1‑ヒドロキシインドール化学の展開とその創薬への 応用研究
著者 岩木 貴子
著者別名 Iwaki, Takako
雑誌名 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査
結果の要旨/金沢大学大学院自然科学研究科
巻 平成19年3月
ページ 325‑330
発行年 2007‑03‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/14632
氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目 論文審査委員(主査)
論文審査委員(副査)
岩木貴子 博士(薬学)
博甲第804号 平成18年3月22日
課程博士(学位規則第4条第1項)
1-ヒドロキシインドール化学の展開とその創薬への応用研究 染井正徳(自然科学研究科・教授)
石橋弘行(自然科学研究科・教授),向智里(自然科学研究科・教授)
山田文夫(自然科学研究科・助教授),
北垣伸治(自然科学研究科・助教授)
学位論文要旨
1)TheauthorsucceededinsynthesizingSSH-BM1-4(8a-d)asourintellectualpropertystarting fromtryptaminethrough2.SincetheCompoundsstilnulateosteoblastsandsuppressosteoclasts,
theyareexpectedtobenoveldrugsagainstosteoporosis、ASaresult,anidealsyntheticmetllod
definedby``Somei,sSyntheticPhilosophy,,wascreated2)Inordertoestablishtheotheridealsyntheticmethod,weneededourownreactionfOrprepanng pyrrolo[2,3-6]indoles、Anattemptedhalogenationsof9andl2exllibitedthatl-methoxygroup directedelectrophilicsubstitutiontooccuratthe7-positionlncertainreactionconditions halogenationoflzisfoundtogenerate3a-substimtedpyrrolo[2,3-b]indoles(Z2-26).
3)Basedontlleabovefindings,anovelandgeneralsyntheticlnethodfor3a-alkoxy-1,Z,3,3a,8,8a-
hexahydropyrlDlo[Z,3-わ]indoles,suchaszz,Z3,andSO-3⑥,wasdiscoveredbysimplytreatingl2withiodineinmorpholineandanappropriatealcohoL
染井は、理想の合成法とは「独創率、知的財産率、実用化可能性率の数値が高く、原料、
標的化合物を含め、合成過程に含まれる全ての合成中間体が、薬理作用あるいは付加価値 の高い何らかの機能を持つ合成法」’)という哲学を提唱し、その実践として、「l-
Hydroxyindole仮説」洲に基く創薬を志向した長期展望の基に、indoleの化学を展開してき
ている。その結果、極く最近「かなり理想に近い-合成法」の実例を完成している。’)
筆者は、melatonin(1)を経由する第二例目を目指した「ほぼ理想的な合成法」の最終工
程の検討に加わり、骨粗議症治療薬として有望なSSH-BM化合物群を独自の知的財産と
して創造することに成功した。5)この事実は、SSH-BM化合物群を標的化合物群とする、
目的とした合成法の完成を意味する。
筆者はさらに、「第三の理想合成法」の確立を志向した長期展望上にあるpyrrolo[Z,3‐
6]indole誘導体群を合成するために必要な、独自の新反応を創造する、という課題にも挑 戦し、この難題に-つの解答を得ることに成功したので、これらの経緯を詳述する。
1.1位置換2,4,⑥-nibromomelatomn誘導体群の合成と骨粗;髭症治療に有望なSSH-BM 化合物群の誕生
筆者は、melatonin(1)を臭素化してN%で合成した2,4,6-tribromomelatonin(2)を原料に して、脂溶性をより高めた、1-acyl誘導体群(3-6)の合成に成功した(Schemel)。
Schemel
=〕○ 鐵。、○
94靴RIlilifWWIa(amoleG二コ
1J
二コ
じしI
麓M●R〕C
=〕○
Ⅷ吾〕C□≦rJHA:Ⅷ.;〕C早く:FJ脚バ
ア…:岬,。。、
さらに、Zの1位に3-bromopropyl,allyl,propaWl,benzyl,p-tOluenesulfOnyl基を導入した、
1位置換2,4,6-tribromomelatonin誘導体(7,8か.)を高収率で得る事にも成功した(Scheme2)。
化合物群Sa-dは、仮説の予言通り、骨芽細胞の働きを促進すると同時に、破骨細胞を 抑制する作用を持つことが判明した。二つの有益な作用を併せ持つ化合物は、現在までに 報告されていない。8a-dは、SSH-BM化合物群と命名され、骨粗髭症治療薬として期待
されている。
Scheme2
Ⅷ晋邸蠅纒鯉:’ 麹"晋靴蠅
螂L ImI書〕ら□〔!;卿…。…℃
nW靴峅繭昆帆。 雨Ⅷ::〕と甲〔{僻 ,h'。。‘Ⅶ脇ご゛老‘
2及びSは、勃起不能(ED)治療薬開発の可能性のある化合物(SSTLVED)群であり、現在 特許申請中である。また4-7にも同じ作用が期待され、その薬理試験は今後依頼する予定
である。したがって、我々の知的財産であるSSH-BM化合物群を標的とする、tryptamine
から1,Zを経由する、第二例目の「ほぼ理想的な合成法」の最終工程を完成した。‘)二.Sa-AlkoW亨1,2,3,3a,8,8a-heMhJdropyrroloIZ,3-,]indole誘導体の合成
「第三の理想合成法」の確立を志向し、標的化合物としてpyrrolo[2,3-6]indole誘導体群
を設定した。その合成に必要な独自の新反応を創造するため、またmelatonin合成中間体である/Vb-methoxycarbonyltryptamine(9),1-hydroxy-Nb-methoxycarbonyltryptamine(10)の付
加価値をさらに高める目的を持って、ハロゲンを置換した脂溶性誘導体の合成を試みた。Tablel
c颪f論涼灌W=:YI:WHw ̄
12 13141516牙琢罎學…輔苧b?〔I;竿蠣雰w〈(i…
17181920EntryBromine
(moIeq.) YieId(%)of
l4151617181920 13
123 720
●●●013 閉00 9浬0 0但0 130 057 950 800
7 10
OManySpots
既に筆者は、修士論文において、9,10,及び1-hydroxytrypminc誘導体である1‐
propargyloxytlyptamine(11)の臭素化を検討した。今回、AcOH溶媒中NaOAc共存下Br2を
用いて、l-methoxy-/Vb-methoxycarbonyltryptamine(12)を基質として、詳細な検討を行なっ
た。その結果、Tablelに示すように、各種の臭素置換体(1)20)の合成に成功するととも に、1位に酸素官能基を持つ基質(1⑪,11)と同様に、12もまた7位での反応性が高まって いることを確認できた。また、臭素の当量数を減らしたり(Tnblel,Entryl)、反応溶媒を 変える事により7位選択性がさらに向上することがわかり、7位monobromo体(13)を主 成績体として32%の収率で得られる反応条件を見出すことにも成功した(Scheme3)。Scheme3
繭!;i;i蒸亙燕;41園+霊
R=CH2CH2NHCOOMe 、H+c中〔:+曰W「㈲ ’96%21296
H+ +Recovery
★EtOHinCHCI3wasnotexcIuded. 11%
さらに、様々な試薬を用いて、臭素化を含むハロゲン化を検討した。その結果、目的と
するhexallydropyrrolo[2,3-6]indole誘導体が生成する反応条件があることを発見した。特に、
TableZに示すように、alcohol溶媒中、NCS,NBS,NISを用いてハロゲン化した場合には、
それぞれ対応する3a-halogeno-hexahydropyrrolo[2,3-Z,]indole体(型,ZS)及びそれらを経由す
る3a-alkoxy-hexahydropyrrolo[2,3-b]indole体(Z2,23)が生成する事がわかった。本反応の溶媒をCH3CNに変えることにより、3a-halogeno-hexahydropyrrolo[2,3-6]indole体(24zS)の
みを選択的に高収率で得ることに成功した(Entries8and9)。
Table2
oiザ螂涛蝋醐.鱸蝋艫噸.偲噸…
l20Me23oMe22oMe
OMeOEtBr24oMe25oMezeoMe
EntryHaIogenaUngReagentSoIvent(moleq.) ReactionTime(h) YieId(%)of TotaIYieId(%)
2322242526RecoveryorComments NCS(0.9)
NCS(0.9)
’1(1.0)
NBS(09)
NIS(09)
NBS(0.9)
Ⅱ(09)
1234567
MeOH
OI
II
VU
OI
曰OH
CHCI3
1221111
200’49029 20053022 4006407 59012003 58000033
0398009 036001111
::国早::
OOOOOO
07541688777955
NCS(0.9)CH3CNq5
8 87
NBS(0.9)
9伯 0.5 85
3a-Hydroxy(29):11%
UnknownProducts
NIS(09) Ⅱ 025
一方、基質を1-methoxy体(12)から対応するN(1)-H体(9)に変えてalcOhol溶媒中NCS,
NBS,NISとの反応を行なったところ、Table3に示すように、全ての反応において、3a‐
halogeno体の生成は全く認められず、3a-alkoxy体(27,28)がわずかに生成するだけであっ
た。即ち、9と12の反応性を比較することにより、indoleの1位がN-OMeであるか、NH
であるかで,反応性が劇的に変化し、異なる生成物が得られることがわかった。Table3
oEt NHCOOMe
SoIvent
、--
Halogenating Reagent,rt.
OMe
○ C
OMe orC
OMe +RecoveryEntryHaIogenatingReagentSolvent(moIeq.) Time(h)Reaction 27
Yield鑑)。fRecovery
TotalYieId(%)orComments
123456
NCS(0.9)
NBS(0.9)
NCS(0.9)
NBS(0.9)
NIS(0.9)
NCS(0.9)
ⅢⅡ酬酬酬い
曰曰MMMC 111111 5400001 00別7釦0 45266162323379 29 63、
33 76
2-ChIoroindoIe(3%),3‐
ChIOm-2-oxyindoIe(15%),
2-OxyindoIe(18)(41%)
Tarand ManySpots
7 NBS(0.9)CH3CN 1 0 0 0
次に、こうして得られた各種hexahydropyrrolo[2,3-6]indole化合物群の反応性の検討を行
なった。Scheme4に示すように、3a-cmoro-8-methoxy-hexallydropylToloP,3-6]indole体(25)
及び3a-bromo-8-metlloxy-hexahydropyrrolo[2,3-6]indole体(24)を、CH3CN-H20混合溶媒中 AgCNと反応させると、いずれも短時間且つ高収率で3a-hydroxy体(Z,)へと誘導できるこ
とがわかった。得られた沙を、NaHを塩基としallylbromide又はmethyliodideと反応さ
せると、それぞれ高収率で対応する3a-alkoxy体(30,羽)へと導くことができた。
ノ('
Scheme4
蝋Ⅷ尻淵:鶚蒜
OMeR=Cl(25)R=Br(24)
OHNaH(3moleq.), OR1
蝋Ⅷ芦L:;晉砦空憲旦蝋u:へ'
29.M.1F:蝋鱗 R'=Me (30):92%(鯛):94%したがって、沙を原料とすれば、本条件を用いて、任意のalkyl化剤、acyl化剤等との 反応を実施することができ、様々な3a-alkoxy-12,3,3a,8,8a-hexahydropyrrolo[2,3-6]indole誘 導体合成に活用できる可能性を見出した。こうして筆者は、当初の目的である、3a-halogeno
及び3a-alkoxy-1,2,3,3a,8,8a-hexahydropyrrolo[Z,3-6]indole誘導体群に適用可能な新規合成法
の開拓に成功した。
3.Sa-AlkoW-1,2,3,3a,8,8a-llexallydropyrrolo[Z,S-DIindole誘導体の新規一般合成法の創造
第2項で検討したハロゲン化の結果に基づき、12をalcohol溶媒中morpholine存在下、
10倍モルの沃素と室温下で撹拝するだけで、高収率で目的とする3a-alkoxy-8-methoxy-1-
methoxycarbonyl-1,2,3,3a,8,8a-hexahydropyrrolo[2,3-6]indole誘導体群(A型化合物群)を合成
する、実用的であり、新規且つ簡単な一般合成法の創造に成功した。Table4に示すよう に、本反応は、MeOH,EtOHを初めとして、二級アルコール、三級アルコール、ethyleneglycoL
2-chloroetllano1,allylalcohol,benzylalcohol,M-butanediolなど様々な構造を持つalcohol類 に幅広く適用出来、31s⑥などが得られることもわかった。さらに、この反応は塩基の存 在が不可欠であるので、様々な塩基を共存させて検討した。その結果、morpholineを用い た場合に、目的物のみをクリーンに、最も良い収率で与えることがわかった。
Table4
辮酬。
ORCprVWHcooMo..Ⅳ.、旧OH) 128M。12'cCvH(3m・IeqLrL
Solvent (ROH)
Eniry(燗i鴎)
Time(mIn)Reaction Product(A)R YieId(%)ofProduct Recovery(%) TotalYield(%)11.5 1260(21h)23)Me lO23)Me lO22)Et 2031)CHpH3)2 2032)C(CH3)3 90(1.5h)33)/、〆OH 2034)/、〆Cl 3030)/ヘジ
90(15h)3ヅVvOH
扣鋤へ。
/MeoH
MeOH EtOH
(CH3)2CHOH
(CHJ3COH
HO〆、〆OH Cr、-0H
/、/OH
Cr、。Ⅱ
HO/、/、-OH
36 妬000000000
23456789相 朋町卯加盟卯船切明 99999999881870020679
一方、上述の最適条件をⅣb-methoxycarbonyltryptamine(9)に適用して反応を行った場合
には、主としてタールが生成し、目的の3a-alkoxy-hexahydropyrrolo[2,3-6]indole誘導体を 収率良く得る事はできなかった。即ち、本反応においても1位がN-OMeであるか,NH
であるかで,反応性が劇的に変化することがわかった。
以上、3a-alkoxy-12,3,3a,8,8a-hexahydropylTolo[2,3-6]indole誘導体群を独自の知的財産且
つ標的化合物とする、「第三の理想合成法」の確立に一歩前進できた。【文献】1)a)染井正徳、有機合成化学協会誌,4⑪,387(1982);染井正徳、薬学研究の進 歩、研究成果報告集、1,45(1985);染井正徳、薬学雑誌、108,361(1988).b)M、Somei,F Yamada,YSuzuki,S・Ohmoto,mdHHayashi,肱remCycJbs,⑪4,483(2004).2)a)iI1- HydroxyindoleHypotlleses11wasfirstpresentedorally:MSomei,YKarasawa,S・Tokutake,S・
Shoda,FYamada,andC・Kaneko,13thCongressofHeterocyclicChelnistly、Shizuoka,Japan.,
1980,AbstractsPapers,p33;b)M・Somei,T、KaWasaki,YFukui,FYamada,T・Kobayashi,H Aoyama,DShinmyo,Hb花mCycに3,34,1877(199Z);c)M・Somei,YPilkui,比花川c〕〉cノビs,S⑪,
1859(1993);。)M・Hasegawa,M、Tabata,KSatoh,FYamada,andM・Somei,HbremCycノe3,43, 2333(1996).3)a)M、Somei,J、Sb'"Zノ@.OXg.C/ze肌,49,205(1991);b)M・Somei,肱花mCycノe3,50, 1157(1999);c)M・Somei,RecentAdvancesintheChenlistryofl-Hydroxyindoles,l- Hydroxytlyptophans,andl-Hydroxytryptamines、I、:ARKatritzky(ed),AdvancesinHeterocyclic Chemistly,82(2002),ElsevierScienCe,NewYork,plO14)倉内高志,後藤綾,谷本明日香,
林俊克,押切直樹,山田康司,山田文夫,染井正徳,第30回複素環化学討論会,八王子,
1999,要旨集,p、370;M、Somei,YFUkui,M、Hasegawa,NOshikiri,andT・Hayashi,
Hb花mCyc/e3,53,1725-1736(2000).5)染井正徳他、特願2002-183752,特願ZOO4-644lO8,特 願ZOO4280104.6)染井正徳、山田文夫、岩木貴子他、曰本薬学会第126年会、2006年、
仙台、にて発表予定。
薬学研究の進 b)MSomei,F OO4).2)a)iI1-
STokutake.S,
特
学位論文審査結果の要旨
申請者は、1-hydroxyindoleの化学を展開し、下記の諸成果を得ている。
1.工業原料のtIyptammeからmelatoninを経由して、骨芽細胞の働きを促進すると同時に破骨細胞を抑 制する骨粗髭症治療薬のリードとして期待されている、SSHBM化合物群の創造に成功し、染井の定義 する第二例目の「ほぼ理想的な合成法」を完成した。
2.1-MethoXyJVb-methoWcarbonyltlyptamme(A)等のハロゲン化に対する反応性を詳細に検討し、
indole骨格1位に酸素官能基を導入すると、7位の反応性が高まること、alcohol溶媒中NCS等と反応 すると、3a-alkoXypyrrolo[2,3b]indole体が得られること、溶媒をCH3CNに変えれば、3a-halogeno体(B)
が得られること、BをH20存在下AgCNと反応させると、3ahydroW体が得られること等、多くの有
用な新知見を見出した。
3.第2項で得られた基礎知見に基づき、Aをalcohol溶媒中、morpholine存在下、10倍モルの沃素 と室温下で攪拝するだけという、創薬のリードとして期待される新規な3a-alkoW-1,2,3,3a,8,8a‐
hexahydropyrrolo[2,3b]indole誘導体群を合成できる、実用的な一般合成法の創造に成功した。
以上、本論文は、indole化学における独創的な領域を開拓し、indole化学の進展に寄与するところ大であ る。論文審査委員会は、口頭発表の結果をも踏まえて、本論文が博士論文に相応しい内容を持つと判定した。