博 士 ( 獣 医 学 ) 山 地 大 介
学 位 論 文 題 名
ウシ乳腺組織構築における脂肪細胞由来分泌因子の役割 学位論文内容の要旨
乳腺組織誼、妊娠および泌乳、退縮の過程に伴って形態的にも機能的にも変化し、そ の過程を繰り返す臓器である。乳腺組織の発達は全身性のホルモンによって制御されて いるが、ホルモンは乳腺上皮細胞に直接作用するだけでナょく、問質細胞にも作用して組 織局所で成長因子などを産生することによって、乳腺上皮細胞の形態や機能を支持する と考えられる。
問質脂肪細胞は全身のエネルギー調節に肝要であるだけでなく、レプチンに代表され る様々なサイトカインを分泌する内分泌細胞としても知られている。また、脂肪組織に 乳腺上皮細胞を移植すると導管や乳汁分泌機能を有する腺房を形成することや、脂肪組 織を欠くマウスの乳腺組織は正常に発達しないことが報告されている。このように、脂 肪 細 胞 は 乳 腺 組 織 の 発 達 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ る 。 多くの因子が乳腺組織の形態形成に関与することが今までに明らかにされている。こ の うち肝 細胞増 殖因子HGFは問質 細胞で 産生、分泌され、上皮細胞などに発現してい る 受容体c‑Metに作用 する、 多機能 なサイ トカイ ンであ る。HGFは 、乳腺上皮細胞に 作 用して 導管様 の構造物 を形成 するこ とが知られている。しかし、HGFが脂肪細胞か ら分泌されるアディポサイトカインであるのか、ウシなどの反芻動物の乳腺組織におい てどのような役割を果たすのか、など多くの点が不明であった。そこで本研究では、ウ シ 問質脂 肪細胞 におけるHGF mRNAの発 現を、 脂肪細 胞の分 化とい う観点から解析し た 。さら に、問 質細胞か ら分泌 されたHGFの乳腺上皮細胞に対する形態形成作用と、
こ れ に 対 す る 泌 乳 ホ ル 毛 ン や レ プ チ ン の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 そ こで 、 本学位 論文の第 一章で はまず 、ウシHGFおよぴ その受 容体c.MetのcDNA を クロー ニング した。ウ シHGFお よぴc.Met(遺伝子データペース登録番号ABl10822 お よぴABl12434)はマウ久やラットのホモログよりもヒトのそれに高い相同性を示し た 。 ウ シで は、HGFおよぴc ̄MetmRNAの発 現は脂 肪組織 や乳腺 を含む 様々な 臓器で 検 出され た。乳 腺組織で は、H( 源mRNAは 非妊娠期にのみ発現が検出され、発達期お よ び泌乳 期、退 縮期には発現注認められナょかった。c−MetmRNAは非妊娠期および退 縮期に検出され、発達期や泌乳期には認められなかっナこ。c_Metタンパク質は非妊娠期 およぴ発達期、退縮期において上皮細胞にその発現が認められ、泌乳期に擦みられなか った。しかし、乳腺問質脂肪組織におけるHGFの発現を検出することはできなかった。
第 二章 で は 脂 肪細 胞 に お けるHGFの 発 現を 血 ガ む ・Dで 検討し た。HGFmRNAは、
ウシ脂肪細胞では、前駆脂肪細胞ではほとんど検出されなかったが、成熟脂肪細胞へと 分 化する と、有 意に増大 した。 ヒト脂 肪細胞 でもHGFInRNAは同様 に分化に伴って誘 ―l129→
導 された 。逆に マウス やラッ トの脂肪 細胞で はHGF mRNAは 分化前 に発現しており、
分 化 後 に 消失 し た ご ウシ 脂 肪 細 胞のHGF mRNA発 現 量 は 、プ ロ モ ーター 活性やHGF mRNAの安定性 に依存 しなか ったの で、他 の機構 によっ て調節 されると 考えられた。
ー 方 、 マ ウ ス 脂 肪 細 胞 のHGFmRNA発 現 量 はHGFmRNAの 安 定 性 に 影 響 さ れ る こ とが示唆された。
第三章では、問質脂肪細胞がウシ乳腺上皮細胞田MEC)の形態形成に及ぼす作用を、
コラーゲンゲル包埋三次元培養法によって加W釘.0で検討した。ウシの前駆脂肪細胞馴 化 培地(FCM)|こ よるBMECの形態形 成はみ られなかったが、成熟脂肪細胞馴化培地
(ACM)はBMECの導管およぴ腺房様構造物の形成を誘導した。対照的に、マウス3T3.Ll 細 胞 のFCMはBMECの 導 管 様 構 造 物 の 形 成 を 誘 導 し た が 、 マ ウ スACMに よるBMEC の 形 態 形 成は みら れなか った。 リコン ビナン トHGF倣BMECの導管 形成を誘 導し、 抗 HGF中 和 抗 体 ま た はHGFア ン タ ゴ ニ ス ト で あ るNK4は ウ シACMま た は マ ウ スFCM に よ るBMECの 形 態 形 成 を 阻 害 し た 。 ウ シACMか ら はFCMよ り も 明 ら か に多 く の HGFタ ン パ ク質 が 検 出 され 、 対 照 的に 、 マ ウ スぎr3.LlFCM中 にはACMよりも 高濃 度 のHGFタ ンパ ク 質 が 検出 さ れ た 。こ れ らの結果 は、脂 肪細胞 におけ るHGFの発 現 パターンが動物種特異的であり、ウシでは成熟脂肪細胞、マウスでは簡駆脂肪細胞から 分 泌 さ れ るHGPが 乳 腺 上 皮 細 胞 の 形 態 形 成 を 誘 導 す る こ と を 示 唆 し た 。 さらに、第四章では、泌乳ホルモン(インスリン、コルチゾルおよびプロラクチン)と 代 表的謡 脂肪細 胞分泌 因子で あるレプ チンに よるBMECの形態 形成への 影響にっいて 調 ぺ た 。HGFは 単独 でBMECの形 態形成 を誘導 し、そ の形態 形成作 用誼泌乳 ホルモ ン の 存 在 下 で相 乗的 に増強 された 。レプ チンは 、HGF単独 によるBMECの形態 形成に 対 し て抑制 的には たらく だけで なく、HGFと泌乳 ホルモンの相乗作用をも抑謝的に調節 す ること がわか った。 レプチ ンおよぴ その受 容体OBーRbmRNAは非 妊娠期および妊娠 期、退縮期に発現が検出され、泌乳期には発現は認められなかった。以上の結果は、全 身 性のホ ルモン や組織 局所で 産生され るHGFや レプチンなどの脂肪細胞由来分泌因子 が、巧妙に乳腺組織の形態形成を調節しうることを示した。
本研究により、ウシHGFおよびその受容体であるcーMetの分子構造が明らかとなり、
それらの発現の組織分布や、乳腺組織の発達過程における発現変化が明らかとなった。
特 にウシHGFは問質 の成熟 脂肪細 胞から 分泌さ れ、乳腺上皮細胞の形態形成に重要な 因 子であ ること が示さ れた。 また、同 じく脂 肪細胞から分泌されるレプチンが、HGF によって誘導されるウシ乳腺上皮細胞の形態形成を阻害し、これらの脂肪細胞由来分泌 因 子 の 多 寡 が 乳 腺 上 皮 細 胞 の 形 態 を 巧 み に 制 御 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。
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