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第1章 序論

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第1章 序論

亀裂性岩盤の強度・変形などの力学的性質は、岩盤を構成する岩石の強度・変形性より

もむしろ、節理、層理、片理、断層などの力学的不連続面の分布状況(密度、方向性、連

続性等)に大きく左右される。したがって、岩盤の安定性はこれらの力学的不連続面であ

る亀裂の分布形態に影響されており、亀裂性岩盤におけるトンネル建設工事の安全性は、

亀裂の発達程度や風化の状態といった地質状況に支配されている。

1996年2月10日に北海道古平町の豊浜トンネルで発生した岩盤崩落事故では、トンネ

ル坑口上部の巨大岩塊(容積約11,000m3・総重量約21,000tf )が、ほぼ垂直方向に連続 する岩盤不連続面に沿って滑り落ち、走行中の路線バスと乗用車 1 台を押しつぶし、20 名の死亡者を出す大災害となった。この事例は稀なケースではあるが、岩盤の不連続面に起

因するトンネル掘削中の落盤事故や出水事故は、規模の小さいものを含めると少なからず

発生しているのが現状である。

山岳トンネルはダムや橋梁基礎などと違って、数百 m から数十 km にも及ぶ線状構造 物であり、延長が長いこともあり、施工前の地質調査においては、経済的な理由から十分

な調査がおこなわれていないことが多い。このため、トンネル掘削において断層破砕帯な

どの予期せぬ地質に遭遇し、突発湧水の発生と天端崩壊、落盤等の事故が発生することが

少なくない。また、断層破砕帯周辺においては、構造的な潜在応力や岩質劣化による押し

出し性異常地圧が発生することがある。このため、大きな断層破砕帯の存在が推定される

場合には、切羽から先進ボーリング等を実施し、その分布・性状・湧水状況を事前に把握

しておくことが重要となる。場合によっては、水抜きボーリング、迂回坑の施工や、フォ

(2)

アパイリングなどの切羽安定を目的とした補助工法の施工がおこなわれることも少なくな

い。このような事故は、死亡災害や工期の大幅な遅れ等をもたらし、安全性・経済性にお

いて、トンネル工事の大きな障害となっている。

日本トンネル技術協会(1990)[55]が行なったトンネル建設工事における地山崩壊事例の 実態調査では、全国128件のトンネル崩壊事例の内、84%がトンネル工事の最先端部であ る切羽で発生しており、崩壊原因は「湧水」ならびに断層破砕帯などの「地質構造」とい

った地質的要因が大部分を占めている。トンネル掘削中の岩盤崩壊事故は、坑内作業員の

人命に係わる重大事故につながることが多い。崩壊規模が大きい場合には、地表沈下や地

表陥没事故となり、第三者を巻き込んだ重大災害につながる可能性もある。また、復旧の

ために建設工事の大幅な遅延につながる。

現在、山岳トンネル施工法としては、NATM(New Austrian Tunneling Method)が主 流となっている。NATMでは、吹付けコンクリート、ロックボルト、鋼製支保工の組み合 わせによる支保(地山の支持)が行なわれ、それらの支保の組み合わせは「支保パターン」

として標準化されている。また、これらの「支保パターン」と地山の地質状況に基づく地

山分類・地山等級との対応表が、各関係機関から提案されており、「標準支保パターン」と

して確立されている。

このため、山岳トンネルでは、施工段階においてトンネル切羽岩盤の地質観察から得ら

れる地質情報や計測データ(岩盤の初期変位)等から、設計の妥当性の検証を行ない施工

にフィードバックする、いわゆる「情報化施工」が行なわれている。これらの情報化施工

においては、いかに迅速かつ的確に切羽岩盤面の地質情報を取得するかがボトルネックに

(3)

なっている。

しかしながら実際には、工事の合間に岩盤の地質観察をおこなうため、時間上の制約が

あることと、切羽岩盤面に接近することによる浮石等の落下等による事故の危険性を伴う

ため、十分な調査が出来ていないのが現状である。したがって、現実には岩盤の客観的か

つ定量的な評価が困難であり、主観的かつ定性的な岩盤評価に基づいて「支保パターン」

が決定されているケースが多い。

実際の岩盤状況に対して、過度な支保パターンの選定は工事費の増大をもたらし、逆に

軽度な支保パターンの選定は、緩み領域の拡大に伴う地山変状の助長、支保の追加につな

がり、崩壊事故や工事費の増大につながる。

以上のことから、トンネル切羽岩盤の安定性評価ならびに切羽前方地山の地質を予測す

ることは、トンネルの安全かつ経済的な施工をおこなう上で、非常に重要である。また、

適正な支保パターンを選定する上で、岩盤の安定性を迅速かつ客観的に評価するシステム

の構築が必要である。

本研究は、岩盤の亀裂分布のフラクタル特性に着目して、フラクタル画像解析システム

を用いた、迅速かつ客観的に岩盤の安定性評価をおこなう手法の確立を目的とする。

(4)

第2章 既往研究の整理と研究課題 2.1 トンネル切羽岩盤の安定性評価

トンネルの支保パターンを決定するためには、切羽岩盤の安定性を評価する必要がある。

このトンネル切羽岩盤の安定性を評価する方法としては、定性的評価手法と定量的評価手

法がある(図 2.1.1、表 2.1.1)。

定性的評価

定量的評価

切羽岩盤の安定性評価方法

評点法 単純平均法

加重平均法 Q値法 海外の評点法

RMR法 RSR法

多変量解析 数量化理論第Ⅰ類 数量化理論第Ⅱ類

図 2.1.1 トンネル切羽岩盤の安定性評価方法

2.1.1 定性的評価手法

定性的評価手法は、多くのトンネルで一般的に行われている方法である。切羽の状態、

ハンマー打撃による岩石の割れ方、風化変質、亀裂間隔、亀裂形態、亀裂状態および湧水

などの観察をおこない、表 2.1.2に示すような切羽観察表に記録する。そして、この切羽

観察表にもとづいて、岩盤の状態、トンネル施工の難易に関わる地山条件(切羽の自立性、

突発湧水、偏土圧の発生等)や支保の選定に関わる地山等級を、経験的に設定された地山

判定基準に基づいて岩盤の安定性を評価する方法である。しかしながら、この定性的評価

(5)

表 2.1.1 トンネル切羽観察評価手法の分類

評価手法の分類 評価手法の概要

2.1.1 定性的評価

岩種・弾性波速度を基本的条件とし、これに切羽での観察項目

(地質状態・ハンマー打撃による割れ方・亀裂間隔・切羽の自 立性・内空変位)から、定性的に評価するものである。最も一 般的な評価方法であり、多くのトンネルで実施されているが、

判定基準が明確でないため、判定者の主観的評価になり易い。

a)

単純平均法

切羽観察の各項目に配点し、切羽観察を評点で評価するもので ある。この方法は簡便な方法ではあるが、切羽観察の各項目は すべて同じ重みの寄与率で評価し、単純加算されるため、岩盤 の特徴を反映できず、計測データとの相関も良好ではないこと がある

(1) 評点法

b)

加重平均法

切羽観察の各項目を寄与率に応じて異なった重み付けをし、地 山総合評価点を算出する方法である。地質特性ごとに標準化さ れた重みづけがなされた場合には有効な方法である。単純平均 法よりも支保パターンとの相関は高い傾向にある。問題点は重 みづけの割り振りであり、ある程度のデータの蓄積が必要であ る。

a) Q値法

Barton ら(1974)[96]によって提案された手法である。評価に

は、RQD・不連続面系の数・不連続面の粗さ・不連続面の変質 の程度あるいは挟在物・水の状態・応力状態を考慮する。スカ ンジナビア半島の安定地塊における硬岩地山での事例分析に もとづいているため、日本の複雑な地質には適用性に問題があ る。

b) RMR

Bieniawski(1973)[110]によって提案された手法である。一軸 圧縮強度・RQD・割れ目間隔・割れ目状態・地下水・不連続面 の方向性に評価点の総和で岩盤を評価するものである。指標の 総和で評価するため、岩盤の特徴の明確な差異が表われにく く、日本のような複雑な地質構造を有する地山の評価には向か ないという問題がある。

(2) 海 外 の 評点法

c) RSR

Wickham ら(1972)[10]によって提案された手法である。岩盤構

造・不連続面の影響・地下水の影響の 3 つの指標で評価をおこな い、これらの指標に重み付けをおこない、定量的に評価する方法で ある。この方法は比較的簡便な方法ではあるが、事例分析の 9 割 が在来工法(鋼製支保工+矢板)によるものであるため、今日一般 的な工法となっている NATM では適用性に問題がある。

a)

数量化理論 第Ⅰ類

切羽状況と変位などの関係を分析する方法である。切羽観察項目 を要因とし、内空変位や天端沈下等を外的基準として、数量化理 論第Ⅰ類により解析することで、土かぶり、切羽状況、地山強度、

割れ目頻度等の各要因と外的基準(最大変位量)との関係を表す 予測式を得るものである。

2.1.2 定量的評価

(3) 多 変 量 解析

b)

数量化理論 第Ⅱ類

切羽状況と支保パターン等の関係を分析する方法である。切羽観 察項目を要因とし、支保パターン等の非数値データを外的基準(目 的変数)として、数量化理論第Ⅱ類により解析することで、支保選 定の一方法とするものである。

(6)

表 2.1.2 トンネル切羽観察表 上半 年 月 日 STA 坑 口 か ら

土被り

観測

位置 下半 年 月 日 STA 坑 口 か ら

パターン区分

記載者:

地質の状態

ア.水平

1. 単一土層 2.互層 イ.傾斜 3.レンズ状の ア.なし 4.その他 ウ.乱れあり はさみ層 イ.あり

1.切羽全体が 1.礫岩 2.砂岩 3.シルト岩 4.泥岩 5.

頁岩 6.凝灰岩 7.その他( )

1.レキ混り 2.砂岩・シルト岩 3.

泥岩 4.凝灰岩質 岩種

2.切羽の一部が 1.礫岩 2.砂岩 3.シルト岩 4.泥岩 5.

頁岩 6.凝灰岩 7.その他( )

1.レキ混り 2.砂岩・シルト岩 3.

泥岩 4.凝灰岩質 掘削地点の地山の状態

A 切羽の状態 1.自立している 2.肌落ちがある 3.核残しが必要 である

4.大規模な対策 工が必要 1

支保工 脚部付近

1.ハンマーがは ね 返 る 。 強 く 叩けば亀裂等 で 大 き く 割 れ

2.ハンマーで 容易に割れる 小片または薄く

割れる

3.ハンマーで 容易に崩れる 岩 片 は も ろ く

容易に崩れる

4.ハンマーが突 き 刺 さ る 。 指 先で岩片も崩 せる

5.土砂状

B 2.

鏡面

1.ハンマーがは ね 返 る 。 強 く 叩けば亀裂等 で 大 き く 割 れ

2.ハンマーで 容易に割れる 小片または薄く

割れる

3.ハンマーで 容易に崩れる 岩 片 は も ろ く

容易に崩れる

4.ハンマーが突 き 刺 さ る 。 指 先で岩片も崩 せる

5.土砂状

C 風化変質

1.未風化、新鮮 で堅硬

2. 目 に 沿 っ て 風 化が認められる

3. 目 以 外 の 岩 全体に風化

4.部分的または 全体的に土砂

D 割れ目間隔

(cm)

1. 100≦ 2. 100~50 3. 50~20 4. 20~5 5. 5≧

E 割れ目形態

1.割れ目はほと んど認められ ない

2. ランダム 3. 方 向 性 ( 層 状 、 片 状 、 板 状)あり

4.土砂状、細片 状 、 当 初 よ り 未固結 F 割れ目状態 1.密着 2.部分的に

開口

3.全体的に 開口

4.開口部に油目 がみられる

5. 大 規 模 に 粘 土を挟む

G 湧水

1.なし 2. 部 分 的 に 割 れ 目 ま た は 粗 粒 岩等からにじみ 出る

3.全体的に濡れ ている

4. 部 分 的 に 割 れ 目 ま た は 粗 粒 岩等から噴き出

5.特に多い

主岩相以外の岩 相 部 で 上 記 と 異 なる状態・挙動が あ る 場 合 は こ れ も記入

注;この「トンネル切羽観察表」には、「トンネル切羽面の地質スケッチ」が添付される。

(7)

手法は判断基準が明確でないため、判定者の主観的評価になる傾向があること、判定者の

技術的力量に左右されるなどの問題がある。また、切羽でのハンマー打撃による落石死亡

事故なども発生しており、安全面での課題もある。

2.1.2 定量的評価手法

定量的評価手法には、大きく分類すると、評点法、海外の評点法、多変量解析による方

法がある(図 2.1.1、表 2.1.1)。

(1) 評点法

定性的評価手法である切羽観察表の各項目を、評点により集計し、点数により岩盤の安

定性を評価するものである。評点の集計の仕方によって、単純平均法と加重平均法の二つ

の方法がある。この評価方法は定性的評価手法をベースとしているため、数値化はされる

ものの、定性的評価手法と同様の問題がある。

a)単純平均法

単純平均法は切羽観察表の各項目の状況を、4~5 段階に配点し、各項目を集計するこ とで評価点を算出するものである。

定量化にあたっては、切羽観察の各項目の重みをすべて同等と仮定し、また判定ランク

には線形関係を仮定して、項目ごとに100点満点で計算する。

すなわち

(8)

×100

= i

i

E r

Ri (2.1)

ここで、Ei:切羽観察項目の換算点、ri:切羽観察項目の判定ランク、Ri:切羽観察項 目のランク数、である。

地山総合評価点は次式で求まる。

=

=

N

i

i

N

E PM

1

(2.2)

ここで、PM:地山総合評価点、N:切羽観察項目総数、である。

この単純平均法は簡易な方法ではあるが、切羽観察の各項目はすべて同じ重みの寄与率

で評価し、単純加算されるため、岩盤の特徴を反映できず、計測データとの相関も良好で

はないことが少なくない。

b)加重平均法

単純平均法では、切羽観察項目の重み付けを行わないのに対して、加重平均法は各項目

に重み付けをおこない評価するものである。すなわち、切羽観察の各項目を寄与率に応じ

て異なった重み付けをし、地山総合評価点を算出する方法で、次式で表される。

= =

×

=

N

i i N

i

i

i

E a

a PW

1 1

)

(

(2.3)

ここで、PW:地山総合評価点、 :切羽観察項目iに対する重み係数、 :切羽観察 項目iの換算点、N:切羽観察項目総数、である。

a

i

E

i

(9)

地質特性ごとに標準化された重み付けがなされた場合には、加重平均法は有効な方法で

あり、単純平均法よりは支保パターンとの相関性は高いと報告されている。しかしながら、

問題は切羽観察各項目の重み付けの割り振りであり、重み付けの妥当性をある程度のデー

タを蓄積し検証する必要がある。

(2) 海外の評点法

Q値法、RMR法、RSR法が代表的な手法としてあげられる。これらの手法は、多くの

トンネル実績から、岩盤の分類指標の評点に重み付けをおこない、定量的に評価しようと

するものである。

a)Q値法

ノルウェーの Barton ら(1974)[96]によって提案された手法であり、スカンジナビア半 島の200以上の事例分析に基づいている。Q値法は次の6つの指標に基づき、岩盤の安定 性を定量的に評価している。

①RQD(Rock Quality Designation)

②不連続面系の数(指標:Jn

③不連続面の粗さ(指標:Jr

④不連続面の変質度(指標:Ja

⑤不連続面の水の状態(指標:Jw

⑥応力状態(指標:SRF(Stress Reduction Factor))

(10)

これらの各指標は、岩盤特性に応じて評点の重み付けが行われ、Q値は次式により算出 される。

SRF J

Jn a J RQD J

Q= ⋅ rw (2.4)

式の右辺の3つの項(RQD / Jn、Jr / Ja、Jw / SRF )は、それぞれ岩塊の大きさ、岩塊 の表面のせん断強度、岩盤の挙動に影響する周辺の状態を表している。

Q値の範囲はおよそ0.0001~1000程度であり、表 2.1.3に示す岩盤特性の評価ができ る。

表 2.1.3 Q値とトンネル岩盤の性質

Q値 トンネルに対する岩盤の性質

< 0.01 0.01 ~ 0.1 0.1 ~ 1.0 1.0 ~ 4.0 4.0 ~ 10.0 10.0 ~ 40.0 40.0 ~ 100 100 ~ 400 > 400

例外的に劣っている 極端に劣っている 非常に劣っている 劣っている

わずかに良好である 良好である

非常に良好である 極端に良好である 例外的に良好である

Q値は、スカンジナビア半島におけるマッシブな硬岩地山での事例分析によって行われ た手法であるため、Q 値が小さい場合(0.1程度以下)では、慎重な評価が必要である。

また、Q値の指標には、専門的な判断を必要とし、現場で容易に判定できない指標がいく つか含まれているため、日本における複雑な地質状況の判定には困難な点がある。

(11)

b)RMR 法(Rock Mass Rating)

RMR法はBieniawski(1973)[110]によって、南アフリカ地域などの硬岩の事例分析(300

箇所程度)をもとに提案された方法である。RMR法は、次に示す6つの指標に対して評

価点を付け、これらの評価点の総和によって岩盤の評価を行うものである。

①岩石コアの一軸圧縮強度

②RQD(Rock Quality Designation)

③不連続面の間隔

④不連続面の状態

⑤地下水の状態

⑥不連続面の方向

算出されるRMR値は0~100の範囲であり、表 2.1.4によって岩盤分類がなされ、表 2.1.5によって岩盤等級の評価が行われる。

表 2.1.4 合計評価点から求められる岩盤分類

評価点 100~81 80~61 60~41 40~21 <20

地山分類等級

分類評価 特に良好 良好 普通 不良 特に不良

表 2.1.5 岩盤等級の評価

地山等級番号

平均自立時間 15m幅で 10 年 8m幅で 6 ヶ月 5m幅で 1 週間 2.5m幅で 10 時間 1m 幅 で 30 分 岩盤の粘着力 >400kPa 300~400kPa 200~300kPa 100~200kPa <100kPa 岩盤の内部摩擦角 >45° 35°~45° 25°~35° 15°~25° <15°

(12)

このRMR法は、Q値法に比べて簡便な手法で計算できるという利点があるが、6つの 指標の総和で評価するため、岩盤の特徴の明確な差異が表われにくく、日本のような複雑

な地質構造を有する地山の評価には向かないという問題がある。

c)RSR 法(Rock Structure Rating)

RSR法は、Wickhamら(1972)[10]によって、USAで提案された方法である。この方法

は190のトンネル断面の事例に基づいているが、これらのうち90%の事例がNATMでは なく在来工法(鋼製支保工+矢板)による施工である。

RSR 法は次のパラメータごとに重み付けされた評点を合計することにより得られ、そ

の合計であるRSR値(0~100の値)は、図 2.1.2に基づいて、トンネル支保構造と対応 づけられる。

図 2.1.2 RSR 値によるトンネル支保選定図

(トンネル直径 6mの場合、図中の点線部分は推定ライン)

(13)

この方法は比較的簡便な方法ではあるが、事例分析の9割が在来工法(鋼製支保工+矢 板)によるものであるため、今日一般的な工法となっているNATM では適用性に問題が ある。

(3) 多変量解析による方法

定量化の試みのうち、多くのデータをもとに多変量解析により評価しようとするもので

ある。切羽観察で得られるデータは非数値データが多いため、評価には数量化理論第Ⅰ類

と数量化理論第Ⅱ類を用いた事例が報告されている。

数量化理論による解析は、あくまで数学的にデータを取り扱っているため、結果を評価

する際には予測の妥当性を工学的に検証する必要がある。

a)数量化理論第Ⅰ類

数量化理論第Ⅰ類は、質的データを説明変数として、目的変数である量的データとの最

適一次結合関係を最小二乗法によって求める方法である。切羽観察結果の評価への適用例

では、蓄積された切羽観察データ(質的データ)と内空変位量や天端沈下量(量的データ)

との相関性を調べ、切羽観察各項目(アイテム)とそのランク(カテゴリー)の重み係数

を推定することが試みられている。

計測データMを以下の式で表し、各係数を最小二乗法で求める。

∑ ∑

= =

=

N

i

K

i

ij ij i

m

a b m

M

1 1

)

δ (

(2.5)

(14)

ここで、Mm:m番目の計測データ

a

i:切羽観察項目iに対する偏相関係数

b

ij:項目iランクjの重み係数

δ

ij

(m )

:対応する観察データが項目iのランクjであれば1、その他であれば

0の値となるデルタ関数

b)数量化理論第Ⅱ類

数量化理論第Ⅱ類は、質的データどうしの最適結合関係を最小二乗法によって求める方

法で、切羽観察結果の解析では蓄積された切羽観察データ(質的データ)と実績支保パタ

ーン(質的データ)との関係を分析し、適切な支保パターン選定の定量的基準設定の試み

に用いられた例がある。

池口ら(1996)[6]の研究によれば、切羽観察表のデータをもとにした数量化理論第Ⅱ類に よる統計学的解析を行なった結果、トンネル地山を評価する指標として、「圧縮強度」、

「風化変質」、「亀裂の状態」の3つの指標が地山評価に有効であることを明らかにしてい る。

2.1.3 岩盤安定性評価における課題

欧米において、Q値、RMR法やRSR法などの数値化手法が岩盤評価手法として定着し ているのは、日本と欧米の地質の違いによると考えられる。日本列島は太平洋プレート・

フィリピン海プレート・北米プレート・ユーラシアプレートの4つのプレートがひしめく

(15)

地殻変動帯に位置しており、深成岩類の花崗岩をはじめ、火山岩類・変成岩類および堆積

岩類がモザイク状に複雑に分布し、数多くの断層や活火山が存在する。これに対して欧米

の地質は、各地質の1ユニットが広く分布し、断層が少なく地質構造が単調で、安定した 大陸地塊を形成している。

強い地殻変動を受け、亀裂や断層が密に発達し、風化も進んでいる日本の岩盤は、ヨー

ロッパの岩盤と大きな差が生じた。Q値が適用されているスカンジナビア半島では、日本

には分布しない先カンブリア紀(約5億4,200万年前)の花崗岩が分布しており、北欧の 山地(ノルウェー)では氷河による浸食で風化帯がほとんどない。現在の岩盤は、氷河の

影響も関係して形成されている。

また、北ヨーロッパやRSR 法が適用されている北アメリカの主要な地域は、寒冷期に は広く氷河に覆われていた。氷河は移動するときに、その底面に分布する地質を削剥した

ため、氷河の融けた後には新鮮な岩盤が露出することになった。また、これらの地域は大

陸の安定地殻であるため、岩盤の亀裂が少ない。

日本の場合も寒冷期に氷河があったが、高山の山頂部に限られたもので、大部分の地域

で岩盤は長期にわたる風化作用を受けた。また、地殻変動により地質が複雑で、断層や亀

裂が密に発達することが日本の岩盤の特徴といえる。これらの結果、風化作用は一様に進

行せず、極めて不均質な岩盤状況が形成された。

このような日本の複雑な地質では、Q値やRSR法といった数値化手法は適用が困難で

あり、岩盤亀裂系の発達程度や風化度の不均質構造を、迅速・簡便かつ客観的に評価する

手法の開発が課題である。

(16)

2.2 トンネル切羽前方地山の地質予測

トンネル施工においては、岩盤崩壊事故を防止するために、最適な支保工の選択、なら

びに必要な補助工法の選定をおこなうことが重要である。このため、トンネル切羽前方地

山の断層破砕帯などの地質を予測することが必要である。

トンネル切羽前方地山の地質予測手法としては、切羽地質観察、切羽画像処理法、レー

リー波(表面波)・反射法・TSP法・HSP法・VSP法による坑内弾性波探査法や電磁波レ ーダ法、切羽からのボーリング孔を利用する手法等がある。

切羽地質観察は古くから実施されており、現在ではトンネル掘削段階における最も一般

的な施工管理方法であるが、切羽前方の地質予測というよりは主に岩盤等級の判定や支保

パターンの決定等に活用されている。

切羽画像処理法は、ステレオ写真、測距儀と CCD カメラ、デジタルスチルカメラ等に よって撮影した切羽岩盤写真を、濃淡変換、画像強調、ノイズ除去、エッジ強調、2 値化 等の画像処理技術を用いて切羽地質観察をおこなうものであり、大橋ら(1988)[18]、西村 ら(1992)[92]、和田ら(1988)[132]、小山(1990)[38]、寺田ら(1992)[82]等の多数の研究者に よって前方地質予測手法の研究がおこなわれている。これらの研究のほとんどが、岩盤亀

裂面の走向傾斜・間隔、地層の傾斜・厚さ等の連続状態をパターン化して、切羽前方の地

質状況の予測をおこなうものである。しかしながら、これらの方法は、岩盤亀裂や地層の

半無限の連続性を仮定したり、岩盤亀裂面のアンジュレーションや地層の屈曲などは無視

されているケースが多い。このため、実際の地質状況を反映しているとは言いがたい場合

が多く、岩盤亀裂や地層の連続性が乏しい場合には、適用性に問題がある。

(17)

弾性波探査法のレーリー波(表面波)によるトンネル切羽前方地山の地質予測の適用性

について、笠ら(1991)[23]によって研究されている。切羽に設置した起振器によって様々 な周波数で地盤を加振し、切羽前方地山にレーリー波を発生させ、その波動伝播速度から

切羽前方地山の地質構造や地山の弾性的性質を求める探査法である。

弾性波探査法の反射法・TSP 法・HSP 法・VSP 法はトンネル坑内に長さ 100~150m

の測線を設け、多数の受信器を設置した状態で坑内において起振をおこない、周辺地山か

らの反射波を捉えて地質構造を探査する方法であり、長谷川ら(1990)[100]、Sattel ら

(1992)[44]、稲崎ら(1993)[8]、今吉ら(1993)[9]によって研究されている。VSP( Vertical

Seismic Profiling ) 法は、地表面で発生させた地震波とボーリング孔底下方の地質変化面

からの反射波をボーリング孔内に設置した多数の受信器で探知する方法である。一方、ト

ン ネ ル 坑 を 水 平 ボ ー リ ン グ 孔 に 見 立 て て VSP 法 と 同 様 の 原 理 で お こ な う 方 法 は HSP( Horizontal Seismic Profiling ) 法と呼ばれる。

電磁波レーダ探査法は、福田(1992)[111]、新田(1992)[112]によって研究されている。送

信アンテナと受信アンテナを切羽面で移動させ、送信アンテナから数百 MHZ の電磁波パ ルスや様々な周波数をもつ連続波を放射し、切羽前方地山において誘電率が異なる地質不

連続面で生じた反射波を受信アンテナで受信することで地質境界面を探知する方法である。

これらの弾性波探査法、電磁波レーダ探査法は、直接的に地山の状態を確認する方法と

は違い、物理的な数値に置き換えて地山の地質状態を間接的に予測する手法であるといえ

る。

弾性波探査法は、弾性波速度値によって地山の硬軟を判定しようとするものである。し

(18)

かしながら、軟らかい地山の前面に硬い地山が被っている場合(キャップロックなど)に

は、奥の軟らかい地山は検出することが困難である。また、幅の広い断層破砕帯では、弾

性波の反射が複雑であり、結果の判定に困難をきたすことが多い。

切羽からのボーリング孔を利用する方法には、ボアホールテレビやボアホールスキャナ

ーを用いた孔内観察、削孔検層システム(削孔エネルギー測定)、ジオトモグラフィ等の探

査法がある。

切羽前方に油圧ドリルで削孔された小口径ボアホールに円錐鏡を利用した小型カメラを

挿入し、孔壁面の画像計測と画像処理をおこない、断層・亀裂・節理・風化度などの地質

状態を解析するシステムが寺田ら(1992)[82]によって研究されている。また、青木ら

(1990)[2]は、油圧式ロータリーパーカッションドリルの削孔時の計測データを用いて、ト

ンネル切羽前方地山の地質状況を直接探査する方法について研究している。「削孔検層シ

ステム」と呼ばれるこの方法は、直径約80mmのビットで削孔するときのピストンの打撃 エネルギーや削孔速度等から油圧式ドリルが削孔に要した破壊エネルギー係数を算出し、

これを岩盤判定のパラメータとして切羽前方地山の地質状況を推定するシステムである。

トモグラフィ技術と弾性波・比抵抗・電磁波探査等の各種物理探査技術を複合利用して、

切羽前方に削孔した複数のボーリング孔に囲まれた領域やボーリング孔と地表面間の領域

での地質状態を可視化する探査手法が 1980 年代半ばより研究されている。この探査手法 は、ジオトモグラフィ(Geo-tomography)と呼ばれるもので、医療分野で人体の断面写 真を撮影するために使用されているX線CTスキャナと同様な原理にもとづいて、地盤内 部の物理的性質の分布状況を断面像として表現する方法である。用いる物理探査法によっ

(19)

て弾性波トモグラフィ・比抵抗トモグラフィ・電磁波(レーダ)トモグラフィと呼ばれて

おり、島ら(1985)[47]、菅原ら(1989)[61]、下茂ら(1988)[25]、鈴木(1992)[62]、Nord ら

(1992)[90]、仮谷(1992)[26]等によってトンネル施工現場での検証結果が報告されている。

地表面からおこなう電気探査法の精度向上についても研究が実施されている。比抵抗映

像法、高密度電気探査法と呼ばれる探査法は、従来の電気探査法と逆解析法を組み合わせ

た手法であり、地山の電気抵抗の二次元分布状態を把握できることが特徴となっており、

根 田 ら(1989)[39]、 横 矢 ら(1989)[127]、 松 井 ら(1990)[117]、 尾 野(1992)[20]、 植 野 ら (1992)[11]によってトンネル現場での検証結果が報告されている。また、中村ら(1992)[91]

は、人工電磁場を利用した地磁気地電流法(CSA-MT法)によって水路トンネル工事で

の破砕帯位置の探査を実施し、その検証結果を報告している。電磁探査の中で15~30kHZ

の超長波を用いた探査法(VLF法)による断層破砕帯を対象とした探査が田中ら(1990)[72]、

矢田部ら(1993)[125]によって検証されている。

これらの手法はボーリング孔を利用するものであるが、ボーリング孔がトンネル断面に

比較して非常に狭い範囲の線状での調査であるため、ボーリング孔と交差しない断層破砕

帯等の弱線を見落とす可能性がある。また、地山全体が均質な場合を除き、不均質な地山

では局所的な脆弱部を見失ってしまう可能性が高い。また、ボーリング削孔には時間がか

かるため、施工を停止する必要があることや、費用が高いなどの欠点がある。探りノミは

ボーリングのように時間と費用はかからないが、線状の調査であるため、ボーリング同様

の問題点をはらんでいる。

直接的に地質状況を確認するという観点からは、切羽地質観察、切羽画像処理法による

(20)

予測方法が、確度が最も高い予測方法であるといえる。しかしながら、切羽地質観察に基

づく予測手法は定性的かつ主観的な判断であるため、観察技術者の技術的力量に左右され

てしまう問題点がある。また、定性的評価であるため、技術的根拠として認知されにくい

という欠点がある。切羽画像処理法による予測方法は、前述したように、岩盤亀裂や地層

の半無限の連続性を仮定しているため、実際の地質状況を反映しているとは言いがたい問

題点がある。

以上のことから、日常の切羽観察において、トンネル掘進に伴う地質変化の簡便・迅速

かつ客観的な評価手法の開発や、トンネル切羽前方の地質を精度良く求める探査手法の開

発が求められている。

(21)

2.3 岩盤亀裂系のフラクタル

フラクタル(付録 A を参照のこと)は、Mandelbrot(1982)[116]によって提唱された自 己相似性(拡大縮小対称性)に関する数学理論である。

これまでに、岩盤亀裂系の幾何学的パターンにおける「統計的自己相似性」としてのフ

ラクタル特性に着目した研究が、平田(1988)[107]、Hirata(1989)[108]、Barton and Larsen(1985)[97]、大西・鍵本(1986)[15]、佐藤・市川(1987)[43]、小島ら(1987)[37]、大 野・小島(1988)[16] 、大野・小島(1993)[17]などによってなされている。

平田(1988)[107]、Hirata(1989)[108]は、日本の活断層分布図をもとに、各地域の活断 層分布パターンのフラクタル次元について検討した。また、断層のフラクタル次元の上限

値が1.6程度であることをGriffith理論(Griffith, 1920[32])から導いた。すなわち、フ ラクタル次元の上限値1.6は、亀裂の表面積とそれを作るのに必要なエネルギーとの競合 によるものであり、フラクタル次元の大きな断層をつくるにはより多くのエネルギー(新

しい破壊表面を作るのに必要な表面エネルギー)の消費を必要とするから、物質はフラク

タル次元が低くなるように破壊するのが効率的である。しかし、物質が最初からもってい

る不均質性(断層・ジョイント・クラック)が応力集中源となり、フラクタル次元を高め

るのであろうという考えを示した。

Barton and Larsen(1985)[97]は、亀裂系のフラクタル次元の定義を与え、いくつかの

実際の現場露頭の亀裂系に、自己の定義にしたがってフラクタル次元を算定した。Barton ら[97]のフラクタル次元Dは次のように定義づけられている。測定された2次元平面上の 亀裂系の図上全体を一辺の長さ

η

の正方格子網で覆い、亀裂と交差した格子の数を

N ( η )

(22)

とすると、フラクタル次元Dは、

2

η

log d

2 (

η

) log N

D=−d (2.6)

として定義した。

大西・鍵本(1986)[15]は、フラクタル次元Dを、

η η

log

) ( log d

N

D=−d (2.7)

で定義し、人為的にコンピュータによって発生させた亀裂系のフラクタル次元を求めて

D =1.625を得た。

佐藤・市川(1987)[43]は、フラクタル次元Dを、大西・鍵本(1986)[15]と同様に(2.7)

式で定義し、具体的にこの式によってDを求めるためには、測定された

η

N ( η )

を両対 数紙上にプロットし、この直線の傾きがフラクタル次元Dになるとした。また実際に、長 野県木曽川上流・寝覚の床の露頭より測定した花崗岩の亀裂トレースと、ベスビアナイト

の岩石顕微鏡写真から読み取ったマイクロクラックから、フラクタル次元をそれぞれD =

1.340、D =1.506と求め、従来は定量的評価ができなかった亀裂系の複雑さの情報をフラ

クタル次元によって表現できるという考え方を示した。また、フラクタル次元が大きくな

ることは亀裂の本数が増えることおよび節点の数が増すことと理論的には一致した傾向を

持つこと、フラクタル次元と亀裂本数が線形的に変化するとは限らず、現場で観測される

亀裂系については、フラクタル次元は1.6程度が上限であると思われるとの考え方を示し た。

(23)

小島ら(1987)[37]は、フラクタル次元の影響因子について次のように述べている。すな わち、岩盤亀裂系のフラクタル次元は、①地史(地質年代)および岩種、②計測精度(最

小測定亀裂長さ)、③計測方法・露頭の欠損、④計測領域の大きさ、などの要因によってフ

ラクタル次元の値が変化するということを示した(図 2.3.1)。

図 2.3.1 フラクタル次元の影響因子(小島・大野・亀谷,1987[37])

大野・小島(1988)[16]は、岩盤中に存在する亀裂を2次元断面上のトレースとして捉え、

その長さや幅の分布にフラクタルの概念を導入することにより、以下のような結論を導い

ている。①ひとつのスケールで亀裂を観察する場合、長さや幅の分布は対数正規に近似さ

れる。しかしながら、これは計測上の問題であり、実際はべき乗分布(フラクタル分布)を

示すと考えられる。この分布の違いの原因が機械や人間の観察による取りこぼしと、領域

設定にあることを示した。また、フラクタル分布として取り扱う範囲は、超過確率にして、

概ね50~10%の間がほぼ妥当と思われる。②亀裂の長さや幅に、フラクタルの概念を導入

(24)

し、その分布が統計的に自己相似である可能性を実測結果から示した。③フラクタル次元

は地域や亀裂の捉え方によって異なる可能性を示唆した。

大野・小島(1993)[17]は、岩盤亀裂系のマルチフラクタル特性について論じている。す なわち、岩盤亀裂系のフラクタル性は成立するものの、その亀裂分布を1つのフラクタル

次元で表現するのが適当でないような場合がある。つまり、全体集合Uはフラクタル性を 示すが、ある集合u 1と、それとは別の集合u 2(u 1∈U、u 2∈U、u 1∩u 2は空集合)が

異なったフラクタル次元を持つ場合、全体集合Uを1つのフラクタル次元で表すことがで きないような場合である。このようなフラクタルをマルチフラクタルと呼び、全体集合U を表現するのには、いくつかの部分集合 u iに分割した取扱いが必要となる、との考えを 示した。

(25)

2.4 本論文の内容

本研究は、前節までに述べた、山岳トンネル施工段階における切羽岩盤評価の問題点、

トンネル切羽前方地山の地質予測の問題点や岩盤亀裂系のフラクタルに関する研究の現

状などから、フラクタル画像解析によるトンネル切羽岩盤の安定性評価を研究課題として

取り上げ、迅速・簡便かつ客観的な評価手法の確立を目的としたものである。

前節までに述べたように、山岳トンネルにおける落盤・崩壊といった重大災害の原因は、

地山の地質的要因に負うところが多いのにもかかわらず、事前調査段階では経済的な理由

から、施工段階においては時間的制約等の理由から、十分な地質調査が行われていないの

が現状である。また、切羽地質観察も観察者の主観的な判断となっていることが多い。

このような現状から、本論文では、岩盤のフラクタル画像解析の適用性を、実際のトン

ネル施工段階で検証し、フラクタル画像解析システムによる岩盤安定性評価手法を提案す

る。なお、本研究におけるフラクタル次元はボックスカウンティング法(付録 Bを参照)

によって算定をおこなった。

本論文は第1章から第 5章までで構成されており、第3章以降の内容は以下のようで ある。

第3章では、トンネル切羽岩盤のデジタルカメラによる画像から、画像処理を経て、ボ ックスカウンティング法によるフラクタル次元解析に至るまでの、フラクタル画像解析シ

ステムについて提示する。

第4章では、第3章で提示したフラクタル画像解析システムを、代表的な地質である、

堆積岩(砂岩・頁岩・礫岩互層)地山、火成岩(花崗岩)地山、変成岩(緑色片岩・黒色

(26)

片岩)地山のトンネルに適用し、岩盤の地質状況の評価、切羽前方地山の地質予測、岩盤

の変形特性評価、地盤改良効果の評価、支保パターン評価の有効性について検証し、考察

する。

第5章では、第 1章から第 4章までの研究成果を要約し、本研究の結論として総括す る。

(27)

第3章 フラクタル画像解析システム 3.1 システムの概要

亀裂性岩盤において施工されるトンネルの安定性は、その岩盤中の亀裂の発達程度(亀

裂密度)や風化度などの地質的要因に大きく支配されている。したがって、山岳トンネル

工事において、切羽岩盤の安定性評価を迅速かつ客観的に行うことが重要である。

フラクタル画像解析システムは、パソコン上で迅速にトンネル切羽の画像処理とフラク

タル次元解析を行うことにより、これらの地質情報(亀裂密度、風化度)を客観的な数値

(フラクタル次元)で定量的に評価し、トンネル切羽のフラクタル次元の数値から岩盤評

価(地質状況の評価)、岩盤変形特性評価、地盤改良効果の評価や支保パターン評価などの

岩盤安定性評価を行ったり、その数値の切羽ごとの変化から地質構造の変化を察知し、ト

ンネル切羽前方の地質(断層破砕帯位置)を事前に予測するものである。

フラクタル画像解析は、Apple社のパソコンMachintoshシリーズ(CPU/Power PC)

を使用し、ソフトウェアは「Adobe Photoshop」「FDC(Fractal Dimension Calculator)」

「Microsoft Excel」を使用した。

解析ステップは大きく、①画像処理、②フラクタル次元解析、の 2 段階に分けられる。

第1段階「画像処理」では、トンネル切羽画像から必要とする地質情報(亀裂、風化脆弱 部)のみを抽出する。第2段階「フラクタル次元解析」では、トンネル切羽の2値化画像 として抽出された地質情報(亀裂、風化脆弱部)を客観的な数値(ボックスカウンティン

グ法によるフラクタル次元)として評価する。そして、この数値の切羽ごとの変化から地

質構造の変化を察知し、トンネル切羽前方の地質(断層破砕帯位置)を事前に予測するも

(28)

のである。

解析に使用する切羽面の画像は、現場で日常の切羽観察記録の一環で撮影されたトンネ

ル切羽のデジタルカメラによる画像(Jpeg 形式)によっておこなった。デジタルカメラに

よる画像(Jpeg形式)はE-mailの添付ファイルとして現場からフラクタル画像解析を行 なうコンピュータへ送信され、解析結果はコメントとともに返送された。

3.2 画像処理

画像処理は、Apple 社のパソコンMachintoshシリーズ(CPU/Power PC)を使用し、

ソフトウェアはAdobe社の「Adobe Photoshop」を使用した。画像処理は、図 3.2.1のア ルゴリズムに沿って実施される。

現場で撮影されたデジタルカメラによるトンネル切羽画像は、明るさ・コントラスト調

整、2階調化などの処理を経て、最終的に72dpi の解像度の2値化画像(白黒画像)として

処理される。この画像2値化によりトンネル切羽画像から必要とする地質情報(亀裂・風化 部)のみが抽出される(図 3.2.2)。

(1)トンネル切羽岩盤画像の撮影

トンネル切羽岩盤の画像は、デジタルカメラにより撮影される。撮影の際には、粉塵に

よるハレーションを防止するため、照明は坑内のハロゲンランプによるものとし、ノー・

フラッシュで撮影する。撮影されたトンネル切羽岩盤の画像は、電子メールの添付ファイ

ルとしてフラクタル画像解析を行なうコンピュータに送信される。

(29)

(2)階調の反転

トンネル切羽岩盤の画像は、亀裂の識別を容易にするために、ポジをネガに反転する。

(3)明るさ・コントラスト調整

亀裂の抽出を容易にするために明暗のコントラストを調整する。

(4)2階調化

256階調のパワースペクトルからしきい値を設定し、白黒の2階調の画像に変換する。

(5)ノイズ除去

画像の亀裂周辺のノイズを除去するために、「輪郭以外をぼかす」ことによりノイズを

ぼかし、「シャープ(輪郭のみ)」をおこない、ぼかしたノイズを消去する。

(6)グレースケール

画像に残っているカラー情報を棄却する。

(7)モノクロ2階調

フラクタル次元解析のために、画像の解像度を72pixels/inchに落とし、画像を2値化 する。

(8)階調の反転

ネガをポジに反転し、亀裂を抽出する。亀裂以外のゴミの部分は「消しゴムツール」で

消去する。

(9)画像処理後の亀裂画像の保存

「別名で保存」コマンドで、名前を付けて亀裂画像を保存する。

(30)

トンネル切羽岩盤画像の撮影

階調の反転

明るさ・コントラスト調整

2階調化

ノイズ除去

グレースケール

モノクロ2階調

階調の反転

画像処理後の亀裂画像の保存

画像処理プロセス

図 3.2.1 画像処理アルゴリズム

図 3.2.2 画像処理後のトンネル切羽画像

(31)

3.3 フラクタル次元解析

ソフトウェアは「FDC(Fractal Dimension Calculator)」および「Microsoft Excel」

を使用した。「FDC(Fractal Dimension Calculator)」はボックスカウンティング法(付

録 B参照)に基づいている。画像処理後のトンネル切羽岩盤の2値化画像をボックスカウ ンティング法によるフラクタル解析を行い、フラクタル次元を求めるものである(図

3.3.1)。

(1)ボックスカウンティング法

ソフトウェア「FDC(Fractal Dimension Calculator)」によって、画像処理後のトン

ネル切羽岩盤の2値化画像(解像度72pixels/inch)をボックスカウンティング法によって 計算する。亀裂画像を読み込み、ボックスサイズの範囲(ピクセル数で設定)を決め、自

動計算し、計算結果をセーブする。これらの操作は、画面上のメニューでコマンドを選択

して行なう。

(2)フラクタル次元の計算

ボックスカウンティング法による計算結果を、ソフトウェア「Microsoft Excel」で開き、

フラクタル次元を計算する。この操作は「マクロ機能」を使うことにより、自動化が可能

である。

フラクタル次元は次式で表わされる。

(32)

P P D N

log ) ( log Δ

−Δ

= (3.1)

ここで、Dはフラクタル次元、Pはボックスカウンティング法における格子網の幅(単 位はピクセル)、N (P )は格子網の幅がPのときの亀裂部分のカウント数である。

トンネル切羽画像解析システムの特長は、トンネル切羽の地質情報を数値化することに

より、切羽ごとの地質変化を直接的に捉えていくことにある。また、日常の切羽観察の一

環として実施でき、建設工事も停止することなく、デジタルカメラを利用することにより、

簡便で迅速に解析できる利点がある。さらに天端沈下・内空変位などの計測値との相関性

を把握することにより、トンネル地山の安定性評価が可能となる。

図 3.3.1 フラクタル解析結果

(33)

第4章 岩盤の安定性評価への応用

4.1 堆積岩(砂岩・頁岩・礫岩互層)地山での事例 4.1.1 地質概要

上尾トンネルは大分県大分市に建設された一般国道 10 号・道路トンネル(事業主体:

旧建設省九州地方建設局、L =661.3m)である。トンネルの地質は中生代白亜紀大野川 層群犬飼層の砂岩・頁岩・礫岩などの亀裂性岩盤が分布している(図 4.1.1参照)。

地山の地質状況は、全体に砂岩主体で所々に頁岩・礫岩などの薄層を挟んでいる。砂岩

層は主に細粒砂を主体とし、新鮮であるが亀裂の発達したものが多い。各単層の層厚は約

0.1m~3.0m で、層理面が顕著に発達する。地層は切羽面に対して流れ盤となっており、

切羽面での見掛けの傾斜は26°~30°である。砂岩・礫岩は硬質であるが、頁岩はこれらに 比べ脆く割れやすい。岩盤は全体に新鮮であるが、亀裂が多い。亀裂は砂岩・頁岩に多く

発達(亀裂間隔は数cm~10cm程度)するが、特に頁岩は亀裂に富み、亀裂間隔は数cm が一般的である。砂岩・頁岩互層のRQDは0~41%(平均13%)である。

地表部は風化砂岩および崖錐堆積物であるが、急傾斜面を形成している。地質構造はト

ンネル中間部を向斜軸とする褶曲構造をなしている。岩石の一軸圧縮強度は地表に近いと

ころで200~900kgf/cm2、トンネル終点側に至るにつれてその強度は増加し、新鮮部では

2,500kgf/cm2におよぶ岩石が出現した。また、坑口付近では層理に直交する発達した亀裂

が観察された。

フラクタル解析を実施した区間は、上記のトンネル区間のうち、坑口から切羽距離300m 付近に至るまでの区間で、砂岩・頁岩互層が続き、亀裂が多く、地山の変形が大きかった

(34)

区間を対象に実施した。

このトンネル掘削においては、断層破砕帯がトンネルを横断する区間で特に内空変位が

大きく、最大217mmの天端沈下量を示した。この断層破砕帯の前後の区間において、フ ラクタル次元による岩盤評価ならびに岩盤変形特性の評価について検討した。

坑口

断層 断層

断層 砂岩・頁岩互層

砂岩・頁岩互層

砂岩・頁岩互層

砂岩層

砂岩層 砂岩層

250m 切羽距離

坑口 50m 100m 150m 200m 300m

断層 断層 断層

DL80 DL60 DL100

DL40 DL20

砂岩・頁岩互層 砂岩・頁岩互層

砂岩層

図 4.1.1 上尾トンネル地質平面図・縦断面図

(35)

4.1.2 フラクタル次元による岩盤評価

解析は、現場で日常の切羽観察記録の一環で撮影された、デジタルカメラによるトンネ

ル切羽画像(Jpeg形式)によっておこなった。画像(Jpeg形式)はE-mailの添付ファイ

ルとして現場からフラクタル画像解析を行うパソコンへ送信され、解析結果はコメントと

ともに返送された。

解析結果は、「切羽距離-フラクタル次元相関図」(図 4.1.2)に示すように、切羽距離

45~50m、切羽距離 115~120m ならびに切羽距離 210~215m の区間でフラクタル次元

がピークとなるような分布が得られ、この3区間での断層破砕帯の存在が読み取れる。現 場での切羽観察による「トンネル上半地質展開図」(図 4.1.3)からも、この3区間での地 層の不連続からトンネルを横切る断層破砕帯の存在が確認されており、解析結果と良く適

合した。

また、断層前後のトンネル切羽岩盤のフラクタル次元は、断層通過前が1.5~1.6と大き く、断層通過後は1.3~1.5と低下した。

(36)

↓断層 ↓断層 ↓断層

1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7

0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 300 切羽距離(坑口からの距離)m

フラクタル次元 D

図 4.1.2 切羽距離-フラクタル次元相関図

図 4.1.3 トンネル上半地質展開図

(37)

4.1.3 岩盤変形特性の評価

特に内空変位が大きい区間を中心にして、計測値とフラクタル次元値との相関性につい

て検討した。計測値として天端沈下量に着目した。また、地山変形挙動として地山変位ベ

クトルの方向性を見るために、天端変位比L / Sについても検討した(ここで、Lは天端沈 下量トンネル縦断水平変位成分、Sは天端沈下量鉛直変位成分を表わす)(図 4.1.4を参照)。

天端沈下量

変位ベクトル S

切羽面 L

図 4.1.4 変位ベクトルと天端変位比L / S

切羽距離と天端変位比L / Sをプロットしたものが図 4.1.5である。これを見ると,断

層破砕帯がトンネルを横断する115基から120基の区間を境にして,変位比L / Sの値が 大きく低下している。すなわち,水平変位成分に対して相対的に鉛直変位成分が増大する

傾向が認められる。

(38)

0.1 0.2 0.30.4 0.50.6 0.7 0.8 0.9 1.01.1

0 50 100 150 200 250 300

切羽距離(基数)

天端変位比( L / S )

断層破砕帯

図 4.1.5 切羽距離-天端変位比L / S

つぎに、断層破砕帯の前後の区間において、支保タイプ別に「フラクタル次元と天端変

位比の相関性」について見てみると、図 4.1.6、図 4.1.7に示すように、フラクタル次元

が高いほど天端変位比L / Sが増加する傾向を示している。

y = 0.6133x - 0.0105

0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2

1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 フラクタル次元 D

天端変位比L/S

図 4.1.6 フラクタル次元-天端変位比相関図(DⅢタイプ)

(39)

y = 1.0254x - 1.014

0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 フラクタル次元 D 天端変位比 L/S

図 4.1.7 フラクタル次元-天端変位比相関図(CⅡタイプ)

また「フラクタル次元と天端沈下量の相関性」について見てみると、図 4.1.8、図 4.1.9

に示すように、支保タイプDⅢ区間では明瞭な相関性が認められないものの、支保タイプ

CⅡ区間では、フラクタル次元が高いほど天端沈下量Sの大きさが増加する傾向を示して

いる。

20 40 60 80 100 120 140

1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0

フラクタル次元 D

天端 沈 下 量 S (mm )

図 4.1.8 フラクタル次元-天端沈下量相関図(DⅢタイプ)

(40)

y = 155.5x - 37.727

120 140 160 180 200 220 240

1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0

フラクタル次元 D

天端 沈下 量 S (m m)

図 4.1.9 フラクタル次元-天端沈下量相関図(CⅡタイプ)

(41)

4.1.4 支保パターンの評価

ここでは、トンネル切羽における岩盤亀裂のフラクタル次元と支保パターン(ここでは、

(社)日本道路協会(1989)[50]で示されたトンネル支保設計標準パターン(表 4.1.1)を意味

する)との相関性について検討した。

表4.1.1 トンネル支保設計標準パターン[50]

ロックボルト 鋼製支保工

支保 パターン

(*1)

掘進長(m)

長 さ (m)

間 隔

(m) 上半 下半

吹付コンクリート 厚さ (cm)

B 2.0 3.0 1.5 (*2) なし なし 5

CⅠ 1.5 3.0 1.5 なし なし 10

CⅡ 1.2 3.0 1.5 H-125 なし 10

DⅠ 1.0 4.0 1.2 H-125 H-125 15

DⅡ 1.0 以下 4.0 1.2 H-150 H-150 20

上半先進掘削工法による

(*1 )A 、E パターンはそれぞれ地盤条件を考慮して決定される

(*2 )この配置は上半のみ

なお、本論文における、DⅠ-i パターン、DⅢパターンは以下の仕様である

ロックボルト 鋼製支保工

支保

パターン 掘進長(m)

長 さ (m)

間 隔

(m) 上半 下半

吹付コンクリート 厚さ (cm) DⅠ-i

(*3) 1.0 4.0 1.2 H-125 H-125 15

DⅢ 1.0 以下 6.0 1.0 H-200 H-200 25

(*3)インバート 45cmの覆工コンクリートを含む

図 4.1.10は、トンネル切羽岩盤のフラクタル次元解析結果と、実施された支保パターン

を示したものである。図 4.1.11は、実施された支保パターン別に切羽岩盤のフラクタル次

元の頻度分布についてまとめたものである。また、表 4.1.2に図 4.1.11の結果について一

覧表でまとめた。

参照

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