博 士 ( 医 学 ) 岩 見 大 基
学位論文 題名
Purified eicosapentaenoic acid induces prolonged survival of cardiac allograftSandgenerateSregulatoryTCenS ( エ イ コ サ ベ ン タエ ン 酸は マウ ス 移植 心生 着 を延 長し , 制御性T 細胞を誘導 する)
学位論文内容の要旨
背 景と目的:臓器移植における免疫寛容とはドナー抗原に対しては無反応でありながら病 原 微生物、悪性腫瘍など他の抗原に対しては正常の免疫反応を示す状態である。免疫寛容 が 誘導できれば、従来型の非特異的な免疫抑制剤の減量・中止も可能になりうる。一方、
免 疫寛容 を達成す るメカ ニズムの ひとつとしてここ10年で急速に研究が進んだ制御性T細 胞(Treg)によるimmune regulationが提唱されている。何らかの前処置や薬剤によルドナー特 異 的なTregを 積極的 に誘導す ることができれば免疫寛容誘導の1つの有効なアプ口ーチと なる可能性がある。
工イコサベンタエン酸(elcosapentaenoicacid:EIりは魚油に豊富に含まれる不飽和脂肪酸 の ひとつで、すでに高脂血症および動脈硬化症の治療薬として臨床応用されている。その ほ か自己免疫疾患に対する有効性など免疫機能に対する作用が数多く報告されているが、
臓器移植におけるEI)Aの効果を詳細に検討した報告はない。そこで今回われわれは、マウ ス 異 所 性 心 移 植 モ デ ル を 用 い てEI}Aの 効 果 と そ の メ カ ニ ズ ム を 検 討 し た 。 方 法と結 果:C57BL/10マ ウス(MHC:H ̄2b)を ドナー 、CBAマ ウス(MHC:H_2k)を レ シピェントとするMHC完全不一致の異所性心移植を行った。治療群は移植直後に0.1g瓜g、 O.5〆kgおよび1.0〆kgのEPAを腹腔内投与くEPA0.1群、EPAO.5群およびEPA1.0群)し、無処 置 で心移植を行った無処置群と移植心の生着期間を比較した。結果、無処置群では生着期 間中央値(MSD8日であったのに対しEP.AO.1群で13日、EPA0.5群で24日、EP.A1.O群で100 日以上と、それぞれ有意に延長した。また移植心を組織学的に検討したところEI}Al.0群の 移 植 心 は 移 植 後100日 経 過時 点 で も細 胞 浸 潤お よ び 心 筋組 織 破 壊は 軽 度 であ っ た 。 次にEPAがどのようにして移植心の生着延長を誘導したのか、そのメカニズムを検討した。
ま ず、レシピェント脾細胞とドナー脾細胞との混合培養を行った。すなわちH}Aを投与し て 心移植 を行い7日間 経過した レシピェ ントの 脾細胞(reSponders)と、MMC処理したド ナーの脾細胞(stimulators)を4目間混合培養し、細胞増殖の程度と培養上清中のサイトカ イ ン濃度 をEuSA法に より測定 した。そ の結果 、H}A投与 によルドナーに対するレシピエ ント脾細胞の細胞増殖および炎症性サイトカイン(IL・2、IFN−V、IL−12)の分泌は抑制され、
抑制性サイトカインであるIL‐10は増加した。また、これらの効果は3rdparぢであるBALB/c マ ウ ス (MHC:H‐2d冫 の 脾 細 胞 をstimulatorと し た と き は 認 め ら れ な か っ た 。 続 いて細 胞移入実 験を行 った。ま ず、第1レシ ピエント (CBAマウス) にEPAを投与し 心 移 植を行 い、30日後 にこの レシピエントから脾細胞を採取して、無処置の第2レシピェン ト (CBAマウス) に移入 した。同 日に第2レシ ピエント に心移 植を行っ た。こ の第2レシ ピェントはEI}A投与は受けず細胞移入の処置のみ受けているので、移入した細胞の持つ効 果 ・機能 のみを見 ること ができる 。第2レシピエントで移植心の生着が延長すれば、移入
― 336―
し た 細 胞 は ア ロ 免 疫 応 答 を 制 御 す る 機 能 を 持 って いる 細 胞、 すな わちTregで ある 、と 考え ら れ る 。 移 入 す る 細 胞 と し て は 全 牌 細 胞 、CD4陽 性T細 胞 、 そ し てCD4CD25両 陽 性T細 胞 を 用 い た 。 そ の 結 果 、 全 牌 細 胞 、CD4陽 性 細 胞 、CD4CD25両 陽性 細胞 を 移入 した しゝ ずれ の 場 合 もMSTは100日 を 越 え た 。 一 方 、EPAも 心 移 植 も 受 け て い な いnaWeマ ウ ス か ら 細 胞 移 入 し た 第2レ シ ピ エ ン ト で は 移 植 心 は 拒 絶 さ れた 。こ れら の デー タか ら、EI)Aを 投与 し た 第1レ シ ピ ェ ン ト に はCD4CD25陽 性 のTregを 含 む 免 疫 制 御 機 能 を 持 っ た 細 胞 が で き て い た こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、3rdpa亅tyで あ るBALB/cマウ スの 移植 心 はEI}A投 与 第1レ シ ピ ェ ン ト か ら 細 胞 移 入 さ れ た 第2レ シ ピ エ ン ト に お い て も 急 性 拒 絶 さ れた ので 免疫 制御 細 胞 は 特 異 性 を 持 っ て い る と 考 え ら れ た 。 な お 、H}Aを 投 与 し た レ シ ピ ェン トのCD4CD25 両陽性T細胞は高率にFoxp3陽性であった。
最後に、脂質代謝を司る核内受容体であるperoxiSomeprohferatoトactivatedreceptorY(PPA亅叫)
がTreg誘 導 に 関 与 す る と い う 近 年 の 報 告 か ら 、EPAの 効果 にお け るPPARYの関 与に つし ゝて 検 討 し た 。 レ シ ピ ェ ン ト に 予 めPPARYア ン タ ゴ ニ スト (BADGE)を9日 間投 与し 、EI Aは今 ま で と 同 じ く 腹 腔 内 投 与 し て 心 移 植 を 行 っ た 。移 植心 の 生着 期間 につ い て比 較、 さら に移 植3日後 の脾 臓組 織 内のPPAJ叫の 発現 をR1ゝPCRで測 定し た。E王 }A投与 して 移植 した マ ウス で は 無 処 置 で 心 移 植 し たマ ウ スやnaNeマウ ス に比 べPPA亅 叫の 発現 が亢 進 して いた 。生 着期 間 はEI A単 独 で はMST100日 以 上 な の に 対 し てBADGE投 与 に よ りMST16日 に 短 縮 し た 。 ま た 、 先 ほ ど の り ン パ 球 混 合 培 養 で もEPIAの 効 果 がBADGE投 与 に よ り 減 弱 し た 。 考 察 : マ ウ スMHC完 全 不 一 致 心 移 植 モ デ ル に お い てEI}Aの 単 回 投 与 に よ ル マ ウ ス 移 植 心 の 生 着 期 間 が 延 長 し た 。 そ の メ カ ニ ズ ム の1つ と し て 細 胞 増 殖 抑 制 ・ 炎 症性 サイ トカ イン の産 生抑 制 など 拒絶 反応 にお い て重 要な りン バ 球のe聴ctorfunctionに対 す るEI)Aの 直 接的 な 免 疫 抑 制 作 用 が 挙 げ ら れ る 。 そ し て 、 こ れ らの 作用 はPPAj叫の 活性 化 が深 く関 与し てい る と 考 え ら れ た 。 も う ひ と つ の 可 能 性 と し て 、 細 胞 移 入 実 験 の 結 果 か ら 、EPA投 与に より CD4CD25陽 性Tregを 含 む 免 疫 制 御 細 胞 が レ シ ピ エ ン ト 内 に 誘 導 さ れ 、 移 植臓 器保 護的 に作 用 し 続 け て い る こ と が 考 え ら れ た 。 本 モ デ ル に お い てEPAの 血 中 濃 度 は 投与 後数 日問 で前 値 に 復 す る こ と が 確 認 さ れ て お り 、H Aの 直 接 的 な 作 用 の み で は 単 回 投 与で の100日 以上 の 移 植 心 長 期 生 着 は 説 明 で き な い 。 さ ら に 、 先 の 実 験 でEPA投 与 に よ りPPA珊 が 活 性 化 さ れる こと 、IL−10の産生が増加し ていることも、EI)A群ではTregが誘導され易しゝ環境 である と 考 え ら れ る 。 以 上 の こ と か らEI)Aの 単 回 投 与 はPPARrの 活 性 化 を 介 し て り ン パ 球 の effector舳ctionを 抑 制 し 、 さ ら に は ド ナ ー 特 異 的 なCD4CD25陽 性Tregを 誘 導 す る こ と で 移植心の長期生着をも たらしている可能性が強く 示唆された。
結 論 :H)A投 与 に よ ル マ ウ ス 移 植 心 生 着 期 間 が延 長し 、 レシ ピエ ント 脾 臓内 にTregが 誘導 さ れ て い た 。 ま た 、P剛 岫 ア ン タ ゴ ニ ス ト 投 与 に よ り こ れ らEPAの 効 果 が 阻害 され た 。EPA の 効 果 発 現 に はPPARYが 深 く 関 与 し て い る と 思 わ れた 。EI)Aはす でに 臨 床で 使用 され てい る 。 急 性 拒 絶 反 応 は 従 来 型 の 免 疫 抑 制 剤 で 抑 制 し つ つEPAを 併 用 し て 抗 原特 異的 な免 疫制 御 細 胞 の 誘 導 を 確 認 し な が ら 、 従 来 型 の 免 疫 抑制 剤を 減 量で きれ ば、 従 来型 の免 疫抑 制剤 の長期的内服による副 作用を回避できると思われ る。
ー337 ‑
学 位 論 文 審 査 の 要旨 主 査 教 授 藤 堂 省 副 査 教 授 上 出 利 光
副 査 教 授 野 々 村 克 也
学位論文題名
Purified eicosapentaenoic acid induces prolonged survival of cardiac allograftSandgenerateSregulatoryTCe11S
( エ イ コ サ ペ ン タ エ ン 酸 は マ ウ ス 移 植 心 生 着 を 延 長 し , 制 御 性T細 胞 を 誘 導 す る )
工イ コサ ベン タエン酸(eicosapentaenoic acid: EPA)は魚油に豊富に含まれる不飽和脂肪 酸 で 、 す で に 高 脂 血 症 お よ び 動 脈 硬 化 症 の 治 療 薬 と し て 臨 床応 用 され てい るがpurified EPAの 移 植免 疫に おけ る効 果を 検討 した 報告 はま だな しゝ 。本 研 究は、マウス心移植モデル に お け るpurified EPAの 効 果 と そ の メ カ ニ ズ ム を 検 討 し た もの で ある 。ま ずC57BL/10マ ウ ス(MHC:Hー2b)を ド ナ ー 、CBAマ ウ ス(MHC:H̲2k)を レ シ ピ ェ ン ト と す るMHC完 全 不 一致 異 所性 心移 植を 行っ た。 治療 群は 移植 直後 にpurified EPAを腹 腔内 投与 し、 無処 置 で 心移 植 を行 った 無処 置群 と移 植心 の生 着期 間を 比較 した 。結 果 、無 処置 群で は生 着期 間 中 央 値(MST)8日 で あ っ た の に 対 しEPAO.lg/kg投 与 で13日 、EPAl.Og/kg投 与 で100日 以 上 と 、 そ れ ぞ れ 有 意 に 延 長 し た 。 次 にallo‑MLRを 行 いpurified EPA投 与に よル レシ ピェ ン ト 脾細 胞 の細 胞増 殖お よび 炎症 性サ イト カイ ン(IL‑2、IFN‑‑y)の 産生 が抑 制さ れ、 逆に 抑 制 性 サ イ ト カ イ ン で あ るIL‑10は増 加す るこ とが 示さ れた 。ま た 、脾 臓内 樹状 細胞 の副 刺 激 分 子 お よ びMHC class II分 子 の 発 現 が 無 処 置 群 に 比 べpurified EPA投 与に より 抑制 さ れ る こ と が 示 さ れ た 。 さ ら にEPA投 与 し た レ シ ピ エ ン ト か らnalveレ シ ピ ェ ン ト ヘ の 細 胞 移 入 実 験 か らEPA投 与 に よ ル レ シ ピ エ ン ト の 脾 臓 内 にCD4+CD25+ regulatoryT cellsを 含 むregulatory cellsが 誘 導 さ れ た こ と が 示 さ れ た 。 最 後 にperoxisome proliferator‑activated receptorY(PPARy)のantagonistを用いて前述のpurified EPAの効果 がPPARv依存 性で ある こと が示 され た。
質 疑 応答 に おい て上 出利 光教 授よ り、 本モ デル にお いて ア口 反応 性 細胞 がど のよ うな メカ ニ ズ ムで 抑 制さ れて いる かに つい ての 質問 があ った 。こ の質 問に 対 し、 細胞 移入 実験 にお い て 移 植 後7日 の 脾 細 胞 をnaiveレ シ ピ ェ ン ト に 移 入 し て 心 移植 を 行っ た場 合は 移植 後30 日 の 脾細 胞 を移 入し た場 合に 比ぺ て生 着延 長効 果が 弱ま った こと を 示し 、移 植後 ごく 早期 はEPAに よ る 直 接 的 な 作 用 が ア ロ 反 応 性 細 胞 を 抑 制 し 、regulatoryTcellsは や や 遅 れ て 誘 導 され そ の後 長期 にわ たっ てア ロ反 応性 細胞 を抑 制し 続け てい る こと が推 測さ れる と答 え た。 また 、他 の臓 器移 植モ デル に おけ る効果についての質問があった。この質問に対し、
皮 膚 移 植 に お い て はEPAの 効 果 は あま り強 くな く、 臓器 の抗 原性 の 違い や拒 絶に 至る 詳細 な メ カニ ズ ムの 相違 が原 因で はな いか と答 えた 。つ いで 、野 々村 克 也教 授よ り、 他の 免疫 抑 制 剤と の 併用 効果 につ いて 質問 があ った 。こ の質 問に 対し 、臨 床 での 免疫 抑制 剤の 中心 で あ る カ ル シ ニ ュ ー リ ン 阻 害 剤 はregulatoryTcellsの 誘 導 を阻 害 する とい う報 告が 多く
ー338 ‑
あり一方ラパマイシンなどの mTOR 阻害剤は誘導を促進するという報告があることから併 用薬剤との相互作用は重要な要素であると答えた。最後に藤堂省教授から臨床応用を考え る上で注意すべき点について質問があった。この質問に対しては副作用としての出血傾向 の克服 のほか、 EPA の効果をモ二夕リングするために regulatoryTcells の存在および機 能を評価する方法の確立が重要と答えた。
この論文は,すでに臨床において安全性が証明されている既存の薬剤による制御性T 細 胞誘導効果が示された点でAmerican Journal of Transplantation において高く評価され,
今後の regulatoryTCell 誘導のヌカニズムの解明およびその知見が臓器移植において積 極的に応用されることが期待される。EPA はすでに臨床で使用されている。急性拒絶反応 は従来 型の免疫 抑制剤で抑制しつつ EPA を併用して抗原特異的な免疫制御細胞の誘導を 確認しながら、従来型の免疫抑制剤を減量できれば、従来型の免疫抑制剤の長期的内服に よる副作用を回避できると思われる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併 せ 申請 者 が 博士 ( 医学 )の学 位を受け るのに充 分な資格 を有する ものと判定 した。
―339−