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第1章 序 論

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Academic year: 2022

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(1)第1章. 序. 第1章 1.1. 序. 論. 論. 本研究の背景. 科学技術はいわゆる「豊かな」社会の実現に大きく貢献してきた.我々の生活等 の空間性についても,50 年前には「空調」というと暖房を指していたものが,家 庭用圧縮式空調機であるルームエアコンディショナの普及によって家庭における 快適性が大幅に向上してきた.さらにルームエアコンディショナの高効率化,高性 能化によって,夏季の冷房にとどまらず,冬季の暖房さらには中間期の除湿をも可 能にした快適な年間空調機として使用されるようになり,生活空間の快適性に対す る要求も大きくなってきた.図 1.1 に理想的な年間の使用状態を示す. <Month>. 1月. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 冬(降雪). 冬. 春(菜種梅雨). 梅雨. 夏(熱帯夜). 秋(秋の長雨). 冬(寒波). 強力暖房. 暖房. 暖房気味除湿 ~冷房気味除湿. 冷房気味 除湿. 冷房. 冷房気味除湿 ~暖房気味除湿. 暖房. Fig.1.1. Seasonal usage of room air conditioner. 他方,近年は地球温暖化という環境問題から地球温暖化ガスの削減が急務となっ ており,省エネルギーすなわち効率の向上が不可欠となっている.これと同時に, ルームエアコンディショナに用いられている冷媒 R 410A は,地球温暖化係数が大 きく,これも無視できない課題である. 従ってルームエアコンディショナでは,快適性の向上を図るには,同時に省エネ ルギーも実現することが必須で,そのための研究さらには実用化技術の開発が強く 求められている.これに対して,これまでは主に各要素の性能向上に取り組んでき たが,こうした取り組みは既に限界に近づいている. こうした背景のもとに,従来の各要素の性能向上という観点に加えて冷凍サイク ルをはじめとするシステムとしての性能向上に注目して,新しいサイクルの実用化 によって,快適性向上と省エネルギーを同時に実現することが不可欠になっている.. - 1 -.

(2) 第1章. 序. 論. 次に,本研究を着手するに至った,「快適性」,「地球温暖化ガス削減(省エネル ギー)」に対する経緯について述べる. [快適性] 快適性の向上は消費者にとって非常に重要であり,最近の顧客ニーズの多様化に 対応して,温冷感,空気質,クリーンといった項目に対して,様々な機能が実用化 されている.このうち温冷感は基本的なものであり,中でも快適な除湿機能や低外 気温時の暖房能力増大に対するニーズが大きい. 除湿機能としては,日本の気候は湿気が多いということもあり,健康的で快適な 環境を実現するために,冷え過ぎの無い除湿運転や,洗濯物の乾燥,快適な睡眠に も有効な除湿機能に対するニーズが高い.圧縮式のルームエアコンディショナでは, 蒸発器により除湿が可能であることから,これまでに冷房運転で室内風量を下げる 方式や,電気ヒータで冷却・除湿後の空気を再加熱する方式が採用されてきた.し かし前者では吹出空気温度が下がる,後者では消費電力が多い等の問題がある. 従って,蒸し暑い梅雤時に加えて肌寒く湿度の高い時に使用したり,洗濯物の乾 燥にも使える除湿方式を実現するには,高い除湿能力や除湿量・加熱量の制御が必 要になる.またこの場合,冷房・暖房での性能低下のない冷凍サイクルにする必要 がある. これに対して,室内熱交換器を再熱器と冷却器に二分割し,吸込空気を冷却・除 湿すると同時に加熱して温度を下げずに湿度を下げて吹き出し,さらに圧縮機や室 外ファン回転数を制御して除湿能力や加熱量を変えることにより,冷房気味から暖 房気味までの快適な除湿運転を低消費電力で実現できる高性能なサイクル再熱除 湿サイクルの研究開発を行った. 高暖房能力に関しては,インバータ制御圧縮機が開発され,暖房能力を大幅に増 大できるようになった.しかし最近では,北海道や東北の寒冷地でもルームエアコ ンディショナが使われるようになってきており,低外気温時も含めて暖房能力の一 層の増大が必要になっている.また低外気温時の暖房能力の増大によっては,燃焼 暖房からヒートポンプ暖房への変更を推進することも可能になり,これは地球温暖 化ガスの削減に繋がる. そこで,低外気温時の暖房能力増大と同時に消費電力の低減を狙って,インバー タ制御スクロール圧縮機を使用したガスインジェクションサイクルの研究開発を. - 2 -.

(3) 第1章. 序. 論. 行った. [地球温暖化ガス削減] ルームエアコンディショナにおいては,地球温暖化ガス削減や電気代低減の点か ら,省エネルギーが最近の最重要課題になっている.また世界的には,地球温暖化 ガス削減のために CO2 削減に対する指針が出されている.ここで日本のルームエ アコンディショナの消費電力をみると,家庭全体の約 1/4 を占めており,また一世 帯当たりの設置台数や使用時間の増加により,年々増加してきた.こうした状 況に対して,日本では,省エネルギー法が改正され(1999 年 4 月施行),冷房・ 暖房の平均 COP(Coefficient of Performance)や年間の使用状態を考慮した APF (Annual Performance Factor)といった性能指標が指定年度までに基準年度のトッ プ値を超えなければならないという「トップランナー方式」が導入され,産学官 を挙げて様々な省エネルギー技術の研究開発が行われている. 省エネルギー技術としては,これまで圧縮機,熱交換器,ファン,モータ,イン バータといった要素における効率向上や,冷凍サイクルにおける損失低減,要素機 器の高密度実装といった技術が開発されてきた.この結果,現在,省エネルギー機 種では,COP や APF のトップランナー値をクリアしている. しかしそれでもルームエアコンディショナの消費電力は年々増加しており,更な る消費電力の低減が不可欠になっている.しかしこれまでのような要素の高性能化 による省エネルギーは限界に近づきつつある.従って更なる省エネルギーのために は要素技術的な性能向上に加えて,冷凍サイクルシステム的技術による性能向上が 必須となっている. またオゾン層破壊防止の点から,従来使われていた HCFC(Hydro Chloro Fluoro Carbon)系の冷媒 R 22 はオゾン破壊係数 ODP(Ozone Depletion Potential)が高い ことから先進国では 2020 年までに実質全廃することが決定された.日本では 前倒しで代替冷媒化を進め,現在では ODP がゼロの HFC(Hydro Fluoro Carbon) 系の冷媒 R 410A に変更されている.しかし最近では,R 410A は地球温暖化係数 GWP(Global Warming Potential)が大きいことから規制される方向にあり,GWP の低い自然冷媒や新冷媒の模索と同時に,これらの冷媒に合わせた省エネルギー技 術の研究も精力的に行われている.. - 3 -.

(4) 第1章. 1.2. 序. 論. 本研究の目的. 前述のように,年間空調機としてのルームエアコンディショナにおいては,ODP がゼロの R 410A を用いて,更なる快適性向上と省エネルギーが必要であり,これ らを両立させて実現する必要がある. これに対して,省エネルギーに関しては,これまでに主に要素機器やユニットの 実装構造の改善などによる取り組みが行われてきた.しかし要素技術による性能向 上は限界に近くなっていた. そこで更なる性能向上を図るには,合わせて快適性向上も図れるサイクル的ある いはシステム的な技術が不可欠で,そのためにはハード(構成・構造),ソフト(制 御)両面からの研究が必要であると考え,研究開発に着手した. 具体的には次の要素技術を取り入れ, ・R 410A 冷媒を用いた冷凍サイクル ・インバータ制御圧縮機 ・回転数可変の容易な DC ファンモータ ・電子膨張弁 ・マイクロコンピュータ(以下マイコンと略す) 新しい価値を加えながら,更なる省エネルギーおよび快適性向上を図ることを目的 に,下記(a),(b)を中心に,新しい冷凍サイクルシステムの研究開発を行うことに した. (a) 省エネルギーおよび快適除湿が可能なサイクル再熱除湿サイクル (b) 省エネルギーおよび高暖房能力が可能なインバータ制御スクロール圧縮機 使用ガスインジェクションサイクル またルームエアコンディショナにおける技術開発では,できるだけコストアップ にならず,かつ十分な信頼性が保てるようにすることも非常に大切であることから, これらも十分考慮した構成・構造・制御方式を採用するようにした. 次に,以上の研究の目的について,冷凍サイクルについての考察と具体的な研究 開発項目の点から,具体的に述べる.. - 4 -.

(5) 第1章. 1.3. 序. 論. 冷凍サイクルシステムにおける研究開発内容. 1.3.1 冷凍サイクルにおける省エネルギーの考え方 冷凍サイクルの入力は圧縮機の仕事(率)( 冷媒流量×圧縮効果)で表わされ, 冷凍サイクルシステム的に省エネルギーを実現するには,冷媒流量を減らすか, 圧縮比を小さくすることが有効である.この観点から,筆者は,サイクル再熱 除湿サイクル,ガスインジェクションサイクルの採用によって省エネルギーを 図り,同時に快適性向上を図ることを考えることにした. (1) サイクル再熱除湿サイクル サイクル再熱除湿サイクルの基本構成を図 1.2 に,モリエ線図を図 1.3 に示 す.このサイクルは,室内熱交換器を,除湿運転時に絞り作用を行う除湿弁を 介して再熱器(凝縮器)と冷却器(蒸発器)に分割してあり,図 1.3 のモリエ 線図において,再熱器は凝縮過程の後半部分の機能を担う. 図 1.4 に,後述のブリードポート式除湿弁(図 4.2 参照)を用いて,絞り作 用を行うブリードポートの径を変えて絞り量を変えた時の 蒸発温度と除湿能 力(除湿量)との関係を示す.図中の空気流量は,弁出口大気開放で,弁入口 に 98 kPaG の空気圧をかけた時の空気流量を表わす.図 1.4 より,ブリードポ ート径を小さくして絞り量を大きくすると蒸発温度が下がり,除湿能力を大き く増大できることが分かる.また蒸発温度が下がると圧縮機の吸込ガス冷媒の 比容積が増し,冷媒流量が尐なくなって入力を低減することができる. 従って,サイクル再熱除湿サイクルにおいても,除湿弁での絞り量を適切に することにより,冷媒流量を減らして省エネルギー運転を可能にできる.. - 5 -.

(6) 凝 縮 器. 第1章. 序. 論. Condenser. Dehumidification valve (Close) 凝 縮 器. Re-heater. Expansion valve (Open). Cooler. Air Inverter Compressor Refrigerant flow. Rotation control Fig.1.2. Dehumidification cycle reheated by refrigeration cycle. Re-heater. Condenser. Pressure. (Indoor heat exchanger) (Outdoor heat exchanger). Dehumidification valve. Compressor. Cooler (Indoor heat exchanger). Enthalpy Fig.1.3. Mollier diagram of dehumidification cycle reheated by refrigeration cycle. - 6 -.

(7) 第1章. 序. 論. Dehumidification capacity (mL/h). Indoor air / Outdoor air : 24 ℃, 60 % / 24 ℃ Air flow rate at pressure of inlet 98 kPaG, outlet 0 kPaG 27 l/min 23 l/min 15 l/min 10 l/min 8 l/min 8 l/min 6 l/min. 600. 400. 200. 0. 8. 10. 12. 14. 16. Evaporating temperature (℃). Fig.1.4. Dehumidification capacity to evaporating temperature. (2) ガスインジェクションサイクル ガスインジェクションサイクルの基本構成を図 1.5 に,そのモリエ線図を図 1.6 に示す.図 1.5 において,ガスインジェクションサイクルは,絞り装置のとこ ろに気液分離器を挟んで 2 個の膨張弁を設けた構成を持つ.そして凝縮器を出た液 冷媒は上流側膨張弁で絞られて中間圧力になり一部気化して気液分離器に入り,こ こでガス冷媒と液冷媒に分離される.その後,分離されたガス冷媒は,圧縮途中 の圧縮室にインジェクションされ,液冷媒は,さらに下流側膨張弁で絞られて蒸 発器に入り,ここで吸熱してガス冷媒となって圧縮機に吸い込まれる. この結果,図 1.6 において,蒸発器での冷凍効果 Δh e2 は,単段での Δh e1 に比 べて Δh 大きくなる.ここで冷房の場合を考えると,冷房能力は式(1.1)で表さ れ,冷房能力を同一とすると,Δh 相当分だけ蒸発器での冷媒流量が減り,同 じ比率で圧縮仕事が低減する.. Qc =⊿he×G e. (1.1). ここに,Qc ;冷房能力[W], Δ h e;蒸発器での冷凍効果[J/kg] Ge;蒸発器での冷媒流量[kg/s]. - 7 -.

(8) 第1章. 序. 論. さらに,蒸発器を含む低圧側でガス冷媒流量が減ることから,低圧側冷媒流路 での圧力損失が小さくなり,圧縮機吸込圧力が高くなって圧縮仕事が減尐する.. Pc Condenser Added. Expansion valve. Vapor-liquid separator. Vapor Compressor Pi Liquid Expansion valve. Pe. Evaporator. Fig.1.5. Vapor injection refrigeration cycle. Single stage compression cycle Vapor injection vycle Gc. Pressure : P. Pc Expansion valve. Injection. (High pressure side). Vapor-liquid G i separation. Pi. <Liquid> <Vapor> Expansion valve. Pe Δh. Ge. (Low pressure side). Δ he1 Δ he2 Enthalpy : h. Fig.1.6. Mollier diagram of vapor injection refrigeration cycle. - 8 -.

(9) 第1章. 序. 論. 以上に述べたサイクル再熱除湿サイクル及びガスインジェクションサイク ルの採用により省エネルギーと快適性の向上を実現することが,本研究の目的 である.. 1.3.2 具体的な研究開発項目 (1) サイクル再熱除湿サイクル ルームエアコンディショナにおいては,除湿は温冷感に関する重要な機能であり, 主な用途は以下の通りである.なおこうした機能は,特に女性や高齢者の方々にと って大切である. ・冷え過ぎの無い快適除湿運転;快適で健康的な住環境の実現 ・洗濯物の乾燥;ルームエアコンディショナによる除湿能力は大きい ・快適睡眠のサポート;夏場等に室温を下げずに湿度を下げる 本研究の目的は,省エネルギーを保った状態で,上記のような機能を実現できる, インバータ制御圧縮機を用いたサイクル再熱除湿サイクルを開発することである. そのために,室内熱交換器を除湿運転時に絞り作用を行う除湿弁を介して上下に 二分割し,除湿運転時には冷媒流の上流側が再熱器(凝縮器の一部),下流側が冷 却器(蒸発器)となるような構成にして,室内吸込空気を再熱器で加熱し,冷却器 で冷却・除湿して吹き出すようなサイクル構成とし,さらに圧縮機の回転数や室 内・室外ファンの回転数を制御して加熱量や除湿量を変え,吹出空気の温度と湿度 を制御できるようにした. この場合の開発課題は次の項目であり,これらを解決して実用化する. 1) 冷房運転や暖房運転での性能を損なわず,省エネルギーで快適な除湿運転が 可能なサイクル構成 再熱器,冷却器の構造,配置,冷媒流路の最適化 2) 冷媒の R 22 から R 410A への変更 3) 冷媒音の低い除湿弁の開発 除湿運転時には,除湿弁の所で冷媒流を絞ることによる冷媒音が発生する. 従来のルームエアコンディショナでは,室内風量を下げて除湿能力を高めた運 転を除湿運転とするのが主流だったため,除湿弁がなかった.また最近のルー ムエアコンディショナではファンや圧縮機による騒音が低減されてきており,. - 9 -.

(10) 第1章. 序. 論. 除湿弁が加わっても騒音レベルを上げることができない.さらに冷媒が高圧冷 媒の R 410A になることによる冷媒音の増大が予想される.またさらには,除 湿弁における冷媒音には,間欠音等の不快音が発生しやすい.従って騒音レベ ルが低いと同時に不快音の発生しない除湿弁の開発が必須となる. 4) 室温・湿度制御方法の開発 圧縮機やファンの回転数制御が可能になったことにより,再熱器の能力や冷 却器の能力を変えて,吹出空気の温度・湿度を変えることが可能である.従っ て室温や湿度を好みの値に制御する方法を開発することにより,快適性の向上 を図る. (2) スクロール圧縮機使用ガスインジェクションサイクル 省エネルギーおよび高暖房能力の図れる冷凍サイクル的手段の一つとしてガス インジェクションサイクルがある.またインバータ制御圧縮機により,能力を広い 範囲で変えられるようになり,さらに絞り量を広い範囲で変えられる電子膨張弁の 採用により,冷凍サイクルの状態を広い範囲で制御できるようになっている. 本研究では,インバータ制御スクロール圧縮機および電子膨張弁を用いた冷凍サ イクルにガスインジェクションサイクルを適用して,更なる省エネルギーと低外気 温時も含めて暖房能力の増大を図れる冷凍サイクルの開発を目的としている. この場合の開発課題としては以下の項目があり,これらを解決して実用化した. 1) ガスインジェクションサイクルの構成 ガスインジェクションを効率良く,また制御性良く行なえるサイクル構成の 検討が必要である. 2) ガスインジェクションが可能なスクロール圧縮機の開発 スクロール圧縮機は,対称な位置に構成される2つの圧縮室が軸の回転に伴 い外側から中心に向かってその容積を小さくされることにより,圧縮を行う. この圧縮室に有効にガス冷媒を注入する構造を開発する必要がある. 3) ガスインジェクションサイクルの制御方法の開発 制御可能な項目として,圧縮機回転数,電子膨張弁開度,室内・室外ファン 回転数があり,これらの制御により冷凍サイクルをロスの尐ない適切な状態に 制御する方法を開発する必要がある.. - 10 -.

(11) 第1章. 1.4. 序. 論. 従来の研究と本研究の位置付け. ルームエアコンディショナにおいては,地球温暖化ガス削減や商品性向上のため に,省エネルギーと機能向上を図ることが必要である.そこで本研究では,インバ ータ制御圧縮機やDCファンモータ,電子膨張弁,マイコンといった新しい技術を 融合して,新サイクルシステムとしてのサイクル再熱除湿サイクル,ガスインジェ クションサイクルを検討した.ここでルームエアコンディショナにおける除湿機能 やガスインジェクションサイクルの過去の研究を調べ,本研究の位置づけを考察す る. 1.4.1. 除湿機能. ルームエアコンディショナにおける除湿運転は,大きな構造変更なしで十分な除 湿量が取れ,高湿時でも十分湿度を下げて快適性を向上できることから,大切な機 能となっている. こうした除湿機能に対して,以下の三方式が開発されている. (a) 低風量冷房運転 冷房運転において,室内風量を落として除湿能力を上げる方式である.この方 式は,ほとんどコストアップにならずに実現できるが,蒸発器温度の低下により, 吹出空気温度が下がって足元が冷えてしまう. (b) ヒータ再熱除湿 室内機において,蒸発器の風下に電気ヒータを設け,吸込空気を,冷却・除湿 した後ヒータで再加熱して,温度を下げずに湿度を下げて吹き出す方式である. この方式は,コストアップになったり,消費電力が増加する. (c) サイクル再熱除湿 除湿運転時に,室内熱交換器を,絞り機構を介して上流側の再熱器(凝縮器の 一部)と下流側の冷却器(蒸発器)に分け,吸込空気を,冷却器で冷却・除湿し, 再熱器で加熱してから吹き出す方式である.この方式はコストアップを比較的尐 なくして再熱除湿ができ,また再熱能力を大きくできる.本方式は,一定速圧縮 機使用で省エネルギーが厳しくなかった時代に,Ogata ら1)が,ウィンドタイプ のルームエアコンディショナに対して,除湿運転時の絞り機構としてキャピラリ ーチューブを使用し,冷房運転と除湿運転を四方弁で切り換えるサイクル構成を. - 11 -.

(12) 第1章. 序. 論. 開発している. 本研究は,(c)の方式に関するもので,Ogara ら1)のサイクル構成に対して,除湿 運転時の絞りと冷房/除湿の切り換えの両機能を行える低冷媒音の除湿弁を開発し, さらに回転数制御可能なインバータ制御圧縮機やファンを使用して,吹出空気の温 度・湿度を制御できる構成にした. 1.4.2. インジェクションサイクル. インジェクションサイクルには,液インジェクションサイクルとガスインジェク ションサイクルがある. 液インジェクションサイクルは,凝縮器出口の液冷媒を圧縮機内にインジェクシ ョンするもので,省エネルギー効果は尐ないが,圧縮機の過度の温度上昇を防ぐた めの冷却や暖房能力の増大のために使われる.そして近藤ら2)がロータリー圧縮 機使用サイクルに適用した場合の効果について,中村3)がスクロール圧縮機を使 用した寒冷地向けパッケージエアコンディショナに適用した場合の結果について 報告している. これに対してガスインジェクションサイクルは,1.3.1 の(2)の所で述べたように, 絞り装置の所に気液分離器を挟んで 2 個の膨張弁を設けた構成を持つ.そして気液 分離器で分離された中間圧力のガス冷媒を圧縮途中にインジェクションすること により,蒸発器での冷却効果が増大することから冷媒流量を低減でき,同時に低圧 側冷媒流路の圧力損失を小さくでき,これらから省エネルギーあるいは能力増大の 効果が得られる.しかし気液分離器や 2 個の膨張弁が必要なことから,コストアッ プになったり,2 個の膨張弁を協調して制御することが必要でサイクル制御が難し くなることから,これまであまり適用されなかった. またガスインジェクションサイクルの基本的な考えは,エコノマイザサイクル4) とも呼ばれており,冷凍空調分野では以前から知られている.しかし従来のものは, 省エネルギーや高暖房能力のニーズがそれほど高くなく,さらにインバータや電子 膨張弁,マイコンが使用される前のものであった. 以下に,ルームエアコンディショナにおける従来のガスインジェクションサイク ルの研究内容について述べる. ガスインジェクションサイクルは,1980 年頃,冷媒が R 22 で圧縮機が一定速の. - 12 -.

(13) 第1章. 序. 論. 時代に,佐野5)らが,ロータリー圧縮機を用いたガスインジェクションサイクル を,高効率化と高暖房能力化を狙って開発している.また尐し遅れて,渥美ら6) が,スクロール圧縮機を用いた場合で,2 つの圧縮室に 1 個ずつインジェクション ポートを設け,そこから個々の圧縮室にガス冷媒を注入する方式の効果を計算して いる.しかしインバータによって圧縮機の回転数が可変になってからは,ガスイン ジェクションサイクルは使われなくなっていた. 近年,オゾン層保護のために冷媒が R 22 から R 410A に変更され,地球温暖化ガ ス削減のために更なる省エネルギーが必要になっていることから,ガスインジェク ションサイクルが,インバー制御圧縮機と組み合わせることによって更なる高効率 化と能力増大を期待できるとして見直された.そして米田ら7)は,R 410A を使用 したインバータ制御の 2 シリンダロータリー圧縮機を用いて,2 つの圧縮室に 1 個 ずつインジェクションポートを設け,そこから個々の圧縮室にガス冷媒を注入する 方式のガスインジェクションサイクルを開発し,性能を評価している. しかしスクロール圧縮機あるいは 2 シリンダロータリー圧縮機を用いて,2 つの 圧縮室に個々に設けたインジェクションポートからガス冷媒を注入する方式は,構 造が複雑になりコストアップになってしまう. ルームエアコンディショナとしてはコストアップをできるだけ抑えることも重 要であるため,本研究ではスクロール圧縮機を,インジェクションポートを 1 個と し,そこから 2 つの圧縮室にガス冷媒を順次インジェクションする構造とした.さ らにインバータ圧縮機の回転数や 2 個の電子膨張弁の開度をマイコンで適切に制 御することにより,更なる省エネルギーと高暖房能力を実現できるインバータ制御 スクロール圧縮機使用ガスインジェクションサイクルの研究開発を行った. なおガスインジェクションによる省エネルギーや暖房能力増大の効果は,容量の 大きいエアコンほど大きくなる.. - 13 -.

(14) 第1章. 1.5. 序. 論. 本論文の概要. 本論文は3部,10章から構成されている.第1部では,ルームエアコンディシ ョナを対象として,要求される快適性向上とエネルギー消費量の削減という課題を 整理し,最近の技術動向を調査し,技術開発の方向付けを行った. 第2部,第3部では,冷媒が R 22 から R 410A に変更され,更なる省エネルギー が要求されていることから,これらを実現し,さらに快適性を向上できるサイクル システム的な開発技術について述べており,本論文のメインである.このうち第2 部では,最近,冷房や暖房と並んでルームエアコンディショナの基本機能として認 識されている除湿機能に関して,省エネルギーと快適性向上の両方のニーズを実現 したサイクル再熱除湿サイクルについて記載している.第3部では,比較的簡単な 構成で,省エネルギーと高暖房能力を実現したインバータ制御スクロール圧縮機使 用ガスインジェクションサイクルについて記載している. なお近年,ルームエアコンディショナが年間空調機として使われているのは,サ イクル再熱除湿や高暖房能力の寄与が大きい. 以下に各章ごとの概要を述べる. 第1章では,本研究の背景と目的を明らかにすると共に,従来の研究に対する本 研究の位置づけを明確にしている. 第2章では,オゾン層保護や地球温暖化ガス削減に関係した課題と省エネルギー に関する開発技術について整理し,本論文の目指すところを明確にしている. 第3章では,ルームエアコンディショナの本来の目的である快適性向上技術を整 理し,課題と本論文の目指すところを明確にしている. 第4章では,サイクル再熱除湿方式の提案と,使用冷媒が R 22 で省エネルギー がそれほど厳しくない頃の初期の開発技術について述べている. 第5章では,使用冷媒が R 22 から R 410A に変わり,省エネルギーの要求が厳し くなった頃に開発した,省エネルギーと除湿能力をいっそう向上させた高性能サイ クル再熱除湿サイクルの開発内容について述べている.またそのために新しく開発 した冷媒音を低減した二段絞り除湿弁の重要性を明らかにしている. 第6章では,第5章の高性能サイクル再熱除湿サイクルに対して開発した,室温 センサに加えて湿度センサも組み込み,室温・湿度を制御できるようにした除湿運 転制御方法について述べている.. - 14 -.

(15) 第1章. 序. 論. 第7章では,ガスインジェクションサイクルの原理を説明し,R 410A 冷媒を用 いた場合の理想ガスインジェクションサイクルの効果を計算している. 第8章では,1 インジェクションポート形スクロール圧縮機を使用した場合の実 際の圧縮状態を考慮したガスインジェクションサイクルの効果を計算し,さらにこ の圧縮機を試作・搭載したルームエアコンディショナの実験機を製作し,実験的に 効果を検討している. 第9章では,開発した,温度センサと 2 個の電子膨張弁を使ってガスインジェク ションサイクルを制御する方法について述べると共に,この制御方法を第8章のル ームエアコンディショナの実験機に適用して,定格運転や起動・停止,断続運転も 含め,実運転時の制御性能を検討している. 第 10 章は結言であり,本論文で得られた成果を要約し,結論と今後の展望につ いて述べている.. - 15 -.

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