(東女医大誌 第45巻 第4号頁 361〜372 昭和50年4月)
コイ水平細胞の形態と応答
東京女子医科大学第一生理学教室(主任 渡辺宏助教授)
加 藤 彰 子
カ トウ アキ コ
(受付 昭和50年1月24日)
Relationship between Morpho董ogy and Response Type of Carp Ho㎡zontal Cells
Akiko KATO, M.D,
Department of Physiology(Director:Pro£Kosuke WATANABE)
Tokyo Women s Medical College
Identification of the carp retinal horizontal cells werc carried out by means of Procion Yellow microelectrode method. There are fbur layers of hroizontal cell, among which three layers contribute to producing photopic S−potentials, namely, the outermost horizontal cell layel fbr Ltype responses,
the outer fbr C−type and the inner R)r both types. C勾aPs intermediate horizontal cells generating scotopic S.potentials appear to lic between the outer and the inner layers, It can be concluded that thc inncr horizontal cell layer is not constructed by independent cells but is長)rmcd by jumblcd lohg processes of the cells in the outer alld the outermost layers.
はじめに
近年,脊椎動物網膜から得られるS電位の発生 細胞は,水平細胞であることが種々の細胞内染色 法により確定的となった。MHIerら7), Hashimot・
ら3),Simonlo), Saitoら9)はカメの網膜を用い,
L型およびC型S電位の発生細胞はそれぞれ形態 を異にする水平細胞であることを明らかにした.
一方,Kaneko4)はキンギョの網膜を用いてS電 位の発生細胞を蛍光色素(Procion Yellow M4RS)
法で最初に同定したが,明順応下のL型およびC 型S電位は共にCaja11)2)の分類による外水平細 胞および内水平細胞がその発生源で,スペクトル 応答型と発生細胞との間に特別な差は見られない と報告している.しかし最近Mitaraiら8)はコイ 網膜から得られるS電位のスペクトル応答型と発 生細胞との間に,明瞭な形態的並びに位置の差
が見られることを報告した.Mitaraiら8)はスペ クトル応答型をphotopic I・型, scotopic L型,
RG型, YB型,3相性の5種類に分類している が,この中のRG型, YB型および3相性のS電 位は一括してC型S電位と呼ばれているものであ
る.
また,S電位の振幅は照射面積が大きくなる程 大になることが知られており16),これを面積効果
と呼んでいるが,この面積効果と水平細胞との直 接の対応関係については,Kaneko4)がキンギョ の網膜で,Saitoら9)はカメの網膜で, Marmarelis and Naka6)はナマズ(catHsh)の網膜での報告が あるにすぎない.
著者はStretton and Kravitz14)によって紹介さ れたProcion Yellow電極を用い,コイ網膜から 導出したS電位のスペクトル応答型と面積効果を
調べ,同時にその発生細胞の同定を行なったので ここに報告する.
実験材料と方法
食用コイ(抄ρ7伽5 α7μo(約400〜5009)の剥離網 膜を材料として用いた.コイを眼球別出前1〜2時間暗 順応下に保ち,後弱い光の下で眼球を別出し,前眼部を 除去した眼球盃を4等分し,ついで網膜を色素上皮層か
ら剥離して視細胞層を上にして濾紙上に置き,できるだ け硝子体を除去するためにこのままiceboxの中に1時 間以上放置した後,実験に供した.網膜が平坦になった
ら濾紙ごとJolter15)に密着してある銀板上にのせ,そ の銀板を不関電極として用いる.
超微小電極は横型プーラー(成茂科学,PN−3)で 作り,6%Proclon Yellow溶液(M4RS)を充填し たが,その抵抗値は200MΩ又はそれ以上である.電極 を前置増幅器(WP・lnstrument Co. M 701)につなぎ,
これからブラウン管オシロスコープ(VC7)の高感度 増幅器に連結してS電位の記録を行なった,またM701 の通電用端子に電子管刺激装置を連結することにより,
電位の記録と通電により電気泳動的に色素を細胞内に注 入することが同時にできるようになっている.著者は2 nAの負方向の直流を2〜3分通電して細胞内注入を行 なった,慎重を期すために,この通電中又は通電後の応 答が健全なものだけを試料とし,また1コの組織標本に つぎ1コの細胞にのみ通電した.通電後,電極刺入部位 を双眼実体顕微鏡下で確かめた後,この部位を中心とし て一辺1.5〜2.Omnl角に切り出し, Ringer液を少量入 れた標本ビンの中にこの網膜を入れ,室温に約30分放置 した後,Rlnger液を捨て,下記の処方に.よる固定液を 入れ,4℃の中で1晩固定する.
固定液の処方
パラフォルムアルデハイド 0.8g 蒸溜水 10.OrnI
O.1N酢酸塩緩衝液(pH 4.0) 10.OmI 25%グルタールアルデハイド 0.2m1
翌日固定液を捨て,メタノールと酢酸塩緩衝液(25
%=75%〜100%メタノール)の混合液で脱水し,プロピ レンオキサイドを通した後,Spurr s mediumに包埋し,
62℃の艀卵山中に少なくとも8時間入れて硬化させた.
oorter−Blum のultra−microtome(Sorvall, MT 2−B型)
を用い,ガラスナイフで10〜15μmの連続切片を作る.
切戯方向はcross又はtangentialのいずれかを選んだ.
特にtangential切片は水平細胞のように扁平な細胞の形
態が一一眼でわかるという利点がある.連続切片をスライ ドグラス上に並べた後,熱処理をし,カバーグラスをグ リセリンで封入し,蛍光顕微鏡(Nikon FL型)で観察 する.フィルターは下記のような組合せを用いた,
照明区分
光源伽ル・一
o愚
痴側・・ル・ヨ織
暗視野 B O
lor2 中
明視野 B B
lor 2 右
ここでBは最大透過光400nm,1はY−50NFで500 nmより長波長を透過,2は15Gで520nmより長波長 を透過,中は2Bで,400nm より長波長を透過,右は 最大透過光520nmの特性を=有するフィルターである.
この条件で標本を観察すると,Procion Yellowは機黄 色〜黄色に,背景は緑色に見えるので,染色された細胞
と他の細胞との区別が明瞭にできる.
一方,網膜組織全体を観察するためにトルイジンブル ー染色,個々の水平細胞を観察する目的でGolgi染色も 併せて行なった.
トルイジンブルー染色法:剥離網膜の小片を融記固定 液で一晩固定し,型の如く脱水し,Spurr s mediumに 包埋し,厚さ2〜4μmの切片を作る.スライドグラ ス上に並べ熱処理をした後,1%トルイジンブルー溶 液(1区分砂水中)を70〜80℃に加温し,2〜3分間染 色を行ない,水洗した後鏡検する.
Golgi染色法:Stellu)の方法にほぼ従って標本を作製 した,以下その力法を簡単に記載する.
a.固定液
」液:1.0年置スミック酸(0.1Mニクロム酸カリウ
ム中)pH 4.0
2液:0.25%オスミック酸(0.1Mニクロム酸カリウ
ム中)pH 4.O
b.手順
1)剥離網膜(10×7mm位)を第1固定液に入れ,冷 暗所で90分固定する.
2)網膜を固定液より迂り出し,2mm角の小片を作 り,第2固定液に入れ,暗所室温で2日間固定する,
3)固定液より網膜を取り出し,1%硝酸銀(pH4.0)
溶液を急速に3回移し変え,3番目の硝酸銀溶液中に暗 所室温で2日間放置する.
4)再び第2固定液に戻し(Step 2),次いで硝酸銀溶 液中に入れる (Step 3)という操作を全部で3回繰返
す.
5)脱水し,Spurr s mediumに包埋.
6)40μmの厚さの切片を作り鏡検する.
光刺激装置は2チャンネルを用いた.光源は500Wの キセノンランプ(KXL−500L)で,これを左右のチ
ャンネルに分け,別々に回折格子型モノクロメーターを 通した後,再び両チャンネルを合わせて左右別々に,ま たは同時に網膜上の同一点を刺激できるようにする.最 大出力(光刺激強度はNDウェッジおよびNDフィルタ ーで加減する)は単色光で4.4×104q/secノμm2である.
照射面積は直径0.125〜5.0㎜まで可変できる.
超微小電極を前置増幅器のプローブに連ぎ,電極先端 を照射光の中心にセットし,視細胞側から刺入して行
く.S電位の導出には530nmと680nmの単色光を交互 に与えてそのスペクトル応答型を決定し,照射面積を変 えて面積効果を検した後,通電して色素を細胞内に注入 する.最初にスペクトル応答型を決定する時には直径 1.Ommの照射光を用いた.実験は室温下(20〜22℃)で 行なった,
結 果 L 網膜像
写真1はコイ網膜をトルイジンブルーで染色し たcross切断の組織像である.外網状層から内穎 粒層にかけて3〜4層の水平細胞が存在する.矢 印1,2,3はCajalの分類に従えば,外水平細 胞,中間水平細胞,内水平細胞と命名されている が,後述するように,蛍光染色による細胞の同定 から,第1層水平細胞,第H層水平細胞,第皿層 水平細胞と仮称したものに相当する.2と3は白 矢印で示したようにつながっているように見え
る.
写真2はGolgi染色した各種水平細胞の例であ る.aは第1層水平細胞, bは第H層水平細胞,
cは論語層水平細胞と思われる.cは組織が非常 に収縮してしまったので他の細胞と層の比較はで きない.第1層水平細胞は最:も視細胞に近く細胞 体の強膜側から短かい樹状突起が多数出て視細胞 終末部に終っている.第H層水平細胞は前者に比 し細胞体は幾分扁平であるが,その強膜側から大 小様々の比較的長い樹状突起が視細胞終末部に延 びている.第三層水平細胞は細胞体が不明瞭で太 い突起がほぼ水平に延びているが,その終末部が
どの細胞に連絡しているかは不明である.
H・蛍光色素による水平細胞の同定
400個以上の水平細胞の染色を行なったが,細 胞同定に成功したのは約80%であった.
コイ網膜の水平細胞は古くCaja11)2)によって その網膜内の位置および形態の相違により,視細 胞側から外水平細胞,中間水平細胞,内水平細胞 の3種類に分類されていて,外水平細胞は錐体と シナプスを形成し,中間水平細胞は粁体とシナプ スを形成していると報告されている.しかし,内 水平細胞に関しては視細胞との結合関係はなお不 明である.明順応下で,Procion Yellowにより 同定された水平細胞をその位置から分類するとや はり3層に分けられるが,この実験条件では杵体 系水平細胞(中間水平細胞)の同定は非常に困難 であろうと考えられる.
!.第1層水平細胞
視細胞側から電極を刺入して最初に得られるS 電位は■型である.写真3aはし型S電位のスペ
クトル応答曲線で,刺激全波長に対して過分極性 応答を示す型である.著者は100個以上のL型S 電位記録部位にProcion Yellowを注入したが,
いずれも写真3b, cに示すような水平細胞が染色 された.写真3bはtangential切片であるが,
細胞体が大きくほぼ長方形を示し,細胞核も鮮明 で,細く短かい突起が多数認められる.写真3c はcross切片であるが,この水平細胞が最も視細 胞側に在ることは明らかで,その強膜側から出る 細くて短かい突起は視細胞終末部に終っている.
突起の広がりは100μm以下である.Caja1のい ういわゆる axon は少数例において認められ た.この細胞はCajalの外水平細胞に相当するも のと考えられる.
2.第H層水平細胞
L型S電位を導出した後更に電極を刺入してい くと,C型S電位が導出される.このC型S電位 は更に2相性のRG型と3相性のRYB型に分け
られている,著者は97コのC型S電位発生細胞の 染色に成功したが,その典型的な例を写真4に 示した.写真4aはRG型のスペクトル応答曲線
で,短波長側で過分極性応答,長波長側で脱分極 性応答を示す.4bはRYB型のスペクトル応 答曲線で,短波長および長波長側で過分極性応 答,中間波長(黄色)で脱分極性応答を示す型で ある。4cはRG型のtangential切片で,第1
層水平細胞に比べるとその細胞体は少し小さく,
比較的太い突起がほぼ対称的に延び,更に細い突 起で終っている.細胞核は明瞭である.4dは RYB型のtangential切片であるが,この細胞は 細胞体および核は明瞭で,細くて長い突起が対称 的に延びている.これら両細胞の広がりは100 μm以上である.このように第八層水平細胞はそ の樹状突起の太さから2種類に分けられるが,樹 状突起の太いのがRG型で,細いのがRYB型と は必ずしも分けられない.但し,どちらかといえ ばRYB型に樹状突起の細い細胞が多いようであ る.cross切片の1例を4eに示したが,明らか に第亙層目に存在し,その強膜側からは細くて比 較的長い突起が上行し,視細胞終末部に終ってい
る.これがCajalの中間水平細胞に相当するもの であるかどうかは疑わしい.
3.第平等水平細胞
C型S電位導出後更に電極を刺入して行くと,
再び凹型又はC型S電位が導出される.この層か ら100コ以上の細胞を同定したが,これは内学粒 層の最も硝子体側に位置している.写真5a,b は正型S電位の発生細胞でtangential並びにcross 切片の1例である.細胞体は不明瞭で核が認めら れず,太くて長い突起(最大300μm以上)はあ まり分岐せずほぼ水平に走り,両端はやや強膜側 に向っている.この突起は所々太くなったり,細
くなったり,凹凸しながら徐々に細くなって終っ ているが,その終末部と他の細胞との連絡は依然 不明である.C型S電位を生じた細胞の例を5 c,dに示した.正午S電位の例と同様tangential とCrOsS切片であるが, tangential切片では突起 が中心から水平面で4:方向に延びている.これは
C型だけに限られるのではなく,L型でも同様な 分岐の見られるものもある.しかし第H層水平細 胞の突起の分岐状態とはだいぶ異なっている.こ
の細胞はCaja1の内水平細胞に相当するものと考 えられる.
4.第1一皿層水平細胞および第皿一皿層水平 細胞の同時染色
写真6a, bはtangential連続切片によるもの で,L型S電位導出部位1コに通電して染色した にもかかわらず,第1層水平細胞と第年層水平細 胞が同時に染出された1例である.この第二層水 平細胞は第1層水平細胞から30μm硝子体側に在 る.このように1コの細胞を染めたにもかかわら ず2層にわたって染出された例は,L型およびC 型のいずれにも見られた.
表1は現在までに染色された水平細胞と応答型 の分布をまとめたものである.L型S電位は第1 層又は第厚層,又は第1一皿層水平細胞から,C
表1 同定した水平細胞の応答型と 層との関係を集計した表 Type
L
RG
Layer I
101 0
RYB
0工ayer H
0 95
工ayer 皿
■ayer I一皿
80 3
37 0
2 1 0
Layer H一皿 0 8 0
型S電位は第亜層又は第皿層,又は第皿一皿層水 平細胞から導出されており,明らかに応答型によ
りその発生細胞が異なることを示している.
皿L 面積効果
S電位が大きな面積効果を有している16)ことは 古くから知られている.今,電極先端をS電位導 出部位の中心に固定しておき(図1の0㎜),微小 光を横にずらして行くと,S電位は徐々にその振 幅を減じて行く.この空間的減衰の様子を示した のが図1である.○印は第1層水平細胞から発生
したL型S電位,●印は第層層水平細胞が発生源 であるRG型S電位の1例である.両老のプロッ
トを比較すると,ほとんど差は見られない.破線 はMarmarelis and Naka6)がナマズ(cat丘sh)網 膜で検したS領野の空間的減衰を数学的に処理す
るために用いた方程式17をコイ網膜のS領野に応
加藤論文付図〔1〕
釜
e.Lm.
0.n。1.
o.pl.1・
i.n.1の
i。PL1.
9.c.L
写真1 トルイジンブルー染色,矢印1は第1層水平細胞,2は第H層水平細胞,3は 第皿層水平細胞,白矢印は第H層と第皿層水平細胞の連絡部位を示す.
較正:50μm e.Lm.=外限界膜 o・n・1・=外頼粒層 o.pL1.1外網状層 i.n.1.=内願粒層 LpLL:内網状層 g.c.1.= 神経節細1周包1曽
a
饗蕗
臨;婁
壌
卿㌶ぎ
鐘、無漏、
鯉議
b C
・楓べ∴義㌧も
。y臓鍬 . ・w 二
へゆ う
盛翻
写真2 Golgi染色による各種水平細胞 a:第1層水平細胞
。:第皿1層水平細胞 較正:50μm
b:第陸圏水平細胞
一365一
加藤論文付図〔2〕
a
410
500 600 700
b C
写真3 L型S電位を示す第1層水 F細胞 a:スベクト し応答曲線.刺激波長は左一右へ410−750nm c:cross切片 較正:50μm.
b:tangential切片
加藤論文付図(3〕
a b
410
500 600
C
700
410500
d
600 700
e
写真4 C型S電位を示す第H層水平細胞
a:RG型スペクトル応答曲線 b:RYB型スペクトル応答曲線 c:RG d:RYB型のtangentla1切片 e:RG型のcross切片 較正:50μm
型のtangentia1切片
一367一
加藤論文付図〔4〕
a
C
a:1.型,tangential切片 d:C型,cross切片
b
d
写真5 第皿層水平細胞 b:L型,cross切片
較正:a,b,d 50μm.c.100μm
c:C型,tangetnial切片
a b
写真6 L型第1一皿層水平細胞の同時染色 a:第1層水平細胞 b=第皿層水平細胞 較正:50μm
喜 曇
含5。
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§
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●RG一,ypε
㍉、詠㌦隔
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●
O O.5 LO 聾.5 2ρ 2,5 3,0
Dis↑oace {mm,
図1 S電位の空間的減衰を示した図.
○:第1層水平細胞から得られたL型S電位.
●:第皿層水平細胞から得られたC型S電位.
破線:内挿の方程式による計算値 ρ。=0.25㎜,α=8.0㎜,h=0.02㎜
L一セype (Loyer I}
璽1。。
§
蓋 E 50
= ω
…
釜。
華1。。
§ 萱
§5。
§
§
2 0
RG一奮ype (Lqyer iD
藝100
§ 竃
550
婁
§
筐 。
600【m
680【m
〇 1.0 2.0 5,0 40 5.O
Spol diom創er {mm)
RG一↑ype {Loyer襯}
茎1。。
§ 芸
55。
§
§
品 o
680nn
o 1.Q 2、0 5.0 4,0
Spo雪diome奪er (mm)
L一竜ype くしqyer 臓1)
5.o
680【m
一一一
O l.0 2.0 5.0 4.0 5ρ
Spo, diometer {mm)
第1層と第気層水平細胞から得られるL型 S電位の照射面積と応答振幅との関係.刺激 は赤色光最大強度
O l.0 2.0 3ρ 屯0 5.O
Spo奮diome↑er {mm)
図3 専心層と第皿層水平細胞から得られるC型 S電位の面積効果.刺激は赤色光最大強度
図2
用したものである.使用した変数はh=0.02㎜,
α=8.0㎜,ρo=0.25㎜,z=0㎜である.ここ でhは細胞の厚さ,αは,Rm(細胞膜抵抗)/Ri
(細胞内部抵抗),ρoは興奮性シナプス領野の半 径,zはz軸である.この曲線はナマズにおいて は内水平細胞が示す曲線にほぼ一致する.
図2は電極先端をS領野のほぼ中心に固定して おき,そこを中心として同心円的に照射光の直径 を変えた時の正型S電位の振幅の変化を,第1層
および第皿層水平細胞のそれぞれで比較したもの である.組織像ではその樹状突起の広がりに非常 に大きな差が認められているにもかかわらず,両 者の空間的加重にはほとんど差が認められない.
同様な関係はC型S電位においても認められ る.図3は,上が第H層水平細胞から,下が第皿 層水平細胞からの赤色光に対する応答の空間的加 重の様子を示したものである.図2と比較する
と,工型とC型では少し空間的加重の様相は異な るが,同型ではほぼ同様な面積効果を示してい る.C型S電位は赤色光に対しては通常脱分極性 応答を示すが,照射面積を大きくするに従い,ま た刺激強度が大になるに従って脱分極性応答から 過分極性応答に変化するユニットが時々認められ る.このユニットに関しては複雑になるので図3 には示されていない.
考 察 1.水平細胞の分類
著者は明順応状態の網膜を用いてS電位を導出 し,その発生細胞の検索を行なったが,3種類の
水平細胞が同定された.第1層水平細胞は工型S 電位の発生源であり,第H層水平細胞からはC型 S電位が導出され,第皿層水平細胞からはし型と C型S電位の両者が記録される.第1層水平細胞 はCaja11)2)およびMitara量ら8)の外水平細胞
(external horizontal cellRこよく対応し,第胃 腔水平細胞はCaja11)2)の内水平細胞(internal horizontal cell), Mitaraiら8)のIarge horizontal
processに対応するものと考えられる.しかしな がら,第H層水平細胞がCaja11)2)の中間水平細 胞(intermediate horizontal cell)に対応する
ものとは考えにくい.Caja11)2), Stel112)および Wltkovsky and Dowling19)によれぽ, intermediate horizontal cellは粁体終末部にのみ連絡している
というが,本研究では明順応下で実験を行なって いるので杜体系の応答が得られる機会はごく稀だ と考えられる.著者の用いた組織標本から第H層 水平細胞が錐体にのみ連絡しているのか,軒体に のみ連絡しているのか,または両者に連絡してい るのかを探索するのは不可能であるが,第H層水 平細胞からはC型S電位が記録され,生理学的な 検索からこの電位の発生には錐体系の関与が必須 であり,明暗順応によるPurkinje shiftも見られ ない17)ことから,秤体系の関与はもしあったと してもごく僅かと考えられる.それゆえMitarai ら8)が第H層水平細胞に相当する細胞をmediaI horizonta互cellと呼び, C型S電位の発生細胞の1 つとしているのは用語上混乱を招く恐れがある.
一方,Mitaraiら8), Kaneko and Yamada5)およ
び橋本ら(未発表)も暗順応下に得られるS電 位の発生細胞の同定に成功しているが,Kaneko
ら5)はこの細胞をintermediate horizontal cell,
Mitaraiら8)はinternal horizontal cell or rod horizontai cellと命名している.この細胞は第H 層水平細胞より少し硝子体側にその細胞体が位 置し,また形態も異なる水平細胞である.おそ らくこの水平細胞がCajalの言う中間水平細胞
(hltermediatc horizontal ce11)に相当するもの と考えるべきであろう.
著者の結果およびMitara三ら8)のそれは,コイ
網膜水平細胞はCajalのいうような3層ではな く,むしろ4層に存在することを示している.し たがって著者は,錐体および聖体の機能との関連 を考慮してCaja1の歴史的な命名を尊重し,かつ 研究者による用語の混乱を避けるため,次のよう な命名を提案したい.すなわち,第1層水平細胞 を 最外層水平細胞outermost horizontal cell , 第H層水平細胞を 外水平細胞outer hor五zontal cell ,第皿層のそれを 内水平細胞inner hori−
zontal cell ,そして粁体系S電位を発生する水 平細胞を 中間水平細胞intermediate horizontal cell と呼んでは如何であろう.この最外層水平 細胞と外水平細胞はともにCajalの言うouter horizontal cellに含まれるものであって,錐体機 能と密接な関係をもつが,二二は更に応答型によ ってそれが2層に分けられることを明らかにした
ものである.
皿.いわゆる内水平細胞の非独立性
最近,Stel113)は内水平細胞が真の水平細胞で あるということに疑問をもち,キンギョ網膜で Golgi染色を行ない,これは恐らく水平細胞の突 起であろうといっている.著者のProcion Yellow 電極による検索で,写真6に示したように,1コ の水平細胞に色素を注入したにもかかわらず層を 異にする水平細胞が同時に染出された例は,Ste11 の見解を強く支持するものである.しかも同時染 色の場合は必ず最外層水平細胞(第1層)と内水 平細胞(第皿層)または外水平細胞(第皿層)と 内水平細胞(第皿層)が組みになり,第1,第∬
層が同時に染色されることはない.また各層水平 細胞の受容領野を比較した結果も,上記各2層問 の密接な連絡を強く示唆する.
Kaneko4)によればキンギョ網膜における外水 平細胞と内水平細胞から得られる同型S電位の 空間的加重に明瞭な差が見られるとされ,また Marmarelis and Naka6)もナマズ網膜において同 様な結果を報告している.しかしながらコイでは 図2に示したように,第1層と第皿層のL型S電 位の空間加重曲線は平均するとほとんど差が認め
られない.応答の受容領野が形態学的な樹状突起 領野よりも遙かに大であることは水平細胞同志の 側方向の電気的結合の存在を示唆するのは当然で あるが,層を異にし,しかも形態学的に空間的広が りが全く異なる第1層および第皿層水平細胞の応 答が全く類似した空間的加重を示すことは,両者 が互いに独立した構造であるよりは,むしろ完全 に連絡していることを示唆する.上述したように,
P「ocion Yellow法による2層の水平細胞の同時 染色と,いわゆる内水平細胞に細胞体と核の存在 が明らかでないことなどを併せると,前者は後者 からの突起であるというキンギョにおけるStel113)
の見解およびコイについてのMitaraiら8)の示唆 は正しいと言っても良いのではないかと考えられ る.またC型S電位を発生する外水平細胞(第H 層)と内水平細胞(第皿層)との関係も全く同様 であって,結論的に言うと,いわゆる内水平細胞 層は,最外層および外水平細胞の突起が交錯して
1つの層をつくっているものと考えられる.
皿.工型水平細胞とC型水平細胞との関係 上記のように,いわゆる内水平細胞層がL型水
平細胞(第1層)とC型水平細胞(第皿層)の突 起が交錯して形成されるとすると,これら両者の 問に何らかの機能的な連絡があるのではないかと いう問題が生じる.電極を固定して微小照射光を 移動させて応答の減衰を見た場合に,層が異なり しかも応答型も異なる2つのユニットが1つの減 衰曲線に乗る(図1)ことは,受容領野の平ぎさ が類似することと共にその可能性を思わせるもの である. しかしながら,Procion Yellow法によ って第1層(L型)水平細胞と第H層(C型)水 平細胞は明瞭に区別され,形態学的には両者は完 全に独立した細胞と考えられる.
すでによく知られているように,L型水平細胞 は可視部の全ての波長に対して過分極性応答を示 すのに対し,C型水平細胞は波長によりその応答 の極性を変える.渡辺ら18)はこのC型S電位の極 性反転に■型水平細胞の関与の可能性を考慮し て,近接するL型およびC型水平細胞からの同時 記録を行い,L型細胞に直流通電を行なった時
に,C型水平細胞の応答に変化が出るものがある ことを報告した.したがって,両者間に何らかの 結合がある可能性ぱ否定できないが,それらは今 後の問題である.
結 語
蛍光色素(ProciQn Yellow)の細胞内注入法に より,コイ網膜S電位の発生細胞の同定を行な い,それが水平細胞であって4層に分けられるこ
と,およびスペクトル応答型により水平細胞の形 態が異なることを明らかにした.第1層水平細胞
(最外層水平細胞)はし型S電位,第∬層水平細 胞(外水平細胞)はC型S電位,第肝魂水平細胞
(内水平細胞)はし型とC型S電位を発生する.
第中層水平細胞は組織学的および生理学的検索の 結果,真の水平細胞ではなく,第1層または第民 需水平細胞の延長した突起であろうと考えられ る.これらは明順応下に得られるS電位の発生細 胞であるが,暗順応下で得られるS電位の発生源 は第H層と第皿層水平細胞との間に存在し,形態 もやや異なる水平細胞で,Cajalの中問水平細胞 に椙当するものであろう.
終りにのぞみ,終始ご指導およびご校閲をいただいた 渡辺宏助教授に深謝するとともに,多大なご援助を下
さった橋本葉子助教授をはじめ,第一生理学教室の皆様 に感謝の意を表する.
文 献
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