学会印象記 第31回日本行動療法学会大会および第5 回日本認知療法学会大会印象記
著者 福井 至
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 6
ページ 83‑86
発行年 2006
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010035/
学会印象記
第31回日本行動療法学会大会
および
第5回日本認知療法学会大会印象記
Impressions of the Japanese behavior therapy association 31st meeting And Japanese Cognitive therapy association 5th meeting
福 井 至
東京家政大学文学部心理教育学科 助教授
2005年10月8日〜10日には、第31回日本行動
療法学会大会が、広島大学総合科学部教授生和秀 敏大会会長のもと広島大学東千田キャンパスで開
催された。また、2005年12月9日〜11日には、第5回日本認知療法学会大会が、医療法人和楽会 理事長貝谷久宣大会会長のもと名古屋銀行協会会 館で開催された。日本行動療法学会は、日本の行 動療法および認知行動療法の研究を牽引してきた 学会であり、30余年の歴史のある学会である。現 在は行動療法と、その発展型である認知行動療法 の両分野の研究および普及をおこなっている。ま た、日本認知療法学会は、認知行動療法の中でも 特に認知療法を中心とした研究および普及を牽引 している新しい学会である。両学会ともに、日本
写真1招聰講演(Richard M. Suinn, Ph.D.)
におけるエビデンスに基づく心理療法を発展普及 させている学会であり、心理の専門家だけでなく 医師の加入率の多い学会であり、特に日本認知療 法学会は医師の学会員の方が多いという特徴があ る。つまり、両学会ともに医療場面で広く認めら
れている学会ということができる。この2っの大会のうち、まず第31回日本行動療
法学会大会は「人間科学としての行動療法の展開」を大会テーマとして、多数の口頭発表やポスター 発表の他、特別講演や会長講演、および招聰講演 などが行われた。特別講演は「現代社会と睡眠障 害」として広島大学総合科学部教授の堀忠雄先生
が、「現代社会が抱える睡眠障害の問題と解決法」について講演された。子供の睡眠障害は臨床相談
写真2懇親会でのRichard M. Suinn先生と 本学大学院生内山くんと筆者
福井 至
センターの講演会でもテーマとしたことがあり、
現代社会では子供から高齢者まで幅広く睡眠障害
が大きな問題となっていることが示された。また、会長講演では生和秀敏先生がこれまでのご自身の 研究を含めて、実験臨床科学としての行動療法の 研究方法について詳細な検討を示された。さらに 招聰講演では、認知行動療法の一技法である不安 管理訓練を開発された、コロラド州立大学名誉教
授のRichard M. Suinn先生が、 Behavior Therapy fbr
Health: Suinn s Anxiety Management Training method のタイトルで、ご自身のこれまでの研究成
果を発表された。先生は、東洋人としては初のア メリカ心理学会会長になられた方であり、行動療 法や認知行動療法を普及させるための世界的組織
であるAABTの会長も歴任された方であり、1972年には初のアメリカ・オリンピック・チーム専属 心理学者となられたことでも有名な先生である。
先生が開発された不安管理訓練は認知行動療法の 定番の心理療法の1つとなった感があるが、不安
と怒りがいかに身体疾患を多く引き起こすか、そ して不安管理訓練がいかに効果的に不安や怒りを 低減できるかが明確に理解できる講演であった。
本学でも、大学院生の内山光則君が臨床相談セン ターのケースで不安管理訓練を利用させてもらっ
黙
写真3インターナショナル・トピックス
「サイバークリニック」(左からYoung−
Hee Choi先生、司会の坂野雄二先生、
Eames Douglas先生、および筆者)
ており、懇親会では写真2のようにRichard M,
Suinn先生と記念写真をとらせていただいた。現在、
行動療法や認知行動療法は、医療におけるEBMの 流れの中でエビデンスに基づく心理療法の学問的 基盤を提供している最たる学派であるが、そのた
めの先人の努力がよくわかる学会であった。
また、第5回日本認知療法学会大会も、「科学と しての認知療法」をテーマとして、口頭発表やボ スター発表で症例報告や基礎研究が発表された他、
会長講演や多数のシンポジウムが開催された。会 長講演では、貝谷久宣先生が1っの疾患単位とし て提唱しているパニック障害後の不安うつ病につ いて「パニック性不安うつ病の臨床と認知療法」
として講演された。非定型うっ病として、治療の 困難なパニック障害後の不安・抑うつ状態の臨床 に役立っ非常に印象深い講演であった。シンポジ ウムとしては、1では文部科学省『認知行動療法 の臨床ワークショップ普及のためのスキーマづく り』研究班ワークショップとして認知療法の普及
とクオリティ・コントロールについて検討された。また、シンポジウム皿としては、「認知療法の中枢 神経系基盤(あるいは生物学的基盤):神経画像の
知見を中心に」として東京大学医学部附属病院の 笠井清登先生、東京大学医学部精神医学教室の山
写真4 現在開発中のインターネットを介して
利用可能なコンピュター認知行動療法
プログラムの初期画面本英典先生、東京大学院医学系研究科の熊野宏昭 先生、広島大学大学院精神神経医科学の岡本泰昌 先生、九州大学大学院医学研究院精神病態医学の 中尾智博先生が、認知行動療法実施前後の脳画像 に関するご研究を発表された。これらの発表から は、中枢神経系における認知行動療法の効果の研 究が急速に発展していることが示されていた。ま た、各種疾患に対して薬物療法と認知行動療法で は効果をもたらす部位に違いがあり、そのため薬 物療法と認知行動療法の併用療法が非常に効果的
であることが明確に示されていた。ところで、筆者は「インターナショナル・トピ
ックス『サイバークリニック』」の演者として、これまで開発してきたコンピューター・アシスティ ド・カウンセリングの研究と現在開発中のインタ ーネットを介して利用可能な病院用の認知行動療 法プログラムについて発表させていただいた。写 真3に示したように、東京サイバークリニックの
Eames Douglas先生と、Metta Institute of Cognitive
Behavior TherapyのYoung−HeeChoi先生とともに、
北海道医療大学教授坂野雄二先生と早稲田大学教 授野村忍教授の司会でシンポジウムをおこなった。
Eames Douglas先生とYoung−HeeChoi先生は、写
真5〜10に示したVirtual Realityエクスポージャー(以下VRエクスポージャーと略記する)に関する ご発表であった。VRエクスポージャーとは、写真 5に示したようにゴーグル型の液晶画面をつけて、
頭を向けた方向360度を見ることができる仮想空 間の中で、エクスポージャー療法が実施できる最 新技術である。筆者はEames Douglas先生ととも
に、東京サイバークリニックでVRエクスポージャーのセッションも実施しているが、その効果の 強いことに驚いている。最近では、20歳代初期に パニック発作を起こし、それ以来20年以上新幹線 にも飛行機にも乗れずにいた患者さんに対して、
写真8のVRエクスポージャーのセッションを5
回実施しただけで、飛行機に乗れるようになった 症例を経験している。写真5の右側には、VRエク
スポージャー実施中に測定している、心拍、末梢 皮膚温、SCR、呼吸の測定画面が示されている。
これらの画面をもとに、不安階層表に従って各 段階で生理反応が安定してから次の不安場面に移 る手続きと、各セッション終了時に患者さんに生 理反応の変化について詳細に説明するという手続
きが、大きな効果を示す理由であると考えられる。以上のように、両学会ともに今後の行動療法や 認知行動療法の着実な発展の方向を示す非常に印
象的な学会であった。写真5VRエクスポージャー実施場面と セラピストが確認する生理反応 測定画面
写真6 社会不安障害やスピーチ・フライト
治療用のVRエクスポージャー画面福井 至
写真7 高所恐怖治療用VRエクスポージャー画面 写真8 飛行機恐怖治療用VRエクス ボージャー画面
写真9 雷恐怖治療用のVRエクスポージャー画面 写真10 蜘蛛恐怖治療用のVRエクスポ