AA
型アミロイドーシス合併クローン病の遅発性吻合部出血例
藤解 諒
1)嶋田 徳光
2)大毛 宏喜
2)岡本 暢之
2)矢野 雷太
2)渡谷 祐介
2)上村健一郎
2)村上 義昭
2)末田泰二郎
2) 1) 広島大学病院臨床研修センター 2) 広島大学大学院応用生命科学部門外科学 続発性アミロイドーシスを合併したクローン病に対し外科的治療を行い,非典型的な合併症を経験した ので報告する.症例は 36 歳の男性で,瘻孔形成状態で 15 年間内科的治療が行われていたが症状増悪あり, 加療目的に紹介となった.入院後に進行性の腎機能障害を認め,腎生検にて腎アミロイドーシスの診断と なり血液透析が導入された.消化管には回腸・直腸の狭窄病変あり回盲部切除術・人工肛門造設術,高位 前方切除術を施行した.術後経過良好であったが,第 11 病日に直腸吻合部の出血を伴う離断あり,ハルト マン手術施行した.再手術後も結腸から消化管出血を認めたため,残存結腸全摘術施行した.病理検査で は腸管壁の広範に AA 型アミロイド沈着を認め,消化管アミロイドーシスの診断であった.長期間の病勢 コントロール不良な炎症病態では続発性のアミロイドーシスを併発し,一見正常な粘膜であっても縫合不 全や出血のリスクを伴うことに留意が必要である. キーワード:アミロイドーシス,クローン病,縫合不全はじめに
続発性アミロイドーシスは関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に合併する AA 型アミロイドーシスであ る.炎症性サイトカインの活性化に伴い,血清アミロイド A(serum amyloid A;以下,SAA と略記)が肝 臓から産生され,さまざまな臓器に沈着し組織障害の原因となる1).消化管にアミロイドが沈着した場合, 組織学的には粘膜下の血管壁に沈着することで血流障害を引き起こす.しかし,肉眼的に明らかな粘膜異 常所見を呈さない症例も存在し,この点が臨床上問題となる. 今回,我々は内視鏡検査で粘膜面の異常を認めないにもかかわらず,非典型的な縫合不全や消化管出血 を来したクローン病(Crohn’s disease;以下,CD と略記)症例を経験した.続発性アミロイドーシスの約 90%が関節リウマチに起因し,CD に合併するアミロイドーシスは比較的まれとされているが1),CD 患者 数の増加に伴い,今後続発性アミロイドーシスに遭遇する機会が増加する可能性がある2).このような病 態での外科的治療を行うにあたり,示唆する点が多いと考えたので報告する.症
例
患者:36 歳,男性 主訴:腹痛 〈2018 年 9 月 19 日受理〉別刷請求先:藤解 諒 〒 734-8551 広島市南区霞 1-2-3 広島大学病院臨床研修センター現病歴:15 年前に小腸大腸型 CD を発症し,発症から 5 年後に回腸狭窄に対し,近医にて回腸上行結腸 バイパス術施行された.初回手術の翌年に回腸内外瘻を認めたものの,保存的加療されていた.約 9 年間 の内科的治療を行ってきたが,徐々に腹痛の増悪あり発症から 15 年目,初回手術の 10 年後に加療目的に 当院へ紹介となった. 服薬:mPSL 4 mg,ST 合剤 既往歴:亜急性甲状腺炎 家族歴:特記すべき事項なし. 入院時現症:身長 165.6 cm,体重 50.9 kg,血圧 138/102 mmHg,脈拍 77 回/分・整,体温 36.2°C,腹部 は平坦・軟,自発痛・圧痛あり,下腹部に前回手術痕あり. 血液検査所見:WBC 10.2×10³/μl,CRP 0.81 mg/dl と軽度炎症反応上昇,Hb 10.4 g/dl の貧血あり.栄養状 態は TP 6.5 g/dl,Alb 3.2 g/dl と不良であった.また,血清アミロイド A の上昇(SAA 109 μg/dl)と,腎機 能障害(Cre 3.9 mg/dl,BUN 40.0 mg/dl)を認めた. 尿検査:尿蛋白あり. 心電図:心拍数 65 回/分,洞調律・整,特記すべき波形異常なし. 上部消化管内視鏡検査所見:明らかな粘膜の異常所見なく,十二指腸生検施行したが CD に特徴的な所 見は認めなかった. 小腸造影検査所見:上部小腸には狭窄病変は認めなかった.造影剤は初回手術の回腸上行結腸バイパス を介して上行結腸に流入し,バイパス部より肛門側の回腸は描出されなかった(Fig. 1a). 注腸造影検査所見:S 状結腸・直腸 Rs に高度の狭窄を認め,同部位から回腸末端に向かって瘻孔を形成 していた(Fig. 1b). CT所見:回腸末端・S 状結腸-直腸の壁肥厚,腸間膜脂肪織濃度の上昇あり.炎症性に一塊となった回 腸末端は骨盤内膿瘍と連続していた(Fig. 1c, d). 入院後経過:入院後に腎機能障害のさらなる悪化を認めたため腎生検施行した.病理所見では,糸球体 や間質の血管壁に Congo-red 染色で橙赤色に染色されるアミロイドの沈着を認めた(Fig. 2).免疫組織学 検査ではアミロイド A 抗体陽性であり AA 型腎アミロイドーシスの診断となり血液透析が導入された. 以上より,CD の消化管病変(回腸末端と S 状結腸・直腸の狭窄病変と同部位間の瘻孔・膿瘍形成)に よる腹痛増悪に対して,腸管切除術を行う方針とした. 手術所見:回腸末端とバイパス吻合部を含む回結腸切除を施行した.また,S 状結腸-直腸 Rs の狭窄病 変部を切除し,肛門縁より約 15 cm のところで端々吻合(層々吻合)を行った.CD の炎症により腸管の 浮腫が強かったこと,さらに低栄養状態であったことを考慮し,回腸上行結腸吻合は行わず双口式人工肛 門を造設した. 病理組織学的検査所見:切除標本からは好中球やリンパ球などの慢性炎症細胞が浸潤した CD の所見に 加えて,結腸の粘膜下層の広範に AA 型アミロイドの沈着を認めた(Fig. 3). 術後経過:術後経過は良好であり,術後 5 病日より経口摂取開始とした.しかし,術後 11 病日に突然の 下血と腹膜刺激症状を伴う腹痛が出現し,造影 CT にて直腸吻合部の縫合不全と吻合部周囲の出血が疑わ れたため,緊急手術施行した.開腹すると直腸吻合部は完全に離断しており,多量の血腫の付着を伴って いた.直腸断端を縫合閉鎖し,S 状結腸の単孔式人工肛門を造設した.右側の双孔式人工肛門はそのまま とし,左右のダブルストマ状態で手術を終了とした. 再手術後も S 状結腸ストマから断続的な出血あり,貧血の進行を認めたため(Hb 11.6→9.6 g/dl),精査 目的に下部消化管内視鏡検査を施行した.S 状結腸から上行結腸にかけて,粘膜に潰瘍やびらんなどの異 常所見は認めず,出血点は明らかでなかった.右側の回腸ストマより口側腸管からの出血は認めなかった. 内視鏡検査の際の生検組織からは,回腸末端・全結腸・直腸より AA 型アミロイドの沈着を認めた.
Fig. 1 Preoperative medical images. a) Small bowel radiography showed that the contrast agent flowed into the ascending colon through the anastomotic site of the ileum and ascending colon, but the anal side of the ileum from that site is not shown. b) Gastrographine enema showed the stricture of the ileum and rectum, and the fistula created between those lesions. c, d) Abdominal CT revealed thickening of the intestinal wall, misty mesentery and pelvic abscess.
Fig. 2 Pathological findings of the renal biopsy. Amyloid was found in renal glomeruli and vascular walls.
結腸からの出血コントロール目的に,上行結腸から S 状結腸までの残存結腸を切除する方針とした.内 視鏡検査同様,残存結腸には明らかな肉眼的異常所見を認めなかったことから,アミロイドーシスに起因 する消化管出血が考えられた(Fig. 4). 縫合不全に対する手術から 54 日後に手術を施行した.回腸-直腸吻合はアミロイドーシスによる再度の 縫合不全が懸念されることから回避し,回腸の単孔式人工肛門とした.残存直腸は空置のままとした.そ の後の経過は良好で軽快退院した.
考
察
CDに合併するアミロイドーシスは比較的まれとされているが1),田中ら3)の報告によると,CD の 0.9~ 5.6%に続発性アミロイドーシスを合併し,また罹患期間が長くなるほど発症頻度は高く4),発症後平均 10 年でアミロイドーシスの診断に至るとされている5). AA型アミロイドは主に腎臓への沈着が多く,診断の契機としては腎機能低下や蛋白尿などの腎症状がFig. 3 Pathological findings of the resected colon specimen. Systemic AA amyloid deposition was seen extensively from the intestinal mucosa.
Fig. 4 Resected colon specimen after total colectomy. We did not find any lesions such as ulcers or erosions in the intestinal wall.
多いとされる6).本症例のように長期経過の慢性炎症性疾患で誘因なく進行性の腎機能障害を来した場合 には,腎アミロイドーシスの合併を想定し腎生検を考慮すると同時に,手術症例においては消化管アミロ イドーシスの可能性を検討することが重要と考える. 消化管アミロイドーシスの症状としては難治性下痢,食欲不振,消化管出血,蠕動障害によるイレウス などがあり,CD の症状としても矛盾はない.また,内視鏡所見においても黄白色調の微細顆粒状隆起が 特徴的とされるが,潰瘍やびらんといった非特異的な所見であることも珍しくなく,さらに問題となるの は自験例のように明らかな粘膜異常を認めない症例の存在である7).以上から,CD 症例においてアミロイ ドーシス合併を考慮するのは容易ではない.診断には生検が有用であるため,本症を疑った場合には,一 見正常な粘膜からもアミロイドが検出されることを念頭に置いた積極的な生検が求められる. 自験例では,術後第 11 病日という通常の術後経過では比較的安定した時期に突然吻合部が完全に離断し た.縫合不全の原因は術中所見から明らかにできなかったが,少なくとも術後 1 週間以内に起きる縫合不 全とは異なり,良好な術後経過の後の突然発症,全周性の吻合部離断という経験したことのない病態を呈 していた点が特徴的であった. 医学中央雑誌で 1970 年から 2017 年 12 月の期間で,「アミロイドーシス」,「縫合不全」をキーワードと して検索した結果,アミロイドーシス手術症例における縫合不全報告例は自験例を含めて 8 例であった (Table 1)8)~12).アミロイドーシスの分類としては,AA 型(続発性)が 5 例,AL 型(原発性)が 1 例,
DR型が 2 例であった.過去いずれの報告においても,縫合不全の原因は明らかになっていない.AA 型ア ミロイドは消化管の粘膜固有層や粘膜下層の血管壁へ沈着することで7),組織の虚血性変化を引き起こし, 消化管出血や潰瘍,さらには穿孔にまで至るとされている5).これらの病態から推察するに,消化管アミ ロイドーシスに伴う虚血性変化が吻合部に生じ,縫合不全を引き起こした可能性があると考える. 続発性アミロイドーシスの治療法は依然確立されておらず,基礎疾患に対する集学的な内科的治療およ び,適切なタイミングでの外科的治療の導入が肝要と考える.その際,血中 SAA 値は AA 型アミロイドの 組織沈着量および生命予後と相関しており1),治療効果の指標として有用となる.RA 合併症例では,分子 標的治療薬トシリズマブ投与後に SAA 値改善に伴い,消化管へのアミロイド沈着量が減少すると報告され ている13).CD 合併症例においても同様に内科的治療が奏効し,血中 SAA 低下と伴に組織へのアミロイド 沈着量が減少するのであれば,一期的に病変の切除と腸瘻造設のみを行い,アミロイド沈着が改善した段 階で二期的に腸管吻合を行う手術計画も検討される. また,外科治療の介入のタイミングについては,CD の罹患腸管切除により組織に沈着したアミロイド が減少し予後が改善したとの報告もあることから14),自験例のような慢性炎症が長期に持続する症例では, アミロイド沈着による多臓器不全の予防の観点から早期の外科的治療介入が不可避と考える. CDに進行性の続発性アミロイドーシスを合併した症例は術後の縫合不全や出血のリスクが高いとされ
Table 1 Reported cases of anastomotic leakage in operations involving amyloidosis
Case Author Year Age/Gender Basal disease/Surgery reason Duration of HD/Disease Type Operation
1 Tokutome8) 2001 61/F RA/Perforation 32yr. AA BRA 2 Tuji9) 2002 56/F HD/Perforation 23yr. DR BRA 3 Kaneko10) 2004 53/F HD/Stenosis·Fistula — DR BRA 4 Iwahashi11) 2004 73/F Primary Amy/Melena — AL DG 5 Tanimura12) 2006 24/M CD/Stenosis·Fistula 9yr. AA BRA 6 Tanimura12) 2006 36/F CD/Fistula 15yr. AA BRA 7 Tanimura12) 2006 24/F CD/Fistula·Abscess 14yr. AA BRA 8 Our case 36/M CD/Stenosis·Fistula 16yr. AA BRA M: male, F: female, HD: hemodialysis, RA: rheumatoid arthritis, Amy: amyloidosis, DR: dialysis-related, BRA: bowel resection and anastomosis, DG: distal gastrectomy
る.そのため慢性炎症が長期に持続する症例では,本疾患を念頭に置き術前に消化管 step biopsy によるア ミロイド沈着範囲や病勢の評価が必要となる.続発性アミロイドーシス合併症例では,たとえ肉眼的に粘 膜面が正常であっても,消化管吻合の判断は慎重に行わなければならない. 利益相反:なし
文献
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Late-Onset Anastomotic Leakage with Bleeding in Systemic AA Amyloidosis
Complicating Crohn’s Disease
Ryo Touge
1), Norimitsu Shimada
2), Hiroki Ohge
2), Nobuyuki Okamoto
2),
Raita Yano
2), Yusuke Watadani
2), Kenichiro Uemura
2), Yoshiaki Murakami
2)and
Taijiro Sueda
2)1) Hiroshima University Hospital Rinsho Kenshu Center
2) Department of Surgery, Applied Life Sciences Institute of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University
We report a case of atypical complications in secondary systemic amyloidosis complicating Crohn’s disease after surgery. A 36-year-old man with Crohn’s disease and having a fistula had been treated with medical therapy for 15 years. However, the gastrointestinal symptoms had become worse, and he was referred to our hospital for further treatment. After admission, his renal dysfunction deteriorated rapidly. Therefore, renal biopsy was performed, and hemodialysis was introduced based on the diagnosis of renal amyloidosis. The ileum and rectum had stricture lesions with ileocolic fistula and pelvic abscess. For this reason, ileocecal resection with ileostomy and high anterior resection was performed. At first, the postoperative course was good, but on postoperative day 11, he developed anastomotic leakage with bleeding. An emergency Hartmann’s operation was carried out. After reoperation, he underwent total colectomy due to gastrointestinal bleeding from the colon. Histopathological findings were consistent with a diagnosis of gastrointestinal amyloidosis, because systemic AA amyloid deposition was seen extensively from the intestinal mucosa. Continuous chronic inflammation caused secondary systemic amyloidosis. In this pathological condition, we need to pay careful attention to complications such as anastomotic leakage and bleeding, even if no lesions are found endoscopically in the intestinal wall.
Key Words: amyloidosis, Crohn’s disease, anastomotic leakage
[Jpn J Gastroenterol Surg. 2019;52(1):53-59] Reprint requests: Ryo Touge Hiroshima University Hospital Rinsho Kenshu Center
1-2-3 Kasumi, Minami-ku, Hiroshima, 734-8551 JAPAN
Accepted: September 19, 2018