博士(工学)郎 豊群 学位論文題名
Fe − 40A1 金属間化合物箔の高温腐食に関する研究 学位論文内容の要旨
FeAI金属 問化 合物 は脆 性で ある ため 箔等 への加 工が 困難 であ ったことから、
その 高温 ・耐 食性 材料 とし ての 実用 化が 遅れ ていた 。最 近、 粉末 冶金と押出成形 によ り強 度と 延性 に優 れたFe‑40at%Al.の合金箔が製造された。本論文は、種々 の 雰 囲 気 に お け るFe‑40AI箔 の高温 腐食 挙動 につ いて 研究 した 結果 をま とめ たも のである。すなわち、
(1)大気中、1073〜1473Kにおける酸化挙動 (2) 1373K;熱サイクル条件下での酸化挙動
(3) 973〜1273K;0.052〜9.7vol.%H2S―H2に お け る 高 温 硫 化 挙 動 (4) 1273K;N2‑11.2vol.%02‑7.4vol.%C02‑(100|500,2000ppm)S02混合ガス雰 囲気中における高温腐食挙動
(5)予 備 酸 化 処 理 し たFe‑40AI箔 の 混 合 ガ ス 雰 囲 気 に お け る 腐 食 挙 動 、 に分 類さ れる 。な お、 本研 究で は、 比較材として、市販のFe‑20mass%Cr‑5mass% Al箔 の高 温腐 食挙 動に つい ても 検討 した 。得 られた 結果 は以 下の ように要約され る。 ´
第1章は 、Fe‑AI系 合金 の発 展、 耐腐 食性 に関 する 研究 の進 展と 現状 および 材料 の開 発動 向、 ならび にア ルミ ナ酸 化皮 膜の 特徴 につ いて 述べ た。 また 、この 箔の 製 造 方 法に つ い て 紹 介 し 、 本 研 究 の 目 的 を 述 べ た 。
第2章で は 、Fe‑40AI箔 の1073‑‑ 1473K; 大 気 中 におけ る等 温酸 化挙 動に つい て 検討 した 。いず れの 温度 でも 、酸 化皮 膜の 剥離 は見 られ ず、 優れ た密着性を示 し た 。1073〜1223Kの 温 度 範 囲 で は 、 酸 化 物 の 主体 はQ‑A1203であ るが 、少 量の e―A1203の生成が確認された。この温度範囲では、従って、e‐A|2○3生成のため、
酸 化初 期の 放物線 速度 定数 は酸 化後 期の それよりも大きい。一′方、1273K以上の 温 度範 囲で は、a・A|203のみ が生 成し た。1273〜1373Kの 温度 範囲 では、酸化量 は 放 物 線 速 度 則 に 従う が、1423K以上 にな ると 、そ の酸化 速度 定数 は酸 化時 間の 増 加に 伴い 低下する傾向を示した。その理由として、酸化皮膜を構成するa.A1203 の 結晶 粒が 酸化の 進行 に伴 い粗 大化 し、 粒界 を拡 散す る酸 素の 内向 拡散流束が減 少 する ため である こと を計 算に より 実証 した 。Fe‐40AI箔 の放 物線 速度定数は、
1273K以 上 の 温 度 範 囲 で はNiAIの そ れ ら し ほ ば 同 じ で あ る が 、1273K以 下 の 温 度 範囲 では 、NiAIのそ れら より も低 い値 を示 した 。放 物線 速度 定数 の温度依存性 か ら 得 ら れ た 活 性 化 エ ネ ル ギ ー は 低温 側 と 高 温 側 で そ れ ぞ れ241と422kJ′moI であった。
第3章 で は 、Fe‑40AI箔 の 高 温 酸 化 挙 動に 対す る熱 サイク ルの 影響 につ いて 検 討 し た 。Fe‑40AI箔の 酸化 動力 学曲 線は 全酸 化時 間に 亘って 放物 線則 に従 う。 こ れ に 対 して 、比 較材 のFe‑20Cr‑5AIの酸 化は 二段 階に 進行し 、初 期に 大き な放 物
― 899―
丶線 速度 定数 を示 し、 約100ks以 降、 速度 定数 は低 下し た。Fe‑40AI箔の酸化物皮 膜に はク ラッ クが 形成 した が、 その 部位 に酸化 物が 新し く形 成し ており、急激な 母材 の酸 化を 抑制 して いる こと が分 かった。一方、Fe‑20Cr‑5AIの酸化皮膜には、
クラックは観察されなかった。酸化実験(907.2ks)後、Fe‑40AI母材のAl量(at%)
は40か ら38に 低 下 し た が 、Fe‑20Cr‑5AIで は10か ら1.2に 大 幅 に 低 下 し た 。 Fe‑40AI箔 で は 、熱 サイ クル によ って 基材 がク リ― プ変 形し、63サ イク ル後 、約 6% の 歪 み ( 伸 び) が発 生し た。 結果 とし て、 酸化 皮膜 中のク ラッ クは 引張 的な 特徴を呈している。
第4章 で は 、Fe‑40AI箔 の1273K;N2‑11.2vol.%02‑7.4vol.%C02‑(100,500 2000ppm)S○2混 合ガス雰囲気における腐食挙動について検討した。Fe‑40AI箔は、
3.6ksま で の 酸 化 初 期 の 段 階 で は、 い ず れ のS02濃 度 に お い ても 、 〇‑AI203とQ
‑AI203が 検 出 さ れ 、 腐 食 量は 急激 に増 加し 、S02濃度 が高 いほ ど大 きい 腐食量 を 示 した 。酸 化の 進行 に伴 い、a ‑AI2○3のみ の生成に移行し、酸化は放物線則に従 っ た。 その 放物 線速 度定 数は5.5x10.12〜 7.2x10‑12 kg2m'4s‑1で あり、S02濃度 に は 殆 ど 依 存 し な い こ と が明 らか とな った 。Fe‑40AI箔で は、 スケ ―ル の剥離 が 観 察さ れ、 剥離 した 部分 から 硫黄 が検 出され た。 剥離 はこ の硫 黄に よる ものと考 え ら れ る 。 一 方 、Fe‑20Cr‑5AI箔で は、 皮膜 の剥 離は 観察 され なか った が、ノ ジ ユ ール 状の 酸化 物が 観察 され た。
第5章 で は 、Fe‑40AI箔 に 形 成 し た 酸 化 皮 膜 の 混 合 ガ ス 雰囲 気に おけ る執 離を 抑制 する 目的 で、 予備 酸化 処理 の効 果につ いて 検討 した 。そ の結 果、14.4ks以上 予 備 酸 化 し た 試 料 はN2‑11.2%○2‑7.4%C02‑500ppmS02混 合雰 囲気 にお いて も優 れた 耐食 性を 示し 、酸 化皮 膜の 剥離 は観察 され なか った 。し かし 、短 時間 ワ予備 酸化 処理 では 、母 材に 含ま れて いる 介在物 (a−Al203粒 子) の部 分に 保護 的な酸 化物 皮膜 が形 成さ れな いた め、S○2含有雰 囲気 にお ける 酸化 では 、皮 膜の 局部的 剥離 が生 じた 。
第6章で は、Fe‑40AI箔 の高 温硫 化挙 動に つい て検 討し た。 その 結果、Fe‑40AI 箔 は1073Kま で 優れ た 耐 硫 化 性 を 有 し 、1173K以 上 に な る と 徐 々 に 硫 化 が 進 行 す る よう に な る 。 な お 、0.052%H2Sの 場 合 、1273Kま で 良好 な耐 硫化 性を 呈し て い る。1073Kま で の 温 度 で は 、H2S‑H2ガ ス 中 に 含 ま れ てい る酸 素、 水分 など の不 純物 ガスに よっ てAl203が生 成し 、それ が保 護皮 膜と して 作用 する 結果、箔 の硫 化が 抑制さ れたものと考えられる。1173K以上の温度域では、しかしながら、
雰 囲 気のH2Sガ ス に よ っ てAl203皮膜 が破 壊され 、硫 化反 応が 進行 した もの と考 え ら れる 。 こ れ に 対 し て 、Fe‑20Cr‑5AI箔 は973Kか ら 硫 化が 進行 し、 温度 の上 昇お よびH2S濃 度の 増大 とと もに 急激 に増加 した 。
第7章 は、本 研究 で得 られ た重 要な 成果について、まとめている。
―900―
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Fe ―40A1 金属間化合物箔の高温腐食に関する研究
近 年 、 内 燃 機 関 等 の 排 ガ ス を よ り 効 率 的 に 浄 化 す る ため 、 既 存のFe―20Cr‑5Al 合 金 箔 を 代 替 す る 新 し い 耐 熱 ・ 耐 腐 食 性 材 料 の 開 発 が 望 ま れ てい る 。FeAl金属 間 化 合 物 は 脆 性 で あ る た め 箔 等 へ の 加 工 が 困 難 で あ っ た こ と か ら その 高 温 ・耐 食 性 材料 と し て の 実 用 化 が 遅 れ て い た が 、 最 近 、 粉 末 冶 金 と 押 出 成 形 によ り 強 度と 延 性 に優 れたFe―40at96Alの合金箔が製造された。
本 論 文 は 、 種 々 の 雰 囲 気 に お け るFeー40A1箔 の 高 温 腐 食挙 動 に つい て 研 究し た 結果をまとめたものである。すなわち、
(1)大気中、1073〜1473Kにおける酸化挙動 (2) 1373K;熱サイクル条件下での酸化挙動
(3) 973〜 1273K; O. 052〜 9. 7vol. %H2S− H2に お け る 高 温 硫 化 挙 動 い)1273K;N2−11. 2vol. %02−7.4vol. %C02―(100,500,2000pplri) S02混合ガス雰囲気 中における高温腐食挙動
(5)予 備 酸 化 処 理 し た Fe−40A1箔 の 混 合 ガ ス 雰 囲 気 に お け る 腐 食 挙 動 、 な お 、 本研 究 で は、 比 較 材と し て、市 販のFe−20mas s%Cr―5mass% Al箔の高温 腐食挙 動 に つ い て も 検 討 し て い る 。 得 ら れ た 成 果 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。 第1章 は 、FeーAl系 合 金 の 発 展 、 耐 腐 食 性 に関 す る 研究 の 進 展 と現 状 お よび 材 料 の 開 発 動 向 、 な ら びに ア ル ミナ 酸 化 皮膜 の 特 徴に つ い て述 べ た 。ま た 、 こ の箔 の 製 造方 法 に つ い て 紹 介 し 、 本 研 究 の 目 的 を 述 べ た 。
第2章 で は 、Fe−40A1箔 の1073〜1473K; 大 気 中 に お け る 等 温 酸 化 挙 動 に つ い て 検 討 し た 。 い ず れの 温 度 でも 、 酸 化皮 膜 の 剥離 は 見 られ ず 、 優れ た 密 着 性を 示 し た。
1073〜1223Kの 温度 範 囲 では 、 酸 化物 の 主 体はa―Al203であ る が 、少 量 の 。ーAl203の 生 成 が 確 認 さ れ た。 こ の 温度 範 囲 では 、 従 って 、8―Al203生 成 の ため 、 酸 化初 期 の 放 物 線 速 度 定 数 は 酸 化 後 期 の そ れ よ り も 大 き い 。 一 方 、1273K以 上 の 温 度 範 囲で は 、a
−Al203の みが 生 成 した 。1273〜1373Kの 温 度 範囲 で は 、 酸化 量 は 放物 線 速 度則 に 従 う が 、1423K以 上 に な る と 、 そ の 酸 化 速 度 定 数 は 酸化 時 間 の増 加 に 伴 い低 下 す る傾 向 を 示 し た 。 そ の 理 由と し て 、酸 化 皮 膜を 構 成 するaーAl203の 結 晶 粒 が酸 化 の 進行 に 伴 い 粗 大 化 し 、 粒 界 を 拡 散 す る 酸 素 の 内 向 拡 散 流 束 が 減 少 す る た め で あ る こと を 計 算に よ り 実 証 し た 。Feー40A1箔 の 放 物 線 速 度 定 数 は 、12 73K以 上 の 温 度範 囲 で はNiAlの そ れ ら は ほ ば 同 じ で あ る が 、1273K以 下 の 温 度 範 囲 で は 、NiAlの そ れ ら よ り も 低 い 値 を 示 し た 。 放 物 線 速 度 定 数 の 温 度 依 存 性 か ら 得 ら れ た 活 性 化 エ ネ ル ギ― は 低 温側 と 高 温 側 で そ れ ぞ れ241と422 kj/molで あ っ た 。
‑ 901 ‑
夫 浩
明 明
敏 眞
英 俊
田 尾
橋 塚
成 瀬
高 大
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
、 第3章では 、Feー40A1箔の 高温酸化 挙動に対する熱サイクルの影響について検討し た 。Feー40A1箔の酸化動力学曲線は全酸化時間に亘って放物線則に従う。これに対し て 、比較材 のFe−20Cr−5A1の 酸化は二段階に進行し、初期に大きな放物線速度定数 を 示し、約100ks以降、速 度定数は 低下した。Fe―40A1箔の酸化物皮膜にはクラック が 形成した が、その 部位に酸 化物が新し く形成し ており、 急激な母材の酸化を抑制 していることが分かった。一方、Fe−20Cr−5A1の酸化皮膜には、クラックは観察され な か っ た。 酸 化実 験 (907. 2ks)後 、Fe−40A1母 材のAl量(at%)は40から38に 低 下 したが、Feー20Cr―5A1では10から1.2に大幅に低下した。Fe−40A1箔では、熱サ イ ク ル によ って 基材がク リ―プ変 形し、63サ イクル後 、約6%の 歪み(伸び )が発 生 し た 。 結 果 と し て 、 酸 化 皮 膜 中 の ク ラ ッ ク は 引 張 的 な 特 徴 を 呈 し て い る 。 第4章では、Fe−40A1箔の1273K;N2−11. 2vol. %02ー7.4vol. %C02−(100,500 2000pprn) S02混合ガス雰囲気における腐食挙動について検討した。Fe−40A1箔は、
3.6ksまでの酸化初期の段階では、いずれのS02濃度においても、8一Al203とQ−Al203 が 検出され 、腐食量 は急激に 増加し、S02濃度が高いほど大きい腐食量を示した。酸 化 の進行に 伴い、a一Al203のみの生 成に移行し 、酸化は 放物線則 に従った。その放 物線速度定数は5. 5x10・12‑7.2x10・12 kg2m‑4s‑'であり、S02濃度には殆ど依存しな い ことが明 らかとな った。Fe―40A1箔では、ス ケールの 剥離が観 察され、剥離した 部 分 か ら 硫 黄 が 検 出 さ れ た。 剥 離 はこ の 硫黄 に よ るも の と考 え ら れる 。 一方 、 Fe―20Crー5A1箔では 、皮膜の 剥離は観察されなかったが、ノジュール状の酸化物が 観察された。
第5章では、Fe―40A1箔に形 成した酸化皮膜の混合ガス雰囲気における剥離を抑制 す る日的で 、予備酸 化処理の 効果について検討した。その結果、14. 4ks以上而備酸 化した試料はN2−11. 2%0z−7.4%C02−500pprRS02混合雰囲気においても優れた耐食性を示 し 、酸化皮膜の剥離は観察されなかった。しかし、短時間の予備酸化処理では、母材 に 含まれて いる介在 物(a−Al203粒 子)の部分 に保護的 な酸化物 皮膜が形成亭れな い た め 、S02含 有 雰 囲 気 に お け る 酸 化 で は 、 皮 膜 の 局 部 的 剥 離 が 生 じ た 。 第6章では、Feー40A1箔の高 温硫化挙動について検討した。その結果、Fe−40A1箔 は1073Kま で 優れた耐 硫化性を 有し、117 3K以 上になる と徐々に 硫化が進 行するよ うになる。なお、0. 05296H2Sの場合、1273Kまで良好な耐硫化性を呈している。1073K ま での温度 では、H2S‑H2ガ ス中に含 まれている 酸素、水 分などの 不純物ガスによっ てAl203が生成し 、それが 保護皮膜 として作用する結果、箔の硫化が抑制されたもの と 考えられ る。117 3K以上 の温度域 では、しかしながら、雰囲気のH2Sガスによって Al203皮膜 が 破壊 さ れ 、硫 化 反 応が 進 行し た も のと 考 えら れ る 。こ れ に対し て、
Fe―20Crー5A1箔は973Kか ら硫化が 進行し、 温度の上昇 およぴH2S濃度の増大ととも に急激に増加した。
第 7章 は 、 本 研 究 で 得 ら れ た 重 要 な 成 果 に つ い て 、 ま と め て い る 。 これ を要する に、著者はFe−40A1合金箔は優れた耐高温腐食性を有することを明 らか にし、各 種内燃機関 への応用の可能性を指摘したものであり、材料工学と界面 制御工学に対する貢献が大なるものがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)
の学位を授与される資格あるものと認める。
―902―