製造業景況は悪化。中国政府の金融危機準備に警戒
2018年11月の中国の製造業購買担当者指数(製造業PMI)は、国家統計局の製 造業PMIが前月比▲0.2ポイントの50.0と3ヵ月連続で低下、景況分岐点に至った。
企業規模別では、小型企業が同▲0.6ポイントの49.2と低下し2ヵ月連続で50割れ、
中型企業が同+1.4ポイントの49.1と上向くも3ヵ月連続で50を下回った。大企業は同
▲1.0ポイントの50.6と低下幅が大きく、全体を押し下げた。なお、経済メディアの財 新の製造業PMIは12/3に公表予定。
製造業PMIに対する国家統計局のコメントでは、景況感の悪化を示す指標である が、厳しい指摘をできるだけ控えているようだ。「生産は安定的で、需要は緩やかに 低下している。多くの業種が景況分岐点の50を上回っている」と指摘した。一方、貿 易に関しては、「新規輸出受注と輸入は50割れの状況が続いている。世界景気の 減速や貿易摩擦の不確定さが貿易圧力を強めている」と厳しい状況を示した。中国 は景気の先行き不安が強まっているため、米中貿易摩擦問題の早期解決を図る必 要があるが、長期戦の可能性が高く、製造業景況感の改善は難しいと考えられる。
11月の製造業PMIは 50.0と景況分岐点に
低下。企業マインド の 低下に 歯止め が かからない動き
11月の製造業PMIは前月比▲0.2ポイントの50.0と分岐点へ低下。10月の生産在庫バランス
は悪化し、利益も大幅鈍化。民間企業は融資難から投資意欲の低下に問題が深刻化へ。
12/1予定の米中首脳会談は一時的な制裁関税の保留があっても中国の知的財産権の侵害
や「中国製造2025」の補助金等の問題は解決難。政府の金融危機の準備には警戒が必要。
マーケット・フォーカス
経済:中国
投資情報部 シニアエコノミスト 吉川 健治
2018/ 11/30
44 46 48 50 52 54 56
14 15 16 17 18 (年)
中国の製造業PMIと企業規模別PMI
(月次:2014/1~2018/11)
国家統計局製造業PMI うち、大企業PMI うち、中型企業PMI うち、小型企業PMI 財新製造業PMI
[景気拡大・後退の分岐点50]
(注)財新製造業PMIは2018年10月まで
出所:中国国家統計局資料、マークイット資料、ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
10月の生産在庫バランスは▲0.3ポイントとマイナスに転換、5ヵ月連続で低下し た。5月以降、鉱工業生産が緩やかに鈍化するも、在庫は増加基調にあるため、今 後も生産調整が続くことを示している。
一方、工業企業利益は10月単月が前年同月比+3.6%(2018年ピークの4月:同 +21.9%)と大幅に鈍化、5ヵ月連続で伸びが低下した。10月も主要業務収入の鈍化 やコスト高により利益鈍化の動きに変化はない。
最も裾野の広い産業である自動車の販売動向(P3を参照のこと)をみると、10月 の国内新車販売台数は前年同月比▲12.7%と減少幅が拡大、5ヵ月連続で減少し、
工業企業業績に影響を及ぼしていると推定される。1~10月累計の工業全体の増 益率(P3を参照のこと)は前年同期比+13.6%と鈍化ながらも+10%台を維持している が、主な業種別増減益率をみると、特に自動車、電気機械やコンピュータ・通信・設 備機械等の加工産業は低調な動きが続いている。
生産在庫バランスと 企業利益は悪化。裾 野の 広い 自動車業 界の不振が継続
▲6
▲4
▲2 0 2 4 6 8
▲10 0 10 20 30 40
11 12 13 14 15 16 17 18
(%) (%)
(年)
中国の工業企業の売上高・利益と物価
(月次:2011/1~2018/10)
利益総額の増減率(左目盛)
主要業務収入の増減率(左目盛)
生産者物価PPI(右目盛)
(注)主要業務収入と利益総額は年初来の前年同期比 生産者物価PPIは前年同月比
出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成 右目盛のゼロ
▲ 5 0 5 10
16 17 18
(%)
(ポイント)
(年)
中国の生産在庫バランス
(月次:2016/1~2018/10)
生産在庫バランス 生産
在庫
(注)生産と在庫は前年同月比、1~2月は累計の前年同期比
生産在庫バランス=工業生産伸び率-在庫伸び率(生産者物価PPIで実質化)
出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成
46 48 50 52 54 56
14 15 16 17 18
中国の製造業PMIの構成別指数
(月次:2014/1~2018/11)
生産 新規受注 サプライヤー納期 原材料在庫 雇用
出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成
(年)
[景気拡大・後退の 分岐点50]
40 45 50 55 60 65 70
14 15 16 17 18
中国の製造業PMI(その他指数)
(月次:2014/1~2018/11)
原材料購買価格 購入量 新規輸出受注 輸入 製品在庫
出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成
(年)
[景気拡大・後退の分岐点50]
国務院金融安定発展委員会弁公室第1監督チームが11/5~9に31省市自治区 のなかで経済規模が最大の広東省の民間企業(雇用数:3,000万人)等を視察し た。中国経済の主要な主体である民間企業(国内総生産GDPの60%超で都市部就 業者の80%超を占める)への支援が重要であるからだ。10/21に新華社通信が「習近 平国家主席が『民間企業の発展を支援することは、党中央委員会の一貫した政策 である』と表明した」ことを報道。中国人民銀行は2018年に入り3回の預金準備率引 き下げを実施し、10/26には「経営は良好も一時的に資金繰り難にある企業に対し て、銀行には短兵急な貸しはがしや融資拒絶をしないこと」を要請していた。
今回、中国人民銀行の劉国強副総裁が国務院金融安定発展委員会弁公室第1 監督チーム長として視察し、「現実に景気下押し圧力が大きい状況にあるなか、最 も重要な問題は民間企業の信頼感(マインド)が低下すること」との意味深い発言が 注目される。金融当局はこれまで民間企業の融資難・融資コスト高を問題として、相 次いで対策を図ってきたが、最近では民間企業の投資意欲の低下を懸念し始めて いる。まさしく、流動性のわな(貨幣供給を増やしても、新たな融資や投資に資金が 回らない)の兆しが示現しているようだ。固定資産投資の動きをみると、1~10月累 計ではインフラ投資や民間投資を中心に前年同期比+5.7%と伸び鈍化に歯止めの 兆しがみられるが、最近の不動産市場の変調や民間投資の先行き不安により予断 は許されない。
中国人民銀行副総 裁が景気下押し圧力 が大きいなか、重要 問題は民間企業のマ インド低下と発言
100 150 200 250 300 350 400
▲ 20
▲ 10 0 10 20 30
12 13 14 15 16 17 18
(%) (万台)
(年)
見かけ国内新車販売台数(右目盛)
同伸び率(左目盛)
自動車販売額伸び率(左目盛)
(注)前年同月比、毎年1~2月は累計の前年同期比。国内の新車登録台数は未発表のため、見か け国内新車販売を「国内製造分の販売[輸出含む]-輸出+輸入」の計算式より みずほ証券試算 出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成
2017年:2,912万台(前年比+ 3.3%)
2018年1~10月累計:2,273万台
(前年同期比▲1.6%)
13.6 10.7
370.6
22.1 10.4 63.7
▲20.1 8.8
▲5.4
2.5 2.8
▲ 100 0 100 200 300
400 16年増減益率
17年増減益率 18年増減益率
(注)前年比、2018年は1~10月累計の前年同期比。石油は16年の損益が▲567億人民元、17年が392億人民元 出所:中国国家統計局資料よりみずほ証券作成
0 5 10 15 20 25 30
(%)
(年)
中国の固定資産投資と内訳
(月次:2013/1~2018/10)
固定資産投資 うち、国有企業 うち、民間投資 うち、インフラ投資 うち、不動産開発投資
政府目標
2018年は未設定 不動産投資
民間投資
国有企業 インフラ投資
(注)毎年1月から累計の前年同期比、インフラ投資は2014年4月から(2014年12月は未公表) 出所:中国国家統計局資料、CEICデータよりみずほ証券作成
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
固定資産投資の減速が強まるなか、投資全体の56%(17年)を占める民間投資が 減速すれば、景気減速が一層強まるという悪循環に陥る可能性が高い。10/31の習 近平国家主席主催の党中央政治局会議では、「景気下振れ圧力がいくらか強まっ ており、企業のなかの一部には、経営上の困難が比較的多い。長期間に蓄積され 隠れていたリスクがいくらか具現化している。予見性を強めて適宜対応策を行う」と 指摘していた。さらに、11/27には、金融当局は「(金融)システム上の重要な金融機 関の監督管理を整備する指導通知」を発表し、金融システムリスクの防止への取り 組みを強化する方針を打ち出した。総資産(簿外資産を含む)の4分の3以上を占め る銀行30行、証券10社、保険10社を指定した。景気減速の先行き懸念と巨額な債 務・金融リスク問題を背景に金融危機が発生した場合に備えた中国政府の動きが 始まったことを示しているようだ。しかし、シャドーバンクの規模が大きくなり、投融資 の資金ルートがつかみにくい問題を抱えているため、中国政府の今後の対応策が 十分に発揮できるのか、懸念される。
また、12/1予定の米中首脳会談に注目が集まるが、米国メディアが11/29に「貿 易問題を協議する新たな枠組み設置を検討」と報道。トランプ米政権は同日に「中 国と何らかの合意に近づいているが、私がそうしたいか分からない」と記者団に発 言。対中強硬派の急先鋒であるナバロ大統領補佐官も会談に出席するとの報道も ある。貿易戦争の本質と言われる中国の知的財産権の侵害、技術の強制移転や次 世代ハイテク産業計画の「中国製造2025」向けの政府補助金等の問題は解決の道 は程遠い状況だ。制裁関税の一時的な保留があっても、根本的な解決にならない ため、中国の景気減速と金融危機リスクの先行き不安は払しょくし難い。
2019年は習近平政権が内政と外交の内外政策で重要な岐路に直面し、世界経 済金融に大きな影響を及ぼすため、一層留意が必要だ。中国が金融システム危機 に備える動きがあるため、世界の市場関係者も警戒を強める必要があろう。
米中首脳会談で早期 の問題解決難。最近 では金融当局が金融 危機への対応準備を 示す通知を公表。今 後警戒が必要だ
6.00
6.25
6.50
6.75
7.00
7.25 2000
2500 3000 3500 4000 4500 5000 5500
(1ドル=人民元)
(ポイント)
(年)
人民元対ドルレートと上海総合指数
(日次:2015/1/1~2018/11/29)
上海総合指数(左目盛)
人民元対ドルレート(右逆目盛)
出所:ブルームバーグのデータよりみずほ証券作成 2015/8/11
[人民元切り下げ] 2018/3/22~
[米中通商衝突]
人民元高
上線:2655.66(2016/1/28)
下線:2500 (上下線は左目盛)
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