博士(獣医学)サミールアヒマドモノヽマドエルシャズリー
学 位論 文 題名
Differential Effect of the Combination between Kit げ or Kitvl ′ ,″ lVIutant Allele and the KitS Allele Derived from Mus spretus on Male Hybrid Sterility
(K げぁるいはKit 形″変異遺伝子とMus spretus 由来KitS 遺伝子の 組 み 合 わ せ が 雄 性 雑 種 不 妊 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て )
学位論文内容の要旨
雑 種 不 妊 と は 異 型 配 偶 子 の 生 殖 に 影 響 が 現 れ る こ と を 言 う 。 こ の 現 象 は 哺 乳 類 の 場 合 オ ス に 適 用 さ れ るHaldaneの ル ー ル と し て 知 ら れ て い る 。 マ ウ ス に お い て は7種 類 の 雑 種 不 妊 が 報 告 さ れ て い る が 、 こ の う ち6種 類 は 確 か に 間 違 い な い こ と が 実 証 さ れ て いる。
Kit遺 伝 子 は 色 素 細 胞 の 移 動 や 肥 満 細 胞 発 育 、 造 血 、 配 偶 子 形 成 な ど 、 広 範 囲に 重 要 な 役 割 を 果 た す こ と が 知 ら れ て お り 、 肥 満 細 胞 成 長 因 子 の 膜 貫 通 型 チ 口 シ ン キ ナ ー ゼ 受 容 体 を コ ー ド す るproto−oncogeneの 一 種 で あ る 。Kit対立 遺 伝 子のw‑seriesは 、 そ の cDNAの 様 々 な 領 域 に お け る 突 然 変 異 に 起 因 し て い る 。 本 研 究 に お い て 著 者 は 、 何 種 類 か の 変 異 し たKit遺 伝 子 と ス ベ イ ン 産 野 生 型 マ ウ スMus spretus (SPR)由 来 のKits遺 伝 子を組み合わせて雑種不妊に関する解析を行った。
第 一 部 で は 、 最 初 に2種 類 の コ ン ジ 工 二 ッ ク 系 統 、 す な わ ちKitw遺 伝 子 がWB‑Kitw 系 統 に 由 来 す るC57BL‑Kitwと 、Kits遺 伝 子 がSPRに 由 来 す るC57BL‑Kitsを 作 成 し た 。 Ki〆 遺 伝 子 は そ の 白 斑 毛 色 に よ り 判 別 し た 。Kitsと 他 のKitと の 違 い は プ 口モ ー タ ー 領 域 のPCRを 用 い たSSLPに よ っ て 確 認 し た 。 第 5染 色 体 の34番 地 か ら 45番 地 間 の い く っ か の マ イ ク 口 サ テ ラ イ ト マ ー カ ー 多 型 とSSLPを 用 い て 、 コ ン ジ 工 二 ッ ク マ ウ ス の Genotypingが 行 わ れ 、C57BL‑Kitsの42番 地 か ら44番 地 領 域 がSPRに 由 来 し て い る こ と が 明 ら か に さ れ た 。 こ れ ら の コ ン ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス の 相 互 の 交 配 に よ り 、5つ の 組み 合わせ:+Ki′/+Kir、KitS/+Kit、Kits/Kirs、Kir W/+Ki'とKit W/Kitsのマウスが得られた。Kit W/Kitw
の組 み合 わせ は出生 前あ るい は生 後ま もな く死 亡し てし まうため得ることができなか った。Kitw/Kilsのオスは精巣の縮小を伴う雑種不妊となるが、ヌスの妊性は正常であっ た。KitwIKitsのオスはその精子形成が減数分裂期以前のステージで停止し、精子を作る こと がで きな かっ た。 その 原因 を検 討す るため 、Kits由 来のcDNAの塩 基配 列をC57BL 由 来+KitのcDNAと 比 較 し た 。 合 計33箇 所 の 塩 基 置 換 が 観 察 され 、 そ の う ち11箇 所 はア ミノ 酸置 換を伴 う変 異で あっ た。 アミ ノ酸 置換 の7箇 所は細胞外ドヌイン、1箇所 は膜 貫通 ドメ イン、2箇 所は キナ ーゼIドヌ イン 、1箇 所はC末端に存在していた。Kits 遺 伝 子 由 来 のmRNAと 、+Kitあ る い はKitw由 来 のmRNAの 発 現 を 判 別 す る た め にRT‑
PCR−RFLーPで可能 にし た。 その 結果 、KitwとKitsそれ ぞれ に由 来す るmRNAの発 現は Kit WIKits不妊の精巣においてともに認められ、遺伝子発現レベルにおける異常ではない ことが示唆された。
第二部では、Kitw "IKitsの組み合わせの生殖能カが調べられた。KitwとKitw‑'の違いは、
Kitw夕ンバクはスプライシング異常により膜に結合できないが、Kitw‑ 夕ンバクの方は キナ ーゼ 領域 の1ア ミノ 酸変 異だ けで 膜に 結合 でき るも のの キナ ーゼ 活性が 低い ため 細胞内情報伝達の行われないことである。一方、Kitw /Kitsのオスは正常な妊性を有し、
精巣 の組 織学 的構造 も正 常で あった。不妊のKitw/Kitsのオスにおいて、どの時期に精 子形 成が 停止 するの かを 解析 するために、8,12,16,20日齢の精細管の発育段階を、
+Ki′/+KitおよびKitw /Kits正常のオスとの間で比較した。その結果、8日齢では3つの遺 伝 子 型 の 組 み 合 わ せ で 組 織 像 の 違 い は 見 ら れ な か っ た が 、12日 か ら20日 に か け て Kitw/Kitsのオスの精子形成はほとんど減数分裂期の前のステージで停止するような異常 が観 察さ れた 。さら に不 妊の 精巣においてKits遺伝子に由来するKitレセプタータンバ ク質 の発 現を 確認 する ため にウ ェス タン ブ口ッ トを 行っ た。 約90 kDaの位 置にKitレ セプ ター タン バク質 とみ られ るバ ンド が検 出さ れ、 正常 に発現しているものと示唆さ れ た 。 そこ で り ガ ン ド ― レ セ プ ター 相互 作用 に異 常が あり 、SPR由来 のKitルガ ンド がC57BLと 異 な る か ど う か を 調 べ る ため 、SPR 由 来 のKitリ ガ ンドcDNAの コー ド領 域 の 塩 基配 列 を 決 定 し た 。SPR由 来 のり ガ ン ド は 、C57BLと 比較 して7つの 塩基 置換 が 検 出 さ れ 、 そ の う ち2っ は 細 胞 外 ド ヌ イ ン の ア ミ ノ 酸 置 換 を 生 じ て い た 。 以 上 の結 果 か ら 、SPRとC57BL間 のKitレ セ プ タ ー の 細 胞 外 ド メイ ンのア ミノ 酸の 違いが、KirwIKits不妊オスマウスにおけるレセプターのりガンドに対する親和性を低下
させる可能性が示唆された。すなわちKitレセプターは精原細胞から精母細胞期に発現 し、一方Kitリガンドはセルトリ細胞で発現するが、Kit W/Kitsの組み合わせの場合レセ プターとりガンドの相互作用が低くなり精子形成障害が現れることが一要因として考 えられた。
学 位 論 文 審 査の 要 旨 主査 教授 高橋芳幸 副査 教授 梅村孝司
副査 教授 渡邉智正(農学研究科)
副査 助教授 昆 泰寛
学位論文題名
Differential Effect of the Combination between Kit レレ or KitW ′.″ /Iutant Allele and the KitS Allele Derived from Mus spretus on IVIale Hybrid Sterility
(K itげ ぁ るい は ム 耐形 ″ 変 異遺 伝 子とMus spretus由来KitS遺 伝子の 組 み 合 わ せ が 雄 性 雑 種 不 妊 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て )
マウ ス 第5染色体のKit遺伝子は 、受容体型 チ口シン キナーゼ の一種で 、精子形 成 に重 要な役割 を果たす ことが知 られてい る。Kit対立 遺伝子のw−senesは、コード領 域に おける様 々な突然 変異体の 一群であ る。鮒〆 遺伝子とス ベイン産野生マウスMus spretus(SPR)由来 のKjtS遺伝子 を組み合わせたオスは雑種不妊となり、その要因に関 する解析を行った。
2種 類の コ ン ジ工 二 ック 系 統 、C57BL‑KitwとC57BL‑Kitsを作 成した。 それらの 交 配に より得ら れたKitw/Kitsのオ スは精巣 の縮小を 伴う不妊 となるが、メスは正常で あ っ た。Krts由 来 夕ン パ クの ア ミ ノ酸 配 列は、正 常C57BLと合計11箇所のア ミノ酸 置換 が観察さ れ、その うち7箇所 が細胞外 ドヌイン であった。KjtSとKitw由来のmRNA の 発 現は そ れぞれ 不妊精巣 でも認めら れ、遺伝 子発現レ ベルの異 常ではな いことが 示 唆 され た 。 ウェ ス タン ブ 口 ット で も、 不妊 精巣にお いて約90kDaのKits由来レセ プタ ータンパ クとみら れるパン ドが検出された。不妊のKitwl Kitsのオスにおいて、
精 子 形成 は 生後12日 目の精母 細胞期前の ステージ で停止す る組織像 が観察さ れた。
Ki〆由 来夕ンバクは膜貫通部位の欠失により膜に結合できないが、Kitw‑ 由来夕ン バクはキナーゼ領域の1アミノ酸置換だけで膜に結合できる変異体である。Kitw‑v/K its の オ スは 正 常な妊 性を有し 、精巣の組 織像も正 常であっ た。そこ で、リガ ンドーレ セプ ター間の 相互作用 に異常が あることが推測され、Kit由来1」ガンドのコード領域 の ア ミ ノ 酸 配 列 を 決 定 した 。SPR由 来 の りガ ン ドは 、C57BLと 比 較し て2箇 所細 胞 外ド メインにアミノ酸置換を生じていた。以上の結果から、Kitw/Kits不妊オスマウス
―1244
に お い てSPRとC57BL間 の細 胞外 ドヌ イン のア ミノ 酸の違 いに より 、レ セプ ター の り ガ ン ド に 対 す る 親和 性を 低下 させ 、精 子形 成障 害とな る可 能性 が示 唆さ れた 。 本 研究 はマ ウスKit遺伝子が雄性雑種不妊を引き起こし、リガンド→レセプター相 互作 用が その 要因 であ るこ とを 示唆 する 貴重な知見を提供するものであり、よって 審査員一同はサミール・アヒマド・モハマド・エルシャズリー氏が博士(獣医学)の学 位を授与されるのに十分な資格を有するものと認めた。