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点眼しiこスルフ.ミン剤の前房内 移行に関すろ実験的研究
第1報 アセトスルファミン水溶液について
金沢大学医学部眼科学教室(主任 倉知歌授)
栖 田 晃
A!転プごz Siitla (昭和28年7月17日気附)
(本論文の要旨は昭和26年11月 ,第5回北陸医学会にて発表した)
緒 Do1盤gh(1935)が,プロントSk ・一ルが溶連 菌に対し偉:効を発揮することを報告して以來,
化学療法剤としてのスルファミン剤(以下ス剤 と略称)は驚異的発展をとげたが,今日なお新 製品が発表せられつつある.
眼科領域でも,叉,ス剤は各種の感染性疾患 の治療剤として極めて広く使用されており,ヒ れに関する内外の文献は彩しい数に達してい
る.而して,ス剤の種々な投与法に際しての眼 組織中に.おける分布や消長は治療上重要な意味 があり,これに関しても多数の研究が発表さ れてV・る.艮pちRambo 19)(1938),Mengel 15)
{1939),:Bellows及びChinn 2)(1939)氏等を始 めとし,:B.Antosis i)(1939),Venco 23)(1939>,
Pinkhof is)(1940),:Luo及びS. Y. P an N)(工9 40), K. Meyer 6) (1941), S. Y. P an )(1941),
J.Guyton 5)(194・1), H. G. schlie及びB. F.
sonders 22)(1941), J。 M. Robson及びw.
言
Trebick(1942), M. Rochbeck 2i)(1950)氏等 の他,船石4)(1940),勝見9)(1942),川村10)
(19斗3),竿井6)(1952),桐沢及び挙井11)(1952),
藤野3}(1953)氏等の研究がある.しかし,そ の内ス剤点眼後の眼内移行について論じたもの は少なく,Mengel,:B. Antosis,:Bellows及び chinn, Pinkhof, Luo及びs. Y. P,an, J.
Guアto皿, M・Rochbeck,勝見,桐沢,藤野氏等 はこの点に関して実験的観察を行っては:お・る が,多くは簡軍で,特に長時間に亘り経過を追 究したものは稀である.而も,点眼後の眼内移 行の時間的経過を知る■とは,我々がス剤を点 眼藥として使用する際必要なことである.
よって,私は,先ず,一般に使用せられてV・
る水溶1生ス剤の点眼後の前房内移行歌況につき 実験的観測を行ったので,その成績を報告しだ いと思う.
実 験方法
実験動物としては,体重2kg前後の成熟白色家兎を 用い,当教室の種物小屋で1週間以上鯛育した後,そ の健康であることを確かめて,これを使用した.
ス剤としては,レギオソ・デトリウム(大目本製藥)
(以下R・N・と略称)を選び,蒸溜水を以てその5%
(1 il:7.4),10%(1 H=7.8)及び20%液(PH=82)
[ 1 ]
を作り,1眼に各kのO・1ccを点眼した.一定時間蟹,
充分にチアン兼水で結膜褻を洗源し,ツベルクリン注 射器により,角膜輪部より前房水を吸引,両眼合せて 約0.5ccを採取した.この際,動物の固定には頭だけ 出る筒朕の固定器を用い,何らの麻酵をも行わなかっ
た.
なお,前房水採取に当り,虹彩或いは水晶体を障害 したものは,すべて実験よb除外した,また,藥物を 結膜嚢内に充h行きわたらせるためと,眼裂外への流 出を防止するため,点眼後約3分間眼瞼を適当に保持
した.
ス剤の定量はWerner氏法24)によった,
即ち a)試 藥
1)Werner試藥;7ccの濃硫酸を含む100ccの 温水に39のPara−d三methylami皿obenzaldehyd(武 田藥品工業,分析用)を溶解したもの(呈色試藥)
2)5%3塩化酷酸(除蛋自用)
3)2N−NaOII及びN/4一:NaOII(中和用)
b)測定方法
5%3塩化酷酸1・6ccを振動しながら,これに緩徐 に探取前房水O・4ccを滴下し,20分聞放置して蛋軍紀 を沈澱せしめ,その液を緻密な濾過紙で濾過する.
濾液1ccを2N−NaOIIでag it中和し, i欠いでN/4−
NaOHで1)H 7.0にした後,蒸溜水を加えて1.8ccと する.これに0・2ccのWerner試藥を加えて,発生
する黄色の吸牧係数を,5分間後に,LeifoのPhote−
meterで比色測定した,光源には附属電球を用い,被 検液を入れる礁子槽としては小硝子槽を選び,これに 対する牙割プリズムはG号を使用した.
Fi]terとしてほ,予め10mg%R・N・水溶液につ き上記の操作を行った後,各波長の:Filterを用いて 吸牧係数を測定して,最高値を示した445号を使用し
た.
実験測定は,先ず小硝子槽の被梅回暦を1,2或い は4糎として,各kの吸牧係数を計測し,それから硝 子槽の吸牧係数を引いた上,2及び4汁液暦のものか ら夫k1掘液層値を算出,かくして得た1糎液二値3 個を李均したものを,その時の計測値とした.
標準線 同一条件により,R・:N・水溶液10,5,2 及び1mg%のものを調製し,その各液1ccに3塩化 酷酸溶液4ccを加え,2:N一一:NaOII溶液で申和した後・
全量を9ccになるよ5に蒸溜水を加え,その各々に Werner試藥1cc宛を加えて,5分後に発生する色調 の卵焼係数を測定した.前房水,蒸溜水のみを同様に 操作して吸牧係数を測定すると,前房水の吸攻係数は 蒸溜水のそれよりもO.003多いので,これをR・:N・
液のものに加えたもので標準線を作った.
この程度の稀釈濃度では,吸牧係数と濃度との関係 は:Lambert−Beerの法則に合致し,從って標準線は 略it一直線をなした(第1図),
第1図 標 準 線
B・7
吸06
牧
0石
係
数e4
O・5
O・2
gl
第 1 表
R
歯磨 液
濃 度
(mgO/e)
10 5 2
1
吸牧係数
O.670 0.340 0.145 0.080
前房水
1 o.olse12 545 67
濃 度
s s le
mg %
点眼したスルファミソ剤の前房内移行に関する実験的研究 857
実験成績
遊離型のみを測定したものであり,可なりの 個体差が見られる.点眼後各時聞における前房
水中のR.N.量測定値は第2表に示した通り
である.
第2表 レギオン・ナトリウム水溶液点眼後の前房水中の含有量(mg%)
R.N.
濃度
20a/o
1一一一一
100/o
1 一一一丁一L一
se/.
動番 三号 1 2 3 4 5
点眼後探取迄の時聞
・四分鯉時劇3副4劇5囎
6時間1李均1
1
2 3 4 5 李均
1.5 1.5 1.5 1.O O.8 1.26 1
2 3 ZF均
2.7 2.5 2.3 2.3 2.0 2.36
4.0 3.3 2.5 2.3 2.3 2.88 2.5
2.5 2.3 1.7 1.5 2.10
i 2.5 2.5 2.3 2.3 2.3 2.38 O.7 1 O.5 0.5 1 O.2 0.2 1 O.2 0.43 1 O.30
7.5 7.5 6.8 5.7 5.7 6.64
5,. 1
5.1 4.5 4.2 4.2 4.62 3.0 2.5 1.7 2.40
4.5 4.5 4.0 3.0 2.8 3.76 4.5 3.7 3.6 3.3 2.8 3.58 1.5 1.O O.5 1.33
2.3 2.0 1.5 1.5 1.5 1.76
2.5 2.5 2.3 2.0 1.8 2.22
O.5 0.5 0.2 0 0 0.24 O.5 0.5 e.s O.2 0.2 e.38 O.5
0.5
0 1
0.30 F
O.5 0.5 0.5 0.2
0 0.34 O.5 0.5 0.5 0 0 0.30
この平均値を・曲線で示すと第2図の如くにな 即ち,点眼液の濃度が大となるほど前房水へ
る. の移行量も大とはなるが,移行量の増カロ度は点
第2図 v三三ン・ナトリウム水浴液 眼液濃度の増大に比例せす,高濃 点眼後の前房水中の含有量 度になるに從V・,移行量の増加度 引−一論撚:欝 は小となる傾向のようである.前
m肖 20%R聴 話中吠離は点臓略激
とも2時聞後に見られ,その値は
含7
,、 へ 5%液では2・4mg%,10%液では
量6
@ /・ 4・62mg%,2・%灘は664mg%
S N、 であるが,10及び20%液では30分
ぴ セ
4 ・ 後に既に相当:量の移行が認められ
も, る.而して5%液では4時聞後,
3
/ 10及び20%液では5〜6時間後,へ
2 /\ 前励中の舖鄭勧て徽に
1 / \\ なって了う・
〆.、 ノ \ 一一 副作用は,5及び10%水溶液で 015M甜M IH 2H SH
4H SH
点眼後の時聞
SH
は皆無だが,20%液では1〜2例
[ 3 ]
に結膜充血,毛様充血,結膜浮腫などが認めら れた.
考 從來,ス剤の眠組織申への移行量を測定した 報告は多いが,その大多数は全身的投与による 場合であり,又ス剤の種類,投与量:,投与方法 などが夫々異なっているので,それらの結果も 一律ではない.
その中で時間的に経過を追って観察したもの
について見ると,Bellows及びChinn氏等2)
(1939)は犬を用い,0.29!Kgのスルファミンを 経口的に与え允場合,その前房水における含量 は投与後2時問より3時間にかけて急激に増加
し,4〜6時間後に極大値(前房水::1 1 .6m9
%)に1達するといい,叉B.Antosis氏(1939)
は家兎を用い,0591K9のスルファミンを経:口 的に与えて3〜4時間後に極大値(前房水=5〜
8mg%)を示すき述べている.
葛谷氏1・a)は,人t/C,スルファミン7スルフr
チアゾール或いはスルファピリヂンを夫々1g
宛内服させ,結膜嚢内の濃度は投与後・・1時間で 最:高となると称し,又K.A. Reiser氏2⑪)は:,0.059/Kg Cibag. olを経口的に与えて涙液中への 移行量は内服5時間後に最大値を示すと記述し
て:いる.
船石氏4>はプロントジールを0.1/Kgの割に,
叉桐沢及び卒井氏等11)は10%スルフアジアジ ン液及びその:Na塩溶液を0.19/Kgの割に,
家兎耳出向内に注射して,いすれも前房水申へ の移行は注射後5分にして既に証明され,30分
〜1時間後に最:大値に達すると謂う.
ス剤の局所的使用の際には如何かというに,
M.Rohbeck氏21はAlbucid−Na., GIobucid−Na.
及びProntosil solubileについて賦し,前房内移 行の最:高値は点眼後60分以後に現われるとい い,藤野氏はppropyleneglycol, Glycerin及び 蒸溜水で非水溶性ス剤の10%液剤を作り,家兎
眼に点眼して,前房水中のス剤量を測定した
が,水振合剤では点眼後1時闇で0・7mg/100cc按
となり,1 ropy】eneglアcol及びGlycerinでは 30分で夫々0.9mg!100cc及び0.58m9/100ccと なって,V・すれも〜騙れらカミ最禧剛直であったと述 べてv・る.
私の成績では,藤野氏のものより,前房水へ の移行量は多いが,最:高値に達する時聞はわく れていて,点眼後2時聞であった.
その理由について考按するに,私の場合は:水 溶1生ス剤であり,叉私は点眼後,約3分聞縄え す眼瞼:を動かして特に角膜を潤したので,比較 的多量のス剤が結膜,角膜及び輩膜に移行し,
これが徐々に前房中へ浸出したためではないか
と考え,られる.
前房内移行量については,pinkhof氏1s)(19 40)はSuKanilamidopyridinを用いて心し,
その脳内移行は認め得なかクたと称するに反
し,W. G. Mengel氏1「 )(1939)は人Bafiの盲眼
でズルファミンのα8%水溶液を点眼して,房 水中にその痕跡を認め得たといい,S・Y・P an 氏 i7)(19斗1)は家兎を広い,結膜面内にスルフ
ァミンの粉末を撒布して,前房水輪への移行
(4.5〜44.4mg%)は明らかに証明出來るとして
v、る.
私の成績では40m9%ほどの高濃度ではなV・
が,5,10並びに20%レギオン・ナトリウム水 溶液の場合前房水中の含有量の最:高イ直は夫々
2.4mg%,4.62mg%,6.6斗mg曳6一(: あった.
勝見氏ll)は豚の腸聞膜及び角膜を間膜とし て,R.:N.溶液のイオントフtレーゼを行V、,
R.N.溶液は解離して反対側に移行するtと
を証明し,濃度の大なる程,移行:量は大である が,しかし移行率は反対に濃度の小なる程,大となると述べ,MRohbeck氏21)はAlbucid−
Na, Glebnc{d−Na, Prontosil solubileに:つV・て:,
点眼後60分間のみの観察を行って,明らかに滲 透圧が高い程,移行:量が大であり,叉,酸性よ
C4)
点眼したスルファミソ剤の前房内移行に関する実験的研究 859
りはアルカリ性の時は移行量が大ではあるが,
氏の測定PH域内では大差がなかったといって
v、る.
私の実験でも濃度の高い程,移行量は大であ るが,点眼液の濃度の高くなる割には前房水中 の濃度の上昇は著しくない.
ス剤の前房内移行:量については,Mengel氏 15)は点眼よりも内服の方が大であるといい,叉 桐沢及び李井氏等11)は点眼回数によってその移 行量が異なってくると述べてV・る.
局所的投与後,前房水中に移行したス剤がヒ れより浩失する時間については,Guyton氏「 ) は25%Neo−prontosil l ccを球結膜下注射し,
1時闇15分から3時闇の聞に最:高値(1.Omg%)
に達するが,7時闇後には認められなくなると いV・,藤i野師3)は水翻合剤及びGlycerin溶媒 の場合は点眼後6時間目に消失したと述べてい
る.
私の実験では,5%液では4時闇後,10及び
20%液では5〜6時聞後にもなお微:量ながら槍 出可能であったが,3時間以後では10%と20%との聞に殆んど差違は見られなかつ:た.
井面氏7)は既に他の官記vaつき,結膜嚢内で は点眼藥の低濃度よりも高濃度の方が滞留時間
が長く,時聞的に濃度も高く残って:V・ると述べ ているが,その間の事情はス剤においても同様 であろう.
ス剤使用に当っては,成るべく早期に大量を 用うべきであるといわれており,とれは血液内 の藥剤濃度を速に上昇せしめるだめであるが,
更に有効濃度を常に保持することが大切とされ て:いる.ス剤の血中有効濃度12)はスルファミ
ン,アセトスルファミンは8〜15m9%,スル
ファチアゾ{一ルは:4〜8mgO/o,サルファダイア ジンは8〜15mg%だとされ「〔いるが,かかる 襯点からすれば前房内で有効濃度を保つために は20〜30%溶液の点眼が必要となる理である.しかし副作用の面から観察すれば,M. Rohbeck
.氏21)は:Albucid, Globucid及びProntosil水溶 液では30%以上の場合,角膜障碍を起し易V・と いV・,叉岩永氏はアセトスルファミンの約3・6
〜3.8%の溶液が涙液と等張であり,30%以上 では著しい高張のため,長時間接触していると 角膜水腫を起す傾向があると述べているが,私
の成績でも20%R.N.水溶液では点眼時に軽
度の副作用の認められた例もあるので,かかる 高濃度のものを使用する際には障碍の有無につ V・て注意を怠るべきでなV・.結 私はレギオン・ナトリウム(大日本製藥)の
5%,10%,20%水溶液各々0.lccを家兎眼に 点眼して,主恩の前房内移行を経時的に,
Werner氏法によりLeifoのPhotometerを用
いて比色定量した.その結果は,
1)前房内移行量は,点眼液の濃度が大なる 程,大である.
2)前房内含有量の最:高値は,5%,10%,
20%液共に点眼後2時聞に見られ,その値は夫
魏
々 2.4・lng%, 4.62mg%, 6.64mg% である.
3)前房内含有量が極めて微量になるのは5
%液では点眼後4時間であるが,10%及び20%
液では5〜6時間である.
4)20%液では,点眼の際軽度の副作用が
認められた例がある.稿を終るに当り,倉知敢授の御指導と御二三を深謝
する.
主要文献
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[ 5 ]
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