脳動脈瘤の自然歴モデル:
未破裂脳動脈瘤に対する予防的治療効果の評価
好
本
裕
平
は じ め に MRI をはじめとする診断機器の開発・普及に伴って, 様々な疾患が早期発見されるようになった. これらの疾 患に対する治療には慎重な態度が求められるのはいうま でもないが, エビデンスという観点からはまだまだ未解 決の点が多い. 脳神経外科領域で最大のトピックは脳 ドックの普及などによって発見数が急増した未破裂脳動 脈瘤である. その治療適応に関しての検討には, 本来は 無作為化比較試験が必要となる. しかしながら, これに は長期間を要する事が予想され現時点では進行中・計画 中のものも含め存在しない. 最近, 観察研究ではあるが 未破裂脳動脈瘤に関する国際共同研究 (International Study of Unruptured Intracranial Aneurysms: ISUIA) が未破裂脳動脈瘤のサイズ依存性の破裂率を提示し, あ る程度の自然経過そして治療リスクに関してのデータを 提供した. 脳動脈瘤の自然歴モデル そのような状況の中, 治療効果の判定を行う一つの方 法は数学モデルによる疾患の自然経過の simulationで ある. 近年, 様々な疾患に応用されてきており, 費用−効 果 析にも応用可能であるためその有用性は高い. まず, 未破裂脳動脈瘤の治療が医療経済学的に成立しえるもの かどうかの検討を行い, 破裂率が低い場合にはそれが困 難であることを示してきた. その後に徐々に明らかになった脳動脈瘤に関する疫学 データ や ISUIA に合致するモデルを作成するには, に複雑な自然歴モデルの作成が必要になってくる. 脳動 脈瘤の自然歴にとって重要なキーイベントである発生, 増大, 破裂の確率モデルを作成し, 未破裂脳動脈瘤の治 療適応に関する検討を行った. モデル作成の前提として, 未破裂脳動脈瘤はある年齢以降に一定の確率で新生, そ して毎年一定容積増大,さらに ISUIA の結果に準じ動脈 瘤容積に比例する確率で破裂すると仮定. そして種々の 疫学データを参 にマルコフモデルを用いて脳動脈瘤の 自然 を数学的に simulateした. その上で未破裂脳動脈 瘤を有する患者が, 予防的治療を受けた場合と受けな かった場合で生活の質調整予後 (quality-adjusted life of year: QALY) を比較検討した. 作成された仮想集団内の未破裂脳動脈瘤保有率は 50 歳, 60歳, 70歳でそれぞれ 3.0%, 3.9%, 5.0%. 未破裂脳 動脈瘤, 破裂脳動脈瘤の平 サイズはそれぞれ直径 7.6mm,8.0mm. クモ膜下出血は人口 10万人当たり年間 10.3人の発生数となった. これらのデータは脳動脈瘤の 疫学データに極めて近いものである. このモデルを用い ることにより治療の効果を定量的に計算可能となる. 60 歳の未破裂脳動脈瘤保有患者に予防的治療を行うことに よって得られる QALY は直径 7mm, 10mm, 13mmの脳 動脈瘤でそれぞれ−0.28, 0.25, 1.07年と計算された. お わ り に これまでの研究で ISUIA ならびに疫学データとほぼ 一致した脳動脈瘤の自然歴モデルを作成することが可能 となった. これによると, 小型の脳動脈瘤に対する予防 187 Kitakanto Med J 2007;57:187∼188 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科脳脊髄病態外科学 平成19年4月9日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科脳脊髄病態外科学 好本裕平的治療は自然経過を改善させないものと思われた. 一方, 大型の未破裂脳動脈瘤は予防的治療の効果が期待できる が, 予想される高い治療リスクが問題となる. 大型脳動 脈瘤は症例のバリエーションが極めて大きくまた症例数 も少ないため, 自然経過や治療リスクの決定が極めて難 しい. 今後は脳動脈瘤のサイズ依存性治療リスクを加味 したモデルも必要になってくると思われる. 文 献
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