胸部異常陰影とCEA高値より、肺癌の疑われた一例 甲府共立病院内科 加賀美武 安藤直樹 山内節朗 外科 位田歳晴 病理科 畑日出夫 概要:症例は49才男性、血痩を主訴とし、 胸部レントゲン写真上左上肺野に腫瘤状 陰影を認めた。経気管支肺生検を施行す
るも確診を得ず、CEA高値のため手術
を施行し、inflammatry pseudotumor の診断を得た。 はじめに 胸部レントゲン上、腫瘤状陰影を呈する場 合、まず肺癌を疑って検査を進めるが、鑑別 に苦慮する場合も時に経験する。その際腫 瘍マーカーなど画像以外の手段を補助的に用 いるが、それがかえって診断を混乱させるこ ともある。 今回我々は、胸部レントゲン上 腫瘤状陰影を呈し、CEA高値のため、肺癌 を疑って手術した一例を経験したので報告す る。 症例Y.K.49才男性 建築塗装業
主訴:血疲 家族歴:特記すべきものなし既往歴:1959年 虫垂炎手術
1985年 アルコール性肝障害
飲酒 2合/日、タバコ 60本/日(20∼48才)、輸血歴(一〉
現病歴:1989年1月4日、血疲生じたた
め近医受診。胸部レントゲン上異常陰影指 摘され、紹介にて1月16日当院入院。 入院時現症:結膜 貧血(一)、表在リンパ 節触知せず、胸部 ラ音、心雑音聴取せず 下腿浮腫(一〉、バチ状指(一〉、 チアノーゼ(一)検査所見(表1>:白血球数増多、CRP陽
表1 検査所見
血液一般 WBC 960⑪/mm2 (Ne 69.8 Ly 18.4 Mo 8.9 Eo O.1 Ba ⑪.5 %) RBC 446×104/Mm2 Hb 15.5g/dl Ht 48.8% Plt16.7×104/㎜2 血沈 6/19mm 生化学 TP7.2g/dl Alb3.7g/dl A/G1.06 TTT7.61U ZTT15.56U TLbi11.53mg/dl Alp20.4KA ChEO.45△PH GOT110U/l GPT74U/l LI)H367U/1 γGTP928U/1 Amy64U BS196mg/dl BUN19.6mg/dl Cr1.17mg/dl UA4.7mg/dl Na140mEq/l K3.7mEq/1 Cl1⑪1mEq/l Ca9.7㎎/dl Cho1165mg/dl 血清学 CRP(+) HBsAg(一) TPHA(一) RPR(一) IgE847.4u/ml 腫瘍マーカー CEA10.34ng/ml TPA1210u/l SCC1。 Ong/m l NSE9.Ong/ml 喀疾検査 一・・・…L般細菌 Proteus mirabilis(+)Tbc(一〉 細胞診 claSSI 呼吸機能 VC4.091 %VC 112.7% FEV13.281 FEV 1 ・, 83.67% 腹超音波検査 肝、胆、膵、異常所見なし 食道、胃、十二指腸内視鏡検査 esophgeal var ices Li,F1, Cw, RC(一) 注腸 異常所見なし 気管支鏡検査 可視範囲異常所見なし 1t, Bi a末梢より肺生検施行→no malignancy 一19一性より炎症の存在が示唆されたが、血沈の 五進はなかった、また膠質反応、T. bil,
ALP, GOT, GPT,γGTP,の増
加、chEの減少より、慢性肝障害が認めら れ、糖尿病は、空腹時血糖1qbmg/d1とコ ントロール不良であったc腫瘍マーカーは、 CEA, TPAが高値であった。 喀疾検査では、Proteus mirabilisを検出、 細胞診はclass I.呼吸機能、腹部超音波検 査、注腸では異常なく、食道に静脈瘤を認 めた, 胸部レントゲン写真(図1):左上肺野外側 よりに境界不鮮明、内部不均一で、spicu− laをともなう4,5メ2.5cm大の.腫瘤状陰影 を認める。 胸部断層写真(図2)1背部より12,130mでの 断層写真で、左Blaは中断し、その末梢に 腫瘤状陰影を認める、 胸部CT検査(図3):大動脈弓及びその上 のレベルでのCTで、陰影は、 spiculaをと もない、一部胸壁に接しており、癒着を伺 わせる。 気管支鏡検査では、可視範囲に異常なく、 陰影を認めた左Bla末梢よりレントゲン透視 下に肺生検を施行したが、確診は獲られなかっ た.しかし、画像所見とCEA高値より肺癌 を否定し得ず、2月3日手術を施行した。 手術所見:上葉は壁側胸膜と最大径4c田ほど 限局性に癒着しており、これを電気メスで 剥離すると、腫瘤を硬く触れたため、左上 葉を切除したtt 切除肺の肉眼的所見(図4):壁側胸膜面よ りみた切除標本では、胸膜直下で一部腫瘤 の形成を認める。 ホルマリン固定した切除肺の肉眼的所見(図 5):最大径3.5cm大でほぼ円形の、被 膜を欠くも、境界明瞭な腫瘤を認める。 腫瘤部分の顕微鏡所見(図6):肺胞構造は まったく消失しており、それに代わってび 慢性に小型炎症細胞と、大型の胞体の明る 図1図2
図3
一20一い細胞からなる。小型炎症細胞は、大半が plasmd cellで、明るい大型の胞体を持つも のはhistiocyteで、中に多核の巨細胞もみ られる。plasma cellは、大小不同で、一部 多核の細胞もみられる/t 以上より、inflamnatory pseudotumorと 診断された。 術後経過(表2):術後は、白血球数の正常 1ヒと肝機能の軽快、CEA値の低下とTP A値の正常化を認めたv 考察 inflammat,ory pseudotumorは、 Brunnの記 載1)以来、H istiocytoma, Vascular endo− thelioma, P lasmacytoma, F ibroxanthomaな どいくつかの同義語で報告されており?)比較 的まれな疾患とされていたが、近年本邦でも その報告例が増加している3)。 本疾患は、原因不明のnon−neuplasticな病 変であるが、レントゲン上、腫瘤状陰影を呈 することが多く、その臨床像は、しばしば肺 癌との鑑別を要する4)。 Berarudiら5’の181例のreviewによると、 年齢は平均29.5歳で男女差はない。通常 肺野末梢に生じ、胸部レントゲン上異常陰影 として偶然発見されることが多く、症状を有 した症例は2b,4%に過ぎない。 我々の症例では、加えてCEAが高値で あったため、肺癌を否定し得なかった. 術後CEA値は軽快しており、これは肝機 能の軽快にともなっていることより、肝機能 障害のためCEAが高値であった可能性が 示唆される、 inflammatory pseudotumorそのものが、 C EA産生に寄与していた可能性も否定できず、 今後免疫染色等、検討してゆきたい。