慢性骨髄性白血病について
長崎大学 原爆後障害医療研究所 原爆・ヒバクシャ医療部門 血液内科学研究分野 教授宮﨑 泰司
先生 監 修慢性骨髄性白血病の案内
白 血 病 と は
異常な血液細胞がふえ、正常な血液細胞の産生を妨げる病気です。
血液のがん
白血病は、血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり、無秩 序にふえてしまう病気で、「血液のがん」ともいわれています。 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて、正常な血液細胞の産 生を抑えてしまいます。 その結果、貧血、感染症、出血傾向などの症状が現れます。 造血幹細胞正常細胞
白血病細胞
異常な血液細胞がふえ、正常な血液細胞の産生を妨げる病気です。
血 液 細 胞 が で き る ま で
血液中には、酸素を運ぶ赤血球、病原体と戦う白血球、出血を止め る血小板などの血液細胞があります。 これらの血液細胞は、骨の中にある「骨髄」というところで、血液細 胞のおおもとである「造血幹細胞」が分裂を繰り返しながら「分化」し ていくことでつくられます。「分化」とは、さまざまな細胞に変化する能 力をもつ造血幹細胞が、赤血球、白血球、血小板などの異なる細胞に 変化することです。造血幹細胞からは、まず骨髄系幹細胞とリンパ系 幹細胞がつくられ、それらはいくつかの段階を経てさまざまな血液細 胞に分化していきます。 赤血球 血小板 顆粒球 単球 リンパ球 白血球 好中球、好酸球、 好塩基球 Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞など 骨髄系細胞 リンパ系細胞 造血幹細胞 骨髄系幹細胞 リンパ系幹細胞白 血 病 と は
わが国の白血病罹患率は年々増加傾向にあり、2010年では人口10万人当り 9.0人(男性では10.7人、女性では7.5人)です※。 年齢別では高齢者に、また男女別では男性に多く発生しています。 また、小児から青年層においては、罹患率は高くないものの、白血病が最も発生 頻度の高いがんとなっています。 ※ 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターの資料より 白血病の原因ははっきりとは分かっていませんが、発がん性物質や、放射線、薬、 ある種のウイルスなどにより遺伝子が傷つくことで発生するとされています。 例えば、急性骨髄性白血病は、喫煙が発症のリスクになると考えられています。 また、慢性骨髄性白血病は、原子爆弾の放射線に被曝された方々で発症が増えた ことが知られています。その他、九州や沖縄を中心に西日本に多くみられる成人 T細胞白血病は、HTLV-Iというウイルスが原因であることがわかっています。白血病の罹患率
白血病の原因
白血病の分類
白血病はおおまかに4つに分類できます。まず、白血病細胞の分化の程度から2 つに分類されます。主に、分化の進んでいない未熟な細胞が増加する白血病を「急 性白血病」、分化の進んだ成熟した状態に近い細胞が増加する白血病を「慢性白血 病」といいます。 これらはさらに、白血病細胞の由来から2つに分類されます。白血病細胞が骨髄 系の細胞である場合は「骨髄性白血病」、リンパ系の細胞である場合は「リンパ性白 血病」に分類されます。 急性白血病 慢性白血病 骨髄性白血病 急性骨髄性白血病(AML) 骨髄系の未熟な細胞が異常に増 加します。 慢性骨髄性白血病(CML) 骨髄系の成熟した白血球や血小 板が異常に増加します。 リンパ性白血病 急性リンパ性白血病(ALL) リンパ系の未熟な細胞が異常に 増加します。 慢性リンパ性白血病(CLL) 寿命の長い成熟した小型のリン パ球が異常に増加します。慢 性 骨 髄 性 白 血 病 に つ い て
はじめは症状がほとんどみられず、ゆっくりと進行します。
慢性骨髄性白血病には①慢性期、②移行期、③急性転化期の3つの病期があり ます。① 慢性期
正常な白血球に似た白血病細胞と血小板が増加して いるため、あまり自覚できる症状はありません。しかし、 徐々に貧血症状、だるさ、おなかの張りが出てきます。② 移行期
分化する能力が失われた白血病細胞がふえ、骨髄や血液中の未熟な芽球の割合 が増加します。その結果、さらに貧血症状、だるさ、夜間の寝汗、体重減少、おなか の張りなどの症状が強くなります。③ 急性転化期
骨髄、血液中の未熟な芽球の割合がさらに増加し ます。白血病細胞が骨や、皮膚、リンパ節に集まり腫 れ物のようになることもあります。 移行期や急性転化期には、白血病細胞が脳や脊髄 にも侵入することがあります。進行度(病期)と症状
はじめは症状がほとんどみられず、ゆっくりと進行します。
慢性骨髄性白血病の検査
血液検査(顕微鏡による検査)
健康診断等で白血球数の増加などの異常が指摘された場合、まずはじめに血液 中の細胞を顕微鏡で調べる検査を行います。骨髄穿刺・骨髄生検
血液検査で白血病が疑われた場合に行い ます。局所麻酔をかけて腰の骨または胸の中 央にある骨に注射針を刺し、骨の中の骨髄液 を注射器で吸引したり、特別な針で骨髄組織 を採取して、顕微鏡で調べます。染色体検査・遺伝子検査
骨髄穿刺で採取した骨髄液を用いて、白血病に特徴的な染色体異常や遺伝子異 常があるかどうかを調べます。慢性骨髄性白血病では、95%の患者さんに「フィラ デルフィア染色体」という異常な染色体が見つかります。腹部超音波(エコー)検査、腹部CT検査
白血病と診断された場合、腹部超音波(エコー)や腹部CTなどを使って脾臓や肝 臓などの臓器の異常を調べて、腫れていないかなどを確認します。慢 性 骨 髄 性 白 血 病 に つ い て
治療について
主な治療
白血病細胞の数を減らすために、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなどの BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤(9ページで解説)による治療を行います。この 治療によって、白血病細胞の数が十分に減って正常な血液が回復する状態を目指 します。その後は、再発を防ぐための治療を継続して行います。 BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤の効果がみられない場合は、化学療法や、イ ンターフェロン療法、同種造血幹細胞移植を行います。白血病の症状や治療の上 で予想される副作用に対する治療を行うこともあります。 検査の種類 検査の概要 検査するサンプル 検査の頻度 治療開始 ― ― ― 血液学的 検査 血液中の白血球、赤血球、血小板の数、白血球の種類を確認します。 血液 血液学的完全寛解の達成 までは15日ごと、達成後 は少なくとも3ヵ月ごとに 実施します。 細胞 遺伝学的 検査 血液または骨髄中の細胞20~100個から、フィラデ ルフィア染色体という異常な染色体をもつ白血病細 胞の数を数えます。検査値は細胞20個あたりのフィ ラデルフィア染色体をもつ白血病細胞の数としてあ らわされます。 骨髄あるいは 血液 診断から3、6、12ヵ月後、 細胞遺伝学的完全寛解を 達成した後は12ヵ月ごと に実施します。 分子 遺伝学的 検査 最も精度の高い検査です。血液または骨髄中の細胞 10万~100万個から、白血病細胞の増殖に関わる BCR-ABLチロシンキナーゼ(9ページで解説)の遺 伝子の量を調べます。検査値は遺伝子の単位である 「コピー」であらわされます。 血液あるいは 骨髄 (Amp-CML法では 血液のみ) 分子遺伝学的効果の達成 までは3ヵ月ごと、その後 は3~6ヵ月ごとに実施し ます。治療上の目標とする状態 白血病細胞の数 骨髄の中の様子 ― 診断時 : 1兆個 血液学的完全寛解(CHR) ステップ1 100億個 細胞遺伝学的部分寛解(PCyR) 細胞遺伝学的完全寛解(CCyR) ステップ2 10億個 分子遺伝学的効果(MMR) ステップ3 100万個 分子遺伝学的完全寛解(CMR) ステップ4