博 士(農 学) 西向 めぐみ 学位 論文題 名
脂質成分の消化・吸収機序における 食事性レシチンの役割に関する研究
学位論文内容の要旨
栄養素として摂取する脂質のうち、最も多いのは中性脂質(以下、TG)であるが、生 体膜の構成成分として、あらゆる食品に含まれているレシチン(ホスファチジルコリン、
以下PC)も重要 な脂質である。摂取量は全脂質摂取量のうち5%程度であるが、その量 はTGの次に多く、まだ、両親媒性の性質を持っため様々な加工食品に主に乳化剤として 使用されている。胆汁中のPCが、小腸での脂質の消化吸収に、重要な役割を果たしてい ることは以前から知られていた。私どものこれまでの研究で、大豆PCを添加した脂質の 摂取は、無添加の脂質に比ベ、血中の脂質濃度を上昇させること、また、胃排出遅延作用 のある ことを見い だした。しかし、食品として添加、摂取されたPCではTGの吸収は上 昇しないという報告もあり、その消化・吸収の過程、消化管への影響は不明な部分が多い。
そこで本研究では、まず、リンパカニュレーションラッ卜を用い、血中で見られた脂質濃 度上昇がルンパ吸収の増加によるものかを調べた。結果、大豆PC含有脂質はりンパヘの TG放出を促進することが確認された。これをふまえ、脂質成分の消化・吸収機序におけ る、食事性PCの役割を解明することを目的として研究を行い、以下のような結果を得た。
なお、 レシチンとTGの混合比については、脂質吸収促進作用がレシチン:TG〓1:3の とき最も高いという結果を過去に得ており、一連の実験にはこの比率を用いている。また、
比較対照としてのTGには大豆油を用いた。
1・ 竺2Z!恋二 ユレー乏ヨ2霊2ヒ童目! !とュ太亘PCに よるTGQリ2Z!吸躯促進c佐 凪点
TG消 化の段階へ のPCの影響を検 討した。粒 度分布測定装置によるェマルジョン状 態の解析、また、ラット胆膵液による人工消化実験の結果、PC含有脂質の方がェマル ジョン粒子サイズは大きくなり、消化性が悪いという結果を得た。予め消化分解済みの 脂質の投与においても、未消化物投与の結果と差異はなかった。以上よりPC含有脂質 に よ るり ン パヘ のTG放 出 促進 作 用は 、「消化」 の段階では ないことが 示された。
次に、カイ口ミク口ン形成におけるPCの影響を調べた。カイ口ミ夕口ン合成阻害剤 を用い、TGのりンパ放出を阻害した系での実験を行ったところ、小腸粘膜上皮細胞に 蓄積した脂質量にPC含有の有無による差は認められなかった(脂肪染色を行った小腸 細胞の視覚的な差異も認められなかった)。また、小腸管腔内に残存した脂質量にも差 は無かった。これらの結果は、吸収細胞への脂質の取り込みにも差がないことを示し、
PCによるりンバヘのTG放出促進は、カイ口ミク口ン形成の段階にある可能性が高い ことが示された。
2.脂質吸躯促進佐周t三対立歪太豆PCの蛙異性
大 豆由 来以 外のPCとし て、卵黄PCで置き換えた時にもりンバへのTG放出促進作 用が認められた。また、PCだけではなく、本来食品中に存在する状態であるホスファ チジル工夕/一ルアミン等との混合レシチンでも同様の作用が見られた。これらの結果 よ り、TG放 出促 進作用 はレ シチ ン全 般に認 めら れる 作用 である こと が示 された 。
3.リヨ釜2ユg二ヒョZエ口ール塑吸躯全堕PC金査脂質堕影響
抗酸化作用を持っりコベン、a−トコフ工口ール吸収に対するPC添加の影響を調べ た結果、リコペンとTGのりンバ放出は促進され、逆に、d−トコフェ口一ルは阻害さ れた。この結果により、TGのりンバ放出が促進されている状態で、他の脂溶性成分の りンパ放出が、必ずしも促進されるものではないことが示された。この違いは、PCと 脂溶性成分の親和性の相違によるPCミセルからの解離のし易さの違いによる可能性が 考え られる 。ま た、 リコペ ン吸 収促進作用は、大豆PCが卵黄PC比べ強かった。これ は、PCの 作 用 は結 合し ている 脂肪 酸の 種類 によっ て異 なる こと を示し てい る。
4.太亘PCの冒排出担よ墜擾食仝Q影饗
こ こでは大豆PC含有脂質の摂取による胃排出抑制にCCKが関与するか、また、これ に関して、PCは摂食抑制効果を持つのかを調べた。PC含有脂質摂取後のラット胃内食 餌成分分析および脂質経腸投与時の胃排出マーカ一測定より、大豆PC含有脂質投与は 胃排出を遅延させることが確認された。この遅延は、CCK―Aレセプターアンタゴニス トであるデバゼバイドの投与により大部分が解除された。さらに、PC添加による摂食 抑制効果も見られ、この効果もデバゼパイドによる投与で大部分が解除された。これに よ り、大豆PC含有脂質投与による胃排出遅延、摂食抑制にはCCKが関与しているこ とが明らかになった。
以上のように、PCの食事への補給は、中性脂質の消化吸収にはもちろん、他の脂溶性 成分の消化吸収に影響を及ぽし、その作用は脂溶性成分の種類によっても異なることを示 ―1397―
した。さらに、胃排出、摂食にまで大きな影響を及ぼすことを示し、この機序にはCCK が関与することを明らかにした。この結果は、PCを含むレシチンの新たな利用方法につ ながると考える。
―1398―
学位 論文審 査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
原 川端 園山 石塚
学 位 論 文 題 名
博 潤 慶 敏
脂質 成分の 消化・吸 収機序における 食事性レ シチン の役割に 関する研究
本 論 文 は 、92頁 か ら な る 和 論 文 で あ り 、 図21と 表9を 含 み 、 参 考 論 文3編 が 添 え ら れ て い る 。
栄 養 素 と し て 摂 取 す る 脂 質 の う ち 、 最 も 多 い の は 中 性 脂 質 ( 以 下 、TG)で あ る が 、 生 体 膜 の 構 成 成 分 と し て 、 あ ら ゆ る 食 品 に 含 ま れ て い る レ シ チ ン ( ホ ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン 、 以 下PC)も 重 要 な 脂 質 で あ る 。 摂 取 量 は 全 脂 質 摂 取 量 の う ち5% 程 度 で あ る が 、 そ の 量 はTG の 次 に 多 く 、 ま た 、 両 親 媒 性 の 性 質 を 持 っ た め 様 々 な 加 工 食 品 に 主 に 乳 化 剤 と し て 使 用 さ れ て い る 。 胆 汁 中 のPCが 、 小 腸 で の 脂 質 の 消 化 吸 収 に 、 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と は 以 前 か ら 知 ら れ て い た 。 し か し 、 食 品 と し て 添 加 、 摂 取 さ れ たPCの 消 化 ・ 吸 収 の 過 程 、 消 化 管 へ の 影 響 は 不 明 な 部 分 が 多 い 。 そ こ で 本 研 究 で は ま ず 、 リ ン パ カ ニ ュ レ ー シ ョ ン ラ ッ ト を 用 い 、TGの り ン パ 吸 収 へ のPCの 影 響 を 調 べ 、 大 豆PC含 有 脂 質 は り ン パ ー のTG放 出 を 促 進 す る こ と を 見 い だ し た 。 こ れ を ふ ま え 、 脂 質 成 分 の 消 化 ・ 吸 収 機 序 に お け る 、 食 事 性PCの 役 割 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 研 究 を 行 い 、 さ ら に 、 胃 排 出 速 度 な ど の 消 化 管 機 能 へ の 影 響 を 調 べ 、 以 下 の よ う な 結 果 を 得 て い る 。
1. リ ン パ カ 三 三 ヒ ニ2里Z乏Zと 望 恩 ! 】 望 ユ 大 豆PC (三 圭 塁 亜 の り ン パ 吸 収 促 進Q佐 恩 点
TG消 化 の 段 階 へ のPCの 影 響 を 、 粒 度 分 布 測 定 装 置 に よ る エ マ ル ジ ョ ン 状 態 の 解 析 、 ま た 、 ラ ッ ト 胆 膵 液 に よ る 人 工 消 化 実 験 に て 検 討 し た と こ ろ 、PC含 有 脂 質 の 方 が エ マ ル ジ ョ ン 粒 子 サ イ ズ は 大 き く な り 、 消 化 性 が 悪 い と い う 結 果 を 得 た 。 ま た 、 予 め 消 化 分 解 済 み の 脂 質 の 投 与 に 韜 い て も 、TGの り ン パ 吸 収 は 同 様 に 促 進 さ れ た 。 以 上 よ り 、PC含 有
脂質によるりンパへのTG放出促進作用は、「消化」の段階ではないことを示した。
次に、カイロミクロン合成阻害剤を用い、TGのりンパ放出を阻害した結果、小腸粘膜 上皮細胞に蓄積した脂質量にPC含有の有無による差は認められなかった。また、小腸管 腔内に残存した脂質量にも差は認められなかった。以上より、PCによるりンパヘのTG放 出促 進は、 消化 段階 では なく、 カイ ロミ クロン形成の段階にある可能性が高い。
2,!旨質噬盤怨進佐履に対する大豆PCの盤墨性
大豆由来以外のPCとして、卵黄PCで置き換えた時にもりンパへのTG放出促進作用が 認められた。また、PCだけではなく、本来食品中に存在する状態であるホスファチジル エタノールアミン等との混合レシチンでも同様の作用が見られた。これらの結果より、
TG放出促進作用はレシチン全般に認められる作用である。
3.リコ釜Zユ垈二ヒ三71里ニ坐堕吸収全堕匹盒査脂質堕髮饗
抗酸化作用を持っりコベン、a−トコフ壬ロール吸収に対するPC添加の影響を調べた 結果、リコペンとTGのりンパ放出は促進され、逆に、Q―トコフェロールは阻害された。
この結果により、TGのりンパ放出が促進されている状態で、他の脂溶性成分のりンパ放 出が、必ずしも促進されるものではないことを示した。この違いは、PCと脂溶性成分の 親和性の相違によるPCミセルからの解離のし易さの違いによって生じる可能性が高い。
また、リコペン吸収促進作用は、大豆PCが卵黄PC比べ強く、PCの作用は結合している 脂肪酸の種類によって異なる。
4.大豆匹Q買盤出韮よび擾食全Q髪饗
PC含有脂質摂取後のラット胃内食餌成分分析および脂質経腸投与時の胃排出マーカー測 定より、大豆PC含有脂質投与は胃排出を遅延させることを確認した。この遅延は、CCK−A レセプターアンタゴニストであるデバゼパイドの投与により大部分が解除された。さら に、PC添加による摂食抑制効果も見られ、この効果もデバゼパイドによる投与で大部分 が解除された。これにより、大豆PC含有脂質投与による胃排出遅延、摂食抑制にはCCK が関与している。
本論文は、PCの食事への補給は、中性脂質の吸収とともに、脂溶性成分の消化吸収に影 響を及ばし、さらに、胃排出、摂食にまで大きな影響を及ばすことを示し、この機序にCCK が関与することを明らかにした。これらの結果は、PCの新しい生理作用と、これによるPC の新しい利用法を提案したものであり、高く評価できる。
よって、審査員一同は、西向めぐみが博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有 するものと認めた。
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