博 士 ( 医 学 ) 影 井 兼 司
学位論文題名
Ipsilateral Irradiation for Carcinomas of Tonsillar Reglon andSOftPalateBaSedonCOmputedTOmographiCSimulation (扁桃および軟口蓋原発中咽頭癌における
CT シミュレーションを用いた片側照射)
学位論文内容の要旨
「はじめに」中咽頭癌の放射線治療において放射線によるロ内乾燥症はしばしぱ認められる副作 用である。ロ内乾燥症は致死的障害ではないが食事摂取や味覚の障害により患者のQOL (quality of life)に対する影響は大きい。従来用いられてきた対向二門照射法では、両側耳下腺が標的体 積内に含まれるので、ロ内乾燥症が大きな副作用であった。いっぽう、扁桃原発の比較的小さな 腫瘍では反対側の頚部リンバ節転移の頻度は低く、対側の耳下腺を標的体積から外す片側照射で
□内乾燥症の軽減されることが知られていた。しかし、片側照射で局所制御率を損ねないために は、腫瘍の位置と耳下腺をはじめとする重要臓器の位置関係を3次元的に把握することが必要と さ れ て き た。当施 設で1987年 に開発さ れたCTシ ミュレー ターは 頭頚部領 域の3次元治 療計画 に有用であるため、我々はこれを用いた片側照射を扁桃および軟口蓋原発の中咽頭癌に対して行 ってきた。今回、長期の経過観察によりその臨床的有効性を解析し、同治療法の意義と症例の適 応基準を明らかにする。
「対象と方法」片側照射の対象は扁桃ないし軟口蓋原発の扁平上皮癌で、原発腫瘍が正中を越え ず 、 反 対側 の 頚 部リ ン バ 節転 移 が ない 症 例 とし た 。1989年5月 から1996年12月にか けて50 例の扁桃ないし軟口蓋原発扁平上皮癌の放射線治療を行ったが、そのうち根治的目的で片側照射 を 行 っ た症 例 は32例 で あっ た 。 年齢 は35か ら81歳 で 、 中 央値 は61歳 、男性26例、女性6例 で あ っ た。24例 は扁桃、12例は軟 口蓋原発 であっ た。UICC (International Union Against Cancer) 1987の 病 期 分 類 は 、Tlが6例 、T2が12例 、T3が12例 、T4が2例 、NOが22、Nl が5例、N2が4例、N3が1例であった。
熱 可塑 性マス クを固定 具とし て用いな がら治 療計画用CTを撮り 、CTシミュ レ一夕 ーにて3 次元治療計画を行った。片側照射の標的体積は原発腫瘍およぴ患側の上頚部リンバ節領域とした。
標的体積に根治線量を投与しつつ、反対側の耳下腺の照射体積を出来るだけ小さくするようビー ム方向・照射野の形状・サイズ、ガントリー角度等を決定した。片側照射は斜め前方一門およぴ 斜め後方一門の二門照射で、くさぴフィルタを用いた。治療装置はテレコバルトであり、線量分 割 は 週4回 照 射 で1回 線 量2.5 Gyで65 Gyを26分 割で照射 した。 脊髄の線 量は40Gy以 下とし た 。頚部リ ンバ節転 移陽性 例では患 側ない し両側の下頚部ヘ、前方一門照射で40 Gyを16分割 で 照 射 し た 。12例 に カ ル ボ プ ラ チ ン 少 量 、 週1回 の 照 射 同 時 化 学 療 法 を 行 っ た 。 生存率およぴ原病生存率は放射線治療開始目より計算し、カプラン・マイヤー法により求め、
統計学的有意差検定ははログ・ランク法で行った。ロ内乾燥症の重症度を次のように分類した。
第0度は 症状なし 。第1度は軽 度の症状 がある が、食事の際飲水を必要としないもの、第2度は 中等度の症状で食事の際常に飲水を必要とするもの、第3度は高度の症状があり、常に飲水を必
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要 とするも の。重 症度の判定は放射線治療後24ケ月後、24ケ月以内に死亡した症例では最終観 察 日に行っ た。観 察期間は4か ら86ケ月で 中央値は44ケ月であった。経過観察中の途中脱落例 は 認めなか った。
「結果」片側照射例の実測5年生存率は64%、原病生存率は79%、局所制御率は74%であった。
標的体積外の局所再発は認めなかった。原発部位およびT因子別の粗局所制御率はそれおそれ扁 桃が14/20(70%)、軟口蓋が11/12 (92%)、Tlが5/6 (83%)、T2が10/12 (83%)、T3が10/12 (83% )、T4が0/2(0%)であった。原発部位およびN因子別の粗頚部リンバ節制御率はそれそ れ扁桃16/20 (80% )、軟口蓋5/12 (42%)、NOが15/22(68%)、Nlが4/5 (80%)、N2が2/4
(50%)、N3が011(0%)であった。反対側頚部リンバ節への転移による再発は認めなかった。
腫瘍の舌根部への浸潤、軟口蓋への浸潤、前方領域(舌、臼後部、頬粘膜、歯肉)への浸潤の有 無は局所制御およぴ頚部制御の有意な予測因子ではなかった。ロ内乾燥症は重症度Oが13%、重 症 度1が78% 、 重 症度2が9%で 、 重 症度3は認め なかっ た。治療 計画用 のCTで斜め 前方一 門 の線錐内に対側耳下腺が含まれているか否かを検討したところ、全てが含まれていたのは25%、
部分的 に含ま れていた のは31%、全く含まれていなかったのは44%。手術を要する放射線骨壊 死を1例(3.3%)にのみ認めた。
「考察」今回の研究の期間中に扁桃・軟口蓋原発の中咽頭癌で根治的放射線治療を行ったのは45 例で あり、腫 瘍体積 が大きく 従来の 対向2門照射が 必要で あった13例 を除く32例、すな わち7 割に 片側照射が可能であった。無作為割付試験ではないため比較は困難であるが、32例の5年生 存率 、5年 原病生 存率およ び局所制 御率は、対向2門照射の成績と同等である。少なくとも、正 中を 越えない 扁桃な いし軟口 蓋原発 の中咽頭癌では、CTシミュレーターを用いた治療計画と片 側照射により局所制御率・生存率を損ねることなく治療することが可能であることが、今回の研 究で示唆されたと言えよう。
Jacksonらの片側照射で治療した178例の扁桃原発扁平上皮癌の報告では、局所制御率75%で、
Tlは94%(34/36)、T2は79%(63/80)、T3は58% (31/53)、T4は56% (5/9)、頚 部 制 御率 86%で 、NOは92%(93/101)、Nlは91%(49/54)、N2は71%(5/7)、N3は38%(6/16)、 片 側照 射後の反 対側の 頚部リン バ節転 移率はNOで2%、Nlで4%と、我 々の結 果と同様 良好な結 果で あった。 また、O Sullivanらも反対側頚部リンバ節転移率は3%と報告し、Murphyらは20 例の扁桃原発NO、Nlの中咽頭癌では片側照射後に反対側の頚部リンノペ節転移はなかったと報告 している。我々の結果は、これらの報告と矛盾せず、適当な症例の選択で充分な腫瘍制御が片側 照射で可能であることが確認された。
今回の研究で、中咽頭癌の片側照射ではロ内乾燥の程度が軽度であることが示され、これは従 来 の 対 向2門 照 射 の 報 告 よ り も 優 れ て い た 。Nishiokaら は ロ 内 乾 燥 が 対 向2門 照 射で は 93%(13/14)がgrade2以 上であ ったと報告し、Markらは左右対向二門照射後では100%(17/17) にロ 内乾燥症 を認め たと報告 してい る。Antognoniらは左右対向二門照射後のロ内乾燥症を5段 階 に 分類 し 、 重症 度0が18%(9/51) 、重症度1が27%(14/51)、 重症度2が18%(9/51)、 重 症 度3が43%(22/51) 、重 症度4が12%(6/51)で あったと 報告し 、Eisbruchらは 、非対向 の 多 門 照射 に よ り□ 内 乾 燥症は 重症度Oが40%(6/15)、重症 度1が13%(2/15)、重 症度2が13% (2/15)、重 症 度3が33%(5/15)と報告し ている 。左右対 向二門照 射後で は□内乾 燥症は 殆ど の症例に認められ、反対側耳下腺を標的体積から外した片側照射によルロ内乾燥症の頻度は減少 することが、今回の研究より示唆された。
今回 の研究で は、CTシ ミューレ ータそのもによる寄与がどの程度あるのかは判定できない。
CTを用 いない高 性能X線シミ ューレ ータでも 、腫瘍部 位のみ を標的体積として対側の耳下腺へ の線量を減らすことができれば、同じ効果が期待できるであろう。しかし、今後は強度変調放射 線治 療など複 雑化す る放射線 治療に おいて、 さらに3次元 的な解剖情報が重要と考えられ、CT シミューレーションの重要性は一段と高まるものと予想される。
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「結論」CTシミュレータ を用いた片側照射は、正中を越えない扁桃ないし軟口蓋原発で対側リ ンバ節転移のない中咽頭癌に適応があり、これらの患者に対してロ内乾燥症を軽減することがで きることが示唆された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Ipsilateral Irradiation for Carcinomas of Tonsillar Region and Soft Palate Based on Computed Tomographic Simulation ( 扁 桃 お よ び 軟 口 蓋 原 発 中 咽 頭 癌 に お け る
CT シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 用 い た 片 側 照 射 )
中咽頭癌の放射線治療において、放射線による口内乾燥症はしばしば認められる副作 用である。従来用いられてきた対向ニ門照射法では、両側耳下腺が標的体積内に含まれ るので口内乾燥症が重篤となることが多い。一方、扁桃原発の比較的小さな腫瘍では対 側頚部リンパ節転移の頻度は低く、対側耳下腺を標的体積から外す片側照射で口内乾燥 症が軽減されることが知られていた。しかし、片側照射で局所制御率を損ねないために は、腫瘍の位置と耳下腺をはじめとする重要臓器の位置関係を3 次元的に把握すること が必要である。今回我々は、CT シミュレーターを用いることで、、従来の治療では片側照 射が適応とならない進行症例にも、腫瘍の制御率を対向二門照射と同様に維持し、口内 乾燥症の軽減が可能か否かを検討するため、前向き第二相臨床試験を行った。扁桃ない し軟口蓋原発の扁平上皮癌で、原発腫瘍が正中を越えず、反対側の頚部リンパ飾転移が ない症 例を、片側 照射の適応 基準とした 。1989 年 5 月 から 1996 年 12 月にかけて 50 例 の扁桃ないし軟口蓋原発扁平上皮癌の根治的放射線治療を行ったが、そのうち32 例が 片側照射の適応基準を満たし、片側照射を行った。24 例は扁桃、12 例は軟口蓋原発で あ った 。 UICC1987 の 病 期分 類 は 、 Tl が6 例 、T2 が 12 例 、T3 が 12 例 、T4 が 2 例、 NO が 22 、 Nl が5 例、 N2 が 4 例、 N3 が1 例であ った。CT シミ ュレーター にて3 次 元治療計 画を行い、標的体積は原発腫瘍および患側の上頚部リンパ節領域とした。照射法は斜め 前方一門およぴ斜め後方一門の二門照射で、くさびフアルタを用いた。ロ内乾燥症の重 症度を 4 段階に分類し、放射線治療後 24 ケ月後ないし最終観察日に行った。観察期間 は4 から86 ケ月で中央値は44 ケ月であった。
良
樹
男
長
平
和
木
原
坂
玉
杉
宮
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
片 側 照 射 例 の5年 生 存 率 は64%、 原 病 生 存 率 は79%、 局 所 制 御 率 は74% で あ っ た 。 標 的 体 積 外 の 局 所 再 発 は 認 め な か っ た 。 原 発 部 位 お よ びT因 子 別 の 粗 局 所 制 御 率 は そ れ ぞ れ 扁樹ヒカミ14/20 (70%)、軟口蓋カミ11/12 (92y0)、Tlカミ5/6 (83%)、T2カ§10/12 (83%)、T3 が10/12 (83% ) 、T4が0/2 (Oyo)で あ っ た 。 ま た 、 照 射 野 外 の 局 所 再 発 は 認 めな かっ た。
原 発 部 位 お よ びN因 子 別 の 粗 頚 部 リ ン パ 節 制 御 率 は そ れ ぞ れ 扁 桃16/20 (80%)、 軟 口 蓋 5/12 (42%) 、NOカミ15/22 (68YO)、Nlカミ4/5 (80y0)、N2カミ2/4 (50%)、N3カミ011 (0%)で あ っ た 。 反 対 側 頚 部 リ ン パ 節 へ の 転 移 に よ る 再 発 は 認 め な か っ た 。 口 内 乾 燥 症 は 重 症 度 Oが13%、重症 度1が780、重症度2が9%で、重症度3は認めなかった。
片 側 照 射 を 行 っ た32例 の 生 存 率 お よ び 局 所 制 御 率 は 左 右 対 向2門 照 射 の 報 告 例 と 同 等 で あ り 、 正 中 を 越 え な い 扁 桃 な い し 軟 口 蓋 原 発 の 中 咽 頭 癌 で は 、CTシ ミ ュ レ ー タ ー を 用 い る こ と で 片 側 照 射 に よ り 局 所 制 御 率 と 生 存 率 を 損 ね る こ と な く 治 療 す る こ と が 可 能 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 今 回 の 研 究 で 、 片 側 照 射 後 の 口 内 乾 燥 症 は91% の 症 例 で 重 症 度1( 軽 度 以 下 ) で あ る こ と が 示 さ れ た 。 当 施 設 の 西 岡 ら は 、 対 向 二 門 照 射 を 行 っ た 上 咽 頭 癌 で は93%が 重 症 度2以 上 で あ っ た と 報 告 し て お り 、 片 側 照 射 に よ り 口 内 乾 燥 症 が 著明に軽減することが示唆された。
口 頭 発 表 に 際 し 、 杉 原 教 授 よ り 臨 床 試 験 に 関 わ る 患 者 へ の 説 明 、 対 側 頚 部 リ ン パ 節 転 移 の 診 断 方 法 、 扁 桃 原 発 と 軟 口 蓋 原 発 腫 瘍 の 局 所 制 御 率 、 頚 部 制 御 率 の 相 違 、 メ ラ ノ ー マ お よ ぴ 皮 膚 癌 の 放 射 線 感 受 性 と 陽 子 線 治 療 の 効 果 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 宮 坂 教 授 よ り 対 側 耳 下 腺 の 投 与 線 量 、CTシ ミ ュ レ ー タ ー の 意 義 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 ま た 、 玉 木 教 授 よ り 照 射 法 と 口 内 乾 燥 症 の 程 度 の 関 係 、 組 織 型 、 ブ ー ス ト 照 射 の 有 無 な い し 化 学 療 法 の 有 無 と 治 療 成 績 の 関 係 、 照 射 装 置 お よ び 放 射 線 の エ ネ ル ギ ー に つ い て お よ び 今 後 の 展 望 に つ い て 質 問 が あ っ た 。 申 請 者 は 自 身 の 研 究 結 果 と 文 献 的 知 識 に 基 づ き 、 概 ね 適 切 に回答しえた。
本 研 究 は 、 前 向 き 第H相 試 験 に よ り 、 扁 桃 お よ び 軟 口 蓋 中 咽 頭 癌 に 対 す る 片 側 照 射 の 適 応 お よ ぴ 安 全 性 を 示 し 、 片 側 照 射 に よ り 口 内 乾 燥 症 が 軽 減 す る こ と を 明 ら か に し た 。 審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充分な資格を有するものと判定した。