博 士 論 文 概 要
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(2) 本論文では,移流拡散問題とナヴィエ・ストークス問題のための,局所線形化 流速を用いるラグランジュ・ガレルキンスキームを示す.このスキームの収束性 を証明し,数値結果を示す. 電子計算機が発達した現代において,科学技術計算は理学や工学をはじめとす る広い分野で重要な役割を果たしている.様々な現象は偏微分方程式で数学的に 記述されるが,その厳密解を具体的に書き下すことは特別な場合を除いて不可能 である.したがって,実用的な要請に応えるためには,数値的手法を使って近似 解を計算することが求められる. ここでは,移流拡散問題とナヴィエ・ストークス問題に対する数値計算スキー ムを考察する.これらの問題は流れ問題の中でも基本的であり,ゆえに重要であ る.本研究では空間方向の離散化に,幾何学的柔軟性を持ち,汎用的なプログラ ミングが可能であり,かつ,数学的な基礎理論が整備されている有限要素法を用 いる.流れに関連する方程式には物質微分項が共通して存在し,その近似方法が 安定なスキームを作成する鍵となる.特に,風上方向の情報に重きを置いたスキ ームが成功を収めている. そのようなスキームの中で,ラグランジュ・ガレルキン法について考察する. これは特性曲線法と有限要素法を結合した手法であり,特性曲線有限要素法やガ レ ル キ ン・特 性 曲 線 法 と も 呼 ば れ る . 物 質 微 分 は 特 性 曲 線 と 呼 ば れ る 物 質 粒 子 の 軌跡に沿って近似されるため,物理的に自然であり,風上方向の情報を取り入れ ることが出来る.有限要素法による空間の離散化と組み合わせた結果として,合 成 関 数 項 を 含 む 積 分 が 現 れ る こ と が 特 徴 で あ る .本 手 法 は 次 の 特 長 が あ る .ま ず , 計算効率が優れている.特性曲線に沿った離散化により移流項が解くべき連立一 次方程式の係数行列に現れず,行列は対称になる.このような連立一次方程式は 共役勾配法や最小残差法によって効率的に解かれる.2 つ目に,安定性が優れて いる.移流拡散問題に対するスキームは本質的に無条件安定であり,ナヴィエ・ ストークス問題に対するスキームは弱い安定性条件の下で安定であることが示さ れている. 1982 年 に Pironneau と Douglas-Russel に よ っ て ラ グ ラ ン ジ ュ ・ ガ レ ル キ ン 法 が提案され,その収束性が証明されて以来,様々なスキームが開発され,収束性 が 証 明 さ れ て き た . し か し ,こ れ ら の ス キ ー ム の 理 論 と 実 装 の 間 に は 乖 離 が 存 在 していた.スキームには,物理量を表す関数と物質粒子の軌跡を表す関数の合成 を 含 む 積 分 が 現 れ る が ,一 般 に は 被 積 分 関 数 は 多 項 式 で な く 滑 ら か で も な い た め , 厳密に計算することは困難である.ここに数値積分を使った近似計算がこれまで 行われていたが,粗い積分公式を使った時に不安定となることが知られている. この積分が厳密に計算されるという理想的な状況下では安定性と収束性が得られ ていたが,実際の計算ではそれは達成されていなかった. ラグランジュ・ガレルキン法における不安定性を解消するために,これまでに No. 1.
(3) いくつかの方法が研究されてきた.物質粒子の軌跡を求めることは常微分方程式 系 を 解 く こ と に 相 当 す る . Priestley は そ の 常 微 分 方 程 式 系 を 要 素 の 頂 点 の み で 解き,他の点は線形補間によって近似した.この簡略化された写像によって合成 関 数 項 を 含 む 積 分 は 厳 密 に 行 う こ と が で き る . Priestley の 写 像 に は 常 微 分 方 程 式系の厳密解が使われているが,一般にはこれを厳密に求めることは容易ではな い.田中らは流速場を局所線形化流速場で置き換え,写像にオイラー近似を行っ た.これにより合成関数項を含む積分は厳密に行うことができる.彼らは移流拡 散問題に対して三角形 1 次要素を使い,厳密に計算できるスキームを作成し,数 値実験を行った. 本論文では前述の理論と実装の乖離を解決する.すなわち,厳密に実装でき, かつ,数値解の厳密解への収束性を数学的に証明できるスキームを確立する.た だし,丸め誤差や連立一次方程式ソルバーから生じる誤差についてはここでは議 論しない.加えて,従来の数値積分公式を用いるスキームに対する 1 つの安定性 条件を示す.以下,3 つの主要な結果を挙げる. まず,移流拡散問題に対する従来の数値積分を用いるラグランジュ・ガレルキ ンスキームを考え,安定性が成立するための 1 つの十分条件を示した.時間刻み が十分小さいという仮定の下,積分点が要素の内部のみにある数値積分公式に対 して解析を行う.このとき,時間刻みがメッシュサイズの 2 乗のオーダー以下で あれば安定であることを示す.これは実用的には厳しい条件であり,時間方向に オイラー近似,空間方向に有限要素近似を行い,移流項を陽的に扱ったスキーム の安定性条件と同等である.数値結果はこの結果と整合している. 次に,移流拡散問題のための,厳密に実装でき,かつ,数値解の厳密解への収 束性を数学的に証明できるラグランジュ・ガレルキンスキームを示した.田中ら と同じく,局所線形化流速を用いた物質粒子の軌跡を近似する写像を使い,三角 形 k 次 要 素 に 対 す る ス キ ー ム を 作 成 す る .こ の ス キ ー ム を ス キ ー ム L G - L L V と 呼 ぶ . ス キ ー ム L G - L L V は 本 質 的 に 無 条 件 安 定 で あ る こ と を 示 し ,収 束 性 を 証 明 す る .証 明は従来の方法と同様であるが,それに加えて,元の流速場と局所線形化流速場 の差を適切に評価することが必要である.その差はメッシュサイズに関して 2 次 オ ー ダ ー で あ る .収 束 性 を 時 間 ・ 空 間 に そ れ ぞ れ 離 散 最 大 値 ・ H1 を 用 い た ノ ル ム で計った時,1 次または 2 次要素に対して収束次数は最良であり,離散最大値・ L 2 ノ ル ム で 計 っ た 時 ,1 次 要 素 に 対 し て 最 良 で あ る .ス キ ー ム L G - L L V は 常 微 分 方 程式系の厳密解を使わず数値積分も使っていないため厳密に計算することができ る .2 次 元 に お い て こ の ス キ ー ム L G - L L V を 実 現 す る プ ロ グ ラ ム を 作 成 し ,回 転 流 れ場の問題と創成解から設定された問題での数値結果を示した.そこでは,高ペ クレ数の問題において,従来の数値積分を用いるスキームでは不安定であるが, ス キ ー ム LG-LLV で は 安 定 に 計 算 で き て い る こ と が 分 か る . さらに,ナヴィエ・ストークス問題のための厳密に実装でき,かつ,数値解の No. 2.
(4) 厳密解への収束性を数学的に証明できるラグランジュ・ガレルキンスキームを示 した.移流拡散問題に対するスキームと同様に,局所線形化流速を用いた写像を 使いスキームを作成した.流速と圧力を近似する有限要素空間として,代表的な 要素であるテイラー・フッド要素とミニ要素が使われている.このスキームもス キ ー ム LG-LLV と 呼 ぶ . ス キ ー ム LG-LLV の 収 束 性 を 弱 い 安 定 性 条 件 の 下 で 証 明 す る . 証 明 は Süli や Boukir ら に よ っ て 行 わ れ て き た 数 学 的 帰 納 法 を 用 い る 方 法 を 使うが,それに加えて,元の流速場と局所線形化流速場の差を適切に評価する必 要がある.帰納法に現れる定数もそれに応じてとり直す必要がある.流速の収束 性 を 時 間 ・ 空 間 に そ れ ぞ れ 離 散 最 大 値 ・ H1 を 用 い た ノ ル ム で 計 り ,圧 力 の 収 束 性 を 離 散 2 乗 平 均 ・ L 2 ノ ル ム で 計 っ た 時 ,収 束 次 数 は こ れ ら の 要 素 に 対 し て 最 良 で あ る .流 速 の 収 束 性 を 離 散 最 大 値 ・ L2 ノ ル ム で 計 っ た 時 ,ミ ニ 要 素 に 対 し て 収 束 次 数 は 最 良 で あ る . 2 次 元 に お い て ス キ ー ム LG-LLV を 実 現 す る プ ロ グ ラ ム を 作 成し,創成解から設定された問題とベンチマークとしてよく使われる四角形キャ ビティ問題に対して数値実験を行なった.高レイノルズ数の問題の場合,従来の 数 値 積 分 を 用 い る ス キ ー ム で は 不 安 定 で あ る が ,ス キ ー ム L G - L L V で は 安 定 に 計 算 で き る こ と が 分 か る .正 三 角 形 領 域 に お け る キ ャ ビ テ ィ 問 題 の 数 値 実 験 も 行 っ た . そこではレイノルズ数に関して定常解の分岐が起きていることが観察される.分 岐解のうちの 1 つは,我々の知る限り,これまでに得られていなかった. 本 論 文 は 8 つ の 章 と 付 録 か ら 構 成 さ れ る .第 1 章 は 導 入 で あ る .ラ グ ラ ン ジ ュ ・ ガレルキンスキームの概要とその問題点,本論文における目的を述べる.第 2 章 では本論文で使われる記号や基本的な概念の準備を行う.第 3 章では,例として 移流拡散問題を取り上げ,時間離散化にオイラー近似を行い,空間離散化に有限 要素近似を用いたスキームの安定性をまとめる.第 4 章では特性曲線法による物 質微分の近似についてまとめる.さらに,局所線形化流速を導入し,これを用い た写像から成る合成関数を含む積分が厳密に計算できることを示す.第 5 章では 移流拡散問題のためのラグランジュ・ガレルキンスキームについて考察する.記 号や従来のスキームとその安定性をまとめた後,提案スキームであるスキーム LG-LLV を 導 入 し ,そ の 収 束 性 を 証 明 す る .さ ら に 数 値 結 果 を 述 べ る .第 6 章 で は ナヴィエ・ストークス問題のためのラグランジュ・ガレルキン法について考察す る .記 号 や 従 来 の ス キ ー ム を ま と め た 後 ,ス キ ー ム L G - L L V を 導 入 し ,そ の 収 束 性 を証明する.さらに数値結果を示す.第 7 章では局所線形化流速を用いた写像か ら成る合成関数を持つ要素外力ベクトルの高速な計算を行うためのアルゴリズム を示す.第 8 章はまとめである.付録では,いくつかの数値積分公式の積分点の 座標と重みを列挙する.. No. 3.
(5) No.1. 早稲田大学 氏 名. 内海 晋弥. 博士(理学). 学位申請. 研究業績書. 印 (2016 年 12 月. 種 類 別. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月、. 現在). 連名者(申請者含む). 論文 [1] M. Tabata and S. Uchiumi. An exactly computable Lagrange-Galerkin scheme for the (査読有) Navier-Stokes equations and its error estimates. Mathematics of Computation. (掲載決定) [2] M. Tabata and S. Uchiumi. A genuinely stable Lagrange-Galerkin scheme for convection-diffusion problems. Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, Vol. 33, No. 1, pp. 121--143, February 2016. [3] S. Uchiumi. Conditional stability of the Lagrange-Galerkin scheme with numerical quadrature. JSIAM Letters, Vol. 7, pp. 61--64, November 2015. 講演. [1] S. Uchiumi. Exactly computable Lagrange-Galerkin schemes and their numerical results. The 12th Japanese-German International Workshop on Mathematical Fluid Dynamics. Waseda University, Tokyo, Japan. March 2016. [2] 内海 晋弥.厳密に計算可能な Lagrange-Galerkin スキームによるキャビティ問題の数 値計算.数学と現象 in 桧原湖.桧原湖セミナーハウス.2016 年 2 月. [3] S. Uchiumi, M. Tabata. Exactly computable Lagrange-Galerkin schemes for flow problems. Fifth Chilean Workshop on Numerical Analysis of Partial Differential Equations. Universidad de Concepción, Concepción, Chile. January 2016. [4] S. Uchiumi. An exactly implementable Lagrange-Galerkin scheme for the Navier-Stokes equations and its computation. IRTG 1529 Seminar. Technische Universität Darmstadt, Darmstadt, Germany. November 2015. [5] S. Uchiumi and M. Tabata. Numerical computation of the Navier-Stokes equations by a Lagrange-Galerkin scheme with a locally linearized velocity. The 34th JSST Annual Conference; International Conference on Simulation Technology. Toyama International Conference Center, Toyama, Japan. October 2015. [6] 内海 晋弥.局所近似流速を用いた特性曲線有限要素法の理論と数値計算.数学と現 象 in 伊豆大島.大島町役場大会議室.2015 年 7 月. [7] 内海 晋弥,田端 正久.数値積分を使わない特性曲線有限要素法による Navier-Stokes 方程式の数値計算.第 20 回計算工学講演会.つくば国際会議場.2015 年 6 月. [8] 内海 晋弥. 特性曲線有限要素法の理論と応用.第 12 回城崎新人セミナー.城崎市 民センター.2015 年 2 月. [9] 内海 晋弥,田端 正久. Navier-Stokes 方程式のための数値積分誤差を伴わない特性 曲線有限要素法とその応用.2014 年度 RIMS 研究集会「新時代の科学技術を牽引す る数値解析学」 . 京都大学.2014 年 10 月. [10] 内海 晋弥,田端 正久. Navier-Stokes 方程式のための数値積分誤差を伴わない特性 曲線有限要素スキームの解析.日本数学会 2014 年度秋季総合分科会.広島大学 東 広島キャンパス.2014 年 9 月. [11] 内海 晋弥,田端 正久. Navier-Stokes 方程式のための数値積分誤差を伴わない特性 曲線有限要素法.日本応用数理学会 2014 年度年会. 政策研究大学院大学.2014 年 9 月..
(6) No.2. 早稲田大学 種 類 別. 題名、. 博士(理学) 発表・発行掲載誌名、. 学位申請. 研究業績書. 発表・発行年月、. 連名者(申請者含む). [12] 内海 晋弥,田端 正久. 特性曲線有限要素法における数値積分公式と安定性.第 10 回日本応用数理学会研究部会連合発表会. 京都大学.2014 年 3 月. [13] 内海 晋弥,田端 正久. 時間刻みが小さい時の特性曲線有限要素解の挙動.日本数 学会 2014 年度年会.学習院大学 目白キャンパス.2014 年 3 月. [14] 内海 晋弥,田端 正久. 絶対安定な特性曲線有限要素法.2013 年度 RIMS 研究集会 「応用数理と計算科学における理論と応用の融合」. 京都大学.2013 年 10 月. [15] 内海 晋弥,田端 正久. 絶対安定な 2 次要素特性曲線有限要素法.日本応用数理学 会 2013 年度年会. アクロス福岡.2013 年 9 月. その他 (講究録, [1] 内海 晋弥, 田端 正久. Navier-Stokes 方程式のための数値積分誤差を伴わない特性曲 線有限要素スキームとその応用 (新時代の科学技術を牽引する数値解析学), 数理解 査読無) 析研究所講究録, No. 1957, pp. 81--90, 2015 年 7 月. (講演). [1] 内海 晋弥.Oseen 問題のための有限要素スキームの粘性係数依存性に注目した誤差 評価.RIMS 研究集会:現象解明に向けた数値解析学の新展開 II.京都大学.2016 年 10 月. [2] 内海 晋弥,田端 正久.Oseen 問題のための grad-div 安定化・局所線形化流速 Lagrange-Galerkin スキーム.日本数学会 2016 年度秋季総合分科会.関西大学.2016 年 9 月. [3] 内 海 晋 弥 , 野 津 裕 史 , 田 端 正 久 . 局 所 線 形 流 速 を 用 い た P1/P1 安 定 化 Lagrange-Galerkin スキーム.日本応用数理学会 2016 年度年会.北九州国際会議場. 2016 年 9 月. [4] 三沢 昂,内海 晋弥,田端 正久. 非圧縮 Navier-Stokes 方程式に対する Euler 近似特 性曲線/射影有限要素スキームの誤差評価とその応用.日本応用数理学会 2016 年研 究部会連合発表会. 神戸学院大学ポートアイランドキャンパス.2016 年 3 月. [5] 内海 晋弥.非定常 Stokes 方程式のための高次要素を用いた圧力安定化有限要素法と 粘性係数依存性.2015 年度応用数学合同研究集会.龍谷大学瀬田キャンパス.2015 年 12 月. [6] 内海 晋弥.非定常 Stokes 方程式のための高次要素を用いた圧力安定化有限要素法と その特性曲線法への応用.日本応用数理学会 2015 年度年会(若手の会 OS) . 金沢 大学角間キャンパス.2015 年 9 月. 以上.
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