博 士 ( 理 学 ) 池 田 見
学 位 論 文 題 名
R/Iolecular and Genetic Studies
on Gibberellin Signal Transduction in Rice.
( イ ネ に お け る ジ ベ レ リ ン 情 報 伝 達 に 関 す る 分 子 遺 伝 学 的 研 究 )
学位論文内容の要旨
高等 植 物にお いて、植 物ホル モンの一 種である ジベレ リン(GA)は細 胞の伸長 ・ 分裂 を促進 し、その結果として茎、葉および根とぃった器官の形態形成を制御する。
ま たGAは 、 種の 保 存 形 態で あ る 「種 子休眠」 から「 発芽」を 開始す るトリガ ーと して も作用 する。さ ´らにGAの作用に は、様 々な応用 例があり 、農業的にも有効な 生 長 調節 物 質 とし て 利 用 され て い る。従っ て、GAが 媒介する 高等植 物の生長 制御 の 理 解は 極 め て重 要 で あ る。 し か し、活性 型GAが合 成されて 受容す るとぃっ た、
い わ ばGA情 報の イ ン プ ット か ら 、ア ウトプッ トとぃ える細胞 伸長・ 分裂の促 進、
発 芽 の開 始 と ぃっ たGA応答 に 至 る過 程はほと んど解 明されて いない のが現状 であ る。 この分 野の進展 を目的 とし、本 研究を遂 行した 。
1. 恒 常 的 ジ ペ レ リ ン 反 応 性 突 然 変 異 体 、slender riceの 解析 と 原 因 遺伝 子 、 SLR1の機能解析
植物 ホルモン の生合 成経路お よびシ グナル伝 達機構 の解明に は、分子遺伝学的 なア プローチ が考え られる。 これらに 異常を きたした 突然変 異体を作出し、その生 理 作 用の 解 明および 原因遺 伝子の単 離は、最 も有効 な手段の ーつで ある。第2章で は、 恒常的にGAに反応 している イネの 突然変異体 sた瓜た丁紙 を単離し、これを 用いた(汎の情報伝達経路の解明を試みた。
イネ品種日本晴にガンマ線を照射して得られたsた刪むdce(sM−J)を用いた解析に よ り 、こ の 変異体で は(1)発芽 直後から 著しい 茎葉部の 伸長が 促進され ること、
(2)GA依存 型のロ ‐アミラ ーゼが内 生(弧 量と無関 係に誘 導されること、(3)内 生GA量 は 野 生型 イ ネ に対 し て 減少 し ている こと、 などが明 らかと なった。 これら からsた灯derri∞が示す表現型は、内生(強量に依存せず、く途のシグナル伝達経路に 異 常 を き た し た 突然 変 異 体 であ る も のと 結 論 づけ た 。sた 珊c灯紙 の 原 因遺 伝 子
(S腺J)は(孤 のシグ ナル伝達 におけ る負の調 節因子と 考えら れ、この機構に異常 が生 じたこと からく 途のシグ ナル伝達 が常に 活性化さ れてい るものと推察された。
乳RJ遺 伝子を単 離した 結果、( 強非感 受性突然変異体であるコムギのRH丁f‐Da、 トウモロコシの閲、シロイヌナズナのG.A′およびRく汎の原因遺伝子と相同性を有し、
推 定 され る ア ミノ 酸 配 列か ら はGRASファミ リーと称 される植 物特有 の転写調 節因 子群に属するものと考えられた。sたば灯変異体(sMーJ)では核局在配列に1塩基の欠 失 が 認め ら れ た。 ま たS乙RJ遺伝 子 を コー ド す る領 域 を 含 む6kbのゲノムDNA断 片 をsたロ(灯ri∞に導入を行った結果、得られた形質転換体は正常な(弧応答を示した。
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この結果はsた瓜た剃joeがSLR1夕ンパク質の機能を完全に失ったlossofんnc60n型の変 異 が 原 因で ある こと を示 して いる 。さ らにRHnヽDa、 閲お よびGuな どの 突然 変 異 体 は 、 推定 され るア ミノ 酸配 列のN末端 側に 共通 して 認め られ るDELAモ チー フ 付 近 が欠損し ており、この領域が(孤の受容機構と何らかの関連性が 推測できた。そ こ で 、SLRlタ ン パ ク 質 のDHJAモ チ ーフ をコ ード する 塩基 配列 を欠 損し たコ ン ス ト ラクトの 野生型イネへの導入を試みた。その結果、得られた形質 転換体は、(弧 に 対する感 受性を喪失しており、草丈の伸長が抑制された矮性の表 現型を示した。
従 っ て 、DHIAモ チ ー フ の 欠 損 は 、 駈RJ遺伝 子の 変異 に認 めら れた 徒長 と相 反 す る 表現 型を 示す こと を明 かと した。こ れらの実験より、SLR1夕ンパク質は、(1) GAシ グ ナル の受 容と 、(2)負 の転 写調 節因 子の 二機 能性 を持 つタ ンパ ク質 で あ ることを明らかにした 。
2. 恒 常 的 ジ ペ レ リ ン 反 応 性 突 然 変 異 体 、slender riceに おけ るア プ シジ ン酸 生合成能の解析
GAを 媒介 とす る胚 発生 や休 眠お よび そ の打 破に は、 植物ホルモンの一種である ア ブ シジ ン酸(」噛A) が拮 抗的 に作 用す る 。第3章 では 、恒 常的 にGAシ グナ ルが 活 性 化 し たsた !ndむ 紙 を 用 い てABAの 生 合 成 能 に お よ ぽ す 影 響 を 検 討 し た 。 sたロd|ば紙に認められるく孤独立的に誘導されたロ―アミラーゼおよび顕著な圭葉 部 の徒長は、野生型イネと同様、ABAによって抑制された。この ことから、餓珊dむ r辻 はABAに 対 し て 正 常 に 応 答 す る こ と が 明 か と な っ た 。 ま た 茎 葉 部 に お け る s畑d釘ri∞ の内 生ABA量は 、野 生型 イネ に対 して 約10高いこと 、ABA依存的に発現 す る勵M蝕 遺 伝子 の発 現量 も約10倍 程度 高い こと を明 かとし、s細dむri∞ではABA 生合成量が増加している可能性を示した。
ABA生合 成 経路 の律 速反 応を 触媒 する 酵素 をコ ード する仇朋 葱D遺伝子をプロー ブ として、根を取り除き乾燥ストレ ス処理を施した茎葉部での発現解析を試みた。
その結果、s^閉dむri∞では野生型イネに対して急速かつ急激な発現量の増加(約5 倍 )が 認め られ た。 これ らの 実験 結果 を 総合 して 、S腺Jの遺伝子変異は、植物体 が ホ メオ スタ シス を維 持す るた めに 、GAの 拮抗 作用 を有 する するABAの 生合 成能 カ を高めているものと推測した。こ れら一連の研究により、く溝のシグナル伝達系 の 異常が他の植物ホルモンの生合成 にも影響を与えることを初めて明らかにした。
3. ジ ペ レ リ ン 促 進 型 遺 伝 子GASR1が 媒 介 と す る 根 の オ ー キ シ ン の 効 果 と 形 態形成の解析
第4章 で は ト マ ト で 単 離 さ れ たGAST1遺伝 子の 相同 性遺 伝子 とし て、 イネcDNA ラ イ ブ ラ リ ー よ り 単 離 し たGASR1遺伝 子の 解析 を行 った 。GASR1遺 伝子 から 推定 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 か ら 、GAST1と 同 じ く ト マ ト のRSI‑1、 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の GASA1〜5な ど と 相 同 性 を 有 し て いた 。 また これ らに 共通 して 見ら れる 特徴 には
(1)100前 後の アミ ノ酸 残基 より なり 、(2)シ グナ ルベ プチ ドと 推定 され る領 域 が存 在 して おり 、(3)C末端 側の シス テイ ン12残基 が完全に保存されて いる、
などが示された。
GASR1夕ン パク 質の 組織 局在 性および植物ホルモンによる影響を検討した 結果、
GASR1タ ンパ ク質 は根 にお いて 特異 的 に発 現し 、そ の分 子量はSDS−PAGE上 で約13 めの分子量で検出され、オーキシンの一種であるa‑naphthalene acetlic acid (NAA)の添 加 によ り 、分 子量 が約13 10か ら約40めに増大することが明らかとなった。 またオ ーキシンの極性移動阻害剤である2,3,5triiodobenzoic acidの添加により、NAAによる
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分子量の増大は抑制されること、さらにGASR1抗体の添加によっても同様な分子量 の増大が抑制されることが認められた。通常、過剰なオーキシンの存在下では、植 物の根は伸長および発根の抑制とぃった生育の阻害が認められる。しかし、GASR1 抗体を添加した結果、これらの抑制が完全に解除されることが明かとなった。これ らの結果からGASR1がオーキシンを媒介する根の形態形成に深く関係している可 能性を示した。
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学位 論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 教授
山口淳二 米田好文 加藤敦之
佐野芳雄(北海道大学大学院農学研究科)
学位論文題名
IVIolecular and Genetic Studies
on Gibberellin Signal Transduction in Rice.
(イネにおけるジベレリン情報伝達に関する分子遺伝学的研究)
高 等 植 物 に お い て 、 植 物ホ ル モン の一 種で ある ジベ レリ ン(GA)は 細胞 の伸 長・
分裂 を促 進し 、そ の結 果と して 茎 、葉 およ び根 とぃ った 器官の形態形成を 制御する。
またGAは 、種 の保 存形 態で ある 「 種子 休眠 」か ら「 発芽 」を開始するトリ ガーとして も作 用す る。 さら にGAの作 用に は 、様 々な 応用 例が あり 、農業的にも有効 な生長調節 物質 とし て利 用さ れて いる 。従 っ て、GAが 媒介 する 高等 植物の生長制御の 理解は極め て 重 要 で あ る 。 し か し 、 活 性型GAが合 成さ れて 受容 する とい った 、い わぱGA情 報の イン プッ トか ら、 アウ トプ ット と いえ る細 胞伸 長・ 分裂 の促進、発芽の開 始といった GA応 答に 至る 過程 はほ とん ど解 明 され てい ない のが 現状 である。この分野 の進展を目 的と し、 本研 究を 遂行 した 。
イ ネ品 種日 本晴 にガ ンマ 線を 照射 して 得ら れたslender rice(slrl‑l)を用 いた 解析 に より 、こ の変 異体 では (1) 発芽 直後 から 著し い茎 葉部 の伸 長が 促進 され るこ と、 (2)GA依 存型 のQ− アミ ラー ゼが 内生GA量 と無 関係 に誘 導 され るこ と、 (3)内 生GA量は 野生 型イ ネに 対し て減 少 して いる こと 、な どが 明らかとなった。 これらから slender riceが 示 す 表 現 型 は、 内 生GA量に 依存 せず 、GAのシ グナ ル伝 達経 路に 異常 をき た した 突然 変異 体で ある もの と結 論づ けた 。slender riceの原 因遺 伝子(SLR1) はGAのシ グナ ル伝 達に おけ る負 の 調節 因子 と考 えら れ、 この機構に異常が 生じたこと か らGAの シ グ ナ ル 伝 達 が 常 に 活 性 化 さ れ て い る も の と 推 察 さ れ た 。 SLRI遺伝 子を 単離 した 結果 、GA非 感受 性突 然変 異体 であるコムギのRHTl ‑Da、ト ウ モ ロ コ シ のD8丶 シ ロ イ ヌ ナズ ナ のGAIお よびRGAの 原因 遺伝 子と 相同 性を 有し 、推 定さ れる アミ ノ酸 配列 から はGRASファ ミリ ーと 称さ れる 植物特有の転写調 節因子群に −215―
属 するもの と考えられた。sl ender変異体(slrl‑l)では核局在配列に1塩基の欠失 が 認 め られ た 。ま たSLR1遺伝子を コードす る領域を含 む6kbのゲノ ムDNA断片を slender riceに導入を行った結果、得られた形質転換体は正常なGA応答を示した。
この結果はslender riceがSLR1タンパク質の機能を完全に失ったloss of function 型の変異が原因であることを示している。さらにRH Tl‑Da、D8およびGAIなどの突然 変異体は、推定されるアミノ酸配列のN末端側に共通して認められるDELLAモチーフ 付近が欠損しており、この領域がGAの受容機構と何らかの関連性をもっものと推測で きた。そこで、SLR1タンパク質のDELLAモチーフをコードする塩基配列を欠損したコ ンストラクトの野生型イネへの導入を試みた。その結果、得られた形質転換体は、GA に対する感受性を喪失しており、草丈の伸長が抑制された矮性の表現型を示した。従 って、DELLAモチーフの欠損は、SLR1遺伝子の変異に認められた徒長と相反する表現 型を示すことを明らかとした。これらの実験より、SLR1タンパク質は、1)GAシグナ ル の 受 容 と 、2) 負 の 転 写 調 節 因 子 の ニ 機能 性 を持 つ こ とを 明 らか に し た。
GAを媒介とする胚発生や休眠およびその打破には、植物ホルモンの一種であるア ブ シジン酸(ABA)が拮抗的に作用する。slender riceに認められるGA独立的に誘導 されたa―アミラーゼおよび顕著な茎葉部の徒長は、野生型イネと同様、ABAによって 抑制された。このことから、slender riceはABAに対して正常に応答することが明か となった。また茎葉部におけるslender riceの内生ABA量は、野生型イネに対して約 10高 いこと、ABA依存的に発現するRab16A遺伝子の発現量も約10倍程度高いことを 明 か と し 、slender riceで はABA生合 成 量 が増 加 して い る 可能 性 を 示し た 。 ABA生合成経路の律速反応を触媒する酵素をコードするOsNCED遺伝子をプローブ として、根を取り除き乾燥ストレス処理を施した茎葉部での発現解析を試みた。その 結果、slender riceでは野生型イネに対して急速かつ急激な発現量の増加(約5倍)
が認められた。これらの実験結果を総合して、SLR1の遺伝子変異は、植物体がホメオ スタシスを維持するために、GAの拮抗作用を有するABAの生合成能カを高めているも のと推測した。これら一連の研究により、GAのシグナル伝達系の異常が他の植物ホル モ ン の 生 合 成 に も 影 響 を 与 え る こ と を 初 め て 明 ら か に し た 。 これを要するに、著者は分子遺伝学的手法も用いてジベレリンのシグナル伝達に関 する原因遺伝子の単離とその生物学的意味の解明に成功した。これは、植物科学の基 礎 研 究 と し て だ け で な く 、 応 用 研 究 と し て も 多 大 な 貢 献 で あ る 。 よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格があるものと認め る。
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