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雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要

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接過程 : クライエントの意識体験を大切にして臨 床面接を進めることに着目して

著者 鈴木 千枝

雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要

巻 9

ページ 27‑45

発行年 2009

出版者 東京家政大学附属臨床相談センター

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010052/

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神経性頻尿と診断された30歳代女性に対する臨床面接過程

一クライエントの意識体験を大切にして臨床面接を進めることに着目して一

鈴 木 千 枝

The psychotherapy process of a thirty year−old woman diagnosed with psychogenic pollakisuria

       −From the viewpoint of Conscious experiencing of the client一

Chie SUZUKI

要 約

 神経性頻尿と診断されて来談した女性に対し、既存のロジャース(Rogers 1892〜1987)流のカウンセリングだけでな く、河野が提唱する意識体験治療論の考え方を援用して治療を試みた。その結果、クライエント(Client,以下Clと略記 する)の症状が短期に解消し快方に向かったため報告する。事例をとおして、Clの心理的変化及びセラピスト(Therapyst,

以下Thと略記する)の関わりについて考察する。

キーワード:神経性頻尿、自己暗示、意識体験、河野式自律訓練法

はじめに

 河野(2002)によると、1970年以降、あがり や対人緊張を訴えたり、うつ病やパニック障害、

自律神経失調症などの医学的診断を受けたりし て来談されるClに、人格形成過程の問題を背景 とするケースが増えてきているとされている。河 野の言う人格形成過程の問題とは、現実的なスト レッサーへの耐性形成が不十分な人格の未発達 のことである。過充足な生活によって、自分にと って不都合な現実問題に適応する体験が不足す ることで、心身が育たず脆弱なままであるがゆえ に、さほどのことはない日常的な出来事であって もそれがストレッサーとなって心身の不調を生 じる問題である。DSM−IV−TR (アメリカ精神医 学会による分類や診断)で分類される人格障害に 近い概念であるが、明らかに異なる。すなわち、

出来上がった人格機能が障害されているという よりも、発達過程で形成されてくる現実対応力の

東京家政大学附属臨床相談センター

未形成な状態に特に注目した概念である。第三者 にはさほどのことではない出来事と思えること が、本人にとっては克服困難な現実問題になって、

それに対してどの様に対応することが困難の解 決や不快感の緩和になるのかが分からないとい う問題といえる。そして、こういったケースの場 合、ロジャースの理解と受容、表現や支持を主軸 とする対話面接のみでは解決が進みにくいと、河 野(2002)は指摘している。

 このような人格形成過程の問題があるCIへの 対応を視野に入れて、河野(2002)は意識体験治 療論を提唱している。河野によると、意識体験治 療論の基本は「あらゆる意識体験のモニタリング 対応」と「行動や生活の自己暗示によるコントロ ール」による心理治療論であるという。「あらゆ る意識体験のモニタリング対応」とは、心にさま ざまに思い浮かんだことについて「思った内容」

ではなく「今どんな風に思ったか、どのように意 識したか(これを「体験の仕方」と言っている)」

を扱う対応である。Thは、 Clが自身のポジティ

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ブもネガティブも含まれるあらゆる意識体験に ついて、それを「平穏」「冷静」「安静」など「穏 やかで安定的に」気付く体験の仕方を習得するこ

とを目的にする。「穏やかで安定的な」体験の仕 方を習得することで、不快感を緩和したり、直面 する問題について、落ち着いた、ゆとりのある仕 方で、自分らしく対処できたりするようになると 考えられている。

 「行動や生活の自己暗示によるコントロール」

とは、自己暗示の使い方を習得し、それを使って Clが自力で適応的な行動や生活のコントロール ができるようになることである。自己暗示の使い 方を習得することは、主体的に自身の心理的問題 に取り組む姿勢を確立し、自ら問題解決を進めら れるようになることに繋がる。河野のいう自己暗 示とは、「無理にでも思い込む」とか「言い聞か せる」とか「強く念じる」とかいった意図的努力 方式の仕方で思うのではなく、淡々と自然に「思

ってみるだけ」とか「思い浮かべてみるだけ」と かいった非意図的な仕方で思うことをいう。そし て、主体的に問題解決を進められるようになるた めには①今望ましくない問題についての把握や 問題意識と②その問題の解決ヴィジョンや理想 目標と③それらをともに「大切に思う」気持ち、

という三点について、自己暗示のようにClの心 に成立することが大切であるとしている。これを

「治療的自己暗示」あるいは「問題解決三点セッ ト」と呼ぶ。単にマイナス思考を取り除きプラス 思考を勧めることではない。問題の解決には、問 題点の認識というマイナス思考と、その解決にっ いてのプラス思考とが、程よくともに在ること、

さらにその両方が程よくあるという自覚が必要 で、それが「思い浮かべてみるだけ」という非意 図的な仕方の思い方、つまり自己暗示の思い方が 可能になるために必要とされる。両方の思いが程

よく在り、それを自覚できているということは、

問題を抱えた現在の自分に対して自己受容的に なれることであり、また同時に未だ達成されない 目標について、その達成を期待しつつ目標に向か って今の自分ができることをできるようにする ような、穏やかで安定的な意識体験のあり方を保 てるようになるということである。

 また、河野(1978,2003a,2003c,2005)は、自 律訓練法(Autogenic Training、以下ATと略記す る)にも自身の理論を応用して、河野式自律訓練 法と称して一般のものと区別している。一般的な ATでは、トレーナーが「手が重い(温かい)」

といった公式と称される課題を段階的に達成す るように関わるのが普通である。そして、実際に 公式のようになることが重視される。そのため、

公式のようになることに拘り、そうなろうとする 意図的努力の態度になりがちで思ったことが自 己暗示作用するようになる受動的注意の態度が 損なわれるという問題を含んでいる。この問題を 回避するために、河野式ATは、受動的注意(こ れも一般のATでは受動的注意集中と言うが、意 図的努力になりやすい集中という文言を排除し ている)の態度が維持されるように、公式のよう になってもならなくても「ただ思い浮かべている だけ」「思ってみているだけ」でいられる態度を 重視する「暗示方式」をとることを明言している。

 ところで、一般に意識とは、古くは哲学的心理

学で、知・情・意と3つに分けられたさまざまな

心の働きで、感覚、知覚、感情や気分、記憶や知

識、思考、欲求、意志、願望や予期、空想、誤解

や誤認なども含む膨大な「意識の内容」を指すこ

とが多い。その一方で、河野(2002)の扱う「意

識体験」では、上記に挙げた意識の内容と、意識

内容を意識化する「注意」「関心」のあり方を「体

験の仕方」として区別している。「体験の仕方」

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は体験様式などとも呼ばれ、動作療法の成瀬悟策、

動作訓練法の大野清志、壺イメージ療法の田罵誠 一や三角イメージ法の藤原勝紀らも着目し、臨床 面接で重要視している。Clが心理的問題に対し て「強く」「がんばって」「必死に」といった意図 的努力方式の体験様式で取り組むだけではなく、

「穏やかで安定的に」といった暗示方式の体験様 式で取り組むことで問題解決を進められるよう になることを目指すという点が共通している。

 人格形成過程の問題が背景となって様々な支 障が現れているClに対して、阿部(2002)や大 草(2002)らが、意識体験治療論を基にした自律 訓練法や臨床催眠法、体験的対話教育法の適用を 試み、その有効性が報告されている。しかし、意 識体験治療論が、今も検討され深化し拡大してい るものであり、未だ完成されたものではないこと もあって、報告されている事例の数は、まだまだ

少ない。

 そこで本稿では、意識体験治療論の考え方を援 用して面接を行った神経性頻尿の女性の事例を

とりあげ、その臨床面接過程について、Thの関 わりとClの心理的変化を中心に報告し、それら について考察する。

事例の概要

 以下での記述はプライバシー保護のため、内容 を損なわない範囲で事実関係を改変してある。ま た、内容は、電話受付での聞き取りと第1セッシ

ョンでAさんが語ったことを基にまとめたもの

である。

1.事例

 Aさん 30歳代 女性

2.主訴

 乗り物に乗ったり、映画館にいたりする時に、

心臓がドキドキしたり、落ち着かなくなり、トイ レに行きたくなることに耐えられない。

3.面接時間・回数

 200X年11月2日から、12月21日まで週1回 のペースで、1セッション50分で実施した。た だし11月23日は祝日の為お休みとし、2週間後 の予約となった。そのため計6セッションであっ

た。

4.生活史

 幼少時より、周囲からおとなしくいい子と言わ れていた。両親はキリスト教の信者であり、Cl

も7歳の時に洗礼を受けた。公立の小学校を卒業 後、中学から大学まで一貫教育の私立中学を受験 して合格した。高校、大学も他校を受験せずに内 部生としてそのままストレートに進級した。成績 は、常に上位群に入っていた。学生時代、友人関 係で大きなトラブルはないが、相手の期待に応え

ようと頑張ってばかりで言いたいことが言えず、

疲弊し、辛かったとのことだった。友達のちょっ とした振る舞いに嫌われたのではないかと強い 不安に襲われ翌日寝込んでしまうこともあった。

表面的にうまくいっていても、いつも孤独で親友 はなく、そういう自分に対して情けなく自信がな いと語った。4年制大学を卒業後、親の縁故で広 告会社に勤務した。事務職であったが、上司に発 想を買われて、雑誌のコラムに小さい記事を書か せて貰うことがあった。30歳の時、職場の同僚

と結婚して退職した。

 退職後は、哲学や法律に興味を持ち、大学の講

義を聴講したり、社会学の先生について、現在も

勉強を続けている。先生が関わる出版物のコラム

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に、時々小さい記事を書く仕事を貰っているとの

ことだった。

5.C1が語る自己性格

 自分は人の期待に合わせ過ぎるところがある という。向上心が旺盛なタイプで、仕事を任せら れると明け方の4時までかかっても仕上げずに はいられない。翌日は極度に疲労感を感じ、ぐっ たりして何もやる気がしなくなるのだと話した。

そして、そんな自分のあり方がいいとは思えない

と述べた。

6.家族構成

 夫(35歳)と都内で二人暮らしをしている。

元家族は、父親(70歳)、母親(68歳)、姉(35 歳)とClの4人家族である。父親と母親は地方 で暮らしている。姉は夫と子どもの3人家族で、

両親のいる実家の近くに住んでいる。

7.来談までの経緯

 19歳の時、通学に使用する急行電車に乗ろう として最初の症状が現れた。各駅停車ではなく急 行であると分かった途端に、心悸充進と冷汗とと

もに、トイレに行きたくて仕方ない感じとなった。

次の駅まで何とか持ちこたえて用を足してしま うと、その後、尿意はなく大丈夫になった。しか し、そんな事になってしまったことに納得がいか ず、拘泥するようになった。その出来事を発端に、

急行電車に乗る前は緊張し、必ずトイレに行きた くなるようになった。辛うじて電車に乗れても、

動悸と冷汗で非常に気分が悪く、すぐに降りたい と思ってしまった。そして、そんな風になること が嫌でたまらなかった。

 その後少し小康を得ていたが、26歳の時に、

再び電車を降車せずにはいられない程の動悸と

トイレに行きたい感じが起こった。泌尿器に問題 があるのかと思い泌尿器科を受診したが、検査の 結果、身体にはどこにも異常はないと言われた。

精神科を勧められたが、気が進まず、受診はしな

かった。

 そのような症状に加え、30歳を過ぎた頃から、

高速道路を車で走る時に「自分は飛び降りるんじ ゃないか」という気持ちが湧いてきたり、カーブ に突っ込みたくなるような感じがしてきたりし て、高速道路を車で走ることが不安で仕方なくな った。その後、なるべく高速道路は使わないよう になった。同じ頃から、コンサートホールの座席 が高い位置だと、落ちるのではないかと強い不安 が生じた。胸が圧迫されるような感じで苦しくな り、それがきっかけで、以前は行けていたコンサ

…一・・

gへ気軽に行けなくなった。

 32歳となり、それまで緩和傾向にあった症状 が再燃した。だましだまし今まではやってきたの だが、辛さや生活の不便さが増したこと、春に仲 の良い友人達と計画しているギリシャ旅行で飛 行機やバス、電車に乗ることを考えると、どうし ても治さなくてはと思った。そんな思いから再度 泌尿器科を受診したが、26歳の時の受診時と同 様に、身体的な異常はなかった。主治医に神経性 頻尿と診断された。カウンセリングが有効である ということで当機関を紹介され、相談申し込みに 至ったとのことであった。

8.医療機関受診歴

 26歳と32歳の時の2回、泌尿器科を受診した。

1回のみの受診で、その後通院はしていない。

9.医師の診断

 32歳の時、泌尿器科の医師に神経性頻尿と診

断された。

(6)

面接の経過

 *以下、「」内はAさんの言葉、〈 〉内は 筆者(以下Th)の言葉とする。

#1 200X年11月2日

 道に迷ったため遅れますと予約時間の5分前 にAさんから電話連絡があった。「到着が遅れ申 し訳ありません」と深々と頭を下げ、恐縮した様 子で挨拶をした。息遣いが荒く、髪が乱れており、

急いできたのが分かった。Aさんの物事に対する 姿勢が、几帳面であることが窺われた。髪を腰ま で長く伸ばしており、茶色く染めていた。着用し ている洗いざらしの白いシャツにチノパンは、身 体に自然にブイットし着慣れた様子で、さりげな いおしゃれをしているのを感じた。寸分のすきも ない様な雰囲気ではなかった。化粧はしておらず、

顔色が蒼黒く冴えなかった。背筋をピンと伸ばし て両膝をしっかりと閉じて座る姿勢からは、性格 的な緊張性が感じられるのだが、全体的な雰囲気 からはどこかルーズさも同時に合わせ持つ印象

も受けた。

 第1セッションでは、まず電話受付けの聞き取 りを基にして、主訴や経過などについて不足して いる事実についての体験を確認することを心が けた。Aさんは、公開講座に参加したり、急行電 車に乗ったりする時のエピソードを挙げて、不快 な症状やトイレに行きたくなって仕方がなくな る緊張感について話した。Aさんが症状について 語った時にはくその時どんな思いが浮かんでい

ましたか〉と体験を訊ねたりくそのことについ てどう思いますか〉と問題についてのAさんの 認識を確認したりして進めた。事実とそれにっい ての意識体験を丁寧に聴いていくことを心がけ、

Aさんが何についてどのように困っているのか、

その問題がどうなると良いと望むのかが明確に

なることを目指した。Aさんの話から、公開講座 の真ん中の席や電車など、逃げることができない

と思ってしまう状況に直面すると、「トイレに行 きたくなったらどうしよう」「そんなことはいけ ない」「人から変に見られるのが恐い」などの不 安が生じていることが明らかになった。そして、

最悪の事態にならないように何とかしなくては と思い、実際にその思いのように何とか対処して いるのだが、自分の対処の仕方がいいと思えてい ないことが分かった。「これではダメだ」とさら に努力するが、一向に芳しい効果がないので、尽 きることのない努力をしなくてはならず、それで 疲弊してしまっていると考えられた。Aさんが、

症状に関連する思いのみを語っていたので、Th からくそこはどんな風に思って、どうされました か〉と訊ね、Aさんの語られていない体験が明確 になることを目指した。Aさんの応答から、不快 な症状に対して辛うじて対処が取れているのに、

それでよしとできず、これではダメだと、常にき つく辛い意識体験が伴っていることが窺えた。A

さんにくよくなったときの状態についてこんな 風だったらいいなというものはどんなものです か〉と訊ねると、何も気にならないで電車に乗る ことができ、落ち着いていられることだと語った。

そして、それまでのAさんの固い表情が緩み、自 然な笑顔となった。Aさんのほっとした感じが表 情と雰囲気から感じられたので、気分を訊ねると

「いや〜」と笑った。<悪くなさそうに見えるけ ど、Aさんとしてはどうですか〉とThが汲み取 ったAさんの体験について確認すると「そうです ね悪くないです」と言った。

 次に、語られたAさんのエピソードを取り上げ、

自己暗示の作用について説明した。公開講座の時

に座席の真ん中にいて、逃げることができないと

Aさんが気付いた途端に、それまでは落ち着いて

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いられたのが、急に不安が生じて身体症状が現れ たことを話題にした。Aさんが不安となり、そこ で「トイレに行きたくなったらどうしよう」と思 うと、それらがそのままAさんの心と身体に暗示 作用し、実際にトイレに行きたくなる症状が起き ているのだと説明した。不安に気づいたら、そこ からさらに「どうなれるといいのか」「自分が納 得できるあり方はどのようなものか」と解決のヴ

ィジョンやAさんの気分が安定に向かうような もうひとつの考えを心静かに穏やかに思い浮か べてみることが大切であると伝えた。解決のヴィ ジョンを、穏やかで安定した思い方で思い浮かべ てみると、その思いが自己暗示として作用するよ うになる。そうすると、きつく辛い対処ではなく、

自然な感じで症状が緩和したり、問題が解決でき たりすることを説明した。また、Aさんの症状は 今の意図的努力方式の思い方だときついよ、工夫 が必要だよと心が身体を通じて教えてくれてい る警告のようなものであると伝えた。症状は確か に不快なものだが、一方で心がバランスを保つた めの大切なメッセージでもあることを伝え、Aさ んが症状のプラスの意味も分かることで、自己受 容的になれることを意図した。Thの話しかけをA

さんがどう体験したかを確認するためにく今の 話を聴いてどう思いましたか〉と訊ねてみた。A さんは「ドキドキしたり冷や汗が出るのは嫌です けれど、そこには大切なメッセージも含まれてい るんだなって(思いました)」と表情を緩ませて 語った。その緩んだ表情から、症状は、除去しな くてはならないマイナスなものとしてだけでな く、それが起こる意味や大切さについても同時に 思えるようになったことで自己受容的になれ、A さんの体験の仕方が穏やかになったことが窺え

た。

 最後に、今後の心理面接について話し合った。

症状の改善を主な目標とし、週に一回のペースで 実施すること、Aさんの症状の改善に役立つと思 われる自律訓練法やイメージ体験も適宜利用し ながら進めてゆくことを提案し、その治療計画の

了承を得た。

<見立てと援助方法>

 Aさんは、公開講座で真ん中に座ったり、急行 電車に乗ったりする時などに、「トイレに行きた

くなったらどうしよう」「(そうしたいのに)そ んなことをしてはいけない」「人から変に見られ るのが恐い」といった不安や葛藤、恐れが生じて いた。そして、そのような考えや気持ちが生じな がらも、実際は我慢して座っていたり、耐えなが ら乗車し続けたりして対処していたが、それには 常にきつく辛い気分が伴っていて、そんな自分の 状態を嫌っていた。つまり、Aさんの心の中に「我 慢する」という考えの他に、「そうしたくてもで きない」などの相反する考えがあり、拮抗してい ると考えられた。必死になって我慢することがと ても苦痛であり、きつい意図的努力方式の体験の 仕方が窺えた。Aさんは、対処していても対処が できているとは思い切れず、さらにその考えに拘 ることから解放されなくなるために、いつまでも 緊張が回復しなかった。そのために、持続的な心 身緊張が頻尿や動悸などの身体症状となって現

れていた。また、高速道路やコンサートホS・・一・ルで

は、「飛び降りるんじゃないか」「落ちるのでは

ないか」という不安や緊張を伴う不穏な考えが浮

かび、「そうしてはいけない、そうなってはよく

ない」と意図的努力で無理して思うので、胸の圧

迫感が現れ、高速道路が使えなくなったり、コン

サートに気軽に行けなくなったりと身体症状が

出始め、行動範囲の制限が生じ始めていた。これ

らのことから、Aさんの症状は、 DSM−IV−TRで

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いう不安障害の中の広場恐怖を伴うパニック障 害の傾向に対応していると考えられた。ただ、不 安や緊張によって引き起こされる身体症状の中 でも頻尿がその時のAさんの主な訴えであるこ

とから、医師は神経性頻尿と診断したと考えられ

た。

 公開講座や電車に乗るときに起こる症状を必 死に我慢して対処する時のAさんの体験の仕方 は、きつく辛い意図的努力方式であった。そして、

そんな自分のあり方がよいと思えていなかった。

また、相手に合わせてばかりで自己主張ができな かったり、友達のちょっとした振る舞いによって 不調が起こり寝込んだりするエピソードからは、

「言いたいけど、言ってはいけない」といった意 図的努力が前面に出て、対人面での過敏性やスト

レスを溜め込みやすい傾向が窺えた。しかし、ど の訴えも、客観的にはさほどでもない出来事なの に、そのことで容易に心身の失調が起こされてし まうのは、現実的なストレッサーへの耐性形成が 不十分な人格の未発達さがあるためと考えられ

た。

 そこで、Aさんが、意図的努力方式の体験様式 だけではなく穏やかで安定的な体験様式でも自 分の心理的問題に取り組めるようになることや、

問題の解決のために自己暗示が使えるようにな ることが、症状を改善していくために役立っと考 え、意識体験治療論の適用を試みた。

#2 200X年11月9日

 第2セッションでは、まず、数日前にあったと いう公開講座の時のAさんの症状を話題に取り 上げて話し合い、その後は、Aさんが気になって いることとして上げた幼児期からの自分にっい て、及び自宅にいたときに生じた突然の恐怖感に ついて話し合った。

 公開講座では、以前と同様の緊張と不安が生じ てきたものの、以前の様にぎりぎりまで我慢する のではなく、まずトイレで用を足してから手を挙 げて質問をして過ごしたとのことだった。Thは、

どういう気持があってそうしたのかを訊ね、以前 とは変化しているAさんの意識体験が明確とな ることを目指した。すると、前回の面接での不快 な症状は心がバランスを取ろうとしているサイ ンで、大切なものであるというThの言葉を思い 出し「気を遣いまくっていた以前とは違って、行 きたいのだから行こう〜ってと思った」と言った。

そのことが、無理なく自然に思えているかどうか、

つまり、自己暗示として作用しているかどうかを 確かめる為に、そう思ってみての気分を確認した。

すると「楽な感じでした」と述べ、自然に思えて いることが分かった。居心地が悪い感じに気づき ながらも、自己暗示を使って対処できていること について触れ、そのことをAさんが自覚できるよ うに関わった。そして、そう思えるようになり、

トイレに行きたい時には無理に我慢せずに行く という自分についてはどう思いますかと訊ねる と「なかなかいい」とのことだった。また、緊張 や不安に気づいた時に、そこでどんな風に思って みるとAさんの緊張や不安が緩和していくのか、

それを一緒に探していきましょうと伝えた。これ は、Aさんが不快感に気づいた時に、それに拘泥 するのではなく、さらにそこから「どう思ってみ るといいのか」と思い浮かべてみることができる よう意図した関わりであった。

 Aさんは、幼児期からの自分について「相手に 合わせたり、自己欲求を抑えたりしていた反面で、

どうしてこうしなくてはならないのだろうとい

う疑問や違和感を強く感じていたことにも気づ

きました」と落ち着いた様子で述べた。自分が自

分のことをいいと思えていなかったと気づき、そ

(9)

の点の自己理解が進んだ。ここでは、Aさんの気 づいた疑問や違和感について話題に取り上げ、そ こを素にAさんにとっての望ましい状態につい て訊ね、それが明確になるよう関わった。Aさん は、柔軟に伸びたり縮んだりできる自分になりた いと抽象的ではあるが思い描くことができた。Th は、Aさんにとって望ましい状態がさらに明確に なることを狙ってくもしそういう自分になれた としたら、日常はどんな風に変わりそうですか〉

と訊ねた。するとAさんは、分かりませんと困っ た顔で述べた。Thは、今ここで思い描くことが できなくても、どんな風になるのかなと考えてみ ることが大切なこと、分からないということは分 わらないことが分かっているということでもあ ることを話題にした。これは、ネガティブな考え に対してAさんが自己受容的になれるよう意図

した関わりであった。

 9階の自宅マンションで突然強い恐怖感を感じ

「飛び降りたらどうしよう」と思ったことにっい て表情を強ばらせて語った。「怖かった」という Aさんの気持ちをそのまま受け止め、Aさんが自 分の気持ちに対して、そんな風に感じたらそれは 恐いものだろうと受け止められることを意図し て関わった。また、実際には飛び降りていないこ とに触れ、今ここで語られた他にはどんな思いが ありそうかと訊ね、今ここで注意関心が向いてい る以外の意識体験に注意関心を向けてもらうと

「飛び降りてはいけない」「何とかしなくちゃ」

という意識体験があったことに気づいた。それを 思っている時の気分を確かめると、我慢している 感じ、苦しい感じだったと述べていることから、

対処はできているけれども、意図的努力のきつい 体験様式であると考えられた。無理かもしれない と不安に思っていることを頑張って必死に目標 達成しようと思い過ぎると、心がしんどくなって

しまい、かえって目標達成しにくくなることがあ ること、目標を無理なく自然に思い浮かべて自己 暗示として作用するようにすると、対処しやすく なることを話題にした。これは、Aさんが治療的 自己暗示を使えるようになる為のコツの説明で ある。Aさんは「頑張ることは大切だけど、頑張

り方があるのですね」と述べた。目標を頑張り努 力方式ではなく、暗示方式で思うコツを理解した

ことが窺えた。

 最後に河野式ATを実施した。服に触れている 手の感触を「よく分からない」と述べ、眉間に僅 かに搬が入っていた。何かを感じなくてはと焦っ ていることがAさんの表情や雰囲気から汲み取 れたのでくよく分からないと感じている時の自 分の感じに軽く注意を向けてください〉と教示 し、焦りの緩和を目指した。先に話題になった暗 示方式で思うコツを思い出してもらいくよく分 からないな〜というその感じを、ただただぼんや りと眺めているような心づもりで感じてみまし ょう〉と伝えた。するとAさんは、ふ〜っと表情 が緩んだ。終了後、〈どうでしたか〉と訊ねると

「すっきりとしました。分からないものは、無理 に分かろうとしなくていいんだと思ったらほっ

としました」と低く静かな、ゆったりとした口調 で語った。その様子から、受動的注意ができ、リ ラックスした感じが出せていると考えられた。

#3 200X年11月16日

 Aさんの顔色は、以前の青黒い色から血色良く 変わっており、自律系のさらなる安定がもたらさ れている印象を受けた。冬の到来を感じる晴れた 日の今日の天気について触れると、気持ちがいい ですよねとにっこり笑顔で話した。

 第3セッションでは、公開講座の時のAさんの

症状について確認し、その後は、今気になってい

(10)

ることとして思い浮かんでいるという自分の性 格について話題に取り上げて話し合った。

 公開講座では、ここ2回トイレに行かなくて済 んでいるとのことだった。以前のように強い不安 や緊張感がなくなってきたと語り、症状が改善し てきていることが窺えた。どのような心の変化が 症状の改善に繋がったと思うかと訊ねた。Aさん は、以前は頼まれると断れず、習い事も、体調が 悪くても絶対に行かなくてはならないと思って がんばっていたが、今は、理由があって断ること や、体調が悪くて休みを取ること、勿論、トイレ に行って用を足すということもそうだが、今まで はいけないと思っていたことが、時には自分にと って大切な場合もあるのだなと思えるようにな り、そんな無理のないやり方が自分らしいあり方 だと思うようになったことが改善に繋がったと 述べた。その思いもまた、自己暗示としてAさん に作用していると考えられた。Aさんは自分につ いて「ちょっとしたことを負担に思いやすい」

「したいとか、してみようとかではなく、しなけ ればならないと思って、知らずと自分で自分にル ールを課して自由でいられなくなっていた」「期 待されていると思い過ぎていて、それに応えなく てはいけないと思うことによって辛くなってい た」と語った。ここでも、理解し、気づいた自分 に対してくどう思うか〉〈どうなれるといいか

〉と訊ね、Aさんが考えてみることや、そのこと についての意識体験が成立してくるよう対話で の質問を心がけた。質問への応答が、そのままA さん自身に自己暗示として作用するよう配慮し た対応であった。

 心に自然と思い浮かぶ感情や考えの中には、不 合理なもの、時には理不尽で非人間的なものも含 まれる。しかし、こう思わなくてはならないとか、

こう思うべきだという唯一の正しい思いが存在

するのではないこと、気づいた思いに対して「自 分はどう思うのか」と検討し、最初に気づいた思 いからさらに、Aさん自身が思いたい思いを思え る心の自由や選択があることを話題に取り上げ、

話し合った。

 Aさんは自分について、感受性が強い分、物事 に対して大きな感動を得られるが、その反面で、

一日感動と興奮が冷めやらぬ状態で過ごして不 眠となり、翌日はぐったり疲れ切ってしまうと語 った。<そういうご自身について、Aさんはどう 思いますか〉と訊ねると、感動を得られる自分は 好きだが、ぐったり疲れきってしまう自分はよく ない感じだと述べた。なれるといい自分について 訊ねると「いい循環をさせる。その日に感じた 色々な思いをエネルギーにして元気はつらつで 日々を過ごせるようになりたい」とのことであっ た。無理なく自然に語っており、Aさんの目標が 自己暗示として作用していると考えられた。自分 に対する理想、希望を無理なく自然に思っていら れるようになること、思い浮かべていられるよう になることで、目標達成しやすくなるということ について、Aさんが思ったときの自分の気分の自 覚を確認しながら丁寧に対話を進めた。

 最後に河野式ATを実施した。足首に緊張が残 っていることが窺えたので指摘し、一度思い切り 力を入れてもらい脱力してもらった。そして、そ

うしてみた時の感じに、心静かに注意を向けてみ るように教示した。そうしているときのAさんの 態度に無理はなく、さほど難なくできていた。手 温感で、手の感じを訊ねると「普通の感じ」とA さんは報告した。<普通の感じをそのままゆっく り味わう感じで。実際は「普通の感じ」なのだが、

それとは違う目標、ここでは「手が温かい」を軽

く自然に唱えてみる練習だと思ってやってみて

ください。温かくも冷たくもない普通の感じの手

(11)

に軽く注意を向け、手が温かいと唱えてみましょ う。手を温かくする練習ではなく、実際とは違う 目標を唱えてみる練習だと思ってやってみてく ださい〉と伝え、受動的注意がしやすいようコツ を伝えた。そして、その状態が得られたら、その ままイメージ体験へと進めた。広々とした教会の イメージが出現した。ステンドグラスから柔らか な陽が降り注いでいると語った。気分を訊ねると

「守られた、慈愛に包まれた感じ」と述べた。開 眼後は「こんな気持ちになれたのは久しぶりで す」と眼をうっすらと潤ませ、静かな口調で感想

を述べた。

 面接場面だけでなく、家でも河野式ATを実施 してみるよう勧めた。回数や時間は特に提示せず、

就寝前に実施するとリラックスした感じが得や すいし、無理なく続けやすいことを伝えた。また、

河野式ATで心理的なリラックスが得られるこ とで心身が元気よく機能する為の手助けとなる ことを伝えておいた。これは、Aさんが河野式A Tの効果について理解し、分かるということも自 己暗示として作用することを念頭に置いての関

わりであった。

#4 200X年11月30日

 第4セッションでは、母親が上京してきて電車 に乗った時の症状について確認し、その後は、気 になっていることとして思い浮かんでいるとい うギリシャ旅行についての不安について、及び傷 つきやすい自分と信頼感について話題に取り上 げて話し合った。

 母親が上京してきて一緒に電車に乗る時に、以 前と同じような不安感と緊張感を感じたとのこ

とだった。Aさんは居心地の悪さに気づきながら も、一度深呼吸したあとで「もし調子が悪ければ 次で降りればいい」「大丈夫。何とかなる」と自

己暗示を使って乗り切っていた。居心地の悪さが 生じても、自己暗示を使って対処できたことを確 認し、他の場面でもこんな風に乗り越えられると いいですねと伝えると、Aさんの表情、雰囲気が

緩んだ。

 ギリシャの旅行は、バス乗車が長時間なのでと ても気がかりだと不安を語った。Aさんの感じて いる不安について、長時間というところで心配に もなりますよねとまずは受け止め、Aさんが自己 受容的になれることを意図した。さらに、そこは どんな風だとよさそうかと解決のヴィジョンを 訊ねると、常に一緒に行動するのではなく、独り にしてもらう時間もとって、気持ちを落ち着かせ たり、電車の時みたいに暗示を使ったりして何と かできるといいなと語った。そう語ったことがす でに自己暗示になっていると考えられるのだが、

Aさん自身は、まだそこまでは思い至っていない

ようだった。

 社会学を教えてもらっている先生の言動に傷 ついた出来事から、相手のちょっとしたしぐさや 言葉で、信頼感が容易に揺らいでしまうというこ とが話題となった。Thは、 Aさんが、そういう 自分について冷静に客体視できるようにくそん な風になっている自分をAさんは、どんな風に思 いますか〉と訊ねたり、ネガティブな自分につい ての思いを素にして、そこからどうなれるといい のかという思いが明確になるよう心がけて質問 を工夫した。Aさんは、「気持ちが揺れ動くよう な出来事があったとしても、それを越えて崩れな い信頼関係を信じていけるような自分になれれ ば…」と真剣な表情で語った。今はまだ目標に 到達していないけれども、目標を目指しながら今

を過ごしている自分がいることを話題に取り上

げくその自分について、どう思いますか〉と訊ね

ると、ぱっとAさんの表情がさらに明るくなった。

(12)

悪くない感じであることがAさんの表情、雰囲気 から汲み取れたので確認すると「そうですね」と しっかりとした口調で述べた。こんな思いの全て がAさんの自己暗示として作用していると考え

られる。

 対話面接が長引き、予定していた河野式ATは 今回実施しなかった。家庭での実施状況について 訊ねると、時間がある時や就寝前に試していると のことだった。特に就寝前に実施すると導入の所 だけで楽な感じになれ、身体がポカポカしてきて そのまま眠ってしまうとのことだった。以前は毎

日のようにあった中途覚醒が殆ど起こらず、目覚 めがいい感じだと報告があたった。

#5 200X年12月70

 第5セッションでは、現在の症状について話し 合い、その後は、Aさんが気になっていることと して上げたギリシャ旅行でのバス乗車時の対処 について、及びバレエの先生の言葉をきっかけに 気づいた自分についてを話題に取り上げて話し

合った。

 公開講座や電車に乗る前に生じる不安や緊張、

それに伴うトイレに行きたくなる感じについて、

「行きたい時は行けばいい」と思えるようになり、

結果としてトイレに行くときもあれば行かない 時もあるとのことだった。何より、トイレに行き たくなったらどうしようという思いにとらわれ ずに楽にいられるようになったと述べ、調子よく 過ごしていることが報告された。

 ギリシャ旅行でのバス乗車時の対処について は、前回のセッションで話題としたAさんの自己 暗示による対処について取り上げ思い出しても

らった。Aさんは「そうそう。不安な感じになっ ても、大丈夫、何とかなると思えてきました」と 笑顔で語った。そう思えたことが自己暗示として

作用すると考えられた。

 バレエの先生の叱責に、以前なら落ち込んで再 起不能だっただろうが、今は、叱責されて落ち込 んでも、自分が行きたいと思うのだから行こうと 思うと柔らかい笑顔で語った。Aさんは、バレエ の先生の言葉をきっかけに自身について振り返 り、臆病で自信のない面と自信のある面の両方が あることに気づいた。ここではくそういう自分に ついてどうか〉と訊ね、Aさんが自分を客体視し

自己検討できることを念頭に置いて関わった。A さんは、善の自分にも気づけるようになったこと、

プラスばかりは苦手だが、そうかといってマイナ スだけだとしんどいことについて語った。その後 は、善と悪、或いはプラスとマイナスについて、

それぞれが二律背反の性質のものではないとい う話題で盛り上がった。Thは、プラスとマイナ スのそれぞれについて多面的にAさんが捉えら れるようになり、それが自己暗示として作用する ことで、意識の仕方が落ち着いたゆとりのある状 態となることを意図した。Aさんは、小さい頃か ら周囲が良いと思うものを良いと思えなかった 自分のことについて、以前は、周囲との違いを寂 しく感じていたが、今は、それが自分なのだと穏 やかに述べ、自分に対する新たな見方ができてき たと語っていた。

 最後に河野式ATを実施し、そこからイメージ 体験へと進めた。心の中を見つめてゆこうと思っ てみたところ、奥深く広がってゆく感じになった とのことだった。気分を訊ねると、心地よいと報 告があった。しばらくその心地よい感じに浸り、

大切にしてもらった。その間、〈どんなことが思 い浮かんでいますか〉と訊ねると「宇宙が見えま す」と述べた。それをじっくり体験してもらった。

開眼後は、穏やかな表情であった。気分を訊ねる

と、Aさんは、「とても落ち着いていて、いい状

(13)

態です」と語った。       ンがはっきりとしていった。さらに、「一日の終        わりに振り返りをして、自己反省をしてきた。正

#6 200X年12月14日

 第6セッションでは、現在の症状について確認 し、後半は、Aさんが挙げた自分の生き方にっい て話題に取り上げて話し合った。

 公開講座や電車乗車時、映画館などで起こって いた心悸充進や冷汗、トイレに行きたくなる感じ、

また、高速道路や自宅にいる時に起こる強い不安 感や恐怖感は起こらなくなっているとのことだ った。「映画やコンサートへは行っていないので 大丈夫かは分からないが、行ってみようという風 に思えるようになった」と語った。トイレに行き たくなる感じについては、尿意に気づいた時に、

そこで自分の身体に聞いてみたり、自己暗示を使 ったりして対処していると語り、実際に行かなく て済んでいることが2回あったことが報告され た。〈そのことについてどう思う〉と訊ねると

「自分の身体の感じをつかめたって感じかな。ま だ行かなくて平気よ〜というのがすごく嬉しか った」と述べた。

 後半は、Aさん自身の生き方についての振り返 りとなった。長いこと自分を抑え、自分に嘘をつ いて生きてきて、それがきつかったのだが、今は 素直に生きようと思っているとのことだった。し かし、素直に生きることで自由になれた反面、そ の分風当たりがダイレクトになって辛い部分も あると語った。Thは、 Aさんの言葉をThの言葉 に言い換えて返したり、Aさんが語る必ずしもA さんの思う通りではない現実についてくそこを どう生きていかれるといいなと思いますか〉と 訊ねて、Aさんが解決のヴィジョンについて考え

たり、意識化できるよう関わった。Aさんの中で

「摩擦が生じたとしても、自分を偽らないで過ご してゆきたいと思います」という解決のヴィジョ

しいのか間違っていたのかと裁いていた。他人も 自分をも裁いてきたように思います。けれど、今 は違うんです。変わってきているのは、反省して 落ち込むのではなく、正しいとか間違っていたの かということではなく、今日も私は生きられたな ということなのかなと思うようになったことで す。自分を受け入れるというのか、生きているこ

とを感じられるというのか…」と語り、Aさん の心に新たな意識体験が成立してきたことが窺 えた。無理なく自然に語るAさんの様子から、こ んな風に思うことが自己暗示として作用してい ると考えられた。確かめる為にく自分も他人も裁 くのではなく、今日も生きたのだと思ってみると、

どんな感じになりますか〉と気分を訊ねると「生 を受け入れている感じで、豊かなことだなって。

豊かな気持ちになりますね」と述べた。<そう思 っている自分についてはどう〉と訊ねると「ある 程度土台がしっかりとしてきたのかなって思い

ます」と述べた。

 観念的な話題が続いたので現実生活を意識し てもらう為に、旅行に向けての今の思いを訊ねた。

いつもは沢山予定を入れ過ぎるので、余裕を持た せた計画にしているとのことだった。Aさんは、

以前は許せなかった完全ではない自分を、今は許 せるようになってきたと思うとThを真っ直ぐに 見て穏やかに語った。<そんな自分についてはど うですか〉と訊ねると生きるスペースが増えた ように思いますと、にっこりとした自然な笑顔で

語った。

 面接開始時、公開講座や電車に乗るときに毎回

起こっていた心悸充進や冷汗、及びそれに伴うト

イレに行きたくなる感じは、第6セッションの時

点で、殆ど起こらなくなっていた。トイレに行き

(14)

たくなる感じがあっても、慌てずにそこで身体感 覚を確かめたり、自己暗示を使って対処できてい たりすることが報告された。また、高速道路や映 画館、自宅にいる時などに起こった強い恐怖感も なくなっており、以前は使用できなかった高速道 路が使えたり、気軽に行けなかった映画やコンサ ートにも行ってみようかなと思えるようになっ たりしていることが報告された。以上のことから、

主訴が改善してきていると考えられた。一山越え たということを相互に確認し、今回で終結という ことになった。Aさんは、クリスマスカードとプ レゼントの花を持ってきてくれた。出口まで送り、

握手をした。うっすらと目に涙を浮かべてほほえ んだAさんの表情が印象的だった。

考察

 事例における治療目標は、Aさんがポジティブ もネガティブも含まれるあらゆる意識体験につ いて、穏やかで安定的な体験の仕方で気づけるよ

うになることと、自己暗示の使い方を習得し、そ れを使って自力で行動や生活のコントロールが できるようになることの2つとした。治療目標を 達成するために試みたThの関わりとそれによる Clの変化について以下に考察する。

1.クライエントが、自分の意識体験に対して、

 穏やかで安定的な体験の仕方で気づけるように  なるためのセラピストのかかわりとクライエン  トの変化について

 Thは、症状や問題についての利点や有用性を 伝えたり、各セッションの対話面接の終わりに、

河野式ATやそれに続くイメージ体験を取り入 れたりした。また家庭でも時間がある時に河野式 ATを実施してみることを勧めた。ネガティブな 考えに対して、プラスの意味づけも出来るように

なることで、穏やかで安定した体験の仕方に変化 させることを目指した。ATの公式やイメージを 思い浮かべている時の受動的注意の状態は、穏や かで安定的な体験の仕方を意味する。この穏やか で安定した体験の仕方が形成されることで、自己 暗示を「ただ思い浮かべているだけ」の態度で思 い浮かべられやすくなるのである。また、穏やか で安定した体験の仕方によって、Aさんの内省が 促進されやすくなり、未だ気づいていない自分の 意識体験に気づくことで問題解決を進めていか れるようになるのである。以下にセッションでの

詳細を述べる。

(1)症状や問題についての利点や有用性を伝えて、

 クライエントにネガティブな考えが起こった  時に、同時にその考えを思い浮かべられるよう  にする

  #1で、症状は、心がバランスを保つための

 大切なものでもあると、利点や有用性を伝えた

 のは、Aさん自身がそのように思えるようにな

 って、穏やかで安定的な体験の仕方になれるこ

 とを意図したからである。結果として、#2で

 Aさんは、トイレに行きたくなるネガティブな

 意識体験が生じた時に、「心がバランスを取ろ

 うとしているのだから、トイレに行きたいのな

 ら行こう」と思えるようになった。そのように

 思えるようになって、トイレに行きたい時には

 我慢せず行っている自分について、どう思うか

 と訊ねると「なかなかいい」と答えた。自分が

 考えていたことや、そのようにしている自分に

 裏腹さがなく、それでいいと思えていることが

 窺われた。症状に対しての意図的努力が功を奏

 さないきつく辛い考えが見直され、症状を肯定

 的にも思えるようになったことで自己受容的

 になれ、穏やかで安定的な体験の仕方で対処で

 きるようになったと考えられた。

(15)

 #2でAさんは、それまで、迷惑をかけるか ら離席してトイレに行くことはいけないとい う考えがあったが、その考えを自分でよしと思 い切れずに、きつく辛い思い方になっていた。

それが、行きたい時には行けばいいという自分 の緊張感を緩和させるような考えの方が、自分 として納得でき、ぴったりとするもので、そう 思って行動することが自分らしいのだと自然 に思えるように変わった。さらに、#3で、A さんは、理由があって断ることや、体調が悪く て休むことなど、以前は決していいとは思えず 無理して頑張ってばかりいたことにっいて、時 には休むことが大切な場合もあるのだと思え るようになったと述べ、そんな無理のない自分 に合ったやり方の方が自分らしいあり方だと 思えるようになったとのことだった。現在の自 分について受容的になれており、穏やかで安定 した体験の仕方で思えていることがはっきり と分かる。どのような心の変化があって、症状 が良くなることに繋がったと思うかというTh の質問に対して、Aさんは、トイレに行って用 を足すということもそうだが、今まではいけな いと思っていたことが、時には自分にとって大 切な場合もあると自然に思えるようになった ことをあげた。#5では、バレエの先生の叱責 を受け、以前であれば落ち込んで再起不能にな るのが必定だったが、今は、叱責で落ち込んだ としても、自分が行きたいのだから行こうと思 っていると柔らかい笑顔で語り、穏やかで安定 した体験の仕方で思うことができた。#5,#6 では、以前は寂しく感じ、いいと思えていなか った自分について「それが自分なんだ〜」「自 分を受け入れるというのか、生きていることを 感じられる」「以前は許せなかった完全ではな い自分を、今は許せるようになってきたと思う。

 そう思うと豊かな気持ちになる」と語り、穏や  かで安定した体験の仕方に変化していると共  に、明らかに捉え方も変化した。穏やかで安定  的な体験の仕方ができてくると、「現実から離  れて、現実に巻き込まれているのとは異なる、

 これまでとは違った体験や、見方、考え方が得  られやすい」(河野、2002)と言われている。

 また、阿部(2002)の事例でも、体験の仕方が  変化することで、認知内容が変更されるケース  が報告されている。Aさんもまた、ネガティブ  な考えが起こった時に、それについての有効性  や有用性も同時に意識できるようになること  で自己受容的になれ、以前のきつく辛い意図的  努力の体験の仕方から、穏やかで安定的な体験  の仕方に変化し、それによって、以前とは異な  った、自分らしく裏腹さのない、より適応的な  考えが思い浮かびやすくなったと考えられた。

(2)クライエントが自律訓練法の受動的注意を習  得することによって、体験の仕方を変化させる   Aさんは「トイレに行きたくなったらどうし  よう」「電車に乗ってまたドキドキして冷汗が  出てしまったらどうしよう」という実際にはま  だ生じていない事態についての懸念や不安が  強く作用し、それが解消しないことが苦痛とな  り、日常生活上の制限が少しずつ生じ始めてい  た。Aさんは、それに対して、苦痛を一所懸命  に我慢し、「そんなことをしてはいけない」

 「何とかしなくては」といった意図的努力方式

 のきつく苦しい体験の仕方になっていた。エミ

 ール・クエの「努力逆転の法則」と同様に、強

 い焦りを伴う「何とかしなくては」という考え

 には、それを妨げるような「でもできない」と

 いう考えが強く絡み、それ故に「何とかしなく

 ては」と思うほど益々酷くなるのである。そこ

 で、河野式ATの「受動的注意」の心の姿勢を

(16)

習得することで、穏やかで安定的な体験の仕方 になるよう目指した。ネガティブな状態になっ ても、それを穏やかで安定した体験の仕方でモ ニタリングしていられるようになることであ

る。

 具体的には、#2で、河野式ATの触覚意識 化練習を実施した際、Aさんが服に触れている 手の感触について焦った感じで「よく分からな い」と述べた時に、そんな不鮮明で曖昧な感じ に対して、何か感じようと意図的努力をするの ではなく、「こんなわからない感じなんだな

〜」と、ただ、今感じていることをそのまま意 識化していることができるよう「そんなわから ない感じを、そのまま感じていてください」と 教示した。その結果、それまでのAさんの焦っ た感じから、容易に心理的にリラックスした受 動的注意の状態と変わった。このように、感じ たこと、思い浮かんだことについて、「わから ない」という感じも含めて、出てきたものをそ のまま意識化していられるようにThがかかわ ることが、Aさんが早期に受動的注意を体験す ることに繋がり、同時に穏やかで安定的な意識 の仕方となることができたと考えられる。実施 後Aさんは「分からないものは、無理に分かろ うとしなくていいんだと思ったらほっとしま した」と語った。Aさんのこのほっとした感じ も、それまでの意図的努力のあり方が、穏やか で安定的な体験の仕方に変わったことを示す

ものだと思われた。

 さらに、家でも実施してみることを勧めたの は、このような穏やかで安定した体験の仕方が いつも持続的に保てるようになることを意図 したからである。真面目なAさんは、練習を厭 わなかった。その結果、#4では、練習をして いると楽な感じになれる、特に就寝前に実施す

 ると以前あった中途覚醒が少なくなったと報  告があり、その思いも自己暗示として作用して  いると考えられた。日々の河野式AT練習によ  って、穏やかで安定的な体験の仕方が形成され  っっあり、また心身機能の安定化にも繋がって  いると考えられた。

  イメージ体験では、色々想起されるイメージ  の内容ではなく、どんなイメージが想起されて  も、それを穏やかで安定的な体験の仕方で眺め  ていられるように配慮した。河野式ATの時と  同じように「思い浮かんだイメージをそのまま  眺めてみていてください」と教示して、見えて  いるものをそのまま意識化していられるよう  かかわった。また時々「見ている時の自分の気  分はどうですか」と訊ねて、内容とは別に、A  さんが自分の体験の仕方に注意が向かいやす  いように留意しながら進めた。その結果#3で  は、ステンドグラスから陽が降り注ぐ教会イメ  ージを自分が守られた慈愛に包まれた気分で  眺めることができ、また#4でも、奥深く広が  る感じや宇宙イメージを心地よい気分で眺め  ることができた。このことから、想起される  様々なイメージについて、穏やかで安定した体  験の仕方で眺められていることが窺えた。

(3)クライエントが自分の考えや気持ちに気づき、

 自己検討できるようにする。特に、問題を解決  するために大切な三つの思いが明確になるよ  うにする

  全てのセッションで、Aさんの語る言葉だけ

 にとらわれずに、身振り素振り、態度や表現な

 どから、話されていないが確かにあると思われ

 る考えや気持ち、また意識体験の中にはあるけ

 れども注意関心が向かずに意識化されていな

 い考えや気持ちを汲み取りながら進めた。そし

 て特に、問題を解決するために大切な三つの思

(17)

いが明確になるよう質問を工夫した。

 例えば#1で、<その時にどんな考えが思い 浮かんでいましたか〉<(不快感に気づいた後 は)どんな風に思ってどうしたのですか〉<そ のことについて今どう思いますか〉<今捉え た問題がどうなるといいでしょうか〉<悪く なさそうに見えるけど、Aさんとしてはどうで すか〉と訊ねたことや、#3でくそういう自分 にっいて、Aさんはどう思いますか〉<なれる

といいのは(どういう自分ですか)〉と訊ねた ことは、未だ明確になっていないAさんの考え や気持ちを明らかにしようと意図したもので ある。それと同時に、どんな考えや感情がAさ んにとって、ぴったりして裏腹さのないもので あるかに気付けるための配慮でもあった。この ような質問を受けて、Aさんは、#1で、トイ レに行きたくなる症状が起こると、辛うじてで はあるが対処してきていること、しかし、そこ には不安や葛藤、恐れなどの考えが伴っており、

それが、とてもきつく苦しい体験になっている ということに気づいていった。そして、その気 づきをもとにした「気にせずに電車に乗ること ができ、落着いていられるようになりたい」と いう解決に向けてのヴィジョンが意識化され た。Thが汲み取った、そう言っている時のA さんの自然な表情にっいて訊ねると「悪くない 感じ」という裏腹さのない体験の仕方で思えて いることが明確になった。#3でも、Thの質問 を受けて、感受性が強く大きな感動を得られる 反面、翌日ぐったりと疲れてしまうという自分

について「感動を得られる自分は好きだが、疲 れきってしまうのは良くない」と気づいていっ た。そして、その気づきをもとにした「いい循 環をさせる。その日に感じた色々な思いをエネ ルギーにして元気に過ごせるようになりたい」

という解決に向けてのヴィジョンが明確にな った。#4のギリシャ旅行でバスに乗ることの 不安についてもくどんな風に過ごせるといい

〉と訊ねることで、Aさんは「独りにしてもら う時間をとって気持ちを落ち着かせたり、暗示 を使ったりして何とかできるといい」という目 標を思い浮かべることができた。そしてその目 標を思っているときの体験の仕方は穏やかで あり、無理なく自然な自己暗示として作用する 思いとなっていることが確かめられた。社会学 の先生に対する信頼感の揺らぎについてもく その自分についてはどうか〉<どうなれると いいのか〉と訊ねることで「気持ちが揺れるこ とがあってもそれを超えて崩れない信頼関係 を信じられる自分になりたい」とAさんの求め ている自分の姿が明らかになった。そして、目 標を目指しながら今を過ごしているAさんに ついて指摘し、明るく変わった表情から汲み取 れる「悪くない感じ」について訊ねると、その 気持ちがAさんの意識体験にあることが確か

められた。

 Thの質問によって、 Aさんにとって裏腹さ のないぴったりとした考えや気持ちが明らか

となることで、体験様式が穏やかで安定したも のに変わり、さらにそこで、問題を解決するた めに大切な三つの思いが意識化されると、それ が自己暗示として作用する。このことが、症状 の改善やAさんらしく今を過ごしてゆくため に有効に働いたと考えられた。

 先に、体験様式の変化によって考えや気持ち の変更がもたらされることがあると述べたが、

反対に、注意関心が向かう意識体験の内容が変

わることで、体験様式の変化がもたらされるこ

ともあると考えられた。つまり、「意識体験の

内容」と「体験様式」が相互に影響しあってい

(18)

ると考えられ、その両方に配慮しながら臨床面 接を進めることが大切であることが分かった。

2.自己暗示の使い方を習得して、生活や行動の  コントロールができるようになるためのセラ  ピストのかかわりとクライエントの変化につ  いて

 モニタリングで明らかとなった問題を解決す るために大切な三っの思いを、自己暗示として思 い浮かべる時の浮かべ方のコツを伝え、実際に体 験してもらった。そうすることで、最終的には Thの支援がなくても、 Aさん自身が、困難場面 で問題を解決するために大切な三っの思いを、非 意図的な暗示方式で思えるようになることを目 指した。以下にセッションでの詳細を述べる。

(1)クライエントの症状が自己暗示によって形成  されているとクライエント本人が気付けるよ  うにする

  #1でまず、Aさんが語るエピソードを取り  上げて「トイレに行きたくなったらどうしよ  う」と思うと、それがそのままAさんの心と身  体に作用し、実際にトイレに行きたくなるとい  うことが起きていることと、治療的自己暗示を

働かせることができるようになると、これまで  以上に問題が解決しやすくなることを説明し  た。これは、Aさんが思ったり感じたりしたこ  とで不快感や症状が生じているという体験を  意識化し、それならば、自己暗示を治療的に働  かせることで問題解決を進めてゆくこともで  きると分かることを意図していた。そんな示唆  から、Aさんは、実際に困難場面で自己暗示を

使って対処してみようとするようになった。自  己暗示の理解や習得に向けての動機付けとな  るようなThの説明的関わりが、治療をよりよ  く進めてゆくために大切であったと考えられ

 た。

(2)セラピストからの説明や自律訓練法練習を通  じて、クライエントが自己暗示は目標を無理な  く自然に思うことだと分かる

  #1で自己暗示について説明する時や、#2で  自宅で強い恐怖感を感じたことが話題となっ  た時など、不安感に気づいたら、その気づきを  もとに「どうなれるといいのか」とやってみる  といいこと、目標を無理なく自然に思い浮かべ  て自己暗示として作用するようにすると対処  しやすいということを繰り返し伝えて、自己暗  示を思い浮かべる時のiiツが分かるように関  わった。また、#2のAT練習で、実際には、

 手足が温かくない主観的な感じに気づきっっ、

 「温かい」と目標となる言語暗示を思い浮かべ  ていられることを大切にした。導入の際、Aさ  んの眉間に搬が入る表情や雰囲気から、きつい  意図的努力方式の体験の仕方が窺えたので、た  だ思い浮かべてみるだけのことをする暗示方  式で思い浮かべるコツを「なってもならなくて  も、なろうとせず、思い浮かべているだけで思  っていてください」などと教示し、実際に体験  して貰った。その結果、短時間で表情が緩み、

 手が温かくなった。河野のいう「非意図的受動  的に自己暗示を思い浮かべる心的構え作り」が  できてきたと考えられた。

  そして#4で、電車に乗る際に不安と緊張を 感じっつも、一度深呼吸をした後で「もし調子 が悪ければ次で降りてトイレに行けばいい」

 「大丈夫。何とかなる」と思ってみて、3分後

 には落ち着いて平気になったことが報告され

 た。目標達成に必死になることとは逆の、非意

 図的受動的に暗示文を思い浮かべる練習によ

 って、実際に症状が表れた時にも、練習の時の

取り組み方で症状を解消することができるよ

参照

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