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第1章 序論

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第1章 序論

1.1 本研究の背景

最近の航空機のジェットエンジンやガスタービンなどの軸流機械においては,性能向 上のために,流入速度の高速化や翼列翼の薄翼化がなされており,結果として翼列翼に 作用する流体力の増加や剛性低下が生じ,力学的不安定性が増す傾向にある.つまり,

翼のフラッタ速度が低下して,自励振動現象である翼列フラッタが発生しやすくなると 予想される.一旦翼列フラッタが生じると,翼振動は発散して短時間で翼の破壊に至る ため,翼やターボ機械の設計に際しては,種々の運転条件に対してフラッタを生じさせ ないように,十分なフラッタマージンを取ることが必要である.また,圧縮機速度の高 速化に伴い,翼列翼は亜音速領域のみならず,遷音速あるいは超音速領域で作動するこ とになる.その場合,翼間流路内に衝撃波が形成される場合があり,衝撃波変動,衝撃 波反射及び衝撃波と境界層との干渉など,衝撃波を伴わない亜音速領域とは異なる複雑 な流れ場が存在し,非定常空力特性にも大きな影響を及ぼすことが予想される.このよ うな遷音速領域での作動状態で翼間衝撃波が存在する場合の翼列フラッタ特性について は,十分明らかにされているとは言えないのが現状である.翼列フラッタはターボ機械 にとって重要な問題であり,特に遷音速領域における翼列フラッタ発生現象の解明や,

発生限界に寄与する条件,翼間衝 撃波が翼列フラッタに及ぼす影響 などを明らかにすることは非常に 重要である. 

0.4 0.8 1.2 1.6 2 2.4 2.8 1

2 3 4 5 6

0

Relative Mach Number M Re duc ed Ve loc ity ( V / ω b)

cr

Stable

Stable Unstable

Unstable Operating Line

ζαs = 0.2%

ζαs = 0.1%

No Damping

図 1‑1 超音速軸流ファンのフラッタ発生限界[1]

翼列のフラッタ発生限界速度に ついて,遷音速領域でのフラッタ 発生速度の急激な低下が報告され ている.図 1‑1 は,Kielb ら[1]に よる NASA の試験用超音速単段軸流 ファンについてのパラメトリック スタディの結果を示している.縦

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軸はフラッタ発生無次元限界風速(V/ωb)crを,横軸は流入マッハ数 M を示す.この図で は,翼の反り,厚み,定常負荷は無視されているが,翼列フラッタの基本的性質の概略 を知る上で有用である.彼らは非失速,非粘性の二次元直線翼列について,食い違い角,

弦節比,翼間振動位相差,ねじり軸位置,曲げ捩りの連成効果,構造減衰効果について,

亜音速から超音速にわたり広汎なパラメトリックスタディを行った.それによると,翼 弦中心のねじりモードフラッタの流入マッハ数に対するフラッタ発生無次元限界風速 (V/ωb)crは,亜音速領域では 3 程度で,相対マッハ数が 0.65 程度まではマッハ数増加 に伴い 6 程度まで上昇し,圧縮性の影響はフラッタ発生を遅らせる効果があるが,相対 マッハ数 0.7〜1.1 の遷音速領域では半翼弦長 b で無次元化したフラッタ発生無次元限界 風速は 0.5 程度まで急激に低下しフラッタが発生しやすくなること,そして相対マッハ 数 1.2〜1.6 の超音速領域で(V/ωb)crは 0.5 から 1.0 へ上昇し,それ以上のマッハ数で はほぼ 1.0 付近で変化が少なくなり,そのためこのファンの作動線は亜音速領域ではフ ラッタは発生せず安定であるが,遷音速から超音速領域では不安定となりフラッタが発 生することが報告されている.このフラッタ速度の低下は衝撃波の存在が大きな要因で あろうと述べているが,衝撃波変動がどのようにフラッタ速度を低下させるかについて は明らかにされていない. 

ここで過去の翼列フラッタに関する研究を振り返ってみる. 

 非圧縮領域では,古くから非失速翼列および失速翼列について,実験および理論解析 の両面からフラッタ解析が行われており,たとえば花村ら[2][6],八島ら[3][4],西山 ら[5][7][8],山崎ら[9],Bendiksen ら[10]がある.この場合,部分負荷時など設計で は大きな迎え角で作動することがあり,特に圧縮機翼列では失速フラッタが起こる危険 性がある.翼が失速状態になると,翼列翼のフラッタ速度は著しく低下する.非失速,

失速どちらの場合もねじり軸位置の影響は大きく,ねじり軸が翼後縁側に位置するほど 安定であり,逆に前縁側に位置するほど不安定つまりフラッタが起こりやすい. 

亜音速領域の場合については,古くから多くの解析がなされてきた[11]‑[16].前述 したように,圧縮性は圧縮機翼列のフラッタ速度を高くするつまり安定化させるように 作用する.梶ら[11]は準アクチュエータディスク理論を用い,スペーシングの小さい翼 列を対象に純曲げ振動時の非定常空気力を求め,フラッタ速度に対するマッハ数,定常 転向角,食違い角等の影響を明らかにした.西山ら[12]はポテンシャル理論により,翼

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1

2

/

1 - M

厚とそりを持つ任意翼形からなる翼列で,有限な定常転向角に微小な非定常擾乱が重な る時の流れを解き,サブレゾナンス領域では非定常空気力の絶対値は      に比 例して大きくなり,位相はマッハ数の増加と共に遅れが増大すること,スーパーレゾナ ンス領域では非定常空気力の絶対値,位相とも非圧縮性の場合より小さくなることを示 した.Whitehead[13]は,二次元平板翼列が定常転向角零で作動する場合について,翼の 振動及び入口のガスト状擾乱による非定常空気力と後流渦分布を求め,併せて翼列へ入 射する音波の通過と反射を求める理論を示した.また,数値計算により,ねじりフラッ タに対して圧縮性の影響は大きく,マッハ数の増加につれて最もフラッタを起しやすい ねじり軸位置が翼前縁側へ移動することを示した.この場合,翼列に流入する流速が比 較的低いので,翼振動数は比較的低くても高い無次元振動数が得られるために,任意の 翼間位相差で全翼を振動させる全翼振動時の実験が可能であった.また,作動流体とし て水を用いると,流速をさらに低くすることができるので,翼振動数が低くても高い無 次元振動数範囲まで全翼振動実験を行うことが可能であり,非失速翼列フラッタおよび 失速翼列フラッタ共に,フラッタ発生限界について理論と良く一致する結果が得られて いる(花村ら[2],八島ら[3]). 

 遷・超音速領域における実験的研究について述べてみる.衝撃波が存在する場合は非 圧縮や亜音速領域とは様相が異なる.超音速流入では,通常翼列翼の前縁にバウショッ クが生じるが,それが隣接翼面に達すると,翼振動に伴い衝撃波が翼面上で翼弦方向に 振動し,フラッタ発生に重要な役割を果たすことが報告されている[17].亜音速流入の 場合,翼間流路内で流れは局所的に超音速となって翼間衝撃波が生じるため,翼振動に よる翼間流路面積の変化に伴う流速変化つまり衝撃波位置の変動が起こる.さらに隣接 翼面上に生じる衝撃波の反射を伴う場合や翼面境界層との干渉もあり,流れの様相は一 層複雑になる.このように,遷音速領域では,一般に翼間衝撃波の変動を伴うため,流 れの様相は他の流れ状態に比して非常に複雑となり,さらに衝撃波前後の大きな圧力差 が変動するために,超音速流入の場合と同様に,翼列の非定常空力特性に及ぼす翼間衝 撃波変動の影響は非常に大きいと言える.斎藤ら[18]は平行壁間の遷音速流中に置かれ た二次元対称円弧翼を 50%弦長点まわりに振幅 0.5°でねじり振動させた実験を行い,

翼間距離と翼振動数をパラメータとして,翼に作用する非定常空力モーメントを求めた.

これは食い違い角 0°で互いに 180°の翼間位相差でねじり振動する二次元直線翼列に

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相当する.結論として,翼間距離が小さく翼面上で流れがチョークする遷音速領域では,

非定常空力モーメントが亜音速領域とは著しく異なる不連続変化を示し,翼に働く非定 常空気力は励振力として作用すること,翼上面の衝撃波は迎え角が増すと上流側へ移動 することを述べている.Whitehead ら[19]は 50%弦長点まわりにねじり振動する 16 枚の 翼で構成された環状翼列を用い,流入マッハ数 0.4〜1.2,翼振動数 202Hz,食い違い角 60°の条件で翼間位相差を変えた実験を行った.翼に作用する非定常空力モーメントを 測定し,遷音速領域において翼間位相差 180°で振動する場合,ねじり振動に対して安 定であることを示した.Szechenyi ら[20]は直線翼列における失速フラッタについて流 入 マ ッ ハ 数 0.6 〜 1.1 の 範 囲 で 実 験 的 研 究 を 行 っ た . 小 林 ら [21]‑[24] お よ び Kobayashi[25]‑[28]は,環状翼列風洞を用いた遷音速タービン翼列のねじりモードフラ ッタ及び低背圧時に発生する圧縮機超音速翼列フラッタ(非失速ねじりモード)の実験 を行い,翼面上の衝撃波発生点と隣接翼からの衝撃波反射点の変位が翼列フラッタ特性 に大きな影響を与えることを報告している.また,遷音速環状タービン翼列の曲げモー ドフラッタの場合には,衝撃波変動は翼列フラッタを抑制するように作用すると報告し ている[22][26].さらに,二次元超音速ファン実験の曲げモードフラッタにおいても,

衝撃波変動は正減衰力となることを示している[27].Shaw ら[29],Buffum ら[30]は biconvex 翼を用いた直線翼列についてねじりモードの実験を行い,翼間振動位相差が翼 背面非定常圧力分布に大きな影響を与えることを示した.Boldman ら[31]は直線翼列を 用い,遷音速失速フラッタについて実験をおこなった.Fleeter ら[32]は振動翼列の非 定常空気力を実験的に調べた.これらは全翼振動時のフラッタ発生限界を種々のパラメ ータ(翼間振動位相差,無次元振動数,マッハ数)に対して調べているものである. 

これらの実験で用いられた実験手法は,全翼を任意の翼間位相差を持たせて同時に強 制振動させる手法で,全翼振動法と呼ばれる.これに対し,強制振動法の一種であるが,

翼列中 1 枚の翼のみを強制振動させ,それによって翼列を構成する各翼に誘起される非 定常空気力を求めておき,それらを任意の翼間位相差を持たせて線形的に重ね合わせる ことによって,全翼が同時に任意の翼間位相差で振動している場合に相当する非定常空 気力を求める手法を一翼振動法[6]という.この方法では各翼の影響係数が得られるので,

均一な翼列のフラッタ特性を求めるだけでなく,翼列の不均一化(ミスチューニング)

によるフラッタ抑制に関する計算も可能であり,設計者にとって非常に有用な情報を与

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えることができる.花村ら[33][34]は一翼振動法を用いて遷音速タービン翼列について 実験を行い,一翼振動時に各翼に作用する非定常空気力を求めている.この中で一翼の みのフラッタは生じないことを報告している.Schlaefli[35]はタービン翼列で亜音速と 超音速流出条件の双方において,1 次曲げモードの実験を行い,一翼振動実験で得られ た 7 枚の翼の合成結果と 20 枚の翼で構成される環状翼列での全翼振動実験結果とが同等 であることを示している.Fransson[36]は亜音速から超音速までの流出条件で 1 次曲げ モードにおける蒸気タービン翼列実験を行い,着目翼の翼背腹面へ他の翼が及ぼす影響 を調べ,着目翼自身の空力的寄与は安定であっても,翼間位相差によっては隣接翼の影 響により不安定となってフラッタ発生の可能性があること,前縁の垂直衝撃波と翼背面 の垂直あるいは斜め衝撃波の影響により翼列が不安定になることなどを報告している.

Frey ら[37]は圧縮機動翼列実験を行い,振動振幅の増加と定常負荷の増加は非定常圧力 の大きさを減少させ翼弦方向の位相差を増加させるため全翼振動時の非定常圧力に大き な影響を持つこと,振動振幅が大きくなると非線形性が生じることなどを報告している. 

遷・超音速領域における翼列フラッタに関する研究は,以上のようになされてきている が,遷音速圧縮機翼列のねじりモードフラッタについて,翼間衝撃波変動がフラッタ特 性に及ぼす影響は明らかにされていない.さらに,フラッタに及ぼす種々のパラメトリ ックな実験的研究において,特に衝撃波の挙動つまり翼間衝撃波変動特性に言及したも のはごく僅かである.その中で,小林ら[23]及び Kobayashi[26]は衝撃波変位効果の大 きさを測定し,その効果が周波数のみならず翼間振動位相差にも強く依存することを見 いだしている.Shiratori ら[38]は平行壁間遷音速流中でピッチング振動する対称二重 円弧翼について,背圧比を変えて翼上下面の衝撃波位置変動,翼面非定常圧,50%弦長 点まわりの非定常空力モーメントを測定し,衝撃波変動は空力的に不安定要因となるこ とを報告している.Hirano ら[39]は遷音速圧縮機翼列において一翼振動時に各翼に誘起 される非定常翼面圧力を測定し,衝撃波変動が及ぼす影響について言及している.これ らの研究では,翼振動数つまり無次元振動数が低い場合が多く,高い無次元振動数範囲 における研究はほとんどなされていない. 

 CFD による計算結果[40]によれば,衝撃波発生点変位による非定常空気力が軽負荷翼 列の前後縁マッハ波反射点変位による非定常空気力と同様,全非定常空気力の大きな割 合を占めることが示されているが,計算例も少なく一般的傾向は明らかにされていない. 

(6)

 衝撃波挙動を捉えたものとしては,山本ら[41]の衝撃波の自励振動(平行壁間に置か れた対称二重円弧翼)に関する実験及び CFD による研究があり,層流及び乱流境界層と 衝撃波との干渉について明らかにしている.Gallus ら[42]は単独翼及び一翼振動時の翼 列における衝撃波と境界層の干渉について実験的研究を行い,翼列においては単独翼よ りも大きな衝撃波変位があることや,振動翼背面の衝撃波変動と下流側に位置する静止 翼背面の衝撃波変動には約 180°の位相差があり,静止翼背面の衝撃波変動振幅の方が 小さいことを明らかにしている.He[43]は CFD により遷音速領域において翼間衝撃波を 伴う対称二重円弧翼列のねじり振動時の流れを計算し,85%翼弦長付近に強い垂直衝撃 波が生じる場合衝撃波変動は狭い範囲内に収まり上流側の圧力変動はほぼ同位相である こと,弱い衝撃波によってスロート付近に超音速バブルが存在する場合,衝撃波はスロ ートを通過して亜音速領域内に加速されながら上流へ移動し前縁付近で圧縮波となり消 滅するという非線形過程を示すことを報告している.

 

1.2 一翼振動法について 

 本研究では一翼振動法を用いて遷音速圧縮機翼列のフラッタ特性を解析する.ここで は一翼振動法の概略と一翼振動法を用いる理由を述べる. 

翼列フラッタを実験的に解析する場合,大別して自由振動法と強制振動法という 2 種 類の実験方法がある. 

まず自由振動法について述べると,自由振動法では,翼列翼は弾性支持されており,

風速を増加させていき,全翼が振動し始めるときの風速をフラッタ速度として求める方 法である.この方法では,フラッタ発生限界とフラッタ発生時の隣接翼間位相差につい ては求まるが,それ以外の情報については知ることができない. 

次に強制振動法について述べる.強制振動法では翼を機械的に強制振動させ,着目翼 の非定常空気力を求めてフラッタ解析を行う方法であり,任意の翼間位相差や無次元振 動数を与えることができるので,フラッタ発生点以外での広範な非定常空力特性を得る ことが可能である.しかし,任意の翼間位相差を持たせて多数の翼を同一振幅で振動さ せる装置は,複雑なものとなる.このような装置は,非圧縮領域では流速が遅いので,

広範な無次元振動数の範囲で有効であるが,亜音速領域や遷音速,超音速領域のような 圧縮性領域では気流速度が非常に大きく,ある程度高い無次元振動数の範囲の実験を行

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うためには振動数を非常に高くすることが必要となるので,技術的に非常に困難となる.

それに対し,強制振動法の一種である一翼振動法は,各翼の振動振幅が非常に小さい場 合には,翼列としての非定常空気力は各翼の振動振幅に関して線形的に分離できるとし て,翼列中一枚の翼のみを振動させた時に,振動翼と他の静止翼に誘起される非定常空 気力を測定しておき,これらに適当な翼間位相差を与えて線形的に重ね合わせることで,

任意の翼間位相差における全翼振動時の非定常空気力を求める方法である.そのため,

実験では一枚の翼を振動させるだけでよく,実験装置は構造的に簡単となり,高振動数 での実験が可能となる.また,一翼振動時に各翼に誘起される非定常空気力を求めてお けば,ミスチュ−ニングによるフラッタ抑制効果の検証などに応用ができることも特徴 の一つである. 

一翼振動法は,翼が微小振動することを仮定して,個々の翼の影響を線形的に重ね合 わせることにより全翼振動の影響を求めることができるとする方法である.圧縮性や衝 撃波が存在する非線形な流れ場での線形重ね合わせの妥当性については理論的には現在 のところ十分明らかではないが,Crawley ら[44]はミスチューニングによるフラッタ抑 制に関する研究で,空力弾性的定式化は,全翼振動時の擾乱伝播モードとしての定式化 と影響係数(一翼振動法)を用いた定式化が数学的に同一であることを示している.ま た,実験的には,花村ら[6]は非圧縮領域で一翼振動法による全翼振動時の見積りが十分 有効であることを示しており,また,Schlaefli[35]は,タービン翼列で亜音速と超音速 流出条件の双方において,1 次曲げモードで中央の翼 1 枚が振動するときの 7 枚の翼の 影響を合成した場合,20 枚の翼で構成される環状翼列で得られたデータと同じ結果が得 られたことを示している.さらに,Fransson[36]は上記の実験的検証に基づき遷・超音速 領域での 1 次曲げモードのタービン翼列実験を行い一翼振動法により各翼の影響を明ら かにし,線形重ね合わせによる全翼振動時の安定性の見積りを行っている.Frey ら[37]

も一枚の翼をねじり振動させて圧縮機翼列実験を行い,一翼振動法による線形重ね合わ せから全翼振動に相当する非定常空気力を求め,安定性を議論している.  

このように圧縮性や衝撃波が存在する場合についても,一翼振動法による解析は少な くとも翼振動振幅が微小であることを前提とする限り有効であると考えられることから,

本研究では,一翼振動法を用いた遷音速圧縮機翼列の実験的解析を行うこととした.一 翼振動法の具体的な手法については付録 A‑1 に記す. 

   

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1.3 本研究の目的 

 1.1 節で述べたように,実験及び数値解析両面から翼列フラッタに関する研究が進め られており,翼間振動位相差やマッハ数,無次元振動数等の影響,翼の定常負荷効果,

圧縮性の影響,衝撃波の及ぼす影響等が明らかにされつつあるが,特に衝撃波挙動が遷 音速翼列のねじりモードフラッタ特性に及ぼす影響について詳細に言及したものは少な く,また,高い無次元振動数の範囲の実験的研究も非常に少ないのが現状である. 

 本研究では,遷音速圧縮機翼列の非定常空力特性を実験的に調べ,特に翼間衝撃波が 及ぼす影響について明らかにすることを目的としている.そのために,まず実験装置と 計測システムを開発し,一翼振動実験を行う.その上で一翼振動法による線形重ね合わ せを行い,全翼振動時の非定常空力特性について調べる.さらに,非圧縮領域および亜 音速領域の結果と遷音速領域での結果を比較することにより,翼間衝撃波の及ぼす影響 を抽出することを試みる.以下に研究遂行について具体的に記す. 

(1) 遷音速圧縮機翼列のねじりモードフラッタ特性を実験的に明らかにするために必要 な実験装置の製作と構築および非定常計測システムの開発を行う. 

(2) 一翼振動の実験を実施し,それに基づいて,翼間衝撃波を伴う遷音速圧縮機翼列の フラッタ特性を解析する. 

最初の(1)については,遷音速直線翼列のねじりモードの振動実験を行うために必要な 実験装置(遷音速風洞,圧力測定翼,高速ねじり加振装置)を製作および設置し,性能 を確認することが目的である.また,非定常計測システムとして,非定常翼面圧力計測 および高速画像撮影システムを開発し,性能確認を行うことが目的である.以下に計測 システムについて具体的な計測方法を述べる. 

(1‑1) 遷音速領域では高振動数の範囲まで実験を行う必要があるので,高振動数でねじ り振動する翼の振動一周期中に,翼振動の位相に同期して連続した非定常翼面圧 力計測を行う計測方法を提案する. 

(1‑2) 衝撃波変動撮影を行う場合,翼振動数が高くなると,非常に高速な撮影装置が必 要になる.そこで,多周期にわたる撮影を行い,撮影時の位相を考慮して並べ替 えることにより翼振動1周期中の連続画像を構成する方法を用いて,高速撮影シ ステムを開発する. 

次に,(2)について述べる.本実験では一翼振動法を利用したフラッタ解析を行う.そ こで,上記のシステムを用いて,高振動数の範囲まで一翼振動時の非定常翼面圧力測定

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以下に述べる. 

(2‑1)非圧縮領域,亜音速領域および遷音速領域において,翼列中一翼のみが振動する 場合における各翼の非定常翼面圧力を測定し,各領域における一翼振動時の各翼の非定 常空力特性を明らかにする.また,衝撃波変動が非定常空力特性に及ぼす影響について 明らかにする. 

(2‑2)一翼振動時の翼間流路内の衝撃波変動特性を明らかにする. 

(2‑3) 一翼振動法で求めた各翼の非定常空気力を線形重ね合わせすることにより全翼振 動時のフラッタの見積を行い,翼列フラッタ特性を調べる.また,衝撃波変動が及ぼす フラッタへの影響について考察する. 

1.4 本研究の概要 

 本論文は 6 章で構成されている.第 2 章と第 3 章で実験装置および計測システムに関 して述べ,第 4 章で一翼振動時の測定結果,第 5 章で全翼振動時の非定常空力特性につ いて述べる.第 6 章は結言である.以下にこれらの概要を述べる. 

第 1 章では,本研究の背景として,ジェットエンジンやガスタービンなどの軸流機械 の性能向上に伴い翼列フラッタ発生の危険性が増大していること,遷音速領域ではフラ ッタ発生速度が低下すること,および遷音速領域では翼間衝撃波の変動が翼列フラッタ 特性に大きな影響を及ぼすことから,遷音速領域におけるフラッタ解析の必要性がある ことを述べる.また,本研究で用いた一翼振動法に関して概説し,研究目的について述 べる. 

 第 2 章では,遷音速圧縮機翼列のねじりモードの非定常空力特性を明らかにし,フラ ッタ特性を解析することを目的として製作した遷音速風洞,高速ねじり加振装置,圧力 測定翼等の実験設備及び装置について述べる. 

第 3 章では,一翼振動時に翼の高振動数範囲まで計測可能な計測システムを開発した 内容について述べる.一つは非定常翼面圧力計測システムであり,500Hz の翼振動数範 囲まで計測可能である.もう一つは翼間衝撃波変動特性を解析するために開発した高速 画像撮影システムである.これらのシステムの概要と性能,および計測例について述べ る. 

第 4 章では,一翼振動時の測定結果について述べる.各翼の非定常空力特性を,非圧

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に及ぼす影響について述べる.また,一翼振動時の翼間衝撃波変動特性について調べた 結果を述べる. 

第 5 章では,全翼振動時の非定常空力特性を,非圧縮領域,亜音速領域および遷音速 領域について述べる.さらに,非定常空力特性に及ぼす翼間衝撃波の影響について言及 する. 

第 6 章は結論である.

 

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