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学位論文題名研究開発におけるネットワーキングと戦略

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Academic year: 2021

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博 士 ( 経 営 学 ) 石 田 修 一

     学位論文題名

研究開発におけるネットワーキングと戦略

〜リチウムイオンバッテリーの研究開発事例より〜

学位論文内容の要旨

  本研究の第一の目的は、研究開発における知識の生産活動のネットワーキングにおいて、

知識が進化し製品化にいたるまでの一連のプ口セスを、進化論的な枠組みを用いて分析する ことにある。また第二に、知識の生産活動のネッ卜ワーキングに参加している研究開発主体 の研究開発戦略が、知識の進化にいかなる影響をおよぼしているかを事例研究と定量研究に 基づいて分析することにある。

  そのために先行諸研究に基づいて構成概念を整理した上で、分析枠組みを提示する。その 後、事例研究や特許データに基づく定量研究を通して知識進化を促進する要因とその含意を 抽出する。

  本論文は7章から構成されている。

  第1章では、本研究の背景と問題意識について、今日の研究開発の現状と研究開発研究との 剥 離 を 示 し た 。 そ の う え で 先 に 述 べ た よう な 基 本 的な 主 張 が提 示 さ れて い る 。   第2章では、本研究の基本的な視点である「知識」、「ネットワーキング」、「戦略」に関 して、研究開発の観点からの包括的なレピューを試み、現在までの研究の論点や限界を示し 経験的成果を検討した。それに基づき、「知識進化」、「知識ネットワーキング」、「研究 開発戦略」の定義および分析視角を明らかにされる。

  第3章では、第2章において明らかにされた「知識進化」、「知識ネットワーキング」、

「研究開発戦略」の概念を用いて研究全体のフレームワークを示した。その上で具体的な研 究 方 法 を 提 示 し 、 方 法 論 的 な 有 効 性 や 限 界 に つ い て も 言 及 さ れ て い る 。   第4章では、第3章で示されたフレームワークに基づき、知識ネッ卜ワーキングと知識進化 の関係を事例研究した。ここでの研究開発主体の内部モデルには、あえて知識進化能カに限 定したモデルを想定した。そこでは研究開発主体が知識進化に適応するプ□セスとして知識 ネットワーキングを捉え分析が試みられ、最終的に研究の含意として知識進化を促進するマ ネジヌン卜のあり方が導出されている。

  第5章では、第3章で示されたフレームワークにおける研究開発主体の内部モデルに研究開 発戦略の視点を加えて分析が試みられている。そして知識ネットワーキングを研究開発主体 の主体的な行為として捉えることで、研究開発戦略と知識進化の関係が業界各社の研究開発 戦 略 に 関す る 事 例研 究 と 、関 連 特 許 を基 に し た定 量 分 析を 通 じて明ら かされ る。

  第6章では、本研究の統一的な論点である「知識進化を促進する要因」の分析を試みる。分 析は第5章および第6章において、分析された「知識ネットワーキングによる要因」と「研究 開発戦略による要因」の両視点についてそれぞれ行われ、最終的に知識ネットワーキングと 研究開発戦略の統合的なモデルを構築する。

  第7章では、本研究で得られた知識進化を促進するマネジメントに関して、いくっかの命題 を整理し結論を導く。その上で本研究の旧来の研究に対する理論的貢献と実践的含意を示し 本研究の意義を問う。最後に本研究内容のみならず、わが国の研究開発の発展に対して残さ れた課題を提示する。

  本研究では研究開発主体内の知識進化とそのマネジメントの例として、ソニーのりチウム イオン・バッテリーの量産化までのブ口セスにつしゝて事例分析を行う。また1988年から1998 年の公開特許をデータとして研究開発主体ごとに収集し、技術ポートフォルオを用いて研究 開発主体の業界における相対的な技術カを評価した。

  知識進化を促進する要件として、基礎的な研究開発を早期に量産化ないし製品化に結びつ ける「応用化」のブ□セスが重要であった。その一方で、研究開発の理論化と応用化の連結

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の程度と、研究領域の焦点化と多様化の選択の違いは、蓄積される研究開発知の独自性を決 定することが明らかとなった。知識進化を促進する要因本研究で示されたフレームワークに おいては、ミク□ブ口セスの主体内にはビジネスの論理と科学の論理の両方を内包した、科 学 研 究 者 モ デ ル に 基 づ い て 知 識 進 化 が 行 わ れ て い る も の と し て 理 解 さ れた 。   また現実の研究開発では量産ラインに乗せた場合に生じる不具合をデー夕化して、基礎的 な研究開発の中に盛り込んでいる。そうした品質管理情報や安全基準などのデータが、基礎 的な研究開発へと盛り込まれていくのである。そのため事例研究や特許分析でも明らかに なったように、ソニーやATでは製品化や量産化の技術と基礎的領域の技術を結びっけていた ことが示された。

  こうすることで技術的な基準が形成されいずれ知識ネットワーキング全体で共有されるこ ととなる。この事実が、リチウムイオン・バッテリーという研究領域における知識進化を促 進する要因となっている。これまでに研究開発戦略として「焦点化」と「多様化」の選択を あげた。多様化においては技術の解釈の柔軟性が多様な研究開発知を生じさせる。特許分析 によっても明らかになったが、焦点化を志向しているグループは技術を領域限定的に解釈 し、自らのシステム(研究開発、ビジネスの両面)をも焦点化させていく傾向がある。多様 化と焦点化のニつの視点で知識ネットワーキングと研究開発戦略を議論した。そして焦点化 と多様化といった考え方が、知識ネットワーキングなのか研究開発戦略なのか明示されてこ なかった。ここでは知識ネットワーキングと研究開発戦略の統合的な理解を試みる。前者で は知識ネットワーキングの領域が明らかに広く、多様な研究開発知にアクセスしている。こ うした行為の選択はまさに戦略的であり、「多様化」か「焦点化」のどちらを選択するかが まさに研究開発戦略なのである。本研究事例ではこのような事実は観察されなかったが今後 の研究課題となろう。

  知識進化を促進する要因として知識ネットワーキングと研究開発戦略の統合的視点は、戦 略的な行為としての知識ネットワーキングと、知識ネットワーキングから得られる研究開発 知の量や質の違いが研究開発戦略にフイードバックするといった、相互作用モデルによって 示される。そして知識進化を中短期的に促進するのか、長期的な視野に立って促進すること を標榜しているのかによって、知識ネットワーキングと研究開発戦略の相互作用のスピード や形が変化していく。このように「多様化」と「焦点化」は知識ネッ卜ワーキングと研究開 発戦略を統合し、知識進化を促進する要因となる幾っかの知見を与えることに成功してい る。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   金 井 一 頼 副 査   教 授   小 島 廣 光 副 査   助 教 授   平 本 健 太

     学位論文題名

研究開発におけるネットワーキングと戦略

〜リチウムイオンバッテリーの研究開発事例より〜

  本論 文は 、 研究 開発 活動 によ って生み出され る知識(研究開発知)の進 化のプ口セスを知識ネッ ト ワ ー キ ン グ と 研 究 開 発 戦 略 を 統 合し た視 点か ら解 明 しよ うと する 先駆 的 な実 証研 究で あ る。

  これまで の経営学の分野における研 究開発に関する研究は、単独 企業の研究開発行動(たとえば、

榊 原『 日本 企 業の 研究 開発 マネ ジ メン ト』 )や 研究 所 にお ける コミ ュ ニケ ーシ ョンに関するもの

(たとえば 、アレン『 技術の流れ 管理法:研究開発のコミュニケーション』)が多く、ネットワー ク 的な 視点 か ら分 析し た研 究は それほど多くは なかった。近年、戦略的提 携が特に研究開発の領域 で 多く 行わ れ てい る状 況を 見て も、これまで相 互に関連することなく進め られてきたネットワーク に 関す る研 究 と研 究開 発戦 略に 関する研究を統 合して分析することが実践 的だけでなく理論的にも 要 請さ れて い る。 石田 氏の 研究 はこのような要 請に応えることができる先 駆的な研究であるという こ と が で き る 。 な お 、 本 論 文 は 全 体 で7章 か ら 構 成 さ れ て お り 、A4版 で124頁 に ま とめ ら れて いる。以下 、本論文の概要について紹 介する。

<〈論文の 概要〉〉

  第1章で は研 究開 発に 関 する 研究 と現 実 との 間に ギャ ップが存在してい るとの認識が示され、そ の ギャ ップ を 埋め 研究 開発 の研 究を発展させる ためには個別企業の研究開 発戦略とネットワーキン グ とを 統合 で きる 視点 から 現実 を解明していく ことが必要であるとの本研 究の問題意識と課題が述 べられてい る。

  第2章で は「 研究 開発 に おけ る知 識と 進 化」 「研 究開 発におけるネッ卜 ワーキング」「研究開発 戦 略」 に関 す る先 行研 究の レビ ューに基づいて 「研究開発知」「知識進化 」「知識ネッ卜ワーキン グ 」 「 研 究 開 発 戦 略 」 と い っ た 本 研 究 の 鍵 と な る 概 念 が 提 示 さ れ て い る 。   第3章で は、 上記 の鍵 概 念を 用い て本 研 究の 分析 フレ ームワークが提示 されている。石田氏のフ レ ーム ワー ク の特 徴は 、単 に研 究開発戦略に基 づいて進行する研究開発主 体内での相互作用による ミ ク口 プ口 セ スで の知 識進 化ば かりでなく、知 識ネットワーキングを通じ て行われる研究開発主体 間 での 知識 進 化( マク 口プ 口セ ス)を統合した 視点から知識進化の現象を 分析できる枠組みである ということ である。

  第4章が りチ ウム イオ ン ・バ ッテ リー の 事例 を分 析の 対象にして、知識 ネッ卜ワーキングと研究 開 発知 の進 化 プ口 セス の関 係を 考察している部 分である。ここでは特に、 リチウムイオン・バッテ リ ーに 参入 し たの は後 発で あり ながら、実用化 でりーダーとなることがで きたソニーに焦点を当て て 分析 して い る。 その 結果 、ソ ニーは製品化に っながる技術課題に絞って 知識進化を促進させる新 た な テ ー マ を 創 出 す る こ と で り ー ダ ー の 地 位 に っ く こ と が で き た こ と が 明 ら か に な っ た 。   第5章で は第4章 と同 様に フレ ームワークに基 づしゝて、公開特許による データをもとに松下、ソ ニ ー 、 三 洋 、AT、 日 本 電 池 の5社 グ ルー プ( 分 析は 日本 電池 を のぞ く主 要4社) の研 究開 発 戦略 に 関す る事 例 研究 が行 われ てい る。本章の議論 から、リチウムイオン・バ ッテリーの創成期に当た る「混沌」 の状態から技術に対して柔 軟に対応していく「適応」と いう戦略を採るグループ(松下、

三洋)と技 術を特定の方向に絞り徹底 してその応用を志向する「意 図」という戦略を採用するグルー プ(ソニー 、AT)に大きく分かれるこ とが明らかになった。

第6章 で は第4章 と5章の 検討 に基 づ き、 「多 様化 」と 「 焦点 化」 とい う新 し い概 念を 提出 す るこ

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    1本論文の最大の貢献は、研究開発活動におけるマク口プロセス(知識ネットワーキング)と ミク口プ□セス(研究開発戦略)を統合できるフレームワークを独自に構築することによって研究 開発知の進化プ口セスの実体を有効に分析できることを実証的に示し、これまでの研究開発に関す る研究を大きく前進させたことである。

  2アバ,ナシーとアッターバック等によって展開されてきたドミナン卜デザインを中心とする成 熟化、脱成熟化の研究に対して知識ネットワーキングという新しい視点を導入することによって技 術の進化、転換とネッ卜ワーキングの関係に関する新たな知見を加えていることが本論文の第2の 貢献である。

  3特に第5章の公開特許のデータに基づく分析はきわめて緻密であるとともに新鮮である。本 論文は、このような実証研究の方法の点から見てもきわめて先駆的と考えられ、研究開発戦略に関 する今後の実証研究に新たな方法を提示することに貢献している。

なお問題点として、「多様化」と「焦点化」の概念は興味深い概念であるが、今後さらにこの概念 を洗練し、知識ネットワーキングと研究開発戦略のいっそう有効な統合化を図る必要があるとの指 摘がなされた。また、ドミナン卜デザインに関わる成熟、脱成熟化との関係についても今後より一 層緻密な分析が期待されるとの要望がなされた。

《結論》

  以上の所見を総合して、提出された論文は執筆者が自立した研究者として研究を遂行していくこ とができる能カが十分にあることを示しており、よって本審査委員会は本論文を博士(経営学)の 学位を授与するに値するものと判断した。

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