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3 H(e, e K + )X K + Method and performance of K + meson identification in the 3 H(e, e K + )X experiment 30

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(1)

修士論文

3

H(e, e

K

+

)X

実験における

K

+

中間子識別手法とその

評価

Method and performance of K

+

meson identification in

the

3

H(e, e

K

+

)X experiment

東北大学大学院理学研究科

物理学専攻

板橋 浩介

(2)
(3)

i

概要

我々はストレンジネス粒子数を含んだバリオン間で働く強い相互作用の研究を行っている。 我々の身の回りに存在する陽子・中性子は3つのクォーク(uud,udd)から構成されており、核 子間での強い相互作用は散乱実験を通してよく理解されている。一方、核子以外のバリオンは 寿命が短いため散乱実験手法による相互作用の研究は困難である。そこで我々は加速器を用い て人工的にsクォークを含むハイペロンを原子核内に生成することにより、ハイペロン-核子間 相互作用の研究を行っている。ハイペロン-核子間相互作用を研究を通して、核子間の強い相 互作用の理解をsクォークを含むバリオン間力の理解へと拡張することを目的としている。ア メリカ・バージニア州にあるジェファーソンラボ(JLab)では、電子線を用いたハイパー核研 究が近年確立され、3H(e, eK+)nnΛ反応によるnnΛの探索実験が201810-11月にJLab Hall Aにおいて行われた。本実験では、3H(e, eK+)nnΛ反応で生成された散乱電子(e) K+中間子をJLab Hall Aに設備された二台の高分解能スペクトロメータ(HRS)で観測し、 質量欠損法を用いてnnΛ状態の存否を調べる。K+ 中間子を観測するHRSでは、K+ 中間 子イベントの他にバックグランドの要因である陽子、π+ 中間子がK+中間子の100倍程度混 入されることが確認された。ハイパー核生成事象は同時生成された K+ 中間子と散乱電子の 測定から行われるため、バックグランドの中から正しいK+ 中間子事象選別(KID)を行う必 要がある。これらのバックグランドを除去し、K+イベント選択を行うことでnnΛが存在し た場合、その質量を中心値決定精度∆E ∼ 100 keVで測定することができる。本研究では、 粒子質量再構成解析、二つの屈折率の異なるエアロゲル輻射体を用いたチェレンコフ検出器を 多角的に用いたK+ 中間子識別法を開発し、その識別能力の評価を行った。

(4)

ii

目次

概要 i 第1章 序論 1 1.1 ハイパー核研究 . . . 1 1.1.1 ハイペロン及びハイパー核とは . . . 1 1.1.2 ハイパー核研究の意義 . . . 2 1.2 ハイパー核実験の種類と特徴 . . . 6 1.2.1 (K−, π−)反応 . . . 7 1.2.2 +, K+)反応 . . . . 9 1.2.3 (e, e′K+)反応 . . . 9 1.2.4 重イオン衝突反応 . . . 11 1.3 電子線を用いた素過程反応 . . . 11 1.4 nnΛパズル. . . 14 1.4.1 GSIによるnnΛの観測 . . . 15 1.4.2 Λ粒子を含む三体系と理論計算  . . . 17 1.4.3 本実験の目的 . . . 20 1.4.4 本実験における本稿の役割. . . 21 第2章 nnΛ実験の概要 25 2.1 JLabにおける3H(e, eK+)nnΛ反応分光実験 . . . . 25 2.2 JLab加速器 . . . 26

2.2.1 Continuous Electron Beam Accelerator Facility(CEBAF) . . . 26

2.2.2 JLabにおける電子線の特徴 . . . 26

2.3 標的システム . . . 28

2.3.1 Target holder design . . . 29

2.3.2 Cooling system . . . 29

2.4 高分解能スペクトロメータ(HRS) . . . 30

2.4.1 HRS 超電導磁石 . . . 32

2.4.2 HRS-R Particles Identification Detector . . . 34

(5)

iii

2.5 データ収集条件 . . . 39

2.5.1 Beam Time Schedule . . . 40

第3章 H(e, e′K+)Λ/Σ0のデータ解析 42 3.1 nnΛ解析手法の概要 . . . 42

3.1.1 位置(x, y)測定 . . . 44

3.2 解析手法 . . . 49

3.2.1 VDC原理 . . . 49

3.2.2 Scintilattion Trigger Counter(STC)原理 . . . 52

3.2.3 TOF解析 . . . 53 3.2.4 coincidence time . . . 54 3.2.5 シンチレーションカウンター(S2)のパラメータ補正 . . . 55 3.2.6 Cherenkov検出器原理 . . . 57 3.2.7 エアロゲル検出器のパラメータ設定 . . . 59 3.3 ACカットを用いたK+ イベントの選別 . . . 60 第4章 K+ 中間子識別解析 66 4.1 H(e, e′K+)Λ/Σ0反応における質量欠損分布の解析 . . . 66 4.1.1 Λ/Σ0 質量欠損分布におけるバックグランドの考察 . . . 67 4.2 AC cutにおけるΛ, Σ0 残存率とS/Nの評価 . . . 69 4.2.1 Λ, Σ0 ピークイベント数の見積もり. . . . 71 4.2.2 AC カット条件における残存率評価 . . . 73 4.2.3 S/N評価 . . . 73 4.2.4 FOM . . . 75 4.3 p(γ∗, K+)Λ/Σ0 微分断面積の見積もり . . . 77 4.3.1 系統誤差 . . . 79 4.4 考察. . . 80 第5章 まとめ 83 参考文献 84

(6)

iv

図目次

1.1 バリオン八重項 . . . 2 1.2 KEK(E369)で行われた89Y(π+, K+)89 ΛY 反応による分光結果図 . . . 3 1.3 n-p散乱断面積と実験室系での中性子運動量関係図 . . . 4 1.4 泡箱実験によるΛ運動量とΛ-p散乱の断面積相関図 . . . 5 1.5 アイソスピン(I = 1/2)4体系ハイパー核(4 ΛH, 4ΛHe)の束縛エネルギー図 . 6 1.6 ΛN -ΣN 混合の概念図 . . . 7 1.7 理論計算によるバリオン密度とバリオン、レプトンの割合における関係図 . . 8 1.8 素過程反応図 . . . 9 1.9 ハイパー核生成反応とハイパー核の生成断面積相関 . . . 10 1.10 各分光反応におけるビーム運動量と反跳運動量関係 . . . 11 1.11 CERNで行われた12C(K−, π−)12ΛC分光結果 . . . 12 1.12 Λハイパー核反応と生成断面積の関係図. . . 13 1.13 JLabにおける12C(e, eK+)12 ΛB分光結果 . . . 14 1.14 JLab Hall Cで行われたCH2標的を用いた校正用データの質量分布 . . . . 15 1.15 (e, e′K+)反応の概念図 . . . . 16 1.16 JLab CLASで測定されたγ + p→ K+Λ反応における微分断面積と仮想光 子エネルギー依存性 . . . 17 1.17 DWIAモデルにおける12 ΛB基底状態生成断面積におけるK+ 中間子の散乱 角度θK 依存性 . . . 18 1.18 三体系ハイパー核のエネルギー状態の概念図 . . . 19 1.19 GSI 加速施設図 . . . 19 1.20 6Liビームによる重イオン衝突反応概要図 . . . 20

1.21 GSI Invariant mas測定結果図 . . . 21

1.22 t + π− 崩壊前の粒子の寿命測定結果 . . . 21 1.23 三体系nnΛ, 3ΛHによる実験観測値と理論計算による束縛エネルギーの比較図 22 1.24 各ポテンシャルモデルに対し、Λ-n相互作用を変化させたときのnnΛ状態 . 23 1.25 モンテカルロシミュレーション(Geant4) を用いた nnΛ のピークのシミュ レーション結果図 . . . 23 1.26 本実験で期待される各ポテンシャルに対するΛ-n相互作用の制約 . . . 24

(7)

v

2.1 3H(e, e′K+)nnΛ反応図 . . . 25

2.2 JLab 電子加速器の概念図 . . . 27

2.3 Gas Target Ladder system . . . 28

2.4 Solid Target Ladder system . . . 28

2.5 3H holder . . . 29

2.6 Top view of cell . . . 30

2.7 Cooling system 概略図 . . . 30 2.8 HRS概念図 . . . 31 2.9 超伝導双極子磁石のレイアウト図 . . . 32 2.10 HRS Magnet GUI . . . 33 2.11 HRS-R Detectors Package . . . 34 2.12 AC1全体写真図 . . . 35 2.13 S2レイアウト図 . . . 36 2.14 VDC概略図 . . . 38 2.15 HRS L Detector Package . . . 39 2.16 本実験におけるcoincidence トリガー概略図 . . . 40

2.17 Coincidence trigger Gate . . . 41

3.1 nnΛ解析のフローチャート . . . 42 3.2 逆輸送行列の概念図 . . . 44 3.3 炭素穴標的を用いたときの標的における位置情報 . . . 45 3.4 炭素フィルム標的 . . . 46 3.5 炭素フィルム標的を用いたときの z 位置情報. . . 47 3.6 Seive Slit . . . 48 3.7 Seive Slitの設計図 . . . 49 3.8 pe′, pK 運動量バイト . . . 50 3.9 pe′ = 2.1 GeVにおけるΛ/Σ0 質量欠損分布 . . . 51 3.10 pe′ = 2.2 GeV/cにおけるH(e, e′K+)Λ/Σ0データ . . . 52 3.11 VDC内の電場図 . . . 53 3.12 VDC内のセンスワイヤーからの距離と電場の強さの関係図 . . . 53 3.13 VDCの時間依存性図 . . . 54 3.14 VDC2検出効率評価 . . . 55

3.15 補正後前後のHRS-R path lengthとcoincidence timeの相関図 . . . 56

3.16 Offset調整後のセグメント毎のS2検出タイミング依存性 . . . 57

3.17 S2パラメータ補正前後のcoincidence図 . . . 58

3.18 エアロゲルチェレンコフ検出器の輻射体を荷電粒子が通過した際のチェレン コフ光の発光量の運動量依存性 . . . 59

(8)

vi 図目次

3.19 AC1 宇宙線データにおける光電子数 . . . 60

3.20 AC2 宇宙線データにおける光電子数 . . . 61

3.21 coincidence timeとAC1, AC2光電子数の相関図 . . . 62

3.22 AC1カット条件を課したときのπ+, p残存率のAC1カット依存性 . . . . 63 3.23 AC2カット条件を課したときのπ+, p残存率 . . . 64 3.24 ACカットを用いたときのcoincidence time . . . 65 4.1 解析フローチャート . . . 66 4.2 H(e, e′K+)Λ/Σ0反応における質量欠損分布 . . . 67 4.3 ACカット条件無しでのcoincidence time . . . 68 4.4 標的ホルダーによる質量欠損分布での影響 . . . 69 4.5 標的壁(Al)と反応した生成された質量欠損分布 . . . 70 4.6 π+イベントからくる質量欠損分布 . . . 70 4.7 質量欠損分布におけるバックグランドの見積もり . . . 71 4.8 ACカットを課してないときの質量欠損分布におけるΛピークのフィット結果 72 4.9 ACカットを課してないときの質量欠損分布におけるΣ0ピークのフィット結 果図. . . 73 4.10 AC1カット条件を変化させたときのΛ残存率 . . . 74 4.11 AC2カット条件を変化させたときのΛ残存率 . . . 74 4.12 AC1カット条件を変化させたときのSΛ/N 値 . . . 75 4.13 AC2カット条件を変化させたときのSΛ/N 値 . . . 75 4.14 FOMのAC1カット条件依存性図 . . . 76 4.15 FOMのAC2カット条件依存性図 . . . 76

4.16 FOMにおけるAC1, 2 cut条件依存性相関図. . . 77

4.17 AC1カット条件を課したときのΛピークのフィット結果 . . . 81

4.18 ACカット条件を課したときのΛピークのフィット結果 . . . 81

(9)

vii

表目次

1.1 ハイパー核分光反応の特徴 . . . 12 1.2 d + π−, t + π−への崩壊チャンネルと生成イベントの割合(5 ΛHe → d+3He + π−を1とした)[15] . . . 16 2.1 CEBAFビームパラメータ . . . 27 2.2 Target spessification . . . 28 2.3 各標的セルにおけるアルミ窓の厚さのまとめ . . . 30 2.4 HRS spectification . . . 31

2.5 HRS Dipole Magnet specification . . . 33

2.6 HRS Quadro Magnet specification . . . 34

2.7 AC specification . . . 35

2.8 VDC resolution table . . . 38

2.9 Beam Time table . . . 41

3.1 逆輸送行列の次数nと要素数M の関係 . . . 43

3.2 S2補正前後のp, π+ピークの分解能 . . . . 57

3.3 Particle identification with AC . . . 59

3.4 (AC1 < 1.0 PEs & 3.5 < AC2 < 10 PEs)条件下での(K+, π+, p)フィッ ト結果 . . . 63

4.1 Λ, Σ0 フィット結果 . . . 72

4.2 ACカット最適条件を課したときのΛ, Σ0のイベント数、S/N、残存率、FOM の結果 . . . 76

(10)
(11)

1

1

序論

私たち国際研究グループ(JLab Hypernuclear Collaborater)はアメリカのThomas Jeffer-son National Acceletor Facility(JLab)において電子線を用いた高分解能Λ ハイパー核分光 手法を確立し、ストレンジ量子数を含むバリオン間相互作用の理解を深める研究を推進してき た。本論文では、2018年10月から11月にかけて行われたnnΛ状態探索実験(E12-17-003) の解析において重要な役割を持つエアロゲルチェレンコフ検出器(AC)とシンチレーショント リガーカウンター(STC)を用いたK+中間子の識別解析(KID)の手法、及び達成した識別能 力について述べる。

1.1

ハイパー核研究

1.1.1

ハイペロン及びハイパー核とは

 1911年のラザフォードによる原子核の発見[1]に始まり、原子核の内部構造の研究が世界 中で盛んに行われてきた。原子核は陽子・中性子で構成され、中性子・陽子はさらに3つの クォークで構成されたバリオンの一種として理解されている。標準理論によると物質の最小単 位として、3世代、計6種類のクォーク、そして電子を含む6つのレプトンの存在が予言さ れており、その全てのクォーク及びレプトンは実験で観測された。スピン(S=1/2)を持ち、 フェルミ粒子であるクォークは香り・カラー・スピン・空間という量子状態を持ち、パウリの 排他律により核内に同粒子・同じ粒子状態を持つことが禁止されている。クォークは単体で独 立することはなく、強い相互作用によって色荷が白色を持つような組み合わせ(カラーの閉じ 込め)で安定粒子を作る。白色の組み合わせとして、(R, B, G)の3つの色荷を持つバリオン と、2つの色荷の組み合わせ(R, R), (B, B), (G, G)のメソンが考えられる。特にスピン JP = (1/2)+ を持つudsクォークの組み合わせで構成されたバリオン群はバリオン八重項と 呼ばれる(図1.1)。図1.1の内、sクォークを含むバリオンをハイペロンと呼び、バリオン八 重項の中では核子(p, n)を除いた6種(Λ, Σ0, ±, Ξ±)がハイペロンに属し、ハイペロンが束 縛した原子核をハイパー核と呼ぶ。 我々はハイペロンの中で質量が一番小さいΛ粒子(mΛ = 1115.683 MeV/c2)に着目し、Λ ハイパー核を加速器により人工的に生成・分光することによってΛ-核子相互作用の研究を行っ ている。

(12)

2 第1章 序論 図1.1: バリオン八重項:x軸は電荷量(Q)、y軸はストレンジネス量(S)を表している。

1.1.2

ハイパー核研究の意義

ハイパー核研究の意義として以下のような意義がある。 ■ 原子核内構造の理解  現在、原子核は電子と同様、殻構造を持つことが知られている。原子核の殻構造を観測する ためには(e, e′p), (p, 2p)反応を用いたノックアウト法を用いるのが一般的である。高エネル ギービームを原子核に照射することにより、原子核内の陽子がノックアウトされ、空孔を作る。 エネルギー状態が深い陽子がノックアウトされると、強い相互作用によりエネルギー準位が高 い陽子が遷移される。不確定性原理よりエネルギーと時間の不確定さは次の関係性を持つ。 ∆E∆t≃ ℏ (1.1) ノックアウト法による空孔の寿命 10−23 s より、空孔のエネルギーの不確定性 ∆E 数 10 MeVを持つためエネルギーの分光が困難である。しかし、陽子・中性子のパウリの排他 原理を受けないΛ 粒子を原子核に生成し分光することによって原子核軌道の分光が可能にな る。ハドロンビームを原子核標的に照射することにより原子核内の核子が Λ粒子に変換され る。原子核内中の励起状態のΛ粒子は電磁相互作用により γ 線を放出しながら基底状態に遷 移し、約200 psの寿命後、弱相互作用によりΛ粒子は核子に崩壊される。崩壊エネルギーの 不確定性は十分小さいため、MeVオーダーの分解能より核子軌道のエネルギー分光が可能で

(13)

1.1 ハイパー核研究 3 図1.2: KEK(E369)で行われた 89Y(π+, K+)89ΛY 反応による分光結果図[2]:Λ 粒子は核子 (p, n)のパウリの排他率の影響を受けないことからハイパー核内のΛ粒子の軌道ごとにピー クが分光される。+, K+)反応では、反跳運動量が大きいことから原子核内のΛ粒子はより 深い軌道まで入ることができ、各軌道ごとの分光が可能である (図1.10)。89ΛY ハイパー核を 分光することにより原子核内が殻構造を持つことが実験的に立証された。 ある(図1.2)。Λ粒子という不純物を原子核内に生成することによって核子のみで構成された 原子核では現れない現象や効果など、新たな発見が期待される。  ■ sクォークを含んだバリオン間相互作用の理解  我々の世界において、物体間に働く力は4つの力(強い力・弱い力・電磁気力・重力)に分類 され、これら4つの力を統一的に理解することは物理学者の大きな目的の一つである。強い力 はQCDで記述され、グルーオンを介して強い力が伝わっていくことがわかっている。原子核 内の短距離間において、バリオン間では強い相互作用が支配的に働いていることからバリオン の性質を理解する上で核子以外も含んだ強い相互作用の研究・解明は欠かせられない。そこで 陽子・中性子の次に軽いΛ粒子に着目し、Λ-n, Λ-p相互作用を研究することにより、核子間 では現れない強い相互作用の性質を探り、統一的な理解を試みる。 ♦ Λ-p相互作用 一般的に相互作用は、散乱実験の生成断面積の測定結果から見積もられる。 散乱反応による生成断面積と相互作用ポテンシャルはフェルミの第2黄金律にて密接に関係し

(14)

4 第1章 序論 図1.3: n-p散乱断面積と実験室系での中性子運動量関係図[13]: ており、生成断面積と相互作用ポテンシャルは遷移行列要素(Mf i)を用いて σ ∝ |Mf i|2ρ(p) (1.2) と表される。ρ(p)は終状態密度を表しており、生成断面積の散乱運動量依存を調べることで相 互作用ポテンシャルを求めることができる。核子間相互作用は散乱実験を通してよく理解され ているが(図1.3)、他のバリオンは寿命が短いことから、散乱実験を通しての相互作用の研究 は困難である。  1950年代後半以降、泡箱を用いたΛ-p散乱イベントの観測が行われた (図1.4)。しかし。 観測されたΛ-p散乱イベントは少ないことから統計誤差が大きく、Λ-p散乱データから厳密な 相互作用を得ることはできていない。Λ-核子間相互作用を求める別の方法としてΛ ハイパー 核のエネルギー分光手法が挙げられる。ハイパー核エネルギー分光手法では、Λ粒子を原子核 内に束縛させ、Λ-原子核の束縛エネルギー値を精度よく観測でき、理論モデルを用いてΛ-核 子間相互作用情報を引き出すことが可能である。 ♦ Λハイパー核における荷電対称性の破れ(CSB) Λハイパー核の分光によってΛ-核子間 相互作用の性質を明らかにした例として、少数系Λハイパー核の荷電対称性の破れ(CSB)の 発見がある。陽子・中性子は質量差は1 MeV/c2 と荷電量を無視した場合、同じ粒子の異な る量子状態として考えることができる(SU(2)表現)。アイソスピン(I = 1/2)持つ三体系原 子核3H, 3Heの基底状態における束縛エネルギー差は、B H− BHe = 0.76 MeV[16]であり、 3H, 3Heの荷電量の違いから生じるクーロン力の寄与を補正(∆B em)すると束縛エネルギー 差(∆B = BH− BHe)は ∆B− ∆Bem= 0.081 MeV (1.3) となり、アイソスピンによる束縛エネルギーの差は小さいことがわかる [16]。3H, 3Heのコ ア核にΛ 粒子を束縛させた 4 ΛH, 4 ΛHe の基底状態(J = 0 +)と励起状態(J = 1+)の束縛エ

(15)

1.1 ハイパー核研究 5 図1.4: 泡箱実験によるΛ運動量とΛ-p散乱の断面積相関図[12]:Λ-p散乱イベント数が少な いことから統計誤差による誤差がp-n散乱データより大きく、Λ-p散乱データだけではΛ-p相 互作用を精度よく決定することは困難である。 ネルギーの観測が行われた(図1.5)。それぞれのハイパー核4 ΛH, 4 ΛHeでの束縛エネルギーを BHJ+, BHeJ+ と表現し、図1.5から基底状態の束縛エネルギー差(∆B0+)は ∆B0+ =−0.35 MeV (1.4) となる。(式1.3)と比べると束縛エネルギーのアイソスピン依存性が数倍大きく現れる結果と なった。この効果は核子で構成された原子核には現れず、Λ粒子を束縛することによってはじ めて著しく表れることがわかった。この結果からΛ ハイパー核内でのΛN -ΣN 混合効果(図 1.6)を考慮することにより説明がつくことがわかり、多体系でのΛ-核子間の相互作用での有 益な情報を得ることに成功した。 ■ 中性子星の内部構造の理解 Λ 粒子は核子と比べて寿命 ∼ 260 ps) が短く、核子と比べると質量が重い (MΛ = 1116 MeV/c2)ことから地上に安定して存在しない。しかし中性子星のような高密度状態下で はΛ 粒子が存在すると考えられている(図1.7)。中性子星は高密度状態下で中性子が縮退さ れた天体であり、中性子性の密度は原子核の密度0 ∼ 0.16 /fm3)の数倍から十倍と大きい。 中性子星のように高密度状態下では原子核のように、殻構造を持ち、エネルギー準位が低いと

(16)

6 第1章 序論 図1.5: アイソスピン(I = 1/2)4体系ハイパー核(4ΛH, 4ΛHe)の束縛エネルギー図[5]:コア 核である3H, 3Heの束縛エネルギー差はクーロン相互作用で補正すると ∆B = 0.081 MeV となるのに対し、コア核にΛ粒子を束縛させた系のJ = 0+のエネルギー差∆B = 0.35 MeV と荷電対称性が大きく破れている[5]。 ころから中性子が詰まっていることが予想される。フェルミエネルギー付近の高エネルギー状 態の中性子はνe, νeを放出してΛ粒子に転換する。 n→ Λ + νe+ νe (1.5) Λ 粒子は中性子のパウリの排他律の影響を受けないため、高いエネルギー状態の中性子はΛ に転換し、深いΛ軌道に転移する方がエネルギー的に得をする(図1.7)。中性子星の内部には Λ 粒子が含まれていることからより詳細なΛ-n相互作用の情報は中性子星の内部状態方程式 を解くための有力な情報として注目されている。加速器実験にて中性子過剰ハイパー核構造を 生成し、研究することで中性子性の内部構造の解明を試みる。

1.2

ハイパー核実験の種類と特徴

ハイパー核研究は 1953年に原子核乾板(エマルジョン)を用いた宇宙線観測実験によりハイ パー核が発見[6]されてから現在に至るまで半世紀の歴史を持つ。原子核乾板は直接粒子崩壊 を観測することができるため、高い位置分解能 (µ < 2.0 µm)でのハイパー核内のΛ粒子の 束縛エネルギーが観測された。1960年代になると加速器が使われるようになり、加速器で加 速させた陽子・π 中間子を原子核乾板に照射することにより軽いハイパー核(A ≤ 16)の質量 および束縛エネルギーを精度よく測定することができた[7]。1970年代に入ると粒子検出器の

(17)

1.2 ハイパー核実験の種類と特徴 71.6: ΛN -ΣN 混合の概念図: 発達により、スイス・ジュネームにある欧米原子核研究機構(CERN)や、アメリカ・ニュー ヨーク州にあるブルックヘブン国立研究所(BNL)にて(K−, π−)反応を用いたカウンター実 験が行われるようになった。原子核乾板では困難であったΛ ハイパー核の励起状態のエネル ギー状態の観測が容易に行われるようになった。1980年代後半になるとBNLや日本の高エ ネルギー加速器研究機構 (KEK)にて +, K+)反応を用いた分光実験も行われるようにな り、現在でも+, K+)反応を用いたハイパー核研究が盛んに行われている。2003年になる と本実験で用いる(e, e′K+)反応によるΛ ハイパー核分光実験(E91-016)がアメリカ・バー ジニア州にあるジェファソン研究所(JLab)で行われ成功を収めた。現在ではドイツのマイン ツ大学所属の(MAMI-C)や東北大所属のELPHにて(e, e′K+) 反応実験が主に実験を行っ ている。2010年代に入ると重イオン研究所(GSI)にてハイパー核分光実験が行われ、本実験 の目的である nnΛ の束縛状態と思われしきピークを観測しハイパー核研究に大きく貢献し た。 ハイパー核実験手法は多岐にわたり、それぞれ特徴を持つ。主なハイパー核分光反応 (K−, π−), (π+, K+), (e, e′K+)の素過程反応を図1.8に示す。以下ではそれぞれの反応にお けるハイパー核実験手法とその特徴について詳細に述べる。

1.2.1

(K

, π

)

反応

(K−, π−)反応における分光実験では、K− 中間子をビームとして標的に照射し、標的内の中 性子がn(K−, π−)Λ 反応を経てハイパー核を生成する。(K−, π−)反応実験はハイパー核分 光実験の中で歴史が一番長く様々な物理成果を出してきた。(K−, π−)反応の特徴を以下で述 べる。

(18)

8 第1章 序論 図1.7: 理論計算によるバリオン密度とバリオン、レプトンの割合における関係図[14]。:原 子核密度0 = 0.16 /fm3)の2倍以上の密度状態下ではΛ 粒子がバリオン原子核内に生成さ れ、密度の増加とともにΛ粒子の割合が高くなることが見て取れる。 ■ 生成断面積が他の反応と比べると大きい (K−, π−)反応によるハイパー核の生成断面積は他のハイパー核生成反応と比べると大きい ∼ 100 µb/sr)ことが特徴である。そのため短いビームタイムでハイパー核イベントを収集 することができ、統計誤差を小さく抑えることが可能である。入射粒子(K− 中間子)を標的 内で静止させるStopped (K−, π−)反応を用いた場合、Λは反跳運動量pΛ ∼ 280 MeV/c持 つことから角運動量移行を起こし、複数のΛ軌道状態のエネルギー分光が可能である。 ■ Magic momentum 運動量を持った入射粒子(K− 中間子)を用いたIn-flight(K−, π−)反応では、反跳運動量が ゼロとなる magic momentumが存在する (図1.10)。Magic momentum となる運動量ビー ムを用いた場合、生成された Λ ハイパー核の反跳運動量がゼロとなることから角運動量移 行 (∆L = 0) が小さい。その結果、反応前中性子の軌道と同じ軌道上に Λ が束縛された

(19)

1.2 ハイパー核実験の種類と特徴 9 図1.8: 素過程反応図

1.2.2

+

, K

+

)

反応

+, K+) 反応は (K, π) 反応と同様に、入射粒子 π+ は標的内の中性子と反応しΛ 原子核内に束縛させる。+, K+)反応は (K−, π−) よりハイパー核の生成断面積が小さい ∼ 10 µb/sr)(図1.9)が、π+ビーム強度はK+ビームと比べると強いためハイパー核の収 量を補うことができる。また、(K−, π−)反応と比べると反跳運動量が大きく角運動量移行が 起こりやすいため、生成されたΛ粒子が角運動量移行を起こし、原子核に深く束縛されたΛ ハイパー核の分光が可能である(図1.2)

1.2.3

(e, e

K

+

)

反応

(K−, π−), (π+, K+)反応によりハイパー核の分光実験が盛んにおこなわれてきた。しかし、 (K−, π−), (π+, K+)は二次粒子をビームとして用いるため、ビーム強度が弱く十分な量のΛ ハイパー核を得るためには標的を厚くしなければならなかった。そのため、標的での多重散乱 等の影響により、エネルギー分解能(∆E)は数MeV程度であった。2000年代から(e, e′K+)

反応実験が行われるようになり、初めてハイパー核分光実験でエネルギー分解能1 MeVより 小さくすることに成功した[9]。

他のΛハイパー核分光反応+, K+), (K−, π−)と比べ、(e, e′K+)反応の分解能が良いの は直接電子を加速できる一次ビームとしての利用と陽子を Λに転換するため、直接素過程分

(20)

10 第1章 序論 図1.9: ハイパー核生成反応とハイパー核の生成断面積相関[3] ■ 一次ビーム 他の分光実験とは異なり、(e, e′K+)反応実験では、電子を直接加速しビームとして扱うこと ができる。そのため電子の加速・コントロールが二次ビームと比較すると容易であり、安定し た運動量電子ビームの輸送が可能である。 ■ 水素標的を用いた高精度の運動量校正   (e, e′K+) 反応は他の分光反応とは異なり、標的中の陽子標的を Λ 粒子に転換するた め 、水 素 標 的 を 使 っ た 運 動 量 校 正 を 行 う こ と が 可 能 で あ る 。中 性 子 を Λ に 転 換 さ せ る +, K+), (K−, π−) 反応実験では、中性子標的を用いることができないため運動量校正 用標的として炭素標的を用いるのが一般的である。炭素標的の場合、参照するエネルギー中心 値の精度は数百 keVのずれを持つ。一方、Λ, Σ0の質量は数keVの精度で知られている。そ のため、実験で得られたΛ, Σ0 の質量中心値を既知の質量でエネルギー中心値・スケールを 校正することができる(図1.14)。  

(21)

1.3 電子線を用いた素過程反応 11

図1.10: 各分光反応におけるビーム運動量と反跳運動量関係[4]:実線は散乱角θ = 0 deg

場合、点線は散乱角θ = 0 deg での反跳運動量を示している。散乱角度θ = 0 deg の場合、

(K−, π−)反応では、ビーム運動量pbeam= 0.5 GeV/c付近で反跳運動量がゼロとなるMagic

momentumが見て取れる。

1.2.4

重イオン衝突反応

既に述べた (K−, π−), (π+, K+), (e, eK+)反応はメソン・レプトンビームが原子核内の核 子と反応することによってΛ ハイパー核が生成される。一方、重イオン衝突反応は重イオン ビームを加速器で加速・衝突させる。衝突時、衝突面では高温・高密度状態となり、飛び散っ た破片の一部にΛ粒子(親粒子)が生成・束縛する(図1.21)。生成されたハイパー核の崩壊後 の娘粒子とメソン(π−)の運動量を観測することによって崩壊前の親粒子の質量・束縛エネル ギーを調べる。 重イオン衝突反応では、(K−, π−), (π+, K+), (e, e′K+)反応では生成でき ないような深い軌道のハイパー核が生成・観測できる。     

1.3

電子線を用いた素過程反応

  本実験は電子線を使って実験を行った。Λ が生成する素過程反応について以下で述べる。 電子線は仮想光子を介して標的内の陽子と反応し、K+, Λを生成する(図1.15)。 e → e′+ γ∗ (1.6) γ∗+ p→ Λ + K+ (1.7)

(22)

12 第1章 序論

図1.11: CERNで行われた12C(K, π)12

ΛC分光結果[8]

表1.1: ハイパー核分光反応の特徴

Reaction Cross section ∆ E MeV momentum transfer (FWHM)

In flight (K−, π−) ∼ 100 µb ≥ 1 ∆L = 0 (Magic momentum) Stopped (K−, π−) ∼ 10 µb ≥ 1 ∆L≤ 1 +, K+) ∼ 100 nb ≥ 1 ∆L≤ 3 (e, e′K+) ∼ 1 nb ∼ 0.5 ∆L≤ 3 Heavy ion ≥ 5 仮想光子の4次元運動量q = (ω, ⃗q)は電子の4次元運動量Pe = (Ee, ⃗pe)と散乱電子の4 次元運動量Pe′ = (Ee′, ⃗pe′)を用いてエネルギーと運動量保存式から q = ⃗pe− ⃗pe′ (1.8) ω = Ee− Ee′ (1.9) と記述することができる。仮想光子のエネルギー ω(K+ + Λ) 生成断面積の関係は(

(23)

1.3 電子線を用いた素過程反応 13 図1.12: Λハイパー核反応と生成断面積の関係図[3] (e, e′K+)反応の微分断面積は仮想光子の微分断面積Γとおくと d3σ dEe′dΩ′edΩK = Γ [ dσT dΩK + ϵdσL dΩK + ϵ cos(2ϕ)dσT T dΩK + cos ϕ2ϵ(1 + ϵ)dσLT dΩK ] (1.10) Γ = d 2σ dωdΩe′ = α 2Q2 EγEe′ (1− ϵ)Ee (1.11) ϵ = 1/ [ 1 + 2|q| 2 Q2 tan 2 (θe 2 ) ] (1.12) の関係式が与えられる。Ωe′, K は散乱電子、K+ 中間子の検出器の立体角を表している。ま た、σT , L, T T , LT はそれぞれ仮想光子の横波成分(transverse)、縦波成分(logitudinal)、偏極 成分(polarization)、及び横波成分と縦波成分の干渉成分(interference)の断面積を表してい る。前方(θγK)で放出された光子はスピンS = 1を持ち、原子核と反応する際にスピン反転 (spin-flip)を起こすことが知られている。スピン移送はK+中間子とビーム軸での角度θK に 依存し、より前方方向 (θK ∼ 0◦)にてスピン反転の生成断面積が最大を取り、すべての角度 (θK)においてスピンが多数的であることが図から見てとれる(図1.17)。

(24)

14 第1章 序論 図1.13: JLabにおける12C(e, eK+)12 ΛC 分光結果[9]:横軸は Λの束縛エネルギーを表し、 縦軸は微分断面積を表している。グレーのバックグランドの上に12 Λ Bのピークがある。黒線 は理論計算で予言されているピーク構造を示している。ピークの上に表示されている数字は反 応前後での原子核・Λハイパー核の状態(JP)を表している。

1.4

nnΛ

パズル

nnΛはΛ粒子を含むアイソスピン(I = 1)の三体系であり、同じ三体系のΛハイパー核とし てpnΛ(3ΛH), ppΛ(3ΛHe)がある(図1.18)。アイソスピン (I = 0)の3 ΛH の束縛エネルギーは エマルジョン実験で観測を行われ、束縛エネルギーは(BΛ = 130 keV)と例外的に小さい値で あることが知られている[21]。同じ三体系ハイパー核である3ΛHは、重陽子(2H)にΛが束縛 した系となっている。重陽子はアイソスピン (I = 0, 1)を持つがアイソスピンI = 1 の束縛 状態は観測されていない。そのため、アイソスピントリプレット(I = 1)の(pp, np, nn)にΛ が束縛した三体系ハイパー核は束縛しないと一般的に考えられてきた。 しかし2013年、ド イツのGSIにてnnΛの束縛状態と考えられるピークを観測したと報告された[15]。この報告 を受け、多くの理論家がnnΛの束縛状態を理論モデルで説明しようとする試みが行われたが

(25)

1.4 nnΛパズル 15 図1.14: JLab Hall Cで行われたCH2標的を用いた校正用データの質量分布[11]:横軸は質量 欠損法により得られた質量分布からΛ質量を差し引いている。緑で塗られた領域はアクシデ ンタルバックグランドであり、その上にCH2 分子内の炭素標的から生成されたQuasi-free(黄 色領域)、そして水素原子と反応したΛ/ΣのピークがQFの上に見て取れる。 成功には至っていない。このように、実験結果と理論解釈に矛盾が生じた“nnΛパズル”とし てハイパー核分野で議論がされている。以下ではより詳細な GSIの実験手法と結果、そして nnΛ束縛状態の理論的アプローチについて述べる。

1.4.1

GSI

による

nnΛ

の観測

ドイツのダルムシュタットにある重イオン研究所(GSI) にてd + π−, t + π− の終状態観測 実験が行われた。GSIの加速器施設を図1.19 に示す。イオン源から放出された 6Li は線形 加速器 (UNILAC)で加速した後、リング加速器 (SIS18) にて(Ebeam = 2A GeV までイオ

ンビームを加速させる。加速したイオンビームは炭素標的に照射し生成されたハイパー核を (FRS)にて選別・測定を行う。ハイパー核の崩壊によって放出される娘粒子(π−, t)の運動量 を測定し、質量保存則から親粒子であるハイパー核の質量分布を求めた (図1.21)。また、同 時に親粒子の崩壊時間を測定し、親粒子の寿命測定も行った(図1.22)。観測量であるt + π− の運動量から質量保存則より求めた親粒子の質量分布は (図 1.21) となり、2n + Λ の付近 でバックグランドの上にピークを持つことが確認できる。また同時に測定した親粒子の寿命 測定の結果、親粒子が束縛として十分な寿命(τ = 190+47−35) psを持ち、弱崩壊によりπ−, t を放出したことが言える。しかし、 (π−, t) に崩壊するチャンネルは nnΛ以外にも考えら れ、主な崩壊チャンネルとその生成割合を (表1.2)にまとめた。崩壊チャンネルの生成イベ ント数は5 ΛHe→ d + 3He + π 崩壊チャンネルの数を1とした割合をそれぞれのチャンネル

(26)

16 第1章 序論

1.15: (e, e′K+)反応の概念図:x 軸方向に照射された電子線は標的内の陽子と仮想光子を 介して反応し、Λ, K+ が生成される。

1.2: d + π−, t + π− への崩壊チャンネルと生成イベントの割合(5ΛHe → d +3He + π−を 1とした)[15]

Decay channel Counts rate

3 ΛH→ p + d + π− 8 4 ΛH→ d + d + π− 1 4 ΛH→ t + p + π− 6 6 ΛHe 4 He + d + π− 3 4 ΛHe→ p + p + d + π− 8 5 ΛHe → d + 3 He + π 1 に示している。(t, π−)に崩壊する主なイベントとして4ΛH → t + p + π− が混じりこんでい る可能性が表1.2 から見て取れる。重イオン衝突実験は一度にたくさんのイベントを同時に 生成することから崩壊チャンネルの特定は難しいkとから、図 1.21の中心値の測定結果は

2294.3± 1.1 ± 2.2 MeV/c2 と数MeV/c2 の誤差を含んでいる。GSIは質量保存則でnnΛと 思われる崩壊イベントを観測し、かつそのイベントは束縛状態を保証する十分な寿命も持つこ とからnnΛは束縛状態の可能性を示す結果となった。

(27)

1.4 nnΛパズル 17

図1.16: JLab CLASで測定されたγ + p→ K+Λ反応における微分断面積と仮想光子エネル ギー依存性[10]:横軸は√s GeV、縦軸は(0.85 < cos θK < 0.95)微分断面積(µb)を表して

いる。赤プロットはCLASの測定結果、青▲は2004年のSAPHIRの測定結果、緑はLEPS

での測定結果をそれぞれ示している[10]。

1.4.2

Λ

粒子を含む三体系と理論計算 

■ 少数系ハイパー核モデルによるnnΛ束縛状態の可能性 GSIのnnΛの束縛状態と思われしきピークの観測後、理論家は少数系のハイパー核(A=3, 4) で取り扱われる理論計算を元にnnΛの束縛状態を説明しようと取り組まれたが成功していな い。 有力な少数系ハイパー核モデルでの nnΛ束縛エネルギーの結果を図1.23 に示す。図 1.23にはnnΛと同じ三体系の3 ΛH(J = 1/2+)の理論計算結果と観測値をそれぞれ示してお り、左から測定値、理論計算結果(3VT N Λ−NΣ× 1.0, 3VN ΛT −NΣ× 1.2)での束縛エネルギー値 を示している。(i)のポテンシャルでは3 ΛH の束縛エネルギーは観測結果に対しおおよそ誤差 の範囲で一致しているが、nnΛは非束縛状態を示している。(ii)のポテンシャルを用いた場 合、nnΛは束縛状態を示すが、3ΛHの束縛エネルギーが観測値より深く束縛してしまい実験値 と矛盾してしまう。このようにnnΛの束縛状態を少数系のハイパー核理論モデルで矛盾なく 説明することはできていない。

(28)

18 第1章 序論 図1.17: DWIAモデルにおける12 ΛB基底状態生成断面積におけるK +中間子の散乱角度 θ K 依存性[3]:横軸はK+の散乱角度を表し、縦軸はγ + p→ Λ + K+ 反応の生成断面積。散乱 角度 θK ∼ 0◦ でスピン反転の断面積が最大をとり、スピン反転の寄与がどの角度においても 大きい。 ■理論モデルにおけるnnΛ共鳴状態の可能性 現存すr理論モデルにおけるnnΛの束縛状態を説明することができないが、共鳴状態を示唆 する理論モデルは存在する。共鳴状態を表す指標として共鳴エネルギーER と共鳴幅Γを用 いて複素エネルギーE を次のように記述する。 E = ER− i Γ 2 (ER, Γ ∈ R) (1.13) 崩壊幅は共鳴状態のピーク幅の観測から決定でき、共鳴エネルギーは観測されたエネルギー 中心値から求めることができる。Λn 相互作用の大きさを変数とし、複素エネルギーの実数 部と虚数部の相関図を図 1.24に示す。Λ-n相互作用の実験結果がないため、Λn相互作用の 大きさ YΛnΛp相互作用の大きさYΛp と変数s を用いてs = YΛn/YΛp と表す。また、各 ポテンシャル毎に変数 ss = 1.0から∆s = 0.025間隔でΛnの大きさを変化させている。 Re[E] < 0, Im[E] < 0の領域での共鳴ポールはnnΛが仮想共鳴状態であることを示し、実験

(29)

1.4 nnΛパズル 19 図1.18: 三体系ハイパー核のエネルギー状態の概念図 図1.19: GSI 加速施設[15]:イオン源から供給された6Liは線形加速器UNILACで加速しな がらリング加速器(SIS18)に輸送される。十分加速された6LiイオンはFRSに設置された炭 素標的に照射され、ハイパー核の生成・観測を行う。 的にピークの観測できない領域である。Re[E] > 0, Im[E] < 0領域内での共鳴ポールはnnΛ の共鳴状態であることを示している。図 1.24によると、スケールファクター s = 1.0 にお いて各ポテンシャルモデルに対して仮想共鳴状態を示していることがわかる。スケールファ クターを5 % (δs = 0.05)以上変化させると、各ポテンシャルモデルに対して共鳴ポールが Re[E] > 0の値を示すようになる。スケールファクターで用いたYΛpの不確定性が10 %以上 あり、nnΛが共鳴状態である可能性が十分考えられる。

(30)

20 第1章 序論 図1.20: 6Liビームによる重イオン衝突反応概要図:高エネルギー E = 12 GeVを持つ6Li ビームを炭素標的12Cに衝突さることによりハイパー核を含む様々な粒子が生成される。高 いエネルギーも持ったハイパー核(親粒子)はπ− を放出し、原子核(娘粒子)に崩壊する。娘 粒子とπ−中間子を測定することにより親粒子であるハイパー核の性質を質量保存則により決 定する。

1.4.3

本実験の目的

 以上のことからnnΛ状態を十分に理解することができておらず、GSIでは達成できなかっ た高分解能を可能にする検出器・加速施設にてより詳細な nnΛ状態の観測が求められる。そ こで我々は、アメリカのJLab Hall Aの持つ高分解能スペクトロメータ(HRS)を用いてnnΛ 状態の探索実験を行うことで以下のことを明らかにする。 ■ nnΛ状態の探索 GSIのnnΛ観測実験は十分な分解能を出すことができなかったため、nnΛ状態の存否を明確 に決定することはできなかった。そのため、他の実験手法を用いてnnΛを観測する必要があ る。JLabでは電子線を使った高分解能分光を可能であり、nnΛnnΛピークの中心値決定 精度(∆BΛ∼ 100 keV)、ピーク幅(∆σ ∼ 100) keVの精度で決めることができる。アクシデ ンタルバックグランド(ACCBG)は小さく抑えることができるため、nnΛピークがはっきり 区別できる。また、nnΛ状態が観測される場合、高い中心値決定精度を持つことからnnΛ状 態が束縛状態であるのか、共鳴状態であるのかをはっきりと示すことができる。

(31)

1.4 nnΛパズル 21

図1.21: GSI Invariant mass [15]:質量保存則

から得られた(π−, t)崩壊前粒子の質量分布。 バックグランドの上にピークが観測され黄色の ラインは誤差領域を表している。t + π− 崩壊 前の粒子の質量は2994.3±1.1 ± 2.2 MeV。 図1.22: t + π− 崩壊前の粒子の寿命測定結果 [15]:粒子が崩壊するまでの寿命を測定を行い、 固有寿命は190 psであることがわかり、弱崩 壊によりπ− + tが生成されたと考えらえる。 ■ Λ-n相互作用に制約をかける  nnΛピークを観測できた場合、得られたピーク幅Γ、ピーク中心値BΛ情報をもとに図1.24 に当てはめることによって各ポテンシャルモデルにおける Λ-n相互作用に制約を課すことが できる。基礎相互作用であるΛ-n相互作用は(Λ, n)が電荷をもたないことからデータの取得 が困難である。現状では、Λ-n相互作用は荷電対称性の仮定のもと、Λ-p相互作用から求めて いる。しかし、CSBの発見から見て取れるようにΛ粒子と核子間相互作用において荷電対称 性は破られていることがわかっている。また、泡箱によるΛ−p散乱イベントは2000 event程 度と少なく20 %の統計誤差を含んでいる。nnΛのピークが∆BΛ∼ 100 keV, σ ∼ 100 keV で測定することができた場合、図1.26のように各ポテンシャルモデルに、5 %の誤差でΛ− n 相互作用の大きさを決定することができる。 

1.4.4

本実験における本稿の役割

 本実験では、正しいハイパー核生成イベントの選択するためにバックグランドの中からK+ イベント選択(KID)を選択する必要があり、本稿ではエアロゲル検出器(AC)やシンチレー ショントリガーカウンター (STC)を用いたKID手法を開発・達成した識別評価について述

(32)

22 第1章 序論 図 1.23: 三体系 nnΛ, 3ΛH による実験観測値と理論計算による束縛エネルギーの比較図: ΛN − ΣN 混合による相互作用パラメータ3VT ΛN−ΣN にファクター倍(1.0, 1.2)かけたときの nnΛ, 3ΛH(J = 1/2+)理論計算と実験値図。 べる。第2章では、nnΛ実験のセットアップと本実験で用いたスぺクトロメータと検出器群 の役割・性能について述べる。また、第3章では、本研究で用いる二台のエアロゲルチェレ ンコフ検出器 (AC1, AC2)の性能評価をπ+, pの残存率を用いてACのパフォーマンス評 価を行った。第4章では KID 解析としてΛ, Σ0 の欠損質量分布からΛ, Σ0 の残存率およ びS/NのACカット依存性を調べる。また、本研究ではFigure of meri(FOM)としてpeak significanceに該当するSΛ/ NB.G. を定義し、ACカット前後のΛ, Σ0 のイベント数・S/N 比の比較を行い、ACカット最適化の評価を行う。また、KID解析から得たK+ 検出効率・ Λ, Σ0情報からΛ, Σ0の微分断面積を導出する。JLab Hall Bで測定されたΛの微分断面積 [10]と比較を行うことにより、本研究で開発したKID手法の性能評価を行う。第5章では本 研究で開発・性能評価した KID手法を用いたnnΛ解析の進め方や本稿のまとめについて述 べる。

(33)

1.4 nnΛパズル 23 図1.24: 各ポテンシャルモデルに対し、Λ-n相互作用を変化させたときのnnΛ状態[22] :横 軸は虚数エネルギーの実数部 [GeV]、縦軸は虚数部 [GeV] であり、それぞれ束縛エネルギー の中心値、ピーク幅に対応する。また、Λ− p相互作用で規格化されたΛ− n相互作用パラ メータS とし、∆s = 2.5%変化させたときの極を各ポテンシャルモデルに対してプロットし ている。Re[E] > 0の領域は共鳴状態を示し、核ポテンシャルモデルに対して∆s ∼ 5 %増 加した場合、nnΛは共鳴状態を示す。 図 1.25: モンテカルロシミュレーション (Geant4) を用いた nnΛ のピークのシミュレー ション結果図 [26]:ガウス分布で nnΛ をフィットした結果 nnΛ ピークの中心値決定精度 ∆B ∼ 100 keVエネルギー幅∆σ∼ 100 keVの分解能を持つ。

(34)

24 第1章 序論

図1.26: 本実験で期待される各ポテンシャルに対するΛ-n相互作用の制約[22]:赤枠はnnΛ

のピークが中心値決定精度∆B ∼ 100 keV、エネルギー幅∆σ ∼ 100 keV を仮定した場合

のエラー領域を表している。nnΛのピークが観測された場合、ポテンシャルモデルによらず

(35)

25

2

nnΛ

実験の概要

nnΛ探索を行うために、我々はアメリカのトーマスジェファソン研究所(JLab)にて nnΛ 探索実験を行った。本章ではnnΛ実験のセットアップにおよび使用した検出器等について詳 しく述べる。2.1章では本実験のセットアップを述べ、2.2章ではJLabの加速器の特徴と性能 について詳しく述べる。2.3-2.4章では本実験で使用した標的システム、そして高分解能スペ クトロメータ(HRS)について詳しく述べる。そして最後に2.5章で本実験で実際にどのよう なトリガーを組んでデータを収集したかについて説明する。

2.1

JLab

における

3

H(e, e

K

+

)nnΛ

反応分光実験

我々は過去にアメリカのThomas Jefferson National Accelerator Facility(JLab) Hall Cに おいて電子線を用いたハイパー核分光実験を行い、ハイペロン・核子相互作用(YN相互作用) 図 2.1: 3H(e, e′K+)nnΛ 反 応 図:本 実 験 で は 4.3 GeV の 電 子 線 を 用 い て 実 験 を 行 う 。 3H(e, eK+)nnΛ 反応によって生成された K+ 中間子と散乱電子 (e’) の運動量は二台の HRS で観測を行なわれる。測定される散乱電子の中心運動量と角度は (pe′ = 2.2 GeV/c, θee′ = 13.2◦)であり、K+ 中間子の中心運動量と角度は(pK = 1.8 GeV/c, θeK = 13.2◦)で ある。

(36)

26 第2章 nnΛ実験の概要 の研究を行ってきた[23]。本実験(E12-17-003)ではHall Aにおいて、Hall A既存の高分解能 磁気スペクトロメータ(HRS)を使いe′, K+の運動量測定を行う。電子線を使ったハイパー 核実験では、標的AZに電子線を照射しハイパー核A Λ(Z− 1)を生成する。ハイパー核の質量 (MHYP)、束縛エネルギー(BHYP)は測定量である散乱電子とK+ 中間子の運動量( ⃗pe′, ⃗pK) を用いて MHYP= √ (Ee+ MTarget− Ee′ − EK)2− ( ⃗pe− ⃗pe′ − ⃗pK)2 (2.1) BHYP= (Z − 1)mp + (A− Z)mn+ mΛ− MHYP (2.2) で記述される。標的のもつ運動量は十分小さいので無視できる(PT arget = 0)。本実験では4.3 GeVの電子線をトリチウム標的3Hに照射しnnΛを生成する。nnΛと同時に生成された散乱 電子とK+ 中間子は二台のHRSで測定され、nnΛの質量・エネルギー状態は質量欠損法(式 2.1)から求まる。本実験では散乱電子とK+中間子の中心運動量(pe′, pK)と電子線からの角 度(θee′, θeK)はそれぞれ(pe′ = 2.2 GeV/c, pK = 1.8 GeV/c), (θee′ = 13.2◦, θeK = 13.2◦) で測定される。

2.2

JLab

加速器

2.2.1

Continuous Electron Beam Accelerator Facility(CEBAF)

我 々 は JLab の 連 続 電 子 線 加 速 器 施 設 Continuous Electron Beam Accelerator Facil-ity(CEBAF)(図2.2)を用いて本実験を行う。電子は次の過程を経てホールにビームが供給さ れる。CEBAFのインジェクターで電子を生成しクライオモジュールによって108 MeVまで 加速させた後に加速器リングに入射される。入射された電子は東西に延びた二本の線形加速器

(north linac, south linac)より、最大12 GeV(5.5 pass)まで加速することができ、4つの実 験ホール(Hall A, B, C, D)に輸送される。

2.2.2

JLab

における電子線の特徴

我々は電子線を標的に照射することによってハイパー核を生成する。CEBAFでは直接加速し た電子をビーム(一次ビーム)として使用することができるため、高強度・揃ったビームエネル ギー・小さいビームスポットを備えた高精度のビームを各ホールに供給することができる(表 2.1)。 ■ 揃ったビームエネルギーの供給

 CEBAFでは、電子のエネルギー(Ee)のばらつき(∆Ee)は∆E/E ∼ 2 × 10−4 であり、

(37)

2.2 JLab加速器 27 図2.2: JLab 電子加速器の概念図(CEBAF)[24]。インジェクターで生成された電子は加速器 リングに輸送され、線形加速器で加速を繰り返される。電子線は南リニア加速器、北加速器を 通過するたびにそれぞれ1.1 GeVの加速をし、最大12 GeV(5.5周)まで加速することができ る。実験ホールはHall A, B, C, Dあり、それぞれのホールで異なるスペクトロメータが設置 されている。 よるビームのばらつきは450 keV程度に抑えることができ、ビームによる分解能寄与は小さ く抑えることができる。 ■ 小さいビームスポット  ハイパー核分光解析を行う際、HRSで測定したK+, e′ を逆行列を用いてハイパー核生成 点を一点に仮定する必要がある。CEBAFの電子線のビームスポットサイズはσ ∼ 100µmと 他の二次ビームと比較すると非常に小さく逆輸送行列手法に用いる仮定を問題なく使うことが できる。高精度の電子線を使用することにより、系統誤差を抑えることができため高分解能精 度の分光実験が実現可能である。   表2.1: CEBAFビームパラメータ表[24] Beam Parametrers

Max Energy (Hall A, B, C) 11 GeV Max Energy (Hall D) 12 GeV Max Intensity (Hall A, C/B) 85 µA/5 µA Energy spread (∆E/E) < 1.8× 10−4(FWHM)

(38)

28 第2章 nnΛ実験の概要 表2.2: Target spessification

State of Target Target thickness [mg/cm2] Gas 3H2 77.0 2H 2 142 1H 2 70.8 3He 53.4 Solid C 883 Al 1.37 ×103 BeO 142

2.3

標的システム

 本実験では トリチウム(3H)低温ガス標的(40 K)を含む複数のガス標的と個体標的が使わ れ、図2.3、図2.4のような標的システム内に設置されている。ガス標的システムは(図2.3) のように計5つのセルが連なっており、上から 3H, 2H, 1H, 3He, emptyがそれぞれ収納さ れており、それぞれの標的に対してビーム軸方向に厚さ25 cm、約34 ccのガスが収納されて いる (図2.5)。また、4つのセルのガス標的の下には個体標的プレートが設置されており、上 から炭素フィルム標的、炭素穴標的、ラスター補正用標的、アルミ標的、炭素標的、チタニウ ム標的そしてBeO標的が連なって配置されている(図2.4)。個体標的はパラメータ調整や補 正データを目的として使用され、内容の詳細については第3章で詳しく述べることにする。   

(39)

2.3 標的システム 29

図2.5: 3Hholder

2.3.1

Target holder design

 本実験で使用する3H標的は放射能物質であり、40 TBqと非常に高い放射能を放出するた め取り扱いには様々な手続きと安全面の考慮を必要とする。ガス標的セルは厚さ25 cmあり、 円筒状の空洞部分(図2.6)にガスを注入できる。ガスの補給は図2.5のバルブを通してされ

る。標的セルはアルミニウム (Al alloy ASTM B209 AL 7075-T651)素材でできており、セ ルの厚さはガス標的によって異なっている(表2.3)。セル内でガス標的と反応して生成された 散乱電子・K+中間子は標的セルを通過時にエネルギーを失う。そのため、標的セルの壁はな るべく薄く、尚且つ高温・高圧に耐えられるように室温 (295K)で1.38 MPa (0.28 MPa at 40 K)まで耐えられる構造となっている。          

2.3.2

Cooling system

  JLabでは、本実験を含めた4つのトリチウム標的を使った実験が採択され、1年間の使 用が許されている。トリチウム標的は直接扱うことができないため、冷却は標的セルに低温ヘ リウム(15 K)を流して行われる。低温ヘリウムはEnd Station Refrigerator (ESR)にて15 Kに保った状態で各ホールの冷却システムに供給される。 ESRから供給された15 Kの液 体ヘリウムはFin tube heat exchanger(HX)の管の中を巡回しながら標的ラダーから生じた 熱を吸収し、ESRへ輸送される(図2.7)。冷却システムと標的システムは繋がっており、標的 セルから生じた熱は冷却システムに吸収される。この標的システムでは最大22.5µAまでの電

(40)

30 第2章 nnΛ実験の概要

図2.6: Top view of cell

表2.3: 各標的セルにおけるアルミ窓の厚 さのまとめ

Position on cell Empty 3H 2H 1H 3He Entrance 0.25 0.25 0.25 0.31 0.20 Exit 0.28 0.34 0.30 0.33 0.33 Mid left 0.46 0.44 0.45 0.37 0.50 Mid right 0.43 0.45 0.37 0.50 0.50 子線を取り扱うことができる 

2.4

高分解能スペクトロメータ

(HRS)

本実験(E12-17-003)は、JLab Hall A既存の2台の高分解能スペクトロメータ(HRS)を用い て実験を行う(図2.8)。HRSは運動量分光を行うための超伝導磁石と粒子検出器群がHRS両

(41)

2.4 高分解能スペクトロメータ(HRS) 31 図2.8: HRS 概念図[27]。JLab Hall A には高分解能スペクトロメータ(HRS)二台所有し ている。CEBAFで加速された電子はHall Aの標的まで真空パイプ内を伝って輸送される。 HRSは標的チェンバーを基点に回転でき、測定したい角度を選択することができる。HRSに はそれぞれ超伝導磁石QQDQと粒子検出器群が設置されている。 アームにそれぞれ設置されている。右アームHRS(HRS-R)では中心運動量pK = 1.8 GeV/cK+中間子の測定を行い、左アームのHRS(HRS-L)では中心運動量pe= 2.2 GeV/cの散 乱電子の測定を行う。HRSの主な特徴は表2.4に記述した。 以下では各HRSアームを構成している超伝導磁石および粒子検出器群の詳細について述 べる。 表2.4: HRS spectification HRS General Charactors

Momentum Range 0.3-4.0 GeV/c Congiuration QQDQ

Beam Angle 45

Optical Length 23.4 m Momentum Acceptance ± 4.5 % Momentum Resolution(FWHM) 1× 10−4

(42)

32 第2章 nnΛ実験の概要 図2.9: 超伝導双極子磁石のレイアウト図[30]。HRSの磁石はビーム上流から見てQQDQの 配列になっており、QQ磁石により荷電粒子の進行方向に対して垂直な平面の収束を行い、超 伝導双極子磁石(D磁石)による強磁場により荷電粒子の分光を行う。D磁石により発散した 荷電粒子をQ磁石を通して再び集束し、粒子検出器群に輸送する。

2.4.1

HRS

超電導磁石

 HRSは図2.9のように3つの超伝導四重極磁石(Q)と1つの超伝導双極磁石(D)によって 構成されており、荷電粒子の運動量分光を行うことができる。HRS-R, HRS-Lは同じ超伝導 磁石で構成されている。HRSで使用しているQ磁石とD磁石、それぞれの超伝導磁石の特徴 と役割を以下に述べる。  ■超伝導双極磁石 超伝導双極磁石 (D磁石)は荷電粒子の運動量分光を目的として利用しており四重極超伝導磁 石(Q1, Q2)の後ろに設置されている。D磁石は最大2000 A(2 T)まで電流を流すことがで き 4.6 GeV/cの荷電粒子を分光することができ、中心運動量(p)とした場合、δp/p∼ 4.5% の運動量領域の荷電粒子を測定することがきる(表2.5)。測定したい中心運動量はD磁石にか ける電流を調整することによって選択することができ、随時GUIで中心運動量、D磁石に流 している電流値を確認することができる(図2.10)。 ■ 四重極超伝導磁石  四重極磁石は4つの磁石をSN磁石を交互に配置することによって荷電粒子の1軸線上の集 束を行ことができる。そのため QQ磁石を双極磁石の前に設置することにより、荷電粒子の

(43)

2.4 高分解能スペクトロメータ(HRS) 33

表2.5: HRS Dipole Magnet specification spesification Dipole Maxium current 2000 A (10 V) Maxium magnetic field 2 T Effective length 6.6 m Bend radius 8.4 m Bending angle 45 飛方向に対して垂直な平面の収束を行うことができる。Q1とQ2, Q3は異なった構造を持っ ており、最大磁場、最大電流も異なっている (表2.6)。実験中のQ磁石に流れている電流は 図2.10: HRS Magnet GUI:HRS超伝導磁石の磁場、流している電流、粒子の運動量情報を GUIを通して確認することができる。上図は散乱電子側のHRSの超伝導磁石、下図はK+中 間子側の超電導磁石の性能を表示している。それぞれの図は上からQ1, Q2, D, Q3の順に表 示し、上図の赤枠は超伝導磁石の磁場、緑枠は運動量、黄枠は超伝導磁石に流している電流の 値を示しており、K+ 中間子側のHRSも同様である。

(44)

34 第2章 nnΛ実験の概要 表2.6: HRS Quadro Magnet specification

spesification Q1 Q2/Q3 Bore radius 150 mm 300 mm Magnetic length 948 mm 1800 mm Maximum Mag-fileld gradient 8.31 T/m 3.5 T/m Maxium current 3250 A 1850 A

図2.11: HRS-R Detectors Package

GUIにて確認することができる(図2.10)。

2.4.2

HRS-R Particles Identification Detector

HRSの超伝導磁石による荷電粒子の運動量分光後、荷電粒子の位置・時間は超伝導磁石後方 に置かれた検出器群で測定される。HRS-R側ではバックグランドとしてπ+, pの混入が考え られ、K+中間子イベントを選択するためにバックグランドを除去する必要がある。本実験で は、π+, pの除去方法としてエアロゲルチェレンコフ光検出器(AC)、シンチレーショントリ ガーカウンター(STC)を用いてK+中間子の選別を行い、粒子の位置・角度情報はドリフト チェンバー(VDC)を用いて測定が行われる。HRS-Rで使用する検出器は図2.11のように設 置されている。 HRS-Rに搭載されている検出器の詳細について以下で述べる。

(45)

2.4 高分解能スペクトロメータ(HRS) 35 図 2.12: AC1 体写真図:2017 年に宇宙線テスト時に撮られた AC1 写真図。合計 24 本の PMTが接続されている。 表2.7: AC specification AC1 AC2 Refractive index 1.015 1.055

PMT Burle RCA 8854 Photonis XP 4572B Number of PMT 24 26 Thickness 9 cm 5 cm ■ HRS エアロゲルチェレンコフ光検出器(ACD) K+中間子識別のためにエアロゲルチェレンコフ光検出器(AC1, 2)を用いる。ACK+ 間子に混入したπ+中間子の除去を目的としており、それぞれ屈折率が異なる輻射体を用いて いる(表2.7)。 • エアロゲル

  AC1, AC2 はそれぞれ屈折率 [n1 = 1.015(Matsushita silica aerogel   SP15),

n2 = 1.050 (Matsushita silica aerogel  SP50)) のエアロゲル(2.5× 2.5 × 1 cm3] のタイルを使用している。ビーム軸方向のエアロゲルのタイルの厚さはAC1(9 cm),

表 1.1: ハイパー核分光反応の特徴
図 1.15: (e, e ′ K + ) 反応の概念図:x 軸方向に照射された電子線は標的内の陽子と仮想光子を 介して反応し、 Λ, K + が生成される。
図 1.16: JLab CLAS で測定された γ + p → K + Λ 反応における微分断面積と仮想光子エネル ギー依存性 [10] :横軸は √
図 2.3: Gas Target Ladder system 図 2.4: Solid Target Ladder system
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参照

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