博士(工学)酒井靖郎 学位論文題名
ガソリンエンジンにおける排気成分の生成および 排 気 系 内 酸 化 反 応 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
本論文は,1960年代後半,それまで技術革新とエネルギ大量消費に支えられて発展を続けてき た産業活動のマイナス面としての公害問題が顕在化し,世界的に環境保護に対する関心が高まっ てきたのをうけ,大気汚染物質としての自動車用工ンジンのHC,CO,NO,等を低減することを 目的として,工ンジンの自体の改良・改善を中心に行った種々の実験・研究の結果にっいて論述 したものである。
自動車に輸送手段としての機能が第一に求められていた過去数十年の間,工ンジン技術者に とっての重要課題は,工ンジンの耐久性と信頼性とを高め,出カと燃料消費率とを向上させるこ とであった。これらの努カの積み重ねの結果,高性能工ンジンが開発され,自動車のめざましい 進歩と普及にっながったといえる。一方,排気清浄化にっいては初めて取り組む課題であり,実 用工ンジンの設計 実務に活用できる経験や技術蓄積はほとんど無いといえる状態であった。
そうした中で,工ンジン主要諸元ならび点火方式が排気成分,とくにNOエの生成におよぼす 影響を定量的に把 握するとともに,排気系におけるHC,COの反応機構を解明することは,排 気清浄化技術を確立していく上で重要課題であった。
そこで,従来型工ンジンの主要諸元である行程内径比や圧縮比がNOエの生成・排出にどのよ うな影響をおよぼすかを詳細に検討するとともに,燃焼形態が異なると考えられたトーチ点火方 式工ンジンの燃焼特性を研究して,総合希薄混合気燃焼の安定的実現によって,NOエの大幅な 低減の可能性を追 求した。さらに,最終的にエンジンから排出されるHC,COを低減するため に,排気系におけ るHC,COの酸化反応機構を解明すべく,リッチリアクタならびにりーンリ アクタの特性にっいて実験・研究を実施し解析を行った。
論文は8章26節から構成されている。
第1章は序論であり,本研究の背景と目的,ならびに得られた成果の概要を述べ,その特徴と 意義を明らかにするとともに,工ンジンの主要諸元ならびに点火方式と排気成分の生成および排
気 系にお ける酸 化反応 に関 する従 来の研 究の動 向に っいて 論述し た。
第2章 で は , 本 研 究に 用い た燃焼 解析用 の単 気簡工 ンジン および 生産 車用4気筒 工ンジ ンの構 造 ,仕様 ナょら びに排 気系 内酸化反応の解析実験に用いた実験装置,実験方法にっいて記述した。
第3章では ,従来 型の燃 焼室構 造と 点火方 式を持 っガソ リン エンジ ンの主 要諸元 である 行程 内 径 比 お よ び圧 縮 比 が , 出カお よび排 気成 分,と くにNOエ 排出 量にお よぼす 影響に っいて 明ら か し た。す なわち ,単気 筒工 ンジン による 実験結 果お よび単 純化し たサイ クル計算の結果をもとに し た 考 察 から , 行 程 内 径比を 大きく した り圧縮 比を高 くする ことに より 熱効率 が上昇 し,NO濃 度 は高く なるが 出カか 大き くなる こと, 吸入空 気量 を少な くした り点火 時期を遅らせたりするこ と に よ り 出カ を 同 一 に するこ とが可 能で あるこ と,そ の結果 ,NO排 出量は むしろ 滅少す るこ と が 明 ら か とな っ た 。 ま た,Wiebeの 式 を も と に,熱 発生 率の違 いが出 カおよ びNOエ におよ ばす 量 的 関 係 を検 討 し て ,NOエ低減 のた めには 燃焼期 間が長 いこ と,初 期燃焼 割合が 少ない こと が 望 ましい ことを 示した 。
第4章では ,従来 型の点 火方式 に比 べ,燃 焼形態 が大き く異 なると 考えら れるト ーチ点 火方 式 に っ い て ,単 気 筒 工 ン ジンを 用いて 出カ および 排気成 分,と くにNOエ排出 量の特 性を検 討し , 次 の点を 明らか にした 。ト ―チ点 火工ン ジンは 総合 空燃比 の希薄 域でも 燃焼の安定性が良く,点 火 時期を かなり 遅らせ ても 安定し た燃焼 特性が 得ら れる。 また, 比較的 ガス温度が高くなると考 え られる 点火栓 付近が 酸素 不足の 状態に あるこ とに 加え, 燃焼が 緩やか であることなどの理由に よ りNO,低 滅 の 面 で は優 れた可 能性 を持っ ている 。これ らの 特性は 主要運 転変数 である 副室 入 口 空燃比 に大き く依存 する ので, 実用化 には副 室へ の燃料 供給精 度の確 保が課題であり,また,
副 室を設 けたこ とによ り熱 損失が 増大す ること ,な らびに ,排気 温度が 低くなるため排気系内酸 化 反 応 に よ るHCの 低 滅 が 困 難 に な る こ と な ど の 問 題 点 が 残 る こ と を 指 摘 し た 。 第5章では ,過濃 混合気 燃焼の 排気 中に二 次空気 を導入 した 場合に っいて 実験を 行い, 次の こ と を明ら かにし た。す なわ ち,リ ッチリ アクタ の場 合,リ アクタ 入口温 度および二次空気量(酸 素 濃 度 ) がHC,COの 酸 化 反応 に お よ ぼ す影 響 が き わ めて 大 き い 。HCは 二 次 空 気導 入 直 後 か ら 減 少 す る の に 対 し ,COは ある 遅 れ 時 間 の 後滅 少 を 始 め る。 ま た , 入 口HC温 度 が 低い ほ ど COの 滅 少 は 早 く 始 ま る 。 こ のこ と は ,CO濃 度 が 充 分 に高 い り ッ チ リ アク タ に お い てもHCが COの 反 応 に 影 響 し ,HC濃 度は む し ろ 低 い方 が 有 利 で ある こ と を 示 し てい る 。 さ ら に,NOは 酸 化 反 応 に 影 響 を お よ ぼ し , あ るNO濃 度 の もと で 酸 化 反 応は 最 も 速 く なる 。 ま た , このNO の 影響は 排気温 度が低 いほ ど顕著 である ことを 確認 した。
第6章では ,希薄 混合気 燃焼の 排気 中にお ける酸 化反応 にっ いて種 々な要 因の影 響を系 統的 に
検討した。希薄混合気で運転するいわゆる希薄燃焼エンジンは燃費改善のうえで大きな効果が期 待できる。この場合,排気系に二次空気を導入する必要はないが,排気温度が低く酸化反応の面 からは厳しい条件となる中で,次のことを明らかにした。すなわち,リーンリアクタの場合,
HCは単 調に減少するのに対し,COはいったん増加し最大値に違 した後に減少に移る。HCの 中 間生 成 物と してCOが でき る反応が進み ,HCがほぼ無くなった時点でCOがCOよになる反 応が顕著になる。さらに,NOは酸化反応に影響をおよぼし,ある濃度のもとで反応速度は最も 速くな ること,このNOの影響は排 気温度が低いほど大きいこと を確認した。この他,HC, COの反応にっいてアレニウスの式が成り立っことを確かめ,総括的活性化工ネルギの値を求め た。
第7章では, 酸化反応の途中でCOが生成 されて初期値より増加したり ,NO濃度によって HCの反応が促進されることなど,実験で観察された現象を検討するために,希薄混合気燃焼の 排気中における反応にっいて基礎方程式をもとに数値計算を行った。その結果,反応初期にラジ カルが 急増しHC,COはラジカルが 多い時期に反応すること,HCが酸化する際に中間生成物 としてCOができること,NO濃度が酸化反応の速さに影響することなど,実験事実をうらづけ る と と も に , 実 験 で は 不 明 で あ っ た 反 応 の 機 構 に っ い て 考 察 を 加 え た 。 第8章は結論であり,本研究で得られた成果を総括した。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授
村 山 宮 本 伊 藤 吉 田
正 登 献一 宏
本論文は,自動車用工ンジンから排出されるHC,CO,NO,等を低滅することを目的として,
工 ンジ ン自 体 の改 良を 中心 に行 わ れた 一連 の研 究結 果 にっ いて 論述 し たものである。
すなわち,工ンジン主要諸元ならびに点火方式が,排気成分,とくにNOエの生成に対して及 ぼす影響を 定量的に把握するとともに,排気系におけるHC,COの反応機構を解明することを 目的として,行程内径比や圧縮比が,NOエの生成・排出に対して及ぼす影響にっいて詳細な検
討を 加 える とと も に, ト― チ点火方式 を採用するエンジ ンの燃焼特性を研 究して,希薄混合気 の 安定 燃 焼を 実現 す ると とも に ,大 幅なNOエ低 減の 可 能性 を追 求 して いる 。さらに,工ンジン か ら 排 出 さ れ るHCお よ びCOを 低 減 す る こ と を 目 的 と し て , 排 気 系 に お け るHCお よ びCOの 酸化 反 応機 構を 解 明し ,リ ッチリアク タならびにりーン リアクタの特性に っいて,一連の実験 ・ 研究を実施し て解析を行っている 。
論文は8章26節から構 成されている。す なわち;
第1章は序論であ り,本研究の背景と 目的,ナょらびに 得られた成果の概 要にっいて述べ,そ の 特 徴 と 意 義 と を 明 ら かに す ると とも に ,そ れに 関 連す る研 究 の動 向に っ いて 論述 し てい る。
第2章では,供試 工ンジンの構造,仕 様,ならびに排気 系内酸化反応の解 析に用いた実験装置 , および方法に っいての記述がなさ れている。
第3章で は ,行 程内 径 比お よび 圧 縮比 が, 出 カお よび 排 気成 分, と くにNOエ 排 出量 に対 し て 及ぼ す 影響 にっ い て明 らか にしている 。すなわち,単気 筒工ンジンによる 実験装置,およびサ イ クル 計 算の 結果 を もと に行 った考察か ら,行程内径比を 大きくしたり,圧 縮比を高くすること に よ り , 熱 効 率 が 向 上 してNO濃度 は高 く なる が, 出 カも 大き く なる ので , 同一 出カ で 比較 する と ,NO排 出 量 は む し ろ滅 少 する こと を 明ら かに し てい る。 ま た,NOエ 低 減の ため に は, 燃焼 期 間 が 長 い こ と , お よ び 初 期 燃 焼 割 合 が 少 な い 熱 発 生 率 が 望 ま し い こ と を 示 し て い る 。 第4章でtま, ト ーチ 点火 方 式に っい て ,出 カお よ び排 気成 分 ,と くにNO,排出量の特性を 検 討し , 希薄 域で も 燃焼 の安 定性がよく ,点火時期をかな り遅らせても安定 した燃焼が得られる こ と, ま た, ガス 温 度が 高い 点火栓近傍 が酸素不足の状態 にあり,燃焼が緩 やかであることなど の 理由 に より ,NOエ 低滅 の面 で 優れ た可 能 性を 持っ て いる こと を 示し てい る。一方,これらの 特 性は,副室入 口空燃比に大きく依 存するので,副室への燃料供給精度の確保が課題であり,また,―
副室 を もう けた こ とに より 熱損失が増 大し,排気温度が 低くなるために, 排気系内酸化反応に よ るHCの低減が 困難になる,などの 問題点が残ること を指摘している。
第5章で は ,過 濃混 合 気燃 焼の 排 気中 への 二 次空気の 導入を試みている 。すなわち,リッチ リ ア ク タ の 場 合 , リ ア クタ 入 口温 度お よ び二 次空 気 量( 酸素 濃 度) がHC,COの 酸化 反 応に 及ぼ す 影 響 が き わ め て 大 きい こ と,HCは 二 次空 気導 入 直後 から 減 少す るの に 対し て,COはあ る遅 れ 時 間 の の ち 減 少 を 始 め る こ と , ま た , 入 口HC濃 度 が 低 い ほ どCOの 減 少は 早く 始 まる こと な ど を 明 ら か に し て いる 。 すな わち ,CO濃 度が 十 分に 高い り ッチ リア ク タに おい て も,HCが COの 反 応 に 影 響 し て ,HC濃 度は むし ろ 低い 方が 有 利で ある こ とを 示し て いる が, さ らに 一定 のNO濃 度 の も と で 酸 化 反 応 は 最 も 早 く な り , こ の 効 果 は 排 気 温 度 が 低 い ほ ど 顕 著 な こ と
を確認している。
第6章では,希薄燃焼時の排気中酸化反応にっいて,種々な要因の影響を系統的に検討し,希 薄燃焼によれば,燃費改善に関して大きな効果が期待できることを示している。そして,リーン リアクタの場合,HCは単調に減少するのに対し,COはいったん増加して最大値に達した後に 減少に移ることを明らかに している。また,HCの中間生 成物としてCOの生成反応が進み,
HCがほば無くなった時点でCOがCO:にナょる反応が顕著 になることを明らかにして,HC, COの反応にっいて総轄的な活性工ネルギの値を求めている。
第7章では, 酸化反応の途中でCOが生成 されて初期値より増加したり ,NO濃度によって HCの反応が促進されることなど,実験で観察された現象にっいて検討するために,希薄燃焼の 排気中反応にっいて,基礎方程式をもとに数値計算を行っている。その結果,反応初期にラジカ
´レ.が急増し,HC,COはラジカルが多い時期に反応すること,また,HCが酸化する際に中間 生成物としてCOができること,そして,NO濃度が酸化反応の速さに影響することなどの実験 事実を裏付けるとともに, 実験では不明であった反応の 機構にっいて考察を加えている。
第8章は結論であり,本研究で得られた成果を総括している。
これを要するに,本論文では,ガソリンエンジンにおける排気成分の生成および排気系内酸化 反応に関して実験および理論的な研究を行い,有害成分の低減技術を確立したものであり,自動 車 排 ガ ス に 起 因 す る 公 害 の 対 策 上 , 有 用 な 知 見 を 提 供 し う る も の と 考 え ら れ る 。 よ っ て , 著 者 は 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め ら れ る 。