONHCOCH2NH2 N CONHNH2 N CONHNH2 図1-5. ニコチンアミド誘導体 アポトーシス誘導活性を示す化合物として茶の成分が報告されている7-14。茶成分中には、 エピガロカテキンガレート (EGCG)、エピガロカテキン (EGC)、エピカテキン-3-ガレート (ECG)、エピカテキン (EC) が含まれている (図 1-6)。 その中でもヒト肺がん細胞株である PC-9 細胞において細胞増殖阻害活性の高い EGCG とECG は、共通してガロイル基つまりベンゾイル基に水酸基を有している15。このことか らDodo らは、図 1-7 に示すようなさまざまなアルキル鎖をもつガロイル誘導体とアミド を有するガラミン誘導体を合成しHL-60 細胞株のアポトーシス誘導活性を報告している16。 HO OH O O OH OH OH O OH OH OH HO OH O O OH OH O OH OH OH EGCG ECG 図1-6. EGCG と ECG の構造

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Dodo らは HL-60 細胞におけるである IC50値 (50% Inhibition Concentration: 細胞の増殖を

50%抑制する濃度)を評価した結果、エステル基を有するガロイル誘導体は、高い細胞増殖 阻害能を示すことを報告している。 OH HO HO O(CH2)nCH3 O OH HO HO NH(CH2)nCH3 O n = 2, 6,12 ガロイル誘導体 ガラミン誘導体 図1-7. ガロイル誘導体とガラミン誘導体 またDodo らは、ガロイル誘導体のアルキル鎖の長さと HL-60 細胞への増殖阻害能との関 係を評価した。化合物の分配係数と IC50値をプロットしたところ、相関が得られた。長鎖 のアルキル鎖をもつ化合物の中で、ドデシル基を有するガロイル誘導体が最も高い活性を 示し、化合物の疎水性が HL-60 細胞の生存率を低下させる要因の一つであると明らかにし た。デシル基を有するガロイル誘導体は HL-60 細胞に対して、小胞体ストレスによって誘 導されるカスパーゼ12 を介したアポトーシス誘導活性を示すことが報告されている。 本研究では、ニコチンアミド誘導体のアポトーシス誘導活性とバナジル錯体のアポトー シス誘導活性について論じる。 以前、当研究室で山口は、図1-8 に示すようなアミノフェニルアラニンとヒドロキシ安息 香酸類を有するニコチンアミド誘導体を合成し、それらの化合物のアポトーシス誘導活性 を報告している17。

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7 N N H O  CO2Me HN O (OH or OMe) 図1-8. アミノフェニルアラニンとヒドロキシ安息香酸類を有するニコチンアミド誘導体 アミノフェニルアラニンとヒドロキシ安息香酸類を有するニコチンアミド誘導体は、 L-体とD-体を用いU937 細胞に対する細胞増殖阻害活性および IC50値からU937 細胞に対する 活性を評価した。D-体およびL-体では、末端のベンゼン環の2 位および 3 位に水酸基を有す る化合物は、水酸基を一つ置換した化合物よりも活性が高かった。またこれらの化合物の IC50値は、EGCG よりも高かった (図 1-9)。 N N H O CO2Me HN O OH OH N N H O CO2Me HN O OH OH 図1-9. アミノフェニルアラニンとヒドロキシ安息香酸類を有するニコチンアミド誘導体 また、末端のベンゼン環の 2 位に水酸基、3 位にメトキシ基を有する化合物においては、 D-体よりもL-体の方が高い活性を示すことが分かった。水酸基の数の増加が活性を促進する 一つの要因と推測されたが、結合の位置や水酸基によるアポトーシス誘導活性への影響は 明らかではない (図 1-10)。

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8 N N H O CO2Me HN O OH OMe N N H O CO2Me HN O OH OMe 図1-10. アミノフェニルアラニンとベンゼン環の 2 位に水酸基および 3 位にメトキシ基を有 するニコチンアミド誘導体 第二章では、EGCG の骨格の一部であるエステル結合を導入するためにアミノフェニルア ラニンをチロシンに変換した化合物を合成した。水酸基の数と活性との関係解明のために、 図1-11 に示すような末端のベンゼン環に置換位置の異なる水酸基あるいはメトキシ基を導 入し、構造によるアポトーシス誘導活性への影響を検討することを目的とした。 N N H O CO2Me O O (OH or OMe) 図1-11. 目的化合物 1995 年にマルトールを配位子として有するバナジル錯体のアポトーシス誘導活性が報告 された (図 1-12)18-19。Schievent らは、ビス (マルトレート) オキソバナジウム錯体において

ヒトT 細胞由来である CEM, Jukat, 3347 細胞株とヒト B 細胞由来である Ramos 細胞株に対

するアポトーシス誘導活性について報告した。その結果、B 細胞由来である Ramos 細胞株

に対しては、アポトーシス誘導活性能を示したが、T 細胞由来である細胞に対してはアポト

ーシス誘導活性能を示さなかった。ビス (マルトレート) オキソバナジウム錯体で処理した B 細胞は、セラミドの産出によりアポトーシスが誘導されるが、T 細胞では、セラミドが産

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9 N N V O N N 出しないことから、セラミドによりアポトーシス誘導を明らかにした。 O O Me O V O O O Me O 図1-12. ビス (マルトレート) オキソバナジウム錯体 Uckun らは、図 1-13 に示すフェナントロリンやビピリジル、ビピリミジル、アセトフェ ノンを配位子として有するバナジル錯体15 種類合成し、それらのヒト卵巣がん細胞株に対 してのアポトーシス誘導活性について報告している20-22。IC50値を求めたところ、フェナン トロリンを有するバナジル錯体 VO (phen)2 においては、どのがん細胞株においても活性を 示したが、ビピリジル、ビピリミジル、アセトフェノンを配位子に有する錯体は、IC50値が 100 M 以上であり活性が低かった。 図1-13 の錯体の中で、フェナントロリンの 4 位と 7 位にメチル基と 5 位にニトロ基もつ

錯体の細胞増殖阻害活性が高かったことから、その錯体に対して in situ end labeling

(TUNEL) 分析、フローサイトメーターによる Sub-G1 期の測定により、PA-1 細胞株に対す るアポトーシスの誘導活性が明らかになった。次に同様の錯体を用いてヒト白血病細胞株 (NALM-6, MoLT-3, HL-60 細胞)と多発性骨髄腫株 (U266BL, ARH77, HS-SULTAN 細胞) に

N N V O N N N N N N V O N N N N O O V O O O Br Br

VO (phen)2 VO (bipyl)2 VO (bipym)2 VO (bipym)2

図 1-13. フェナントロリン、ビピリジル、ビピリミジル、アセトフェノンを配位子

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ついて細胞増殖阻害活性を検討したところ、フェナントロリンの4 位および 7 位にメチル

基をもつ錯体が他のフェナントロリンを有する錯体の中で最も活性が高いことが明らか になった (図 1-14)。この錯体は、NALM-6 細胞への添加により、活性酸素 (ROS) による

アポトーシス誘導が明らかになっている20。

図1-14. VO (Me2-phen)2 とVO (NO2-phen)2

フェナントロリンは、p53 タンパク質を活性化し、G1 期の停止によりアポトーシスを誘 導する12ことから、ビピリジル、ビピリミジル、アセトフェノンを配位子として有するバ ナジル錯体よりも活性が高くなったと考えられる。 バナジル錯体のアポトーシス誘導活性の報告例が少なく、錯体の疎水性や構造とアポト ーシス誘導活性の関係については明らかではない。第三章では、がん細胞に対して、増殖 阻害あるいはアポトーシス誘導活性が報告されている化合物を配位子として用いること とした。3-ヒドロキシ-2-メチルキノリンは、マルトールよりも HSC-2 細胞、HSC-3 細胞、 HL-60 細胞に対して細胞増殖阻害活性が高く、正常細胞に対する毒性の低下が報告されて いる (図 1-15)21。 O O Me O N O Me O Me 図1-15. 3-ヒドロキシ-2-メチルキノリンとマルトール N N V O N N Me Me Me Me N N V O N N NO2 O2N

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11 3-ヒドロキシピリジン 22の誘導体を配位子として有する白金(II) 錯体は、ヒト卵巣がん 細胞株に対して増殖阻害活性を示すことが報告されている (図 1-16)。 N HO Pt Cl Cl H3N 図1-16. ピリジンを配位子として有する白金錯体 Hatanaka らは、カルコンにピリジン誘導体を有する化合物を合成し、大腸がん細胞株 Colon 26 細胞に対して、IC50値を算出したところ、ピリジノン骨格を有する化合物が、こ れらの化合物の中で最も高い活性を示した (図 1-17)23。 N O Me MeO MeO OMe N Me MeO MeO OMe I N O MeO MeO OMe N MeO MeO OMe O Me 図1-17. ピリジン誘導体を有するカルコン Soural らは、様々な置換基を有する 2-フェニル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノリン24類の合成 を行い、A549、CEM、CEM-DNR bulk、K562、K562-tax 細胞株に対する IC50値を評価し、 末端のベンゼン環の3 位と 5 位にクロロ基と 4 位にアミンを有する化合物が最も高い活性 を報告している。また、2-フェニル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノリンのトポイソメラーゼ阻害 が報告されている25 (図 1-18)。

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12 N H O OH N H O OH HOOC Cl Cl NH2 O O O Cl Cl H2N 図1-18. 2-フェニル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノリン誘導体 8-ヒドロキシキノリン26は、マウスのメラノーマ細胞に対して細胞増殖阻害活性を示す ことが明らかになっている (図 1-19)。 N HO 図1-19. 8-ヒドロキシキノリン 抗がん剤の疎水性は、抗がん活性に影響を及ぼす重要なパラメータの 1 つである。例え ば、図1-20 に示すようにエステル部分にエチル基、ヘキシル基またはドデシル基を導入し たビス-ガロイル誘導体は、HL-60 細胞株に対してドデシル基をもつ化合物が最も高い細胞 増殖阻害活性を示す8。また、様々な鎖長のメチレン鎖をもつアルケントリスルフィドまた はアルキルトリスルフィドは、HT-29 細胞株 (ヒト転移性大腸がん細胞)に対してジプロピル 基またはジブチル基をもつ化合物が最も高い細胞増殖阻害活性を示す27。いずれの骨格にお いても、アルキル鎖長の違いによる化合物の疎水性の変化が抗がん活性に影響を及ぼすこ とが明らかにされている。また、アーレンを配位子とするルテニウムの二核錯体において も、連結部分のメチレン鎖長の違いによりヒト卵巣がん細胞株である A2780 細胞とヒト大 腸がん細胞株 SW480 細胞に対する細胞増殖阻害活性が変化し、メチレン鎖の炭素数が 12

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13 の時に最も高い活性を示すことが報告されている28。そのため、化合物の疎水性が、細胞増 殖阻害活性を示す一つの要因であると考えられる。 本研究では、がん細胞に対する増殖阻害活性を有する配位子および長鎖のアルキル基を 有する配位子を導入したバナジル錯体を合成し、配位子の骨格や結合様式と、U937 細胞に 対するアポトーシス誘導活性との関係について検討する。 OH HO HO O(CH2)nCH3 O n = 1, 5, 11 ,17 ガロイル誘導体26 S S S S S S n n n n n = 1, 2, 3, 4 n = 1, 2, 3 アリキルトリスルフィド アルケントリスルフィド27 アレーンを配位子とするルテニウムの二核錯体28 図1-20. 化合物の疎水性と細胞増殖阻害に相関がある化合物 N N n Me Me O O O O Ru Cl Ru Cl n = 3, 6, 12

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14 N O O V O N O O Me R R Me N O R O V O O N O R a: R = CH3 b: R = CH2CH3 c: R = CH2CH2CH3 O N V O O N Me R2O2S SO2R Me N O S V O N O S Me Me OMe OMe a: R = CH3 b: R = (CH2)3CH3 c: R = (CH2)5CH3 d: R = (CH2)9CH3 e: R = (CH2)13CH3 a: R = NH(CH2)7CH3 b: R = NH(CH2)9CH3 c: R = NH(CH2)11CH3 d: R = N(CH3)2 e: R = N((CH2)4CH3)2 f: R = N((CH2)7CH3)2 g: R = N((CH2)9CH3)2 h: R = N((CH2)11CH3)2 図1-21. 目的化合物

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第二章 水酸基が導入されたベンゼン環をもつニコチンアミド誘導

2-1. 序論

がん細胞への増殖阻害能を示す物質としてポリフェノール類が知られている。特にお茶 に含まれるEGCG は多くのがん細胞株に対してアポトーシスを誘導する1-8。ニコチンアミ ド誘導体である6-アミノニコチンアミドや N-メチルニコチンアミドが HL-60 細胞株に対 してアポトーシスの誘導活性が報告されている9-11。山口は、さらに高いアポトーシス誘導 活性を示す物質として、アミノフェニルアラニン残基とヒドロキシ安息香酸類を有するニ コチンアミド誘導体の合成を行い、それらの化合物のヒト組織球性腫瘍細胞 U937 細胞株に 対するアポトーシス誘導活性を評価した。その結果、末端のベンゼン環に水酸基を 1 つも つ化合物は細胞増殖阻害能を示さないものの、2 位と 3 位に水酸基を持つ化合物 1 は高い 細胞増殖阻害能を示し、EGCG の IC50値よりも低く、高い活性を示すことを明らかにした 12 EGCG1-8 6-アミノニコチンアミド9-11 N-メチルニコチンアミド9-11 図2-1. 報告例のあるアポトーシスを誘導する化合物 HO OH O O OH OH OH O OH OH OH N H2N CONH2 O N CONH2 O CH3

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18 ここで EGCG と化合物 1 の構造に着目すると、EGCG はポリフェノール部分と母骨格と がエステル結合で連結した構造をとっているのに対し、化合物 1 はアミド結合で連結した 構造をとっている。そのため、化合物 1 のアミド結合をエステル結合に変換することで、 化合物 1 の細胞増殖阻害活性の上昇の可能性が期待できると考えられる。 N N H O CO2Me HN O OH OH 図2-1. 化合物 1 アミノフェニルアラニンとヒドロキシ安息香酸を有するニコチンアミド誘 導体 そこで本章では、アミノフェニルアラニンのチロシンへの変換によりエステル結合を導入 した化合物を合成し、末端のベンゼン環に導入する水酸基あるいはメトキシ基の数や位置 が細胞増殖阻害能に及ぼす影響をU937 細胞に対する細胞増殖阻害能および IC50値から検討 し、アガロースゲル電気泳動法によるDNA の断片化の確認とアネキシン V 染色およびヨー ドプロピジウム (PI) 染色を用いた顕微鏡観察により細胞死の種類について検討を行った。 N N H O CO2Me O O OH N N H O CO2Me O O (OH)2 図2-2. 目的化合物

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19

2-2. 結果と考察

N-ニコチノイル-L-チロシンメチルエステル 3 は、スキーム 2-1 に示すように、L-チロシン メチルエステル塩酸塩 2 にトリエチルアミン存在下、ニコチン酸無水物の反応により得た。 3 と塩化ベンゾイル誘導体とのカップリングにより、化合物 4a-f を収率 71-88%で得た。 ClH3N CO2Me OH N O O O N Et3N, dry THF N N H O CO2Me OH COCl R1 R2 R3 R4 Et3N, dry CHCl3 N N H O CO2Me O O R1 R2 R3 R4 BBr3 dry CH2Cl2 N N H O CO2Me O O R1 R2 R3 R4 4a: R1 = R2 = OMe, R3 = R4 = H (78%) 4b: R1 = OMe, R2 = H, R3 = OMe, R4 = H (72%) 4c: R1 = OMe, R2 = R3 = H, R4 = OMe (72%) 4d: R1 = OMe, R2 = R3 = R4 = H (71%) 4e: R1 = H, R2 = OMe, R3 = R4 = H (81%) 4f: R1 = R2 = H, R3 = OMe, R4 = H (88%) 5a: R1 = R2 = OH, R3 = R4 = H (16%) 5b: R1 = OH, R2 = H, R3 = OMe, R4 = H (59%) 5c: R1 = OH, R2 = H, R3 = H, R4 = OH (24%) 5c': R1 = OH, R2 = R3 = H, R4 = OMe (20%) 5d: R1 = OH, R2 = R3 = R4 = H (19%) 5e: R1 = H, R2 = OH, R3 = R4 = H (22%) 2 3 (93%) 4 Scheme 2-1 4a と 4d および 4e に三臭化ホウ素を反応させると、メトキシ基からメチル基が除去されて

(22)

20 目的化合物である 5a、5d、および 5e が合成された。しかし、ベンゾイル基の 2 位と 4 位、 2 位と 5 位にメトキシ基をもつ 4b と 4c は、三臭化ホウ素との反応で 2 位及び 4 位にあるメ チル基のみが除去された。また、4 位にメトキシ基をもつ 4f からはメチル基を除去できず、 反応液中でエステル結合が切断されてベンゾイル基が除去された化合物 3 が確認された(ス キーム 2-2)。そのため、水酸基の保護基をメチル基ではなく弱塩基で除去可能なアセチル 基に変更し、エステル化後にメタノール中で炭酸カリウムを用いた脱保護により、目的化 合物 5g を合成した(スキーム 2-3)。 N N H O CO2Me O O OMe BBr3 dry CH2Cl2 N N H O CO2Me OH 4f 3 Scheme 2-2 N N H O CO2Me Et3N, dry CHCl3 N N H O CO2Me O 3 4g (87%) OH COCl OAc O OAc THF, MeOH K2CO3 N N H O CO2Me O 5g (64%) O OH Scheme 2-3 合成した化合物のU937 細胞に対する細胞増殖阻害活性は、化合物のジメチルスルホキシ ド (DMSO) 溶液を細胞に添加して 48 時間培養した後に U937 細胞の生存率の測定により

(23)

21 0 20 40 60 80 100 v ia b il it y (% ) DMSO EGCG 5a 5b 5c 5c’ 5d 5e 5g 決定した。ここでDMSO のみを添加した細胞の生存率を 100%とした (図 2-3)。末端のベン ゼン環の2 位と 3 位に水酸基を持つ化合物 5a および末端のベンゼン環の 2 位に水酸基、4 位にメトキシ基をもつ化合物 5b は、9 種類の化合物の中で最も高い細胞増殖阻害活性を示 した。末端のベンゼン環に導入された水酸基の置換位置の違いによる細胞増殖阻害活性を 比較すると、3 位に水酸基をもつ 5e の活性が、2 位の 5d および 4 位の 5g の活性より高か った。また、末端のベンゼン環に水酸基を二つもつ化合物の細胞増殖阻害活性を比較する と、2 位と 3 位に水酸基を持つ 5a の方が、2 位と 4 位に水酸基を持つ 5c より活性が高かっ た。さらに、図2-3 に示すように、アミド結合を有する化合物 1 誘導体でも末端のベンゼン 環の2 位および 3 位に水酸基を有する化合物の活性が高かった 12ことから、隣り合った位 置に水酸基を有するカテコール構造が高い細胞増殖阻害活性を示すための重要な構造と考 えられる。 図2-3. 化合物で処理したU937細胞の生存率 (%). DMSO をコントロールとし、 5a-gの化合物 88 M 投与後 48 時間後の生存率を示す。有意差の検定は、Student's t-test で行い,*P <0.05 のとき有意差があるとした。グラフは、3回投与実験を行い、 それぞれ1回測定を行った。 * * * * * * *

(24)

22 N N H O CO2Me HN O OH OH N N H O CO2Me HN O OH OH 図2-4. 末端のベンゼン環の 2 位と 3 位に水酸基を有する化合物 末端のベンゼン環に水酸基とメトキシ基を一つずつ有する化合物 5b が末端のベンゼン環2 位および 3 位に水酸基をもつ 5a よりも高い活性を示した。図 2-5 に構造式を示したよ うに、4 位にメトキシ基をもつメトキシカルコンは、カルコンよりも A375 細胞に対して高 い細胞増殖阻害活性示す13ことから、4 位のメトキシ基が活性に影響を与える構造であるこ とが推測された。またN-acylated 芳香族アミンのベンゼン環上の 4 位にメトキシ基と 3 位 に水酸基がある化合物14やrhinacanthin-N のナフトキノン環上15およびアントラキノン誘導 体の1 位に水酸基、6 位にメトキシ基を持つ化合物16がそれぞれU937 細胞株、ヒト子宮頸 がん細胞 (HaLaS3 細胞株)、ヒト肝がん細胞 (HepG2 細胞株) に対してアポトーシス誘導活 性を示すことが報告されている。このことから、化合物の骨格中での水酸基とメトキシ基 の存在ががん細胞の細胞増殖阻害活性において重要な構造であると示唆されている。しか し、末端のベンゼン環の2 位に水酸基、5 位にメトキシ基をもつ 5c’は、水酸基を二つもつ 5c よりも活性が低かった。エステル結合を有する化合物においては、末端のベンゼン環の 2 位に水酸基および 4 位にメトキシ基をもつことが、がん細胞に対して高い活性を示すため の重要な構造であることが推測された。

(25)

23 O

CF3

MeO

methoxy-chalcon13 N-acylated aromatic amine14

rhinachanthin-N15 1-methoxy-2-hydroxyanthraquinone16

図2-5. 芳香族環に水酸基あるいはメトキシ基をもつ化合物

次に、U937 細胞に対する化合物の細胞増殖阻害活性の評価は IC50値の測定により行った。

結果をTable 2-1 に示す。5a と 5b の IC50値は3.15M と 0.87 M となり、EGCG の IC50値

よりも低いことから、細胞増殖阻害活性が高いことが明らかになった。 Table 2-1. 化合物で処理した U937 細胞の IC50値 a Compound IC50 (M) EGCG 15.65±2.39 5a 3.15±0.70* 5b 0.87±0.52* 5e 20.83±2.30 a数値は、3 回の平均値と標準偏差を示す。

EGCG を基準とし、有意差の検定は、Student's t-test で行い、 *P <0.05 のとき有意差があるとした。 O O O O OH OCH3 O O OH OCH3 HO H N O OMe OH

(26)

24 クロマチンDNA のヌクレオソーム単位での断片化は、アポトーシスの過程での生化学的 な特徴の一つである。アガロースゲル電気泳動を用いて断片化したDNA ラダーの検出によ りアポトーシスを確認可能である。図2-6 に示すように 5a と 5b で処理した細胞の DNA は、 アガロースゲル電気泳動において、ポジティブコントロールであるEGCG で処理した細胞 のDNA と同様のラダーが確認されたため、その細胞死がアポトーシス由来と示唆された。 しかし、5e で処理した場合においてはラダーが不鮮明なため、アポトーシス以外の原因で 細胞死が起こったものと考えられる。 図2-6. 化合物で処理した U937 細胞の DNA 断片化のアガロース電気泳動

M: DNA マーカー, 1: コントロール, 2: DMSO, 3: EGCG, 4: 化合物 5e, 5: 化合物 5a, 6: 化合 物 5b.化合物 99 M、投与後 48 時間 アポトーシスの初期段階では、通常細胞の内側に存在するホスファチジルセリン (PS) が 細胞膜表面に移動し、アネキシン V との結合により緑色の蛍光を発する 17-19。一方ネクロ ーシスを起こした細胞は、細胞膜の透過性の上昇によりPI 染色により核が染色されるため、 赤い蛍光を観測できる。また、正常な細胞はアネキシンV にも PI にも染色されない。した がって、アポトーシスを起こした細胞は、蛍光顕微鏡でその細胞死がアポトーシスかネク ローシスかの判定が可能である。そこで、化合物 5a および 5b が U937 細胞に対するアポト M 1 2 3 4 5 6 7 M 1 2 3 4 5 6 7 M 1 2 3 4 5 6

(27)

25 ーシス誘導を明らかにするために、アネキシン V 染色と PI 染色を行い、蛍光顕微鏡観察 を行った。化合物 5a および 5b で処理した U937 細胞では、アネキシン V の染色による緑 色の蛍光が観測され、PI 染色による赤い蛍光は観測されなかったことから、細胞死の割合 はアポトーシス由来が有意であることが確認された(図2-7)。 コントロール(DMSO) 化合物 5a 化合物 5b (A) 50m (B) 50m (C) 50m 図2-7.アネキシン V および PI 染色した U937 細胞の蛍光顕微鏡写真

(A) DMSO+アネキシン V および PI, (B) 5a+アネキシン V および PI , (C) 5b+アネキシン V

およびPI. 化合物 50 M、投与後 24 時間 アガロースゲル電気泳動法を用いたDNA ラダーの検出およびアネキシン V 染色と PI 染 色による蛍光顕微鏡観察の結果から、今回合成した化合物の中で 5a および 5b の U937 細胞 に対するアポトーシス誘導活性が確認された。5b は、チロシンと末端のベンゼン環の 2 位 に水酸基と4 位にメトキシ基をもつベンゾイルのニコチンアミド誘導体である。 ベンゼン環の2位に水酸基、4位にメトキシ基を有する化合物の一部には、がん細胞株に

対する増殖阻害活性が報告されている20-21。そのなかでも、2-hydroxy-4-methoxy benzoic acid22

は、フリーラジカル活性、トランスアミラーゼ活性、抗原免疫増強能、抗血清増強活性が 報告されている。フリーラジカルの一種である活性酸素のアポトーシス誘導経路は、1) 抗 がん剤自身により生成された活性酸素によるDNA損傷からアポトーシスに至る場合と2) 抗がん剤によるDNA損傷を介して二次的に活性酸素が生成しアポトーシスに至る場合が考

(28)

26 えられる23。化合物5bによるアポトーシス誘導活性は、フリーラジカルの産出が可能性の一 つとして考えられる。 OH OMe O OMe HO O MeO MeO 2-hydroxy-4-methoxybenzophenone (HMB)20 3-(3,4-Dimethoxyphenyl)-1-(2-hydroxy -4-methoxy-phenyl) propan-1-one21 OMe OH O HO

2-hydroxy-4-methoxy benzoic acid22

図2-7. ベンゼン環の2位に水酸基と4位にメトキシ基を有する化合物

2-3 結論

ニコチンアミドにチロシン残基や安息香酸が結合した化合物を合成した。それらの化合 物の中で、末端のベンゼン環の2 位と 3 位に水酸基をもつ 5a および 2 位と 4 位にそれぞれ 水酸基とメトキシ基をもつ 5b が U937 細胞に対して高い細胞増殖阻害能を示した。また、 それらの細胞増殖阻害活性は、アポトーシス誘導活性が報告されている EGCG よりも高か った。また、アネキシンV と PI で染色した細胞の蛍光顕微鏡観察および DNA のアガロー スゲル電気泳動の結果より、5a または 5b の U937 細胞に対するアポトーシス誘導活性が明 らかとなった。

(29)

27

2-4 実験項

N-ニコチニル-L-チロシンメチルエステル (3) THF (100 mL) に、L-チロシンメチルエステル塩酸塩 (2.86 g, 12 mmol) とニコチン酸無水 物 (2.55 g, 11 mmol) を加え、25 mL の THF に溶かした Et3N (1.45 g, 14 mmol) を 0°C で滴下 し、その溶液を室温で2.5 時間撹拌した。反応液を吸引濾過し、ろ液を減圧濃縮した後、水 (50 mL) を加えて酢酸エチル (200 mL) で抽出した。有機層から溶媒を減圧留去し、3 を白 色の固体として得た (3.10 g , 93%)。 mp 122.7-123.8°C. IR (KBr): 3343, 2947, 1742, 1641, 1596, 1524, 1368, 1321, 1223, 700 cm-1. 1H-NMR (CDCl 3) δ: 3.13-3.26 (2H, m), 3.80 (3H, s), 5.06 (1H, dt, J = 7.8 and 5.4 Hz), 6.61 (1H, d, J = 7.8 Hz), 6.76 (2H, d, J = 8.5 Hz), 6.98 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.41 (1H, dd, J = 4.8 and 7.8 Hz),

8.10 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.76 (1H, d, J = 4.8 Hz), 8.89 (1H, s). Anal. Calcd for C16H16N2O4・0.1H2O:

C, 63.61; H, 5.40; N, 9.27. Found: C, 63.42; H, 5.46; N, 9.06. 化合物 4a-f: 典型的な例として N-ニコチニル-O-(2,3-ジメトキシベンゾイル)-L-チロシンメ チルエステル (4a) 3 (499 mg, 1.7 mmol) に CHCl3 (40 mL) と Et3N (242 mg, 2.4 mmol) を加えた溶液に 2,3-ジ メトキシベンゾイルクロライド (446 mg, 2.2 mmol) の CHCl3 (40 mL) 溶液を 0°C で滴下し た。室温で3 時間撹拌後、反応液を 5%炭酸水素ナトリウム水溶液 (50 mL) と飽和食塩水 (50 mL x 2) で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去後、得られた固体をシリカ ゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒; クロロホルム/メタノール = 20/1) で精製し、 4a を黄色の固体として得た (615 mg, 78%)。 mp 127.0-127.8°C. IR (KBr): 3309, 2943, 1739, 1481, 1265, 1200, 747 cm-1. 1H-NMR (CDCl3):

3.27 and 3.33 (2H, ABX, J = 5.3 and 13.9 Hz), 3.81 (3H, s), 3.92 (3H, s), 3.95 (3H, s), 5.11 (1H, d, J = 8.0 Hz), 6.67 (1H, d, J = 7.3), 7.14-7.18 (6H, m), 7.39 (1H, dd, J = 5.1 and 7.7 Hz), 7.48-7.51 (1H,

(30)

28

m), 8.05 (1H, d, J = 7.7 Hz), 8.74 (1H, d, J = 3.9 Hz), 8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C25H24N2O7・0.1

H2O: C, 64.40; H, 5.23; N, 6.01. Found: C, 64.27; H, 5.03; N, 6.02. 化合物 4b-f も化合物 4a と同様な方法で得た。 N-ニコチノイル-O-(2,4-ジメトキシバンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (4b) 白色固体, 収率 72%. mp 141.5-142.2°C. IR (KBr): 3290, 3052, 1737, 1714, 1639, 1611, 1420, 1333, 701 cm-1. 1H-NMR (CDCl3) δ: 3.25-3.35 (2H, m), 3.80 (3H, s), 3.89 (3H, s), 3.92 (3H, s), 5.11 (1H, d, J = 7.3 Hz), 6.53-6.57 (2H, m), 6.73 (1H, d, J = 7.8 Hz), 7.12-7.17 (4H, m), 7.43 (1H, dd, J = 4.9 and 7.8 Hz), 8.05 (1H, d, J = 8.5 Hz), 8.09 (1H, d, J = 8.1 Hz), 8.75 (1H, d, J = 4.1 Hz), 9.01 (1H, s). Anal. Calcd for C25H24N2O7・0.1 H2O: C, 64.40; H, 5.23; N, 6.01. Found: C, 64.29; H, 5.17; N,

6.01.

N-ニコチノイル-O-(2,5-ジメトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (4c)

白色固体, 収率 72%. mp 104.3-105.1°C. IR (KBr): 3258, 2940, 1720, 1612, 1507, 1438, 1220, 1166, 833, 769 cm-1. 1H-NMR (CDCl3) δ: 3.27 and 3.33 (2H, ABX, J = 5.4 and 13.9 Hz), 3.80 (3H,

s), 3.82 (3H, s), 3.90 (3H, s), 5.11 (1H, d, J = 7.7 Hz), 6.66 (1H, d, J = 9.2 Hz), 6.98 (2H, d, J = 9.2 Hz), 7.09-7.14 (2H, m), 7.17 (2H, d, J = 9.2 Hz), 7.40 (1H, dd, J = 4.6 and 8.9 Hz), 7.51 (1H, d, J = 3.1 Hz), 8.05 (1H, d, J = 8.9 Hz), 8.74 (1H, d, J = 4.6 Hz), 8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C25H24N2O7:

C, 64.65; H, 5.21; N, 6.03. Found: C, 64.70; H, 5.10; N, 5.99.

N-ニコチノイル-O-(2-メチルベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (4d)

白色固体, 収率 71%. mp 128.3-129.5°C. IR (KBr): 3319, 2952, 1743, 1639, 1490, 1436, 1240, 1038, 755 cm-1. 1H-NMR (CDCl

(31)

29

3.93 (3H, s), 5.10 (1H, dd, J = 5.5 and 13.5 Hz), 6.72 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.02-7.06 (2H, m), 7.14-7.16 (4H, m, J = 7.3 Hz), 7.26 (1H, dd, J = 4.9 and 8.0 Hz), 7.53-7.57 (1H, m), 7.99 (1H, d, J = 1.7 Hz), 8.03 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.74 (1H, d, J = 4.6 Hz), 8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C24H22N2O6・0.6 H2O: C, 64.74; H, 5.25; N, 6.29. Found: C, 64.66; H, 4.89; N, 6.17.

N-ニコチノイル-O-(3-メトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (4e)

白色固体, 収率 81%. mp 136.5-137.2°C. IR (KBr): 3358, 2949, 1752, 1638, 1523, 1320, 1278, 1088, 749 cm-1. 1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.28 and 3.35 (2H, ABX, J = 5.7 and 13.5 Hz), 3.81 (3H, s),

3.89 (3H, s), 5.11 (1H, dd, J = 5.7 and 13.5 Hz), 6.65 (1H, d, J = 7.5 Hz), 7.15-7.20 (5H, m), 7.39-7.44 (2H, m), 7.68 (1H, s), 7.79 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.06 (1H, d, J = 7.8 Hz), 8.75 (1H, d, J = 4.9 Hz), 8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C24H22N2O6: C, 66.35; H, 5.10; N, 6.45. Found: C, 66.63; H,

5.16; N, 6.40.

N-ニコチノイル-O-(4-メトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (4f)

白色固体, 収率 88%. mp 188.0-189.0°C. IR (KBr): 3333, 2961, 1740, 1608, 1266, 1075, 763 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.27 and 3.34 (2H, ABX, J = 5.5 and 12.5 Hz), 3.81 (3H, s), 3.90 (3H, s,), 5.11

(1H, dd, J = 5.5 and 12.5 Hz), 6.64 (1H, d, J = 7.3 Hz), 6.68 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.14 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.18 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.40 (1H, dd, J = 4.8 and 8.0 Hz), 8.06 (1H, dd, J = 8.0 Hz), 8.14 (2H, d, J = 9.0 Hz), 8.75 (1H, d, J = 4.8 Hz), 8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C24H22N2O6: C, 66.35; H, 5.10;

N, 6.45. Found: C, 66.37; H, 5.08; N, 6.42.

N-ニコチノイル-O-(4-アセトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステルの合成 (4g)

3 (407 mg, 1.4 mmol) に THF (80 mL) と Et3N (206 mg, 2.0 mmol) を加えた溶液に 4-アセト

(32)

30 を0°C で 1 時間撹拌後、室温で 16 時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、水 (30 mL) を加えて CHCl3 (50 mL) で抽出した。有機層を飽和食塩水 (50 mL) で洗浄後、無水硫酸ナトリウム で乾燥した。溶媒を留去後、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶 媒; クロロホルム/メタノール = 20/1) で精製し、4g を黄色の固体として得た (545 mg, 87%)。 mp 157-158ºC. IR (KBr): 3322, 2952, 1739, 1640, 1273, 1017, 699 cm-1. 1H-NMR (DMSO-d6): 2.31 (3H, s), 3.09-3.27 (2H, m), 3.78 (3H, s), 4.71 (1H, dd, J = 5.3 and 13.4 Hz), 7.20 (2H, d, J = 8.2 Hz), 7.37 (4H, dd, J = 8.5 and 13.6 Hz), 7.51 (1H, dd, J = 4.8 and 7.9 Hz), 8.13-8.16 (3H, m), 8.71 (1H, d,

J = 4.8 Hz), 8.95 (1H, s), 9.14 (1H, d, J = 7.9 Hz). Anal. Calcd for C25H22N2O7: C, 64.93; H, 4.80; N,

6.06. Found: C, 64.99; H, 4.73; N, 5.96. 化合物 5a-e: 典型的な例として N-ニコチノイル-O-(2,3-ジヒドロキシベンゾイル)-L-チロシ ンメチルエステル(5a) 脱水ジクロロメタン (10 mL) に 4a (106 mg, 0.23 mmol) を溶解させて、-30°C に冷却した。 この溶液に1 M 三臭化ホウ素の脱水ジクロロメタン溶液 (0.86 mL, 0.86 mmol) を加えた。 反応液を徐々に室温に戻し、室温で72 時間撹拌した。反応終了後、溶液は黄色の懸濁液と して得られた。再び反応液を- 30°C に冷却し、メタノール (4.0 mL) をゆっくり加えた。反 応液を室温に戻した後、1 M 水酸化ナトリウム水溶液を加えて pH 7 に調節し、クロロホル ム (40 mL x 3) で抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去し た。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒; クロロホルム/メタノ ール = 6/1) で精製し、5g を黄色の固体として得た (44 mg, 16%)。 mp 129.0-130.2°C. IR (KBr): 3320, 2951, 1747, 1682 ,1593, 1532, 1369, 1299, 741 cm-1. 1H-NMR (CDCl3) δ: 3.27 and 3.36 (2H, ABX, J = 5.4 and 13.9 Hz), 3.81 (3H, s), 5.11 (1H, dd, J = 5.3 and

12.4 Hz), 6.66 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.14-7.23 (6H, m), 7.41 (1H, m), 7.59 (1H, d, J = 7.5 Hz), 8.07 (1H, d, J = 7.5 Hz), 8.75 (1H, m), 8.96 (1H, s), 10.5 (1H, br). Anal. Calcd for C23H20N2O7・1.2 H2O:

(33)

31

C, 60.31; H, 4.93; N, 6.12. Found: C, 60.23; H, 4.75; N, 5.88.

N-ニコチノイル-O-(2-ヒドロキシ 4-メトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (5b) 白色固体, 収率 59%. mp 148.6-149.4°C. IR (KBr): 3322, 1742, 1671, 1589, 1531, 1357, 773 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.24 and 3.33 (2H, ABX, J = 5.6 and 13.5 Hz), 3.80 (3H, s), 3.85 (3H, s), 5.10

(1H, dd, J = 5.6 and 13.5 Hz), 6.48-6.53 (2H, m), 6.81 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.13 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.20 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.38 (1H, dd, J = 4.8 and 7.9 Hz), 7.93 (1H, d, J = 8.7 Hz), 8.06 (1H, d, J = 7.9 Hz), 8.73 (1H, d, J = 4.8 Hz), 8.95 (1H, s), 10.66 (1H, s). Anal. Calcd for C24H22N2O7: C, 63.99;

H, 4.92; N, 6.22. Found: C, 63.83; H, 4.91; N 6.08.

N-ニコチノイル-O-(2,5-ジヒドロキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (5c)

白色固体, 収率 24%. mp 97.1-97.4°C. IR (KBr): 3286, 1741, 1640, 1592, 1508, 1312, 793 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.24 and 3.33 (2H, ABX, J = 5.5 and 14.0 Hz), 3.81 (3H, s), 5.11 (1H, dd, J =

5.5 and 13.1 Hz), 6.64 (1H, br), 6.92 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.07-7.11 (2H, m), 7.19 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.38-7.43 (2H, m), 8.08 (1H, d, J = 7.9 Hz), 8.75 (1H, d, J = 4.1 Hz), 8.95 (1H, s), 10.00 (1H, s).

Anal. Calcd for C23H20N2O7・0.8 H2O: C, 61.28; H, 4.83; N, 6.21. Found: C, 61.35; H, 4.57; N, 6.00.

N-ニコチノイル-O-(2-ヒドロキシ-5-メトキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (5c’) 白色固体, 収率 20%. mp 97.8-98.0°C. IR (KBr): 3274, 1744, 1662, 1592, 1508, 1348, 773 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.26 and 3.36 (2H, ABX, J = 5.5 and 14.0 Hz), 3.81 (3H, s), 3.82 (3H, s), 5.11

(1H, dd, J = 5.5 and 13.1 Hz), 6.69 (1H, d, J = 7.3 Hz), 6.98 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.14-7.18 (2H, m), 7.23 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.41 (1H, dd, J = 4.1 and 7.9 Hz), 7.47 (1H, d, J = 3.1 Hz), 8.08 (1H, d, J = 7.9 Hz), 8.75 (1H, d, J = 4.1 Hz), 8.95 (1H, s), 10.08 (1H, s). Anal. Calcd for C24H22N2O7・0.5 H2O:

(34)

32

N-ニコチノイル-O-(2-ヒドロキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (5d)

白色固体, 収率 19%. mp 129.0-130.9°C. IR (KBr): 3333, 3218, 2948, 1749, 1484, 762 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3) δ: 3.28 and 3.36 (2H, ABX, J = 5.6 and 13.5 Hz), 3.81 (3H, s), 5.11 (1H, dd, J =

5.6 and 13.5 Hz), 6.72 (1H, s), 6.96 (1H, m), 7.04 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.14-7.16 (2H, m), 7.21-7.23 (2H, m), 7.43 (1H, dd, J = 4.8 and 8.0 Hz), 7.52-7.57 (1H, m), 8.05 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.10 (1H, d,

J = 8.0 Hz), 8.75 (1H, d, J = 3.7 Hz), 8.99 (1H, s), 10.5 (1H, br). Anal. Calcd for C23H20N2O6・

0.4H2O: C, 64.60; H, 4.90; N, 6.55. Found: C, 64.66; H, 4.98; N, 6.35.

N-ニコチノイル-O-(3-ヒドロキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステル (5e)

白色固体, 収率 22%. mp 163.4-164.4°C. IR (KBr): 3319, 1739, 1642, 1269, 1165, 700 cm-1.

1H-NMR (CDCl

3)δ: 3.17 and 3.26 (2H, ABX, J = 5.8 and 13.9 Hz), 3.76 (3H, s), 5.07 (1H, dd, J =

5.8 and 13.9 Hz), 7.05-7.11 (4H, m), 7.13 (1H, s), 7.15 (1H, s), 7.31 (1H, t, J = 7.8 Hz), 7.38 (1H, dd,

J = 4.8 and 7.6 Hz), 7.62 (1H, s), 7.65 (1H, d, J = 7.5 Hz), 8.10 (1H, d, J = 7.6 Hz), 8.69 (1H, br),

8.97 (1H, s). Anal. Calcd for C23H20N2O6: C, 65.71; H, 4.79; N, 6.66. Found: C, 65.82; H, 4.83; N,

6.31. N-ニコチノイル-O-(4-ヒドロキシベンゾイル)-L-チロシンメチルエステルの合成 (5g) 4g (287 mg, 0.62 mmol) をメタノール/THF = 1/1 (20 mL) に溶解させた溶液に炭酸カリウ ム (86.1 mg, 0.62 mmol) を加え、室温で 1 時間撹拌した。その後、炭酸カリウム (30 mg, 0.22 mmol) を加え室温で 30 分撹拌した。溶媒を留去後、酢酸エチルと水をそれぞれ 20 mL 加え たところ、白色の固体が析出したため、吸引濾過して 5g を白色の固体として得た (166 mg, 64%)。mp 220°C (decomp.). IR (KBr): 3319, 3057, 2948, 1739, 1642, 1269, 1068, 700 cm-1. 1H-NMR (DMSO-d 6): 3.06-3.25 (2H, m), 3.65 (3H, s), 4.66-4.72 (1H, m), 6.89 (2H, d, J = 8.6 Hz), 7.13 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.35 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.50 (1H, dd, J = 4.9 and 8.0 Hz), 7.93 (2H, d, J =

(35)

33

8.6 Hz), 8.12 (1H, d, J = 8.0 Hz), 8.70 (1H, d, J = 4.9 Hz), 8.92 (1H, s), 9.13 (1H, d, J = 8.0 Hz).

Anal. Calcd for C23H20N2O6: C, 65.71; H, 4.79; N, 6.66. Found: C, 65.82; H, 4.83; N, 6.31.

培養細胞 U937 細胞は、10% FBS と 5%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む RPMI 1640 培地中で 5% CO2、37°C 条件下で培養した。 U937 細胞の生存率の測定 12 穴培養プレートに 0.2×106 cells/mL に調整した U937 細胞を 1 穴につき 760 L 分注し、 化合物を培地中最終濃度88 M として添加した。化合物添加後、5% CO2、37°C で 48 時間 培養し、トリパンブルーの染色により生存細胞の数を測定した。 電気泳動によるDNA 断片化の分析 50 mL 培養フラスコに 2.4×105 cells /mL に調整した細胞 20 mL に化合物を培地中最終濃 度99 M として添加した。5% CO2、37°C で 48 時間培養後、遠心分離 (15000 rpm, 10 min) に より細胞を沈殿させ、上清を除き、細胞をリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) で洗浄し、再び遠 心分離した。細胞にリシスバッファー (1M Tris-HCl buffer (pH 7.4), 0.5 M EDTA, 10% TritonX-100 を含む溶液) (200L) を加えて溶解させ、10 分間 4°C で保った。遠心分離後、

上清にRNase A (10 mg/mL in Tris-EDTA buffer) を 2 L 添加し 50°C で 30 分インキュベート

した後、プロテインナーゼ K (10 mg/mL in distilled water) を 2 L 添加し 50°C で 45 分イン キュベートした。その溶液に、5 M NaCl (20 L)と 2-プロパノール (120 L) を加え -20°C

で24 時間インキュベートした後、遠心分離 (15000 rpm, 20 min)し、沈殿した DNA を、ト

リス-EDTA バッファー(5 L)で溶解させ、2%アガロースゲルを用いて電気泳動に供した。

(36)

34 アネキシンV および PI 染色 アネキシンV-フルオレセリン染色キットは、和光純薬工業社製のものを用いた。50 mL 培 養フラスコに2.0×105 cells /mL に調整した U937 細胞 4.95 mL に化合物を培地中最終濃度 50 M として添加した。5% CO2で37°C で 24 時間培養後、PBS で洗浄し、遠心分離し、細 胞を、アネキシンV-フルオレセリン (2 L)、結合バッファー (100 L), およびヨードプロ ビジウム (2 L) で処理した。懸濁液を、室温で 15 分間培養し、蛍光顕微鏡で観察した。

(37)

35 参考文献

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(39)

37

第三章 オキソバナジウム錯体

3-1. 序論

バナジウムは体内に微量に存在する金属であり、細胞分裂促進作用、抗糖尿病作用、発 がんおよび抗がん作用、薬物の酸化的脱メチル化反応の阻害など様々な生理活性を有する ことが報告されている1,2。バナジウムは -1 から +5 までの酸化数をとり、3 価はバナディ ックイオン、4 価はバナジル、5 価はバナデイトと呼ばれる。バナジウムの毒性は酸化数に 依存し、+4 の酸化数をもつバナジウムは、+5 の酸化数をもつバナジウムよりも毒性が低い ことが示唆されている3。また、健康なラットにバナデイト錯体を投与すると、ラットの体 内において酸化数 +4 のバナジルとしての存在が明らかにされている4。バナジル錯体のイ ンスリン様活性が明らかにされて以来、糖尿病の治療薬候補として長年研究が行われてい る。無機塩の硫酸バナジウム (VOSO4) と比較して、バナジル錯体の方が細胞の脂質二重膜 透過性を高めることが明らかになっている5。 これまでにビス(マルトレート) オキソバナジウム錯体が B 細胞である ヒトバーキット リンパ腫細胞株であるRamos 細胞 に対するアポトーシス誘導活性が報告されている。また、

VO(Me-phen)2 が ヒト卵巣がん細胞株である PA-1 細胞、SKOV-3 細胞、ES-2 細胞、OVCAR-3

細胞およびヒト白血病細胞株である NALM-6 細胞、MOLT-3 細胞、HL-60 細胞およびホジ キンリンパ球細胞株である HS445 細胞、多発性骨髄腫細胞である U266BL 細胞、ARH77 細胞、HS-SULTAN 細胞に対するアポトーシス誘導活性が報告されている 6-10。しかし、他 の配位様式をもつバナジウム錯体のアポトーシス誘導活性についての報告例はない。ビス (マルトレート)オキソバナジウム錯体は、バナジウムが 4 つの酸素原子を配位している O4 配位様式であり、VO (Me-phen)2は、バナジウムが4 つの窒素原子を配位している N4配位様

(40)

38 式である。 O O Me O V O O O Me O N N V O N N 2+ Me Me Me Me 図3-1. アポトーシス誘導活性を示すバナジル錯体 そこで本章では、3 種の配位様式を有するバナジル錯体を合成し、アポトーシス誘導活性 の評価を目的とした。ピリジノンを配位子として有するO4配位様式のバナジル錯体 (1a-e) と(2a-c)を合成した。8-ヒドロキシキノリンを有する N2O2配位様式のバナジル錯体 (3a-h)、 2-フェニル-3-ヒドロキシ-4(1H)-キノリンチオンを配位子とする S2O2配位様式のバナジル錯 体 4 を合成し、それら錯体の U937 細胞に対する細胞増殖阻害活性とアポトーシス誘導活性 について論じる。 N O O V O N O O Me R R Me N O R O V O O N O R a: R = CH3 b: R = CH2CH3 c: R = CH2CH2CH3 O N V O O N Me R2O2S SO2R Me N O S V O N O S Me Me OMe OMe a: R = CH3 b: R = (CH2)3CH3 c: R = (CH2)5CH3 d: R = (CH2)9CH3 e: R = (CH2)13CH3 a: R = NH(CH2)7CH3 b: R = NH(CH2)9CH3 c: R = NH(CH2)11CH3 d: R = N(CH3)2 e: R = N((CH2)4CH3)2 f: R = N((CH2)7CH3)2 g: R = N((CH2)9CH3)2 h: R = N((CH2)11CH3)2 1 2 3 4

3-2. 目的化合物

ビス(マルトレート)オキソバナジウム錯体 VO (Me-phen)2

(41)

39

3-2. 結果と考察

錯体 1a-b は既知の方法で合成した11。1-アルキル-2-メチル-3-ヒドロキシ-4(1H)-ピリジノ ン 5c-e は、マルトールと塩酸水溶液中で種々のアミンと反応させた後、VOSO4 と反応させ バナジル錯体 1c-e を得た (スキーム 3-1)。次に、ピリジノン類を有するバナジル錯体 2 を合 成するため、配位子 6a-c の合成を行った。1-アルキル-3-ヒドロキシ-2-(1H)-ピリジノン 6a-c3-メトキシ-2(1H)-ピリドンに対応するヨウ化アルキルを反応させ、三臭化ホウ素の脱保 護より得られた後12、VOSO4と反応させバナジル錯体 2a-c を得た (スキーム 3-2) 13。キノ リンを有するバナジル錯体を合成するため、8-ヒドロキシキノリン誘導体 7 の合成を行った。 8-ヒドロキシ-2-メチルキノリノンとクロロスルホン酸を反応させた後、各種アミンとの反 応により得た14。オキソバナジウム錯体 3 は、7 と VO(acac)2 との反応により得た (スキー ム 3-3)。キノリンの 3 位にフェニル基を有するバナジル錯体 4 は、まず N-メチルアントラ ニル酸を炭酸カリウム存在下で2-ブロモ-4’-メトキシアセトフェノンとの反応により p-メト キシフェナシルN-メトキシアントラニレート 8 を得た後、ポリリン酸 (PPA) 中で環化させ 9 とし、続いて P2S5を用いてカルボニル基をチオカルボニル基の変換により 10 を得た。10 とVO(acac)2との反応によりバナジル錯体 4 を得た (スキーム 3-4)。 O OH Me O N OH Me O VOSO4 N O Me O R V O N O Me O R R ii) RNH2 iii) H2/10% Pd-c 1 a: R = CH3 b: R = (CH2)3CH3 c: R = (CH2)5CH3 d: R = (CH2)9CH3 e: R = (CH2)13CH3 5 i) BnCl/KOH RNH2/dil.HCl Scheme 3-1

(42)

40 N H O OMe ii) BBr3 i) R-I/KOH N O OH R 6 VOSO4 N O R O V O O N O R 2 a: R = CH3 b: R = CH2CH3 c: R = CH2CH2CH3 Scheme 3-2 N Me ii) R2NH i) ClSO3H VO(acac)2 O N V O O N 3 OH N Me OH SO2NR2 7 Me R2NO2S Me SO2NR2 a: R = NH(CH2)7CH3 b: R = NH(CH2)9CH3 c: R = NH(CH2)11CH3 d: R = N(CH3)2 e: R = N((CH2)4CH3)2 f: R = N((CH2)7CH3)2 g: R = N((CH2)9CH3)2 h: R = N((CH2)11CH3)2 Scheme 3-3 K2CO3 NH OH O Me MeO O Br NH O O Me O OMe 8 PPA N O OH Me OMe P2S5/Et3N N S OH Me OMe 9 10 VO(acac)2 N O S V O N O S Me OMe OMe Me 4 Scheme 3-4 DMSO で溶解させた化合物 3c-f について可視吸収スペクトルを測定した結果、dd 遷移にも とづく718-747 nm の吸収が観察されたことにより、3c-f が 4 価のバナジル錯体であること

が明らかになった (Table 3-1)15。バナジル錯体の Electron Spin Resonance (ESR)スペクトルは、

1c-e、3a-c、および 3f-h 対して g = 2 付近に観測され、1V 核 (l=7/2) の不対電子とする 8 つ

の線の超微細分裂スペクトルが観測された (図 3-3)。これにより、不対電子をもつ単核バナ

ジウム種であることが示唆された。ESR スペクトルから算出した g-値と A-値を Table 3-2 に

(43)

41 Table 3-1. バナジル錯体 3a-c および 3f の UV 測定結果 Complex max () 3a 718 (18) 3b 720 (20) 3c 718 (18) 3f 747 (8) 251.693 271.693 291.693 311.693 331.693 351.693 371.693 391.693 20 mT 図3-3. 3a の ESR スペクトル

Table 3-2. バナジル錯体 1c-e、3a-c および 3f-h の ESR スペクトル

Complex g-value A-value (mT)

1c 1.973 9.68 1d 1.974 9.56 1e 1.973 9.63 3a 1.977 9.25 3b 1.982 9.24 3c 1.978 9.18 3f 1.979 9.14 3g 1.979 8.87 3h 1.986 8.69

(44)

42 DMSO 1a 1b 2a 2b 2c 3d 3e 4 性は、培地中最終濃度50 M として添加したバナジウム錯体を添加後 24 時間培養し、U937 細胞の生存率を算出により評価した。DMSO を添加した細胞の生存率を 100%とした (図 3-4)。 バナジル錯体の細胞増殖阻害活性は 2a<2b<2c<3d<1a<<1b<3e4 の順に高くなり、1b、3e および 4 が特に高い活性を示した。同様の骨格を有する錯体を比較すると、3-ヒドロキシ-2-メチルピリジノン類を配位子とする錯体では 1a<1b, 3-ヒドロキシピリジノン類を配位子と する錯体では 2a<2b<2c、キノリン類を配位子とする錯体では 3d<3e となり、より長いアル キル鎖を有する錯体が高い活性を示す傾向が認められた。長鎖のアルキル鎖をもつバナジ ル錯体である 1b、2c および 3e は、高い細胞増殖阻害を示した。化合物の疎水性の増加が、 細胞膜透過性を向上し活性を高める一つの要因として考えられる。 1b-d、3a-cおよび3e-hの増殖阻害活性は、培地中際異臭濃度 10 Mとして添加したバナジ ウム錯体を添加後、24時間培養しU937細胞の生存率を測定した。ここでDMSOを添加した * * * * * * * * 図3-4. 化合物で処理したU937細胞の生存率 (%). DMSO をコントロールとし、 化合物 50 M 投与後 24 時間後の生存率を示す。有意差の検定は、Student's t-test で 行い,*P <0.05 のとき有意差があるとした。グラフは、3回投与実験を行い、それ ぞれ1回測定を行った。

(45)

43

0

20

40

60

80

100

V

iabi

lit

y

(

%

)

DMSO 1b 1c 1d 3a 3b 3c 3e 3f 3g 3h 細胞の生存率を100%とした (図3-5)。錯体1eは、DMSOに対する溶解性が低く本実験では使 用できなかった。 N-モノアルキル化したキノリノン錯体の細胞増殖阻害活性は3a-cにおいて、3a<3b<3cの順 で高くなり、長鎖のアルキル鎖をもつ3cの活性か最も低く、アルキル鎖の長さが活性に影響 を与えなかった。N,N-ジアルキル化した錯体 3f-hは、3eとN-モノアルキル化した錯体 3a-c よりも細胞増殖阻害活性が低かった。キノリノン配位子を有する錯体は、より長鎖のアル キル鎖をもつ錯体の活性が低かったことから、錯体の疎水性と細胞増殖阻害活性に関係が 確認されなかった。 ピリジノン配位子をもつ錯体の細胞増殖阻害活性は、1b-d において、1b<1c<1d の順で高 くなり、アルキル鎖の伸長により細胞増殖阻害活性が高くなり、錯体の疎水性が細胞増殖 阻害活性を高める要因の一つと推測された。合成した錯体の中では 1d が、最も高い細胞増 殖阻害活性を示した。 次に、高い細胞増殖阻害活性を示したピリジノン配位子をもつバナジウム錯体 1b-d の

U937 細胞に対する IC50値 を Table 3-3 に示す。IC50値は 1b>1c>1d の順に小さくなり、錯体

図3-5. 化合物で処理したU937細胞の生存率 (%). DMSO をコントロールとし、 1b-d、3a-cおよび3e-hの化合物 10 M 投与後 24 時間後の生存率を示す。有意差の 検定は、Student's t-test で行い,*P <0.05 のとき有意差があるとした。グラフは、3 回投与実験を行い、それぞれ1回測定を行った。 * * * * * * * * *

(46)

44 1d が最も高い活性を示すことがわかった。これらの結果から、錯体のアルキル鎖が長くな るほど、IC50値の活性が低くなり細胞増殖阻害活性の上昇が明らかになった。特に 1d の IC50 値は抗がん剤として知られているシスプラチンよりもU937 細胞に対する細胞増殖阻害活性 が高かった。 数値は、3 回の平均値と標準偏差を示す。 Cisplatinを基準として、有意差の検定は、Student's t-test で行い, *P <0.05のとき有意差があるとした。 ピリジノン配位子をもつバナジル錯体のアルキル鎖の伸長により化合物の疎水性が増加 し、細胞増殖阻害活性も向上した。ヒトがん細胞に対して細胞増殖阻害活性をもつ化合物 の構造活性相関について研究されている中で、化合物の分配係数が化合物の疎水性の指標 として使用されている17-19。近年、バナジル錯体の疎水性がインスリン様活性を示す一つの 因子として示されている 20が、錯体の疎水性とヒトがん細胞に対しての細胞増殖阻害活性 との間の関係は、明らかではない。そこで、バナジル錯体 3a-c および 3e-h と 1b-d の疎水 性を評価するために、分配係数 (log P)を測定し、その結果を Table 3-4 に示した。キノリン 錯体 (3a-c および 3e-h)では 3a<3b3e<3c<3f<3g<3h の順に疎水性が高くなり、分子量の上 昇と同様であった (Table 3-4)。キノリン錯体である 3a-c および 3e-h は、それらの疎水性と 活性に相関がなかった (図 3-6)。対照的に、ピリジノン配位子の錯体の log P 値の順序は、 1b<1c<1d の順で疎水性が高くなり、その化合物の抗増殖阻害活性と同様な傾向であった。 Table 3-3. 化合物で処理した U937 細胞の IC50値 Compound IC50 value (M) 1b 58.96±8.85 1c 19.45±3.08 1d 1.52±0.37* Cisplatin 15.61±3.84

(47)

45 0 2 4 6 8 10 0 20 40 60 80 100 U937細胞の生存率 (%) lo g P 図3-7 より、ピリジノン錯体の log P と IC50値は、直線関係にあることが明らかとなった。 これらの結果から、ピリジノン錯体 1b-d の疎水性が、細胞増殖阻害活性に影響を与えるこ とがわかった。 Table 3-4. 化合物の分配係数と分子量 complex log P MW 1b 2.95 427.39 1c 3.23 483.49 1d 4.16 595.71 1e 6.03 707.92 3a 3.62 765.88 3b 3.95 821.98 3c 4.38 878.09 3e 3.96 821.98 3f 5.57 990.30 3g 6.74 1102.51 3h 8.09 1214.73 3a 3b 3c 3f 3g 3h U937 細胞の生存率 (%) 図 3-6. 錯体 3a-c および 3f-h の分配係数と IC50値の関係図 3e

図 1-2.  カスパーゼ経路
図 1-13.  フェナントロリン、ビピリジル、ビピリミジル、アセトフェノンを配位子
図 1-14.  VO (Me 2 -phen) 2  と VO (NO 2 -phen) 2
図 2-5.  芳香族環に水酸基あるいはメトキシ基をもつ化合物
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参照

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