博 士 ( 環 境 科 学 ) 小 山 明 日 香
学 位 論 文 題 名
Facilitative effects of tussocks on plant establishment
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( 泥 炭 採 掘 跡 地 に お け る 谷 地 坊 主 の 植 物 定 着 促 進 効 果 )
学位論文内容の要旨
泥 炭 湿 原 は , 北 半 球 冷 温 帯 域 に 広 範 に 分 布 し , 特 異 な 生 物 相 か ら な る 生 態 系 で あ る が , そ の 面 積 は , 泥 炭 採 掘 や 農 耕 地 化 と い う 人 為 撹 乱 に よ り 著 し く 減 少 し て い る 。 特 に , 泥 炭 採 掘 跡 地 は , 植 生 が 除 去 さ れ る こ と に よ り , 地 表 面 が強 光 , 乾燥 ,土壌 侵食 など のス トレス にさ らさ れ植 物定着 が 困 難 と な っ て い る 。 一 方 , 撹 乱 と ス ト レ ス の 強 い 環 境 に お い て , 先 駆 種 が 後 続 す る 他 種 の 定 着 を 促 進 さ せ 生 態 系 回 復 を 進 行 さ せ る 現 象 は , 定 着 促 進 効 果 と 呼 ば れ , 保 全 修 復 へ の 応 用 が 期 待 さ れ て い る 。 し か し , 定 着 促 進 効 果 は , ス ト レ ス 緩 和 , 撹 乱 低 減 , 生 息 地 多 様 性 創 出 な ど の 様 々 な 機 構 に よ り 構 成 さ れ て お り , そ れ ら の 相 互 作 用 に は 不 明 の 点 が 多 い 。 湿 原 で は , スゲ な ど が隆 起した 谷地 坊主 と言 われる 構造 を発 達さ せるこ と で 定 着 促 進 効 果 を有 す る こと が知ら れて いる 。そ こで, 本研 究は ,北 海道サ ロ ベ ツ 湿 原 泥 炭 採 掘跡 地 に おい て,谷 地坊 主が ,他 種の種 子散 布, 実生 発芽,
成 長 , 生 存 に 与 え る影 響 を 調べ ,定着 促進 効果 の機 構を明 らか にす るこ とを目 的 と し て 行 っ た 。 特 に , 環 境 要 因 間 の 時 間 ・ 空 間 ス ケ ー ル を 介 し た 相 互 作 用 の 変 化 を 把 握 す る た め に ,
5年 間 に わ た り 追 跡 調 査 を 行 っ た 。
調 査 は , 北 海 道 サロ ベ ツ 湿原 におけ る採 掘放 棄後
30年以 上が 経過 し, ホロム イスゲ(Carex middendorffi めとワタスゲ(Eriophorum vaginatum) が谷地坊主を形成 し ている 地域 にお いて 行った 。谷 地坊 主が形成するハビタットを, 谷地坊主の 上部 ,リターに被覆された 谷地坊主周囲 ,谷地坊主に被覆されない 裸地 に 区 分 し ,
6個 の
1mx 10mの 調 査 区 に おい て , そ れ ぞ れ の ハ ビ タ ット に お け る 他種の各生活史段階(種子散布,実生発生,成長,生存,開花)にっいて比較した。
種 子 移 入 量 を , 種 子ト ラ ッ プを 用い測 定し た。 同時 に,光 ,土 壌水 分, 土壌移 動 を 測 定 し た 。 さ らに , リ ター 除去韜 よぴ 被陰 によ り谷地 坊主 の効 果を りター と 構 造 の
2っ の 要 因に 分 離 し た 操 作 播 種 実 験 を ヌマ ガ ヤ お よび サワ ギキ ョウの 実 生 に 対 し て 行 っ た。
2006年か ら2009 年に かけ て優 占種の 実生 密度 と生 存を,
裸 地 , 谷 地 坊 主 周 囲, リ タ ー除 去谷地 坊主 周囲 間で 比較し た。 この 間,
2007年
の 植 物 生 育 期 で あ る
6月 か ら
7月 に か けて 少 雨 で あ り , 乾 燥 に 対 する 実 生 の 挙
動が検出できた。
調査区内で20 種の定着が確認され,モウセンゴケ・ブタナ・サワギキョウ・
ヌマガ ヤ・アキノキ リンソウの
5種が優占していた。優占種では,全種で谷地 坊主周囲により多くの個体が分布していた。5 種の生存率は,夏季よりも冬季に 低く,低温粘よぴそれに関連するストレスが生存に関与することが示された。
また,ブタナの生存率は谷地坊主周囲で裸地よりも高かった。年成長量はブタ ナ,サワギキョウ,アキノキリンソウに茄いて谷地坊主周囲で裸地よりも高か った。種子供給量は,谷地坊主上部で極端に少なく,谷地坊主の構造上,上部 に韜ける種子供給が強く制限され,その結果,個体密度が低いものと考えられ た。一方,裸地と谷地坊主周囲間での種子供給量の違いはほとんど認められな かった。したがって,谷地坊主周囲で他種の高い個体密度が認められる要因と し て は , 種 子 散 布 以 降 の 生 活 史 段 階 で の 発 芽 ・ 消 長 が 重 要 で あ る 。
谷地坊主周囲では,リター蓄積による被陰,隆起構造による水分低下および 地表の安定化という環境の改変が認められた。操作実験に船いて,ヌマガヤお よびサワギキョウの種子発芽率は,地表面の安定化により種子流出が抑制され れば,被陰及び隆起構造の有無に関わらず高くなった。即ち,隆起構造は,地 表安定化により発芽セーフサイトを提供していた。しかし,当年性実生の生存 率や成 長量は,谷地 坊主周囲において2 種間で異なり,ヌマガヤの生存率と成 長量は被陰や構造により低下し,サワギキョウの生存率と成長量は低下しなか った。したがって,谷地坊主は,強光を好む先駆種であるヌマガヤの生存・成 長には負に作用するが,その一方で,後続種であるサワギキョウに対し被陰に よる水環境の改善により正に作用することが示唆された。このことは,遷移が 谷 地 坊 主 に よ り 加 速 さ れ る 可 能 性 が あ る こ と を 示 し て い る 。
4年間の調査期間中,実生密度はりター除去処理に関わらず谷地坊主周囲で裸 地より高かったが,実生生存は季節を通して谷地坊主に影響されなかった。し かし,
2007年には,発芽開始時期が乾燥期と重複したモウセンゴケにおいて,
実生密度は谷地坊主周囲で低下した。さらに,2007 年夏には,実生生存率は全 体として低く,アキノキリンソウで谷地坊主周囲での低下が顕著であった。し かし,晩夏に発芽のピークを持っブタナは,他の優占種と異なり,実生密度及 び生存率の年変化は認められなかったが,これは実生発生が乾燥期を回避した ために起こる・と考えられた。したがって,少雨年には,谷地坊主が引き起こす 乾燥化作用が強くなり定着促進効果は低下することと,定着促進効果は各種の 発芽時期と強い関連があることが明らかとなった。
以上のことから,谷地坊主は,他種の定着を促進させるには,リターよりも 隆起構造が重要であり,特に,隆起構造は種子トラップとしての機能が重要で あることが示された。定着した実生の成長韜よぴ生存は,裸地と比べて低くな るパターンはほとんど認められず,全生活史を通じて,他種の定着に正に働い ていた。さらに,定着促進効果には,年変動があるが,その主な要因は谷地坊 主の構造に由来した土壌水分の低下に起因することが示唆された。本研究は,
植物による環境形成作用が,特に後続種の他種の定着と消長を規定する重要を
機 構 で あ る こ と を 示 し , 撹 乱 地 に お け る 生 態 系 の保 全 と修 復に 応 用で き
る展望を得ることができた。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 教 授 露 崎 史 朗 副 査 教 授 大 原 雅 副 査 教 授 甲 山 隆 司 副 査 准 教 授 工 藤 岳
副 査 教 授 原口 昭 (北 九 州市 立大 学 国 際 環 境 工 学 部 )
学位論文題名
Facilitative effeCtSOftuSSOCkSOnplanteStabliShment ●
1napOSt ―mlnedpeatland
(泥炭採掘跡地における谷地坊主の植物定着促進効果)
撹 乱 ・ ス ト レ ス 環 境 下 に お い て , 先 駆 種 が 後 続 す る 他 種 の 定 着 を 促 進 さ せ 生 態 系 回 復 を 進 行 さ せ る 現 象 は , 定 着 促 進 効 果 と 呼 ば れ , 保 全 修 復 へ の 応用 が 期 待 さ れ て い る 。 定 着 促 進 効 果 は , ス ト レ ス 緩 和 , 撹 乱 低 減 , 生 息 地 創 出な ど の 機 構 に よ り 構 成 さ れ る が , そ れ ら の 相 互 作 用 は 空 間 時 間 的 に 変 化 す る ため 不 明 の 点 が 多 い 。 北 半 球 に 広 範 に 分 布 す る 泥 炭 湿 原 は , 特 異 な 生 物 相 か ら なる 生 態 系 で あ る が , そ の面 積 は人 為 撹 乱に よ り 著し く 減少 し て いる 。 特に , 泥 炭採 掘 跡 地は,植生が完全に除去され,地表面が強光,乾燥,土壌侵食などにさらされるため植物定 着が困難となる。湿原では,スゲなどが隆起した谷地坊主と言われる構造を発達させること で定着促進効果を有することが知られている。そこで本研究は,北海道サ口ベツ湿原泥炭採 掘跡地において,谷地坊主が,他種の種子移入,実生発芽,成長,生存に与える影響を調べ,
定着促進 効果の機 構を明ら かにした。 特に,環 境要因間 の空間時間スケールを介した 相 互 作 用 の 変 化 を 把 握 す る た め5年 間 の 追 跡 調 査 を 行 い , 以 下 の 知 見 を 得 た 。 各種の生活史段階(種子散布,実生発生,成長,生存,開花)について、谷地坊主が形成す る3ハビタット(上部,周囲,裸心間で比較を行った。調査区内では,モウセンゴケ・ブタ ナ・サワギキョウ・ヌマガヤ・アキノキリンソウの5種が優占していた。優占種は,周囲に おいて高しゝ個体密度であった。5種の生存率は,夏季よりも冬季に低かったが,その要因と
しては低温およびそれに関連するストレスがあげられた。生存率はブタナにおしゝて,成長量 は3種において,周囲で裸地よりも高かった。上部は,種子供給が強く制限されているため,
個体密度が低かった。一方,裸地と周囲間での種子供給量の違いは認められなかった。以上 のことから,周囲で他種の密度が高い要因として,種子散布以降の生活史段階での発芽・消 長が重要であることを示した。
谷地坊主周囲の効果をりターと隆起構造の2つの要因に分離した操作播種実験をヌマガヤ およびサワギキョウに対して行った。谷地坊主周囲では,リター蓄積による被陰,隆起構造 による水分低下および地表の安定化という環境の改変が認められた。隆起構造は,地表安定 化により種子流出を抑制させ2種の種子発芽率を高めていた。しかし,被陰と構造は,先駆 種であるヌマガヤの生存・成長には負に作用し,一方で,後続種であるサワギキョウに対し ては被陰による水環境の改善により正に作用することが示された。これらのことは,谷地坊 主により遷移カ幼ロ速される可能性があることを示している。
2006年から2009年にかけて優占種の実生密度と生存を,裸地,周囲,リター除去周囲の 3ハピタット間で比較した。この間,2007年には植物生育期である6月から7月にかけて少 雨であり,乾燥に対する実生のハピタット間での挙動の相違が検出できた。実生密度はりタ ーの有無に関わらず周囲で裸地より高かったが,実生生存は谷地坊主に影響されなかった。
しかし,2007年には,発芽開始時期が乾燥期と重複した1種において実生密度は周囲で低 下し,実生生存率は全体として低く周囲での低下が顕著な種も見られた。しかし,夏に発芽 ピークを持つ種では,実生密度及び生存率の年変化は認められなかった。したがって,少雨 年には,谷地坊主が弓Iき起こす乾燥化作用が強くなり定着促進効果は低下し,その効果は各 種の発芽時期と関連していることが示された。
申請者は、以上の成果をもとに、谷地坊主の定着促進効果は,これまで区別されることの なかったりター供給と隆起構造としゝう2つの要因を明瞭に区別し,その構造による種子トラ ッブ機能がより重要であることを示すことができた。さらに,定着した実生の成長および生 存は,裸地と比べ低くなることはなく,全生活史を通じて,他種の定着に正に働くことを明 らかにした。定着促進効果には,年変動があるが,その主な要因は谷地坊主の構造に由来し た土壌水分の低下に起因することを示した。以上の成果は,環境形成作用が先駆植物により 時空間的に変化し,それにより後続種の定着と消長を規定することを明確に示してしゝる。こ の成果は,定着促進効果が,生態系動態に重要な機構であり,生態系の保全と修復に関 連する環境科学研究に大きく寄与するものと確信する。
審査委員一同は,これらの成果を評価し,研究者として誠実かつ熱心であり,大学院博士 課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士ゼ棗境科学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。
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