博 士 ( 歯 学 ) 安 田 睦
学 位 論 文 題 名
破骨細胞に関する微細形態学的研究:
マウスにおける核数の分布について 学位論文内容の要旨
硬 組 織 の 吸 収 に 関 す る 細 胞 は 吸 収 す る 基 質 に よ り 様 々 を 名 称 が 与 え ら れ て お り 、 骨 を 吸 収 す る 細 胞 は 破 骨 細 胞 、 歯 を 吸 収 す る 細 胞 ば 破 歯 細 胞 と 呼 ば れ 、 こ れ ら は 同 一 の 細 胞 と 考 え ら れ て い る 。 破 骨 細 胞 及 び 破 歯 細 胞 は 多 核 の 細 胞 と し て 知 ら れ て い る が 、 そ の 核 数 に 関 す る 教 科 書 の 記 載 は2個 か ら20個 、 数 十 個 か ら 百 個 を 越 す 、2 個 か ら 数 十 個 等 、 一 定 し て い な い 。 近 年 マ ウ ス 培 養 系 に お い て 波 状 縁 を 有 す る 単 核 の 破 骨 細 胞 の 存 在 、 な ら び に ヒ ト 乳 歯 に お い て 波 状 縁 を 有 す る 単 核 の 破 歯 細 胞 の 存 在 が そ れ ぞ れ 証 明 さ れ た 。 ま た ヒ ト 乳 歯 に お い て 単 核 の 細 胞 を 含 む 吸 収 能 カ を 有 す る 破 歯 細 胞 の 核 数 の 彡 沛 が 明 ら か に さ れ た 。 し か し 破骨 細胞 に っい ては 不明 であ る。
本 研 究 で は 、 日 齢 と 部 位 の 異 な る マ ウ ス 骨 組 織 に っ い て 、 単 核 の 細 胞 を 含 む 吸 収 能 カ を 持 つ 破 骨 細 胞 の 核 数 を 検 索 し 、 破 骨 細 胞 の 核 数 及 ぴ 核 数 の 分 布 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。
試 料 と し て 生 後4日 齢 の 雌 雄 を 含 むddYマ ウ ス5頭 の 脛 骨 及 び 頭 蓋 骨 、 な ら び に 胎 生17日 齢 の 雌 雄 を 含 むddYマ ウ ス10頭 の 脛 骨 及 び 第 一 〜 第 五 中 足 骨 を 用 い た 。 試 料 は 固 定 ・ 脱 灰 後 、 通 法 に 従 っ てEpon包 埋 し 、 そ れ ぞ れ の 骨 組 織 か ら3つ の 試 料 を 無 作 為 抽 出 し た 。 得 ら れ た 試 料 は ウ ル ト ラ ミ ク ロ ト ー ム を 用 い て ダ イ ヤ モ ン ド ナ イ フ に よ り0.5ロm厚 の 連 続 準 超 薄 切 片 を 作 製 し た 。 作 製 し た 全 て の 切 片 を methylene blue‑ azureHで 染 色 後 、 光 学 顕 微 鏡 で 観 察 し た 。 破 骨 細 胞 の 同 定 は250倍 の 倍 率 で 撮 影 し た 写 真 上 で 刷 子 縁 に よ り 骨 上 に 吸 収 窩 を 形 成 し て い る 細 胞 と し た 。 破 骨 細 胞 と 同 定 し た 細 胞 の 全 域 に 渡 る 連 続 切 片 か ら 細 胞 質 中 に 含 ま れ る 核 数 の 計 測 を 行 っ た 。 得 ら れ た 破 骨 細 胞 の 個 数 か ら 各 核 数 に お け る 相 対 度 数 及 び 累 積 度 数 、 な
らびに核数の分布における平均値、中央値、及び最頻値を算出した。
生後 4 日齢脛骨に観察された207 個の破骨細胞は 1 〜 12 個の核を有していた。単 核の破骨細胞の存在頻度は全体の4 .8 %、10 個以下の核数を有する細胞は98 .6 %で あった。核 数の平均値は 3.68+2 . 10 (SD )、中央値は 3 、最頻値は 2 であった。
生後 4 日齢頭蓋骨に観察された 203 個の破骨細胞は 1 〜15 個の核を有していた。
単核の破骨細胞の存在頻度は全体の 2.0 %、10 個以下の核数を有する細胞は97 .5 % であった。核数の平均値は4.30 土2 .31 ( SD )、中央値は4 、最頻値は3 であった。
胎生 17 日齢脛骨に観察された221 個の破骨細胞は 1 〜11 個の核を有していた。単 核の破骨細胞の存在頻度は全体の5.0 %、10 個以下の核数を有する細胞は99 .6 %で あった。核数の平均値は 2 . 93 土1 . 55 ( SD )、中央値及び最頻値は2 であった。
胎生17 日齢中足骨では、骨化が開始していた第二・第三・第四中足骨に観察され た164 個の破骨細胞の核数は2 〜28 個の核を有していた。10 個以下の核数を有する 破骨細胞は96.3 %であったが、単核の破骨細胞は観察されなかった。核数の平均値 は4.45 土3.16 (SD )、中央値及び最頻値は3 であった。
無作為抽出した3 つの試料問における破骨細胞の核数の比較にクラスカル・ワー リスの検定を用いたが、いずれの骨組織にも統計学的な有意差は認めなかった。ま た4 つの骨組織における破骨細胞の核数の分布は互いに類似していたが、コルモゴ ロフ・スミルノフ検定により幾っかの骨組織問では統計学的た有意差が認められた。
本研究の結果、4 つのいずれの骨組織においても単核を含む10 個以下の核数を有
する破骨細胞の存在頻度は90 %以上であり、 4 っの骨組織における破骨細胞の核数
の分布は互いに類似していることが示された。しかし幾っかの骨組織問ではその核
数の分布に統計学的な有意差が認められた。本研究ではそれぞれの骨組織において
無作為抽出した3 つの試料間に統計学的な有意差を認めておらず、また各骨組織に
おいて100 個以上の破骨細胞について核数の計測を行っている。このため試料の選
択方法及び観察細胞数により、破骨細胞の核数の分布に違いが生じたのではないと
考えられた。しかし4 つの骨組織問には破骨細胞が吸収する骨形態に違いが観察さ
れた。また4 つの骨組織問では、破骨細胞の吸収部位やその周囲で行われている骨
芽細胞による骨形成量、及び破骨細胞の細胞融合の頻度にも違いがあると考えられ
た。このため、幾っかの骨組織問において破骨細胞の核数の分布に統計学的な有意 差が生じた原因として、破骨細胞が吸収する骨形態の違い、破骨細胞の吸収部位や その周囲で行われている骨芽細胞による骨形成量の違い、及び破骨細胞の細胞融合 の頻度の違い等が考えられた。
胎生17 日齢の中足骨には、他の3 つの骨組織に見られた単核の破骨細胞は観察さ れなかった。破骨細胞は当初単核の細胞であり、細胞分裂ではなく細胞融合により その核数を増やすと考えられている。また破歯細胞におけるその多核化は、吸収中 の破歯細胞に見られたと報告されている。本研究では破骨細胞の細胞融合像は観察 できなかったが、胎生17 日齢中足骨の栄養孔形成部位のような骨形成を伴わない短 時間での一方的な骨吸収を必要とする部位では、吸収中の破骨細胞の占める割合が 高く、単核の破骨細胞のままで吸収を継続するよりも細胞融合により多核の細胞に なることが優先されている可能性が示唆された。
破骨細胞の核数に関し、本研究の結果と教科書の記載との間には違いが認められ た。その違いは教科書で単核の破骨細胞の存在を認めていない点、核数の大部分を 数十個と記載している点、及び核数の多いものでは数百個に及ぶと記載している点 である。まず単核の破骨細胞の存在については、この細胞は何等特殊な細胞ではナょ いことがこれまでの研究から既に証明されており、本研究でも観察された。次に光 学顕微鏡による観察で一般に用いられるパラフインやセロイジン切片は準超薄切片 の 10 倍以上も厚く、また連続切片によらない一枚の切片では細胞境界が不明瞭な場 合が多い。そのため互いに近接する複数の細胞を一個の細胞と計測した可能性が考 えられた。また塗沫標本では、細胞膜が破れ近接する複数の細胞を一個の細胞と観 察した可能性も考えられた。それゆえ教科書に記載されている数十個から数百個に 及 ぶ よう ぬ 破骨 細 胞 の核 数 の存 在 の可 能 性は 、 非常 に 低い と 考えら れた。
結論として、樹脂包埋された連続準超薄切片の観察により、マウス破骨細胞の核
数の分布は日齢や部位により全く同じではないが互いに類似しており、その核数の
大 部 分 は 単 核 を 含 め て 10 個 以 下 で あ る こ と が 明 ら か と た っ た 。
学位論文審査の要旨
副 査 教 授 向 後 隆 男
学 位 論 文 題 名
破骨細胞に関する微細形態学的研究:
マウスにおける核数の分布について
査 論 文 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。
骨 や 歯 の 吸 収 に 関 与 す る 破 骨 細 胞 や 破 歯 細 胞 は 多 核 の 細 胞 と し て 知 ら れ て い る が 、 そ の 核 数 に 関 す る 教 科 書 の 記 載 は ― 定 し て い な い 。 近 年 、 吸 収 能 カ を 持 つ 単 核 の 破 骨 細 胞 や 破 歯 細 胞 の 存 在 が 証 明 さ れ 、 ま た 単 核 の 細 胞 を 含 ん だ 破 歯 細 胞 の 核 数 の 分 布 が 明 ら か に さ れ た が 、 破 骨 細 胞 の 核 数 の 分 布 に つ い て は 不 明 で あ る 。 本 研 究 は 、 破 骨 細 胞 の 核 数 と そ の 分 布 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 、 日 齢 と 部 位 の 異 な る マ ウ ス 骨 組 織 に つ い て 、 単 核 の 細 胞 を 含 め 吸 収 能 カ を 持 つ 破 骨 細 胞 の 核 数 を 検 索 し 、 比 較 し た も の で あ る 。
試 料 と し て 、 生 後4日 齢 の 雌 雄 を 含 むddYマ ウ ス5匹 の 脛 骨 及 ぴ 頭 蓋 骨 な ら び に 胎 生17日 齢 の 雌 雄 を 含 むddYマ ウ ス10匹 の 脛 骨 及 ぴ 第 一 か ら 第 五 中 足 骨 を 用 い た 。 試 料 は 固 定 ・ 脱 灰 後 通 法 に 従 っ てEpon包 埋 し 、 そ れ そ れ の 骨 組 織 か ら3つ の 試 料 を 無 作 為 抽 出 し 、0.5彫m厚 の 連 続 準 超 薄 切 片 を 作 製 し た 。 切 片 をmethylene blue‑
azure IIで 染 色 後 、 光 学 顕 微 鏡 で 観察 した 。破 骨細 胞の 同定 は250倍の 倍率 で撮 景彡 し た 写 真 上 で 刷 子 縁 に よ り 骨 上 に 吸 収 寓 を 形 成 し て い る 細 胞 と し た 。 破 骨 細 胞 と 同 定 し た 細 胞 の 全 域 に わ た る 連 続 切 片 か ら 細 胞 質 中 に 含 ま れ る 核 数 の 計 測 を 行 っ た 。 得 ら れ た 破 骨 細 胞 の 個 数 か ら 各 核 数 に お け る 相 対 度 数 及 ぴ 累 積 度 数 、 並 ぴ に 核 数 の 分 布 に お け る 平 均 値 、 中 央 値 、 及 ぴ 最 頻 値 を 算 出 し た 。
観 察 さ れ た 破 骨 細 胞 数 と 核 数 、 核 数 の 平 均 値 、10個 以 下 の 核 数 を 持 つ 細 胞 の 存 在 頻 度 、 単 核 の 破 骨 細 胞 の 存 在 頻 度 、 核 数 の 中 央 値 な ら び に 最 頻 度 は 、 生 後4日 齢 脛 骨 で は そ れ そ れ207個 、1〜12個 、3.68土2.10個 、98.6% 、4.8% 、3個 、2個 、 生 後 4日 齢 頭 蓋 骨 で は203個 、i〜is個 、4.30土2.31個 、97.5% 、2.0% 、4個 、 最 頻 値 は3個 、 胎 生17日 齢 脛 骨 で は221個 、1〜11個 、2.93士1.55個 、99.6% 、5.0% 、2 個 、2個 、 胎 生17日 齢 中 足 骨 ( 骨 化 が 開 始 し て い た 第 二 ・ 第 三・ 第 四中 足骨 )で は164 個 、2〜28個 、4.45土3.16個 、96.3% 、0%.3個 、3個 あ っ た 。 こ の よ う に 、 そ れ そ れ の 骨 組 織 に お け る 破 骨 細 胞 の 核 数 の 分 布 は 非 常 に 類 似 し て お り 、 ま た そ の 核 数 の 大 部 分 は 単 核 を 含 め て10個 以 下 で あ っ た 。
同 一 の 骨 組 織 か ら 無 作 為 に 抽 出 し た3つ の 試 料 間 に は 、 い ず れ も 統 計 学 的 な 有 意 差 を 認 め な か っ た 。 一 方 、4つ の 骨 組 織 に お け る 破 骨 細 胞 の 核 数 の 分 布 は 互 い に 類 似 し て い た も の の 、 幾 っ か の 骨 組 織 間 で は 統 計 学 的 な 有 意 差 が 認 め ら れ た 。 こ の 原
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