訪8 金 沢大学 十全 医学会 雑誌 第
8 4
巻 第4
号3 6 8‑3 7 7 ( 1 9 7 5 )
硬 膜 上 血 腫
〔
Ⅱ〕
血 腫 および硬 膜 の組 織 学 的研 究金沢大学 大学 院 医学 研 究科脳 神経 外 科 学 講座 (主任 :山本信二郎教授 )
吉 田 早 苗
(昭和50年4月10受付 )
硬 膜上 血 腫 の発生機序 に関 し,硬 膜動 脈 よ りの出血 fト9',あ るい は静脈性 出血 に よ るとす る報 告'0ト16)が あ る. しか し,硬膜上 腔 バ ルー ン圧迫法 に よ る本症 の動 物 実験 で は ,正常 の静脈圧 で は硬 膜 を頭 蓋骨 内面 よ り 剥離 す るに足 らず ,静 脈性 出血源 に疑 問 を抱 く者‑)ら あ る.自験
6 8
例 にお いて は ,脳 血 管写 あ るい は手 術 の 際 に ,出血源 が確認 されえ たの は1 9
例 にす ぎず ,他 の 症 例 で は ,手術 時 ,硬膜全 面 か らの溺漫 性 出血 と して 認 め られ た17).硬 膜上 血 腫 の出血瀕 と して硬 膜 が最 も重 要 な位 置 を 占め るに も拘 らず ,その出血 の機 序 お よび ,出血 後 の 組 織 反応 に関 す る研 究 は甚 だ少 く,わずか に
J one s
12),Kl i ngl er
ら18),お よびI wa kuma
ら1g)28)に よ っ て 亜 急性 期 か ら慢 性 期 の硬膜上 血 腫 の硬膜 の変化 が検索 さ れて い るにす ぎな い .本研 究 は硬膜 の組 織学 的検索 を基 に ,受 傷 後
3
日以 内 の急性 期例 を中心 と して ,手 術 時 に認 め られ た硬膜 よ りの溺浸性 出血 の意 義 につ き究 明 す ると と もに .さ らに硬膜上 血 腫 の形成 な らびに増 大機序 を解 明 しよ う と した もので あ る.研 究対 象 と方法
1 9 6 4
年 か ら1 9 7 4
年 11月末迄 に金 沢大学 脳 神 経 外 科 で 扱 った硬膜 上血 腫患 者6 8
例 中 ,硬 膜 標 本 の摘 出 で きた4 3
例 を対象 と した .年令 は
7
カ月 か ら7
1才 (表1
) で ,手 術迄 の期 間 は3
時 間 か ら4 6
日で あ り.2 4
時 間以 内 の もの は5 1 %,3
日以 内 の もの は
7 2 %
を b‑め る (表2)
.硬膜 採 取 部 位 は ,前 頭部4
例 ,頭 頂部2 1
例 ,側 頭部1 7
例 .後 頭 部2
例 で あ る.硬膜 摘 出模 本 は ,手 術 また は剖 検 時 に骨折 直下 ,あ るい は硬膜 裂傷部 を避 け ,また ,血 腫 と硬膜 の関係 を検索 す るた め血 腫 の一 部 が付 着 した ま まの状 態 で硬膜 の小片 を取 り, これ を直 ちに
1 0 %
生 食 ホ ルマリンで固定 した .標 本 はパ ラフ ィ ン包埋 後 ,厚 さ
5〃
の切片 と し,適宜連続切片 を作 製 した .その後全 例 に ヘ マ トキ シ リン ・エオ ジン染色
( H‑ E
染 色 ), マ ッ ソ ン トリク ローム染色( Ma s s on
染 色 ) を行 い,症 例 に よ り,ベ ル リン青 奥色 ,エ ラスチ カ ・ワ ンギー ソ ン染 色 ,鍍 銀 染色 を加 わえ た .結 果
Ⅰ.外 傷性硬膜上 血腫
1
.受傷後5
時 間( 40
才 男 , 頭 頂 部 硬 膜 )(写 真1)
: 硬 膜外層 の外1 / 2
,お よび内外 両 層 境 界 部 に , うっ血 した静脈 洞 を中心 と して 出血 巣 が散在 し,その 一 部 は融合 す る.出血 の著 しい両層 境 界 部 で は周 囲 の 腰原線維 に破壊 変性 を伴 い ,その中心 部 で は薄 い静脈 洞壁 が 出血巣 中 に曝 らされて い る.出血 の それ程 著明 で な い外層 で は ,腰原 線維 の変性 は少 な く.単 に線 維 間出血 に よ る線維 移開 のみで . この出血 は さ らに硬 膜 上 血 腫 へ続 いて い る.血 腫内容 には新 鮮 な赤 血 球 と .フ ィブ リン索 ,お よび これ に沿 って多 核 白血球 の浸潤 を見 る.硬膜 内層 に は うっ血静 脈 洞以 外 の変化 は認 め な い .
2.受傷後6時 間 : 6時 間例 は5例 あ るが,50才 未 満 の症例 で側 頭 お よび前 頭 部 よ り採 取 した 模 本 で は ,硬膜 表層 は線 維 間 出血 の ため牒原 線 維 が暖開 ,断 裂 して い る. この ため硬膜 表層 は侵 蝕 され , う っ血 の 著 明 な硬膜 内静 脈 洞 が血 腫 に剥 き出 し. これ ら変 化 は 硬 膜下 血 腫合併例 で特 に著 明 で あ る. しか しなが ら同 じ
6
時 間経過例 で あ って も,年令 が50才以 上 の側 頭部 お よび頭頂部 よ り採取 した2
例 の標 本 で は ,静 脈 洞 う っ血 をわずか に認 め る以外 著 明 な変 化 はな い .3
.受 傷後7
時 間 : 写 真2
は1 0
才 の頭 頂部 よ り採 取 した標 本 で あ るが,50才未 満 の6時 間経 過例 と同 じく.外層 お よび内外 両層境 界 部 に うっ血静 脈洞 中 心性
Epi dur alHemat oma
(11)Hi st ol ogi c als t udyofhemat omaanddur amat erSanaeYoshi da ,
Depar t me nt of Neur os ur ger y ( Di r e c t or : Pr o
f,S.Yamamot o)
,Schoolof Medi ci ne ,
Kana z awa Uni ver s i t y
.硬膜上血腫 〔Ⅱ〕
表1 硬 膜 の組 織学 的検 索対 象
年 令 外傷 性 硬 膜上 血腫男 女 合 併 性 硬 膜上 血腫 計
男 女
0 ‑
2
才1 1 1 2
3
‑9 1 2 3
1 0 ‑ 1 9 4 2 3
8 2 0 ‑ 2 9
1 1
1 2
3 0 ‑ 3 9 6 6
4 0 ‑ 49 6 9
5 0 ‑ 5 9 7
1 1 9
6 0 ‑ 6 9 2
1 3
7 0 ‑ 1
1 2
計
29 9
0
5
3 8
5 43
例表
2
受 傷 よ り硬膜採 取 迄 の時 間 経 過 時 間 硬 膜上 血腫外 傷 性 合硬 膜上併 性 計
血腫 受 傷 後
3
時 間以 内
6
例1
例1
例3‑ 6
時 間1
7
6 ‑ 9 6
1 1 1
1 7
9‑1 2 4 4
1 2‑2 4 3 3
2 4
‑48 5 6
48〜72
時間3 3
3
日〜 7
日7 7
7
日〜1 4
日1 2
1 4
日〜21
日21
日〜2 8
日46
日1 1 1 1 1
の斑状 出血
巣 が散在 し,周Bfl藤原線維 の破壊変性 を伴 っている.外層
うっ血静脈洞壁 の破碇部 が血 腫中へ開 口 し.破碇部 は
フィブ リン塊 で塞 がれて い る.
4.受傷後10時 間
: 硬膜線維 間出血 と線維 の 破 壊
変 性 ,および静脈洞の うっ血 は前述 の模本 に見 られた
3 6 9
と同様高度 であ る.硬膜 内層 の静脈洞壁 は破碇 し,こ の部位 か らの出血 は勝原線維 間 を侵 入す るとと もに硬 膜上血腫 に連続 している (写真
5
.受傷後1 3).
2
時間 : 写真4
は1 8
才 の 頭 頂 部 か ら . 血 腫 と正常硬膜境界部 を含 めて採取 した模本 で あ る . 血腫 と接 す る硬膜 および血腫の変化
は今迄 に述 べ た と 同 じ変化 を示 してい る.血腫附着硬
膜 か ら正常硬膜 へ の移行部 で は,大 きな静脈洞壁 が破
れ ,硬膜上腔 へ破 碇部が開口 してい る.
6
.受傷後1
日 : 写真5
は9
才 の頭頂部硬膜 模 本 であるが ,硬膜外層 の腰原線維 は膨化 し,硬膜上腔 フ ィブ リン
層 へ明瞭 な境界 な く移行 して い る.血 腫中 に は,へモ
ジデ IJン喰食細胞 .ヘモ ジデ リンの沈着 が あ り,析 出白血球 の大半 は リンパ球 であ る.
7
.、受傷後4 5
時間 : 写真6
は4 0
才頭頂部 よ り採 取 した硬膜 であ り,図1
は同標本 を5
〟毎 の連続 切 片 と し,O
IL,9 0
LL,3 0 0
FE,3 3 5
FL
,3 7 0
LLの各切片 の 模 写 で あ り,3 3 5
〝の切片 は写真
6
に相 当す る . 硬 膜 外 層 の 静脈洞壁 が破 れ ,そ こか らの出血 を フ ィブ リン索 が年 始状 に幾重
に も取 り囲 み ,出血 は全体 と して球状 を呈 す る.この球
は外側程血球 とフィ ブ リ ンが 密 に混 在 し,静脈洞 に近
い中心部 で は フ ィブ リン混入 は殆 ん ど な く血球 は一部抜
芦買⊂コ
硬膜上血腫 〔Ⅱ〕
表
3
硬 膜 お よび血腫 変 化 の年 令 比 較 (外傷性 硬 膜上 血 腫 )371
経 過 時 間
6
時 間7.
時 間8
時 間1 0
時 間2
日3
日4
日7【
症 例 番 号
41 42 2 4 40 48 25 46 47 30 2 9 27 5 4 34
33 22 44 52 45 3
年 令 l4750 60 1 0 31 42 1 3 53 36
51 6 9 57 γ1 21 8 1 3 48 9 5
血 腫 中 の 変 化 】 【iFへ
喰良細脂 脂モ チ
ンジ リ
新維 細
坐線 練 り新 線 維 蒜 一 細 窟 ン生 緒 細 節 坐 へ 緑野 モ 言、 ジ緒 細生 新 坐 菜 J I
胞線 胞 新語 新
生胞 生u‑
u 孟新
胞表 A胞血
生管
也 j J 管 J ?
外層細 胞 の増殖 + 1 + ・ ±
二W十ト 十
十
→静 脈 洞 う っ 血 十十 + + ≠ + 十十十十一十十十十 】
++ +
+
‑うっ血静 脈 洞 中
F心 性線維 間 出血 /十十 +.ト十十 十十 +十十
± + ∃ + + +.
十
十 硬 膜線維 の変性移 開 .断裂 + 十十 + + 十十 十十 十十 十十 十十 十十】 二 十 十一 」
十 十
¶頂部 よ り採取 した標本 (写真
1 2)
で は,硬膜上 に厚 い 新生膜 と骨新生 を認 め一部石灰化 を伴 う.これ らの変 化 は血腫および血腫 と接 す る
硬膜外層 にのみ認 め .そ の他 の層
ははば正常 であ る.また ,静脈洞 の うっ血 も 少 く,これ らは外傷性硬
膜上血腫 の場合 と非常 に異 な る特徴 であ る (写真
1 3
)
.考 察
Sc ha l t enbr and
2日によれば .硬膜 は謄原線維 に少 量 の弾力疲確 を混 ず る2
枚 の結合織性膜 よ り成 り,これ ら
2
層 の線維 は互 いに直角 に交 叉 して走 る.この弾力 線維 の量 は頭蓋底 の硬膜 に多 いが ,頭頂部 に は少 い . また硬膜内層 に
は内皮細胞 が層 をな して存在 し,各細 胞 の大 きさは
1 0
‑4 0
JLであ る.一方Ar endt
ら22)の新 生児か ら
9 2
才迄 の硬膜 の研究 によると,硬膜 が典型的 な2
層構造 を とるの は
1 0
才過 ぎてか らであ り,さ らに 年令示逸む につれ再 び均一化 す るとい う.他方Wi m.
mer
23'は上矢状静脈洞周辺 の硬膜 で は8
層 が 区 別 さ れ,この多層 の結合織 は静脈洞が圧迫 され るのを防止 す
ると説明 している.本研究 で対象 と したの は
7
カ月 か ら7 2
才迄 の前頭部
4
例 ,頭頂部21
例 .側頭部17
例 , 後頭部2
例 の硬膜 であ るが ,採取部位 による硬膜構造 に本質的差異 は見 られない. しか し
1 0
才未満,60
才 以 上 の硬膜 で は二層構造 は明瞭 でなか った .摘 出標本 は 小 さな硬膜 で血腫存在部位 の広 さに比 して極 めて小 さ く,それのみで必 ず しも硬膜全般 の変化 を物語 ると
は 言 えないが
,2
カ所以上 で標本 を採取 した症例 では同 一症例 で も同様 の変化 を示 した.
Kl i ngl er
らT8)は受傷後2 4
時間か ら71
日迄 の 硬 膜上 血腫の硬膜 を組織学的 に検索 してい る.受傷
1‑3
日 の新鮮例 で は急速 に硬膜血管 の充血 がお こり,硬膜結 合組織層 に変化 がお こる.すなわち,硬膜 と血 腫境界 部 に組織球 ,内皮細胞 ,マ クロファー ジが出現 し.細 か い毛細血管 も急速 に出現 す る
.1 5
日目には新生骨組 織 に墳 された肉芽組織 を硬膜上腔 に認 め ,そ こには
内 腔 の拡張 した血管 が密集 し,硬膜上 肉芽組織 の中核 をな して いる.この肉芽 組織 は時間の経過 とと もに厚 く 密 にな る.彼 らは これ ら一連 の変化
を慢性硬膜下血腫 にお ける.いわゆ る
' ' pa c hi meni ngi t
i shaemorrha gi c ai nt er na"
に類 す る変化 と見 な し,出血 に対 す る 硬膜 の肉芽形成反応 と解 してい る.
I wakuma
ら19)20)372 F≡ロ;
い る.一方
Mei r ows ky
ら24)は タ ンタル ム坂 で 頭 蓋 骨 形成 を行 い.硬膜上 に感染性 肉芽腫 を形成 した11例 につ き検索 して いるが ,その病理組織像 は血管 . リン パ球 ,プ ラズマ細胞 .線維 芽細胞 に富 んだ非特異 的肉 芽性寂 癌性組織 であ る.自験例 で も1
時 間か ら4 6
日に わ た って ,静脈洞充血 か ら厚 い新生膜形成 に至 る一連 の変化 を認 めた .これ ら変化 は外傷性 .手 術合併例 の 別 な く同様 に認 め られ るが .前者 の方 が その程度 は強 く,変化 は硬膜 内外両層境界部 に迄 及 んで い る. これ ら一連 の変化 は血 腫 に対 す る器質化過程 と解 釈 さ れ . 本質的 にはMei r owsky
ら24)の肉芽性搬 癌 性 組 織 と 変 わ りないが ,後 に述 べ る如 く,その早期 の硬膜 を中 心 とす る変化 は極 めて特異 な ものであ り.血 腫 の発生と増大 に大 きな役割 を果 す と考 え られ る.
Ar endt
ら22)によれば ,正常硬膜 で は腰原線維 走 行 状態 .線維細胞密度 な どに年令差 が見 られ るが ,特 に 線維細胞 の密度 および分布 に特徴 が あ る.全般 に硬膜 は線維細胞 に乏 しいが ,老人程 その傾 向が強 い .1 0
才 迄 の ほぼ全例 ,および3 0
才代初期迄 の多 くの硬膜 外層 に細胞 の豊富 な層 を認 め , これ ら細胞 は生 長期 にあ っ て は内骨膜層 と しての作用 を有 す る.自験例 で は これ ら細胞層 は血 腫器質化 の中心 をな して お り.時 に は核 分裂 を伴 う旺盛 な細胞増殖 を認 め ,細 胞 の豊富 な年少 例程器質化 は早 い.Jones‖)
によ ると硬膜動脈 はその外面 を2
本 の 硬 膜 静脈 に被 われて硬膜動脈溝内 を走 る.硬膜 血管 は .穿 通血管 を介 して硬膜外層 お よび内層 で ,それぞれ毛細 血管叢 を形成 す る25ト27). これ ら外層 お よび内層 の毛細 血管叢 は細 か く網 目状 に発達 してお り,外層 の ものは さ らに頭蓋骨 ,頭皮血管 と も連絡 を持 ち ,脳 頭皮循環 を形成 す る27).また .傍矢状静脈 洞部 で は .生理 的 に 動静脈短絡 が存在 し26)27),頭頂 か ら後頭部 の 硬 膜 外 層 には' ‑ Knaue l ar t er i en
''と呼 ばれ る蛇 行 した多数 の 分 枝状輸 出入血管 を有 す る血管構造物 が存 在 す る28‑29、これ らは硬膜 の血流調節 に重要 な役 割 を は た し , 特 に .動静脈短絡 は正常 の状態 で は閉鎖 して い るが .一 旦何 らかの原 因で硬膜 への血流 が増加 す ると短絡 は開 いて血流調節 を図 る.上述 の如 く硬膜 の血流供給 は非 常 に豊富 で .その構造 は特有 の形態 を有 し静脈系 の う っ滞 をひ きお こ しやす い.また .外 力 によ り中硬膜動 脈 が直接損傷 され ると,硬膜動静脈 の解剖学的関係 よ り容易 に動静腺 痛が形成 され .硬膜静脈 洞 の圧 は上昇 し,静脈洞 うっ滞 を生 ず る.
中川 ら30)は犬 を用 い硬膜上腔 バ ルー ン圧 迫法 に よ り 硬膜上血 腫形成時 と同 じ状態下 で頭蓋 内圧 克進 をお こ し.脳血流 障害 の研究 を行 って い る.彼 らの実験 によ
ると,脳圧 元進 とと もに脳裏静脈圧 は上昇 し,脳表動 脈圧 に近 づ く. しか し上矢状静脈洞 内圧 は上 昇 せ ず , 上矢状硬膜 内静脈路 の狭窄 によ り脳裏静脈 の虚脱 を防
ぐ. しか し
Lang
fitt ら31) .shapi r o
ら32)の猿 を用 い た実験 で は.頭蓋内圧 元進時上矢状静脈 洞内圧 も上昇 す る事 よ り,静脈洞 自体 が圧迫 され る事 もあ ると述 べ て い る.また,Al exander
33)は中川 らの実験 を裏付 け る臨床例4
例 を報告 して い る.す なわ ち.彼 の頭頂部 硬膜上血 腫4
例 で は,眼底静脈 うっ血 ,脳血管写上脳 循環遅延 を認 め ,硬膜 内静脈路 が血腫 によ り圧迫 され 静脈環流 が障害 され ると説明 されて い る.硬膜上血 腫 の場合 には,硬膜剥離 によ る脳頭皮循環 の障害 ,脳圧迫 によ る架橋静脈 の血腫縁 での屈曲 も加 わわ る.この際硬膜 の静脈洞 も脳表静脈 と同 じ循環動 態 を示 し,硬膜動脈 と静脈圧差 は減少 し,硬膜静脈系 うっ滞 に拍車 をか け ると推定 され る.また硬膜 の静脈 洞壁 は筋層 を欠 き,趣 く少量 の結合組織 と内皮細胞層 のみか ら成 るたが 4),血管周囲 の硬膜 腰原線維 の 支 持 を失 えば静脈壁 は非常 に もろ く.血流調節不全 のため 静脈 うっ血 が加 わわ ると壁 は容易 に破碇 す る.
自験例 の硬膜 を観 ると. うっ血静脈 洞 を中心 と した 多巣性 出血 と,出血周 囲 の牒原線維 の断裂 .峰 開 お よ び外層腰原線維 の破壊 が特徴 的で あ る. これ らの変化 は受傷
3
日以 内 の外傷性硬膜上血 腫例 に特 に著明 であ り,特 に硬膜 内外両層境界部 にお け る変化 は外傷例 に 限 られて い る.Gur dj i an
ら35)36)の頭蓋骨衝激実験 によ ると, 頭 蓋 骨 に陥没骨折 を生 じない程度 に衝激 を加 わえ ると,衝 激部 は内側 へ たわみ ,その周辺 で は 逆 に 外 側 へ た わ む .次 の瞬間反撃 で元 へ戻 るため頭蓋骨 は衝激部 を中 JLJこ広範囲 にたわむ .硬膜 が頭蓋骨 よ り剥離 し.硬膜 上血 腫 を形成 す る機序 に関 して は,Be
ll37)は受傷部 位 の ひずみ によ り.またCampbel
lら38)は 頑 竜 骨 と硬 膜 との接合部 での中断 力 によると主 張 し た. また ,Vaughan
39) ,vor i s
40)も.血 腫形成 に硬膜 の骨 か らの剥 離 を重視 して い る.検索 硬膜模本 中 ,血 腫縁 よ り採取 した1例 に,血 腫付着部 と正常硬膜移 行部 で静脈洞 の 硬膜上腔 への破碇 を見 たが .この像 は硬膜 が骨 か ら剥 離 し.外層静脈洞 が破 れ る事 を示 す もので あ る.以上述 べ た事 よ り,外傷例 で は弊断 力 が硬膜線維 の 多開 ,断裂 をひ きお こ し,その後 . うっ血静脈洞 よ り の出血 が さ らに線維 の移閑 を増 強 し, これ らが著明 な 硬膜外層 ,お よび内外境界層 の変化 を きた した もの と 推定 す る.従 って ,頭部 へ の直達外力 によ る静脈洞破 碇 お よび牒原線維 唾関 に .脳圧 元進 とそれに伴 う硬膜 循環動態 の変化 が加 わわ り,硬膜 内出血 巣 は順次拡大
硬膜上血腫
〔Ⅱ〕
し.出血性硬膜 になると推定 され る.また.硬膜内静 脈洞か らの出血が破壊 された腰原線維問を押 し分 け硬 膜上血腫へ続 く像 も見 られ ,この出血 も血腫増大 およ
び硬膜易出性 に関与す る.
硬膜上血腫に接す る硬膜 は一般 に著 しく易出血性 で ある.また ,しば しば拡張 し穿破 した血管 に接 して新 旧の出血巣 が年輪状 に垂 ってお り, しか もその最内側 部 は空虚である.この所見 は.出 血 が 間 歌 的 に お こ り, しか もその最内側 に位置す る最新 の ものは手術時 に未だ血液流動性 を保 ち,標本採取 の折 に血管 の破碇 部 を通 して流出 した ことを示唆す る.血腫の中 に新 た に出血 して破碇血管 に接 して球状年輪状 の構造 をつ く ることは.高血圧性脳出血 において も見 られ て い る
41).頭蓋内圧が異常 に高 いときは,それ 自体間歌的 に 強度の高 ま りを生 じ.またそれに同期 して血圧 も高 ま
る.かか る頭蓋内圧および循環 の変動が ,硬膜か らの 間歌的出血 を来す要因の一つ と考 え られ る.
このよ うに血腫増大が続 けば,硬膜上腔圧 は高 くな り,さらに これが静脈圧 を越えるようになれば ,静脈 洞破碇都を介 しての新鮮血腫の逆流 もお こり,静脈洞
うっ血 はさ らに強 くなると推定 され る.
硬膜上血腫には動脈性出血の他 .特殊構造 を有す る 静脈洞か らの出血が大 きな位置を占め.従 ってその止 血 には他の組織 に見 ない工夫が必要 で あ る . Raaf7)
は.硬膜上血腫の硬膜か らの出血 は他 の開頭操作 の場
3 7 3
合 よりも強 くお こると述べ ,外頚動脈結勢 や硬膜 吊 り 挙 げ等 によって もこの出血が止血 されぬ場合 には,硬 膜 を一旦切 り離 し,その後再縫合す る事 をすすめてい る.自験例 では,静脈洞部か らの出血 のみな らず .硬 膜動脈領域の血腫で も,多 トレフィン開頭法 によ り硬 膜 を骨窓縁へ吊 り挙 げ庄着す る事 によ り,止血 と血腫 再発阻止 の目的が果 された17)42).硬膜 吊 り挙 げ は硬 膜 線での血管屈曲を修復 し,静脈環流 を促進 す るもの と 考え られる.
硬膜上血腫形成 およびその後 の機序 を図
2
に模式図 で示す.頭部外傷 により,殊 に頭蓋骨 々折 を生 じこれ が硬膜動脈 と交叉す る際 ,最 も容易 に損傷 を こうむ る のは動脈 に沿 って走 る静脈洞であ り,また ,骨 と連絡 す る小動脈であろう.一旦硬膜 の剥離 と血腫が形成 さ れ ると.硬膜 の圧迫 と屈曲のために局所的静脈圧 は上 昇 し,静脈洞の うっ滞がお こり出血 を促進 させ る.ま た,血腫が或 る容積 を持 ち頭蓋内圧元進 の原因 となれ ば .脳頭皮循環障害 による静脈系の圧 を増長 させ .こ こに出血 と脳障害 の悪循環 を形成す ると考 え られ る . 手術の際に見 られ る瀦漫性 出血 ,あるいは模本 に見 られ る硬膜か らの間歌的出血 の所見 も上述 の機序 によっ て最 もよ く説明 され得 よう.
結 論
1 9 6 4
年か ら1
1年間に金沢大学脳神経外科 で手術 され図
2
硬 膜上 血腫 形成 後 の変化外 傷
硬 膜 血 管
損 傷
\
硬 膜 上 血 腫
/ I
洞 損 傷 +硬 膜 剥 報
1
静 脈 洞 よ りの 間 敬 ‑̲丁 二 一<
1
硬 膜 の 出 血 性 高 ま る 破 碇 静 脈 洞
を介 して
血腫
3 7 4
士ロた外傷性硬膜上血腫
5 9
例 の中の3 7
例 ,および手術 に合 併 した硬膜上血腫9
例 の中の6
例 につ き血腫並 びにそ れに接する硬膜の組織学的検索 を行 い,その変化 と出 血の機序 について検索 した.1
.血腫形成後の硬膜の変化 は.外層細胞 の増 殖 . うっ血静脈洞 と静脈洞周囲の多巣性 出血 ,および,硬 膜線維の移開 ,断裂変性であり, 5
時間ですで に認め ら れ,時の経過 とともに血腫器質化は進む.2
.硬膜静脈系 は一般に動脈を挟んで位置 し,静脈 洞の構造を持 ち,壁 は筋層 を欠 く.静脈洞周囲の硬膜 腰原線維 は静脈洞壁の重要 な支持組織であ り,これの 破碇 は静脈性出血を きた し,血腫形成の重要 な原因 と なる.3.
受傷後4 5
時間内の硬膜 は全般 に易出血性で ,同 部標本 には硬膜外層破碇静脈洞よりの年輪状出血像が 見 られ,間歌的出血の存在を示す.4
.硬膜上血腫の多 くは,小動脈損傷の他 .硬膜外 層静脈洞 よりの問歌的出血 によって形成 され る.一旦 血腫が形成 されると,血腫の拡大 による新 たな血管の 損傷の他 ,静脈圧の冗進 によって静脈性出血の傾向が 高 まり,血腫増大 と脳障害の悪循環 を形成す る.稿 を終 え るに臨 み .御指導 ,御校 閲 を賜 わ りま した恩 師 山本信二 郎教授 .伊 藤治 英講 師 に心 か ら御礼 申 し上 げ ます .
また ,組織学 的所 見 につ き御指 導頂 きま した第一病 理 学教室梶川欽一 郎教授 に心 か ら御礼 申 し上 げ ます .
文 献
1 )For d,L.E.
&Me La ur i n.氏.L.:∫ .Ne ur o‑
s ur g.
,20,760 ( 1 963) .
2) Ga I I aghe r ,I .P.
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写 真 記 号 説 明
B:
血 腫附善部 と正常硬膜 の境界C:
石灰沈着D :
硬膜F:
フィブ リン H :硬膜上 血腫MA :
硬膜動脈NB
:新生骨 NM :新生候NV
:新生 血管VS
:硬膜静脈洞写 実 説 明
写真
1: ( 4 0
才 男 受傷後5
時 間)硬 膜 外 層 , 内 外 両層境界部 に うっ血静脈 洞 を中 心 と す る 出 血 巣 あ り.出血 の著 しい部位 で は,腰原線維 は血球侵 入 の た め曝開断裂 して い る.血 腫内容 は新鮮 な赤 血球 , フ ィ ブ リン.多核 自血坪 よ り構成 され る.( H‑ E
染色 ×48.
7)写実 2:
(1 0
才 男 受傷後7時 間) 硬 膜 外 層 の う っ血静脈洞壁 が破 れ ,破碇 部 は フ ィブ リン塊 で塞 がれ37 5
て い る.
( H‑ E
鞄色×7 8. 2)
写真
3 : ( 3 6
才 男 受傷後1 0
時 間) 硬 膜 内 の 静 脈 洞壁 が破碇 し, ここよ りの出血 が 硬 膜 線 維 間 を侵 入 し,硬膜上血腫 へ連続 して い る. ( H‑ E
染色×1 2 2. 2)
写真4: (1 8
才 女 受傷後1 2
時 間 ) 血 腫 附 着 部 と 正常硬膜境界部 よ り採取 .両者 の移 行部 で大 きな静 脈\ 洞 が破 れ硬膜上腔 へ開 口 して い る.( H‑ E
染色 ×48. 7)
写
実 5: (9
才 女 受傷後1
日)硬 膜 外 層 腰 原 線 維 は膨化 し,明瞭 な境界 な く硬膜上 フ ィブ リン層 へ移 行 す る.血 腫中 にはヘモ ジデ リン喰食細 胞 , リンパ球 の析 出が 目立 っ .( H‑ E
染色×97. 7)
写
実 6 : ( 4 0
才 男 受傷後4 5
時 間) 外 層 静 脈 洞 破 碇 部 よ りの出血 を フ ィブ リン索 が半球状 に取‑り巻 く . 出血 は静脈 洞 に近 い程新鮮 で , 問 軟 性 出 血 を 示 す .( H‑ E
染色×7 8. 2)
写
菓 7: (7
カ月 男 受 傷後3
日) 硬 膜 外 層 細 胞 は増殖 が盛 んで ,細胞多形性 と核分裂像 を示 す .血 腫 中 に新生血管形成 を認 め る.( H‑ E
染色×1 56. 4)
写実 8 : (9
才 女 受傷後7
日)血 腫 中 に 直 径40
‑6 0
〃の内腔 の空虚 な新生血管 が豊富 に見 られ る .(鍍 銀染色×1 9 5. 5)
写
実9: ( 3 8
才 男 受 傷後2 0
日)血 腫 中 に , 硬 膜 に接 して内腔 の大 きな新生血管 を中心 に新生 骨形成 を 見 る.( H‑ E
染色×1 53. 9)
写
実1 0: ( 40
才 男 受 傷後4 6
日)硬 膜 上 に 厚 さ2 mm
前後 の新生膜形成 .ここには壁 の薄 い新 生 血 管 , 線維細胞 ,形質細胞 ,ヘモ ジデ リン喰食細胞 が豊富 に 見 られ る.(ェ ラステ ィカ ・ワ ンギー ソ ン染色×9. 8)
写実1 1: ( 5 2
才 女 発症 後8
日目) 硬 膜 外 層 よ り 血 腫中へ線維細 胞 が増殖 し,新生血管形成 も盛 んで ある.
( H‑ E
染色×97. 7)
写
実1 2: (1 6
才 女 発症 後2 2
白目)血 腫 中 に , 壁 の薄 い新生血管 を中心 とす る新生骨 形成 が あ り,一 部 カル シ ウム沈着 を伴 う.( H‑ E
染色×97. 7)
写真1 3
:写真1
1と同 じ症例 ,血 腫 によ る変 化 は , 血 腫 およびそ こに接 す る硬膜外層 にのみ見 られ .硬膜 内 層 .お よび内外両層境界部 は正常 で あ る.(H‑ E
染 色×48. 9)
3 7 6
芦岩仁コAbstract
Hi s t ol ogi c als t udi e s oft he e pi dur a lhe ma t oma a nd t he dur a ma t e r we r e done i n 4 3 c a s e s t r e a t e d i ■ n our c l i ni c f r om 1 9 6 4 t o 1 9 7 4 .
1
) I n t he dur a ma t er c over e d wi t h he ma t oma ,t he c ha nge s we r e t he c el lpr oト i f e r a t i on i n t he out er l a yer oft he dur a ma t e r ,t he mul t i pl e i nt r a dur albl e e di ng wi t h c onge s t e d ve nous s i nus e s ,a nd br oke n,S e par a t e d a nd de ge ner a t e d c ol l a ge n Bber s .The or ga ni z a t i on pr oc e s s of̀ he ma t oma pr oc e e de d a c c or di ng t o t he l e ngt h oft i mef ol l owi ng i nj ur y.The s ehi s t ol ogi c alc ha nge swe r ef ound i n t heout e r l a ye r a nd t heboundar y z onebe t we e n t he out e ra nd i nne rl a ye r si n t het r a uma t i c c a s e s . Ont he ot he r ha nd,t he c ha nge s we r e l i mi t e d onl y t o t he out e r l a yer i n t he c o‑
mpl i c a t e d c a s e s s e c ondar y t o ne ur os ur gi c alope r a t i ons .
2 )Thedur ama t ere xa mi ne dwi t hi n4 5hour sa f t ert r a umawer ever yhe mor r ha gi c . Some oft he m s howe d a n i nt er mi t t e ntbl e e di ng f r om r upt ur e d s upe r f ic i alve nous
Sl
nuS e S .
3 )Thepr i nc i pa ls our c eofhe mor r ha ges e e me d t o bet heve nouss i nus e s ,s i nc e t he s t r uc t ur e wa s l a c ki ng i n mus c ul ar l a yer s .
4 )Thee pi dur alhe ma t omai spr oduc e dbyt hebl e e di ngf r om r upt ur e d s uper Bc i a l
ve nouss i nus e sa swe l la sf r om s mal lme ni nge alar t er i e s .Ast hehe ma t oma e nl ar ge s ,
t hedi s pl a c e me ntoft hedur aa nd t hei mpai r e d c er ebr alc i r c ul a t i on s e e m t o i nc r e a s e
t he ve nous pr e s s ur e oft he 、dur a ma t e
r.Thi s ma y i ncr e a s e t he dur alhe mor r ha gi c
t e nde nc y,r e s ul t i ng i n a vi c i ous c i r c l e
硬膜上血腫
〔 Ⅱ〕
378 吉