1.4 nnΛ パズル
1.4.3 本実験の目的
以上のことからnnΛ状態を十分に理解することができておらず、GSIでは達成できなかっ た高分解能を可能にする検出器・加速施設にてより詳細な nnΛ状態の観測が求められる。そ こで我々は、アメリカのJLab Hall Aの持つ高分解能スペクトロメータ(HRS)を用いてnnΛ 状態の探索実験を行うことで以下のことを明らかにする。
■ nnΛ状態の探索
GSIのnnΛ観測実験は十分な分解能を出すことができなかったため、nnΛ状態の存否を明確 に決定することはできなかった。そのため、他の実験手法を用いてnnΛを観測する必要があ る。JLabでは電子線を使った高分解能分光を可能であり、nnΛのnnΛピークの中心値決定 精度(∆BΛ∼100 keV)、ピーク幅(∆σ ∼100) keVの精度で決めることができる。アクシデ ンタルバックグランド(ACCBG)は小さく抑えることができるため、nnΛピークがはっきり 区別できる。また、nnΛ状態が観測される場合、高い中心値決定精度を持つことからnnΛ状 態が束縛状態であるのか、共鳴状態であるのかをはっきりと示すことができる。
1.4 nnΛパズル 21
図1.21: GSI Invariant mass [15]:質量保存則 から得られた(π−, t)崩壊前粒子の質量分布。
バックグランドの上にピークが観測され黄色の ラインは誤差領域を表している。t +π− 崩壊 前の粒子の質量は2994.3±1.1±2.2 MeV。
図1.22: t+π− 崩壊前の粒子の寿命測定結果 [15]:粒子が崩壊するまでの寿命を測定を行い、
固有寿命は190 psであることがわかり、弱崩 壊によりπ− +tが生成されたと考えらえる。
■ Λ-n相互作用に制約をかける
nnΛピークを観測できた場合、得られたピーク幅Γ、ピーク中心値BΛ情報をもとに図1.24 に当てはめることによって各ポテンシャルモデルにおける Λ-n相互作用に制約を課すことが できる。基礎相互作用であるΛ-n相互作用は(Λ, n)が電荷をもたないことからデータの取得 が困難である。現状では、Λ-n相互作用は荷電対称性の仮定のもと、Λ-p相互作用から求めて いる。しかし、CSBの発見から見て取れるようにΛ粒子と核子間相互作用において荷電対称 性は破られていることがわかっている。また、泡箱によるΛ−p散乱イベントは2000 event程 度と少なく20 %の統計誤差を含んでいる。nnΛのピークが∆BΛ∼100 keV, σ ∼100 keV で測定することができた場合、図1.26のように各ポテンシャルモデルに、5 %の誤差でΛ−n 相互作用の大きさを決定することができる。
1.4.4 本実験における本稿の役割
本実験では、正しいハイパー核生成イベントの選択するためにバックグランドの中からK+ イベント選択(KID)を選択する必要があり、本稿ではエアロゲル検出器(AC)やシンチレー ショントリガーカウンター (STC)を用いたKID手法を開発・達成した識別評価について述
22 第1章 序論
図 1.23: 三体系 nnΛ, 3ΛH による実験観測値と理論計算による束縛エネルギーの比較図:
ΛN −ΣN 混合による相互作用パラメータ3VΛNT −ΣN にファクター倍(1.0, 1.2)かけたときの nnΛ, 3ΛH(J = 1/2+)理論計算と実験値図。
べる。第2章では、nnΛ 実験のセットアップと本実験で用いたスぺクトロメータと検出器群 の役割・性能について述べる。また、第3章では、本研究で用いる二台のエアロゲルチェレ ンコフ検出器 (AC1, AC2)の性能評価をπ+, pの残存率を用いてACのパフォーマンス評 価を行った。第4章では KID 解析としてΛ, Σ0 の欠損質量分布からΛ, Σ0 の残存率およ びS/NのACカット依存性を調べる。また、本研究ではFigure of meri(FOM)としてpeak significanceに該当するSΛ/√
NB.G. を定義し、ACカット前後のΛ, Σ0 のイベント数・S/N 比の比較を行い、ACカット最適化の評価を行う。また、KID解析から得たK+ 検出効率・
Λ, Σ0情報からΛ, Σ0の微分断面積を導出する。JLab Hall Bで測定されたΛの微分断面積 [10]と比較を行うことにより、本研究で開発したKID手法の性能評価を行う。第5章では本 研究で開発・性能評価した KID手法を用いたnnΛ解析の進め方や本稿のまとめについて述 べる。
1.4 nnΛパズル 23
図1.24: 各ポテンシャルモデルに対し、Λ-n相互作用を変化させたときのnnΛ状態[22] :横 軸は虚数エネルギーの実数部 [GeV]、縦軸は虚数部 [GeV] であり、それぞれ束縛エネルギー の中心値、ピーク幅に対応する。また、Λ−p相互作用で規格化されたΛ−n相互作用パラ
メータS とし、∆s= 2.5%変化させたときの極を各ポテンシャルモデルに対してプロットし
ている。Re[E] >0の領域は共鳴状態を示し、核ポテンシャルモデルに対して∆s ∼ 5 %増 加した場合、nnΛは共鳴状態を示す。
図 1.25: モンテカルロシミュレーション (Geant4) を用いた nnΛ のピークのシミュレー
ション結果図 [26]:ガウス分布で nnΛ をフィットした結果 nnΛ ピークの中心値決定精度
∆B ∼100 keVエネルギー幅∆σ∼100 keVの分解能を持つ。
24 第1章 序論
図1.26: 本実験で期待される各ポテンシャルに対するΛ-n相互作用の制約[22]:赤枠はnnΛ のピークが中心値決定精度∆B ∼ 100 keV、エネルギー幅∆σ ∼ 100 keV を仮定した場合 のエラー領域を表している。nnΛ のピークが観測された場合、ポテンシャルモデルによらず Λ-n相互作用に5 %程の制限を課すことができる。
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